ヘリから神羅ビルを目指していたルーファウスは、突然地上から噴き出したエメラルドグリーンの光の奔流に目を瞠った。
 ヘリのパイロットや同道していたツォンをはじめとする部下たちも一様に息を飲み、驚愕に目を見開いている。
 ビルの地下で起こっている火災がとうとう大爆発を起こした、と思った直後の出来事に言葉も出ない。
 呼吸を忘れるほどの驚愕に襲われるルーファウスたちの目の前で、光りの渦は炎に包まれ倒壊しようとしているビルを包み込んだ。
 淡い温もりすら感じさせる光りの粒子たちは、煌々と輝きながら大地をまるで真昼のように浮き上がらせ、ビル周辺のみならずミッドガル全域にまでその手を伸ばした。
 そして、その広域にまで達した光りはやがてその穏やかな波のようなうねりを急速に収束させた。
 集まった地点にあるのは…神羅ビル。
 その収束地点にルーファウスが気づいた瞬間、光りが爆発した。





Fantastic story of fantasy 38(完結)



 *1年後*


 エアリスはゆっくり立ち上がると音を立てて湯気を噴き出すケトルを持ち上げた。
 顔がほころんでいるのはたった今、流れていたニュースのせいだ。

「どしたの?」
「ん?うん。頑張ってるんだなぁって思って」

 テーブルにだらしなく突っ伏したままのユフィにそう答えると、お元気娘はニヤッと笑った。

「まぁ頑張るしかないだろうしね〜」
「うん、そうだね」
「にしてもエアリス、幸せそうだね〜」
「なにが?」
「そうやって、安静にしてろ!って口うるさい旦那の目を盗んでコチョコチョと色々尽くしてるところが〜」

 からかうユフィの目はエアリスの座っていた椅子に向けられている。
 そこには針と糸の付いた紺色のシャツが大切そうに置かれていた。

「だってしょうがないじゃない。ザックスったらすぐ服を破いちゃうんだもん」
「まぁ、『なんでも屋』だなんて胡散臭い商売、信用を勝ち取って軌道に乗るまでは仕事の内容選んでらんないだろうけどね。あ、『なんでも屋』だからそもそも仕事は選ばないのか」

 口を尖らせ、さも致し方なく、という風を装うが、頬が薄っすら染まっているエアリスにユフィはニヤニヤしながら差し出されたマグカップを受け取った。
 カフェオレの入ったマグカップに目を細める。
 エアリスもユフィの穏やかな様子に頬を緩めると繕い物であるそのシャツを膝の上に置いて続きを始めた。
 慣れた手つきにユフィは興味津々に目を注ぐ。

「エアリスって意外と家庭的だよね〜」
「どういう意味よ、その『意外と』って」
「え〜?だって、アタシたちアバランチの中で家庭的なのって唯一…っ…」

 イシシ、と悪戯っぽく笑ったユフィは、続くはずの名前にハッと言葉を飲み込んだ。
 エアリスもまた、手を止めて表情をなくす。

「…ごめん」
「…ううん」

 顔を伏せ、短く謝るユフィにエアリスはシャツへ視線を落としたまま小さく首を振った。

 それきり2人は黙り込む。
 流れるのはラジオからのニュースと開いた窓からそよぐ風だけ。
 旧体制の神羅グループが文字通り崩壊し、新体制の神羅グループが立ち上がって丁度1年になる。

 あの時。
 神羅ビルが崩落しようとしたあの瞬間。
 星へ全身全霊をかけて祈り、願い、助けを求めたエアリスの声は聞き届けられた。
 崩落するビルを包み込んだ星の力はそのままその周辺にいた生き物の傷を癒し、ビルの火災と爆発を瞬時に収めてしまった。
 ただ、建物の崩落だけは止めることが出来ず、光が収束したその直後にビルは激しい音を立てて倒壊したのだ。
 爆発による大火災を防ぎ、怪我により身動きが取れなかった人々の傷を癒しただけでも星には感謝してもし足りない。
 だがしかし。
 崩落に巻き込まれてしまった多くの人々の縁者にとっては難しい話だ。

 どうせならビルの倒壊自体も止めてくれたら良かったのに。
 あともう少し早く、傷つき倒れている人たちのその怪我を癒してくれたらビルが倒壊する前に脱出出来ただろうに。

 と、どうしてもそう考えてしまう。
 そしてその思いに駆られたのはアバランチメンバーも例外ではなかった…。


「ただいま〜…っと、お?ユフィ、いらっしゃい」

 沈痛な雰囲気に明るい声が新しい風を呼び込んだ。
 パッと顔を上げて笑みを浮かべたエアリスにザックスはニッカリと笑みを返す。

「おかえりなさい」
「ああ、ただいま〜。ふぃ〜、疲れた疲れた、腹減った」

 テーブルの上に郵便受けに入っていたいくつかの封筒をバサリと置き、ドッカと座ったザックスに入れ替わるようにしてユフィは腰を上げた。

「んじゃ、旦那が帰ってきたからアタシはこれで〜」
「あ?なんで?いいじゃん、もう少しいたら」
「そうよユフィ。そういう変な遠慮はしないで」
「いやいや、馬に蹴られて死にたくないからね〜」
「ちょ…!」

 ニシシ、と笑うユフィにザックスへ軽食の準備にとりかかっていたエアリスは頬を染め、ザックスは苦笑した。

「それに、そろそろ出ないといけなかったんだ」
「リーブのところに?」
「そ。このウータイの希望の星、ユフィちゃんの力をどうしても借りたい!って、神羅の新社長が懇願してるんだってさ。ま、当然だね〜。それにさ」

 言葉を切って笑みを消し、真剣な面持ちになるユフィにエアリスとザックスもまた、表情を引き締めた。

「旧体制の神羅のような愚行にいつ走るかも分からない。だから、アタシたちが常に傍にいて、目を光らせる必要がある」

 ラジオからは相変わらずニュースが流れている。
 おりしも、ユフィの言葉を後押しするかのようにそのニュースはここ1年、新しい神羅が行ってきた数々の慈善事業や星への負担がかからないための新エネルギー開発と言った業績を流していた。
 今、神羅はそれまでの悪行を払拭させる勢いで世の人々へ貢献すべく日々、邁進している。

 ように見える。

 だが、それが果たして本当かどうかはその内部に入り込まなければ分からない。
 見た目は立派でも中身が実は違ったものだというのは世の常だ。
 見極めるにはその中に入り込み、常に目を光らせる必要がある。
 その役目をロケット村、ゴンガガ、そしてコスモキャニオン出身者が担うことになったのだ。
 そしてこの度、ずっと拒んでいたウータイも参加することになったのは、ユフィの功績である。

「オヤジもようやく観念してくれたからね。気が変わらないうちにリーブとガッツリ手を組んでおくにこしたことはないよ」
「そっか」
「ザックスにも多分、これからチョクチョク”なんでも屋”へお仕事の依頼がいくことになるよ〜?覚悟しててね〜」
「リーブやシェルクたちからの依頼なら喜んで」

 ニヤッと笑うザックスにユフィもまた笑みを返した。


 ヒラヒラと手を振って遠くなるユフィの背を見送りながら、エアリスが小さく咳き込む。
 さりげなくザックスはエアリスの腰に腕を回すと華奢な身体を支え、見上げてきたエアリスに優しい笑みを浮かべた。
 その笑みにエアリスも頬を緩める。
 そうして2人肩を並べて家に入ると、ザックスはエアリスを守るように椅子へ腰掛けさせた。

「具合は?」
「大丈夫。ありがとう」

 真正面でしゃがみ込み、覗き込んでくるザックスへエアリスは穏やかにそう答えた。


 1年前、仲間を守るために無茶をしたエアリスは1週間、生死の境を彷徨(さまよ)った。
 あまりにも多くのことを星に願い、求めすぎた代償だ、と目を覚ました彼女は笑った。
 そのときの身体への強すぎる負担のせいか、彼女は治癒の力や星の声を聞き分ける能力を失ってしまった。
 そしてそれをザックスはとても喜んだ。
 ようやっと、彼女も人並みの幸せを手にすることが出来る…と。
 星からの干渉がいかにエアリスにとって、負荷の大きいことかをザックスだけが正確に見抜いていた。
 いつも明るく振舞う彼女に、とうとうアバランチの誰もエアリスの負担に気づくことはなく、それは今も同じことでこの先、仲間たちが知ることはないだろう。

 もっとも、身体が非常に弱くなってしまったのはいただけない…。

「そうそう、なんか今日は手紙が多いんだ」

 テーブルの上から封筒をいくつか取り上げる。
 差出人に書かれている懐かしい名前にエアリスは目を細めた。

「マリンからよ。ふふ、へ〜。バレットったら油田開発に神羅が乗り出したから張り切って指導してやってるんだ、ってこの前会ったときに言ってたくせに、家では愚痴ばかりみたいね。自分よりも神羅のタークスたちの方が優秀だ〜!仕事がなくなる〜!って」
「ハハッ、あのオッサンらしいな。んで、こっちは〜っと、お!?ジェシーからじゃん。……って、ブハッ!!おい、エアリス!とうとうエルダスの奴、観念したらしいぞ」
「え?本当に!?じゃあ、相手は…」
「おう。今はシドのオッサンとこの下にいるエンジニアの彼女(あのこ)。新型飛空挺の試作飛行に招待されて行くみたいだぜ?今までどんなに誘っても行かなかったのになぁ〜」
「ふふ、いいことね。まったく、あんなに可愛い子がず〜っと想いを寄せてくれてたのに全然気づかないでいたなんて信じられないわ」
「前は他の反・神羅組織のメンバーなんだったっけ?」
「そ。その反・神羅組織に彼女がずっと引き抜こうとしてたのよね、エルダスのこと。でも、エルダスったらティファ以外見えてなかったから、信じられないくらい失礼な態度取ってたのよね〜」
「でも、その子はそれでも諦めなかった…と。ほぉ、男冥利に尽きるよな」
「それでこっちは…。あ、ルクレツィアからだわ……って、え〜!!」
「なんだよ?」
「おめでただって!!」
「なに!!マジか!?」
「うん!しかも!!」
「なんだよ!?」
「おめでたを知ったシェルクとシャルアが、留守勝ちなヴィンセントにルクレツィアと赤ちゃんを任せられない!って怒っちゃって、強引にルームシェア始めちゃったんだって!!」
「うぉおい、マジかい!てか、新婚の家にルームシェアって強引過ぎねぇか?ただでさえ、リーブの片腕になっちまってから新婚の甘い時間がメチャクチャ少ないっつうのに」
「あ〜あ〜、ヴィンセントのム〜ッとした顔が目に浮かぶわね〜」

 ひとしきり笑った後、ふとザックスはもう一通封筒が残っているのに気がついた。

「エアリス、これ…」
 差し出そうとして不思議そうに首を捻る。

「なぁに?」
「いや、差出人がないんだよな」
「イタズラ…とか?」
「さぁ。それに、妙に軽いし手紙が入ってるようには…って、なにか入ってるな」

 耳元でその封筒を振り、中を伺う。
 カサカサととても軽い音にますます首を捻りながら、表をひっくり返して宛名を見た。
 少し汚い字で、

 ザックス、エアリス・フェアへ。

 とある。
 イタズラ…にしては、ちょっと違う気がする。
 それに、まるで夫婦へ宛てたような宛名の書き方だが、正確にはまだ結婚していない。
 というか、プロポーズもまだ…。
 それは、互いにまだ心の中に暗い思いが引っかかっているからだ。

 助けることの出来なかった親友たちを差し置いて、自分たちだけが幸せになど…と。

 そのまま不審に思いながら封筒を開けると、中から落ちてきたそれを見て2人は目を見開いた。

「これ…」
「クローバー…?」

 緑色の小さな草。
 その葉の数は4枚。
 見つけることが難しいとされる”願いの叶う幸福の象徴”

 その草が輪になってテーブルの上に2つ、並んでいる。
 まるで、それは指輪のようで…。

 エアリスは息を飲んだ。
 顔を上げ、同じく”あること”に気づいて見開かれているアイスブルーの瞳を見つめる。
 目の奥が熱くなり、胸が期待と感動に打ち震える。
 この上なく優しい笑みを浮かべ、ザックスは手を伸ばした。
 エアリスの濡れる頬をそっと包み込むようにして拭う。

「ザックス…」

 震える声のエアリスにザックスもまた、瞳を微かに潤ませながら「うん」と頷くと、そっとエアリスを抱きしめた。


 あの時。
 崩落する寸前の神羅ビルへ舞い戻ったザックスが見たものは、エントランス中央部に山となっている瓦礫と、その瓦礫に突き立ったバスターソード。
 そのソードに無数に残る弾丸の痕と、エントランス奥へ銃を構えたまま今まさに突入しようとしている神羅兵たちの姿だった。
 一瞬で、クラウドがソードを盾にして奥へ逃げ込んだのだと分かった。
 兵たちが止めを刺そうとしていることも。
 ゾッと背筋が凍りつくほどの恐怖を感じた瞬間、ビル全体が下から激しく突き上げられ、エメラルドグリーンの光りに包まれた。
 恐怖と混乱、悲鳴と怒号が飛び交ったのは一瞬だったように感じられる。
 そして、その一瞬が過ぎ去った後、ザックスは自分の体が異様に軽くなったことに気がついた。
 それまでに負っていたダメージの全てが癒されたのだ、と分かったのは、それまで止まっていたかのような時が急速に動き出してからだった。

 轟音を上げて鼻先すれすれを巨大な塊が落下し、ザックスは周りにいた数少ない兵たちを引っつかんで崩落するビルから退却する以外、道はなかった…。


「生きてたんだな」

 かみ締めるように呟いたザックスに、身体を震わせ、涙を流しながらエアリスは幾度も頷いた。

 多くの人間が、崩落したビルへ足を踏み入れ、生き埋めになっている兵たちの救出活動に力を注いだ。。
 少数の生存者と多数の死者を瓦礫の下から救出したが、とうとうクラウドとティファは見つけることが出来なかった。
 生きているから見付けられなかったのだ、と仲間たちはそう言い合って互いを慰めた。
 だが、皆それから先の言葉は口にしなかった。

『生きているなら何故なんの連絡もないのだ?』と。

 ティファが仲間へ合わせる顔がない、と思って顔を見せないのは分かる。
 いくら非道な実験を受けたとは言え、仲間を攻撃し、殺す寸前だったのだから。
 だが、連絡1つないのはティファらしくなかった。
 安否不明な状態で仲間が心配していることくらい、容易に想像がつくだろう。
 仲間思いのティファならば、顔を合わせることが出来ないと思っていても、せめてこれ以上、不安や心配をかけさせまいとしてなにかしらの方法で『生きている』と知らせてくれるはずだった。
 それなのに連絡がないということは、遺体が見つからないだけで本当は…。

 しかし、それを口にする者は誰もいなかった。
 あまりにも辛すぎる。
 口にすることで更に心の傷を深めることは避けたかった。
 だがいつかはこの宙に浮いたような状態にけりをつけなくては、とも思っていた。
 その踏ん切りがつかないまま、とうとう1年が経ってしまった…。


「良かった…」

 涙声でポツリと呟いたエアリスにザックスもまた、「ああ、本当に良かった」と繰り返した。
 ザックスはエアリスの背を撫でながら、自身もうっかり泣きそうになりつつテーブルの上へ目を戻した。
 小さな草で作られた指輪は、その輪の大きさが違っていた。
 まるで、男性用、女性用の指輪のように。
 そのことに気づいたザックスは目を見開き、次いで小さく噴き出した。
 クツクツと笑うザックスに気づいてエアリスが涙に濡れた目を上げる。
 その不思議そうな表情にザックスは目を止めると、1つ、息を吸った。

「アイツって意外とお節介だったんだな」
「え?」

 片手を伸ばし、テーブルの上から指輪を取る。
 そして、輪の小さい方の指輪を取ると、不思議そうに見守るエアリスの左手を持ち上げた。

「多分、こういうことだと思うんだ」

 目を見開き、エアリスは息を飲んだ。
 そして、破顔する。
 新たな涙をこぼしながら左手薬指に治まった四葉のクローバーを愛おしそうに指先で撫でる。
 ザックスは笑みを湛えたままもう1つ、残っている指輪を手の平に乗せてエアリスを見た。

「それで、エアリス。俺はこれをはめてもいいのか?」

 エアリスは笑った。
 笑いながら涙をこぼし、大事そうにザックスの手の平からそれを取った。

「ザックスが望むなら」

 ザックスは開いていた手の平をエアリスの頬へ伸ばし、しとどに濡れる頬を拭う。

「エアリス以外にはめて欲しいとはこれから先、絶対に思わない」

 その答えにエアリスは輝かしい笑顔を浮かべると、彼の左手薬指へそれをゆっくりと差し入れた。


 *


 棚引く白い雲が澄んだ青空に広がる壮大な光景。
 視線を転じれば緑が大地を覆い、生命の息吹を力強く感じさせる。

「ねえ、どこに行くの?」
「そうだな。どこに行きたい?」

 問いかけに対して問いかけで返すと、う〜ん、と女は愛らしい眉間に微かなしわを寄せた。

「やっぱり山…かな。ニブルヘイムが懐かしい」

 無邪気とすら言えるその明るい笑顔に男は「そうか」と微笑を返した。

「じゃあ、ニブルヘイムに行くか?」

 すると女は「ん〜…でも、やっぱり今はいいかな」と少し困ったように笑った。

「やっぱり、まだまだ私、故郷に錦を飾れるようなことしてないしね」
「そうか?」
「うん。まだまだ未熟者だもん。それに、この辺りにもモンスターの被害に遭っている人たちが沢山いるみたいだし、その人たちのお手伝いをしてからでも遅くないなって思うの」
「ティファがそう言うならそれでいい」
「も〜、クラウドはいっつもそれなんだから」

 頬を膨らませながらも嬉しそうに目が笑っているティファを見て、クラウドも双眸を細めた。
 そして、ふと後方を振り返る。
 ここからは離れすぎていて見ることは叶わないが、この先には大都市ミッドガルがあった。

 もうそろそろ届いただろうか?と親友へ宛てたモノを思う。
 我ながらなんとなく余計なことをしたと言うか、気障ったらしいことをしてしまったというか、照れ臭いものを感じてしまう。

「クラウド?」

 不思議そうに小首を傾げるティファに、クラウドはなんでもない、と首を振る。
 そして、少し先で佇んでいるティファの隣に立つとその瞳を見つめた。

 薄茶色の温かな瞳を。

「クラウド、ちょっとヘン」
「なにが?」
「この前も私に内緒でなにかお手紙書こうとしてたでしょ?」
「あれは手紙じゃない。まぁ、確かに封筒は(配達に)出したけどな」
「手紙じゃないのに封筒出したの?」

 あぁ、と頷くと少し拗ねたような顔をしていたティファが笑い出した。

「おかしなクラウド」
「そうか?」
「そうよ。じゃあ封筒の中身はなんだったの?」

 クラウドはティファの左手を取ると、そっとそこに唇を寄せた。

「これ」
「これ?」
「そう。これを贈ったんだ、親友2人に」
「この前言ってたザックスって人のこと?」
「ああ」

 指にキスをされて頬を薄っすら染め、はにかみながら訊ねるティファにクラウドはこの1年を振り返る。
 どこをどうして逃げ出したのかさっぱり覚えていない。
 何故助かったのかも…。
 気がつけば、ミッドガルから遠く離れた大地に2人して倒れていた。
 そして、気がついたティファには記憶が残っていなかった…。

 全ての記憶を失ってしまったわけではない。
 この5年ほどの記憶が所々抜け落ちているような状態だ。
 いや、それも正しい表現ではない。
 村がもう存在しないことや、アバランチの仲間のことは覚えていた。
 それなのに、アバランチのメンバーがどういう関係にあったのか、自分がどうやって村から出てから暮らしてきたのか、そういったことが綺麗さっぱり消えていた。
 アバランチの仲間たちは彼女の中ではとても仲の良い友達で、こうして一緒に世界を回っているのは自分の持つ格闘技の力を使い、困っている人々の役に立てたいから、ということになっている。
 しかも、引き止める仲間たちを振り切って…という設定で。

 実際、この1年はずっと辺境の地で困っている人々のために働いてきた。
 まだまだこの星には凶悪なモンスターが多い。
 交通手段が発達していないからこそ起こっている問題も少なくない。
 そのような土地に赴き、ティファはクラウドと共に生きていた。

「それにしても、エアリスって元気にしてるかな?ユフィとか」
「元気にしてるだろう」
「そうかな」
「会いたいか?」
「ん〜…会いたいけど…」

 クラウドはジッとティファを見た。
 聞かなくてもティファの答えはもう分かっていた。

「今は…まだいいかな」
「そうか」

 予想通りの答えに、クラウドはだがしかし、遠くない将来、彼女は仲間のところへ戻る決心をするだろうという予感があった。
 ここ最近、エアリスたちを懐かしむ言葉が増えてきている。
 それは、失われた記憶を正しく思い出そうとしている予兆のようなものなのかもしれない、とクラウドは考えていた。
 だからこそ、先日思い切って心配しているはずの親友へ自分たちの無事を伝える決意をしたのだ。
 ちょっとしたお節介はこれまで彼が自分に沢山与えてくれたものへの恩返し。
 その割りに、1年も安否不明で随分心配をかけたとは思っているが、折角なりを潜めている”死神プロジェクト”の悪影響が再び戻ってしまうことを恐れてどうしても無事だと教えることが出来なかった。
 きっと、ティファの仲間たちは探さないでくれ、とお願いしても探そうとすると思ったのだ。
 それこそ、引き止めるエアリスの目を盗み、遠くから様子を窺うくらい…と言って、探し出そうとするだろう。
 そしてその懐かしい彼らの気配にティファが触発されてしまうことを恐れた。

 だが、もうそろそろ大丈夫だとクラウドは感じている。
 そのときがきたら、十中八九、ティファは深い苦悩に突き落とされる。
 そのときには…。
 絶対に一番傍にいて彼女を支えてみせると心密かに誓っている。
 もう2度と、彼女の傍を離れない…と。

「じゃ、行こう、クラウド」
「ああ」

 2人で手を繋ぎ、歩き出す。
 陽はどこまでも暖かく、風は穏やかに2人の頬を撫でる。
 どこからか鳥の鳴き声が聞こえ、ティファはニッコリとクラウドを見上げた。
 クラウドも黙って微かに笑みを返す。
 繋いだ手にそっと力を込めて…。

 そんな2人の左手薬指には、四葉のクローバー。



 あとがき

 リクエストを頂戴したのが今年の1月。
 頂いたときはまさかこんなに長くなるとは思いませんでした。(現在5月半ば)
 すごく壮大な物語のリク内容に当初、内心『どうしよう!?o( ̄▽ ̄;)三(; ̄▽ ̄)o』とオタオタしておりましたが、リク主様の細かい情景等のアドバイスにこうして完結することが出来ました。
 本当にありがとうございます。
 ゲーム本編パラレルと言うことでこのような形となりましたがいかがでしたでしょうか。

 長きに渡り、お付き合い下さった皆様に心からの感謝を捧げつつ…。



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