息が上がる。 目がかすむ。 足が震え、立っているのも難しく感じる。 だが、それでも自分に向けられている殺気は全く衰えることなく突き刺さり、否応なしにこのおぞましい状況へ立ち向かう以外に道が無いことをティファに教えていた。 (負けられない…) こんなところで立ち止まっている場合ではない。 早く先に進まなくては。 それなのに…。 「 ! 」 耳元を勢い良く掠めた空気の裂ける音にティファは鋭く息を吸い込んだ。 そして跳躍。 たった今まで立っていた場所にボーガンの矢が立て続けに突き刺さる。 勢い良く後退しつつ、ティファは呼吸を整えようと努力した。 だが…。 「さしもの英雄もそろそろかな?」 からかうような相手の口調に胃がギュッと縮む。 こんなに満身創痍な状態の自分に対し、相手はまだまだ全然余裕なことに恐怖すら感じる。 (負けられない!) 建物の壁に背を張り付かせ、ほんの僅かな休息をとる。 その僅かな間でも、相手の気配を読むことに手を抜かない。 気配を読むことは、体力と集中力を著しく消耗しているティファにとって、難しくなかった。 何しろ、相手は全く隠そうとしないのだから。 むしろ、自分達の余裕を見せ付けてティファをとことんまで追い詰めようとしている。 (…クラウド…) 弱った心が愛しい人を呼ぶ。 その自身の心の声から目を逸らすようにして、ティファは建物の影から飛び出した。 Fight with … 1『英雄』がこの星で一番強いとは限らない。 誰が言った言葉だろうか…、それはクラウドの脳裏にふと甦った。 確かにその通りだ、と思う。 自分達はただの人間なのだから。 他の人達と違うことは、ちょっと戦闘能力が高いというだけのこと。 そして、『英雄』として世間に知られるきっかけとなった『ジェノバ戦役』でうっかり活躍してしまっただけの話し。 自分たちと同じだけの能力を持った人間はこの星に意外と沢山いるはずだとクラウドも仲間達も思っている。 ただ、その実力が世に知られているかそうでないかの違い。 そして、それはそっくりそのまま実力のある人間があまり目立とうとしないから、とか世の人達の役に立とうとしていない、とかそういう『負の原因』に繋がってしまうことが痛い。 だがもしかしたら、ただ単に活躍する場に恵まれていないだけなのかもしれず、そんな憶測だけで『能ある鷹は爪を隠す生活をしている人達』をズルイ、と思うのは間違っている。 少なくとも、クラウドとティファはそう思おうと努力していた。 何しろ、こうして目立つ生活は好みじゃないし、もっと平穏に静かに暮らしたいと願って止まないのだから。 だがまぁ仕方ない。 自分達が犯した罪を償うための1つ、としてクラウドもティファも自分達の置かれている状況を諦め混じりに受け入れていた。 世間の人達は、ジェノバ戦役の英雄がとんでもなく人格的にも優れている、と勘違いしている場合が多々あって、その度に否定して回るのもなんだかなぁ、という気持ちになりながら、とにもかくにも何とか子供達に被害が出ないように努力するだけで精一杯だった。 中には、珍生物を見るような目で見てくる無礼な輩もいたが、それはもう徹底的に無視をした。 相手にしても仕方ない。 それに、目下、クラウドとティファはそんな珍生物を見るような目で見てくる輩に意識を注ぐよりも、自分達の生活を切り盛りして、可愛い子供達を真っ直ぐに育てることが最優先なのだから。 心無い一言、二言を残していく人間も多い中で、子供達が傷つかないように守っていくのは結構大変だった。 自分達に近づくためだけに子供達を利用しようとする人間も沢山いる。 だから、常に自分たちのことは二の次で、子供達を守っていくことがクラウドとティファの最優先事項だった。 「クラウド、今度の休みはフェンリルに乗せてくれよ」 「あ〜、クラウド、私も私も〜!」 そう言って先を争うようにしてせがむデンゼルとマリンに、クラウドが笑いながら、 「分かった。ちゃんと2人とも乗せてやるからな」 頭をポンポンと叩いたのは2日前のことだ。 クラウドは今、ようやくミッドガルエリアに戻ってきていた。 フェンリルのエンジンは既に火を噴く勢いで過剰すぎる負担を爆音としてクラウドに訴えている。 だが、愛車のその訴えにクラウドは応えることが出来なかった。 出来るはずもない。 頭の中は、その可愛い子供たちのことでいっぱいだった。 (デンゼル、マリン…!) 2人に何かあったとしたら…? 冗談抜きで正気を保てて生きていける自信など無い。 もうこれ以上は噴かせることなど出来ないのに、アクセルをまたもや思い切り噴かせる。 フェンリルの悲鳴のようなエンジン音が爆風の彼方に消えていく。 ― 『クラウド!デンゼルとマリンが…!!』 ― 5時間ほど前、耳にしたティファの取り乱した声が、もう何十回目かのリフレインとして甦った。 「くそっ!」 焦燥感、苛立ち、そして……絶望にも似た不安。 それらがクラウドの心を支配していた。 いつか、こんな日が来るかもしれない。 そう危惧していた。 だが、現実のものとして本当に危惧していたのか?と問われると肯定出来ない。 本当に心配していたのなら、もっと子供達の安全に気を配っていたはずではないか。 いや、これでも気をつけていたのだ、自分達は。 だが、結果、こんなことになってしまったのだから、やはり認識が甘かったと言われても仕方ない。 「デンゼル、マリン、どうか無事でいてくれ」 知らず口をついて出た言葉は心からの願い。 そのことに気づかないままに、クラウドは前方を睨みつけてひたすら愛車を走らせる。 荒野から少しずつ湿地地帯になっていく。 もうすぐだ。 もうすぐ、ティファと合流出来るだろう。 それに、運が良ければWROの応援も到着する。 逆に、運が悪かったとしてもこれ以上状況は悪くなりようがない。 ― 『敵の目的は私達なのよ、クラウド…!』 ― 泣き叫んでいるかのようなティファの悲鳴。 自分達が関わらなければ、と後悔していることが容易に分かるその声音。 だが、そんなことを後悔している場合でもない、と彼女は重々分かっていた。 だから…。 ― 『私、先に行ってるわ。お願いクラウド…どうか許して』 ― 1人で突っ走らないよう懇願したクラウドに、ティファは涙声で許しを請うた。 そして、それ以降、彼女の携帯は繋がらない。 子供達を誘拐した犯人から直接脅し文句を聞いたティファはとてもじゃないがクラウドやリーブ達の助けを待っていられなかった。 その気持ち、痛いほど良く分かる。 だが、賛同は出来ない。 1人で行って、ますます状況が悪くなるリスクが高すぎる。 そのことも重々承知の上で、ティファは行ってしまった。 だから、最後に『許して』と懇願したのだろうから…。 「ティファ、頼むから無事でいてくれ」 子供達も心配だが、ティファの身がそれ以上に心配だった。 恐らく、敵は万全の体制で待ち構えている。 卑劣な罠も仕掛けているだろう。 そんな中に単身で飛び込むなどまさに自殺行為だ。 ティファが言っていた『敵の目的は私達』という言葉。 あれが本当なら、敵はただ単に自分達を殺したり痛めつける以上のことを考えているのではないだろうか? 自分達を手に入れ、何かよからぬことを目論んでいるような気がする。 だからこそクラウドの心は千切れてしまいそうに心配だった。 ティファが単身で乗り込むなど、敵にしてみれば願ったり叶ったりの状況なのだから。 そんな状況に自ら飛び込んでしまったティファを止めてくれるよう、クラウドはリーブに頼んでいた。 だが、きっとリーブはティファを止めることに失敗している。 この星一番多忙な仲間は、クラウドの取り乱した依頼に対し、冷静に応じてくれた。 そして、約束してくれた。 無事に彼女を引き止めることに成功したら、必ずクラウドと一緒に行動出来るように取り計らう…と。 そのリーブからの連絡はまだない。 クラウドは、自分の鼓動がバクバクと激しく脈打っているのを痛いほど感じながら、これ以上ないスピードで愛車を走らせることしか出来ることがない己の無力さを激しく呪った。 そんなクラウドの心を代弁するかのように、真っ黒い雲が頭上に垂れ込めている。 時折、真っ黒な雲が不気味に光るのは、雲の内部で稲妻が走っているからだろう。 そうして、いつしか降り始めた大粒の雨に全身を打たれるようになってから数十分。 荒廃したミッドガルにようやく辿り着いた。 * 頬を引っ叩かれてティファは覚醒した。 朦朧とする意識を無理矢理自分の周囲に向ける。 痛みは頬だけではなかった。 (…右足、左肋骨に鎖骨……ヒビが入ったか……折れたかしたわね…) 冷静に自分の身体の状態を分析する。 視力は…、瞼が重くてどうしても開けられないから分からない。 ただ、折れたかヒビが入っている腕の状態に構わず、両腕が後ろでに縛られているのは分かった。 同時に床に直接座らされて鉄骨の柱に縛り付けられていることに気づいた。 あぁ…、捕まったんだった…。 クラウドの制止を振り切り、勝手な行動に出た結果だ。 ティファは己の愚かさを罵りながら、それでもやはりどう考えても仲間達が到着するのを待てるはずが無かった…と思った。 グイッと髪を鷲づかみにされてうめき声が漏れる。 重いまぶたを無理矢理こじ開けると、陰惨な笑みを浮かべた醜悪な男が見下ろしていた。 見ただけで吐き気をもよおす顔というのも珍しい。 などと、どこかのんきに考えたティファに、男は満足そうに口をゆがめた。 「本当にいい女だなぁ、おい」 「…勝手に手を出すな」 男が必要以上にティファへ顔を寄せようとしたのをもう1人が制した。 ティファは髪を掴まれたまま力なく顔を背けようとしたが無駄な努力だった。 もう1人が止めなかったら、生涯忘れられない心の傷をおっただろう。 「けっ。お前はいい子ちゃんだなぁ」 忌々しそうに吐き捨てると、男は乱暴に手を離す。 毛根から髪の毛が何本か抜けたようだ。 頭部に走った痛みに顔を歪めたが今度はうめき声を洩らさないことに成功する。 これ以上、こんな卑怯な奴らを喜ばせるなど癪な話だ。 「ようやくお目覚めだね」 新たな声がした方へ何とか顔を向ける。 頬が切れているのだろう、引き攣れた痛みを感じたが無視をする。 この場にいるのが不自然でしかない妙齢の美女がいた。 ティファをこの屈辱の状況へ突き落とした張本人だ。 「……デンゼルとマリンはどこ……」 低く問う。 怯えの色など微塵も無いティファの態度に、美女は軽く笑った。 「へぇ、やっぱり大したもんだねぇ。こんな状況で自分よりも赤の他人を心配するなんてさ」 「……どこにいるの…」 「あんた、自分が質問出来る立場かどうか、もう少し考えたらどうだい?」 ティファの質問に全く答える気が無いのか、美女は優雅な身のこなしで傍にあった革張りの豪奢な椅子に腰掛けた。 この汚らしい廃屋には不釣合いな椅子。 ようやく自分がどこに閉じ込められているのか、周りを見る余裕が生まれた。 なにやら機材が沢山放置されている。 倉庫…だろうか? ミッドガルにはこういった使われず、手直しもされていない倉庫は沢山ある。 その1つなのだろう。 美女は興味深そうにティファを見下すような視線を無遠慮に投げつけている。 長く美しい脚は優美に組まれ、惜しげもなく晒されている。 丈の短いスカート。 まるであの旅の最中、ティファが愛用していたそれに似ていないことも無い。 真っ黒なスカート、身体の線がピッタリ浮き出るグレーのカットソーはノースリーブ。 豊かな金髪はひとつにくくり上げられ、うなじが露になっている。 嘲笑を浮かべた唇は真紅。 勝気な瞳は……魔晄の色。 ソルジャーの色。 クラウドの色だ。 「……あなた…ソルジャー…?」 「えぇ、その通り。ま、神羅が崩壊した今となっては意味のない存在だけどね」 どうりで敵わないはずだ。 多勢に無勢の敵の中に飛び込んだ時から、こうなる可能性は充分考えていた。 だが、どうしても仲間達が到着するまで待てなかった。 敵の目的が自分とクラウドにあることが分かっていたからだ。 もしも焦らすような真似をして、デンゼルとマリンが脅迫どおりな目に合ってしまったら? そんなことになるくらいなら、単身敵地に赴いて仲間達が到着するまで少しでも時間を稼ぎたいと思ったのだ。 だが、まさかこんなにあっさりと捕まるとは思いもしなかった。 敵の力を侮っていたつもりは無かったが、ソルジャーがいるとは思いもしなかった。 完全な大誤算だ。 「さて。私達の目的がなんだか分かってるかしら?」 「………」 「黙ってるってことは、肯定と取って良いのかしら?」 「……好きに取ったらいいわ」 バシッ! 鋭い痛みが頬に走る。 ティファの髪を鷲づかみにしていた男が張り手を食らわせたのだ。 だが、いささかもティファの瞳からは光が消えない。 より一層、ギラギラと燃えるティファの目に、美女は満足そうに笑った。 笑いながらもう一発、と手を振りかざした男を止める。 「本当にまさに理想どおりね。ティファ・ロックハート」 いえ、ティファ・ストライフと呼んだ方がいいのかしら? 美女のたわごとにティファは応じない。 頭の中はせわしなく働いていた。 まず、子供達は無事なのか?ということ。 恐らくこの問題は大丈夫だろう。 もしも子供達に対し、既に危害が及んでいたらそれを目の前に叩きつけてさっさと目的を果たそうとするだろうから。 それに、この美女の自分を見る目がなんとも気になる。 クラウドとティファをおびき出すための誘拐。 だが、それにしてはのんびりし過ぎている。 ティファを捕まえたのだから、もっとこう……身動きできないようにするものでは?と思うのだ。 今でも勿論動けないのだが、薬を使って意志を奪うとか、そういうことをしない。 その理由は? それに…。 静か過ぎる。 ティファが単身乗り込んだ時にはもっと沢山の気配を感じた。 精神的に今、万全ではないのでいつもよりも気配を読むことが難しくなってはいるが、それでも『嵐の前の静けさ』に似ていると感じ取ることは出来る。 クラウドを迎え撃つ準備をしているのだろうか…? 不安がざわざわと大きくなる。 もしかしたら…。 ある1つの可能性が浮上して、全身に怖気が走った。 さり気なく自分を取り巻いている人間を再確認する。 殴り足りない顔をしている醜悪な男。 その男を制したもう1人の若い男。 そして…目の前の美女。 他は? ……背後に2人。 男か女か、若いのか年を取っているのかは分からない。 分からないが、気配の消し方が常人のそれとは違う。 かなりの使い手だ。 「私達はね、あんた達英雄には別に恨みも何にも無いのさ」 唐突に美女が話し始めた。 ティファは眉間のしわを深めながら睨みつける。 美女は楽しそうに薄っすらと口元を笑みに模っている。 「でもね、この世界には恨みを持っているのさ」 「…この世界…?」 「そ。この平和な世界」 ゆっくりと椅子から立ち上がる。 轟然とティファを見下ろしながら、美女は芝居がかった動作で己の仲間を見渡した。 「私達はね、戦うために作られた『兵器』なのさ。それなのに、あっさりとこんなに平和になっちまってね、困ってるのさ」 「……まだこの世界は平和とは言い難いわ」 美女の言わんとしていることを何となく理解すると同時に怒りがこみ上げる。 確かに神羅はソルジャーを幾千人も生み出して生きた兵器としてきた。 それを、再現しようというのか、この集団は? ティファの怒りのこもった反論を、美女は「そうね、確かに完全に平和…とは言えないわね」と、軽く流す。 「でもね、よぉく考えてみて?私達ソルジャーが相手をするべき敵がいると思う?」 「いるわ」 「いいえ、いないわ」 きっぱり言い切ったティファに対し、美女もキッパリ言い返す。 ティファはズキズキと痛む身体を無視し、首を振った。 「いいえ、いるわ!それを分からないのはあんた達の目が曇ってるからよ」 「へぇ、じゃあ例えばどんなものが私達ソルジャーに相応しい敵なわけ?」 醜悪な男が再び拳を振り上げたが、美女が宙でその拳を受け止める。 バシッ!という大きな音を上げただけで、男の拳は美女の繊手に止められてしまった…、ティファの鼻先で。 彼女の力を見せ付けられた気分だった。 あっさりと男の攻撃を受け止めながら、美女は面白そうにティファに問う。 どこか小バカにしているその口調には、自分達に相応しい敵などいない、と雄弁に語っていた。 ティファは答えられなかった。 モンスターはまだまだこの世界で人間の脅威となっている。 闘う力を持っている人間はあまりいない。 モンスターの脅威から人々を守るために闘う。 それがティファや仲間達、そしてWROの背負うべき役目だと考えている。 だが、この誘拐犯達にはその思想は当然、受け入れられないだろう。 美女はティファが睨みつけたまま押し黙ったのを見て鼻先で笑った。 掴んでいた仲間の拳を邪険に払うと、男は軽く吹っ飛んだ。 とんでもない力だ。 「まさかと思うけど、モンスター、とか言うんじゃないだろうね?」 グッと息を呑む。 美女は笑った。 周りの敵も微かに笑っている気配がする。 「確かにモンスターも私達の敵として相応しいものもいる。でもね、そんなモンスターは召喚獣並みでないと釣り合わないんだよ」 その通りだろう。 雑魚モンスターなど、誘拐犯達にかかれば敵としてなりえない。 だが、だからと言って混沌とした世界に逆戻りさせようとするこの集団を認めるわけにはいかない。 「それこそバカな話しだよ。弱い奴らを生き残らせていったい何になるのさ?暇つぶしにもなりゃしない。今はね、医療も科学も発展してんだ。片腕がなくなってもより一層素晴らしい義手を手に入れることが簡単に出来る。心臓みたいな臓器も一緒。古くなったら新しいものに変えればいいんだ。そうやって、長い長い時間を生きていくのには、楽しみとしての程よい刺激が必要なのさ」 恍惚とした顔でおぞましいことを口にする女に、ティファは慄然とした。 常軌を逸しているとは思っていたが、まさかここまでとは思いもしなかった。 美女は言葉も無く黙り込んだティファを、どこか哀れむような眼差しで見下ろした。 「本当にあんたも可哀相に。ぬるま湯な平和にどっぷり浸かっちまって、素晴らしい力をみすみす腐らせてる。でもね、今ならまだ間に合うさ。私達と一緒に来な。そうしたら、この世の最果てまでも蹂躙しつくして、楽しい時間を思う存分味わえる」 「冗談じゃないわね」 女の申し出をにべもなく突っ返す。 美女は怒らなかった。 ティファの答えが分かっていたのだろう。 あっさりと「そう、まぁそういうと思った」と言いながら、クルリと背を向け、再び椅子に座った。 座ったその瞬間、美女の瞳が冷たく光った。 「でもね、あんたの意志は残念ながら尊重出来ないのよね」 肘掛に肘を置き、優雅に組んだ脚の上に手を置く。 まるで女王。 そしてティファは女王の前に引き出された囚人だ。 「ティファ・ロックハート。あんたは魔晄の光を浴びていないのにも関わらず素晴らしい身体能力を持っている。その秘密を私達は手にしたい」 ドックン。 心臓がギュッと縮こまる。 先ほど脳裏に浮かんだおぞましい予感が実現しそうな不吉な気配に息をするのを忘れる。 女王は唇の端を吊り上げた。 「だからね、あんたの遺伝子を組み込ませた人間を作り出すことにしたのさ」 そうなったら、きっとこれから先、もっともっと楽しい世界を作れるだろうからね。 女王の死の宣告が下された。 |