本当に、なんて間抜けなんだろう…。

 ぼんやりとした意識の中でクラウドはそう思わずにはいられなかった…。






Fight with … 10(最終章)







「まったくだ。お前、ほんっとうに勘弁してくれよな」

 突然、頭上から懐かしい声がした。
 だが、驚かない。
 ゆっくりと振り向いたクラウドの視界に、漆黒の髪を持った陽気なソルジャーが髪をくしゃくしゃかき混ぜながら立っていた。

「…本当に…」

 肩を竦めて見せると、ザックスはムッと眉根を寄せた。

「お〜ま〜え〜な!誰のせいでこんなにヤキモキしたと思ってんだ〜!?」
「……悪かった…」

 思い切り両頬をつねられる。
 痛みがあるのがいっそ不思議な感じだった。

 てっきり、夢の世界には痛みがないものだと思っていたのに…。

「痛くないのが本当なんだろうけど、お前はダメ!今度と言う今度は許さん!」
「…勝手に心を読むな」
「モロバレなんだよ、お前の頭ン中は!」
「…痛い」
「当たり前だ!痛くしてるんだからな!痛いのは生きてる証だ、ありがたく噛み締めろ!!」
「…理不尽だ」
「なぁにを言う!爆弾が爆発した瞬間、ギリギリで俺とエアリスが間に合ったから即死状態必至だったのに助かったんだぞ!?そのせいで俺もエアリスも寿命縮んだっつうの!これくらい我慢しろ、俺とエアリスの怒りを思い知れ!!」
「……
もうとっくに死んでるじゃないか
「なにか言ったか!?この野郎〜!」

 ダメだ。
 何を言ってもこの親友に勝てる気がしないし、今回のことは本当に言い訳できないような失態の積み重ねだった。
 ティファに似た格好をしている女が敵…というだけで、勝手に身体は攻撃をセーブしてしまった。
 こればかりはもう仕方ない、と開き直るしかないとクラウドは両頬をつねられて痛い思いを味わいながら考えた。
 きっと、これから先、同じような敵が現れたとしても、多分…、絶対に最初から全力で戦うことは難しいだろう。
 これはもう、自分の努力でなんとか出来る問題ではない。
 だからこそ、今回の事件で学んだことがある。

「俺も…、ティファも1人で闘おうとしたからな」

 ひとしきり抓られた後、クラウドがボソッと呟いた。
 不満そうな顔をして、まだ抓り足りないと言わんばかりの様子だったザックスが眉間のしわをスーッと消した。
 ニカッと笑う。

「よしよし、よく分かったな!」

 態度一変。
 まるで弟を可愛がるようにクラウドの首に腕を巻きつけて引き寄せ、頭をガシガシと撫でる。
 これまた頬をつねられた時のように痛かった。
 毛根から髪の毛が抜けてしまいそうだったが、
「痛い、離せ」
 ブスッと言っただけで、行動にして抗おうとはしなかった。
 ザックスは遠慮しない。
 ガシガシと撫でながら、
「本当にお前、これからは頼むぞ?似たような失敗は二度とするなよ?」
 朗らかな口調ではあるが、内容は重い。
 そんな親友にクラウドは苦笑する。

「努力する…」
「おう、精一杯努力してくれ」
「だけど…」
「男が舌の根も乾かないうちに前言撤回するなよ」
「しない…。でも、ティファが1人で突っ走ったら、同じ失敗をしない…とは断言出来ない…」
「な〜る。確かにな。俺もエアリスが1人で突っ走って死んじまうようなことになったら……、ってもうなったんだけどそうじゃなくて!確かに仲間が来るのをジッと待つのは無理だな」

 途中で慌てたように早口になったのは、サッとクラウドの瞳に翳りが走ったからだ。
 クラウドの心に死んでも消えない傷が刻まれているのを知っているのにうっかり古傷を抉るようなことを口走ったことに動揺している。
 そんなザックスにクラウドは頬を緩めた。

「ま、だけどあれだ。ただ単にボケッと待ってろ、なんてことは言わないけど、もう少し仲間を頼るようにしろよ」
「あぁ…そうだな」
「まったく、ティファもお前もどうしてこう、先走るかなぁ…」
「だが、今回のティファの気持ちは否定出来ない。デンゼルとマリンが攫われた、なんて知ったら、俺だって仕事を途中で放り出してしまう」
「ま、そうだろうなぁ…、そうだよなぁ…」

 しみじみと頷き合う。
 そしてそれがクラウドはとても懐かしかった。
 ティファや子供達とは違う安心感をザックスから与えられていると実感する。
 ザックスは、やれやれ、と首を振って笑った。

「ま、ティファのことはエアリスにまかせてるからな。きっと今頃しぼられてるぞ〜」
「…やっぱり…?」
「おうよ!クラウドは俺、ティファはエアリス。担当が決まってんだよ」
「…いつ決まったんだ」
「そんなもん、俺と出会ったあの瞬間から決まってるさ〜」
「…知らなかったな」
「…お前、もう少しジョークを身に付けろよ」
「無理だ」
「諦め早!!!」

 淡々としていて面白みのないクラウドと、オーバーリアクションのザックス。
 対照的な2人は、同じ色の瞳を暫し見つめ返して…。

 同時に吹き出した。
 腹を抱えて笑う。
 初めてお互いの故郷を知って、笑い合った時のように。

「お前、本当に今度からはしっかり頼むぜ?」
「あぁ」
「爆弾、腹に抱え込んだまま闘うなよ?」
「…それを言うな……」
「本当に、これが本当の自爆だなぁって思っちまったよ…」
「…悪かったな」
「悪いに決まってんだろ」
「う……」
「本当に、頼むぞ?クラウド」
「…あぁ」

 ゆっくりとザックスの姿が薄れていく…。
 片手を上げて見送ってくれる親友にクラウドはゆったりと目を閉じながら、己の意識が現実に向けて動き出したのを感じていた…。

「ザックス…、ありがとう…」

 親友の明るい笑い声が心地良く耳に届いた気がした…。


 *


「あ、クラウド帰ったみたいね」
「本当に?」
「うん、だからティファも帰らないとね」
「…うん…」
「まぁったく!お願いだから突っ走らないでよ?って、まぁ私が言えた義理じゃないんだろうけど…」

 ポリポリと頬を掻くエアリスに、ティファは苦笑した。
 ここに『来た』のはクラウドよりも先。
 それなのに、クラウドの方が先に仲間たちのところへ戻ってしまったのは、一重にティファの心が酷くざわついていたからだろう…。

「ティファ、あんな目に合ったんだから傷ついて当たり前なんだよ?」

 もう何度目かの同じ台詞をエアリスは口にした。
 ティファは自分がとても弱かったことを目の当たりにして激しく傷ついていたし、落ち込んでいた。
 まさか、女であることがあんなに裏目に出て、あんなに恐怖を味わう日がくるなんて思いもしなかった。
 あと少しクラウドが暴れるのが遅れていたら、麻酔を注射される以上のことをされていただろう。
 本当にゾッとした。
 恐怖で魂が雁字搦めになってしまった。
 子供達を失うかもしれない恐怖とはまた違った恐怖。
 生まれて初めて女であることを心底『不利だ』と痛感した。
 クラウド以外の人との子供を作られそうになったという言いようのない嫌悪感は言葉に表すことは出来ない。
 同時に1人の女性のことを思い出してしまって、それがティファを更に自己嫌悪の泥沼へ追い落とした。

 科学に身を捧げた女性、ルクレツィア。

 科学とか実験とか以上に何かがあったのだろう…と今は思う。
 そうでなくて、どうして自分のお腹に宿った子を実験に捧げるだろう?
 だけど、その『実験以上の何か』がいったい何なのかを知る術はもうない。

 ティファはいつの間にか目を伏せていた。

「ティ〜ファ」

 おどけた調子でエアリスがティファの頭を抱く。
 そのまま彼女の髪をそっと撫でる。

「ティファ、大丈夫だよ」
「……」
「ティファはもう、同じ失敗をしたりしない」
「……」
「だって、ティファはもう分かってるでしょ?ティファは1人じゃないって」
「……」
「頭の中で分かっていたことをあらためて魂で感じ取ってくれたでしょ?」
「……」
「だから大丈夫。それに、デンゼルとマリンもこれからどんどん大きくなっていって、頼もしく強く成長してくれるもの」
「……」
「ティファ、ティファが1人で頑張らなくて良いんだよ…」

 ただ黙ってティファは親友の言葉を聞いていた。
 心地良い彼女の言葉が胸に染みる。
 本当にそうだと思う。
 きっと、デンゼルとマリンはこれからどんどん頼もしく成長して、気づいたらクラウドや自分もひっくるめて守ってくれる、そんな大きな人間になってるような気がするのだ。
 それに、自分は1人じゃない。
 一緒に闘ってくる人達がいてくれる。
 ならば、今度同じような失敗を繰り返しそうになったとき、頼もしい仲間がストップをかけてくれるだろう。

「うん、そうだね」

 少し身体を離してエアリスがコツン、と額に額を合わせた。
 至近距離で見つめるのが少し恥ずかしくて、くすぐったい。
 ほんのり滲む視界が照れ臭くてティファはクスクス笑った。
 エアリスも笑う。

「ティファ、みんなによろしくね」
「うん」
「じゃあね。今度こっちに来る時はうんとゆっくりしてから……ね」
「うん、エアリス」
「ん?」

「ありがとう」

 ティファは微笑みながら瞼を閉じた。
 エアリスのクスクスと笑う声が薄れ行く意識の中で聞こえた気がした。

 そうして…。

 大泣きの子供達に囲まれる中、ティファが目を覚ましたのは何故かクラウドよりも半日以上も早かった。
 そのことについて、クラウドとティファは後々『不思議な体験談』として笑いながら話すこととなる。


 *


「それで、今回の事件の首謀者ですが舌を噛んで自殺…」

 重苦しい沈黙が会議室に流れた。
 リーブは溜め息をつきながら会議に参列している部下達を見渡した。

「しようとしたところを、この『ケット・シー』で阻止しました。現在、事情聴取の最中ですが自白剤を飲ませても無駄っぽいんですよねぇ…」
 はぁ…。

 またもや吐き出された溜め息を合図にしたかのように大佐が代わりに立ち上がった。

「今回、首謀者はじめ、事件に関与した全ての元・ソルジャー達の精神鑑定を行っているが、結果は芳しくない。ジェノバ細胞による精神破壊、および脳細胞の異常発達等々が科学版図の合同研究にて分かっているが、それが今回の事件の全貌と関係があるのかは不明だ」

 リーブは大佐に後を任せる、という意思表示だろう。
 疲れたように椅子に深く腰掛けた。

 まったく、本当に今回の事件は疲れた。
 疲れた…というか、疲れない事件など事件足り得ないのだが、それにしても…と思う。

 元・ソルジャー達の奇行がジェノバ細胞の暴走、魔晄中毒の一種等々で位置づけられたとしたら…?
 考えただけでもゾッとする。
 元・ソルジャーなど、この星にいったいどれくらいいるのやら…。
 それに、もしも…、もしもだ。
 今回の事件に関与した連中の奇行が、ジェノバ細胞の暴走等で位置づけされたらとんでもないことになる。

 世界中が元・ソルジャーの迫害につながることは必至だ。

 なんとしても、そうならないように『証拠』を押さえなくてはならない。

(証拠を押さえる…というよりも『証明してみせる』…ですね)

 リーブは痛む頭を揉み解すようにこめかみをそっと押した。
 はてさて。
 なんとも厄介な問題が次々持ち上がってくるもんだ…。

 リーブは部下の報告を聞きながら、それでも『ま、なんとかなるでしょう』と、明るい気持ちに切り替えられた。
 その理由は、たった30分ほど前の光景のお陰…。

「「 クラウドーー!! 」」

 大泣きしながらしがみついた子供達。

「「 この大バカ野郎!! 」」

 巨漢とウータイの忍の泣き笑いの混ざった怒鳴り声。

「「 やれやれ… 」」

 苦笑しながらも嬉しそうに目を細める艦長とガンマン。
 そして…。

「クラウド…ごめんなさい」

 目のふちいっぱいに涙を溜めながら微笑んだティファ。
 そんな彼女に気がついて心底ホッとして頬を緩めたクラウド。

 本当に良かったと思った。
 頭の毛が全部抜けてしまうのじゃ!?と思うほどの心労を味わったが、見詰め合ってゆるりと微笑みあう2人を見て、その苦労が全部報われた気がした。

(やれやれ、本当に頼みますよ、お2人さん)

 心の中で、そう呟いてリーブは意識を会議に集中させた。


 *


「それで、結局どうなったわけ?」

 二週間後。
 クラウドとティファはセブンスヘブンへ戻ってきた。
 重症だったクラウドの治療がようやく終わったのだ。
 暫く配達の仕事は休まないといけないし、通院を続ける必要があるものの、今すぐ生活に困ることはないのがありがたかった。
 もうすっかり元気になったティファが早速腕をふるった手料理を頬張りながら、モゴモゴ…とユフィが話しかけた。
「汚いだろ…」
 げんなりしながら注意したのはシド。
 そっぽを向くようにしてユフィを視界から締め出す。
「うるさいな、このオヤジ!」
 ゲシッ!
 ユフィがおしぼりをシドの後頭部目掛けて思い切り投げつけ、ヒットする。
「なにしやがんでい!」
「へへ〜んだ!」

 料理を挟んで争い勃発!
 仕掛けたのを、ティファが新たな料理を間に置くことでさえぎった。
「ユフィ、いい加減にしなさい」「シドも、いちいち子供みたいに反応しないで」
 2人同時にお小言を言う。
「は〜〜い」「へ〜〜い」
 料理を作ってくれる人間には頭が上がらない。
 シドとユフィはシュンとうな垂れ、料理を口に運ぶことに専念しはじめた。
 その光景をリーブが眩しそうに目を細めて見つめる。
「……老けたな……」
「何か言いました?」

 ボソリ。
 呟いたヴィンセントにリーブは首を傾げつつクルリ、と振り向く。
 ヴィンセントは「いや…なんでも」とモゴモゴ口ごもりつつグラスを傾けた。
 まさか聞かれていたとは思わなかったのだろう。
 偶然、一部始終を見聞きしていたクラウドとナナキがなんとなく目を合わせ、苦笑を交わす。
 バレットは仲間達のやり取りにあまり興味が湧かないようで、目下、マリンとデンゼルとの会話に夢中になっている。

 いつもの活気あるセブンスヘブンだ。

「まだ今のところは。でも、これから先のテーマが決まりましたね」

 リーブがユフィの質問にやや遅れて応えた。
 思いもしなかった言葉にバレット以外の目が丸くなった。
 リーブは一口酒を啜って口を湿した。

「我々は、神羅の科学技術を理解する努力を怠っていました。今回の事件をきっかけに、改めて神羅が本当に目指していたものがなんだったのか、それを追求する必要があると分かりましたからね」
「…追求…」
 ヴィンセントが暗い声を出した。
 みなの表情が引き締まる。
 子供たちも話しの内容がシリアスだと感じ取ったのだろう、バレットと一緒に笑っていたがスーッと真顔に戻った。

「全部を追求することは不可能でしょうね。ですが、少しでも出来るところまで追ってみます。そうすることで、今回のような事件を予防できるかもしれませんしね」
 そのために、明日から泊り込みで仕事です。

 笑いながらそう言ったWRO局長を、クラウド達は頼もしく感じると共に己のあり方、生き方を見直さずにはいられなかった。
 そうして、今。
 クラウドは久しぶりに我が家の寝室でウトウトとまどろみながらリーブの言葉を思い出している。
 ティファは黙ったままそっと寄り添うようにして目を閉じているが、眠ってはいないだろう…。
 その証拠に…。

「俺達が出来ることって…なんだろうな…」

 モゾ。
 すぐにティファが顔を上げた。
 至近距離で薄茶色の瞳が揺らめいている。

「クラウド…」
「俺達が出来ることは限られてると思う。現に、今回のことでは本当に皆の足を引っ張ってばっかりだったからな」

 苦笑するクラウドにティファも苦笑をこぼした。
 だが、けして悲観的な苦笑ではない。
 2人とも、自分の失敗を受け止め、受け入れてくれる仲間を改めてありがたい、と感じることが出来たから、今回の事件に関しては痛い目にも合ったが、得たものも大きかった、と思っている。

「私達が何を出来るのかはその時にならないと分からないけど…でも…」
「ん?」

 クスッと笑ってティファはクラウドの頬に手を伸ばした。
 柔らかく包み込まれてクラウドは内心ドギマギするが、ポーカーフェイスを維持する。
 ティファはクラウドの葛藤に気づいていないのだろう、クスクス笑いながらそっと頬へ伸ばした手を首筋へと滑らせた。

「皆が私たちみたいな失敗をしそうになったら…」

 言葉を意味深に切ったティファにクラウドは微笑んだ。

「そうだな、全力で加勢する」

 1人で闘うのではなく、一緒に闘う。
 1人で闘わせるのではなく、共に闘う。
 それが許されているのだから、自分達は。

 ― 『同じ失敗、するんじゃねぇぞ?』 ―
 ― 『2人とも、しっかりね』 ―

 親友たちの温もりを感じながら、クラウドとティファは微笑み合いながらゆるゆると目を閉じた。
 生きている限り、闘いは続くだろうから、今はゆっくりと英気を養うために…。



 あとがき

 元・ソルジャーの壊れっぷりがジェノバ細胞からなのか、それとも魔晄に浸された後遺症なのか…。
 そこんところをうやむやにしたばかりでなく、捕まえた今回の事件の犯人達のその後を書かずに終了です…。
 なんとなく、『この人達はこうだった』『結局、こうなった』ってスパーッ、と結果を出すのは相応しくない気がしたので。
 今回のお話は、ティファが突っ走って、同じくクラウドも突っ走って、2人揃って別々に自爆!という、なんとも本編ではありえない!(と信じたい)かっこ悪い二人となっちゃってごめんなさい(土下座)。
 ただ、なんとなくティファも…、とりわけクラウドなんか仲間に頼るって発想がどこか欠如している気がするんですよねぇ…。(印象だけはどうしても払拭出来ない)
 なら、こういう事件が起きた時、やっぱり突っ走っちゃうんだろうなぁ…とか思って書いちゃいました。
 なんだかモヤモヤしたもので終わっちゃった感がしないでもないのですが、この事件に関しては恐らく迷宮入りになるでしょう…。
 どうしても理解出来ない人間って結構世の中いるもんですから…。(あ、逃げた)

 ここまでお付き合い下さって本当にありがとうございました〜ε=ヾ(;゜ロ゜)ノ(脱兎)