生きていくためには『糧』が必要だ。 そんなことは分かっているし、誰に教えられなくとも『命』を持つものなら本能的に悟っている。 ただ…。 その『糧』を得るためにどのような『手法』を選ぶのかは、それぞれによる。 そして、決して許されない『手法』は『弱者の足元を見てふんだくる』ことだと『彼』は無意識のうちに思っていた…。 だから…。 『義』という名の下に…。1「おい、どういうことだ!」 クラウド・ストライフはかつての旅の仲間であり、現在この世界で一番多忙を極めている上位者ランキングに位置づけられるであろうリーブ・トゥエスティの胸倉を掴んだ。 大将クラスの面々が慌てふためきながら『我らが局長』の救出に乗り出そうとするが、リーブは片手を上げることで制しつつ、クラウドの氷点下の眼差しを真っ向から見返した。 「クラウドさん、確かにあなたの憤りはごもっともです。しかし、これはWROの問題です。あなたが口出しされることではない」 冷淡ともとれるその声音に、怒りを露にしていたクラウドはほんの少しだけ自制心を取り戻した。 厳しい表情を浮かべ、真っ直ぐ見つめるリーブを至近距離から睨みつける。 「お前…本当に今回の『処分』が適切だと思っているのか…」 押し殺したその声音は、先ほど怒声を上げたものとは思えないほど落ち着いていたが、それでも周りにいた隊員達の気持ちを静めるには足りなかった。 誰かが緊張のあまり、つばを飲み込む。 緊張感が張り詰める中、リーブは冷静な表情をみじんも変えなかった…。 「勿論です。いかなる理由があろうとも、『確固たる証拠』がないまま『行動』に出た隊員には、等しくそれ相応の『処分』を下す…、それが私の役目です」 凛としたその言葉に、クラウドはやり場のない怒りを持て余しながら、苛立ちつつリーブの胸倉から手を離した。 息が自然と上がっているクラウドの姿に、父親ほどの年齢に至る大将クラスの隊員ですが背筋を凍らせる。 リーブ1人がクラウドの怒りに冷静且つ真正面から向き合っていた…。 「クラウドさん。暫く『彼』は謹慎処分とし、任務にはつかせません」 クラウドの柳眉がこれ以上ないくらい危険な角度に跳ね上がる。 数人の隊員が息を止めたが、リーブは最後まで冷静な口調を崩さず言い放った。 「いかに『彼』の言い分が正当であろうとも、確固たる証拠がない以上、私としては彼を何らかの処分に処する義務があります。それが『組織』です。『組織』を維持し、継続し、この星の力強い『守護者』となるためには、時として厳然たる処分を下さなくてはなりません。その処分に私情を挟むことなど、当然ですが出来ません」 グッ…、とクラウドは吐き出し足りない怒気を飲み込んだ。 認めたくはないが、リーブの言い分は最も至極で、彼の言葉を覆すことはすなわち『WRO』という組織の『本来の本質』を『崩壊させる』ことになると分かったからだ。 だが、どうしてもこの荒れ狂う感情を御しきれない。 それは、クラウドがリーブと違って『自由』だからだ。 リーブのように『組織』に束縛されていない『自由』を手にしているから…。 だから、感情のままに怒り、感情のままに行動する…。 それはリーブには絶対に出来ないことでもあり、クラウドはおろか、他の誰をもリーブの代わりにはなりえないという事実。 ただ…それだけ…。 ならば…。 「リーブ、『謹慎処分』というのは、『寮から出ない』ということか?それとも『任務に就かない』ということか…?」 彼が出来ないことをしてやるのが『仲間』だろう…? 冷静さを取り戻したクラウドに、リーブはようやっと淡い笑みを浮かべた。 * 「兄ちゃん、ゆっくりしてくれよな!!」 「お兄ちゃん、何が食べたい?私、ティファには全然勝てないけど、それでも少しは作れるようになったんだよ」 久しぶりに再会したデンゼルとマリンは、身体全部から『嬉しい』と大はしゃぎでプライアデス・バルトを囲んだ。 紫紺の瞳を優しく和らげ、いつもと変わりない穏やかな表情で青年は子供達の熱烈な歓迎を受け入れた。 「そうだね、じゃあシチューが食べたいな。WROの食堂のシチューって美味しいんだけど最近忙しくて食べてないんだ」 「ほんと!?私、シチューなら作れるから張り切って作るね!!」 「兄ちゃん、俺も!俺も手伝うからさ!!その間、クラウドと話しでもしてゆっくりしててくれよな!途中で『任務が入った』とか何とか言って、帰ったりしないでくれよ?今日はお泊り、絶対にしてくれよな!」 「うん、大丈夫。ちゃんと『お休み』もらったからお泊りさせてもらうよ」 デンゼルの『任務が途中で入った』という言葉に、クラウドとティファは内心ギクッ、としたが、プライアデスはカケラほども動揺した素振りは見せなかった。 慌しく子供達がカウンターの中に駆け込むのを見送ると、改めてプライアデスはクラウドとティファに向き直り、深々と頭を下げた。 「すいません、ご厄介になります」 「気にするな。無理に呼んだのは俺だからな」 「そうよ。ライ君、自分の家だと思って……って、豪邸じゃないから無理ね。せめて自分の寮だと思ってゆっくりしてね」 ティファの精一杯の気遣いの言葉に、プライアデスはニコニコ笑いながら、 「寮だと思ってたら、いつ緊急招集がかかるか分からないんであまりゆっくり出来ないから、実家だと思わせて頂きますね」 と、茶目っ気を織り交ぜながら応えた。 そんな青年に、クラウドはこうなった経緯を思わずにはいられなかった。 苦い思いを味わいながら思い出しつつ、無表情と言う仮面を尚一層しっかり顔に貼り付け、店のテーブルの1つに青年をつかせた。 「さ。子供達の真心がこもった料理が出来るまで、少しやっておこうか」 そう言って、綺麗に磨かれたグラスにスコッチを注いだのだった。 * 「うん、すっごく美味しいね!マリンちゃんとデンゼル君のシチューはWRO食堂を軽く越えてるよ」 「「本当!?」」 「うん!こんなに美味しいなら、WROに『ケータリング』して欲しいくらいだよ」 『おべっか』ではない心からの賛辞に子供達は目を輝かせて喜んだ。 本気でWROまで『出前』をしてしまいそうな勢いに、ティファは苦笑しながら子供達にちゃんと席に着いて食事をするよう軽く注意をする。 クラウドは数杯目のスコッチをプライアデスのグラスに注いだ。 ほんのりと酒気を帯びて頬を赤らめた青年がにっこり笑いながらクラウドのグラスにスコッチを注ぎ返す。 くつろいだその様子は、ティファをホッとさせた。 連絡を受けた時にはどうなることかとハラハラしたものだったが…。 「兄ちゃん、任務で何か面白いことなかった?」 男の子らしい好奇心を顔一杯に溢れさせたデンゼルに、クラウドとティファはそっと視線を交わした。 今は任務のことを青年に語らせたくはない。 しかし、プライアデスは全く小揺るぎもしないで微笑を浮かべたまま、 「う〜ん、そうだなぁ。なにが良いかな?任務のことは他言したらマズイから差し障りのない話し〜…か…」 天井を見上げるようにして考える。 デンゼルはワクワクしながらプライアデスを見つめ、マリンも食事を口に運びながら何を聞かせてくれるのか興味津々のようだった。 「そうだね。この前ちょっとした任務のために他の大陸に行ったんだけど、そこで怪しい宗教の勧誘にあったなぁ」 「「宗教の勧誘!?」」 「そう。なんか『この世界は一見平和に見えるが、死期がもうそこまで迫っている。だから、その時、魂まで滅びずに済むよう、この札をお守り袋に入れて肌身離さず持っていろ。そうすれば、死んだ後も魂は平穏を得られるだろう』って言ってたな。いやぁ…、怪しい宗教団体があるって言うのは知ってたけど、まさか自分が勧誘されるとは思ってなかったからビックリしたよ。うん、貴重な体験だったね」 「「へぇ!!」」 デンゼルとマリンは目を丸くした。 そして、すぐに興奮状態になる。 「ねね、どうしたの?そのお守り、もらったのか?」 「ううん、だってそのお守り、1つで1000ギルもするって言うんだもん」 「え〜!!それって詐欺じゃない!」 「うん、そうだよねぇ。だから買わなかったんだ」 「でもそれって、WROとしては放置していても良いわけ?」 おっとりと答えるプライアデスに、ティファが口を挟んだ。 僅かに眉間にシワが寄っている。 プライアデスはティファの表情をむしろ楽しむかのようにニッコリ笑った。 「勿論、放置なんかしませんよ。WROの身分証を見せてさっくり捕まえました」 「「さっすが〜!!」」 子供達が手放しで賞賛する。 プライアデスはニコニコ笑いながら「どうもありがとうね」と言って、シチューを口に運んだ。 「そう言えばさぁ、この前TVで見たんだけど『義賊』って奴らが最近すっげぇ活躍してるんだろ?」 クラウドとティファは固まった。 まさか、絶対に話題にしてはいけないことをデンゼルが口にするとは思いもしなかった。 息を飲み、顔色を変えた親代わり2人の様子に子供達は気づいていない。 興味津々にWRO隊員を見つめている。 「危険な任務に就くことも多いんでしょ?『義賊』って人達にも会ったことあるの?」 ((マリーーン!!!!)) 追い討ちをかけるように無邪気な顔をしてプライアデスに問いかける愛娘に、2人は心の中で叫んだ。 なんということか。 プライアデスには十分英気を養ってもらって、今回の不当な処分を吹っ切ってもらおうと思ったからこそ我が家にご招待したと言うのに、傷口に塩を塗るようなことを子供たちが仕出かすとは! しかも無意識だからこそ性質が悪い。 だが、心配されている当の本人は至って平気な顔をしていた。 温和な表情は全く揺れず、むしろ子供達がニュースをちゃんと見ていたことに感心した。 「すごいね2人とも。ちゃんとニュース見てるんだ」 褒められて得意げに笑う子供達に、プライアデスはこっくりと頷いた。 「うん、会ったことあるよ」 「「本当!?」」 「うん、本当に」 「「わ〜、すご〜い!!」」 (そりゃあるだろう!!)(そりゃあるでしょう!!) クラウドとティファの内心の突っ込みなど露ほども気づかず、子供達とプライアデスの会話は続く。 「どうだっだ?どうだった〜?」 「やっぱりTVで見た村の人達が言ってたみたいに『カッコよく』て『強かった』の!?」 身を乗り出す2人にこっくりと頷いてプライアデスはスコッチのグラスを手に取った。 「うん、強かったよ。カッコよかった…って言うのは、外見のこと?それとも内面のこと?」 親代わり2人はハッとする。 プライアデスのさり気ない質問の意図は子供達には伝わらなかったが、今回、彼の処分の原因となったのはまさに『内面』が問題だったのだから…。 「「勿論、両方!!」」 無情にも子供達は『無邪気』という愛くるしさで我れ知らず、クラウドとティファの焦りを煽った。 プライアデスはクラウド達の気持ちを十分理解しているのだろう、どこまでも『いつも』のプライアデスだった。 「う〜ん、やっぱり見た目はクラウドさんの方がうんと良いね。それに、リトやシュリ中佐にも負けてるし。まぁ、人間は見た目じゃないから」 「兄ちゃん、そりゃクラウドやシュリ兄ちゃんと比べたら世の中の男の人の大半が勝てないって」 「そうだよ。それに、ライお兄ちゃんにも勝てる男(ひと)ってすごくすごく少ないよ〜」 笑いながらそう言うデンゼルとマリンに、プライアデスはおどけたように眉を上げた。 「おやおや、これは高評価!どうもありがとう」 すっかり興奮状態の子供達とプライアデスを、クラウドとティファはヒヤヒヤしながら見守った。 子供たちが心を込めて作ったシチューが虚しく冷めていっていることにも気づかない…。 デンゼル達がそんなクラウド達に気づかないことがこの場合、せめてもの救いだろうか…。 だが、そんな小さな救いも…。 「いいよなぁ、『義賊』!俺、大きくなってクラウドみたいに強くなったら『義賊』になりたいな!」 デンゼルのこの一言で終わりを迎えた……ように、クラウドとティファは感じた。 プライアデスの瞳がとうとうここに来て、スッと細められたからだ。 しかし、それは本当にささやかなものだったので、興奮状態にある子供達は気づかなかった。 「え〜、デンゼルが『義賊』になるの〜?」 「なんだよ、マリン」 「無理だよデンゼルは〜。だって、まだまだてんで弱いもん」 「うるさいな!俺だって今から特訓したら大人になる頃には強くなれるんだ!」 「え〜…どうかなぁ〜?それに、『義賊』って1人じゃあ無理だよ。沢山の敵とかモンスターに囲まれたら絶対に勝てないもん」 「良いんだよ、その辺は!キッドと一緒になるんだから!」 「えぇ〜?キッドを巻き込むわけ!?デンゼル、勝手すぎ〜!」 「なんだよぉ、マリン!えらく突っかかるじゃないか!あ、そっか分かった。一緒に『義賊』になれないからひがんでるんだろぉ〜」 「む〜!ひがんでないし、なれないことはないもん。私もティファみたいに強くなったら『義賊』になれるもん!」 「えええ!?ティファみたいに強く!?マリンが!?絶対に無理だって!!」 「無理じゃない!デンゼルがクラウドみたいに強くなる方が無理だもん!!」 「無理じゃない!」 「無理だもん!!」 「はいはい、2人ともそのくらいにしないと折角のシチューが冷め切っちゃうよ」 あっという間に口喧嘩に転じてしまった子供達を宥めたのは、親代わりの2人ではなく招待客のプライアデスだった。 その時には、プライアデスはいつものように『穏やかなお兄さん』の顔に戻っていた。 2人とも、頬をパンパンに膨らませていたがプライアデスの一言に頭が少し冷えたらしい。 「「はぁ〜い…」」 どことなく膨れ面のまま、椅子に座りなおした。 「そ、そうね。なんなら温めなおそうか?」 ようやく気を取り直したティファがそう申し出て、子供達はパッと顔を輝かせ、プライアデスはシチューのおかわりをお願いした。 クラウドは1人、穏やかな仮面を被り続けている青年をジッと見つめていた…。 * 「本当に楽しかったです。ありがとうございました。」 夜。 あれからもひたすら子供達の腕を振るった料理に舌鼓を打ち、はしゃぐ2人にWROの任務で体験した『きわどい話し』を沢山話して聞かせて子供達を寝室に見送った後、青年は改めてクラウドに謝意を表した。 ティファは子供達と共に子供部屋に行っている。 クラウドは、ようやく本題を切り出すこととした。 「ライ、本当に今回の件だが、どうして先走った?」 なんの前置きも補足的な言葉もなかったが、プライアデスにはちゃんと分かっていた。 クラウドが『証拠をちゃんと握ってからことを進めなかったこと』と『突然とは言えその場面に遭遇した時に、上官に報告もせず勝手にことに当たったこと』を示しているのだ…と。 青年は穏やかな顔から一変し、厳しい隊員の表情となった。 凛と輝く紫紺の瞳が店のほの暗い照明を受けて光る…。 「クラウドさん。僕は『WRO』という組織に身を置いています。しかし、相手はなんの『戒律』にも属さない…、いわゆる『自由』な者達でした。彼らの存在は当然、WROも知ってはいましたが、彼らの『移り行く姿』は把握していなかったんです。ですから、僕もそれを見たときは我が目を疑いました」 言葉を切って、一呼吸分間を入れる。 プライアデスはテーブルの木目に視線を落とした。 「『義賊』から『盗賊』に変わっていくかもしれないという懸念は我々も抱いていました。しかし、まさかこんな短期間で変わってしまうとは…」 苦い口調。 プライアデスの胸のうちを思い、クラウドは一言、「そうだな…」とだけ呟いた。 『義賊』。 小さな村や町を襲う『盗賊』を『狩る』集団。 その名の通り、『義』を背負い、弱者を守る彼らは、『盗賊』をなぎ払い、『盗賊』の持ち物を奪うことで生計を立てている。 決して弱者から金品を巻き上げたりしない…。 だから、『盗賊』の被害にあった弱者たちからは絶大な人気を誇っていた。 WROに『被害届』を出しても、『組織』という名の下に、解決するまでの間には多くの人間が『裁断』を下す。 そうして、隊員を派遣するかどうかを決めるのだ。 無論、他の大きな犯罪組織の場合とは違い、その裁断を下すまでの過程は非常に簡素化されており、実質『警察』とはあまり変わらない程度となっているものの、それでも警察よりは時間がかかる。 警察との圧倒的な違いは、完璧に訓練された兵士を送り込み、犯罪者をねじ伏せる事が出来るだけの武器を使用出来るということ…。 だからこそ、WRO隊員の派遣についての裁断は慎重且つ迅速に行われるよう、精一杯の努力が成されている。 しかし、それでは間に合わないのだ。 SOSが村や町から出された場合、通常は警察に任せる。 その間、本当に隊員の派遣が必要か大将クラスの下である幹部…、要するに大佐クラスの隊員が討議するのだ。 この『時間』が被害にあっている村や町にとっては致命的だ。 隊員達が到着した時には、全てを失った状態にある村や町の人達の恨みの眼差しや罵声を浴びせられることも少なくない。 しかし、またその逆もあった。 大佐クラスが大した議論もせず、SOSがあったという時点ですぐに隊員を派遣して、ただの『家族ぐるみの喧嘩』だったこともある。 その場合の隊員達の運搬費は決してバカにならない。 おまけに、隊員達がそのくだらないSOSにかかずらわっている間、他の深刻な事件が起こり、対処が遅れたというとんでもない過去も持っている。 だからこそ、WROは慎重にならなくてはならないのだ。 『組織』を動かすとはそういうことだ。 そして、プライアデスはその規律を破った。 プライアデス1人が行動したとは言え、確たる証拠もないのに『義賊』の1人を叩きのめしたのだ。 当然だが『義賊』は猛然とWROに対し、抗議した。 その結果、プライアデス・バルト准尉は『謹慎処分』『減俸』となったのだった…。 しかしながら、クラウドがリーブに食ってかかったのにはそれだけではない理由がある。 実は…。 「俺も…『義賊』を語る者が『『盗賊』から救ったから』、と村人から金品を要求しているのを見た」 「あぁ…そうだったんですか。それで…」 プライアデスは顔を上げ、苦笑をもらした。 クラウドは苦々しくその時のことを思い出した。 本当に恐ろしいまでの偶然だった。 『義賊』と名乗る若者が、轟然と村の老人に手を突き出し、金品を要求していたのを目撃したのは。 若者の足の下では、『盗賊』が失神して地面に倒れていた。 どのような経緯で『盗賊』が若者に倒されたのか…、老人が若者に救われたのかは分からない。 分からないが、その『要求している場面』だけを見たクラウドの目には、『義賊』を騙る『盗賊』にしか見えなかった…。 だから…。 「俺も、その『義賊』とやらをこらしめてやろうとしたんだけどな。助けられた…という老人に咎められた…」 老人はシワにまみれた腕を広げ、若者を庇った。 ―『この人に、ワシの孫が助けられ、ワシの家財が守られたんじゃ!それなのになんてことをする!!』― 老人からすれば、若者の要求はそれに相応しいと思えるものだったのだろう。 そして、いきなり割って入ったクラウドは、とんでもない不届き者…ということだったのだ。 せせら笑うように見下してきた若者に、腸が煮えくり返りそうな思いを噛み締めながらクラウドはその村を後にした…。 「あの老人は『義賊』に救われた、と言っていた。今、巷では『義賊』が話題になってるからな…。その名を騙った悪人かもしれないとは露ほども疑っていなかった…」 『義賊』と『盗賊』が手を組んでいないとどうして信じ切れるのか、それがクラウドには分からない。 だから今回、グリート・ノーブルから連絡を受けた時、すぐさまリーブの元へ飛んでいったのだ。 クラウドと同じ懸念を抱いているはずのWROの局長が下す処分としては不当だと思ったからだ。 だが…。 確かにWROの人事のことに、クラウドが口出しする権利などなかった。 いつの間にか傲慢にすらなっていたことに気づき、実はちょっぴり落ち込んでいたりもする…。 プライアデスは小さく頷いた。 「えぇ、まさにクラウドさんが仰るとおり、世の人達は『疑い』をしなさ過ぎる。無防備すぎるんです。あからさまに『盗賊』だ、とか『ドロボー』だ…とか、そういう『看板を背負った輩』以外は大丈夫だ…と、警戒心を解いてしまう。非常に危ない傾向にあります…」 そして…。 と、間をおいて言葉を続けた。 「その『無防備』『無警戒』の原因は…、残念ですが「ジェノバ戦役』にあると僕は思っています」 思いがけない言葉に、クラウドは目を見開き青年を見た。 知らず、呼吸も忘れる…。 プライアデスはWRO隊員としての表情のまま、真っ直ぐクラウドを見た。 「無論、ジェノバ戦役の英雄の方々を非難しているのではありません。皆さんの活躍がなければ、星はもうなくなっているんですから。ですが、その後がいけなかった…。『共に生きていこう』、『共に頑張ろう』、この思想が星全体に行き届かないままだったのにWROという組織が出来てしまった。大きな街や、小さいながらも近隣に町や村と連携が図れる地域は大丈夫なんです。しかし、孤立し、点在している小さな村や町は、『助けを求めたら助けてくれる』と勘違いしている場合が多いんです。問題が起きても、自分たちのように数も少なく、警備に足る武器もない。あるのは険しい大自然だけ…。そんな『か弱い自分たちを守ってくれて当然』と思える組織が出来てしまった…。そして、そんな場所に住んでいる人達こそが、『盗賊』たちには格好の餌食なんです…。なにしろ、俗世間から離れた感があるので、世間を賑わせている事件は自分達とは無縁だと思っている節が強いんです」 青年はスコッチが入ったグラスを一口、口に運んだ。 その時の表情は、いまだかつてクラウドが見たこともない『戦いに身を置いている男の顔』だった。 |