「それで、ライ君は上司への報告をしないまま、その『義賊』とか言う人を殴っちゃったのね」
「殴った…という表現は適切じゃないかもしれません」
「どういうこと?」
「……そのぉ…、カッとなっちゃったのでついやりすぎまして…」
「…具体的に、どの程度やり過ぎたんだ?」
「え〜と……その…。左鎖骨と左顔面骨折を…少々」
「「 ……… 」」

 子供達を寝かしつけたティファが会話に加わり、大人達の話しはまだまだ続く。







『義』という名の下に…。2







「それにしても、もっとお前なら上手くやれると思ったんだが、意外と不器用なんだな」

 ポロッ…とこぼしたクラウドに、プライアデスはキョトンとし、ティファは軽く睨みつけた。

「クラウド、失礼よ」
「あ、すまない、つい…」

 決まり悪そうに視線を彷徨わせたクラウドに、プライアデスは軽く笑い声を上げた。

「まさか、クラウドさんにそんなことを言われるとは思いませんでした」

 肩を揺すって笑う青年を見て、ちょっとホッとしつつもクラウドは何か引っかかるものを感じてムッとした。

「どういう意味だ…」
「いえだってね、クラウドさん、ご自分が不器用だってこと、自覚されてないんだなぁ…って」
「俺?俺が不器用…?」
「器用だと思ってるんですか?」

 軽く返され、言葉に詰まったクラウドを見て、今度はティファも笑いに加わった。
 庇うことなく笑いに加わった恋人を軽く睨み、結局クラウドは自身も苦笑した。

「まぁ…、確かに俺が言えた義理じゃないな…」
「ハハハ、すいません。でも、なんか意外な言葉を意外な人から聞けて嬉しかったです」
「…嬉しかった…のか?」
「えぇ」
「なんで…?」

 軽く眉を顰めて本気で分かっていないクラウドに、プライアデスはフワリ…と微笑んだ。
 なんとなく照れくさくなり、グラスを口に運んで表情を隠す。
 と…。

「僕のことをちゃんと見てくれてるんだなぁ…と思って」

 ブホッ!!

 クラウドは盛大にスコッチを吹き出した。
 ティファがお腹を抱えて大笑いをした。
 むせ返りながらクラウドは真っ赤になった。

「な、な、なにを気色の悪い…!」
「あれ?なんでですか?嬉しいことなんですけどね、僕にとって」
 それともやっぱり迷惑ですか…?

 小首を傾げて邪気のない顔で問いかける青年に、クラウドはドギマギしながら、
(その顔は反則だ!!)
 と、内心で喚きまくった。
 当然だが、言葉にはしない。
 笑い転げているティファを八つ当たり気味に睨みつけることでその場をしのぐ。
 何しろ、プライアデスは『謹慎処分』を喰らったばかりの身。
 労りが必要な状態なのだ。
 だからこそ、こうして我が家にご招待したのだから、不愉快な思いをさせるくらいならむしろ笑われた方がうんと良い。
 良い…はずなのだが…。

(なんか……釈然としない…)

 すっかりむくれてしまったクラウドに、プライアデスは苦笑を浮かべた。

「すいません、ちょっと八つ当たりしちゃいました」

 クラウドとティファの表情が改まる。
 そして、『『あぁ、やっぱり』』という顔になった。
 そりゃそうだろう。
 話を聞けば、プライアデスもかなり無茶苦茶やったようだが、元を正せば『義賊』を騙った輩が悪いのだから。
『盗賊』に金品を巻き上げられそうになったところを『義賊』が助け、被害者は心から感謝し、お礼として『巻き上げられそうになった金品の半分以上を差し出した』らしい。
 プライアデスがカッとなったのは、『盗賊』と『義賊』が最初からつるんでいたと直感したからだった。

「あの男達は最初から『盗賊役』と『義賊役』で分かれていました。『盗賊役』は強面の男を…、『義賊役』は優男を…。一見、パッと見たら信じてしまいそうな役割分担です」
「ライ、お前が気づいたのは何がきっかけだった?」

 クラウドの質問はティファのものとも一致していた。
 2人ともジッと青年を見つめる。
 プライアデスは真剣な眼差しでそれに応えた。

「『義賊』と名乗る男が『盗賊』を『説得』していたんです」
「説得?」
「はい」

 意外な言葉にティファの眉間にしわが寄る。
 クラウドは黙ったまま耳を傾けた。

「『この先、ずっと盗賊なんかして生きていくつもりか?折角生まれてきたんだ、俺と一緒に堂々と陽の下を歩く生き方をしろ』とかなんとか、クサイ台詞を演技たっぷりでしていましたね」

 その時のことを思い出しているのか、苦々しい表情で目を瞑り、青年は言葉を続けた。

「しかし、その演技力はたいしたものでしたよ。『盗賊役』の男もそうでした、すっかり『改心したフリ』を演じてのけていましたからね。周りで見ていた村人達は拍手喝采ですよ」
「…そんなことがあるわけ…?」
「ええ、実際に見るまでは信じられませんでしたけど、あるわけですよティファさん」
「て言うか、ライ、お前そのクサイ三文芝居をずっと見てたのか?」
「えぇ」
「なら、どうしてその間、上司に報告しなかった?」

 もっともな質問を投げかけたクラウドに、プライアデスは目を開いた。
 その瞳には苦りきったものが浮かんでいる。

「本当に、我ながら情けない話です。すっかりその演技を見入ってしまっていましてね、いくら非番だったからとは言え、上司への報告とか、そう言うものが全部吹っ飛んでたんですよ」
「…お前、今三文芝居だって言ってたじゃないか」
「えぇ、言いましたよ。見事な三文芝居でした」

 呆れた顔をするクラウドに、青年は溜め息交じりの息を吐いた。

「本当に見事すぎる三文芝居で、あんまりにもビックリしてたからついつい自分の立場を忘れてしまったんです。まったく…、WRO隊員として情けないことこの上ありません」
「…ライ君がそこまで言うなんて、よっぽどだったのね」

 ティファがある意味感心したように呟いた。
 プライアデスは残ったスコッチを口に含み、ゆっくり飲み下して吐息をついた。
 同性のクラウドでもドキッとするほどの色っぽさがあったのは何故だろう…?

「それで、その三文芝居が終盤に差し掛かった頃、『義賊』がおもむろに『被害者』へ『救済料』をそれとなく要求したわけです。その時のやり取りもね、ほんと……」

 言葉を切った青年の手がこぶしに握られ、かすかに震えている。
 よほど、口に出来ないような腹立たしいやり取りがあったに違いない。

「ライ君、良いのよ無理して話してくれなくて。それよりも…これからどうするか…よね」
 深刻そうにティファがそう言ったことによって、プライアデスの口から具体的にどういうやり取りがあったのかを聞く羽目に陥らずに済んでクラウドはホッとした。
 やはり、痛い思いをしたことを口にするのは、時として傷口を広げることにも繋がるし、何よりプライアデスの醸し出しているオーラがこれ以上怖くなって欲しくない。
 いつものホンワカした青年でいてもらいたいものだ…。

「そうだな。やはり、決定的な証拠を押さえて皆の前で明るみに出す、って言うのが上策だろう…」

 重々しくそう言うと、ティファとプライアデスは神妙に頷いた。

 今回の一件は、プライアデスの『謹慎処分』だけでは済まされない。
 これから先…、いやもう既に多くの人達が被害にあっているだろう。
 これ以上の被害者は出すわけにはいかない。

(まぁ、リーブやその下の幹部達が既に何らかの策を講じてはいるだろうが…)

 クラウドは多忙極まりない仲間を思い出し、連鎖的に昼間の醜態を思い出してモワ〜ッと情けなさが胸に広がり、やけっぱちのようにグラスを呷った。


 *


 プライアデスの謹慎処分は実に1週間にもなった。
 その間、ずっとセブンスヘブンに泊り込むわけにもいかず、プライアデスはデンゼルとマリンの『ずっと泊まって攻撃』を辛くも脱し、一旦、実家に戻っていた。
 その間、いつになくクラウドとティファはプライアデスの従兄妹に当たるノーブル兄妹とこまめなやり取りを交わしていた。
 特に、クラウドは仕事柄、地方へ出かけることが多い。
 配達先の村や町で、『義賊』に関し、胡散臭い動きがないかを逐一報告した。
 しかし、コレと言って決め手となる事件はなかった。
 そりゃそうだ、四六時中事件が起きていたら星は壊れてしまう…、などとクラウドは自分に言い聞かせながら成果の上がらないイライラをごまかしていた。
 プライアデスはと言うと、実家に戻ってから2泊ほどしてまたWROの寮に戻ったらしい。
 やはり、『謹慎処分中』なのにのんびり実家でくつろぐわけにもいかない…という生来の生真面目さからの行動のようだった。

『アイツ、本当に真面目だからなぁ。こんな機会でもなかったら姫(アイリ)とゆっくり会えないって言うのにさぁ』
「まぁ、そこがライの良い所だろう…?」
『そうなんだけどさ…もうちょっとこう、肩の力を抜いても良いのになぁ…と俺は思うんだよ、分かる?クラウドさん』

 携帯から聞こえるグリート・ノーブルの声音は呆れ返った振りをして、従兄弟を心配する気持ちで溢れていた。
 クラウドは我知らず頬を緩めながら、「そうだな」と相槌を打った。
 場所はコレルの近くになる。
 クラウドは岩盤がむき出しの荒涼とした大地を眺めながら木陰で一休みしていた。
 すぐ傍には小さな出来立ての村があった。
 主にコレルで行われている油田開発チームの家族が住んでいるのだが、少々距離があるためコレルと直接連絡を取るには携帯や電話のような通信機器に頼っている傾向にある。
 そのため、緊急時には飛空挺のような空を翔るものがなければ対処が難しい土地だった。
 そしてクラウドは、その村が見える場所に陣取って『その時』を待っていた。
 確信があったわけではない。
 いわゆる『虫の知らせ』と言う奴だ。
 この土地に配達に来た瞬間、なんとなく『ピン』ときた。
 そして、『ピン』ときた時、『義賊』と騙る『盗賊』が出没しそうな村や町が、この目の前の村だった…というわけだ。

(当たるも八卦、当たらぬも八卦…か…)

 グリートとの短い会話を切り、携帯をポケットに直して空を見上げる。
 どこまでも澄み切った青空に、モコモコとした白く雲がフワフワと気ままに浮いていた。
 触ったら素晴らしい感触が味わえそうなその雲に、クラウドは見入った。
 こんなに綺麗な空の下で、汚いことを生業としている者がいる。
 にわかには信じられない気分だ。
 だが、視線を転じて地面を見れば、そういう者が跋扈(ばっこ)していても当然だと思えるのだから不思議だった。

(同じ『星の一部』なのにな…)

 この美しい青空も、荒涼として自然の厳しさを現している大地も、涼やかな憩いの場所を提供してくれているこの木立も、人間も、皆、星の一部なのだ…と思うとなんだか厳粛な気すらする。

(ガラじゃない……か)

 フッと苦笑して、フェンリルのシートを撫でた。
 馴染み深い感触がグローブ越しに伝わってくる。

 と…。

 ピリッとした空気にハッと顔を上げた。
 何も変わったものは見えない。
 だが、確かに何かを感じた。
 遠くを見やる。
 しかし、荒涼とした大地が続いているだけで、背の低いブッシュとクラウドが今、涼んでいる木立と似たような木がまばらに生えていた。
 首をめぐらせ、村の向こうを見る。
 しかし、何もない。
 切り立った岸壁を背にしていたので、そっと崖の上を見上げてみる。

 と、そこでクラウドは目が点になった。

「な…!?」

 思わず大声を上げそうになり、慌てて口を抑える。
 対して、ビックリさせたその対象はと言うと…。

「あ、やっぱり見つかっちゃいました?」
 テヘヘ、と照れくさそうに笑い、クラウドの目の前に身軽に降り立った。
 その高さ、ゆうに4メートルはある。

「お、お、おま、おまえ…!」

 クラウドらしくない『表立った』狼狽振りに、プライアデスはにっこり爽やかに笑った。

「謹慎処分って言っても、寮に缶詰でないといけない、とかミッドガルエリアから出てはいけない、とかそういうものじゃないので、ちょっとここまで旅行に来てみました」
ウソをつけ!!

 いっそ清々しいほどの開き直りぶり。
 開いた口が塞がらない。
 確かに、今回の一件が気になって仕方ないという気持ちは分かる、痛いほどに。
 だが、こうも堂々と現れるとは信じ難い!
 と言うか…。

「お前……意外と面の皮、厚かったんだな…」
「ハハハ、知りませんでしたか?」

 もはや脱力するしかなく、ガックリ肩を落としたクラウドにプライアデスはオレンジ色のサングラスをかけなおした。
 クラウドの様子に少しだけ申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに明るいいつもの表情になる。

「それにしても、すごい光景ですね。なんだかこの世界の全てを見ているようです」

 何を言っているのやら…。
 クラウドは溜め息を吐き出して頭を振った。
 そして、飄々と立っているプライアデスを見た。
 何を考えているのやら、この青年は。
 一応、まともな人間だと思っていたのだが、時としてぶっ飛んだことを仕出かすあたり、只者ではない。
 まぁ、WROに入隊して素晴らしいスピードで准尉という地位を手にしたのだし、そもそもバルト家というとんでもない大財閥の御曹司でありながらWROに入隊する時点で『凡人』ではありえないのだろうが…。

 色々と言いたい事を抱えつつ、その1つも言えないでいるクラウドに、プライアデスは荒涼とした大地を指差した。

「ほら、この荒野は現実の厳しさ、空の美しさは命の輝き、そう思いませんか?」
「……なんとも詩人なことだな…」

 片手を腰に当て、呆れた顔を向けたクラウドにプライアデスは微笑みで返した。
 背景に荒野を背負っているというのになんとも『絵』になる青年だ…とクラウドは思った。
 サラサラと風になびく漆黒の髪。
 スラリとした肢体は華奢ですらある。
 そしてその身体は今、いつもの隊服でもなく、見慣れた品のある私服でもないものに包まれていた。

「それで、一体その格好はなんだ?」

 その格好。
 プライアデスは『帽子』を被ると腕を広げて自分の服装を見下ろした。

「変ですか?」
「いや…変と言うか…」

 クラウドは口ごもった。
 いつもプライアデスが着ている私服は、決して派手ではないが上品で一分の隙もないシックな装いが多かった。
 だが、今青年が身に付けているのは、ベルトが合計6本も装飾として取り付けられている黒いレザージャケット、右肩からは襟ぐりに添うようにして細いシルバーチェーンが垂れ下がっている。
 そして同じく黒を基調としたグレーの襟なしカットソー。
 切り替えしが左襟元から右腰にかけて入っており、アルファベッドのロゴが幾何学的な模様を描いて無秩序に描かれている。
 ベルトはシルバーバックルがかなり目立つ大振りなもので、チェーンが腰から輪になって垂れ下がっていた。
 ついでに余分な穴にはピンナップが付いているのだが、それもクロスのシルバーアクセサリーだったりする。
 黒いパンツは太ももの辺りから大きくファスナーが真横に飾りとして付いており、膝下にも左右で高さをわざと変えてファスナーの飾りが斜めに付いている。
 そして足元はというと、これまた黒い皮のブーツなのだが、三本の太い飾りのベルトが甲、足首、足首上を飾っていて、真ん中に大き目のファスナーが走っていた。
 よく見たら男性にしては細くて長い美しい指に、ゴツゴツとしたシルバーのリングが右手には親指、中指、左手には人差し指、小指にはまっている。
 皮製の黒いブレスにも、これでもか!というほどシルバーの意匠が施されており、こちらは『蔓(つる)』をモチーフとしていた。
 とどめにたった今、被った『帽子』。
 黒を基調としているが、襟に沿って真紅のリボンがひと巻き飾られている。

(なんで…パンクスタイル……)

 いや、皆まで聞くまい…。
 プライアデスは変装しているのだ。
 オレンジのサングラスの向こうでは、見慣れない赤茶色の瞳が悪戯っぽく輝いている。
 カラーコンタクトを入れたのだろう。
 プライアデスの印象は、まず瞳の色が一番強い。
 そして、次にはその容姿と振る舞いだ。
 だから、先日プライアデスが重傷を負わせた『義賊』の仲間が現れてもバレないよう変装したのだろう。
 だが…何故に…。

「お前、もう少し地味な変装を……」
「そうも思ったんですけど、一見地味な装いよりもこういう『はじけた』装いの方が、この前の一件を引き起こした隊員だって繋がりにくいかと思いまして」
 それに、1度こういう服を着てみたかったんです。

 ニコニコと全く緊張感のカケラもなくそう言う青年に、クラウドは言葉もなく頭のてっぺんから足の先までをもう1度見つめた。
 確かに…、先日のWRO隊員とは思えないだろう。
 クラウドは溜め息を吐きそうになって、ふと引っ掛かりを覚えた。

「この前の一件と言うが、今回現れるかもしれない『義賊』が同じ連中とは限らないんじゃないのか?」

 今、世間を賑わせている『義賊』は、クラウドが知っているだけでもゆうに7つは越えている。
 しかし、妙な自信を持って、青年はにっこりと笑った。

「いえ、この前の一件と同じ『義賊』です」
「なんでそう言い切れる?」

 訊ねておきながら、クラウドはプライアデスの表情を見て悟った。
 唖然としながら、
「お前……実家の力を…」
「こんな時に使ってこその『財閥力』ですよ」
「………」
 あっさりと言ってのけたプライアデスに、今度こそクラウドは言葉を失った。
 いや、確かに大財閥の力をしょうもないことに使われるくらいなら、こういった『事件解決』に使ってもらった方が良いに決まっている。
 決まっているのだが、なにか釈然としない…。

「あ、大丈夫ですよ、この服一式は貯金から買ったので、実家の力は借りてませんから」

 ちょっぴり焦りながら弁明するプライアデスに、クラウドは脱力したまま返事もなくフェンリルに軽く背を預けた。
 弁明する事柄が大きくズレている。

(いや、別に実家に服を買ってもらったって別になんともないんだが…)

 やれやれ。
 そう言いたい気分で、改めてプライアデスを見た。
 異様に似合っているのは何故だろう…?
 これで、鼻や唇にピアスをしていたら完璧だ。
 まぁ、そんなプライアデス・バルトは見たくないが…。

「それで、どうやってここに来たんだ?」

 気を取り直して改めてここまでの交通手段を問う。
 飛空挺の音はしなかったし、歩いてきたにはちょっと港から距離がありすぎる。
 車か?と思ったものの、それらしき影はない。
 もっとも、4メートル上の崖から飛び降りてきたので崖の上にあるのかもしれないが…。

「クラウドさんのフェンリルに実はちょっと憧れていまして…。謹慎処分になる前日に完成したのでそれに乗ってきました」
「バイクか!?」
 バイクのエンジン音なんか聞こえなかった。

 クラウドの驚きを間違って捉えたらしい青年は、
「あ、勿論フェンリルの方がカッコいいですし、性能も抜群で機能も飛びぬけているんですけどね。WROの給料ではあれが精一杯だったんですよ」
 などと慌てて言い訳をしている。

 いや、違うから……。と、内心突っ込んだがその僅かの間もなかった。

 プライアデスとクラウドは同時にバッ!と村を見た。
 風に乗って悲鳴と煙、何かが燃える臭いが届いたのだ。

「さすが、バルト家の情報網だな」
「ありがとうございます」

 軽口を叩きながら、真剣な面持ちのまま2人は村に駆け出した。