通信を強引に断ち切ったシドの周りでは隊員たちが息を飲んで見守っている。 その不安そうな眼差しを受けながらシドは大きくため息をつくと、顔を上げた。 意外とその顔が怒っているようには見えず、むしろ『してやったり感』を含ませたニヤリ顔だったことに隊員たちはチラッと視線を合わせたり怪訝そうに眉根を寄せた。 シドは、自分がたった今、『疑念』から『確信』に変わったことを説明しようと手を上げかけて…止めた。 突如、言い知れないおぞましさを感じたからだ。 全身にビリビリとした緊張が走る。 隊員の中にはその『おぞましい気配』に気づいている者は少ないようだが、徐々にその『恐怖』の波紋が広がりつつあった。 ある者は腰を浮かし、またある者は落ち着き無く視線を走らせながら武器を構える。 「おい…全員気をつけろ」 通信機の元から電源を落とし、シドは声をひそめた。 何故、通信機を切ったのか。 戦闘中とは言え電源は入れっぱなしにしておくのが基本だ。 有力な情報が入った際、即座にそちらへ転向しなくてはこのミッションは成功しないのだから。 しかし、その情報をもらえる唯一の手段を断ち切った。 その意図するところに気づいたものはほんの少数、しかし、隊長をはじめとして周りにいた隊員の中で察した者は顔色を変えた。 シドは鋭く眼光を光らせながらニヤッと笑った。 こめかみには汗が浮いている…。 「完全に俺たちは敵の胃袋の中らしいな」 シドの言う恐怖が具現化して姿を見せたのはその直後。 言葉に出来ないほどの戦慄が隊員たちを襲う。 暁光 5ドアの向こうにあった部屋は、とても普通の部屋だった。 木製の長いテーブル、椅子、木製の食器棚は、部屋の中をいっぺんに『暖かな』雰囲気に変えてしまった。 とても懐かしいものすら感じさせるその部屋に入ったクラウドは目を丸くした。 もっとこう、おどろおどろしいものを想像していたのだ。 例えば、人がすっぽり入っても尚、プカプカ漂えるほどの大きな人体実験用のビーカーが林立しているどこぞの屋敷の地下…とか。 「さぁ、座って〜」 「そうそう、座って座って」「お客様はこっちね」「お客様が来るなんて久しぶりだね」「本当、久しぶり」「今日は最後までいてくれるよね?」「いてくれるよ」「帰ったりしないよね?」「帰るわけ無いよ」「そうそう。帰れるわけ無いもの」「うん、じゃあご飯作ろうか」「作ろう」「作ろう」 不安を覚えるような言葉が紛れ込んでいたが、クラウドは促されるまま椅子へと腰掛けた。 「それじゃあ、私たちは準備してくるからね」 「待っててね」「そうそう、座って待ってて」「ここ、楽しいものがもう少しあったらよかったんだけど」「でも、しょうがないよね」「なにか珍しいものとかあったら待ってる間も退屈しなかったかもだけど」「大丈夫だよ、カレーなんかすぐ出来るもん」「うん、材料さえ揃ってたらね」「揃ってる?」「揃ってるんじゃない?」「逃げてなかったら揃ってるよね」「でも、ちゃんと捕まえられてるかな?」「どうだろう…」「まぁ、もしもまだだったら残りでも良いんじゃない?」「折角新鮮なお野菜が手に入るかもしれないのに?」「それまで、お兄ちゃんを待たせるのはかわいそうじゃない?」「そうだね」「じゃあ、まだだったら古いもので我慢してもらおうか」「古くても美味しいよ」「そう、美味しいよね」 まるで蜂の羽音のように兄弟たちの早口な会話がブーン…と聞こえる。 クラウドは精一杯、聞き逃さないように集中した。 しかし、聞き取れたのは半分程度だっただろうか…。 「おい、お前も行くのか?」 クラウドが声をかけたのはC−6。 少女は不思議そうに小首を傾げた。 兄弟たちもクラウドの言いたいことが分からず無表情になるとジッと凝視した。 集中する視線はまるでガラス玉のようで途端に居心地の悪さに襲われる。 「いや…、動いて大丈夫なのか?足の痛みの方は…?」 C−6は目を丸くした。 クラウドの心遣いをどう受け止めて良いのか分からないと言ったように、一瞬だけ目を揺らめかせる。 その様が、急に普通の子供と全く同じように見えてクラウドはドキリ…とした。 しかしそれもほんの刹那の瞬間。 クラウドがドキリとしている間に、C−6はニコリと笑った。 「うん、大丈夫、ありがとう」 じゃあ、行こうか、みんな。 そのまま兄弟たちを引き連れるようにしてあっという間にC−6は奥のドアの中へと消えていってしまった。 「……」 1人取り残され、途端に静寂が包み込む。 思わず大きなため息をつきかけてクラウドは気を引き締めた。 どこで何者が見ているかも分からない。 それに、うっかり気を緩めている場合ではない。 これまでのあの兄弟たちの会話から、推測し、行動しなくてはならないことが山のようにある。 まず…。 チラリ、と目を走らせ、クラウドは部屋の中をチェックした。 特に注目すべきところはないように思えた。 だが…。 隣の部屋に入った子供たちの動く気配を気にしながら、そっと腰を上げる。 近づいたのは一方の壁。 その壁にそっと手を触れる。 特に…普通のコンクリートとしか思えない。 しかし、ほのかに温かい気がしたのは気のせいだろうか? 暖房を入れているようにも感じられない。 もっとも、空気口くらいはある。そこから温かい空気が外から入ってきている、とも考えられなくも無い…多分。 微かに首を傾げながらクラウドは指先を触れたまま壁に沿って歩き出した。 割と広い部屋はやや長方形の形をしている。 天井が低かった廊下を進んで到着した部屋がこんな普通の部屋とは驚きだ。 部屋の天井もセブンスヘブンほどもある。 「……」 何故、廊下の天井はあんなに低かった? あまり気にする必要ないのかもしれないが…気になりだすとどんどん気持ちがそちらへ傾いてしまう。 クラウドはフルリ…と頭を1つ振ると、視線を上げてまた歩き出した。 小さなかわいらしいソファーはクリーム色。 そのソファーに見合ったローテーブル。その上には小さな造花が置いてあった。 エアリスが大切にしていた教会の花に似ている気がして、ちょっとどぎまぎする。 ゆっくり部屋を一周してクラウドは元の場所に戻り、考え込んだ。 そっと指先を見る。 少し白くなって埃が着いていたが、それが気になったのではない。 「……やっぱり温かい…」 指先の温もりは、壁の摩擦によるものかもしれない。 しかし、それだけではないような気がする。 断熱材などの建築が施されているのか?とも思うが、その可能性は低いだろう。 いくら、人体実験をするための巨大な施設とは言え、そのような技術をふんだんに取り入れるだろうか? 壁に触れながら一周したことで感じたのだが、どうも…『無機物』のように感じられないのだ。 そう、壁全体がこう……人肌のような温もりをたたえている。 それに、当然ながら地下にある部屋なので窓は無い。 窓は無いのだが…何故か…『空気の流れ』を『壁の向こう』から感じる。 そんなに薄い壁なのだろうか? 考えれば考えるほど、この部屋が普通から段々遠のいていく。 それに、ドアが2つしかないのも納得いかない。 いや、普通の部屋にドアが2つもあれば十分だ、と言われるかもしれないが、この部屋に関しては四方の壁一つ一つにドアがあって当然のような気がするのだ。 建物の真ん中にほぼ近い場所にある部屋…という気がして仕方ない。 確かに、子供たちには散々グルグルと入り組んだ廊下を歩かされた。 方向もわからなくなって当然だろうとも思う。 しかし、クラウドは自分の方向感覚に少し自信が有った。 この部屋は、要塞の真ん中に近い場所にあるはずだ。 そんな部屋に、ドアが2つだけ…、しかも1つは廊下に、もう1つは子供たちが食事の用意をしに行った部屋に繋がっている。 もしもこの部屋にいるとき、緊急事態に陥ったらどうやって脱出するのだろう? 天井を見上げる。 コンクリートで出来ているようにしか見えないその天井は、雨漏りがしたことがあるのだろうか?グレーの色が濃淡で模様が入っている。 もしも、隠し扉などがあるなら天井も怪しいかもしれない。 次は視線を床に落とす。 一周した時にいくつか見つけたちょっとだけ気になる箇所へ行く。 軽く踏でみたが、特に何も起こった気配は無い。 踵(かかと)でコンコン、とノックする。 響いてきたのは……空洞? 隣室を気にしながら更に気になったポイントを踏んで確認する。 結果、6箇所で空洞らしき反応が返ってきた。 テーブルの下はチェックしていないのでなんとも言えないが、こんなにも床の下が空洞になっている場所があることにクラウドは驚き、いぶかしんだ。 いったい、この下はなにがある? しかも、断続的な空洞の意味が分からない。 空洞と空洞の間にはしっかりと材木らしきものが詰まっているようで硬質な音しか返ってこなかった。 「……」 クラウドは考えながら子供たちに勧められた椅子へ腰をおろした。 もしかしたら…と、思ったのだ。 この部屋に着くまでの間、耳にした子供たちの会話から、先行部隊が要塞内で息を潜めているのでは…と。 それも、危うく掴まりかけて大変な目に遭いそうになり、ギリギリの状態で難を逃れて反撃の機会を待っているのではないか…?と。 この推測が本当ならば、WRO本部への連絡が途絶えているのも頷ける。 ならば、と腹を括り、子供たちの食事に招かれることにしたのだ。 子供たちから何かしらのヒントを聞きだし、合流しなくてはならない。 それに、出来れば…というよりも、なんとしてでも子供たちをここから救い出さなくては。 いくら、世間の常識、感情、心を知らないと言えど、それは実験体…モルモットとしてずっと生きるしかなかったこの環境のせいだ。 まともな世界で生活させてやれば…、学ばせてやれば…、チャンスを与えさえすれば絶対に更正出来るはず。 WROにまだそういったシステムがないなら、ティファやユフィやシエラさん、仲間たちにお願いして一緒のときを過ごせばまだまだ何とかなるはずだ。 そう、この子達にはまだ可能性が沢山有り、未来は無限大に広がっている。 しかし、ここにいたままだとその可能性は無残にも時の流れの中に消えゆき、子供たちは自分たちが『不幸』だと知らぬままに星に還ることになるだろう。 クラウドはそう信じていた。 だから、気づかない。 子供たちと自分をいつしか重ねて見ていることに。 神羅屋敷の地下で薬液付けにされて生かされた数年と子供たちのこの環境を見事に重ねて見ていることに。 「お待たせ〜」 戻ってきた子供たちに己の思考から意識を切り離し、顔を向ける。 自然と立ったのは、デンゼルとマリンがセブンスヘブンに帰宅した自分を出迎えてくれる時のクセだった。 戻ってきた子どもたちの手にはそれぞれお盆。 皿と水の入ったグラスが乗っている。 そのうちの一つがクラウドの前に置かれた。 「へへ〜」「座って座って」「お腹空いたでしょ?」「みんな揃っていただきますだね」 目の前に出された皿をしげしげ眺める。特に危険な香りはしないし色も一般的なカレー色だ。 (具はなんだ?) スプーンでそっとつつく。 何となく肉っぽいような感じだが、人参や芋といった野菜は…分からない。 入っているようには全く見えないのだが、いやまさか、カレーに野菜を使わないなんて場合があるだろうか?とずれたことを考えた。 「さあ、どうぞ」 足を少し引きずっていることでC―6だけは区別がつく。 満面の笑みで彼女が勧め、兄弟がそれに倣う。 遠慮せずに食べるよう勧める子供たちの声に急き立てられるようにしてスプーンで掬い上げる。 口元へ持っていったとき、微かにカレー以外の『匂い』が鼻についた。 その『匂い』の『元』が脳裏に浮かび、手が止まった。 ありえないだろう、と浮かんだ可能性を即座に否定するが、あまりにも浮かんだことが気持ち悪すぎて手を下ろす。 「…どうしたの?」 C−6が不思議そうに首を傾げた。 無論、兄弟たちも同じだ、不思議そうにクラウドの動向を見守っている。 「……いや」 一体、なんの匂いだ?と子供たちに訊ねようとしたが、折角準備してもらっておいてあまりにもそれは失礼かと考え直す。 気を取り直して口に運ぼうとするが、どうしても気持ちが引けてしまっている。 暫しの葛藤。 ふと気づく。 「みんなは食べないのか?」 全員、手が膝の上に乗っている。 当然、スプーンを持っていない。 堅苦しいくらいにきちんと座り、クラウドを見つめている。 「お兄ちゃんが食べたら食べるよ」「うん、そうそう」「僕たち、お腹空いてるから早く食べて?」「お客さまが食べないと食べられないもん」 口々にそういう子供たちにクラウドは困った顔をした。 「そんなに見られていたら食べにくい」 子供たちが「ああ、なるほど」と納得顔を見せた。 「そうだよね」「じっと見てたら食べにくいよね」「でも、ちゃんと食べられるのか見てないと分かんないよね」「大丈夫だとは思うんだけど」「そうだよね」「でも…どうかなぁ」「うん、味見したC−12がお腹痛いって倒れちゃったもんね」「倒れたね」「でも、お兄ちゃんなら大丈夫じゃない?」「そうだよね、C−12より強そうだし」 子供たちの囁き声の最後の言葉がクラウドの耳に突き刺さった。 バクリ、と心臓が跳ねる。 「倒れた?」 思わず立ち上がったクラウドの動揺を子供たちはどう受け止めたのか…。 パッとおしゃべりを止めると口を真一文字に結び、クラウドを見る。 クラウドは混乱した。 人数を数える。 1、2、3……11、12。 ちゃんといる。 倒れたというC−12だが、ちゃんとこの場に座っている。 勿論、どれがC−12なのかは分からない。 男女の見分けも髪が長いか短いかで区別しているくらいなのだから。 だが、ここにちゃんと12人いるということは、その問題の少女か少年はこの場にいるということだ。 なら、ちょっとお腹が痛くなってしまったけれど、倒れたという大げさなことはなく少し休んだら落ち着いた…ということだろうか? だが、少しそうじゃない気もする…。 子供たちの中でどれがC−12なのか、見分けがつかないので今も具合が悪いのか分からないがクラウドは腰を上げた。 「どの子の具合が悪いんだ?」 1人1人の顔を見つめながら全員に聞く。 しかし、先ほどまで口々にしゃべっていたとは思えないほど子供たちは黙り込んでしまって答えない。 「…どうした…?」 不穏、としか言いようの無い空気が流れる。 一気に室内の温度も下がったように感じられるのは気のせいか? …いや、気のせいじゃない。 吐く息が白い。 「なんで?」 C−6が呟いた。 顔を向けるとC−6は険しいくらいの顔で真っ直ぐ見つめているその様に、クラウドは眉根を寄せる。 「クラウドさんには関係ないじゃない」 その一言に目を見開き驚いたがそれは一瞬で軽い苛立ちに変わった。 「関係ないかもしれないが、そう言う問題じゃないだろう」 「じゃあどういう問題?」 「どういうって…」 目を逸らさずに問い詰める少女を前にして、クラウドは眩暈を覚えて知らず前髪を軽く掴んだ。 たとえ、赤の他人でもすぐ傍で大変なことが起きていたら助けたいと思うのが普通だ。 それがましてやまだ小さい子供が倒れたかもしれないとなると、放って置けるはずがない。 しかし、それをどう伝えたら良いのだろう? C−6だけではなくこの場にいる子供たちの誰1人としてクラウドのもどかしさ、苛立ちを理解出来ていない。 全員が奇妙なものを見るかのような視線を投げてきている。 そういう世界で生きていたこの子達を放っておけないからこそ、ここまでクラウドは着いてきたのだ。 それをこの子達に伝えたい。 しかし…その方法が分からない。 ただ単に言葉を紡げばそれで良いのか? しかし、そんな余裕があるだろうか。本当に倒れたというのなら早く手当てをしないとまずいのでは? クラウドは眉間にしわを刻みながらゆっくりとテーブルから離れた。 同時に子供たちも席を立つ。 どの子もクラウドを臆することなく凝視している。 異様にしか見えないその光景は、不気味に思えて仕方ないが、その考えをクラウドは必死に打ち消す。 この子達はあくまで悪魔の実験の被害者なのだ、絶対に普通の子供のように幸せになる権利を持っているのだ、誰がなんと言おうとも。 だから、何を考えているのか分からなくてもこの子達を見捨てるような真似はしてはいけない。 しかし、苦しいほどの葛藤に苛まれるクラウドはもう1つの変化を感じ取った。 靴の底から振動が伝わってくる。 この急激な室内の変化は、まるで子供たちの感情を現すかのように感じられてしまうのは、自身の根拠の無い妄想かもしれないと思いつつ、抑えようも無いほど緊張感が一気に高まった。 Cー6以外の子供たちの目が突如、真っ赤に変化した。 それはさながらバンパイアの映画のように、急激な変化だった。 獲物を前にして正体を現した空想上のバケモノ、まさにそれを髣髴とさせる激変。 クラウドは咄嗟に腰の剣帯から武器を抜き放とうとして…手を止めた。 正体はどうあれ、相手はデンゼルやマリンと同年代の子供だ。 傷つけることは絶対にしたくない。 それに、この異常状態は子供たちのせいではなく、忌々しい神羅の実験のせいであって、憎むべきものは神羅だ。 それを間違えたくない。 その一瞬の躊躇いが、クラウドの行動を遅らせた。 「え…?」 突然、床が抜けた。 ハッと思う間もなくクラウドの身体が宙に浮く。 バクリ、と心臓が縮み上がり、クラウドの本能が戦闘モードに切り替わる。 反射的に身体を捻る。 視界の端では、無機質な表情をした子供たちの顔が見えた気がしたが、身体はそんなことでは動きを止めない。 かろうじて間に合った遠ざかる床に手をかけ、自身の身体を引き上げると宙返りの要領で片腕の腕力のみで思い切り飛ぶ。 着地したのは食器棚の上。 だから良く見えた。 無表情に事の成り行きを見守っていた子供たちも、クラウドを飲み込もうとした床の穴の中も。 穴の内壁は真っ黒なのに赤く光っているものがあった。 それがなんであるのか瞬時に理解したクラウドの全身が総毛立つ。 この部屋に来るまでの間、廊下で見たあの赤いランプ。 子供たちが言っていたあの”私たちがまともなご飯を食べたかどうかの『目印』”と言っていたランプだ。 それが廊下で見たときよりもギラギラと光っている。 まるで獲物を狙うモンスターそのものの危険色。 そのゾッとする光景が深淵となって広がっている。 しかし、それはほどなくしてクラウドの目には見えなくなった。 床が微かなうねりと共に元の姿に戻ったからだ。 「なんで邪魔するの、C−6」 不愉快そうな声が上がる。 ハッと顔を向けると、1人の少女を子供たちがジッと見つめていた。 少女は他の兄弟とは違い、その瞳の色を変化させてはいなかった。 皆の集中する視線を前に微かに震えているようでもあるが、それでも兄弟たちを真正面から見つめている。 クラウドはこの異様な雰囲気を前にして混乱しているため、食器棚の上から子供たちを見つめるばかりだ。 「だって、まだ早いと思うの」 「どうして?」「このお兄ちゃん、もうきっとこれ、食べてくれないよ?」「そうよ。そしたらまた、あの人たちみたいに逃げられちゃうよ?」「僕たち、もうそろそろまともに食べないと動けなくなっちゃうよ」「そうなったらどうするの?」「動けないとつまらないじゃない」「また暫くお休みしないといけないなんて、そんなのつまらないじゃない」「私たちにとってこれはお腹はいっぱいになっても満足出来ないものなんだよ」「C−6だってそうでしょ?」「それなのにどうしたの?」「どうしたの?」 矢継ぎ早に子供たちが少女へ言葉を投げる。 しかし、それはどこまでも感情の欠落した機械の音声のようにしかクラウドには聞こえなかった。 「あぁ、そっか」 ふいに兄弟の1人が言った。 途端、他の兄弟たちも口を閉ざす。 それは、それまでも十分異様過ぎる子供たちのあり方だったのに、上から見ていたクラウドにはその光景がより良く見えた。 1人の考え、1人の感情がある意味『抜きん出た』とき、子供たち全員にそれが感染していくのだ。 だから、1人が『分かった』瞬間、他の兄弟たちもその考えを『理解』する。 普通なら考えられないような事象を、クラウドは直感として感じ取った。 そして、それを間違いだ、と否定することはもうしなかった。 この要塞に到着してからずっと、クラウドは己の直感を何度も否定した。 否定しながらも、結局はその直感に逆戻りしていることにまだ気づいていないが、それでもクラウドは今考えた『1人の突出した考え、感情が全員のそれを左右する』という現象を当たりとして理解した。 理解すると同時に飛び降りたクラウドの耳に、 「もうC−6は交代しないとダメなんだね」 ゾッとする子供の言葉が聞こえた。 |