なんでもない事がとても幸せだと感じる時が人生において必ずある。 その『なんでもない事がとても幸せ』だと気づくのはどのような瞬間だろう? 苦しい時? 悲しい時? 腹が立って仕方ない時? 辛くて、悔しくて、全てを呪ってしまう……そんな逆境の時? それとも、俗によく言う『失ってから』ようやく気づくのだろうか? でも…。 ふとした時に『自分はとても幸せ』だと気づくことも出来る。 それが、人間の素晴らしいところだ。 Hand to Handティファは傍らに立つクラウドを見上げた。 金糸の髪をツンツンとあっちこっちに遊ばせている青年は、二人よりも少し先を跳ねるようにして歩く子供達に紺碧の瞳を向けていた。 口元には、浮かんでいるのかいないのか、『微妙な微笑み』。 仲間達やセブンスヘブンの常連客達も、彼の事を『何を考えているか良く分からない人間』だと評している。 ティファもその意見には賛成だった。 だが…それだけじゃない…と彼女は思っている。 確かに何を考えているのか分かりにくいクラウド・ストライフだが、彼はもう二度と、決して自分達『家族』を見捨てたりしない。 それだけは確信出来る。 たったその一つだけがはっきりしていれば良い。 いや。 本当は良くないのだが、人間あまり欲張るものではない…と、ティファは自分自身に言い聞かせている。 彼がこうして傍らに立ってくれている。 それだけで充分ではないか。 彼の眼差しが温かな色を浮かべている。 それだけで充分ではないか。 そして何より…。 「クラウドの手、おっきいね…」 「え…?あ……」 小さく呟いたその声に、子供達へ向けられていたアイスブルーの瞳がティファを映した。 ハッ!としたように慌てて手を離そうとする。 ティファは離そうとしたクラウドの手をキュッと握り返して離れるのを拒んだ。 ほんのりと顔を赤らめ、目を軽く見開くクラウドに笑みがこぼれる。 もうそろそろ日の暮れるのが早くなるこの季節。 寒さを感じさせる風に、クラウドが気を使って手を握ってくれたのかと思っていたが、実は無意識だったのだ、とティファは察した。 赤くなったクラウドに釣られるようにして、ティファもほんのりと頬を染めた。 夕焼けの色とは違う赤い色が、彼女を一際(ひときわ)美しくする。 クラウドはフイ…と、視線を逸らすと、 「……悪かった…無意識だった…」 ティファは堪えきれずに噴き出した。 わざわざ言わなくても良いだろうに。 クスクスッ…と肩を震わせるティファに、クラウドは少しムッとしたような…拗ねたような…、自棄になったような顔をして、繋いでいる手に力を込めた。 「ふふ、ごめんね、クラウド?」 「……いや…別に…」 謝られる意味がないだろう…? ボソボソと尻すぼみになった言葉に、ティファはまた、笑いを誘われた。 無意識に手を握ってくれていたクラウドが愛しい。 そして、クラウドも思っていた。 『手をつなぐ』と言う自分からすると信じられないような大胆な行動は、ティファだからこそ、無意識に…、自然に出来たのだ…と。 自分の手の大きさを指摘されて、自分よりも小さな温もりをいつの間にか包み込んでいたことに正直慌ててしまった。 取り乱す……というところまでは流石にいかないが、少なくとも内心は動揺していた。 慌てて手を離そうとしたのに…。 彼女の柔らかな手が、離すまい、と握ってくれたのが…とても嬉しかった。 嬉しかったのだが、それ以上に恥ずかしくて…。 茶色の瞳をキラキラと輝かせ、ほんのり頬を赤らめている彼女に照れ臭くて、ついつい視線を逸らしてしまった。 そのことでまた笑われて…。 心にポッ…と明かりが灯る。 まさか、自分がこんなにも幸せを感じられるとは、誰が予想出来た? 小さい頃。 まだ友達が一人もいない頃。 誰かが笑っているのがとても癪に触っていた時期があった。 一体、あの人達はなにが可笑しくて笑っているのか…。 なんてつまらない土地。 なんてつまらない人間。 この村にあるのは、痩せた大地と、大自然の恐怖を具現化したようなニブル山。 その山から吹く風が強くて、寒く…。 ろくな村じゃない。 それなのに、村の人達は何かしら言いあって笑っている。 母は、自分と言う可愛げのない子供がいるせいか、あの笑っている人達の中に入って笑っていることはあまりなかった。 なかったのだが…。 それでも母もやはり良く笑う人だった。 ―『アンタは本当は良い子なのにねぇ』― 苦笑しながらそう言うのがクセだった母。 とうとう、最後まで一緒に笑うことは出来なかった母。 その事を思い出すと、胸が痛い。 同時に、胸を張らなくては、とも思う。 それは、ライフストリームに先に帰った同郷の皆にも、母にも見てもらうため。 今、手にしている幸せを堂々と、胸を張って見てもらうため。 「クラウドー!」 「ティファー!」 少し前を踊るように歩いていた子供達が振り返り、早く早く、と全身を使ってジェスチャーをする。 「は〜い!」 おどけたようにティファが答える。 手は繋いだままだ。 子供達がちょっぴり顔を見合わせたように見えたのだが、それも一瞬。 「じゃあ、『クラウドとティファはそのまま』で私達と駆けっこしようよ!」 「勝ったら、今日のおかずは俺とマリンの好物!」 「クラウドとティファが手を繋いだまま走って勝ったら、今夜のご飯はクラウドとティファの好きなもので良いよ」 突然の『夕飯を賭けた勝負』を挑まれ、二人はビックリして思わず呆けてしまった。 そんな親代わり二人を尻目に、 「じゃあ」 「ヨーイ・ドン!!」 デンゼルとマリンは一斉に走り出した。 子供達の全力疾走。 クラウドとティファは、ようやく二人が粋な計らいをしてくれたのだと悟った。 何しろ、二人は夕飯の買出しに出ており、市場の真っ只中。 子供達がそう言ってくれたことで、二人は堂々と(?)手を繋いで走らなくてはならない。 いわば、牽制の意味でも。 勿論、それはクラウドの場合にも然り。 クラウドは知らない(気づかない)が、彼目当ての女性客が最近増えている。 客が増えるのは喜ばしいことなのだが、ティファの心情は…複雑。 だからと言って、彼に『客の前でティファを特別扱いして!』と、子供達はお願い出来なかった。 なぜかって? その理由は二つ。 一つ目はクラウドが照れ屋で、絶対に無理だから。 二つ目はティファも同じくらい照れ屋だから。 二人揃って照れ屋同士。 似たもの同士の夫婦未満。 だから、こうして仲良く一緒にかけっこして、子供達を愛している、と証明して欲しかった。 手を繋いだまま走る、という恥ずかしいことも、子供達を愛しているから出来る…ということを周りに見せ付けたかったから。 何より。 照れ屋の二人が、こういう『断れない状況』とは言え、照れ臭そうに微笑みあって、ほんのりと頬を染めながらお互いの歩調に合わせて走る姿を、この場にいる全員に子供達は見せつけたかった。 作戦は見事大成功。 市場にいた沢山の『英雄の追っかけ』は、心底悔しそうな顔をしたり、中には『視線で殺す』ほどの怒りで真っ赤になっていたり…。 またある者は、改めて見せ付けられた仲睦まじいクラウドとティファの姿に友人との談笑が一気にお通夜ムードになったり…。 それなりに満足出来る結果をもたらした。 * 「そ、それにしても…」 「……なんだ?」 走っているので、息を弾ませながら話すティファに、クラウドも若干息を弾ませながら答える。 「走ってるだけなのに、結構難しいのね、こうして手を繋いだままなだけだって言うのに…」 「本当に…。俺も初めて知った」 軽く肩を竦めるクラウドに、ティファはニッコリ笑うと、 「そうなの?じゃあ、私と一緒ね」 「は!?そうなのか!?」 「ん?なんで?」 「いや、だって子供の頃に手を繋いで友達と遊んでたんだろ?」 「え?やだ〜、そんなことしないわよ。だって、全員男の子だったもん」 「そうなのか!?」 クラウドはティファの言葉に驚いた。 村一番の人気者だったティファ。 そのティファが、手を繋いでかけっこをしたことがないとは! 「もう…やぁね、クラウドったら、いくら小さくてもやっぱり男の子と女の子だもん、意識しちゃうし…それに……」 「…ん?」 「その…」 「…うん、なんだ?」 急に俯き加減になり、ボソボソと言い始めたティファに、クラウドはキョトンとした表情をする。 走っているので、歩くペースでの呼吸法ではなく、ティファもクラウドも、自分の息遣いが耳の奧から響いてきていて、ティファのボソボソ声が聞き取りにくい。 思わずティファの方へ走りながら顔を寄せる。 と。 丁度ティファの側面から自転車が飛び出してきた。 クラウドも同時に自転車に気づく。 慌ててティファは身を捩って避けようとしたが…。 キキーーッ! ゴロゴロゴロゴロ。 実に素晴らしい受身の体制で、クラウドは自分の胸の中にティファをスッポリと包んで地面に転がった。 幸い、自転車の少年も大丈夫だったらしい。 慌てて自転車に乗って逃げる背中に、 「こらー!!謝れーー!!」 「こんの馬鹿者がー!!」 「母ちゃんに言いつけるぞーー!!」 市場で店を開いている人達が一斉に抗議の嵐を叩きつけた。 どうやら、少年の母親を知っているらしい。 怒っている中にも、少年やその母親を温かく見守っている雰囲気が漂っていた。 そのひと騒動に、先を走っていたデンゼルとマリンも気がついて慌てて駆け戻る。 と…。 「…マリン」 「…うん、デンゼル」 ニッコリと笑って、そのままクルリと背を向けた。 再び走り出しながら、軽く振り返る。 「クラウドー!俺達先に帰るからなー!」 「ティファー!今日の夕飯は『豆乳鍋』ね〜!」 笑い声を交えて親代わり二人に声をかける。 しかし、聞えていたのかどうか…。 ティファはクラウドを。 クラウドはティファを。 至近距離で見つめて硬直していた。 あまりにも突然過ぎて。 あまりにも普段ではないことが起きてしまって。 だって。 二人は『ジェノバ戦役の英雄』。 クラウドがティファを、そしてティファがクラウドを『庇う』必要など、日常の生活の中では必要がない。 精神的なものは別として、先ほどの『自転車との衝突事故』など、ティファを守る必要は、どこにもなかったのだ。 それなのに、クラウドはティファをしっかりと抱いて庇った。 ティファは、改めてクラウドに胸をときめかせて紺碧の瞳から目が逸らせない。 だって…。 こんな風に『女性扱い』してもらえるなんて! クラウドもまた、改めてティファに心臓が早鐘を打つのを抑えられなかった。 だって…。 改めて彼女の体の細さ…、しなやかさ、なにより、こうしてしっかりと抱きしめて、守ることが出来たのだから。 守る必要は全くいらなかったけど…。 だが、そんなことは問題じゃない。 彼女をいつでも守るのは自分でありたい、と密かに願っているクラウドにとって、こんな小さなことでも嬉しくて…幸せで…。 現実のものとしてジワジワと胸に温かいものが広がっていく。 だから、クラウドもティファから目を逸らせない。 今は…。 あともうほんの少しだけで良いから、彼女だけを見ていたい…。 と、二人が同時にそのようなロマンティックなことを思っていた矢先。 「お〜お〜、熱いねぇ」 「あ〜…俺の生きがいが…」 「ク、クラウド様が、人前であんな風に見つめあうだなんて!!」 「ピューッ!いいぞ、そのまま『チュー』だー!! 色々な人々の声によってワッとその場が湧き立った。 はやしたてるものの声。 横恋慕していた者達の悲鳴。 二人を煽る無責任な野次馬。 クラウドとティファは、その人々の声にビクッと身をすくめると、自分達の置かれている状況に真っ赤になった。 クラウドだけは、夕焼けの色に紛れて分からなかったけれど…。 そのせいで、後日、『公衆の面前での熱い瞳事件』を客達が面白おかしく語る中で、クラウドは、 『やっぱりなに考えているか分からなかったなぁ…。普通なら滅茶苦茶恥ずかしいだろうに、無表情のままティファちゃんの手を引っ張って、あっという間にいなくなったから、それなりに照れてはいるんだろうけど、表情が変わらないからよく分からん…』 と、語られるようになっていた。 そうなるのは遠くない将来。 ティファがセブンスヘブンの二連休を終えた時。 クラウドが真っ赤な顔をしたティファに報告を受けたのは、その日の深夜。 だから、今、人々の前から脱兎の如く逃げ出したクラウドとティファはまだ知らない。 必死になって、公衆の面前で恥ずかしい姿を晒してしまった現場から逃走を計る。 その必死になって走っている間も…。 二人の手は、自然につながれていた。 それも、先ほどよりももっとギュッと力を入れて。 そして、走ったまま時折視線を絡ませ微笑を交わす。 ただ、手を繋いだだけ。 ただ、手を繋いで走っただけ。 ただ、手を繋いで走ったその相手が…。 お互いを好いてくれている。 愛してくれている。 そのお互いの気持ちがあるからこそ、『ただ手を繋いで』いることが特別な幸福に変わる。 更には。 二人共、口外しないがお互いが『初恋の人』なのだ。 そういう関係になれた今、お互いがお互いの初恋の人と手を繋いで走っている。 クラウドとティファにとっては、貴重な至福のひと時 クラウドは毎日仕事で忙しい。 ティファや子供達と過ごせる時間は短い。 だから、クラウドにとって、家族と過ごす時間はとても貴重。 そして、家族にとってもクラウドと共に過ごす時間はとても大切。 久しぶりに街に出た。 久しぶりに家族で街に出た。 その時、神様がちょっぴり下さった幸せな時間。 照れ屋で奥手な二人が自然と手を繋いだその時。 至福が二人を優しく包み込んだ。 「デンゼルとマリンの奴…」 「ん?」 軽く息を弾ませながらクラウドが口を開く。 ティファは、走っていることと、照れ臭さがまだ残っていることから頬が紅潮している。 クラウドは苦笑した。 「自分達が勝ったら、夕飯は好きな物…って言ってたくせに、『豆乳鍋』が良いって言ってただろ?」 「あ……ふふ…本当におませさんな子供達なんだから…」 豆乳鍋は、実はクラウドとティファが最近ハマっている食事。 豆乳でお鍋!? 最初はビックリしたが、これが意外と美味い。 健康にも良いしということで、ティファは特に気に入っていた。 それを今日の夕飯に指定するとは。 子供達のいたずらっぽい笑顔が浮かぶ。 二人揃って、クスッと笑みを洩らして、顔を見合わせてまた笑って。 ただ、手を繋いだだけ。 それだけで幸せなのは…。 アナタを愛しているから。 だから。 これからも、アナタの手を繋ぐ人が、自分でありますように、心から祈りつつ…。 あとがき はい、皆様、砂吐いて下さい、思い切り!(笑) たまにはこういうラブラブ初々しいバカップルが書きたくなるんです〜!! はう…本当にマナフィッシュったら病気なんだから〜アハハ〜♪(← 頭に花が咲いています) これからもこんな砂吐いてしまうような二人が増えるかもしれませんが、よろしくどうぞ、お付き合いくださいませ<(_ _)> |