ハプニング!2フェンリルをいつものように店の奥にある倉庫へ戻したクラウドに、小さな影が2つ、思いっきり抱きついてきた。 「「クラウド!!」」 「な、何だ!?デンゼル!?マリン!?」 悲鳴のような声で自分に抱きついてきた子供達を危うく受け止めながら、クラウドは只ならぬ二人の様子に、ザワッと気が騒いだ。 ― 何かあったのか!? ― クラウドが二人に問うよりも早く、マリンが目に涙を一杯溜めながら 「そうだ!!クラウドの大バカ野郎!!」 「ちょ、ちょっと待て。何で二人共怒ってるんだ?」 ― 何か約束でもしていただろうか ― 帰宅したばかりなのに、ここまで二人が必死になって自分をなじるのは、尋常ではない。 何か大切な約束をしていて、すっぽかした可能性を必死になって考えてみる…が、思いつかない。 わけが分からずうろたえるクラウドを、二人はそれぞれ手を取り、力いっぱい引っ張って店へと連れて行った。 半分足をもつれさせながら店へと戻ったクラウドが最初に見たものは、子供達二人に負けないほど顔を赤くし、瞳を潤ませて立ち竦んでいる愛しい人と…。 「クラウド様、お待ちしておりましたわ!」 「あ、あんたは!?」 派手な化粧に高級な服、高級バッグにきつい香水…。 「何でここにいる!?」 クラウドは、予想だにしなかった人物が目の前で満面の笑みを浮かべて立っている事に、軽い眩暈を感じた。 子供達は涙を浮かべて自分を睨むように見上げ、ティファは視線すら合わそうとしない。 その光景で、一瞬にして子供達と愛しい人がどんな目に合わされたかを悟る。
…軽く感じた眩暈はあっという間に、銀河の彼方へと飛び去った…
「クラウド様!『幼馴染』の方と『血の繋がりのない子供達』とはお話が済んでいますわ!さぁ、これで心置きなく…」私と一緒に生涯を共にいたしましょう、と言うつもりだったイザベラは、クラウドから立ち上る怒りのオーラに言葉をなくした。 「あ、あの…クラウド様…?」 恐る恐る声を掛けるイザベラに、クラウドは身も心も凍るような眼差しを突き刺すと、そんな自分を驚いたような目で見つめている子供達にやわらかく微笑み、それぞれの額にキスをした。クラウドからのキスは滅多にない為、ますます二人は目を丸くする。そして、そんな彼の行動を視線の端で捉えていたティファも、驚いて真正面からクラウドを見つめてしまった。 クラウドは、自分を見てくれたティファにそっと手を伸ばし、少し震えているその頬に手を添えると、優しく『ただいま』のキスをした。 「「「「!?」」」」」 人前でキスをする事など皆無に等しいクラウドの行動に、ティファはもちろんの事、子供達までが驚きのあまり顔を真っ赤にさせ、そんな光景を目の当たりにさせられたイザベラは、赤くなるのを通り越して青くなった。 「ただいま、ティファ、デンゼル、マリン」 優しい声でただいまの挨拶をするクラウドに、3人はただただ呆然とするばかり。 クラウドは、そんな3人を背中に庇うようにしてイザベラに真正面から対峙した。 「あんた、一体俺の家族に何言った?」 先程の優しい声とはうって変わって、底冷えするような冷たい声に、イザベラは震え上がった。 「な、何を言った、と申されましても…」 「まさか、とは思うが『求婚』の話じゃないだろうな?あれはきっちりと、何度も説明して断ったはずだ。それに、さっきあんた『幼馴染』とか『血の繋がらない子供達』とか表現してたけど、あれをそのまま自分の都合の良い様に話作って、ティファ達に聞かせたんじゃないだろうな…?」 「え、と…、作り話なんか…、していませんわ…」 しどろもどろになるイザベラを無視し、クラウドはティファを見たが、多大な苦痛を味わったであろう今のティファでは、話を聞ける状態でないと判断し、子供達に目をやる。 「それで、彼女は一体何を話しに来たんだ?」 デンゼルとマリンは、クラウドの優しい眼差しと、落ち着きのある声にたちまち力を得ると、我先に!との勢いでイザベラがやって来てから話しの内容までを捲くし立てるように訴えた。
一通り話を聞き終える頃、クラウドの眼には猛獣差ながらの危険な光が宿っていた。
「…あんたには2つの選択肢がある…」 怒りを抑えている為にやや震える声で、クラウドがイザベラに宣告した。 「このまま黙って出て行き、二度と俺の家族に近づいたり、誹謗・中傷した作り話をルーン家の力を使って流さず、おとなしく自分に見合った伴侶を得て『そこそこ』幸せに生きるか…、もう一つは…」 言葉を切ってズイっと彼女に近づく。 「二度と人を傷つける事が出来なくなるよう、このままここで…」と、腰に挿したままのソードホルダーから、柄を握ってみせる。
― 嵐はやってきたと同じようにあっという間に去っていった… ―
「だから、あの彼女が言った『幼馴染』と『血の繋がらない子供達』と言うのは、俺が彼女に話した『内容の一部分』だ」 セブンスヘブンの扉には臨時休業の札がかかっている。とてもじゃないが、今日は営業するなど無理だ。 そして、その店内でクラウドは、ありあわせで作ったの夕食を囲み、イザベラとの出会いから説明をしていた。 「確かに、出会いは間違えていないな。俺の配達先がルーン家だったから。それで、配達に行ってみたらモンスターに見事なまでに囲まれてて助けたのも事実だ。」逆に、ボディーガードがいてあれだけ囲まれるのは珍しい、と溜め息をつく。 「じゃあ、ティファの事『幼馴染』って説明したのは!?」 マリンが非難めいた口調で聞いた。ティファは、イザベラが帰った後も、まだショックが抜けきれないのか、落ち着きなく膝に置いた自分の手を見たり、ちらちらクラウドに視線を向けたりしているだけで、決して自分から問いただそうとはしなかった。それだけ、『幼馴染』発言に傷ついたのだ。 クラウドは、思い切り不快気に溜め息をつくと、 「あれは、彼女が唐突に『ルーン家の婿養子に来て下さい』なんて言うから、『俺には、≪元は幼馴染≫で今はとても大切に想っている女性(ひと)と、≪血は繋がらない≫けど、≪血よりも強い絆で結ばれた≫子供達と一緒に生活してるから、婿養子になんてとてもじゃないけどなれない』って、そう言ったんだ」 クラウドの説明を聞いて、デンゼルとマリンはパーッと顔を輝かせ、満面の笑みを咲かせた。 そして、ティファは…。 「ティ、ティファ!?」 「え、え?どうしたの?」 クラウドの言葉に、ティファは言葉もなく静かに涙をこぼしていた。 「ティファ…」 優しくクラウドが声を掛ける。 ティファはそれを合図にしたかのように、嗚咽を漏らして泣き始めた。 「ご、ごめんなさい」 「ティファが謝る事なんか一つもないじゃないか。それに、謝るなら俺の方だ。大した事じゃないと思って話さなかったんだから」 肩を震わせて涙を流すティファに、クラウドはそっと抱き寄せると優しく髪を撫でてそう言った。 デンゼルとマリンはにっこりと微笑み合い、クラウドに目配せすると、そっと自分達の部屋へと上がっていった。 クラウドは、その後姿をやや苦笑めいた表情で見送ると、自分の胸の中でいまだに体を小刻みに震わせて静かに泣いている愛しい人の耳元でそっと声をかけた。 「俺は、嬉しかったな」 クラウドの思わぬ言葉に、ティファは涙にぬれた瞳を上げた。 そんなティファにクラウドは悪戯っぽく笑うと、そっと涙に濡れた頬を唇で拭い、再度優しく抱きしめた。 「さっき、デンゼルとマリンが話してくれただろ。『ティファにとって俺は大切な人だから、譲るつもりはない。ティファに彼女の事を俺が話さなかったのは、俺が大した事じゃないと思ったからだ。俺がティファと別れて彼女と共に生きるとは考えられない』、とか色々彼女に言ってくれたってさ」 カーッと頬が熱くなるのを抑える事など出来るはずもなく、ティファは恥ずかしさのあまり涙を流す事も忘れ、ただクラウドの胸の中でじっとしているより他なかった。 クラウドは、心底嬉しそうに小さく笑い声を漏らすと、 「本当に、ティファは俺の気持ちが良く分かってくれてるんだなって、凄く嬉しかった」 ありがとう、と耳元で囁かれた言葉は、ティファの傷ついた心を癒すには十分だった。 ティファは赤く染まった顔を上げると、クラウドにしか見せない極上の微笑を浮かべ、そっとクラウドの首に腕を巻きつけた。 「私も嬉しかった。あんなに怒ったクラウド…、本当に久しぶりに見たもん。ちょっと、怖かったくらい」 でも、それだけ怒ってくれて、本当に嬉しかった…、そう呟く愛しい人を少し強く抱きしめると、クラウドはひょい、とティファを抱き上げ、驚くティファに微笑を見せるとそのまま寝室へと階段を上っていった。 今日は災難な一日だったが、災難があったからこそ確かめる事の出来た強い絆に、セブンスヘブンの4人の住人はそれぞれ幸福のうちに眠りについた。また明日からも、明るく生きる事が出来るだろう…。
あとがき 本当は、2部作品になる予定ではなかったのですが、何故かズルズルと話が長くなってしまったので |