「はい、二人共お待たせ!特製『スタミナスペシャル』よ」 デデーン!と現れた特上のその料理に、シュリとプライアデスの周りでどよめきが起こった。 人の歴史の大きな遺産(後編)「うわ〜…凄いですねぇ」 「……本当に」 そのボリュームを目の前にした青年達が感嘆の溜め息を漏らす。 紫紺の瞳は丸くなり、漆黒の瞳はやや『点』になるほどの料理。 だが、当の青年達二人の表情は、周りの客達と比べると控えめすぎるほどだった。 いや、周りの客達が驚きすぎなのかもしれない。 フランベされた牛肉は、特製デミグラスソースがたっぷりとかけられ、見ているだけで夢見心地な味が口に広がるかのよう…。 その周りに添えられているジャガイモとアスパラ、人参のグラッセなども実に色が映えて食欲をそそる。 満腹で「もう食べられない!」という人でも、この素晴らしい料理を見せられたら、ついつい「一口くらいなら…」と言うこと、間違いない。 それほどまでに食欲をそそるボリュームたっぷりなこの『スタミナスペシャル』などというメニューは、セブンスヘブンのメニューにはどこにもない。 ティファが、この二人だけの為に急遽、作り上げたものだと一発で分かる。 常連客達の闘争心がメラメラと燃え上がるには充分だった。 だが、誰一人として突っ込まない。 ヤキモチを焼いている、とか、ひがんでいる、などと受け取られるなど言語道断! 男の恥だ!! 男の意地と面子のために、彼らはグッと喉元まで出掛かっていた『嫌味』を堪えた。 が!! 「ティファちゃん、僕、暫くこの店に通ってるけど、初めてだね、その『スタミナスペシャル』なんて」 空気の読めない男が一人。 言わずもがな、立派な腹をしたポエム青年。 青年の言葉にドキッとした客は一人や二人じゃない。 何となく気まずそうにティファの顔を見て、そっと視線を逸らしたのは、『自分はそんなこと思って無いから!』という虚勢のためだろうか…。 そんな小さな出来事が店内で起こったなどとは、当然女店主は気づかなかったし、シュリとプライアデスも後ろに目があるわけでもないし、更にはティファに対して嫌味を言ってのけたデプッとした青年に意識が奪われていたため、全く気づかなかった。 まぁ、気づいたからといって、何があるわけでもないのだが…。 「あ、ごめんなさい。今考えた新作です」 咄嗟についたウソ。 WROに所属する二人の親友へ向けていた満面の笑みが、シュルシュルシュル…と、あっという間に困ったような顔へ変わる。 ティファは咄嗟に返事を返すことが出来なかった。 勿論、客から『希望』があればそれを作って出すのが店のルール。 しかし、この『スタミナスペシャル』は、なんというか…一般の人向けでは無い。 日々、ハードな仕事をしている人にこそ食べてもらいたい一本。 前々から、メニューに上げるか考えてはいた。 しかし、あまりのボリュームに、メニューへ載せるのが躊躇われていたのだ。 『温めていた案』を、いつ、誰に出したらいいのか…? その『相手』をずっと探していたのだ。 疲れて深夜近くに帰る事の多いクラウドは、あまり多くは食べずに、濃いアルコールと胃に軽い食事を好む傾向にある。 だから、クラウド以外に一番に食べてもらいたいのは、仲間か親友。 というわけで、ティファ的にはまさに『渡りに船』といった、本日の二人の来店。 別に、ティファは差別をしているつもりはサラサラ無い。 むしろ、この多すぎるメニューは食べる客の事を思って、また、作る料理が無駄にならないようにと考え、今まで陽の目を見なかっただけに過ぎないのだ。 思わず彼女は、眉根を盛り上げ、眉尻を下げた。 つまり八の字、困惑しきりな顔だ。 彼女の表情の変化に、プライアデスは狼狽して、なんと言うべきかを必死に考えている風だった。 一方、シュリはと言えば…。 「……美味い」 場の雰囲気を全く気にする事無く、慣れた手つきでナイフとフォークを動かし、パクッと一口放り込んだ。 実に率直な意見。 途端、ティファがパッと嬉しそうに笑った。 「本当!?」 「えぇ、美味い」 「そ?良かった」 長い時間をかけて『温めていた案』を褒められ、ティファの気分は一気に急上昇。 ニコニコと笑うティファの意識は完全にポエム男から離れてしまっている。 まさに衝撃! 自分へ向けられていた意識を、あっさりと奪い取った隣に座る美青年に、ポエム男は憮然とした顔を隠そうともしないでデプッとした腹を揺すった。 「ティファちゃん、僕にも『スタミナスペシャル』欲しいな」 「え!?」 僅かにトーンが高い声が出る。 ティファは困った…。 青年の引き攣りながら笑っている頬と顎のラインを見る。 そして、視線を下ろしてシャツからはみ出している肉を見た。 『これ以上……カロリー摂ったら大変よね…やっぱり……』 などと、青年の体を考えて困りきっているティファの心など露知らず、青年はなんとか愛しい彼女に笑顔らしきものを浮かべ、且つ、小首を傾げながら『お願い』をした。 どうやら、『女性受けする仕草』と信じきっているらしい…。 事実は……、まぁ、触れないでおこう…。 シュリは、隣の暑苦しい男をチラッと横目で見たが、結局なにを言うでもなく、代わりに、 「准尉、冷める前に食べないと失礼だ」 「あ…そうでした。いただきます、ティファさん」 ニッコリ笑ってティファへ「いただきます」と手を合わせた部下に、微かに目を細めた。 「あ、えぇ、どうぞ!」 あからさまにホッとしながら、ティファは青年から紫紺の瞳を持つ友人へ視線を移す。 彼の優雅なナイフ使いに感心しながら、僅かな緊張を孕みつつ彼が口へ運ぶのを見守った。 デプッとした青年は、ティファのそのあまりにも真剣な姿に口を挟むことが出来ず、唇をヘの字に曲げ、忌々しい珍客(と彼は思い込んでいる)が、とっとと口に入れるのを待った。 「美味しい!」 紫紺の瞳が軽く見開かれ、これ以上無いほどの笑みが青年を彩る。 「すごく美味しいです、ティファさん!」 「本当!?うわ〜、そこまで喜んでいただけるとは思ってなかったわ」 「これは…うん、本当に美味しいです」 パクパクパク。 スッと背筋を伸ばし、優雅な仕草で次々と特製メニューを口に運ぶ青年達に、女性客達がうっとりとした眼差しを向けている。 子供達も、接客をしながらその様子を実に誇らしそうに見つめていた。 ティファなどは、頬を薄っすら染め上げるほどに純粋に喜んでいる。 メキ。 「「 ??? 」」 シュリとプライアデスの耳が何か異音を聞き取った。 それも、かなり至近距離で。 なにかが……『めげる』音…。 シュリは一瞬、食べる動作をピタリ…と止めたが、何事も無かったかのように食事を再開した。 周りに集まっていた野次馬のような客達も、青年達があまりにも上品に食事をする動作を見て、『庶民とは違う!』と察知したのだろう。 これ以上自分達のみっともないところを晒さないように…と、渋々ではあるが、自分達の元のテーブルに戻った。 それに、彼等の食べっぷりを見る限りでは、ティファが今まで自分達に勧めなかった理由も分からなくも無い。 なにしろ、ボリュームが全く違うのだから! 一人分で軽く『二人分』はありそうな牛肉料理。 ……考えただけで胸が悪くなる。 それに、冷静に考えてみたら普通の『スタミナ定食』の『ボリューム版』という感じだ。 『『『『 だったら、普通の胃袋と普通の仕事しかしてない俺達には食べきれないな… 』』』』 もし…。 仮に『挑戦心』にて注文したとしよう。 ティファは確実に怒るだろう。 料理が『どれだけ食べられるか』とか『どれだけ早く食べられるか』、競う人間を彼女は非常に嫌っている。 彼等のしていることは、料理を一生懸命作ってくれた人に対して失礼だ、と、日頃から彼女は言っていた。 それになにより、その『食べ比べ』『早比べ』で勝ったからと言って、一体何になる? もしも『食べ比べ』で食べられなかったら、それは捨てないといけないのだ。 食材の無駄だ! だから、彼女は客達には『注文しすぎには注意して下さいネ』と、少々酔いが回って来ている人には声をかけている。 そうでないと、酒の勢いで追加注文をアホみたいにするからだ。 折角の食材が無駄に出来るほど、この世の中は潤っていない。 例え、潤っていたとしても、やはり星からの恵みを彼女は大切にするよう提唱していただろう…。 ピキピキ。 「「「 ??? 」」」 またしても異音が耳につく。 今度はティファも気がついた。 ふと、強烈な視線を感じ、ティファはそっとそちらを見ると…。 顔を真っ赤にしてぶるぶる震えているポエム男。 彼は怒っていた。 幾度も幾度も、自分をあっさりと無視される結末になっていることに。 愛しい人の意識が、完全に自分に戻ってこないことに理不尽な怒りで震えていた 「あの……」 「ティファちゃんは、僕のような常連客よりも、こんな新参者を大切にするんだね。店主がそんな事で良いの?」 「 !! 」 シーン。 店内が静寂に包まれる。 青年の言葉に同意するものもいれば、ティファが友人を『客扱い』しないで特別扱いするくらい別にいいじゃない?という反対派、更には「美青年だからどんなに良い待遇を受けても許される!」というわけの分からない意見に別れた。 そして、一気に雲行きの怪しくなったティファと、ポエム男、そして『新参者扱いされた青年達』に、周りの客達は素知らぬふりをしながらも、神経を研ぎ澄まして聞き耳を立てていた。 「あの……」 「僕は結構この店に来てるけど、この人達、全然見た事ないんだけどさぁ。まぁ、お友達らしいから、少しは贔屓したくなるとは思うけど、さっきからちょっと店長としてはどうかなぁ…って行動が多いんじゃない?」 「 …… 」 ティファは雷に打たれたような衝撃を受けた。 確かに。 久しぶりに来てくれた彼等に過剰なサービスをしてしまった。 店主としてなんと恥ずかしい行為をとったことか。 ティファはカウンターからわざわざ出てきて、その青年の前に立ち、真っ直ぐに頭を下げた。 「申し訳ありませんでした」 その様子に、子供達が憤慨する。 これまで、青年はティファにあの手、この手で言い寄っていた。 ことごとく失敗し、それなのに、何故か『僕が独り立ちをするまで彼女は待っているんだ。だから、今は素直な気持ちになれないんだ』と、いつしかそう思い込むようになっていた。 そのくせ、クラウドとティファが仲良くしていることもちゃんと知っている。 酔っ払った時、彼が同席していた飲み仲間に管を巻いていたことも……子供達は知っていた。 ティファは知らないことを。 ― いつか、僕が自立したら、彼女に正式にプロポーズをするんだ。そうしたら、ズルズル引きずっているクラウドとの鬱陶しい繋がりからやっと解放される。 ― 彼を送り届けた中年の常連客は苦笑交じりに『内緒だぜ?特にクラウドの旦那とティファさんには』そうウィンクしながら、さり気なく子供達が気を配れるように情報を提供してくれたのだ。 その『超身勝手解釈男』にティファが頭を下げている。 これが許せるか!? 否!! 許せるもんか!! 決然と子供達は立ち上がった。 頭を下げている店主と、その店主に気を良くしたのか、スツールにふんぞり返っているその青年とのやり取りに割って入ろうとして…。 「なんだ…これ…?」 ティファはゆっくりと顔を上げた。 その顔は、信じられない言葉を聞いた驚きで放心状態。 一方、青年はというと…。 自分が書いたものを『なんだ、これ?』と言っているのだと理解するのに数秒かかった。 折角ティファが自分の方へ意識を向けてくれたのに! 憤りながらも、虚勢を張るように話しの途中で割って入った無礼者に、慇懃にその非を説明しようとゆっくりと振り返って…。 男性にしては細くて長い指。 その手が持っているものに目が点になり、慌ててカウンターの上に置いてあった場所へ視線を走らせ、あるべきところに原稿が無かったことを確認してから、ようやく自分の『自称ポエム』を『なんだ、これ?』と言われたのだと気づいたくらいだ。 「な、ななななな…!!」 怒りと羞恥心でドス赤くなる。 シュリの肩からひょっこりと原稿を覗き込んだプライアデスまでもが、 「あ〜、なんでしょう?」 首を捻っている。 青年の怒りはマックス。 シュリとは反対隣に座っていた常連客だけが、嬉しそうにニカッと笑って、ジョッキを煽った。 「そ、それを読んで分からないって!?」 スツールから勢い良く床に降り立ち……と、言いたい所だが、尻がしっかりとスツールにはまりこんでいるため、動きは非常にスローリー…。 なんとか尻をスツールから引き剥がすことに成功し、青年はデプッとした腹を突き出すようにしてシュリの前に立った。 残念ながら、スツールに座っているシュリの方が視線の位置が高かったため、シュリを見上げるようになってしまっているのだが…。 シュリはチラリ…と青年を見ると、指先二本だけで原稿をフワッと飛ばしてカウンターの上に戻した。 その仕草のさまになること! クールな美青年。 女性客達がホォッ…と、うっとりした溜め息を吐いた。 シュリは睨みあげるようにして見つめてくる青年を冷たく一瞥すると、 「その原稿。『エッジ新聞 ご担当者様 御中』ってあったけど、もしかして投稿するつもりか?」 「それがどうしたって言うんだい!?言っとくけどね、僕にとっては『エッジ新聞』への『採用』は一つの足がかりなんだ!」 怒り心頭の青年が唾を撒き散らしながら捲くし立てる。 シュリは、自分の服に飛び散らないよう、そっと下肢の位置をずらして被害を避けた。 シュリは元来、淡々とした語り口調なので、時として誤解されやすい。 しかし、今回の淡々とした口調は、心底目の前の青年を小バカにしているものだ。 プライアデスも、いつもなら間に入ってとりなしたり、時には謝ったりするのだが、今回限りはなんとも言えない複雑な顔をしているばかり。 上司にこの場をまかせることにしたらしい…。 その上司はと言うと。 「あんた、自分の『人生の目標』を『エッジ新聞』なんかで堂々と載せてもらってどうするわけ?」 「へ……?」 「「 …は…?」」 暫しの沈黙。 青年は、シュリに『人生の目標』という、考えもしなかった言葉に。 そして、シュリとプライアデス二人は、青年の反応に、一斉にキョトンとする。 なんとなぁく…重苦しい空気。 最初に口を開いたのは…。 「えっと…その、これはご自分がこれから『名の残っていない詩人』と『名の残っていない革命家』について知るために、冒険の旅をする…ということですよね」 恐る恐るそう聞いたのは、大富豪の子息だった。 一方、彼等二人が来るまでに、青年から『ポエム』と聞かされていたティファは非常に複雑だった。 ヒヤヒヤしながら青年達を見つめる。 いつしか店内もシーンと静まり返っていた。 ポエム男はキョトン…と目の前の『新参者』を見つめ…。 「へ?なんでそこで『冒険の旅』とか言われるわけ?」 「「 …… 」」 シュリはプライアデスを、プライアデスはシュリを見た。 目が合ったのは刹那。 それだけで二人は通じ合った。 この目の前にいる青年は、正真正銘の自惚れ屋で常識がある部分で欠落しているのだと。 シュリはあからさまに。 プライアデスは女店主の立場を慮って(おもんばかって)苦笑しつつ説明した。 「この作品は、まるで『名すら残されていない偉人を探し出し、彼等の存在を世に知らしめたい』。そういう風にしかとれません」 「は!?なんで、どこが!?」 プライアデスの親切な言葉は青年には届かなかった。 それどころか、プライアデスとシュリを『芸術を理解出来ない貧相な人間』と判断したらしい。 あからさまに見下したような顔をすると、 「ふん!こんなにも高尚な『ポエム』が分からないなんて、ほんっとうにキミ達、ろくな人生を送って無いらしいね。おまけに最低限の教養すらも無いらしい」 デプッとした腹を揺するように笑い出した。 その言葉はティファをあっという間に怒りの沸点を振り切らせ、彼女はカッと目を見開いた。 そして、「お言葉ですが!」と、まさに言おうとしたその時。 「誰が『教養が無い』って?」 「「「 クラウド!! 」」」 奧へと続くドアにもたれるようにして立っている金髪・碧眼の美男子。 ポエム男にサッと緊張が走る。 彼は何度かクラウドが店内にいる時、客としてやって来ていた。 そして、その大半は、彼女に言い寄る自分へ、身も心も魂でさえも凍りつくような殺気の篭った眼差しで睨みつけられている結果に終っている。 嬉しそうに駆け寄る子供達を片腕でそれぞれ軽々と抱き上げ、『ただいま』のキスを贈る。 そして、ティファには軽く頬にキス。 流石にシュリやプライアデス、他の客達の前では恥ずかしい。 柔和な笑顔でもって、シュリとプライアデスと挨拶を交わす。 そうして…。 「それで、誰が教養が無いって?」 「あ…そのぉ…僕、そんなこと言いましたっけ?」 しどろもどろ、手を握り握りしながら、視線を宙に彷徨わせている。 脂汗が額一杯に玉のように浮かび、ツツーッと頬を流れた。 クラウドは容赦無かった。 「言っておくが、こっちのシュリは、最年少でWROの中佐にまでなった凄腕の隊員だ。隊員が昇格するには、戦闘知識も必要だが、各地の地層の状態、最低限の医学知識、戦闘における基礎知識、応用、実戦が必要となる。更に、一般常識として世界各地での歴史も必要とされる。それらをこいつは19歳でクリアした」 どよめきが店内に起こる。 クラウドは止まらなかった。 「そして、ライは、あの大富豪『バルト家』の次男だ。それこそ、上流階級の世界はかなり厳しい。そんな環境に育ったんだ、少なくともここにいる誰よりも『ありとあらゆる歴史と常識』は叩き込まれて成長してきている」 ポエム男はいまや、真っ赤を通り越して真っ青になっている。 ダラダラと汗を流し、立ち竦んでいるその姿は、まさに死刑を申告された死刑囚のようで…。 「という訳でこの二人と、もう四人(リト、リリー、ラナ、アイリ)は、俺達が家族ぐるみで仲良くしている人達がいる。その人達を馬鹿にすることは今後一切許さないからな」 アイスブルーが危険に光る。 青年は、原稿もそのままに慌てふためいて財布をポケットから取り出し、適当に金を置くと、逃げるようにして出て行った。 「すまなかったな。俺がもう少し早く帰ってたら」 「いえ、こちらこそ本当に急に来てしまって」 閉店後。 クラウドとプライアデスは互いに頭を下げていた。 シュリは子供達にせがまれてオカリナを吹いている。 「それにしても、連絡くらいしろよ。そうしたら、もっと仕事を早くきり上げたのに」 「ふふ、クラウドさん。それってスピード出しすぎる…ってことでしょう?ティファさんや子供達が悲しむことになったら大変だから、遠慮しておきます」 「う………」 他愛も無い話し。 穏やかな時間。 ティファは嬉しかった。 こうして人付き合いの苦手なクラウドが、友人と呼べる人を持つことが出来たことを。 「さ、皆、そろそろお茶にしましょ」 子供達にはホットミルク、大人はコーヒー。 そして、今日は特別にティファ特製のパウンドケーキ。 本当は寝る前に子供達にあまり食べさせたくは無いのだが、今日は特別。 皆、めいめい自分のカップを手に取ると、軽く掲げて乾杯を唱和し、ほんの些細な日常の生活を話し合った。 それはとても貴重な…、幸せな時間。 そしてその時間はあっという間に過ぎていく。 「二人共、気をつけてね」 温かな言葉を背に受けながら、隊員達は帰路に着いた。 本当は泊まってもらいたかったのだが、そうもいかない。 彼等は…忙しいのだから。 帰る間際、子供達とシュリ、プライアデスは『また近々グリートとリリーとラナ、そしてアイリを連れてくる』という約束を半ば強制的にさせられていた。 「楽しみだなぁ!」 「うん!アイリおねえちゃん、元気かな!!」 ワイワイ楽しい余韻を残しながら、子供達が部屋に戻る。 その後を、クラウドとティファがゆっくりと追いかけた。 「ティファ…」 「なぁに?」 「……お願いだから、もう少し危機感を持ってくれ。隙が多すぎて気が気じゃないから…」 クラウドのボソッと呟かれたその言葉の意味に気づかない程鈍くは無い。 ティファは真っ赤になると、嬉しそうにはにかみながらクラウドの腕にそっと自分の腕を絡ませた。 「過去の偉人を探す冒険…か」 「?」 クラウドが不意に呟き、ティファはうっとりした夢見心地から現実へと引き戻された。 「いや、あのデブが残していった原稿で、ライが言ってただろ?」 クラウドの『デブ』という言い方に、少し「メッ!」としながら、次の言葉を待つ。 「それってさ。やっぱり人の歴史の中に埋もれてしまったものも沢山あると思うんだ。そういうものを知るために旅に出るのも楽しいかもな」 フワッと笑ったクラウドに、ティファはニッコリと微笑んだ。 「そうね、きっと楽しいわ。でも…」 「うん?」 「きっと、WROであれだけ目立った功績を残しているライ君やシュリ君、それにリト君にラナさんなら、後世にまで語り継がれると思うわ」 私達も…。 最後の呟かれた言葉に、クラウドは唇をやや固めに結び…。 「そうなったとしても、自分や周りの人が恥ずかしくない様な生き方をしよう。人の歴史の大きな遺産には俺達はなれない。しかし、きっとシュリ達なら…」 「うん、そうだね」 そうして二人は、ベッドですっかり眠っている子供達に微笑み、そっと部屋を後にする。 歴史に名が残らなくても良い。 むしろ残って欲しくない。 しかし、恐らく『ジェノバ戦役の英雄』として残ってしまうだろう。 だが。 どうか願わくば、星の為に死と隣り合わせにある『彼等』には、歴史の中に埋もれてしまわないで欲しい。 二人はそっと寄り添いあって、自分達の寝室へと消えていった。 どうか。 後世の人達が彼等の働きを大切にして、命を大事に生きてくれますよう……。 あとがき 突発的に書いてみたくなった話しです。 オチ…というものもなく終ってしまいました…(汗)。 でも、本当に名だたる人が歴史に埋もれてる可能性ってありますよね。 うぅん…難しい…。 *2008年9月18日 加筆・修正 |