本日貸切にて…(前編)



「ティファちゃん!このとおり!!」
 常連の一人、若い男がティファに手を合わせて拝み倒している。
 それは、店が開店する時刻よりも随分早い時間だった。

 彼が突然来訪して来た事に、ティファはびっくりした。
 しかし、彼にはれっきとした彼女なる人物がいる為、さほど警戒心も抱かず開店前の店内に招き入れたのだが…。
 どうやらそれが仇となったらしい。

 わざわざ開店前に狙ってきた彼には一つのお願い事があったのだ。
 それが……。


 明後日のセブンスヘブンを貸切にすること。
 メンバーは、彼の仕事仲間と彼の友人関係の女性達の集まり。
 要するに、合コンというやつだ。
 ティファ自身は、エッジで日々頑張っている同年代の人達にはこれからも大いに頑張って欲しいし、何かの生きがいも持ってもらいたいと思っている。
 しかし、セブンスヘブンにはまだ幼い子供達がいるのだ。
 その子供達の目の前で、合コンなるものを開いて良いものかどうか…。
 …………。
 決して良くないだろう…。
 そう思うと、ティファは目の前で拝み倒してくる顔なじみに良い顔をすることが出来なかった。
 しかし、そのティファの心を揺るがせたのは彼の次の一言だった。


「ティファさんにはクラウドさんがいるから良いかもしれまんせが、俺達には毎日の仕事をこなしつつ、尚且つ出会いの場を設定する余裕なんてほとんど無いんです!!お願いします!!」


 ティファは、折れた。


「と言うわけなの。だから、本当に急で悪いんだけど明後日の仕事、何とかならないかな…?」
 その日の晩、遅くに帰宅したクラウドに夜食を出しながら、ティファは子供達の事について相談を持ちかけた。
 クラウドは、ティファから皿を受け取りながら「明後日か…」と呟き、溜め息を吐いた。
「明後日は、どうしてもキャンセル出来ない仕事が入ってるんだ。困ったな…」
「そう…」
 二人して黙り込み、溜め息を吐く。
 子供達にはまだ話していなかった。
 どうやって幼い子供達に説明をしたら良いのか分からなかったと言う事もあるし、先にクラウドと相談してからの方が良いと考えたからだ。

「バレットに相談してみようかなぁ…」
 力なく言うティファに、クラウドも「そうだなぁ…、でもなぁ…」と難色を示した。
 恐らく、セブンスヘブンで合コンなるものが開かれると知れたら、あの巨漢の事だ。


『んな、不埒な集まりにセブンスヘブンを貸し切るだなんてどこのどいつだ!!その腐った根性、叩きなおしてやる!!』
 などと怒り出すに決まっている。


 あれこれ考えてみたものの、妙案が浮かばない。
 そのうち二人共、段々自棄な気分になってきた。
「じゃあ、シドにお願いしてシエラ号出してもらって…、それでユフィにお願いしてみようかなぁ…?」
「……ユフィが大人しくウータイで子供達と過ごしてくれると思うか…?」
「……ごめんなさい、今の忘れて頂戴…」
「いや、良いんだ…気にするな…」
 お元気娘が子供達を預かる理由を知ったら…。


『え〜〜!!何それ、面白そーー!!私も参加する!!!』


 ノリノリになって参加を希望する事は目に見えている。
 そして、無理に参加して合コンそのものをぶち壊すのだ…。


「ヴィンセントにその日、お店に来てもらって子供達と一緒にいてもらおうかな…」
「……あのヴィンセントがこんな事に協力してくれると思うか…?」


『何故私がそんな事をしなくてはならないんだ?それに、デンゼルとマリンならしっかりしている。お前達が心配するような悪影響は受けないと思うが…、そんなに子供達が信用出来ないのか?』


 逆にお説教されそうだ。
 それに第一、彼の場合は捕まらない可能性の方が高い。


 その後も仲間達一人一人を挙げてみたものの…。
 ナナキは現在世界を見て回っている為、所在不明。
 リーブはWROの局長という大変な重責の中に身を置いているので、当然却下。
 シドは……。
 恐らくシドに頼んでも結局はシエラさんが子供達の面倒を見る羽目になるだろう…。
 シエラさんの負担になるような事は出来ない…。



「はぁ…断ればよかったな…」
 隣に座ってすっかりしょげ返り、カウンターに突っ伏すティファの頭を、クラウドは苦笑しながらポンポン叩いた。
「ま、そういう優しいところがティファの良い所だから…」
「……うん……」
「それに、子供達はその日は子供部屋で大人しく過ごしてもらうって事でも良いんじゃないか?きっと、大丈夫さ」
「……そうかなぁ……」
「…まぁ、その合コンに来る奴らも心配するような羽目の外し方とかしないだろ?」
「……そう……かなぁ…」
「……多分…」
「……うん…」


 結局…。
 何も良い案が浮かばなかった二人は、グッタリとその日を終えてしまった。
 翌日。
 ティファは明日に迫った合コンの話を子供達に話した。

「「合コン?」」

 声を揃えて首を傾げる子供達に、ティファは言葉を選んで説明をした。
「うん。集団でする『お見合い』みたいなものでね。パーティーみたいな感じかな…?」
「パーティー!?」
「明日、ここでするの!?」
 目を輝かせる子供達に、ティファは慌てて手を横に振った。
「あ、あのね。パーティーって言っても、お誕生日のパーティーみたいなものじゃなくて…、何て言うか、大人の男の人と女の人がお友達になる為に集まるパーティーなの」
「でもさティファ。『お見合い』みたいなものって言わなかった?」
 小首を傾げるマリンに、「そ、そうそう。『お見合い』みたいな感じで、『お友達』を探す集まりの事なのよ」と頷いてみせる。
「『お見合い』で『お友達』探すのか?」
 デンゼルが不思議そうな顔をする。
 ティファ自身、説明をしているうちに段々わけが分からなくなってきた。
「う…、そ、そうなんだけど……」
「「?」」
「よ、要するに!!」
 揃って不思議そうな顔をする二人に、ティファは少々大きな声を上げて人差し指を立てて見せた。
「このパーティーは『子供』がいたらいけないの。だから、明日は二人共、部屋で大人しくしててね」

 その途端。
「「え〜〜〜〜!!」」
 予想通りの反応が返ってくる。
「つまんな〜い!」
「俺達も手伝うからさ〜、パーティー見せてよ〜!」
 あまり普段から我がままを言わない子供達が口を尖らせてお願いをする。
 その姿に、ティファの気持ちがグラリと傾きかけるが、何とか己を鼓舞して断固拒否の態度を崩さなかった。
「だめよ。デンゼルとマリンがいたら、明日来る人達が気を遣っちゃうもの」
「え〜!?」
「なんでだよ〜!?」
「な、なんでって言われても…。『お見合い』みたいなものだって言ったでしょ?そんな場所に子供がいたらおかしいじゃない」

 あまり説得力の無いティファの説明だったが、子供達は最後には不承不承頷いた。
 決してティファの説明で納得したわけではなかったが、困った顔をしている母親代わりを見ているうちに、可哀想になってきたから…というのが本当に理由だったりする。
 どこまでも優しい子供達なのだった…。


 そして、その日の夜。
 いつも通りセブンスヘブンを営業していると、例の合コン話を持ちかけてきた青年が彼女と一緒に来店した。
「ティファさん」
「あ、こんばんわ」
「明日の件、彼が無理言ったみたいですみません。でも、本当に嬉しいです。明日、私の友達も参加するんですよ」
 ニコニコと笑顔を浮かべる彼女に、ティファは笑顔で「そうなんですか」と嬉しそうに応えた。


『うん、良かった、断らなくて』


「あ、でも、明日は子供達、どうされるんですか?」
 心配そうに訊ねる彼女に、子供部屋でお留守番だと説明をした。
「…そうですか…。本当にすみません」
「いえ。きっと大丈夫ですよ。それに、そんなにまずい人達は来ないんでしょ?」
「「………」」
「…え?」
 笑顔で訊ねたティファの言葉に、二人の顔が強張ったのをティファは見逃さなかった。
「い、いや!大丈夫ですよ!!」
「え、ええ!だって『セブンスヘブン』ですもの!」
 取り繕うようにして慌てる二人に、ティファは確信した。


 酒癖・女癖・男癖の悪い人間……このどれかの種類の人間が明日来るのだ…と。
 そして、決意を固めた。


 明日の晩は、何が何でも子供達を部屋から出すまい!!


 そうして、当日。
 クラウドは「なるべく早く帰る」と言い残し、猛ダッシュで配達に出掛けて行った。
 昨夜、ティファから今日の合コンに来るメンバーについての予想を聞かされたからだ。
 もしかしたら…、いや、もしかしなくても、合コンに来る男達はティファに目をつけるだろう。
 ティファなら大丈夫だと分かっているが、それでもそんな目で彼女を男共の視線に晒す事など許せない。
 それに、もしかしたら……本当にもしかしたら…!!
 酒に悪酔いした振りをして彼女に接近しようとする不埒な輩もいるかもしれない!!
 ………。
 …………。
 冗談じゃない!!!
 クラウドとしては、合コンをドタキャンして欲しいくらいだった。
 しかし、生真面目な彼女にそれを強要する事など出来るはずもなく、自分自身も今日の仕事をキャンセル出来ないと言う負い目から、尚更ティファにドタキャンの話を持ちかけられなかった。
 クラウドに出来る事はただ一つ。
 仕事を一分一秒でも早く終わらせる事!!

 あっという間に小さくなってしまったクラウドの後姿に、子供達は目を丸くしながらも手を振り振り笑顔でティファを見上げた。
「ティファの事がよっぽど心配なんだね!」
「クラウド、いつもよりもめちゃくちゃスピード出てたよな!」
 ティファは、そんな子供達に引き攣った笑顔を返すと、怪訝そうな子供達の表情に気付かず、店の中に入ってしまった。
 彼女の頭の中は『デンゼルとマリンは絶対に守ってみせる!』という使命感で一杯だったのだ。


 イヤなものが控えている時というのは、どうしてこうも時間が経つのが早いのだろうか…。
 先程、朝靄の中、クラウドを見送ったはずなのに、もう気付けば西日が店内に差し込んでいる。
 ティファは憂鬱な気持ちにカツを入れるべく、頬をパンパン叩いた。
 料理の準備は万全だ。
 店内も、一応花を飾ったり、お気に入りのクリスタルガラスの置物を置いてみたりと工夫してみた。(勿論、チョコボ以外の奴だが)。
 そして、初めて店の扉に
『本日貸切』
 と、看板をぶら下げた。
『本日貸切』の文字が紙に手書きなのは、『臨時休業』の看板の上に貼り付けただけだからだ。

 ティファがその出来合いの『貸切』の看板をぶら下げていると、
「今度ユフィに『本日貸切』の看板も貰おうよ」
 と、デンゼルが苦笑した。
「そうね…」
 ティファも、出来合いの不恰好な看板に苦笑すると、ん〜、と伸びをした。
 もうそろそろ時間になる。

「よし!!!」

 気合を入れてるティファに、マリンとデンゼルは顔を見合わせた。
「何であんなにティファが気合入れてるのかなぁ…」
「さぁ。何かわかんないけど、物凄い気迫を感じるよな…」
「うん」

 子供達が小声で囁きあう。
 それに気付かないティファは、一人決意を新たにしていた。


『何が何でも、絶対に子供達に悪い影響は与えさせないんだから!!』


 ある意味、闘志にも近いその気迫に、セブンスヘブンの前を通り過ぎる通行人達が、ギョッとして遠巻きにそそくさと去って行く。
 それにも気付かない女店主だった…。

 そして…。
 決戦の時は訪れた。




 あとがき

 何故か二部になってしまいました…(汗)。
 ホントは読みきりの予定だったのになぁ…どこで間違えたのかなぁ…(遠い目)。
 
 ダラダラとなってしまってすみません。
 後編へ続きます。