惚れ直すとき(後編)




「引き受けて下さるんですか!?ありがとうございます!!!」

 返事の約束の日。
 ソワソワしながらセブンスヘブンを訪れたハイトに、モデルを引き受ける旨を伝えると、ハイトは感極まったようにうっすらと涙まで浮かべてティファの手を握り締めて上下にブンブン振った。
 ガクガクと揺らされながらも、ハイトの喜びようにティファも自然と口許が綻ぶ。
 そんな様子を子供達がちょこんと椅子に腰掛けてニコニコと見つめていた。

「いやぁ。本当は、断られる可能性の方が高いと思ってたんですよ。だから本当に嬉しいです!!」
「…私も最初は断るつもりでしたから…」
 でも…。


 そう言って、子供達を見る。
 子供達は満面の笑みでハイトを見上げた。
 その仕草だけで、子供達がハイトの願いを叶える為に一肌脱いでくれた事が用意に察せられる。
「デンゼル君とマリンちゃん、本当にありがとう!!」
 ティファの手を握っていたその手を、今度は子供達の片手を握り締め、ティファにしたようにブンブンと大きく上下に振った。

 本当に嬉しそうなハイトの様子に、ティファはこれから起こるかもしれない不安を押し殺す事に成功した。

 これから起こるかもしれない不安。
 それは、セブンスヘブンが……というよりも、自分達がより一層見世物になること、そして、それに子供達が巻き込まれないか…という事。
 自分達だけの問題なら対処のしようもあるのだが、子供達にまでその問題が及んでくると完全にたてとなって守ることは難しい。

「あの、ハイトさん?それでお願いがあるんですけど…」

 嬉しさのあまり、今では意味不明な『喜びのダンス』をはしゃぐ子供達と一緒に踊っていたハイトに声をかける。
「はい?」
「あの…モデル…の件は確かにお受けしますけど……出来れば『私達』が誰だかあまり分からないようにとって欲しいんです」
「?」
「あ、あのですね。この前の雑誌の件からお店が大変なの事はご存知でしょう?そこに、私とクラウドがモデルになっただなんてことが分かったら……いや、そりゃ、モデルになるんですから分かっちゃうんでしょうけど……それでもこう、何て言うか……。出来ればモデルをしてるのが私達だとバレない様な撮り方をしてもらいたいんです。
 ほら、今回のモデルの仕事って、新作の服のためのモデルでしょう?だったら、私とクラウドだってハッキリ分からなくても言いと思うんですよね」
 首を捻る総企画担当者に、ティファは焦りとテレから早口で捲くし立てた。

 一息で言い放ったティファを、ハイトと子供達はポカンと口を開けて見ていたが、ハイトは流石に仕事人なだけはある。
 ティファの言いたい事を察し、ニッコリと笑みを浮かべた。
「ええ、勿論です!ティファさんとクラウドさんにモデルになって頂けたら、お二人だとバレない様なメイクと照明の使い方で撮らせて頂きますから。ただ、子供達は顔を出させてもらいますが、子供達だけの場合なら大丈夫でしょう?」

 ハイトの言葉に、ティファは漸く心からの笑みを浮かべた。



 そして……モデルの仕事当日。

 クラウドとティファ、それに子供達はエッジの中にあるとあるビルに来ていた。
 半年前には建設中だったそのビルも、今では立派に完成されており、『テナント募集中』の張り紙が窓から数枚覗いている他は、びっしりと沢山の企業が入っているようだ。

「大きなビルだねぇ…」
「本当に…」
「こんなビルにモデル事務所と撮影所を持ってるって事はさ、ハイトのおっさんって実は物凄くやり手なんじゃないのか?」
「……かもしれん」

 四人が呆けたように見上げているそのビルは、確かに物凄く立派だった。
 玄関を入ってエントランスに足を踏み入れると、六台のエレベーターが見える。
 そして、インフォメーションには格企業の顔とも言える受付嬢がそれぞれの企業の制服に身を包み、笑顔でカウンターの中に立っていた。

 四人は、ハイトに事前に知らされていたように七階へ向かうべく、エレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターの中は、広くて天井も高い。
 それに、二階からはエレベーターの中からでもエッジの街並みが見えるようにガラス張りになっている。

 高所恐怖症の人間には酷な状況だ。

 子供達はその窓から見えるエッジの街並みに目を輝かせていたが、目的地にすぐに着いてしまった。
 渋々といった感じで降りる子供達は、「後で最上階まで行って見るか?」とクラウドが苦笑しつつ提案して漸く笑顔を見せたのだった。

「やぁ!お待ちしてましたよ、皆さん!!」
「「「こんにちは」」」
「……どうも」

 事務所に通じるドアをノックし、顔を出したハイトは文字通り、喜色満面の顔色で四人を出迎えた。
 そして、時間が推しているのだろうか?
 四人の為に既に決めていたそれぞれの担当の者に簡単な自己紹介をさせると、目の回るような勢いで四人は担当者に引きずられて『変身』しに行くはめになった。



「あの……」
「はい?なんですか?」
「……お忙しいんですか…?」
「ん〜、そうですね、暇ではないですね」
「……そうですか…」
 問答無用であっという間にドレスに更衣させられたティファは、現在これまた息つく間もなく鏡の前に座らされ、担当のヘアメイクの女性に化粧を施されていた。

 ここに着てから十分と経っていないのに、もう先程の自分と違う自分が鏡を覗いている。
 その事に、ティファは目が回る思いがした。

「あ、そうですよね。こんな感じでパパパッと訳が分からないうちにされたら、びっくりしますよねぇ」
 ティファの心情を察した担当者は、コロコロと笑った。
 しかし、笑っている間もその手が休まる事はない。
「ハイトさんは物凄く個性的な総企画担当者兼カメラマンなんですよね。だから、撮り始めて自分の納得いくものが撮れなかったら撮れるまで何時間もシャッターを切るんです。妥協って言葉を知らないんですよねぇ。
 だから、なるべく、メイクは手早く綺麗に完璧にして時間を沢山作っとかないと、後が大変なんですよ」

 笑顔で話す彼女の言葉に、ティファは冷や汗が出る思いだった。


『流石プロ…』


 一言で言えばそうなる。
 ハイトも…、こうしておしゃべりしながら自分の緊張をほぐしつつ、手を休める事無く綺麗に仕事を仕上げていく彼女も…。


「はい、完成ですよ!お疲れ様でした!!」


 彼女にそう言われて解放された時は、椅子に座ってからものの二十分ほどだった。

 普段の自分なら絶対にしないような濃い目のメイクに、アップにされた髪は、ワザと後れ毛を多く残して首周りを踊る様にしている。
 アップにされたその頭を飾るのはフワフワとした羽毛を模ったヘアアクセサリーで、ドレスと同じワインレッド。


 鏡の中の自分は、自分なのに誰なのか分からない。
 まさかこれほどまで変身してしまうとは……。

 この分だと、クラウドと子供達もびっくりするような変身をしている事だろう。
 ティファは、担当者に連れられてワクワクしながらスタジオに向かった。



「うわ〜!」
「ティファ、綺麗!!」
 スタジオには既に子供達が到着しており、子供達の撮影用にと、草原の背景、本物の花、そしてオープンカフェを髣髴とさせるような可愛らしい白い丸テーブルと同系統の椅子が二脚が設置されていた。

 子供達の姿を見て、ティファもまた感嘆の声を上げる。
 マリンは、いつも結い上げている髪を、頭のてっぺんでワンピースと同じリボンを使い、ポニーテールにしている。
 三つ編みをしていない髪は、ちょっとしたパーマをあてているように、控えめにふんわりと広がっていた。
 そして、デンゼルもいつものフワフワの髪質はそのままなのに、前髪を左半分だけ残して後はオールバックに近い髪型にまとめてある。
 子供達のその姿が、あまりにも可愛すぎて、ティファは思わず満面の笑みのままギューッと抱きしめた。

「二人共、本当に可愛いわ!」
「エヘヘ〜」
「可愛いってやめてくれよ…」

「どうですか、ティファさん?中々なものでしょう?」

 ハイトが撮影所の奥からひょっこり顔を出してそう言った。
「ええ!本当にこんなに可愛くなるなんて!」
「だから…可愛いってやめてくれってば…」

 静かなデンゼルの突っ込みに、マリンだけがくすくすと笑って応える。

 ハイトは満足そうに三人を見ると、ふと「?」という表情になった。
「あれ?クラウドさんは?」
「?まだみたいですけど…?」

 キョロキョロとスタジオ内を見渡して三人がふと出入り口に目をやった時、漸く話題の人物が登場した。

 その姿に、子供達はティファの時と同様、歓声を上げる。
 ティファは、声すら出なかった…。

 いつもはあっちこっちに跳ねている彼の髪が、左だけ前髪を残し、残りはデンゼル同様、オールバックでまとめられていた。
 だからと言って、スプレーでカチコチに固めているのではなく、あくまで自然に後ろに流れるように見えるのだから不思議だ。

 黒いコートに身を包む彼は、金色の髪が良く映えて……本当に文句のつけようもない程カッコ良かった。

 少々疲れた顔をしていたクラウドだったが、子供達…そしてティファの姿を見てポカンと口を開ける。
「クラウド!物凄くかっこいいよ!!」
「すっげー、俺も大人になったらクラウドみたいにそんな服が似合う男になりたいな〜!」
 子供達に半ば抱きつかれて、クラウドは漸く我に返った。
 彼にしては実に珍しく、満面の笑みで子供達を見つめる。
「二人共、本当に良く似合う!」
 そして、視線を上げて呆けたように見つめているティファに、
「ティファも……凄く綺麗だ……」
 すんなりと素直な感想を口にした。

 ボンッ!!

 音を立ててティファの顔が真っ赤に染まる。
 そんなティファを見て、クラウド自身も何を口走ったか自覚し、顔を赤くした。

「はいはい、それじゃあ子供達から撮影お願いしますね!」
 何とも初々しい二人の姿に苦笑しながら、ハイトが撮影開始の声を上げた。



 子供達の撮影は順調だった。
 二人共、初めの頃こそ緊張気味で、笑顔もどこか強張っていたが、それもすぐになくなっていた。
 撮影に携わるスタッフの一人一人の温かな言葉と笑顔に、緊張がほぐれたのだろう。
 それに、デンゼルとマリンは元々が他の子供達よりも肝が据わっている。
 子供達の撮影はハイトも驚くほど順調に終了した。

 撮影中、ずっとその光景を見ていたクラウドとティファは、実は心中穏やかではなかった。
 何と言っても、次は自分達なのだ。
 引き受けたとは言え、正直子供達のように度胸が据わっているとは言い難い…。
 勿論、命のやり取りといった方面なら、イヤというほど味わってきたのでそっちの覚悟は出来るのだが……。


 モデル……。


 無理かもしれない……。


 ここまで来て、既に逃げ腰の親代わりだったりする。



「はい、それじゃあデンゼル君、マリンちゃん、本当にありがとう。次は、クラウドさんとティファさん、お願いします」


 どっきーーーーん!!!


 二人はビクッと身体を揺らすと、強張った笑みを顔に貼り付けてギクシャクとハイトの元へと向かった。
 そんな二人に、子供達は吹き出し、スタッフ一同は苦笑し、ハイトは目を丸くしている。

「大丈夫ですよ、そんなに大変じゃないですから。それに、今回はお二人の顔をあまり見せないようにする為に、『盾』となる人物も呼んでますからね。彼らに任せてくれたらOKです」
「「彼ら?」」

 クラウドとティファが声を揃えたとき、タイミング良くその『盾』達が現れた。

「ハイトさん、遅れました!」
「すみません、遅くなりました!」
「「「「あ…」」」」

 スタジオに駆け込んできたロキとアディーテに、四人はびっくりしてハイトを見た。

 ハイトは、悪戯が成功した子供のような顔をすると、
「ロキにはティファさん、アディーテにはクラウドさんがそれぞれパートナーとして組んでもらいますね。それで、ロキとアディーテを前面に押し出す形にして、クラウドさんとティファさんはロキとアディーテの後方で絡む…とまぁ、こんな感じです」


『『どんな感じですか!?』』


 二人の心の叫びを余所に、他のスタッフにテキパキと指示を出す。
 子供達様にセッティングされていたテーブルなどの小道具は全て撤収され、変わりに真っ黒の壁紙が天井からぶら下げられる。
 照明もそれに合わせて周りを暗くされた。
 ハイトが言うには、カメラから覗くとモデルが闇から浮き出たようなそんな仕上がりになるのだそうだ。

「クラウドさん、よろしくお願いします」
「ティファさん、どうぞよろしく」
「「こ、こちらこそ」」

 ガチガチに固まっている二人に、モデルの二人は優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。私達がリードしますから」
「じゃ、俺達かららしいんで、ティファさん、行きましょうか」
「は、はい!」

 カクカクとぎこちなくロキの後ろに続くティファに、クラウドは心配そうな顔で見送り、子供達は声を殺して笑っている。

 二人が照明の当たる中央に到着すると、まずロキがティファの細い腰を左腕で抱き寄せ、ティファの右腕を自分の首に絡ませた。
 そして、やや足を広げて上体を捻るようにカメラの方へ向くと、空いた右手はティファの左手を軽く握って高々と上げる。
 そう…。
 まるでダンスの途中のポーズだ。
 ハイトは満足そうに笑うと、シャッターを切り始めた。

 次々ポーズを決めるロキに、ティファは終始無言で従った。
 と言うよりも、頭が真っ白で口を挟む事ができなかっただけ…。


「ティファ……綺麗だよね…」
「うん……しかも、ティファの顔が微妙に見えそうで見えないって言うのが流石だよな」
「見えても横顔とかだし、ティファのいつもしてるお化粧とは全然違うから、絶対に他の人にはバレないよね」
「うんうん!それにしてもさ……ロキの兄ちゃんってカッコイイよな〜」
「うん!さっきからハイトさんに何にも指示を出されてないのに、次々ポーズ決めちゃって……カッコイイ!」


 子供達の囁き声がクラウドに耳に届く。
 子供達のそんな会話が更にクラウドの心を暗いものにしていたのを、誰も知らない。


 目の前の輝く照明の中、プロのモデルと共演しているティファは…それはそれは綺麗だった。
 恥ずかしそうに染められた赤い頬も、その横顔も……全てが眩しい。
 そして、いくら仕事とはいえ、自分以外の男性と身体を密着させている事がどうにも許せない。

 言ってみれば、ただのヤキモチなのだ。

 洗練された身のこなしをするロキに、素直に従う彼女。
 イライラする…。
 彼女に触れて良いのは自分だけ……のはず……なのに……多分………。


「は〜い!良いですよ!お疲れ様でした!!」
 ハイトの満足そうな声で、クラウドは思考の渦から現実に引き戻された。
 気付くと、ティファがロキに向かって頭を下げ、次いでハイトに頭を下げている。
 そうして、漸く自分の元へと駆け寄って来た。
 ティファは、初めての撮影の余韻のせいか、まだ息が少々荒く、頬も赤く染まっている。

「あ〜、物凄く緊張しちゃった」
「お疲れ様!」
「ティファ、すっごく綺麗だったよ!あれだったら、絶対に他の人にはティファだってわかんないぜ」
「ありがとう」
 子供達と満面の笑みで会話をする彼女に、クラウドは漸くざわめいていた心が落ち着くのを感じた。
 照明の下のティファは、まるでティファではない様な……そんな気持ちになっていたから…。

 ティファが何か言いたそうにクラウドを見上げ、そして、クラウドもティファに一言口にしようとした時、
「クラウドさん、お願いします!」
 無情にもハイトが撮影開始を告げたのだった。

「クラウド、頑張って!」
「クラウド、右手と右足同時に出したらみっともないからな」
「………デンゼル……今日はおやつ抜きな」

 猛然と抗議の声を上げる息子の声を背で受けながら、クラウドはアディーテに先導される形で照明の下へ立った。

 照明の下に立つと、スタジオ全体が見渡せることに気付く。
 スタッフと子供達、そしてティファが自分を見つめている事に、クラウドは今更ながら後悔していた。

『こんなに沢山の視線に晒される事なんか、今までの人生で…なかったなぁ』

 心の中でこっそり溜め息を吐くクラウドに、アディーテがそっと身を寄せてきた。
「じゃ、クラウドさん、いいですか?」
 ニッコリと笑いながらクラウドの右手を自分の腰に回し、左手を後頭部に回させる。
 アディーテの手は、右手がクラウドの腰、そして左手はクラウドの右肩に乗せられ、丁度クラウドの肩口からアディーテの顔が覗く配置となった。
 アディーテはそのままクラウドをカメラに対して後ろ向きになるように体をずらし、右足を大きく開いてクラウドの身体から覗くようなポーズを取った。
 このポーズだと、カメラはクラウドの背中とアディーテの顔、足、両手しか撮る事が出来ない。
 ハイトは実に満足そうにシャッターを切った。

 それからは、ティファと同じ。
 次々アディーテにポーズを決められ、それに従うクラウドはドキドキとしながらもそれに従うしかなかった。


「は〜い、良いですよ!お疲れ様でした!!」

 ハイトの声が聞えたのは、撮影が始まって何時間たった頃だろう…。
 もう頭の中が真っ白で何が何だか分からない。

 それでもクラウドは、ティファがしたようにアディーテとハイトに頭を下げる事を忘れなかった。


「クラウド、物凄くかっこよかった〜!」
「本当に!!何か、見ててドキドキしたよな!」

 子供達に褒められ、漸く撮影が終わった実感が湧いてくる。
 ふと、視線を感じて顔を向けると、何とも言い難い顔をしたティファが立っていた。
「ティファ?」
 首を傾げるクラウドに、ティファはハッと我に返ると、「お疲れ様凄く良かったよ」とかなりの棒読みで労いの言葉を口にした。

 何ともぎこちない彼女の様子に、クラウドは心配そうに眉を寄せ、子供達は、親代わりの二人を見上げて『やれやれ』と言わんばかりに肩を竦めている。

 そんなストライフファミリーに、
「最後ですし、折角ですからご家族の記念写真を撮っていかれませんか?」
 ハイトがそう申し出てくれた。
 皆は顔を見合わせると……。


「「「「よろしくお願いします!」」」」


 嬉しそうに微笑み合ったのだった。



 その日の晩。
 子供達は既に夢の中へ冒険に行っている。
 大人二人は、ティファの煎れてくれた珈琲を味わいながら、今日を振り返っていた。

「それにしても、モデルさんって大変なのね」
「ああ…、まさか照明があんなに暑いとは思わなかったしな」
「うんうん!それに、あんなに沢山の視線が集まる中で自分を出すだなんて……」
「…俺はもう二度と出来ないな」
 しみじみ呟くクラウドに対して、ここでティファは少々拗ねたような顔をした。
「あら!アディーテさんとはとっても上手くやってたじゃない」
「な!それを言うなら、ティファだってロキさんと息が合ってたじゃないか」
「そんなことないもん。ロキさんの言う通りにしてたら、いつの間にか終わってたんだから」
「俺だって、アディーテさんの言う通りにしてたらいつの間にか終わってたんだ」
「…………」
「…………」

 ほんの少し、意地を張ったように見つめあっていた二人だったが、プッ…と吹き出すとクスクス笑い合った。
 お互いがヤキモチを妬いた事に気付いて、照れ臭くなる。

「ま、でもさ。今日、モデルの仕事を引き受けて良かったよ」
「どうして?」
「……いや………その……」
「?」
「……ティファが……綺麗だったし……」
「……クラウドも本当に素敵だったよ……」
「……ありがとう……」
「……私こそ…ありがとう…」

 そうしてまた、ひとしきり笑い合うのだった。

 後日。
 ハイトが出来上がってまだ出版されていない雑誌を持って店にやって来た。
 勿論、開店前なので誰の目も気にしなくて良い。
 丁度、配達の仕事が早く終わったクラウドも交え、ストライフファミリーとハイトがその雑誌を覗き込む。
 子供達はその出来の良さに感嘆の溜め息を漏らし、クラウドとティファは息を飲んだ。

 子供達は実に愛くるしくページを飾っている。
 そして、クラウドとティファは、何とも艶かしく大人の雰囲気を醸し出していた。
 それに、クラウドとティファだとは誰も気付かないだろう…。

「凄いです!」
「本当に!私、友達に自慢しちゃおう!」
「俺も!……でも、これが俺だって皆信じてくれるかな…」
「大丈夫だ。どこから見てもデンゼルだろ?」

 笑い合う四人に、ハイトは満足そうに何度も頷いている。
 そして、ハイトは本日最大の『お土産』を大きな茶封筒から取り出した。

 その中身は…。
 幸せそうに映る家族写真。

 残念なのは、モデルの衣装のままで撮った為、店に飾れないという一つだけ。
 だが、それも自分達の寝室を飾ってくれる素敵なインテリアの一つになるだけの話だ。


 ハイトは、何度も礼を言うクラウド達に、心から嬉しそうに微笑み、帰って行った。



 後日、その雑誌が販売され、謎の美男美女モデルについて、問い合わせが殺到したとかしないとか……。



 あとがき

 随分長くなっちゃいましたが、漸く完結です。
 こんなに長くなっちゃってごめんなさい。
 タイトルとこれまた微妙にずれた感じがするのですが……(汗)。
 要するに、クラもティも普段からあんまりお洒落しないと思うのですよ。
 そんな二人が、お洒落をした姿を見たら……(///)みたいな話が書きたかったのになぁ…どこで間違ったんだろう…?

 ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!!