何故こんなことに…!? 呆然とするクラウドの頭は、混乱を通り越して真っ白になっていた。 意外すぎて信じられない真実(後編)やぐらの上に立つ悪魔の声をクラウドはどこか別世界にいるかのような気持ちで聞いていた…。 そうして…。 「………」 クラウドは硬直したままやぐらの上に立っていた。 いやもう、無理だから! なにがどうなってこんなことに!? 俺は歌えない! 歌なんか知らない!! って言うか、シドもティファも『ご愁傷様』って顔して見送るな! 誰か止めてくれ!! 等々の抗議の言葉を一言も発する間もなくやぐらに押し上げられたクラウドは、自分の置かれている立場に呆然とするしかない。 人の力とは恐ろしい…。 集団でこられたら、英雄だろうがなんだろうが太刀打ち出来ない。 (あぁ…だからリーブはWRO隊員達の結束を重視してるのか…) などなど、現実逃避モードになっているクラウドに、諸悪の根源が笑いながら彼の肩に肘を置いた。 「ほら、なにか選んでよ」 「………ユフィ…」 「ここに立ったら歌うまで降りられないよん」 「……お前…最初からこのつもりで…」 「へへ〜♪ティファと子供達を置き去りにして家出した罰だよ〜だ」 「………」 ひそひそと小声で交わしたので、誰にも聞かれていないだろう。 ユフィを目で殺さんばかりの勢いで睨みつけていたのだが、ユフィの最後の一言と彼女の悪戯っぽく輝いている瞳の奥に光った真剣な色を前にしてあっという間に怒りは沈没。 うな垂れるしかない…。 ユフィが差し出した曲のリストにクラウドはノロノロと視線を向ける。 早く選んで歌わないと注目している人々が白けてしまうだろう。 だが、だからと言ってどうしたら……。 ふと強い視線を感じてリストから目を逸らす。 視線の先にいたのは、顔を輝かせて期待に胸を膨らませている子供達と、ハラハラしているティファ。 ティファのハラハラした表情は切羽詰っていて、クラウドの痛みをそっくりそのまま感じ取ってくれていることが充分に伝わってきた。 (……ティファ…) ティファはクラウドが歌えないことを知っている。 だからこそ、大衆の面前で恥をかくことになるかもしれないクラウドを案じ、ハラハラ、ヒヤヒヤしているのだ。 ティファにこれ以上心配かけさせるわけにはいかない! クラウドは決意した。 恥をかくことになったとしても最後まで歌おうと。 ティファの心労を取り去るためにも、さっさとこの忌まわしい任務を果たしてしまうのだ! リストをざっと見る。 全く歌を知らないわけじゃない。 子守唄くらいなら、母が幼い頃に歌ってくれていたのをかすかに覚えている。 よし、子守唄でいこう! そう決めて子守唄を探していたが、ふとその目が止まった。 「……これにする」 「へっ!?」 クラウドの選んだその曲に、ユフィは素っ頓狂な声を上げた。 まじまじと、その選んだ曲とクラウドを見比べる。 「…これ、本当に歌うの?」 「あぁ…これでいい」 「本当に?」 「…いいって言ってるだろ…」 「…そ、そう…」 どよどよ。 英雄のリーダーが歌うということで異様な盛り上がりを見せていた祭り客達が、段々と不満そうにざわめきだした。 中々歌いださないことに焦らされたからだ。 ティファはもう気が気ではない。 「クラウド…大丈夫かしら…」 思わず零れた言葉に、デンゼルとマリンはどこまでものんびりとしていた。 「クラウドの歌を聴くの、初めてだな」 「うん!なに歌うのかなぁ」 期待で弾む子供達には悪いが、クラウドが歌を知っているとはとてもじゃないが思えない。 不安しか抱けないティファの目に、クラウドがマイクを握ったのが映った。 (本当に歌う気!?) ギョッとしながらティファは固唾を呑んだ。 シドもティファと同じようだ。 「アイツ…大丈夫かよ…」 ボソリ…と呟かれたその言葉が耳に痛い。 ハラハラハラハラ。 知らず知らずのうちに胸の前で固く手を握るティファと、やぐらに立って見世物にされているクラウドの視線が交わった。 「2番、クラウド・ストライフ、『マイ・ラブ』を歌います」 人々の歓声と大きな拍手が上がる。 子供達も周りの人達に負けないくらいの大きな拍手と歓声を上げた。 だが、その中で3人だけその輪の中に入れず硬直した人がいる。 言わずもがな、ティファ、シド、シエラだ。 いや、やぐらに立っているユフィも入れて4人。 クラウドの選曲に唖然とする。 いやいやいや、『マイ・ラブ』ってあんた!! めっちゃバラードだから!! というか、知ってるの、そんなラブソング!! 思いっきり『興味ないね』って言いそうな部類の歌なんですけどー!? クラウドを良く知る4人だからこその驚愕。 半分パニック状態にまでなってしまったティファの耳に、残酷にもバラード調の音楽が流れ込んできた。 (あぁぁぁぁあ!ダメダメ、絶対にクラウド、歌えないわ!!なんでよりによってこの曲なの!?ハッ!もしかしてユフィが選んだの!?クラウドをからかうためにしても、たちが悪すぎるわ!!) クラウド自らが選んだ場面をバッチリ見ていたはずなのに、そんなことなどすっ飛んでしまっている。 ティファはバクバクとやかましい心臓を押さえるかのように胸の前で組んでいた手を胸に押し付けた。 クラウドがマイクを口元に運ぶ。 歌うために軽く息を吸い込む。 その一つ一つの動作が異様に長く感じられた。 いつの間にか歓声を上げていた人達がクラウドの歌を聞くために静かになっていることに気づかない。 ティファの気をひきつけているのはただ1つ。 クラウドだけ…。 そして、そのクラウドの歌が始まった…。 いつも、当たり前のように、傍に、居てくれた。 そんな、キミにボクは、 甘えて…いたんだね。 えっ!? ティファとシドが思わず驚きの声を洩らした。 デンゼルとマリンはクラウドの歌声に聞き入ってる。 「まぁ!素敵な声ね〜」 シエラがうっとりと呟いた。 シエラだけではない。 他の祭り客達もうっとりと聞き入っている。 ティファとシドは目を見開いて、ただただやぐらの上で歌うクラウドを見つめた。 クラウドの後ろで控えているユフィもあんぐりと口を開けている。 まさか…。 まさか、あのクラウドが!! これほどまでに歌唱力を持っていたとは誰が信じられる!? 驚き固まっている仲間達を前に、クラウドの歌は続いた。 キミが泣いているときに、 なぐさめの言葉一つ、 かけて…あげられない、ボクだけど、 これだけは言える、 やくそく〜出来る。 ボクの、心は…。 これから先も…キミだけ…。 ドキンッ! ティファの心臓が別の意味で跳ね上がった。 まるでクラウドに告白されたかのような錯覚に見舞われたのだ。 だが、そう感じてしまっても仕方ないではないか、クラウドの視線は片時もティファから逸らされないのだから。 キミに、似合うはずのドレス、 いつかボクの、ためだけに、 ボクのためだけに、着て欲しいんだ。 そう言ったなら、恥ずかしがりやのキミは、 きっと、真っ赤になるんだろうね。 でも、そんなキミも、 全てが、全てが、い〜と〜し〜い〜…。 マイハ〜ト、フォ〜、エバ〜…。 マイラ〜ヴ、フォ〜、エバ〜…。 大喝采の中、クラウドの歌は終わった。 * 「クラウドすっごい!」「うん、すっごく良かったよぉ!!」 歌い終わったクラウドは、人々の盛大な拍手を受けながらティファ達の元へ戻ってきた。 僅かに頬が高潮しているのは歌い終わった後の高揚感のためだろうか? それとも、やはり恥ずかしかったのだろうか? いや、それにしては堂々とした歌いっぷりだった。 「クラウド…本当に素敵だったわ」 「ティファ…」 「本当に、本当に素敵だった…」 「……ありがとう…」 感動のあまり、声を震わせ目を潤ませているティファに手放しで褒められ、クラウドははにかむように微笑んだ。 「クラウド…、ユフィもそうだったがおめぇの歌の方が意外だったぜ…。どこで覚えたんだ、あんなラブソング」 似合わない。 言外にそう込めながらもシドは本当に、心の底から意外で仕方なかった。 まさかクラウドがここまでの歌唱力を持っているとは! 絶対にヴィンセントやナナキ、バレットは信じないだろうな、と心の中で呟く。 事実、この目にしても…、この耳で聞いても信じられないのだから。 本当にびっくりだ。 「店のラジオでよくかかってたからな、自然と覚えた」 褒められ慣れていないクラウドは、ちょっぴり居心地が悪そうにはにかみながらシドの質問に答えた。 なるほど。 店のラジオね。 そう言われたら納得するしかない。 確かに、セブンスヘブンではラジオを流している。 だが、覚えたからと言って歌えるとは限らないではないか…。 意外な才能を持っているらしいクラウドに、シドはただただ驚くばかりだった。 と、ここで少しだけ意地悪をしたくなった。 ニヤッと笑ってクラウドの肩を抱く。 「ところで、一体誰のことを想いながら歌ったんだ?」 「 ! 」 耳元で囁かれたその言葉に、クラウドはあっという間に真っ赤になった。 勢い良くシドの腕を振り払うと、ビックリしているデンゼルとマリン、ティファに気づかないのか、 「うるさい!」 クルッと背を向け、あっという間に人ごみの中に消えていった。 「あ、クラウド!?」「どこ行くんだよ!!」「迷子になっちゃうよぉ!」 慌てるティファ達を尻目に、シドは悪戯が成功したことに満足し、大口を開けて笑った。 「もう、ほんとに子供なんだから」 めっ! シエラに軽く頬をつねられても、シドの笑いは収まらなかった。 結局。 迷子になったクラウドがティファ達と合流出来たのは、予想だにしない2度目のご指名を受けて歌った後だった。 「あ〜あ、つまんない。クラウドにいいとこ取りされちゃったよぉ」 ちょっぴり拗ねたフリをしながらそうぼやいたユフィに、ティファが後日、感謝の印として特製ミートパイを冷凍保存したものを贈ったのは2人だけの秘密だ。 「〜♪〜〜♪」 後日。 クラウド・ストライフは時々鼻歌を歌うようになったという。 そんな彼を見たいがためにセブンスヘブンに足しげく通う客が出来たことも…。 あるいは、そんな彼を不気味がる人が出てきたことも当の本人は気づいていない。 そして。 「はぁ…本当に素敵だったわ…。どうしてあの時、録音してなかったのかしら…」 うっとりとその時のことを思い出しながら、さてどうやってもう1度クラウドに歌ってもらって、首尾よく録音したら良いのか…。 ティファが悶々と悩んでいることにも気づいていない。 ティファの望みを叶えるべく、子供達が額をつき合わせ実行したのはそれから数日後だったとかなんとか…。 あとがき はい、333333番キリリク小説ですvv リク内容は『ユフィや子供達の何かがきっかけで家族とユフィでカラオケに行く事になってしまう。クラウドは自分は絶対に歌いたくないが、ティファや子供達の歌は聞きたくて仕方なく、結局「聞くだけで歌わなければいいか」と同行を決意。そしてティファ達の楽しそうで可愛い姿に「来てよかった…」と思う。その後お約束の「クラウド歌えコール」→拒否するも意外に上手かったor超音痴だったor子供たちと一緒に子供の歌を歌うことで妥協(ここはおまかせします)→そして後日クラウドが意外に歌うのを気に入ったらしく、一人で鼻唄を歌っていた…。みたいなギャグ(ほのぼの)話』 だったのですが、見事に捏造設定となりました((__|||) それなのに、お優しくもオッケーを出して下さった『ゅぅ』様、本当にありがとうございます♪ とっても楽しいリクエスト、ありがとうございました!! |