なんかさ…。 目の前でびっくりし過ぎる事が起きると、本当に頭の中って真っ白になるんだな…。 いつか必ずその日は、ずっと前から『家族』皆でエッジの街外れにある草原にピクニックに行く事になってた。 今時ピクニックを家族でするって事を楽しみにしてる…なんて友達とかに知られたらバカにされそうだけど、それでも俺もマリンも物凄く楽しみにしてたんだ。 滅多にない『家族』との時間。 そりゃ、毎日クラウドもティファも俺達の為に頑張って働いてくれてるんだ。 血の繋がりも何にもない俺達の為に。 だから、普段からあんまり『わがまま』は言わないようにしてたんだよな…無意識に。 でも、それがクラウドとティファには凄く負担になってたみたいなんだ。 お店に来てくれる常連さんの中にも、俺達みたいな年齢の子供を持つ人って沢山いてさ。 よくそういう人達に俺達は比較されてたから…。 『デンゼル君は本当にしっかりしてるね。うちの息子ときたら…』 『マリンちゃんは本当に良くお手伝いしてるよねぇ。その点、うちの娘ったら…』 そういった台詞をティファとクラウドはずっと聞かされてたんだ。 だから……なんだろうな。 ずっと前からクラウドとティファは丸一日、俺とマリンの為だけに時間を使おう……って決めててくれてたんだ。 その事を知らされたのは、一昨日の事だった。 俺もマリンも顔を見合わせて……。 物凄く喜んで……。 物凄くはしゃいでさ。 だから……。 クラウドは言えなかったんだ。 体調が悪いって…。 言ってくれれば良かったのに。 家族皆で過ごせる事が大切だったのに。 どこに行かなくても、クラウドとティファと……そしてマリンと四人で過ごせる事こそが大切だったのに…。 それなのに…。 ダメだよな。 俺はまだまだ子供でさ。 クラウドがあんまり表情を変えないのも、いつもの事だって…そう思ってたんだ。 流石にティファは気付いてたみたいだけどな。 でも…。 まさかさ…。 「デンゼル、あんまり遠くに行くなよ」 「大丈夫だって!そんなに子ども扱いするなよな!!」 はしゃぎまくる俺に、クラウドがそう声をかけた。 天気は上々。 景色は綺麗。 それに、何と言っても久しぶりに『家族』とのんびり時間を気にせずに過ごせるんだ。 こんなに嬉しい事ってあんまりないよな? 今日は俺とマリンの為……って言って、ティファはセブンスヘブンを『臨時休業』にするって言ってくれた。 だから、今日はとことんまで楽しめるんだ。 お店をしないといけないなら、こんなにのびのびと時間を過ごせないもん。 やっぱり、色々準備があるから…。 だから、本当に嬉しかったんだ。 今日一日は、俺の自慢の『ヒーロー』と自慢の『二人目の母さん』が俺とマリンだけの為にいてくれるんだぜ? ガキだな〜…って思いながらも、どうしても嬉しくてさ。 ついつい、クラウドの忠告を聞き流しちゃったんだ。 暫く草原をマリンと駆け回ったり、珍しい草花を見つけて色々言い合ったり……。 お腹が空いたら、ティファが早起きして作ってくれたお弁当を『家族』皆で囲んで食べて…。 本当に……楽しかった。 本当に……幸せだった。 俺は、クラウドとティファにとっては『赤の他人』のはずなのに…。 こんなにも大切にしてくれている…。 それがどれだけ幸せなのか…。 どれだけ贅沢なのか…。 本当はさ…。 心の底から……分かってた。 感謝しても仕切れない……ってさ。 でも…。 あんまりにも居心地が良いから…。 あんまりにも二人が優しいから…。 あんまりにも……幸せすぎて…。 俺は……見失いかけてたんだ。 クラウドもティファも……『人間』なんだって。 奇跡なんかじゃないんだって。 俺と変わらない……ただの『人間』なんだって……。 心のどこかで、クラウドとティファを『神仏化』してたんだよな。 だってさ。 こんなに世の中、荒れてるのに、赤の他人を丸々受入れてくれる人が実際にいるだなんて……信じろって言う方が難しいだろ? マリンは昔の仲間関係で俺なんかよりもうんと受入れられる『境遇』にあるわけだし…。 だから…。 俺はいつの間にかクラウドとティファが、俺と変わらない『人間』だって忘れてたんだ……。 「ティファ、クラウド!」 「なに、デンゼル?」 小首を傾げるティファと、どこか呆けたようなクラウドが俺を見つめる。 俺は、満腹になって満足なお腹をさすりながら、さっき見つけた『もの』がある方を指差した。 「あそこにすっごく綺麗な花が咲いてるんだ!ちょっと崖の下なんだけど、見に行かない?」 俺の隣で、マリンが目を輝かせてる。 さっき、二人で見つけたんだ。 青紫色したすごく綺麗で小さな花の群集。 だから、昼ごはんを食べた後、『皆』で見に行きたかったんだ。 もしかしたらクラウドは仕事で色々大陸中を走り回ってるから見た事あるかもしれないけど、エッジからほとんど出たことのないティファは知らないだろうと思って…。 ようするに、二人の輝く顔が見たかったんだよ…。 そしたら…。 「悪いけど、ちょっと疲れたみたいだから……三人で行って来いよ」 まさか、クラウドがそんな事言うだなんて思ってもいなかったから、物凄くショックだった。 クラウドなら……。 絶対に『へぇ…。じゃあ行ってみるか?』ってティファに聞いてくれると思ってたんだ。 それで、ティファも嬉しそうに笑って頷いてくれると思ってたんだ。 それなのに……。 「クラウド!クラウドも見てよ!!絶対に綺麗でびっくりするから!!」 いつになく意地になって、そこから動こうとしないクラウドの腕を引っ張った。 そしたらティファが、 「デンゼル…。クラウドは疲れてるから……。三人で行きましょう?」 そう言って、俺の手をクラウドから引き剥がした。 ティファがいくら女の人だからって言っても、俺なんかが敵う筈ないだろ? あっさりとクラウドから引き剥がされちゃってさ…。 もう……。 それだけで……。 物凄く悔しくて。 物凄く情けなくて。 物凄く……悲しくなった…。 所詮、俺は『赤の他人』なんだ……って。 馬鹿な事考えちゃって。 気がついたら、 「良いよ!じゃあ俺一人で見に行ってくるから!!」 そう捨て台詞まで吐いて、慌てる三人を置き去りに走り出してた……。 何か…その時はもう…クラウドに拒絶されたって意識だけが頭の中をグルグル回ってて…。 やっぱり俺が『赤の他人だから』ってバカな事考えてて…。 気がついたら、その崖まで走って来てたんだ。 クラウド達のいるトラックからは結構距離のあるその崖下を、何となく見下ろす。 花畑はマリンと見つけた時と同じ様に、とっても綺麗に風に揺られて波を打っていた。 それでも、その花畑を見つけた時とは打って変わって、俺の胸にはどす黒くて重たいものがズ〜ンとのしかかってたんだ。 物凄く……悲しかった……。 俺がクラウドやティファを信頼して、大好きに思ってるほど、二人は俺の事を思ってない……。 そんな気がしちゃってさ。 ん〜〜。 今から考えても、なんであんなにガキみたいに意地張ったり、拗ねたりしたのか不思議なんだけど…。 とにかく、俺は崖下の花畑を見ながら、何だか視界がぼやけてきたんだ。 慌てて袖で目をこすって…。 後ろから追いかけて来てるマリンにバレない様に、そっぽを向いてた。 そしたら…。 聞える筈のない『音』が耳に響いてきた…。 この『音』は……人間の出す音じゃない…。 自然の風が出す音じゃない…。 これは……!! 身体が強張る。 ギクシャクとその『音』の方を振り向くと、牙をむき出したモンスターが群れを成して俺をジッとねめつけていた。 全身の血が凍りつくかと思った…。 赤いモンスターの瞳に、身体が全く言う事をきかなくなる。 どこか遠くでティファの叫び声が聞えた気がした。 そして、それよりもっと近くで 「デンゼル!!!」 と叫ぶマリンの声が聞えた。 マリンが小さな身体を俺にぶつけてくる。 モンスターから俺を守るつもりなんだ。 頭で理解するよりも、本能でそれを理解した。 その瞬間、モンスターの群れが俺達に襲い掛かってきた。 もう…。 訳が分からなかった。 何とか思い出せるのは。 俺の上に覆いかぶさるようにしていたマリンを引き剥がして、逆に俺が覆いかぶさった事。 そして、ティファの悲鳴と……。 モンスターの悲鳴……。 ギュッと眼を瞑っていた俺には、何の衝撃もない。 俺の身体の下で、マリンが小さく震えているのを感じる。 恐る恐る目をこじ開けると、最初に見えたのは……。 草原の草花を濡らす真っ赤な『緋色』。 その先にあるのは……。 俺が……。 憧れて止まない大きな背中……。 ティファとマリンの悲鳴が聞える。 それでも、クラウドは倒れなかった。 群れの最後の一頭を倒すまで、クラウドは武器を振るい続けた。 途中でティファがグローブを装備して加勢したけど、それでもクラウドが倒したモンスターの数の方が多かったと思う。 「大丈夫か!?」 青白い顔をして、肩で息をしながら振り返ったクラウドに、俺とマリンが強張った顔を何とか縦に振って見せると、クラウドは心から安心した顔をして……。 倒れてしまった……。 それからの事はあんまり覚えてない…。 とにかくティファが『止血しないと!!』『デンゼル、ここ、絶対に離さないで押さえてて!!』『マリン、デンゼルと一緒にここにいて』って何か沢山捲くし立てるように言い捨てて、一時トラックまで走って行って……。 気がついたら、俺達はWROの医務室前の廊下に座ってた…。 『持つべきものは、やっぱり頼もしい仲間よね』 クラウドの事が心配で仕方ないくせに、俺達の事を思って必死に冗談っぽく明るい口調でティファが言ってくれたのをぼんやりと覚えてる。 治療室のドアが開いて…お医者さんとリーブのおっちゃんがホッとした顔を見せてくれて…。 ティファとマリンが泣き出して……。 そんな光景を、俺は何だか一歩下がった所から見ていた…。 「まったくクラウドさんは無茶し過ぎですよ。元々熱があったんでしょう?それなのに、無茶して、挙句の果てに怪我なんかされたら、いくら命があったって足りませんよ?」 呆れたように言うリーブのおっちゃんに、俺はスーッと血の気が引くのを感じた。 俺のせいだ…。 俺があんなにはしゃいだりしなかったら…。 俺があんなに喜んだりしなかったら…。 俺がもっと、大人だったら……そしたら、クラウドの体調が良くない事くらい分かったはずなのに!! 自責の念…っていうのかな…。 そんな感情が胸を一杯にして、頭の中は真っ白なのに、目の前が真っ暗でさ…。 もう…。 これ以上…。 セブンスヘブンには……クラウドとティファ、マリンの傍にはいられない……そう思ったんだ……。 その時。 「デンゼル?」 治療室のベッドに横になってるクラウドが声をかけてくれた。 いつまで経っても部屋に入って来ない俺を不思議そうに見ている。 ティファとマリンも……そんな俺を小首を傾げて見つめていた。 「さぁ…」 リーブのおっちゃんが俺の背中を軽く押してくれた。 よろよろと、クラウドの寝ているベッドまで歩いていく。 何だか、足元がフワフワしてて……まるで雲の上を歩いているみたいだ…。 「どうした、デンゼル?大丈夫か?」 「……それは、クラウドが言う台詞じゃないだろ?」 「そうか……それもそうだな」 ニッと笑って見せるクラウドを、俺は無表情に見下ろしていた。 だってさ…。 どんな顔をして良いのか分かんないじゃん…? 本当は、まっさきに「ごめん」って言うべきだって分かってるんだ。 でもさ。 言えないんだ…。 まるで、その言葉を忘れてしまったかのように、口が動いてくれないんだ。 息をするのも苦しいんだ。 そうして黙ったまま俯いていた俺に、背中に傷を受けたクラウドがうつ伏せの状態で手を伸ばしてきた。 「なに泣いてるんだ?」 クラウドのちょっと熱過ぎる指先が、俺の頬をそっと拭う。 その時に初めて、俺は自分が泣いてるんだって分かった。 「バカだな……。そんなに自分を責めるな。むしろ、体調管理の出来なかった俺が悪いんだから…」 何も言ってないのに、クラウドはそう言って俺の心の中にあるドロドロしたものを拭い去ってくれた。 その途端。 もう、今思い出しても恥ずかしいんだけど…。 ベッドに寝ているクラウドにしがみ付いて大声で泣いた。 そんな俺を、ティファもマリンもバカにする事もなく、むしろ俺を抱きしめて一緒に泣いてくれた。 こんなに幸せな事って……他にある? こんなに捻くれ者の俺を、こんなに大切にしてくれる『家族』がこの世界のどこかに他にいる? 絶対にいないね!! 俺は……本当に幸せ者だ…。 暫く大声で泣いて、泣きじゃくった俺を、クラウドは心から嬉しそうに笑いながらこう言ってくれた。 「やっと、俺もデンゼルの『父親』になれたな』 ってさ。 その言葉に、また泣けて仕方なかったんだけど、そんな俺に、 『私も、デンゼルの『お母さん』なんだからね!」 『私も、デンゼルの『妹』なんだから!!』 って、ティファとマリンがそう言ってまた俺の為に泣いてくれた。 今は、まだまだ俺には力はない。 これから先、どれだけ頑張ってもクラウドみたいに強い男になれないかもしれない。 でもさ。 それでも…。 この『家族』を守れる『力』だけは……『心の強さ』だけは、この世界の誰にも負けないように、これから大事に大事に育てていくんだ!! 今はまだ、力不足だけど…。 それでもいつか必ず……!! そう心に…自分に誓って。 俺は今日もクラウドとティファと、そして、マリンと一緒に生きていく。 この『誓い』は…。 いつか必ず果たしてみせる。 あとがき 設楽いずき様からのリクエスト『家族を守る為に怪我をしたクラウドのお話で、子供達視点で・・・・』でした。 デンゼル視点にするか、マリン視点にするか迷ったのですが、多分デンゼルは心の奥底で『ここにいても本当に良いのかな…』という不安を抱えてるんじゃないかと思いまして、思い切ってそっちも解決するべくデンゼル視点にする事にしました。 んで…。 困ったのは『クラウドをどうやって怪我させるか』なんですよね。 拙宅のクラウドはヘタレちゃんですが(おい!)戦闘は一流なので、怪我する場面が……。 ん〜〜〜〜…(← 考え中) あ、そうか!! 家族の為に体調悪いのを隠して無茶させたら良いんだ!!(決定 笑) という具合に出来上がったお話です。 少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです! 設楽様、素敵なリクを本当にありがとうございましたm(__)m |