気づいてしまったら、『知らなかった』ときには絶対に戻れないんだよ。
 気づいたら最後。
 あとは転がっていくのか、それとも流れに逆らって踏ん張るのか。

 私は…流されて転がる方を無意識に選んでたんだよね。
 だからアナタは、悩んでくれてたんだよね。


 本当に……ごめんなさい。






自覚したら…。(後編)







「ティファ〜、遅くなってごめんね〜」
「ただいま〜!」

 汗と埃まみれで2人が帰ってきたのは、空が薄っすらオレンジ色に染まり始めていた頃だった。

「お帰り2人とも。大丈夫、遅くないよ」
「あ〜!ティファ、お店の準備、ほとんど終わってる〜」
「ティファ〜、俺たちの仕事とるなよなぁ〜」

 ガックリ。
 その表現が実に似合う2人の表情に噴き出した。

「ごめんね、お仕事とっちゃって。なんとなくはかどっちゃったんだ〜」
「「 無理しちゃダメ! 」」

 見事に声をハモらせた2人に、恐縮するような仕草をしつつ、
「無理はしていませんよ〜」
「「 ウソばっかり! 」」
 予想通りの返しにまた噴き出した。
 でも、このやり取りの間もずっと心の中には空虚感しかない。

 ねぇ、私が手にしてるのは本当に完璧な幸せだと思わない?
 なのに、どうして私はその『鉛』を抱えてるわけ?

 気づけば『いつのものこと』になっている『自問自答』を繰り返す。
 問いかけても問いかけても答えなんか出ないってとっくに分かってるのに、自分へ問うことをやめられない。
 やめられないし、やめようとも思わないから、子供たちや他の人たちと笑いながら話をしてても頭の中はグルグルとせんないことを繰り返す。
 そうして気がついたら時間が経ってて、仕事に突入したり、仕事が終わってたりする。
 今夜もそうだった。


「…もうこんな時間?」

 店の時計を見て呟くと、最後のお客さんがアルコールのせいなのか上機嫌な顔を向けた。
「ティファちゃんはほんっとうに仕事熱心だよなぁ。俺の会社に雇いたいくらいだ〜」
 少しふらつく足でカウンターに寄りかかる。
「ふふ、どうもありがとう。遅くなったから気をつけて帰って下さいね」
「いやいやいや、冗談じゃなくて本当にそう思ってんの。ねぇ、どう?セブンスヘブンも素敵なお店だけど、俺のとこに来ない?待遇するよぉ?」
 酒臭い息でそうからむ。
 胸の中で小さくため息をこぼしても、表面は完璧な営業スマイル。
 伸ばされた脂ぎっている手をサラッとかわして、レジに向かう。

「そうですね。この仕事に愛想がついたらその時は是非」
「そぉんなこと言って、そんな日が来るわけ?」

 へらへら笑いながら財布を取り出したお客さんのその一言に、私は用意していた台詞を口にする。

「そうですね、人生長いですから、そんな日が来るかもしれませんよ」

 頭の中でシュミレーションしていた完璧な台詞。
 だけど口にした途端、私の心に衝撃が走った。
 ここ最近、空っぽに感じていた心が衝撃に震えたことにビックリするくらい。
 ビックリしたけど、それはお客さんに気づかれなくて済んで、そのことにまたホッとして…。

 なんとも忙しい感情の波に翻弄されながら、千鳥足で夜の帳に消えていくお客さんの背中を見送った。

 そう。
 もうきてたんだ、『そんな日』が。
 だけど、それに気づかないようにして、見ないフリをして、取り繕ってたんだ。
 でも…。
 気づいちゃった。
『そんな日』を心が迎えていたことに、気づいちゃった…。

 奇妙な高揚感は、ここ数日抱えていた胸の奥の鉛をコロンコロンと転がして、私の気持ちをあっちへこっちへと振り回す。
 でも、転がる気持ちは明確にひとつの結論を実行するべく身体を動かしていた。

 手際よく店の後片付けをする。
 無意識に仕事をしていたくせに、ちゃんとこなしていたせいか後片付けで『てんてこ舞い』にならずに済む。
 我ながら、見事な要領のよさだと思うわ。
 そして、私の要領のよさをまだ小さいマリンはきっちり受け継いでくれている。
 それがとても嬉しい。
 そしてそれがちょっぴり寂しい。
 私がいなくなっても大丈夫なように、意識しないで習得してくれたものなのかもって思えるから。
 でも、嬉しい方が大きいから良しとしよう。

 片付けを終えると部屋に戻る。
 タンスを開けて自分の持ち物の中から必要と思われるものを短時間で吟味する。
 タンスの上段に押し込んでいたナップサックを引っ張り出して適当に放り込み、いったんそれをタンスの上段に戻す。
 中身が入ったので押し込みにくいけど、まぁなんとか入ってくれた。
 続いて洗面所。
 歯ブラシ、ブラシ、タオルに化粧ポーチ。
 まぁこれくらいかな?
 後は足りなかったら買い足したら良いんだし。
 それくらいの蓄えは有るもん。
 私のポケットマネーをこの家から持っていっても、子供たちとクラウドは大丈夫よね。
 何と言っても、この星一番の『配達屋さん』が稼いでくれるから。

 洗面所の私物を手に部屋に戻る。
 ナップサックに入れるべく、タンスの上段に手を伸ばした時、私のアンテナに何かが引っかかった。

 あぁ…帰って来ちゃった。

 階下に感じた人の気配は間違いなくクラウド。
 そっか、もう帰ってくる時間だったんだ。

 時計を見ると深夜1時半。
 まぁ予定通りの帰宅だよね。
 それに気づかなかったなんて迂闊だったなぁ。
 でも…まぁいっか。

 クラウドに見つかっても別に良いんじゃない?って言う自分がいたんだけど、私の身体はその意見に耳を塞いでナップサックを見えないようにタンスへ押し込んだ。
 クラウドに見つかったら、きっと大騒ぎになる。
 大騒ぎして欲しいわけじゃないし、悲しそうなクラウドが見たいわけじゃない。

 …悲しそうな顔……してくれるかな…?
 して…くれないかな?
 ううん、してくれるね。
 してくれるだろうけど…。
 それも一瞬で過ぎることだね。

 つらつらとくだらないことを考えている間にも、クラウドの気配が近づいてくる。
 小さく階段のきしむ音。
 この音を聞くのも、今夜が最後。
 そう思ったら、久しぶりに心が小さく痛んだ。
 でも、その感覚はこれまた最近板についてきてしまった『いつものこと』として、すぐ消えていった。

 あぁ…。
 また…私の中から欠けていく。

「お帰りなさい」
 ゆっくり開いたドアから、クラウドが様子を窺うようにして顔を覗かせた。
 まだ私が起きていたとは思わなかったのか、ビックリしたように目を見開いて軽く肩を揺らせた。
 それから、長い息を吐き出して肩から力を抜く。

「ただいま、起きてたのか…」
「うん、お帰りなさい。お疲れ様」

 ゆっくりした足取りでタンスから離れ、クラウドへ手を伸ばす。
 彼が肩に担いでいた荷物を受け取ろうと伸ばした手は、だけど目的の物に触れることなく彼の手に掴まれた。
 そのまま手を引かれてスッポリと抱きしめられる。
 あっと思う間もないほど、性急に抱きしめられて面食らった。
「クラウド?」
 戸惑う私に、クラウドはなにも言わない。

 何か…あったのかな?
 仕事でイヤなことがあったの?
 それとも、もっと別のこと?

「どうかしたの?」

 話しては……くれないかな?
 私に。
 でないと…分からないよ…、クラウド。

「…いや…なんでもない…」

 吐息混じりのその返事は、私の期待を裏切った予想通りのものだった。

 あぁ…そうだよね。
 私に話しても意味はないよね。
 クラウドの抱えている問題を私は解決してあげられないし、私に話したことで気持ちがスッキリする相手でもない。
 分かってた。
 分かってたんだけど…ね。

「ごめんなティファ。心配かけて」

 私の両肩を柔らかく掴んでゆっくり身体から離したクラウドは、そう言って微笑んだ。
 その笑顔に私も応えるように微笑みを浮かべる。
 でも…。
 私の中は空っぽに近づいていく…。


 ほら。
 この人もこうやって離れていくんだよ。
 みんな、私から離れていく。
 だから私はその前に…。


「お腹減ったでしょ?」
「あぁ、かなり」
「軽く何か食べて帰らなかったの?」
「早く帰りたかったからな」
「そう。じゃあ、夕飯の用意してるから、その間に汗流しちゃって?」
「そうさせてもらう。……ティファ」
「ん?」
「すまない…」
「ふふ、変なクラウド」


 笑い合いながらの会話は流れるようで淀みなく、クラウドを浴室へ促して私は店内に降りる。
 カウンターの中に入って火をおこし、クラウド用の夕食を温め始める。
 彼のお皿、グラス、フォークにスプーンを用意してカウンターの上に並べ、彼の好きなキツイ酒の準備もする。
 全てが習慣化したもので私の手に一切迷いはない。
 でも、この習慣も今夜が最後。
 私は今夜、出て行く。
 クラウドが眠ったら…ね。

 怒るだろうなぁ…クラウド。
 デンゼルとマリンは泣くだろうなぁ。
 子供たちやクラウドから知らせを受けたバレットとシド、ユフィにナナキ、リーブの怒った声がリアルに想像出来る。
 ヴィンセントは……ちょっと想像出来ないな。
 案外、
『お前の人生だ』
 って、唯一私の愚かな行動を認めてくれる人かもしれないわね。

 カタン。

 私、自分の考えに酔い過ぎてた?
 物音がした方へ顔を向けると、薄暗い階段を背に立つクラウドがいた。
 青ざめた顔をしているように見えるのは、灯りがちゃんと点いてないせい?それとも、後ろ暗いことを考えていたせい?

「び、びっくりした。クラウド…どうしたの?お風呂、早かったね?」

 ただならぬ雰囲気のクラウドに、少し気圧される。
 そのせいで少しどもってちゃって、明るくなんでもないように話しかけるつもりが見事に失敗。
 クラウドはなにも言わないで、黙ってカウンターの中に入ってきた。
 荒い足取りにビクッとする。

「ティファ…これはどういうことだ?」

 突きつけられたモノを見て全身から血の気が引いた。
 タンスに押し込んだはずのナップサック。
 ファスナーが開いてる。
 中…見られたんだ。

「どういうことだって聞いてるんだ!」

 投げつけるように足元にナップサックが叩きつけられた。
 拍子に化粧ポーチがコロリ、と転がり出た。

 あぁ…洗面台に置いてあったものがなかったからバレちゃったのか。
 ドジしたなぁ…。

「ティファ!」

 床に転がった化粧ポーチとナップサックを見つめたままなにも言わない私に業を煮やしたクラウドが両肩を掴んで揺さぶった。
 それでも私はクラウドの顔を見ない。
 見たくない。

「ティファ、最近ずっと変だった!一体、なにが不満なんだ!?」

 …痛い。
 クラウド…肩…痛いんだけど…。

「なんでなにも言わない!?言ってくれないと分からないだろう!!」

 痛いってば…。
 そんなに揺すらないでよ、首痛くなるじゃない。

「俺、また何かしたのか!?ティファ!!」

 そんな大声出さなくても聞こえてるよ。
 子供たち…起きちゃうでしょ…?

「こっち見ろ、ティファ!!」

 グイッ…とアゴを掴まれて無理やりクラウドへ向かされる。
 首…痛いんだけど…。
 でも……そんなことよりも…。
 そんなことよりも!!

「……なして…」
「ティ「離してって言ってるのよ!!」

 見たくなかったクラウドの顔を見てしまった。
 すごく傷ついた!って顔をしたクラウドの顔を!

 空っぽに近づいていた私の心が悲鳴を上げる。
 それがそっくりそのまま口から飛び出したように私は怒鳴りながら思い切り手を振り払った。
 その勢いのまま距離をとろうとするけど狭いカウンターの中でのこと、とった距離はたいしたものではなく、私の背中は壁によってそれ以上クラウドから離れることが出来なかった。
 全然足りない距離は、イヤでもクラウドの傷ついた紺碧の瞳を私に見せ付ける。
 だからイヤだったのよ、顔を上げるのが。
 だからクラウドが眠ってから消えようと思ったのよ、こんな顔をさせるって分かってたから!

 あぁ…分かってたんだよ、私…、分かってた。
 本当は分かってたんだよ、クラウド。
 私がしようとしていることは最低なことだって!
 だけど…だけどね、もう限界なんだよ!!

「ほっといてよ、もうほっといて!私のことはほっといて!!」
「ティファ…!」
「どうせ醒めちゃうんだからほっといて!!無駄な期待させ続けないで!」
「なに言ってる?なにが醒めるんだ?無駄な期待って」
「ほっといてって言ってるじゃない!」

 最後の一言は、自分でも驚くほどヒステリックで……。
 でも…。

「ティファ…」

 どうしてクラウドの方が傷ついてるの…?
 どうしてそんな泣きそうな顔をしてるの…?

「ティファ…。ティファの言っていること…俺には分からない……ごめん…」

 最後の震えた『ごめん』が、耳に突き刺さる。
 金縛りにあったように身動きが取れなくなる…。

 ずるい。
 ずるいよ、クラウド…。
 そんな顔されて、そんな声出されたら、私……自由になれないじゃない…。

「ティファ……ごめん、ティファに泣かれるとどうして良いか分からない…」

 恐る恐る、手を伸ばしたクラウドが私の頬に触れる。
 震えている彼の指先が頬に触れて、ようやくそのとき初めて自分が泣いていることに気がついた。
 気がついてしまうともうだめ。
 次から次へと涙が流れる。
 止められないし、止めようという気力もわかない。

 泣いていると自覚した途端、一気に脱力してズルズルとその場にしゃがみ込んだ私を、クラウドが慌てたように抱きとめた。
 その腕がハッとするほど温かくて、私は気がついたらクラウドにしがみついて泣きじゃくっていた…。


 *

 散々泣いた後、ベッドの中でキツイくらいに抱きしめてくれているクラウドに、ここ最近、ずっと押し込めていたことを打ち明けた。
 夢とも現実とも境のつかない曖昧な世界で私が抱いていたもの…見ていたものを話す。
 なにを話したら良いのか、どう言えば良いのか分からないまま話す内容は、とても滑稽だと思うんだけど、クラウドは相槌を打ちながらバカにしないで聞いてくれていた。

「夢を見るの…」
「夢?」
「幸せで…絶対に目を覚ましたくないって思うくらいの夢…」
「……」
「クラウドもいて…、子供たちもいて…。皆いてくれてね、でも…気がついたら皆、笑ってるのにその輪に私…入れないの」
「……」
「皆が楽しそうに笑ってる輪に入りたいって思うくせに、私が入ることで皆が笑わなくなったらって思って、怖くなってね…結局、私はずっと輪の外から皆を見てるの。そうしたら、気がついたら目が覚めてて…」
「…ティファ…」
「クラウドは私といてもいなくても全然幸せで、デンゼルとマリンもそれぞれ大きくなって…やっぱり私はいなくても元気いっぱいで、クラウドが大好き!って…楽しそうなの…」
「……それは…夢の話か?」
「……分かんない…分かんないの、クラウド…。夢なのか…被害妄想なのか…。でもね…」
「…うん?」
「私がいなくても幸せになれるのは…夢でも被害妄想でもないんだってことは分かってる」
「そんなことない!」

 痛いくらいきつく抱きしめられて息が一瞬止まる。
 …このまま永遠に止まってしまったら幸せなのに…。
 クラウドに抱きしめられている幸せを全身で感じながら、一瞬の気の迷いで『脱出出来る』チャンスを逃してしまった失敗を帳消しに出来るのに。

「ティファ…。俺は言葉が足りない。それは分かってる。だけど、ここ最近ずっとティファが何かに苦しんでいることは分かってた。でも…でもな。それに対してなにも言えなかったけど、だけどずっと俺も悩んでたんだ。なにが一番ティファに良いことか分からなくて…。下手な言葉をかけてさらに傷つけたり、掻き乱すくらいなら黙ってようって思ったんだ…。聞けないことは…苦しかった……」

 最初と最後で考えると辻褄の合っていない言葉。
 でも…それが彼の誠実さを物語っている。
 必死になって、私を引きとめようとしたのは、子供たちのためとか、世間体とか、仲間に向けられるであろう白い目を気にしてのことじゃないって…信じて良いよね?

「ティファ…俺はティファになにも気の利いたことは言えない。でも…これだけは…」

 そう言って、少し腕の力を緩めると私の両頬を優しく包んだ。
 紺碧の瞳が夜の闇に美しく浮かんでいる。
 吸い込まれそうな彼の瞳を真正面から見つめたのはどれくらい振りだろう…?
 一瞬、魂までも持っていかれそうな気持ちでただただむさぼるように見つめる…。


「ティファに全てを押し付けて消えてしまおうとした俺を許さなくて良い。許さなくて良いから、自分を消してしまうことはしないでくれ。ティファを愛してる人を疑わないでくれ」
「…私を……愛してる……人……?」


 バカみたいにクラウドの台詞を繰り返す。
 こんな私を…愛してくれる…人……?
 現実とも…夢とも区別のつかない…私を……?


 呆然とする私に、クラウドはクシャリ、と顔を歪めた。
 胸が潰れそうなほど、悲しい悲しい顔になる。
 と…。


「……クラウド……」
「信じられないって分かってる…分かってるけど…でも……」

 紺碧の瞳から流れた雫に心臓が跳ねる。
 信じられない…。
 信じられないよ。
 だって……クラウドが…、あのクラウドが…。
 私のために……泣いて……?



「ティファ…キミが誰よりも愛しい…!」



 瞬間。
 私の心に、欠けていたものたちが帰ってきた。
 それは怒涛のように私の心を駆け巡り、頭のてっぺんから足の先まで全身を余すところなく満たした。

 これは…、夢じゃない。
 私が恐れていた『リアルな夢』ではなく、本当の『現実』。
 なら…。
 醒めて消えてしまうかもしれない儚いものではなくて、この手に、耳に、目で見ているものは…確かな現実…!

 でも、その喜びを口にする暇もなく、私は全身をキツクキツク抱きしめられた。
 彼の身体の重みをちゃんと感じたのはいつ振りだろう…?
 彼の温もりをリアルのものとして感じたのはいつ振りだろう…?


 あぁ!
 こんなにもクラウドが愛しい…!!


「…わ…たしも……愛してるよ……!」


 あふれ出た言葉は震えていて、とてもとても恥ずかしかったけど…。
 それ以上に、驚いたようにマジマジと見つめてきたクラウドの顔が、悲しみを孕んでいなかったことがとても嬉しくて…。


「…ご…めんなさい、クラウド…!!」


 言うが早いか、クラウドにしがみついて泣きじゃくって。
 クラウドも思い切り抱きしめ返して…泣いてくれた…。
 久しぶりに私たちは泣きながら愛し合った。
 本当に…久しぶりに心も身体も満たされて…。



「………あ……」
 洩れた声は、目が覚めたことを確認するためのもの。
 昨日までと同じ。
 でも…昨日と違うことは。

「……クラウド…」

 目の前には、子供のように安心しきった顔をして眠っているクラウド。
 彼の寝顔を見つめるのはいつ振りだろう?
 今までも彼より早く起きることはあったのに、全然見えてなかったんだよね…私は…。

「ごめんね…」

 ポツリ…と呟いて、そっと眠る彼に口付ける。
 と、身体の節々が痛んで軽く眉をしかめた。
 でも、身体が痛む理由を思い返して1人、赤くなったりにやけてみたり。
 そうして、そっと彼の頬に触れてみる。

「…温かい…」

 ずっと私のことで悩んでくれていたクラウド。
 子供たちに私が変なことを言っていないか、していないか見守るように頼んでくれていたクラウド…。
 不器用だけど、精一杯心を砕いてくれていた彼が愛しい。

 これは…。
 この温もりは……夢じゃない…。

「…私を…諦めないでくれて…ありがとう…」

 眠るクラウドにもう1度口付けをして、私は目を閉じた。
 もう少しだけ、この温もりを感じていたい。
 そしたら、今度は子供たちを抱きしめよう。
 私を愛してくれている子供たちから、不安を消し去るために…。

 夢のような幸せをリアルだとしっかり自覚して、前を向いて生きられるように…。

 もう少しだけ…。




 あとがき

 ティファは頑張り過ぎるので、心が疲れることもあるんじゃないかと。
 そんな彼女を書きたかったんですが、なんとも説明不足な感は否めませんが、ダラダラこれ以上長くならないように思い切って割愛!
 萌え足りない!!って思われた方々も多いと思います…。
 ご、ごめんなさーい!!(脱兎)