私は、一生『恋心』を知らずに生きていくんだと思ってた…。


 だから…。

『彼』との出会いは…。

 新しい自分の生まれた日…。


恋心 7



 ティファさんと一緒に来た子供達、そして男性…シドさんは、同じ部屋に泊まるには狭い為、もう一つ部屋を借り、今夜は宿泊されるとの事だった。
 子供達、デンゼル君とマリンちゃんは、「クラウドさんの風邪が移るといけない」、とティファさんやクラウドさん自身に言われ、仕方なさそうにしつつも、フロントにある小さなカフェの窓から、初めて見る夕暮れの雪景色に大はしゃぎだった。
 そんな子供達を、シドさんがタバコをくゆらせながら大きな欠伸をしつつ、見守っている。

 その光景は、お世辞にも『仲の良い親子』とは言えなかったけど、それでも本当に心温まるものだった。そう、『仲の良い叔父さんと甥と姪』って感じかな…?

 クラウドさんは、ティファさんと一緒にまだ部屋で療養中。
 きっと、色々な事を話しているに違いない。

 やがて、夕食時になり、子供達とシドさんはフロントから部屋に戻って行った。
 その後姿を見送り、私もフロントでの業務を終え、厨房の小部屋へ夕食を摂りに行った。


 小部屋には、私の身を案じてくれた従業員仲間の女性達と、ニース達料理人が談笑していたが、昼間私と怒鳴りあった彼女達の姿はどこにもなかった。
 きっと、どこか他所へ食事に行き、今頃退職の相談でもしてるんだろう…。

 ニース達と談笑しながら夕食を摂ったのは、言うまでもなく初めての体験だった。
 もっとも、私は皆のおしゃべりを聞き、時折相槌をうつくらいだったけど。
 それでも、こんなに夕食を『美味しい』と思った事は、少なくとも働き出してからは一度もなかった。
 今まで、本当に勿体無い時間を過ごしていたんだとしみじみ思う。

 それに気づく事が出来たのも、仲間と楽しい時間を過ごせるのも、自分を知ることが出来たのも、全部クラウドさんと出会えたから…。
 本当に、心から神様に感謝してしまう。


 やがて、楽しい時間はあっという間に過ぎ、私は夕食を終え、席を立った。
 ニース達が、宿にあるバーからアルコールを調達し、ささやかな宴会をしようと誘ってくれたけど、丁重に辞退した。
 ニース達のペースにはとてもじゃないけどついていけないし、何となく今夜はこのまま静かに休みたい気分だった。もちろん、彼らの心遣いは本当に嬉しかったし、幸せだった。
 でも、『今日』は私にとって、本当に大切な一日だったから、このまま日記にでもしたためて、今日を静かに終わりたい気持ちの方が強かった。

 残念そうな皆に、いつか必ず付き合うから、と約束をして私は厨房を後にした。

 自室へ戻る途中はとても静かだった。
 昼間の活気はなく、廊下はシンと静まり返っている。
 遠くから、近くの酒場の喧騒が耳に届く以外は、本当に全ての存在が息をひそめている様だった。

 そんな静寂に包まれた廊下を、自室に向けて歩いていると、ふいに大きな物音と、野太い怒鳴り声が響いた。
 ギョッとしてその方へ視線を向ける。

 すると…、何という事だろう!
 宿の入り口付近、フロントの丁度手前に山男のような風体の大柄な男が、デンゼル君と、デンゼル君の後ろのマリンちゃんに向かって拳を振り上げているではないか!?
 何やら怒鳴りつけ、今にも殴り飛ばそうとしている。

 デンゼル君は、背中にマリンちゃんを庇うようにして立ちはだかってその場を譲ろうとせず、マリンちゃんは何やら悲鳴のような声を上げ、自分の前に立ちはだかっているデンゼル君を押しのけ、大柄な男の拳からデンゼル君を守ろうとしている。


 その光景がスローモーションの様に視界に映る。

 デンゼル君とマリンちゃんが、ギュッと目を瞑りながらもお互いを庇い合う姿が目に焼きつく。

 大柄な男を止めようと、男性従業員の駆け寄る姿が視界の端に映る。

 大柄な男の赤らんだ醜い顔が、狂気に彩られ、歪んだ笑みを浮かべる様が、脳裏に焼きつく。



「「「ファシーナ!!!」」」



 右頬に…、次いで背中と後頭部に今まで経験した事のない鈍くて重い痛みが走り、世界が暗転する。

 誰かの悲鳴の様な叫び声が、遠くから聞こえる。

 誰かが、泣き叫びながら必死に私の頭を抱え込むのを感じる。

 誰かが、私の顔の上に水をこぼす。

 誰…?

 目を開けた私は、涙を一杯に溜め、必死で私の頭を抱え込んでいるマリンちゃんと、そんなマリンちゃんごと、私を抱えようとするデンゼル君の姿を何故かぼやけた視界で確認した。
 更に、マリンちゃんとデンゼル君の背後では、例の大柄な男が鼻息も荒く、必死で押さえつけようとしている男性従業員数人を、振りほどこうと暴れているのが見えた。

「ああ、お姉さん!しっかりして!!」
「あ!駄目だよ、頭打ってるんだから!!」

 体を起こそうとした私を、デンゼル君とマリンちゃんが慌てて支えてくれた。

 ここで初めて、私は自分が殴り飛ばされた事に気がついた。
 右頬をしたたかに殴られ、口の中が切れて嫌な鉄の味がする。
 耳障りなキーンという耳鳴り、それにジンジンと疼く後頭部に、不快に歪む視界。

 ああ、咄嗟に体が動いたんだわ…。
 どこか他人事の様に、振り返り、べそをかいている子供達に視線を移す。
 子供達はどこも怪我をしていないようだ…良かった…。

 安堵したのも束の間、大柄な男は男性従業員を振りほどき、なんとこちらに向かってくるではないか!?
 一体何があったのか知らないけど、子供相手にこんなに執着するだなんて、本当に恥知らずで最低な人ね…。

「早く、逃げなさい…」
 何とか体を起こそうとするけど、目が回ってなかなか思うように体の動かない私は、私から離れない子供達に向かって口を開いた。
 このままでは、あっという間にこの子達が大変な目に合わされる。

「駄目だ!出来ないよ、そんな事!」
「そうだよお姉さんも…」

「行きなさい!!!」
 
 大きく頭を振りながら、何とか私を支えて一緒に逃げようとする子供達に、私はきっと睨み、怒鳴りつけた。

 デンゼル君とマリンちゃんは、ビクッと体を震わせた。
 しかし次の瞬間、デンゼル君が何事かマリンちゃんに伝え、マリンちゃんはハッとした顔をして、猛然と廊下へ向けて走り出した。
 男は、マリンちゃんを逃すまい、と立ちふさがろうとしたけど、それをデンゼル君が手の平サイズの宿の置物を思い切り投げつけて注意を逸らした。
 当然、男はデンゼル君に対して怒り心頭になり、デンゼル君一人をターゲットにする。
 足音も荒く、猛然とデンゼル君に掴みかかるのを、騒ぎを聞きつけた厨房にいたニース達駆けつけ、一瞬呆気に取られていたけど、床に倒れこんでいる私と、今まさに男の狂気の犠牲者になろうとしているデンゼル君を見て、咄嗟にどうするかを判断したらしい。
 危うく男の拳を避けたデンゼル君を庇い、ニースを含めた数人が抑えかかりにはいる。

 そして、ニース達が何とか善戦しているその時!


「くぉら、てめえ、何てことしやがる!!!!」

 と言う怒鳴り声、そしてブンッ、という空を切る音がしたかと思うと、あっという間に駆けつけたシドさんが、男を押さえつけているニース達に「おう!お前ら、どいてろよーー!!」と言うが早いか槍を持ち、頭上で構え、そのまま宙に躍動した。

 ニース達はギョッとし、大慌てで男から離れる。
 そして―。

 男は呆気なくシドさんの攻撃の前に昏倒した。

 その直後、ティファさんと何とクラウドさんまでが駆けつけ、それより少し遅れてマリンちゃんがやってきた。
 デンゼル君とマリンちゃんから、説明を受けたクラウドさんとティファさんは、もう、見ていて面白いほどの驚きようだった。サーっと顔から血の気を失い、説明を聞いてすぐに私に駆け寄ろうとされたけど、私は従業員仲間に自室に抱えられて戻ってしまったので、クラウドさんとティファさんは黙って見送るしかなかったようだった。
 その後…。

 男を、村に駐留しているWROの部隊に引き渡した結果、『薬物乱用の為、錯乱状態』であった事が判明した。この世界情勢の、まさに闇の姿を具現化したかの様な事実に、胸が痛む。

 そして、私は自室のベッドに横になり、頭と顔を氷嚢で冷やし、痛みと戦っていた。
 そんな私を、母と従業員仲間の彼女達とニースが心配そうな顔で見つめている。
「ファシーナ!!ああ、なんて事だ!!」
「ニース…お願い、静かに話して…。頭に響くから…」
「あ、ああ、ごめん。それにしても、俺も一緒にファシーナと厨房を出ていたら……」
「貴方が私みたいになってたと思うわ。」
「だから、それで良いじゃないか!ファシーナの綺麗な顔が……!!もう、本当に大変な事に!!くっそ〜、アイツ、殺してやる!!」
「多分、返り討ちにされるから止めといた方が良いわよ…」
「あのな〜、俺これでも真剣に心配して…」
「うん、分かってるよ…有難う」
「……いや、べつに…、その、分かってくれてるなら……」
 何故か顔を赤くしたニースに、私は頭の中を『?』で一杯にしつつも、他の人達と母に向かって、もう大丈夫だから皆も休んでくれるようにお願いした。

 母は当然渋ったけど、父が長期間の修行に出ている今、母がこの宿の実質上経営者になる。
 こんな事で、明日のお得意さん周りが出来なくなったら大変だ。

 私はと言うと、この顔の腫れでは、接客業をするには最低2週間はかかりそうだった。
 という事は、しばらくフロント業が出来ないと言うことになる。
 もちろん、この宿の跡継ぎとして学ばなくてはならない事は非常に多いので、のんびり寝てるわけにはいかない。
 接客業以外では、伝票整理から、取引先との生鮮食品等の調節、さらには、宿泊に来られたお客様に、何か趣向を凝らした催し物があったもいいのではないか…、と最近稟議書が提出されていたので、それについて検討したり…。ようするに、私がしないといけない仕事はまだまだ沢山ある。まあ、とりあえず明日一日くらいは休ませてもらえるだろう…。

 顔に怪我をしたからといって、他には後頭部にたんこぶが出来ただけだ。
 まさに、不幸中の幸いだと思ってる。
 殴り飛ばされた先にガラスなどの割れ物がなかった為、たんこぶで済んだのだから。
 それに、子供達は無事だったのだし、本当に良かったと思っている。

 母は、私の言わんとしている事が分かったのだろう。
 名残惜しそうにしながらも、部屋を一番に後にした。
 母が一番に部屋を出る事によって、他のお見舞いをしてくれている同僚に、無言ですぐ部屋を出るよう指示をしている事に、私はもちろん、皆が気づいてくれた。
 最後までニースは渋ったが、「じゃ、あんたここで寝るつもり?」との同僚の一言に、呆気なく退散した。

 そうして、一人一人がそれぞれ別れ際に声をかけて部屋から出て行った。

 私は、ようやく部屋に訪れた静寂に、ホッとした。
 今までずっと一人だったから、急に親しみを覚えた人達と共に過ごすのは、想像以上に疲れてしまったようだった。もちろん、その疲れは、仕事後のものとは全く異質で、心地よい倦怠感となっているのだが…。


 うつらうつらしていると、不意にドアがノックされた。
『誰?』
 返事をすると、ドアがそっと開き、ニースが少々困惑した顔を覗かせた。
「どうしたの?」
 体を少し起こすと、ニースは無言で後ろを振り返り、手招きをしている。
 すると、泣き腫らした目のデンゼル君とマリンちゃんが、ニースの後ろから恐る恐る入ってきた。
「何だか、どうしてもファシーナに言いたい事があったんだってさ」
 ニースはそれだけ言うと、少し悪戯っぽく笑い、そっとドアの向こうへ消えてしまった。

 デンゼル君とマリンちゃんは、モジモジとしていたが、意を決したように顔をしゃんと上げ、真っ直ぐに私を見つめて口を開いた。

「さっきは、私達を助けてくれて、本当に有難うございました。それに、沢山宿にも迷惑かけちゃったし…」
「「本当にすみませんでした」」

 揃って頭を下げる子供達の姿に、自然と笑みがこぼれる。
「良いのよ、アナタ達は全然悪くないんだし、そもそも勝手に私が割って入っただけだから」
「でも…、あそこで庇ってくれなかったら、私達本当に大変な事になっていると思うの」
「気にしないで…、と言っても目の前で殴り飛ばされたんだから、気にしないなんて難しいと思うけど、それでも私はデンゼル君とマリンちゃんが無事だったって事が本当に嬉しいの。やっと、人の為になれることが出来たんだ…って、そう思えたの。だから、良いのよ、これで」

 私の言葉に、二人がどう思ったのか分からなかったけど、これ以上、私への謝罪は不要だという事を理解したようだった。

 それからは、二人に椅子を勧めて、しばらく子供達の話を聞かせてもらった。
 エッジで開いているお店の話。
 クラウドさんの配達の仕事の話。
 エッジのお店では、ティファさんを狙っている男の人が多くて、見ていて心臓に悪いって話。
 クラウドさんが、いかに戦闘が得意で、大陸の地理に詳しいかと言う話。
 そして…。
 今回、どうやってクラウドさんが宿泊している当宿を探し出したのか…と言う話。

「うん、最初はティファが言い出したんだ。『クラウドの様子が変だ』って。俺達もティファの前にクラウドと携帯で話したんだけど、その時は何だか吹雪いてたみたいで、クラウドの声が聞き辛くてさ。だから、ティファが『すぐにシドにシエラ号を出してもらうから、二人も旅の準備して!』て言った時は、訳が分からなかったよ」
「うん、あの時は私も気付かなかったからびっくりしちゃったけど、その翌日の夜、クラウド、電話くれなかったもんね。いつもは電話をかけてくれる時間なのに、全然かかってこないから、物凄く心配したんだけど、でもティファの事、改めて『凄い』って思っちゃった。だって、絶対にティファ以外の人は気付かないよ」
「そうだよな。それでさ、アイシクルエリアに来たのは良いけど、どこの村のどこの宿にいるのか分からなくて、見つけるのは大変だったんだ」
「うん!携帯にかけても全然出ないんだもん」
「そう!それで、ティファがシドのおっさんに『こうなったらしらみつぶしに探すしかないわ!!』って言い出してさ。シドのおっさんも、口では『かー!ったくめんどくせえな!』とか言いながら、目が焦ってたもんな」
「うん、本当に探すの大変だった。それに、どこの宿もここと同じで、クラウドが泊まってるかどうか、なかなか教えてくれないの」
「本当、それには参ったよな〜。でも、最近どこの大陸でも集団強盗がニュースになってるから、こうやって宿泊客の安全を守る為には仕方ないんだろうけどさ」
「この宿で、クラウドを見つけることが出来て本当に良かった!」
「うん!それに、クラウドはしばらく家で療養だから、仕事休む口実が出来て、俺なんだか嬉しいんだよね!」
「もう、デンゼルったら!」

 本当に良くしゃべる子供達に、話すことの苦手な私が口を挟めるはずもなく、やはり厨房での通りに、ここでも聞き役に徹する。
 それでも、本当に楽しい一時だった。

 そんな楽しい時間を過ごし始めて30分程した時、再び私の部屋のドアがノックされた。

 返事をして、マリンちゃんにお願いし、ドアを開けてもらうと、そこには何と病み上がりのクラウドさんと、そんなクラウドさんに心配そうな眼差しを向けているティファさん、そしてそんなお二人の背後に、バツの悪そうな顔でシドさんが立っていた。

「もう、こんな時間まで!ファシーナさんは二人の恩人なのに、怪我して疲れているファシーナさんを煩わせてどうするの!?」
「「ごめんなさい」」
「構いません。私も楽しいですから」
「本当にすまなかった。俺とティファ、シドがもっと早く、物音とかに気付いていれば…」
「やめて下さい。クラウド様は回復しているとは言え、病人なんです。その事をもっと自覚なさって、お部屋で横になってて下さい」
 慌てて体を起こそうとする私を、ティファさんがそっと優しくベッドに押し戻しながら、軽く子供達を睨んで叱責する。
 クラウドさんも申し訳なさで一杯の表情をしておられた。

 ティファさんは、「本当に、何てお礼を言ったら良いのか…」と、少し目を潤ませながら、私の手をギュッと握ってくれた。
 その手の暖かさに、私も何だか眼の奥が熱くなる。
 それからティファさんは、フイッと後ろにいる気まずそうな顔のシドさんを見やり、
「ホラ、シド〜!?」
と、少々ドスを効かせた声音で軽く睨んだ。
 私は、そんなティファさんに目を丸くした。
 ……、何だか意外な一面を見た気がしたから……。
 シドさんは、頭をかきながら、落ち着き泣くソワソワしていたけど、思い切って顔を上げ、私に向かって勢い良く頭を下げた。
「すまねえ!本当は子供達をきちんと部屋まで連れて行く約束をしていたのに、その約束をすっぽかして近くの酒屋に酒を飲みに行っちまったんだよ!この宿のバーの酒は、ちーっとばかし、俺には手が届かないものばかりでな…。お子様を夜の散歩に連れ出したは良いが、その後、つい、そのまま子供だけで返しちまったんだ〜…。思い直して直ぐに戻ってみたんだけどよ〜……。俺がフラフラ飲みに行かなかったら……。本当にすまねえ!!!」
「と言うわけなんだ。本当にすまなかった。もしシドが子供達と一緒に帰ってたら、ファシーナさんがこんな目に合う事なんかなかった。お詫びの言葉もない」

 クラウドさんが少々呆れながらシドさんを軽く睨みつつ、私に頭を下げた。
 シドさんは、もう、『穴があったら、例え二度と這い上がれない深さでも、飛び込んでしまう』くらいに戦々恐々としていた。

 私は、何だかそんなシドさんが可笑しくて、つい頬を緩ませた。
「良いんです。子供達が無事でしたし、そんなに酷い怪我ではないですから。それに、勝手に体が動いてしまっただけで、『庇う』なんて崇高な気持ちからじゃなかったんです。ですからそんなに謝られたら逆に心苦しいです」
「でも、ファシーナさんが咄嗟にしろ無意識の行動にしろ、子供達を庇ってくれた事は事実ですもの。貴女が庇ってくれなかったらと思うと…。本当に感謝の言葉も見つからないし、どうやって御礼をすれば良いのか分からないくらい…」
「ああ、本当に」
「面目ねえ…」
 ティファさんは少々目を潤ませながら…、クラウドさんはまだほんのりと赤らんでいる端正な顔に笑みを浮かべながら…、そしてシドさんはすっかりしょげかえった表情でそれぞれ私に言葉をくれた。
 子供達は、ニコニコと笑顔で私とクラウドさん達を見つめている。


 その光景は、ズキズキと痛む頬と後頭部の傷を一瞬忘れさせてくれるような、心温まるもので…。


 本当に、クラウドさんに…、彼らに出会うことが出来たことを感謝せずにはいられなかった。


 こんなにも、心温まる光景を目にする事が出来るなんて…。


 ううん、きっと今までも心温まる光景は目にしていたんだろう…。
 ただ、私の眼が曇っていたから…、心が素直じゃなかったから…、だから、その事に気付けなかったんだろう…。

 だから…。

 その事に気付けた『今』、私は、新しく生まれ変わったんだ。
『これまで』の『私』を礎に、『これから』という『私』を手に入れて、新しく『今』から歩んでいける…!

 何て素晴らしいんだろう…!!




 翌日…。

「本当に世話になった」
「有難うございました!」
「あ〜、本当に、何て言って詫びたら…」
「「お姉ちゃん!!本当に有難う!!」」
 それぞれの台詞を残して、クラウドさん達は帰って行った。
 また必ず遊びに来る、そう約束して。

 村の外れに停めてあるという飛空艇に向けて去って行く後姿を見送りながら、私は晴れやかな心地で胸を一杯にしていた。(まだ体調の戻らないクラウドさんの代わりに、一生懸命大きなバイクを押しているシドさんの後姿が何だか可笑しかった。)
 そんな私の隣で、少々心配そうな顔のニースがチラチラ私を窺っている。
「何?」
「あ〜…、いや、その…」
「???」
「うん、だから…さ。大丈夫なのかな…て」
「何が?」
 彼の言わんとしている事がよく分からず、首をかしげている私に、ニースは盛大な溜め息を吐いて見せた。
「だから!クラウドさんが帰っちまって…!…その、大丈夫なのかな…って」
「あ…」

 漸くニースの言わんとしている事が理解出来た私は、気まずそうな彼の心遣いを素直に嬉しく感じた。

「うん、大丈夫。だって、あんなに素敵な女性(ひと)が隣にいるのよ?私なんかが太刀打ち出来るわけないじゃない」
「な!何言ってんだ!?ファシーナだって負けてないぞ!!」
「……あの…、そんな事大きな声で言わないでよ……」
「あ…」

 二人して顔を赤くし、そっと周りを窺うと、クラウドさん達を見送りに出ていた他の従業員仲間がニヤニヤと笑っているのが見えた。
 そして、「あ〜、今日も一日頑張るか〜!」「朝から良いもの見ちゃったね〜!」「さ!!仕事仕事!」
 と、散々冷やかしの眼差しを投げつけてから、それぞれの仕事に戻っていった。

 二人して、顔を赤らめて突っ立っていると、何だか昨日の様に発作的に笑いが込上げてきた。
 クスクス笑う私を、ニースはやっぱり昨日同様、初めは憮然とした顔をして見ていたけど、私に釣られて照れたように笑みをこぼした。

「大丈夫。クラウドさんの事は今でも好きだけど…」
 そう口を開いた私を、はた、と笑いを引っ込めてニースは複雑な顔をして私を見た。
 そんなニースに、笑みを向け、私は言葉を続ける。

「ティファさん、デンゼル君、マリンちゃん、そしてシドさんと同じくらいの『好き』だから」
 だから、大丈夫…なんだ…。

 そう言った私を、ニースはやっぱり複雑そうな顔をして見つめていた。

 でも、本当に、この言葉に嘘はない。
 今では、ティファさん達と同じくらいの『好き』なんだもの。
 きっと、クラウドさんと出会って、私の中で沢山の『私』が変えられてしまったんだわ。
 だから、自然とクラウドさんへの想いも今の『好き』に変わったんだと思う。
 それに、今振り返ってみれば、ティファさんが『クラウドさんと私が似ている』って言ってくれた意味が何となく分かった。
 クラウドさんも、『不器用』で『捻くれ者』だった…。という事は、まさに彼に出会う前の私と同じ事だものね。
 周りとは『違う人間』だと思い込んでいて、自分の心を捻じ曲げ、歪んだ目で周りを見ていたんだもの。

 きっと、クラウドさんを一目見て惹かれたのも、自分と似た空気を無意識に感じ取ったから…。
 もちろん、それだけじゃないだろうけど…。


「さ!私達も仕事に戻ろうか?」

 にっこりと笑って見せると、ニースは「あ、ああ、そうだな!」と少し戸惑いながら頷いた。

「ファシーナ!」
 元気良く歩き出した私の後ろから、不意にニースが大きな声をかける。
「何?」
 振り返った私の目に、ニースの赤い顔が映る。

「今度の『雪祭り』、一緒に行かないか?」

 期待少々、不安大半な面持ちで私を見つめるニースに、私の返事は……。



「よっしゃー!!」



 ニースの歓喜の声が、晴天の村に響き渡った……。


あとがき

はい、『恋心』はこれにて終了です。


『恋心』で書きたかった事は色々あるのですが、一番は『捻くれ者』が『素直になる時』です。
誰でも『捻くれた部分』ってあると思うのですが、その『心』が素直になる『きっかけ』って当然、人それぞれだと思います。マナフィッシュも、これまでに沢山の『きっかけ』を手に入れて、『素直に』なれた時があります。でも、その『きっかけ』って決して『心地良い』ものばかりじゃないんですよね。マナフィッシュの場合は『苦い』思いの方が圧倒的に多いのです。
 でも、その『苦い』経験をして、『自分』に気づく事が出来、結果的には本当に良かった、そう思えるのです。『あの時』の『苦い経験』が『今』の自分の『礎』になっている…、そう思う人は多いのではないでしょうか?

 次に、『恋心』=『人を想う気持ち』というのは、本当に『一生懸命』だという事を書きたかったのです。ニースの様に、何度失恋しても、それでも『一生懸命』ファシーナを『想う』姿は、ある意味『非現実的』かもしれませんが、実際、こういうカップルの姿を目の当たりにしたマナフィッシュは、『現実的』なお話だと思ってます。(実際に見たのですから当然の話ですね 笑)
 本当に、『人』が『人』を『想う』力の凄さは驚くものがあります。その人自身の『心』をびっくりするくらい『広く』してしまうのですから…。『一生懸命』その人の事を『想って』いる『心』って、想像出来ないくらい『深い』んですよね。その姿はまさに、『事実は小説よりも奇なり』です。

 最後にクラウドとティファの関係は、FF7の世界では物凄く影響がある…、という事を書きたかったのですが、こちらはいま一つ、文章力のない為、書ききれなかったですね(苦笑)。
 AC世界って、『復興途上』にあり、まだまだ『不安定』で『疑心暗鬼』の様なダークなものが溢れている気がするのです。その世界において、クラウドとティファの様に、支え合って前を見据えて生きていく姿は、必ず周りの人に大きな影響を与える…ハズ…!(でも、本当に書けてないですね 滝汗)

 本当に長々と続いてしまい、申し訳ないです。
ここまで読んで下さった皆様、本当に有難うございました。