その時まで、俺は別に『呼び方』何てものを気にしたこと無かったんだ…。



こんなかたちの親子です 前編




「ティファちゃん!今夜も綺麗だね〜」
「この料理も最高だよ!」

 今夜もいつもと変わらず、店は大繁盛だ。
 理由は簡単。
 ティファの作る料理とお酒が文句なしに美味しいって事と、客のオヤジ達の大部分がこの店の店長であるティファを狙ってる。
 いい加減、勝ち目なんか無いんだし、諦めたら言いのさ…。
 でも、勝てなくても見てるだけで良い…っていう心境なのかもな。
 あ〜、ご愁傷様。
 勿論、そんな常連客のオヤジ達のお陰で、俺達一家が食うに困らない生活をしてるわけだけど。
 でも、やっぱり時々鬱陶しい奴が来るんだよな。
 ほら、今も来てるんだ。
 さっきからやたらとティファを呼びつけて、あれこれ話しかけたり注文したりしてるんだ。
 かなり迷惑だし、目障りな奴。
 確か、三日前くらいに初めて来て、それから続けて来るようになった新顔さんだ。
 ま、新顔のお客さん達に良く見られる傾向だよな。
 ようするに、ティファにクラウドがいるって知らないんだ。
 おまけに、この新顔の兄ちゃんが来るよりも随分前から、クラウドは仕事で店が空いてる時間に帰宅出来る事が少なくなってるし…。

 それにしても、あの兄ちゃんのせいで他の常連のおっさん達も、顔を引き攣らせてるよ…。
 本当なら、今すぐにでも『営業妨害の危険アリ!』でお引取り願いたいくらいなんだけど、当のティファがあまり嫌な顔してないから何にも言えないんだよね…。
 せめて、ティファが行く回数を減らしてやろうと思って、ティファを呼びつける度に、俺かマリンが行こうとするんだ。
 でも、行った所で、
「あ〜、坊や達にはちょっと話しにくいんだよな」
とか、わけの分からない事言いやがる…!
 仕方なくティファを呼ぶ事になるんだよな。
 ティファもキッパリ、ハッキリ『迷惑です』って言ってくれたら俺達だって動きやすいのにな〜。

 ま、今のところ、目立ったセクハラとかが無いから言いにくいのかも…。
 いや、もしかしたら、『迷惑』とすら感じてないのかもしれない…。

 ティファは、俺やマリンやクラウドの事なら敏感なのに、自分の事になると抜けてるところがあるからなぁ…。
 だから、目立った『嫌味』『セクハラ』『暴言』が今のところ見られないあの若い兄ちゃんに、『迷惑』って言う気持ちが起きないのかも…。
 いや、きっとそうだ。
 ティファがこれだから、俺とマリンがヤキモキするんだよ…。

 クラウドが可哀想で。

 クラウドは普段はポーカーフェイスなんだけど、ティファが店でおっさんとかに絡まれた事を知ると、見てて面白いくらい表情が一変する。
 あ、勿論、他の人が見てもあんまり分かんないかも知れないけど、こう、『殺気立つ』っていうの?
 青い目がメラメラと燃えるみたいに光るんだよな。
 んで、いつも俺やマリンに笑いかけてくれる時に緩む口許が、キューって結ばれてさ。
 クラウドの身体からはピシピシ音が聞えそうなくらい、怒気が出てくるんだ。
 本当、分かりやすくて面白い。
 でも、当の本人は照れ屋な事と、口下手な事とかで、上手くそれをティファに伝えられないんだよ。
 んで、結局『どうしたの、クラウド…?具合悪い?疲れた?』って心配そうにされて、『あ、いや、なんでもない…』ってうやむやに終わっちゃうんだ。
 その時のクラウドがあんまりにも可哀想に見えちゃうもんだから、ひそかに俺とマリンでティファをカバーしようって事になってるんだ。

 マリンが言うには、
『そんなティファだからティファなのよね。クラウドも、そんなクラウドだからクラウドなのよ。鈍くて口下手で…。でも一生懸命私達の事を守ろうとして、私達を『娘です』『息子です』って言ってくれる二人だから、大好きなの!』
 だってさ。

 俺もそう。
 自信過剰で、口が上手い二人なんか真っ平ごめんだね。
 血の繋がりとか何にも無いのに、それでも『息子です』『娘です』って言ってくれる二人だから、俺も素直に『俺の家族です』って言えるんだから…。

 んで、話が戻るんだけど、今夜来てる若い兄ちゃんは、パッと見たら顔が良い。
 それに、話しも上手いみたいだな、ティファが愛想笑いじゃない笑顔で受け答えしてるから。
 でも、周りから見てて、その兄ちゃんがティファを狙ってる奴らの一人だって簡単に分かるんだ。
 隙あらば握ろうとする手、必要以上に微笑みかけてる顔、じっと見つめる眼差し…。

 おえ〜、気色悪い!!

 ハッキリ言って、恥ずかしいぞ、その顔!!
 鏡見てやってみろよな!
 いや、ああいうタイプは『ナルシスト』とかいう奴らしいから、鏡見てやったとしても満足するんだろうな…。
 ああ、イヤだ、イヤだ!!
 ああいうおかしな大人にはなりたくないね!

「なぁ、マリン」
「なに?デンゼル」
「さっきからあそこの客がティファを捕まえてるんだけどさ。もうすぐクラウド帰ってくるよな」
 おさげを揺らしながら振り向いたマリンが、「ん〜」と眉を寄せて時計を見る。
「もしかしたらもう少しかかるかもね。夕方の電話で閉店までには…って言ってたもん」
「あ〜、そうか…」
 一瞬、クラウドの携帯に電話しようか考えちゃったよ。
 でも、我慢、我慢!
 クラウドも最近特に忙しくなってるし、今のところ、ティファに目立った嫌なことをしてないからな。
 クラウドを不安にさせることも無いよな…。

 そう。
 俺とマリンがあの兄ちゃんの存在を我慢してれば、今夜の仕事は無事に終わるはずだ!!
 ああ、ティファがもう少しで良いから敏感になってくれたらなぁ。
 そしたら、あの兄ちゃんに塩かけて追い出してやれるのに…!!

 その事をマリンに言ったら、
「………もう!そんな事言ってないで仕事、仕事!」
とか言いながらカウンターに行っちまった。
 でも、俺にそういう前にかなり間があったのは、絶対に俺の意見に賛成だからだぜ。
 マリンもティファに似て、話をはぐらかそうとする時があるからな。
 ティファの場合は照れてる時が大半だけど。
 マリンは………ん?マリンがはぐらかそうとする時って…どんな時だっけ…?
 ………ま、いっか。
 そんな事より、おっと、呼ばれてるよ。仕事、仕事!



 俺を呼んだのは、その例の兄ちゃんの隣のテーブルのオヤジ客達。
 すっかり顔なじみで、俺やマリンの事も良く可愛がってくれてる。
「よ!デンゼル、元気で頑張ってるな!」
「はい!」
「おお、言葉遣いも態度も満点じゃねぇか!流石、ティファちゃんの自慢の『息子』なだけはあるな〜!」
 そう言って、オヤジ客の一人が頭をガシガシ撫でてくる。
 正直、ちょっと照れ臭いんだけど、俺が褒められた事よりも、俺の事をティファの『自慢の息子』って言ってくれた事が嬉しくて、ついついニッと笑っちゃった。
 そしたら、例の若い兄ちゃんがギョッとした顔で俺の事を見やがった。

 何だよ、その珍動物を見るかの様な目は!!

 ちょっとムッとしながらその兄ちゃんを見ると、慌てて視線を逸らしちまった。
 ムッ!あからさまに視線そらされるって、すっげー感じ悪い…!!
 っと、そんな事に気を取られてる場合じゃないや。
 仕事、仕事!

「ご注文は何になさいますか?」
「おう!今夜は、野菜炒めと茶碗蒸し、それに魚のフライとビール三つね!」
「はい。野菜炒めと茶碗蒸し、魚のフライにビール三つですね。少々お待ち下さい」
 ぺこり、と一つ頭を下げて、そのテーブルを後にする。
 カウンターで他の注文を作っていたティファに、オーダーを伝え、ビールを注ぎにカウンターへ。
 ビールを注ぐのって、泡と液体のバランスが割りと難しかったんだけど、最近では上手に出来るようになったんだ。
 ついこの前、その事をクラウドに感心されたばかりでさ。
『へぇ、俺が知らない間にデンゼルもすっかりセブンスヘブンの戦力だな。俺はいつまで経っても半人前以下なのに…」
 って言って、優しく頭を撫でてくれた。
 クラウドが大きな手で撫でてくれると、ほんの少し照れ臭いんだけど、それ以上に物凄く誇らしく思えるんだ。
 俺の事を認めてくれてるって、そう感じるだよな。
 ついつい、その時の事を思い出して顔が緩んじゃった。
「デンゼル、ニヤニヤして気持ち悪い」
 しっかりとマリンに見られて嫌味を言われちまう…。
「な、ニヤニヤって、してないだろ!」
「してたもん。何か思い出し笑いしてたんでしょ」

 う………。
 どうしてこう、年下なのに鋭いんだろうな…。
 本当にマリンって良く見てるよ…。

「う、うるさいな。ほら、俺、これを持って行かなくちゃいけないんだからな!」
「はいはい。頑張って仕事してね〜。ティファ、これ新しい注文」

 む〜…。
 軽くあしらわれてしまった…。
 何だか俺の方が年下みたいじゃないか…?
 い、いや!今はそんな事気にしてる場合じゃないな。
 気がついたら新しい客が来てるじゃないか!?
 さ、仕事、仕事!!


 ふと気付くと、カウンターで料理を作っていたティファがいない。
 新しい注文を受けたのに…。
 とさして広くもない店内を見渡すと…。
 いた!!
 またあの兄ちゃんのテーブルだよ…。
 あ〜あ、早くクラウド帰って来ないかな…。
 帰ってきたら、あんな兄ちゃんなんか目じゃないのにな〜。
 ああいうタイプって、目の前に自分以上のカッコイイ男が現れないと、諦めないんだよな〜。
 ホント、あんな鬱陶しくて周りが見えない大人にはなりたくないな。

「ティファ、注文よろしく」
 ちょっとムカムカしながら、兄ちゃんと話しているティファに声をかけると、ティファはニッコリと微笑んで振り向いた。
「うん、分かった」
 そして、兄ちゃんに軽く頭を下げてテーブルを離れようとしたその時、ティファの手を兄ちゃんがガシッと掴みやがった!

 この野郎、何すんだ!!

 思わずそう怒鳴りそうになったけど、そこもグッと堪えて我慢、我慢。
「えっと、なんですか?」
 戸惑うティファを、兄ちゃんはじっと見つめると、周りの冷たい眼差しは全く気にせず口を開いた。
「さっき、小耳に挟んだんだけど、この男の子って…」
「え?」
 何でそこで俺の事が出て来るんだよ!
 まだ何も言ってないし、やってないだろ!!
 全部我慢してたんだからな!!!

 びっくり半分、苛立ち半分で兄ちゃんを見ると、兄ちゃんは相変わらずティファを見つめたままその手を離そうとしない。
「あ、デンゼルですか?」
 この子が何か?

 首を傾げるティファに、兄ちゃんは、
「この子、ティファちゃんの息子さんって……」
と、信じられないとでも言わんばかりな顔をする。

 ああ、なんだそうか。
 そりゃ、初めて知ったんだったらびっくりするよな。
 他の人達もこれまでそうだったし…。
 でも、この兄ちゃんの場合、他の人達以上に何か引っかかるんだけど…何だ…?

 心の中で首を捻る俺の前では、ティファが満面の笑みでコックリと頷いていた。
「ええ、私の息子です」
 そして、店の反対側で他のお客さんの相手をしていたマリンを指差し、「あそこにいる女の子は娘です」と紹介した。
 その時の兄ちゃんの顔ったら、クラウドに見せたかった!
 ポカンと口を開けてバカ面なんだからさ!
 内心、ザマーミロ!とか思っちゃったよ!

 でも、俺の優越感はそこまでだった。

「でも、さっきこの子はティファちゃんの事を『ティファ』って呼んでたよね」
「え?ええ、いつも名前で呼び合ってますから…」
「でも、血の繋がっていない子供達をその若さで引き取って、養ってるのに、『お母さん』とも呼ばれないだなんて、寂しくない?」


 え……?


『お母さん』……?


 誰が……?


 ティファが……?


 ちょっと一瞬頭が真っ白になったけど、よくよく考えたらそうだよな。
 ティファとクラウドが、俺とマリンを『息子』だって言ってくれるんだから、当然俺にとってもティファとクラウドは『お母さん』『お父さん』なんだよな…。
 びっくりして固まる俺の前では、ティファがちょっと困った顔をして笑っている。
「ん〜、でもずっと名前で呼び合ってますから…。寂しくは無いですよ、だって、呼び方はどうであれ、家族には間違いないんですから」
 そう言ったティファが、ちょっと寂しそうに見えたのは気のせいかな…。



 その日、店を途中に寝る時間になった俺とマリンは、いつものようにティファからお休みのキスをしてもらって部屋に戻った。
「なぁ、マリン」
「何?デンゼル」
 ベッドに入って、さっきの事をマリンに話す。
 マリンは、「あ〜、そうか〜。ティファとクラウドって、周りから見たら『お母さん』『お父さん』なんだよね…。そう呼ぶ方が自然なのかな…」と、マリンには珍しく迷っていた。
「何だか今更な気もするんだよな…。これまでずっと『ティファ』『クラウド』って呼んでただろ?それを『お母さん』『お父さん』って呼ぶのってな…」
「うん…」
 それきり黙ってると、仕事の疲れからか段々眠くなってきた。
 うつらうつらしてると、遠くからマリンの声が聞こえてきた。
「でも、いつかは…呼んであげたら…喜ぶかな…」

 ああ、喜ぶかな…。
 ティファはきっと、嬉しそうな顔して笑ってくれるだろうな…。
 クラウドは…、照れ臭そうにそっぽ向くかな…、それともやっぱり笑ってくれるかな…。
 でも、タイミングがな〜…。
 今更だし、恥ずかしいよな…。
 それに、やっぱり俺にとって『父さん』と『母さん』は、星に還った『父さん』『母さん』って気持ちが強いし…。
 う〜…、でも、二人には本当に沢山幸せを貰ってるしな〜…。
 俺が出来る事なら、やっぱりするべきなんだろうけど…。
 あ〜〜!どうしようかな〜〜!!

 なんてことを思いながら、俺は完全に眠ってしまった。



 翌日、俺はマリンの声で目を覚ました。
 いつもよりも随分寝坊している。
 ああ…、だって昨夜色々考えてたから寝付き悪かったんだよ…。

「なぁ、マリン」
 俺を起こして、階段を降りようとしていたマリン呼び止める。
 おさげを揺らして振り返ったマリンは、小首を傾げて「なに?早く降りないとご飯が冷めちゃうよ?」と、言いながらも俺が話すのを待ってくれた。
「あのさ〜、昨日の事だけど…」
「???」
「ほら、ティファとクラウドを『お母さん』『お父さん』って呼ぶってやつ!」
 キョトンとするマリンに、ついつい大きな声で言っちゃった。
 下にいるクラウド達に聞かれてないだろうな…?
 マリンは、「ああ」と漸く分かった顔をして、俺の前まで戻って来た。
「ん〜、どうしよっか…?デンゼルは『お父さん』『お母さん』って呼ぶの?」
「……二人が喜ぶなら呼んでも良いけど…、でもな〜、今更だろ〜?なんか照れ臭いしさ〜…」
 俺の言葉に、マリンも「うん…そうなんだよね〜…」と頷いて、そのまま考え込んでしまった。

 二人が喜ぶなら、照れ臭かろうが、今更だろうが、そう呼んでやるべきだと思う。
 でもな〜…。
 こう、何て言うか…。

 ああああ!!!!
 やっぱり呼びにくいな〜!!!!

 頭をガシガシ掻く俺に、マリンが一つ溜め息をついた。
「ねぇ、デンゼル。やっぱり、クラウドもティファも、そう呼んでもらったら喜ぶと思うの。だから、思い切って頑張ろう?」
「う……、そ、そうなんだけどさ…」
 凛とした目のマリンに、たじたじとなるのは、俺が弱いからじゃない!
 マリンが強すぎるんだ!!
 マリンは、女の子で俺より年は下だけど、うんと強い心を持ってて、同年代の友達の中でも一番意志が強くて真っ直ぐなんだ!!
 だから、俺が弱いんじゃないんだ!!
 そう!絶対に、俺は弱くない!!!
「デンゼルは二人の喜ぶ事をしたいと思わないの?」
「お、思ってるよ、当たり前だろ!?」
「なら、頑張って『お父さん』『お母さん』って呼んでみようよ」
「………う、うん…そうだな…」
 大きな瞳に強い意思の光を宿したマリンに、『無理!』だなんて言えるはず無いじゃん…。


 結局、俺は決心のつかないままマリンと一緒に『お父さん』『お母さん』と呼ぶことに決めたのだった。





ああ、すみません。
やっぱり終わりませんでした〜!!
後半へ続きます(汗)。