マリオネット(前編)





「クラウドから連絡まだ?」

 ティファは包丁の動きを止め、視線を左斜め下へ向けた。
 空いたジョッキや汚れた皿をシンクの中へ置きながら、こちらを見ないようにして訊ねた血の繋がらない息子にティファの口元に苦笑が浮かんだ。

「うん」
「そっか…」

 一言そう返すと、デンゼルはそのまま、洗い物を始めた。
 ティファも視線を元に戻して食材を切る作業へ戻る…。

 セブンスヘブンは今夜も大盛況で喧騒に溢れており、少しも暗い雰囲気はない。
 それなのに、このカウンターの中だけ空気が違う。
 それは、ティファ自身デンゼルと同じ心境だからだろう。
 だから、いつもならデンゼルの不安や不満を宥める言葉を口にすることが出来るのに今夜はそれが出来ない。
 それは現在(いま)、馴染み客と笑っているマリンも同じだろう。
 ティファは刻んだたまねぎをフライパンに投入しながら、娘の強いその姿に頼もしいものを感じながら、自身と比較して落ち込んだ。
 そうして、チラリ、と時計へ目をやる。

 針が21時を指そうとしていた。
 いつもならもうとっくに連絡があるはずなのに、今夜はまだそれがない。
 そのことがティファや子供たちの不安を煽っている…。

「旦那、今日も遅いのかい?」

 カウンター席の客に声をかけられ、内心ドキッとしながらティファは笑顔を貼り付けた。

「えぇ、忙しいみたい」
「大変だねぇ」
「ふふ、そうね」
「にしても、俺っちならこんな物騒な事件が起こってる中、ティファちゃんみたいな可愛い女置いて仕事なんざ出来やしねぇけどなぁ〜」
「あら!ありがとう、嬉しいわ」
「ホントホント。仕事なんざ二の次、三の次だぜ?」
「ふふ。でもうなったら困っちゃうわ。働いてくれないとね。それに、私が外に出るのは昼間だから、通り魔事件に巻き込まれる可能性は低いんじゃないかしらね」
「ダメダメ、ティファちゃんのその認識は危ないぜ?確かに、今のところ通り魔に襲われた被害者は”夜に外出してて”…ってパターンだけどな」

 しかつめらしい顔をしてティファにお小言めいた口調で語る。
 ティファは笑いながら、それに対して適当に相槌を打ちつつも胸が締め付けられる思いだった。


 クラウドがリーブからの要請を受け、WROの任務に手を貸して3週間になる。
 要請内容は、にわかには信じられないことだった。

 この星一番、堅固な警戒態勢にあるというWROの保管庫から、マテリアが大量に盗まれたのだ。
 盗まれたマテリアの中には非常に危険なものもあり、目下、全力でWROリーブは犯人の捜査に乗り出している。
 その捜査にクラウドもSOSとして召集された。
 勿論、世間ではこの事件は知られていない。
 あまりにも大事件過ぎる。
 水面下ではWROが厳戒態勢に入り、一般人に被害が出ないよう目を光らせていて、今のところ盗まれたマテリアが悪用されている気配はない。
 しかし、なら何故世間に公表し、人々に注意を呼びかけないのか…。

 その理由はいくつかあるが、最も大きな理由は”愉快犯”や”模倣犯”を生み出さないためだ。

 例えば、『あの厳重なセキュリティーが施されているWROからマテリアを盗み出した者だ。命が惜しければ店の売上金、全部を置いていけ』など虚言を口にし、強盗が押し入ったとしよう。
 ついでに、ちょっと軽く脅しをかけるために魔法を使う。
 火を放っても良い。
 水を浴びせても良い。
 その店の店員たちはどうする?
 恐らく、ろくな抵抗もせずに逃げ出すに違いない。

 だから、そのような輩を輩出するのを防ぐためにリーブは苦渋の選択を下したのだ。

 潔癖すぎる”きらい”のあるリーブは、事件を世間に公表してしまうまさに一歩手前の状態だった。
 それを、部下達がギリギリで押し止めた。
 その判断にクラウドとティファは心から賛同した。
 そうして、自分たちが力になることを誓い、リーブの背負った大きなものを一緒に背負うべく、手を差し出したのだ。
 だが実際に手を貸し、尽力しているのはクラウドだけだ。
 理由は簡単だ。
 ティファとクラウドは、自分たちが世間の注目をどうしても集めてしまう存在だという自覚を持っている。
 だから、今回のリーブからの要請もどこから洩れるか分からない、という危機意識を持って臨んだのだ。
 そのため、客たちには今もクラウドは普通に配達の仕事をしていると言うことにしている。
 しかし、だからこそこの3週間、セブンスヘブンは臨時休業することが出来ないでいる。
 理由もなく休業すると、もしかしたら窃盗犯に勘付かれるかもしれないからだ。

 WROへ盗みに入った時点でジェノバ戦役の英雄達はマークされているに違いない。
 そのため、わざわざクラウドは遠方の大陸へ配達に行くという設定で一路、忘らるる都へ向かい、そこからWRO支部へ、支部から本部へ飛ぶ、という徹底さで事に当たった。


『大丈夫だよ。クラウドが力を貸したらあっという間に解決するって!』


 クラウドがWROの捜査に手を貸すことが決まった時のデンゼルとマリンの台詞だ。
 長丁場になる可能性があるため、子供たちにはリーブから依頼が来たその時に話しをしている。
 もしも本当に長丁場になったとき、子供たちの協力(クラウドが変わらず配達の仕事に精を出しているのだ、と客たちのような他人に思わせるための演技)が必要になる可能性があるからだ。
 デンゼルとマリンが軽々しく口にする子じゃないと良く知っているクラウドとティファの判断であり、それは今も間違っていないと信じている。
 だが、子供たちに説明をする必要はないのでは?とティファは当時、密かに思っていた。
 そんなに時間をかけずとも解決すると思ったのだ。
 それは、子供たちと全く同じで、クラウドが介入したら多少危険で強引な解決への道を選択出来るからに他ならない。
 しかし、一向に事件は解決の糸口を見せず、電話のみで彼と接するようになって3週間。
 徐々にクラウドの声に疲労と焦りが見え隠れするようになっていた。
 そうしてとうとう、昨日まではなんとかあった連絡が今日はまだない。
 子供たちとティファが不安に思っていることを知っているクラウドが連絡をしてこないということはよほどのことだ。

(クラウド…もしかしてなにかあったの?)

 不安で胸が押しつぶされそうになる…。
 しかし、それを言葉にすることは出来ない。
 同じ不安を抱き、小さい胸を痛めている子供たちを前に、本当なら明るい顔をして『大丈夫だよ』と言ってやらなくてはならない立場にあるというのに、既にそれは失敗している。
 ならばせめて、弱音を口にすることだけはしまい!と心に誓っているのだ。



 チリンチリン。

 ドアベルの音が新たな来客を告げる。
 ティファは気持ちを切り替えるようにして顔を上げ、来客へ「いらっしゃいませ」の一言を口にしようとして目を丸くした。
 そうして、営業スマイルではない笑顔を浮かべる。

「「あ!!」」

 子供たちの声がティファの心を代弁するかのように明るく響く。
 戸口に現れた人物は、しかし子供たちにいつもの笑顔を見せることはなく、強張った作り物の笑顔を貼り付けた。
 デンゼルとマリンの笑顔がスーッと消える…。
 ティファもまた、いつになくいぎこちない笑みを浮かべて店の中へ歩を進めるグレーの瞳の青年に緊張を強いられた。

 WROの若き隊員、グリート・ノーブル准尉。
 身長187センチという長身の青年は、短くカットした薄茶色の髪をツンツンと立たせ、深いグレーの瞳を持つ中々の美男子。
 しかし、口を開くと調子の良い言葉ばかりを言う上、カラリと明るい笑顔をいつも顔に張り付かせているため、彼という人間がどうにも軽い性格をしている印象を与えていた。
 だが実際は、妹思い、従兄弟思いの情に篤い性格で、良い兄貴分だった。
 その青年がたった一人でラフな私服姿で現れ、強張った笑みを浮かべて子供たちの頭をポンポン叩く姿は、不安を掻き立てる以外の何ものでもなかった…。

「こんばんは、ティファさん、久しぶり〜」
「こんばんは、リト君。久しぶりね、元気してた?」
「元気元気。この通り〜!」
「良かったわ」

 いつも通りの他愛ないやり取りを交わす。
 カウンター席の客がチラチラとティファ、グリートへ視線を投げて興味や不快感を示した。
 あまり見ない顔の若い男がティファと親しく言葉を交わす。
 面白いものではない、と感じる客は少なくない。
 いつもならグリートはそういう”ちょっと勘違い”を楽しんでしまう悪癖があるのだが、今夜は違った。
 それらの客を丸々無視すると、唯一空いていたスツールへ腰を下ろした。
 途端、客たちが非難の目を向ける。
 そこは、どんなに混んでいても決して座ることが許されないクラウドの席だったからだ。
 グリートだってそのことは良く知っているから決してその席に座ろうとしたことはいまだかつてない。
 しかし、今夜そこに座ったのは、ただ単にカウンター席が満席だったことと、どうしてもカウンター席に座らなくてはならなかったからだ。

 それは即ち、ティファへすぐ話さなくてはならないことがあることを指している。

 グリートの焦燥感の具体的な理由を察したわけでは無論ないが、それでもティファは驚きながらもある予感めいたものを感じ、胸がギュッと縮む思いがした。

「おい、兄ちゃんその席はな…」

 客の1人が赤ら顔で新参者を諌めようと腰を浮かせる。
 しかし、それよりも早く、カウンターを出たティファがグリートへ足早に近寄った。
 誰もがグリートをその席から立たせるためにティファが向かったのだと思っていた。
 だからこそ、ティファが、
「リト君、なにが良い?」
 笑顔でそう声をかけたことに目をむいた。

「そうっすねぇ。じゃあ、”お急ぎコース”でお願いします」

 ニヘラ、と笑って当然のように答えた青年に馴染み客たちが困惑半分、怒り半分の眼差しを送る。
 ”お急ぎコース”など聞いたこともない。
 しかし、ティファはニッコリ笑うと、あっさりと頷いてしまった。
「はい、了解。それで、どれくらいが良いの?」
「出来るだけ早く」
 青年が即答する。
 ティファはまたもや頷いた。
「はい、まかせて」
「それと」
「なに?」

 言葉を切り、暫し逡巡した青年にティファは小首を傾げて何食わぬ顔を取り繕う。
 心臓はバクバクと早鐘を打っている。
 デンゼルとマリンが不安そうに様子を伺っている視線が痛い。
 グリートは長く焦らしたりはしなかった。

「クラウドさんの配達について相談があるんだけど…ちょい急ぎでも良い?」

 ティファはグッと一瞬だけ声を詰まらせ、それを必死に飲み下すとニッコリ笑った。


「了解。それじゃ…」


 子供たちへ振り返る。
 デンゼルを呼び、微かに瞳を不安げに揺らしながらもしゃんと顔を上げてやって来た息子の両肩に手を置いた。
 自分の意思を言葉ではなく心で伝わらせたい、と言わんばかりにその手に少し力をこめる。
 そうして、グリートへ少しだけ押しやるようにしながら、
「デンゼルがクラウドの伝票整理をしてるの。2階に上がって一緒に見てきて」
 そう促した。
 だがしかしグリートはちょっぴり困ったように笑いながら頭をガシガシ掻きつつ、
「ん〜…嬉しいんだけど、我がままもう1つ…良いっすか?」
 お願いをするようでいて頑として譲れない雰囲気を漂わせながらティファの反応を伺う。

「マリンも一緒に良いかなぁ?」
「マリンも?」

 ティファは娘へ振り返りながら驚いた顔をしてみせた。
 そう、驚いたフリをしただけ。
 そう演技することで客たちの目を誤魔化しながら、グリートが店に来た時から胸に広がり続けている漠然とした不安が確かな形となるのをティファは感じていた。
 デンゼルとマリンはまだ分かっていないようで、少しおどおどしながら、困ったように大人達のやり取りを見守っている。

「ほら、こっちの依頼をちょっと強引にお願いすることになるから、調整に時間がかかると思うんだよなあ。そうしたら、今からだとマリンとデンゼルって寝る時間になるだろ?なら、もういっそのこと一緒にこっちのことを手伝ってくれた方が不公平とかなくて良いかな〜?ってさ」
「おい、アンタ!勝手なことばっか言うんじゃねぇよ、さっきから!!」

 ヘラリ、と笑って苦しいながらもそれなりな言い訳をしたグリートに、カウンター席の馴染み客がとうとう痺れを切らして立ち上がった。
 それまで、店内でティファたちのやり取りに注目していたのはカウンター席とその席の近くの客だけだったのに、男の怒鳴り声で店内の客全員が注目することになった。
 それまでは活気溢れて温かい雰囲気だった店内が一瞬でシーンと静まり返り、なんとも言い難い感じの悪い空気が張り詰める。
 立ち上がった客は、流石に全員の注目を集めるつもりはなかったようで、居心地悪そうに身じろぎしたものの、引っ込みがつかなくなったのだろう、意固地になってグリートを睨みつけた。
 しかし、当のグリートはと言うと、
「あらら、悪いなおっさん。気持ちは分かるけど、俺がお願いしてるのはティファさんに…であって、おっさんに…じゃないわけよ。もしもティファさんが『ダメ』って言ったら無理にとは言わないから安心しなって」
 と、手をヒラヒラさせて取り繕っている。
 いや、取り繕っているのかからかっているのか、非常に微妙だ。
 それこそ、いつもの青年らしい態度と言えばそうなるのだが…。

 立ち上がった客がむかっ腹を立てて一歩踏み出そうとしたが、その寸前でティファが動いた。

「そうね、じゃあマリンも行って来て」

 あっさりした口調でそう言い切ると、戸惑いながらその場の様子を見ていたマリンを手招きし、デンゼルと一緒にグリートへ背を押す。

「じゃあリト君。2階で2人に話しを聞いて調整してきて」
「サンキュー、助かる!じゃ、行くぜ、デンゼル、マリン」

 グリートはパッと顔を輝かせるとそう言い終わるや否や、子供たちの背中に手を添え、逃げるようにして2階へ消えてしまった。
 あまりにも素早いその行動に、立ち上がっていた客ですら反応出来ずポカン…と口を開けたままだ。
 不遜な青年をただ黙って見送ってしまったことに、その客が気づいた時には当然グリートも子供たちもその姿はない。

 立ち上がっていた客がイライラしながらスツールにドッカ、と座ったのをきっかけに、また店内には喧騒が戻ってきた。
 しかし、馴染み客である自分たちよりも青年を庇うような行動を取られたとしか思えないティファの行動は、立ち上がった客を筆頭に数名の常連客たちの不満を買うことになった。
 いつもなら、上機嫌で長い時間セブンスヘブンに居座る常連客たちはさっさとジョッキを空にすると、不機嫌なまま店を後にした。

 ティファは彼らの不快感を十分理解しながら、どうしてもその気持ちを汲んだ行動を取るわけにも、理由を説明するわけにもいかず、ただ黙ってその客たちへ心から頭を下げて見送った。
 だがそれでも、意識の大半は2階へ上がったグリートと子供たちへ向けられていた。


 ”お急ぎコース”など、メニューにないことを口にしたグリートが言いたかったこと。
 それは、聞かなくても分かる…。


「すいません、今夜はもうラストオーダーでお願いしたいんです」


 驚く客たちに頭を下げつつ、ティファは不安でいっぱいだった。

 急いで自分に話したいことがある、と暗示したグリートが一体なにを話すつもりなのか。
 悪い予感しか頭に浮かばず、いつもよりもうんと早い閉店となったはずなのに、最後の客が帰るまでの時間がいつも以上に長く感じられた…。


 *


「ティファさん、申し訳ありません」
「いいの、リーブ。それよりも詳しく話して」

 閉店から僅か3時間後。
 ティファは子供たちと共にWRO本部にやって来ていた。
 時刻は既に深夜1時を過ぎている…。
 最後の客を送り出し、後片付けもしないで2階へ駆け上がったティファが見たものは、何泊か出来るように荷造りを終えた子供たちと窓の外を警戒するグリートだった。
 まるで、ティファや子供たちが何者かから狙われているかのような張り詰めた緊張感を醸し出すグリートに、ティファは全身が凍りつくほどの恐怖を覚えた。

 クラウドになにかあった、と察するに難(かた)くない…。

 そうして、一切説明のない状態で、子供たちと共にグリートに先導され、WRO隊員が控えている車へと乗り込んだのだ。

「車の中でリト君から聞いたけど、クラウドが行方不明なんですって?」

 ティファと手を繋いでいたマリンがビクリ、と身を震わせる。
 デンゼルはマリンのもう片方の手をしっかりと握り締めた。
 リーブの顔には疲労感が色濃く浮かんでおり、彼がどれほどこの数週間、大変な思いで任務に当たっていたのかを伺わせた。
 重々しく頷き、ティファや子供たちに座るよう促す。
 そうして、ティファたちの後ろで控えているグリートへ目配せして下がらせると自身も3人の対面にあるソファーへ腰をかけた。

「クラウドさんと連絡が取れなくなったのは昨夜、22時以降のことです」

 ティファは息を呑んだ。
 昨夜は20時半にクラウドと携帯越しに話をした。
 勿論、ティファは店をしている真っ最中だったので長々と話は出来なかったが、クラウドはちゃんとマリン、デンゼルと話しをしている。
 リーブの言葉からすると、その電話の僅か1時間半後に消息を絶ったことになる。

「どうして…」

 絶句するティファに、リーブは心底すまなそうに瞳を伏せた。

「マテリアを盗み出した人間は、間違いなくWROと縁(ゆかり)のある人間です。でなければ、セキュリティーを一瞬とは言え落とすことなど絶対に出来ない」
「セキュリティーを落とした?」
「はい…」

 WROのセキュリティーは、例えば落雷などで電気が落ちる事態が発生したとしても、予備電力にすぐさま切り替わるので一瞬たりともセキュリティーが切れることはない。
 そのセキュリティーが落ちた。
 これはもう、内部に詳しい人間…と言うよりも、内部犯の可能性しか考えられない…。

「怪しいとされる人間の洗い出しをしていたんですが、実はそれらしい人間には割と早い段階で行き当たっていましてね。解決はすぐだと思っていました。ですが…」

 溜め息を吐いてリーブは伏せていた目をゆっくり上げた。
 目の下のクマがくっきりと刻み込まれ、リーブを実年齢以上に老けさせていた。

「何故か、その人間が次々と変わっていくんです」
「変わっていく?」

 要領を得ない説明にティファの眉間に深いしわが寄る。
 それでなくともクラウドが行方不明と聞かされて生きた心地がしないのだ、さっさと掻い摘んで説明して欲しいと思う。
 しかし、リーブはそんなティファの心情を正確に把握しているだろうに、事の顛末を言い含めるように回りくどいと思えるような道筋だった説明を続けた。

「一番最初、Aという人間が犯人として浮上しました。そうして彼を拘束し、尋問したんです。しかし、彼は盗んだはずのマテリアのありかを知らない、との一点張りでね、中々口を割らないんです。いや、割らないと思っていたんですよ、私たちは」
「…言ってる意味が分からないわ…」

 イライラしながらも、いつにないリーブの遠回りな説明にティファは困惑しながら口を挟む。
 リーブは「そうですよね、ですが最後までお願いしますから聞いてください」と頭を下げ、続きを口にした。

 ティファの左右ではデンゼルとマリンが難しい顔をしながらウトウトと睡魔と闘っている。
 もう流石に起きていて良い時間ではない。
 そのことにリーブとティファは同時に気づいた。
 リーブが『どうします?』と視線だけでティファに問う。
 ティファは迷った。
 話の続きをせがむ気持ち、子供たちにも聞かせてやりたい気持ち、そうして子供たちを休ませてやりたい気持ちがせめぎ合う。
 と、その時、ドアをノックする音が静かに響き、リーブが返事をする前に開かれた。
 現れたのは隊服に身を包んだグリートの従兄弟、プライアデスだ。
 紫紺の瞳の下では、リーブに負けないくらいのクマが濃い影を落としていた。

 ティファを見て敬礼すると控えめな声で、
「子供たちを休ませて上げる準備が整いました」
 そう告げた。
 ウトウトしていたデンゼルとマリンがその一言に一瞬、目を強く開いて拒否を示したが、ティファは青年のその一言で2人を休ませることに決めた。
 2人の背にそっと手を添える。

「明日になったらちゃんと教えてあげるから」
「でも…!」
「俺、まだ大丈夫!!」

 頑として首を縦に振ろうとしない子供たちに、だがティファは優しく目を細めて微笑んだ。

「ダメ。ちゃんと夜は寝るの。でないと、クラウドが元気に帰ってきたとき、デンゼルとマリンが無理をしたって知ったら、すごく自分のこと責めるでしょ?」

 ティファの一言を前に、2人はグッと言葉を詰まらせ俯くと、やがて小さく頷いた。

 頷いたことで2人の緊張の糸が切れたのかもしれない。
 ウツラウツラと目を閉じかけ、立っていてもふらふらと危なげない子供たちを、プライアデスが片腕ずつで軽々抱き上げた。
 デンゼルとマリンも抵抗することなく、逆に甘えるように青年の首筋へ額を押し付ける。
 その姿はいつもクラウドの時に見せてくれるものと同じで、ティファの胸に鈍い痛みが走った…。


「リーブ、続きを」


 小さく会釈をして子供たちを抱き上げたプライアデスがドアの向こうに消えるのを確認して、ティファはリーブに向き直った。
 リーブは頷くとティファの目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。

「Aは『マテリアのありかは知らない』と言った。しかし、自分が何をしたのかは認めたんです」
「何をしたのか?」

「セキュリティーを切った、ということを…です」

 リーブの言葉をティファは脳内で反芻させた。

「ようするに、バックに他の人間がいた…ってこと?」
「えぇ、その通りです」
「なら、Aを問い詰めたら犯人は分かるでしょ?」
「それが、分からないんですよ」
「どうして?」

 分からないはずがないではないか、とティファは混乱するばかりだ。
 しかし、リーブはティファが混乱するのを分かっていたからこそ、こんな回りくどい説明をしていたのだ。
 ティファがそう察したのはそれから間もなくのことだった。

「Aが自供したBというバックの人間、ようするにセキュリティーを落とすように指示した人間も、どうして自分がそんなことを指示したのか分からない…と言うんですよ」
「なに言って…」
「Bにそう指示をするように仕向けたCという女がいたんです。そして、そのCという女の背景にもDという男がいた」
「……ちょっと……なにそれ…」
「いずれも、彼らは自分が何をしたのか分かっていながら、どうしても抗えなかった…と言っています」
「…抗えなかった?」

 不安が暗雲となって胸に厚く垂れ込める。
 リーブを見つめる。
 WRO局長はゆっくりとした口調で言った。


「『あやつる』のマテリアが使われている可能性があるんです。それも、徐々に強力になっていっているようなんですよ」


 ティファは目を見開いた。