マリオネット(中編)”あやつる”のマテリア。 それは、相手の意思を無視して自分の思い通りに動かすこと。 そのままそっくり、”あやつる”と言う言葉を指している。 そのマテリアが悪用された事件など、ティファは聞いたことがなかった。 「もしかしたら、過去、これまでにも前例があったのかもしれません。しかし、ここまで大事(おおごと)になったことはかつて1度もない。それは、あくまでマテリアの効果が一時的なものでしかなく、すぐその効力はそのあやつられている本人の意思によって屈してしまうからです。しかし…」 リーブはティファから目を逸らさず言葉を続けた。 「敵は想像以上に強(したた)か、しかも忍耐強い。いや、もしかしたら研究熱心と言った方が良いかもしれません。マテリアの効力が最大限に引き出されるまで”あやつり”続けていたのですから」 「…でも、”あやつり”続けたって言ったって…」 ティファの言わんとしていることをリーブは正確に読み取った。 そう。 敵は”あやつり”続けてなどいない。 AもBもCもDも捕まっているではないか。 その時点で、”あやつられる”ことから彼らは解放されている。 リーブは頷いた。 「えぇ、その通り。被害者たちは”あやつられ”続けてなどいません。何故なら”あやつり”続けられると人は正気を失ってしまうからです。では、ならば何故正気を失うからという理由で”あやつる”ことをやめてしまうのか…。そもそも正気を失った”身体”は一体どうなります?動くマネキンになると思いますか?」 ティファは唇を微かに戦慄(わなな)かせながら言葉なく、続きを待った。 「動くマネキンになるなら、恐らく犯人はA・B・C・Dと言った人間を解放することなく”あやつり”続けたでしょう。しかし、そうはしなかった。その理由はたった一つです」 「正気を失った身体は、あやつることが出来ないからです」 ティファは自分でも気づかないうちに膝の上で手を握り締め、小さく小さく首を横に振っていた。 リーブの言わんとしていることが分からない、と言うよりも、分かりたくない、と言う気持ちの方こそが大きい。 正気を失った身体はあやつることが出来ない。 それは一体なにを指す…? 「正気を失う状態…というよりも、そもそも”あやつる”魔法が身体のどの部分に作用するのか、ということに着眼すると自ずと分かるかと思います」 「そう。”あやつりのマテリア”は脳に作用するんです」 「直接脳に大ダメージを与える恐ろしいマテリアです」 「脳が大ダメージを受けるということは、視神経、感覚神経、末梢神経、自律神経等々、身体を維持していくために必要な神経系の破壊に繋がります」 「ということは、生命を維持していくことが出来なくなる」 「生命を維持できない…いわゆる”殺してしまう”ということです」 「殺してしまう=(イコール)死体が出来る。その死体処理を施すのは誰です?新たな”マリオネット”ですか?ということは、行方不明者が増える…ということですよね。死体処理などと言う見つかったら言い逃れが出来ない危険なことを犯人がするはずがないですから」 「だから、”あやつり”続けることが出来ないんですよ」 ティファはいつしか肩を大きく上下させていた。 呼吸が乱れ、今にも泣き叫ばんばかりの表情を浮かべる。 リーブもまた顔を歪め、大きく息を吐き出した。 今から口にすることがティファをどれだけ苦しめることになるのか想像に難くない。 しかし、言わなくては前に進めない。 「ティファさん、敵は1人をあやつり続けてはいませんが、しかし、マテリアを使い続け、成長させていたんです」 「それが、今、巷を騒がせている”通り魔事件”の犯人です」 言葉を切って、事件のもう1つの顔を強調したリーブに、ティファはだが、強すぎる不安のせいで、彼の言葉が頭の中ではっきりとした結びつきを導いてはくれなかった。 今、世情を騒がせている通り魔事件。 それが、”あやつる”のマテリアとなんの関係がある? クラウドの失踪となんの関係がある? ティファは、グルグルと先の見えない迷路に迷い込んだかのような絶望に近い闇に飲み込まれそうになった。 リーブは続けた。 「実はマテリアが盗まれる前、警察からWROへ捜査依頼がありました。通り魔事件の犯人像がどうしても掴めない…とね。被害者の証言する人物像がてんでバラバラ、一致するものが何一つなかったからです。それでも、被害者たちの証言する人物像を片っ端から当たり、警察は数人を任意で事情聴取していました。しかし、事情聴取をしている真っ最中にも通り魔事件は起きていました。犯行手口はいずれも同じものだと言うのに…ね」 「そこで、我々に捜査協力依頼をしてきました。単なる通り魔事件ではなく、その背景にあるかもしれない巨大で凶悪なものを警察の上層部が感じ取ったからです」 「その矢先のマテリア窃盗事件です」 「通り魔として捕らえられた犯人たちは、一様に自分の意思とは無関係に身体が動き、且つ、動いている間、まるで夢の中の出来事のような感覚でしかなかった…と言っています。無論、それは悪夢以外の何ものでもなく、霧が晴れたと感じたときには目の前には自分が犯した罪の被害者たちはおらず、見知らぬ土地を彷徨っていた…と言っています」 「だから、加害者である彼らは、自分がなにか得体の知れない病気にかかったのだ…と思い込んでいました。いや、思い込もうとしたんです」 「そうしないと、全ての説明を自分でつけることが出来なかった…、と言うよりも、あの恐ろしい事件に手を染めたのがほかならぬ自分であるなど、到底認めることが出来なかったんです。当然ですよね、自らの意思とは無関係に身体が動き、見知らぬ人たちを傷つけた…なんて」 「そういった”加害者たちの自己保全意識”により、”通り魔事件”は難航を極めていました。勿論、それを責めることなど出来ません。彼らは事件に巻き込まれた被害者なのですから…。しかし、その意識のために捜査が難航したのは事実です」 「犯人と思しき人物を捕まえてもそ動機が見つからない上、彼らの証言はおおよそ信じるに足りないことばかりなんですから」 「そうして…」 「私たちは1つの可能性に突き当たったんです。それが…」 「”あやつる”のマテリアの悪用です」 リーブの説明が一区切りを迎える。 ティファは黙ったまま身を固くして耳を傾けていた。 だが実は、ティファはあまり理解出来ていなかった。 巷を騒がせている”通り魔事件”と”マテリア窃盗事件”が繋がっている…、といきなり言われても頭の中でひとつになってくれない。 理解する以前に、ティファにとっての最重要事項はクラウドの行方であり、本音を言えば”通り魔事件”も”マテリア窃盗事件”もどうでも良い。 クラウドの無事。 その一言だけが欲しいのだ。 しかし、リーブはそれを決して口にしない。 それに近いことも、思わせぶりなことも言ってくれない。 ティファの心は破裂しそうなほど、不安と苛立ちでパンパンになっていた。 一方、いよいよ話の核心に近づいてきたことにより、リーブは自身の決意が脆く崩れるのを踏ん張るので精一杯だった。 ことは、ティファやデンゼル、マリンと言ったクラウドに近しい者の身を危険に晒す事態となっている。 それはなんとしても避けねばならない。 ティファたち自身のためにも、クラウドのためにも。 だからこそ、こんな非常識な手法で部下をセブンスヘブンに向かわせ、ティファたちを保護したのだから。 「ティファさん…」 そう、言わなくてはならない。 一番最善の道を間違えることなく選択するために。 「クラウドさんは通り魔事件の犯人の新しいマリオネットに選ばれたんです」 あぁ…、とリーブは心の中で嘆いた。 どうしてこういうことばかり、想像通りになってしまうのだろう。 まるで死刑執行をまさに今、与えられようとしている死刑囚のようだ。 恐怖に顔を引きつらせて固まったティファを前に、リーブは深く頭を下げた。 * 「クラウドさんでなくてはならなかった…というわけではなかったはずです。敵の狙いはあくまで”そこそこ使い物になる戦闘能力のある新しいマリオネット”だったはずです。今までの”加害者”という名の”被害者”が徐々に屈強な人間へ変わっていたのがその証拠です」 「クラウドさんを手中に収めることに成功した犯人は、思いがけない”マリオネット”に小躍りしたことでしょう。その証拠に、昨夜新たに起きた通り魔事件ですが、こちらの張った伏線の隊員であると気づかずに彼を襲っている。止めを刺せるはずだったのに刺さず、しかも、MAX状態の”あやつるのマテリア”を落としてしまうほどのはしゃぎっぷり…。抑えるなら今しかないでしょう」 丸々一晩、眠れなかったティファの目の下には色濃いクマ。 それを一瞥した後、シュリは淡々としたいつもの口調で語った。 ティファと子供たちをWRO本部で保護してから30時間が経っていた。 つまり、クラウドが行方不明となってから丸3日が経っていることになる。 今、ティファの周りには大勢のWRO隊員が控えていたが、シュリが語りかけているのはティファ1人だった。 今回の作戦会議に出席していなかったのがティファだけだったための『任務決行直前の簡潔な説明』なのだが、当のティファ本人はシュリの声が聞こえていないように見える。 それほど覇気がなく、どんよりとしていた…というわけではない。 むしろ逆だ。 ほとばしる怒りは抑えようもなくティファから溢れており、その存在感は無視出来ないものがあった。 大半の隊員たちが怒れる英雄の姿に頼もしさを感じていたが、しかしある一部の隊員たちは危機感を募らせていた。 その危機感を募らせている一部の隊員の中に、しっかりシュリが含まれている。 理由は簡単。 怒りと言う感情に支配されて突っ走られると、周りの仲間たちを巻き込んだ取り返しのつかないミスを招くことが容易に予想されるからだ。 それは即ち、ミッションに就くメンバー全員が危険に晒されることに他ならない…。 そういうわけで、シュリはリーブにティファを今回の任務に関わらせることに反対した。 薬を使ってでも事が終わるまで、彼女を本部から出さないようにと進言したくらいだ。 しかし、結局それは聞き入れられることなく、こうしてシュリの目の前に彼女はいる。 『それを回避するためにも、俺達が頑張ったら良いんじゃないっすか?』 ティファを参戦させることで悩んでいたリーブに余計な一言を口にした隊員、ノーブル准尉をチラッと見ると、青年はいつもと変わらない人を食ったような顔で、彼の従兄弟をはじめ他の隊員たちと紛れ、飄々とそこにいた。 (………お調子者め) それでなくとも気の重くなる任務体制状況だというのに…。と、青年にしてみると本当に珍しく愚痴をこぼしたくなる状況だった。 本当なら、ちゃんと小グループを1班として5つに編成するなど、いつものように万全な態勢で作戦に移りたかった…と、内心、溜め息を吐かずにはいられない。 しかし、その時間も、あらゆる意味で余裕という余裕がなかったのだ。 急ごしらえの編成部隊はたった1チーム、ようするに今、シュリの目の前にある隊員たちだけが今回の任務に当たる総勢力と言うことになる。 せめて、編成されている隊員たちの階級がもう少し高ければ…、せめて『少尉』よりも上位クラスがもう少しいてくれたら…等々、言いたいことは沢山ある。 あるのだが、言ったところでどうにもならない。 出来る努力をした結果が目の前にあるのだから。 日頃、人間を『階級』で見たりしないので普段はそういう肩書きなど全く気にならないが、こと任務になるとそうも言っていられない。 『階級』が上位になるほど当然、その隊員の腕は上がり、質も磨かれている。 安心して背中を預け、目の前の敵へ集中出来る。 しかし、現実は厳しい。 正直、今回の任務には荷が重過ぎると思われる隊員が大半を占めている…。 それはリーブにしても同感で、むしろシュリよりもリーブの方こそその思いが強い…。 クラウド・ストライフの力を知っているからこそ、もっと上の肩書きを持つ実力者(隊員)を今回の任務に当てたかった。 当てられない理由は簡単だ。 警察からの捜査協力依頼が来る前からWROが秘密裏に追っている”巨大な問題”に力の大半を注いでいるからだ。 正直、”あやつられた”クラウドの力は恐ろしいが、今、追っている”山”を逃したり、ましてやバレてしまうことの方が”この星にとって”痛手となる。 シュリが通り魔事件解明のために一時、そちらから抜けたというだけでも痛恨時だ。 これ以上、先に追っていた”山”から人員を裂くわけにはいかない。 だから…というわけではないだろうが、リーブは迷いながらもグリート准尉の後押しに乗るようにしてティファへの参戦を認めてしまった。 普段のリーブなら絶対、こんなにも冷静さを失った彼女を参加させなかっただろう…、とシュリは思っている。 思ってはいるが…。 「……」 一瞬、目を固く瞑って余計な”迷い”を頭から追い出すと、シュリは目を開けた。 「クラウドさんを”あやつっている”犯人は、恐らく複数います。複数の人間が同時にクラウドさんを”あやつるマテリア”で魔法をかけているがゆえに、彼は未だに逃れられない状況にあるのだというのが我々の見解です」 「それはさっき、リーブから聞いたわ」 イライラした口調でティファが答える。 険のある言い方は常の彼女らしくなく、ティファがそれだけ余裕を失っていることを如実に表していた。 しかしシュリは逆に軽く目を眇めるとそれまでとは違う声音を出した。 「本当に分かっていますか?」 「どういう意味よ」 「アナタのその状態がこの任務の足を引っ張りかねないということが」 ティファは鋭く息を呑み、ギンッ!とシュリを睨んだ。 視線だけで殺されそうな気迫。 隊員たちがサーッ!と青ざめ、唾を飲み込む。 しかしその気迫をシュリは受け流した。 「今回の敵はクラウドさんをあやつっている。ということは、間違いなくクラウドさんと戦わなくてはならないんです。彼の力はティファさん、よく知ってるでしょう?一瞬たりとも気を抜くことなど出来ないし、ここにいる全員のチームプレイが必要なんです。そのとき、冷静さを失ったアナタに暴走されたら我々は間違いなく全滅だ」 「な…!私はそこまでバカじゃないわ!ちゃんと分かってる!!」 「分かっている…と仰いますが、具体的に本当に分かってますか?」 「なにが言いたいの!?」 「クラウドさんと戦うということがどういうことなのか」 ティファは一瞬、言葉に詰まったがそれまでの勢いを手放すまいと、 「分かってるわよ!!」 わざと噛み付かんばかりの口調で答えた。 しかし、先ほどまで胸の中で燃え広がっていた怒りの炎がその勢いを失った感は否めない。 それをシュリも、そうして周りの隊員たちも感じ取ったはずだ。 ティファは居心地の悪さとまだ消し切れていない怒りを燻らせながら「それで、他になにかある?」と、シュリから目を逸らして促した。 青年中佐は「いえ、なら良いんです」とだけ呟くと、後は全員へ向かって今回の作戦について改めて語り出した。 少しも”良い”と思っていないことは簡単に分かった…。 「最後に今一度確認する。今回の作戦は単純そのものだ」 その言葉から始まったシュリの説明は、要約すると以下になる。 まず、ティファが1人でこれまで”通り魔事件”の被害者達と同じ時刻に街をうろつく。 恐らく、犯人グループはティファが囮と知っていながらも食いついてくるだろう。 なにしろ、今回の事件の犯人達は思いがけずにジェノバ戦役の英雄のリーダーを自分たちのマリオネットに出来たのだ。 ぜひとも試してみたいところだろう。 それに、クラウドを捕らえたことで敵は新たな野望に燃えたはずだ。 新たなジェノバ戦役の英雄をマリオネットとすることに。 仲間を大切にしていることは、英雄に興味を持つ人間なら誰もが知っている。 事実、仲間たちはクラウドが行方不明になったという報せを受けてすぐに立ち上がっていた。 ただ、ティファよりも遅れているのにはわけがある。 今、ここにいないバレット、シド、ナナキ、そしてユフィはこちらへ向かっている途中なのだが、WROが追っている”デカイ山”にバレットたちは既に手を貸していたのだ。 ”デカイ山”に手を貸していない英雄は各地を放浪しているヴィンセント、エッジで根を下ろし、家族を得て新しい人生を歩み始めたクラウドとティファだけだった。 油田開発に尽力していたバレットに声をかけた時点で、リーブはクラウドやティファにもSOSを要請するかどうか悩んでいたのだが、いざ、声をかけようとした矢先にマテリア窃盗事件が起こってしまったのだ…ということをティファたちが知るのはもっと後になってからになる…。 とにもかくにも。 ティファを囮にしてクラウドとクラウドを操っている犯人達を捕まえる。 もうそれしかない。 長時間、あやつられることでクラウドの神経が破壊されては大変だ。 それに、言葉にはしないがリーブもこの場にいる隊員たち全員が淡い期待を抱いていた。 あやつられているクラウドがティファを目の前にして、”あやつる”のマテリアの魔力を退けてくれるのではないか…と。 たとえ、それが一瞬だけでも良い。 クラウドの恐ろしいまでの力が敵として発揮されない”時間”が欲しい。 その隙を逃さず、犯人達を捕まえる。 それが上策だろう…と。 しかし、シュリは正直そこまで楽観視できなかった。 人間の力には限界があるし、クラウドの精神力も一般の人とさほど変わらない。 敵の支配下に置かれて既に3日。 精神的にギリギリの状態だろう。 それに、クラウドは昨夜、伏線を張っていた隊員とは言え、”人間を襲ってしまった”のだ。 それがたとえ、自らの意思ではなく他の被害者達のように”夢の中のような出来事”だったとしても、心が受けたダメージは大きいだろう。 「敵は間違いなくティファさんがこちらの囮であることを知っている。そうして、ティファさんが囮となった時点で、こちらが本気で乗り出したことも察するはずだ。今まで以上に苛烈な攻撃を仕掛けてくるだろう。罠もあるかもしれない。それに一番重要なことは、直接我々が武器を交える最初の人間が相手はジェノバ戦役の英雄ということだ」 張り詰めた緊張の糸が最高潮になる。 シンと静まり返った場で、シュリは一同を見渡した。 「全員、これまで生きてきた中で一番気を引き締めてことに当たれ」 「でないと、殉職するということを忘れるな」 「以上!これより作戦に移る」 ティファは、周りの隊員たちがシュリに向かって敬礼する気配を感じながら、青年中佐の足元ばかりに目をやっていた。 シュリの目が見れなかった。 今、この場にいる全員に最終確認を口にする青年の声すらまともに耳に入ってくることはなく、グルグルと頭の中を廻るのはただ1つ。 『クラウドと戦うと言うことが具体的にどういうことなのか』 それだけだった。 戦うクラウドを何度も間近で見てきた。 時にはあまりの鬼気迫る気迫に、共に戦線に立つ足が震えたほどだ。 しかし、いずれも彼はティファの仲間で、頼れる存在だった。 その彼が、自分へ刃を向けて立ちはだかる。 ティファは震えそうになる手を拳に握り、笑いそうになる膝に力をこめた。 そうだ、分かっていなかった、と、唐突に気づく。 クラウドがバスターソードを抜き放ち、自分へ刃の切っ先を向け、敵意を込めた目でヒタ、と見据えてくることがどういうことなのか…を。 想像しただけで震えた唇から弱々しい言葉が洩れそうになる。 だから、ティファは唇を強く噛む。 強く噛んで、『大丈夫、大丈夫!』と、何の根拠もないのに『大丈夫』という言葉を繰り返し、縋ろうとする。 ハタ、と視線に気づいて顔を上げると、丁度背を向けたシュリが先頭に立って小型トラックに乗り込むところだった。 彼の目と合わさることはなかったが、それでもシュリが視線を向けたことは分かった。 彼の言いたいことがなんなのかも。 (でも……、私はこの作戦から降りるわけにはいかない!) 少しでもいい。 クラウドを解放するためになにかしたい。 こんなところで大人しく吉報を待つなど出来ない。 シュリが案じていることは良く分かっている。 周りが見えなくなったら今回の作戦に参加する隊員たちを危険に晒してしまう。 そうならないためにも、もっと強く立たなくては。 そう己に言い聞かせて心を奮い立たせ、前を向いたティファだったが、所詮は空元気。 胸の奥底からドロドロとした不安が沸いてくる。 と…。 「ティ〜ファさん、行きますよ」 ポン、と肩を叩かれハッと目を上げた。 グレーの瞳と紫紺の瞳が優しげに、気遣わしそうにそれぞれティファを見ている。 「大丈夫ですよ、まだ間に合います」 「アホライ。大丈夫に決まってんだろ、言葉考えろ」 「痛いな、なにするんだよ」 「バカな子にはちょっとくらいお仕置きだ」 「やめ、やめろって、今から任務なんだぞ?ふざけるな!」 「グハッ!い、痛!!お前、グーで殴るか?グーで!?任務前に気持ちをリラックスさせてやろうとしていたこの優しい俺の気遣いをグーで!?」 「やかましい!」 いつもは大人しめな雰囲気だというのに、グリートが絡むと途端にその雰囲気が消し飛んでしまう。 それはいつも、セブンスヘブンに遊びに来てくれた時に見せてくれる彼らの姿。 自然な彼らにティファの身体からほんの少しだけフッ…と力が抜けた。 だから…。 「うん、ありがとう」 トラックに向かう他の隊員たちの白い目を受けながら、いつもの姿を披露してくれていた2人にティファは薄すく微笑むことに成功した。 ピタリ、と漫才が止まる。 向けられたグレーと紫紺の瞳には真剣な色。 ティファはまた、平気な顔をしてコックリ頷いた。 「ありがとう、大丈夫」 そうしてトラックへ顔を向ける。 「行こう」 2人に背を向け、他の隊員たちの波を縫うようにしてトラックに乗り込んだティファは、背中から安堵の雰囲気が流れるのを感じた。 (うん、大丈夫。私は1人じゃないんだから。だから…クラウドも…大丈夫!) シートベルトをしながら強くそう己に言い聞かせつつ、ティファは窓の外へ視線を向けた。 今回の作戦任務に関わる最後の隊員が隣のトラックへ乗り込む背中が見えた。 *『あやつるのマテリア』の作用ですが、当然のことながら捏造設定です。 右から左に華麗にスルーしてくださいませ〜(汗) |