マリオネット(後編)






 ティファは肩で息を繰り返し、うるさい心臓を宥めようとした。
 しかし、目の前の事態にそれは無駄な努力以外の何ものでもなく、ティファは己の決意の脆さを呪うばかりだ。

 ゆっくりとバスターソードの切っ先を向けてくるのは、虚ろな目をしたアイスブルーの愛しい人。

「クラウド…」

 思い切り叫び、抱きしめたいのに出てきた声はか細く震え、身体は凍りついたように動かない。
 周りでは隊員たちが入り乱れての乱闘状態になっていた。
 同胞である隊員に隊員が殴りかかり、銃を向け、発砲しているのだ。
 何が起こっているのか説明などいらない。
 クラウドを操っている犯人が、隊員たちにまでその手を伸ばしたのだ。


 WRO本部を出発してから僅か2時間足らずでこんなとんでもない状況に陥るとは、想像すらしなかった…。


 最初、ティファはエッジの街中というよりも端に程近いところでトラックを降り、路地裏の入り乱れている治安の悪いとされている場所を目指していた。
 街の人たちを巻き込みたくないという気持ちもあったし、思い切り戦うためには隊員以外の人間は邪魔なだけだった。
 しかし、歩き始めて僅か5分後。
 自分の後をこっそり尾(つ)けているはずの隊員の1人が突然ティファへ襲い掛かった。
 自分がどこから犯人達に狙われるか、全身の神経を総動員して警戒していたティファは、その第一撃を難なくかわし、敵と思って反撃しようと拳を握り締め……そうして愕然と固まったのだ。
 ベージュの隊服の隊員が銃を構え、虚ろな目で再び自分へ狙いを定める。
 それをまるで分厚いガラス越しに見ているような、そんな現実離れした感覚でただ見ているだけのティファを突き飛ばしたのはシュリだった。
 驚き惑う他の隊員たちが我に返り、いまだ姿を現さない犯人たちへ警戒するその一瞬の間に事態はあっという間に泥沼化した。

 そうして、今。

 ティファの目の前には月明かりの下でも尚、輝いて見えるツンツンとした金髪の青年が殺気を隠そうともしないで立ちはだかっている。
 敵から全身が総毛立つほどの殺意を向けられたことなど、1度や2度じゃない。
 しかし、クラウド・ストライフに向けられたことはかつて1度もなかった。

 自分自身よりも大切な存在に殺意や敵意を向けられる。
 それが、こんなにも恐ろしく、こんなにも悲しくて、こんなにも魂の底から縮み上がってしまうものだとは思いもしなかった。
 周りでは月明かりに浮かんだ隊員たちが、それこそ大混乱に叩き落されながら”あやつられている隊員”と戦っていた。
 頼りない月明かりしかない宵闇の中、正気なのか正気でないのかを見極めることは非常に困難だ。
 ”あやつられている”と思った同僚が、実はそうではなかったり、”大丈夫だ”と思っていた隊員に背を預けようとして背後から襲われそうになったり…。

 混乱は混乱を呼び、自分以外を信じて行動することが非常に難しいという、とんでもない事態となっていた。
 当然、”あやつられている”隊員は躊躇いもなく発砲するので流れ弾が仲間に当たろうがどうしようが関係ない。
 数人の隊員が短い悲鳴を上げて地面に倒れ、苦悶にのたうっている。

 幸運にもティファはそれらの凶弾に捕らえられることなく、蒼白になりながらクラウドの突きつける刃をただ、見つめていた。
 クラウドが構えを変え、技を繰り出そうとするその動きを前にしても、ただただ目を見開き、唇を戦慄かせることだけ…。

「…っ!」

 悲鳴すら上げられない。
 呼吸すらままならない。
 ほんの数回の瞬きをすることすら出来ない。

 霜が降りた虚ろなアイスブルーの瞳に自分の姿が映らないその表情を、ティファはただ見つめていた…。

 ギラリ、と月光を受けてバスターソードの刃が光る。
 振り上げられたそれがティファの眉間に真っ直ぐ振り下ろされ、彼女の頭部がスイカのように真っ二つに叩き切られるその刹那。

 息が止まるほどの衝撃を無防備な横合いから受け、ティファは激しく横転した。
 地面をむき出しの肩と腕が擦りつけ、ジンジンとした痛みを伴いティファに『まだ生きている』と教える。
 倒れたまま勢い良く顔を上げ、今夜、二度目に自分を突き飛ばした人間を見る。

 クラウドよりも背の高いシルエットが月明かりに浮かび、陰影を濃くしてティファの目に映ったその瞬間、ティファは訳もなく泣きたくなった。

「リト君…」
「ちょっとさ〜…クラウドさん、そりゃないんじゃないか〜…?」

 ティファの泣きそうな呟きが聞こえたわけではないだろう。
 しかし、グリート・ノーブル准尉はグレーの瞳を針のように細め、内から湧き出る怒りをそのまま鍔ぜりをするクラウドにぶつけていた。

「あやつられてるって分かっちゃいるけど、そんなの関係ないね」

 クラウドのバスターソードとグリートのレイピアが互いに競り合い、火花を散らす。
 その中、グリートはクラウドを見下ろすような形で睨みつけながら、意思を乗っ取られているクラウドへ向かって怒りをぶちまけた。


「惚れた女に刃(やいば)向けるたぁ、どういう了見だ!!」


 怒鳴ると同時にクラウドの腹を渾身の力を込めて蹴り飛ばした。
 クラウドの身体が数名の隊員を巻き込みつつ、弓から放たれた矢のように後方へ吹っ飛ぶ。
 しかし、建物の壁に激突する直前、クラウドはクルリと宙回転して勢いを殺し、地面へ着地した。
 だが当然、蹴り飛ばされてから着地するまでの僅かの間、隙が生じている。
 そして、その隙をグリートは見逃さなかった。
 放たれた弾丸のように駆け出すと混戦する隊員たちをくぐりぬけ、着地したばかりのクラウドへ容赦ない斬戟を繰り出す。
 しかし、クラウドはそれを紙一重でよけると、とても自らの意志で動いていないとは思えないほどの攻撃を繰り出した。
 グリートの首筋に一筋の傷が走る。
 しかし、それで怯む青年隊員ではない。
 足の角度を変えて踏ん張ると、
「喧嘩に卑怯もへったくれもないよなあ!?」
 叫びながら土を蹴り上げた。
 クラウドが顔を顰めて目を瞑る。
 その瞬間、グリートは思い切りクラウドの横っ面をレイピアの柄で殴りつけた。
 くぐもったうめき声がティファの耳に届いたが、丁度ティファの視界が入り乱れて戦う隊員たちによって阻まれてしまった。

 心臓がバクバクと激しく脈打ち、全身がガタガタ震えるのを止められない。

 やめて!と、叫びたかった。
 クラウドはあやつられているだけなんだから、酷いことはしないで!と、駆け出して、青年とクラウドの間に割って入りたかった。
 そうして、クラウドも叱り飛ばしたかった。
 大切な友達になにをするの!?と。
 あやつられているにしても、酷すぎるじゃない!と。
 怒って、詰って、そうして彼を抱きしめたかった。
 きっと、今、一番苦しんでいるはずなのだから。
 誰よりも繊細で優しい人なのに、自分の意思とは無関係に操られ、人を傷つけようとしている。
 ましてや相手は数少ない友とも呼べる人。
 正気に返ったとき、どれほど自責の念に駆られることか。

 しかし、その願いは命令を受け付けない身体によって叶うことはなく、ティファはただ、泣きそうな顔で戦う隊員たちの影からチラチラと見え隠れするクラウドとグリートの戦いに目を凝らせるだけだった。

 グリートのレイピアは細く、しなやかにクラウドを狙う。
 それをクラウドは幅広の刃を持つバスターソードでことごとく阻止し、反撃・攻撃を繰り返していた。
 戦いは白熱し、クラウドとグリートの力はほぼ同等と思えた。

 何度も身体ごとぶつかったり、互いの刃によって傷を作る。
 どちらも引かない。
 どちらも背を向けない。
 グリートは怒りに満ちた瞳で、クラウドは霜の降りた曇った瞳で互いを”敵”と認識して刃を交える。

 胸が抉られるほどの痛みを感じ、ティファはよろよろと立ち上がる。

 ティファはシュリの案じていたことが初めて分かった。
 覚悟が出来ていると思い込んでいた。
 しかし、いざとなるとこの体たらく…。
 自分は何も出来ない。
 犯人たちの意識を引きつけ、あやつっているクラウドや他の隊員たちにほんの一瞬ですら魔法から解放してやることすらも出来ない。


「ティファさんしっかり!」


 ハッと顔を上げる。
 いつの間にか傍らに紫紺の瞳の青年がティファを守るように立っていた。
 ティファの驚いた視線に気づき、一瞬だけ目を合わせるとニコリと笑い、すぐに厳しい顔へ戻る。
 頬にはまるで削がれたような傷ができて血が滲んでいた。
 プライアデスが右手を翻す。
 金属の乾いた音が鳴り、虚ろな目をして突進してきた隊員の武器を弾き飛ばした。
 そのまま回し蹴りを食らわせて混戦する只中へぶっ飛ばす。
 2人の隊員を巻き込んで隊員は地面に倒れ、動かなくなった。
 気を失ったのだろう…。

「リトが善戦してるってことはクラウドさんの意識が少しはあるってことです」

 言いながら、今度はティファの腕を引っ張って走り出す。
 2人がたった今まで立っていた場所に弾痕が穿たれた。
 後を追うように弾痕が地面を抉る。
 プライアデスはそれに構わずティファの手を掴んで走り続けた。

「だって良く考えて下さい。グリート程度のレベルでクラウドさんに張り合えるわけないでしょ?」
「ライ君…」
「クラウドさんの力は僕たちよりもアナタの方が知っているはずだ」

 そう言って、混戦からほんの少し離れた場所へティファを連れ出すと、建物と建物の影に押し込めるようにして隠れる。

「だから、良く見て下さい。いつものクラウドさんとどうですか?動きは?技の切れは?」

 ティファの肩を掴み、しっかり目を合わせて訴えかけるとプライアデスは黙ってティファを見つめた。
 強い意思の宿った紫紺の瞳に見つめられ、ティファの頭が徐々に落ち着きを取り戻す。
 そうしてゆっくり青年から戦いの場へ目を移し、ティファは探した。
 クラウドとグリートは、混戦の真っ只中にいた。

 クラウドのバスターソードはグリートのレイピアの重量を遥かに上回っている。
 それを考えても、グリートの方にこそ分が悪い戦いと言えた。
 いつ、叩き折られるか分からないのだから…。
 しかし、グリートの巧みな剣捌(さば)きにより、武器はへし折られることなく激戦を続けている。
 いや、それだけだろうか?
 グリートの技量が卓越しているからだけだろうか?

 クラウドの動きの一つ一つを見極めることは難しい。
 いまだ、隊員たちは姿を現さない敵にあやつられ、同士討ちを演じていた。
 その影に隠されて良く見えないと言うのが本音だが、しかし…。

 ティファはプライアデスを見た。
 オロオロとしていた瞳に希望が灯る。
 青年はホッと表情を緩めると、隊服の胸ポケットからコンパクトケースのようなケースを取り出した。
 カパリと開けると、テキパキ銃の弾倉に詰める。

 そうして…。

 乾いた銃声が一発。
 倒れた隊員が1人。
 驚いてこちらを見た隊員が3人。
 ティファも驚愕して青年を見る。

「大丈夫、麻酔銃です」

 そう言うと、”あやつられている”と思われる隊員たちに狙いを定め、トリガーを引いた。
 また隊員が1人、地面に倒れて動かなくなった。

「ティファさん、僕が援護しますからどうかクラウドさんをお願いします。いくらクラウドさんが”あやつるのマテリア”に抗っていると言え、リトはもうそろそろ限界ですから」

 ティファは唾を飲み込むと、躊躇うことなく頷き、駆け出した。


 混戦の只中に飛び込むのは自殺行為だった。
 真っ直ぐ突っ込んでくるティファを”あやつられている”と勘違いした隊員が蒼白になりながら銃を発砲する。
 しかし、それに構ってなどいられない。
 身を低くし、時には彼らの頭上を飛び越えてひたすら駆ける。


 ただ真っ直ぐ、クラウドの元へ。


 怒号と悲鳴、荒い呼吸と土煙に曇る視界。
 その中を、ティファは戦う隊員たちに阻まれながら…、無防備な背中を狙われて切り付けられそうになりながらただ走った。

 と…。

 一際大きく響き渡った剣戟にビクリッ!と足が止まりそうになる。
 とうとうグリートのレイピアが折れたのだ。
 それでもグリートはクラウドに背を向けようとしなかった。
 刃の半分以上を失い、柄の部分で防戦しようと試みた青年に、クラウドが容赦ない斬戟を叩き込む。
 防ぎきれず、グリートの長身が思い切り弾き飛ばされた。


「やめて!!」

 喉が破れんばかりに叫びながら、ティファは手を伸ばして全身全霊の力を下肢に込めた。
 弾き飛ばしたグリートへ向かって獲物を狙う獣のように突進するクラウドの前に踊り出る。

「クラウド!!」

 迷うことなく両腕を広げ、地面を転げた青年をその背に庇う。
 誰かが発砲した。
 クラウドを止めるために狙ったのか、それともただ混戦する中での発砲だったのか…。
 それはクラウドの肩をかすめ、彼の背後にあった建物の壁に弾痕を残しただけだった。
 クラウドの霞がかった瞳がグリートからティファへ移り、そのまま突進した勢いを生かしてソードを振り上げ…。


 振り下ろす。


 ティファは目を閉じず、ただ振り下ろされたソードへ無防備に両腕を広げて立ちはだかった。
 月光を受けて光る刃も、振り下ろされるその動きも、そうしてクラウドが無表情に自分を見るその様も、なにもかもがスローに見える。

 グリートが背後で息を呑み、言葉にならない叫びを上げたのが遠い世界からのように耳に届いた。

 そうして。

 鼓膜を叩くほどの空気を切り裂く音。
 ほんの微かに歪んだクラウドの顔。
 目の前で止まったバスターソードの切っ先。

 それらが同時にティファの身へ起こった。

 眉間を叩き斬られる寸前で止められたその刃。
 ティファの肌に触れていないのに勢いの凄まじい剣戟、は空気の刃となってティファの額を薄っすらと切った。
 ツツーッ…と、一筋の血が額から鼻筋、頬を通って顎を伝い、滴る。

「…ク ラウド……?」

 カタカタと震える切っ先は、そのまま再び振り上げられることも、逆に下ろされる事もなくティファに突きつけられたままだった。
 しかしそれこそが、クラウドが”あやつるのマテリア”と戦っている証拠だった。

 ソードを振り上げる敵からの命令に全力で抗い、自分を取り戻そうと戦っている。

 クラウドの霜の降りた瞳がチカリ、と月光を受けて光るのをティファは見た。
 そうして、息を呑んで見つめるティファの目に、小さく震える彼の唇が微かに開いて…。


「ティファ」


 混乱はまだ続き、乱闘は鼓膜を打ち続けている。
 それなのに、クラウドの囁きのような名を呼ぶ声がティファの耳に届いた。


 瞬間。


 ティファは何も考えず、突きつけられたソードをすり抜けクラウドへ身を投げた。
 彼の背に腕を回し、力いっぱい抱きしめる。
 その時、初めてクラウドの全身が小刻みに震えているのを知った。

 胸が一杯になって涙が溢れる。

 クラウドはクラウドだった。
 諦めず、全身全霊で敵と戦っていた。
 そうして今も、気が狂いそうになりながら自分を殺せという命令と戦っている。

 そうと気づいたとき、ティファは泣いていた。
 泣きじゃくりながらクラウドの名を何度も呼んだ。
 マテリアの魔力はいまだクラウドを捕らえて離さず、ティファをその無防備な背にソードを突き立てられてもおかしくないのに、全くそれを恐れることなく、ただただ愛しくて、切なくて、誇らしくて…。
 それらで胸がいっぱいでティファは泣きながらクラウドの彼の名を呼び、抱きしめ続けた。

 時間にしてどれくらいか。

 短かったかもしれない。
 長かったのかもしれない。
 その大きな変化はとうとうやってきた。


 カラ……ン…。


 何かが地面に落ちた乾いた音が聞こえたかと思うと、しがみついていたクラウドの身体の震えが一際大きくなった。
 そうして。


 耳のすぐ傍で鳴った身も竦むような恐ろしいまでの打撲音。
 同時にクラウドの身体に走った強過ぎる衝撃。

 驚いて涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げると、クラウドが自らの拳で額を殴りつけ、大きく仰け反っているのが見えた。

 悲鳴のような声で彼の名を呼びながら傾ぐその身体を抱きとめようとして失敗し、彼の頭を膝枕する形でへたり込む。
 誰かが駆け寄る気配を感じたが、ティファはクラウドしか見えていなかった。

 額が割れて血が滲むほど、渾身の力を込めて己を殴りつけたクラウドから目が離せない。
 ゆっくりとクラウドの拳が額から離れ、落ちる。
 そうしてようやっと見えた彼の顔に、ティファはまた新たな涙を眼に浮かべた。


「ティファ…ごめん」


 月光を受けて輝くアイスブルーはティファの良く知るクラウドの目。
 いつもの温かい眼差しに、とうとうクラウドがマテリアの魔力を退けたのだと知った。


「…う、ううん、ううん!良いんだよ、クラウド……!」


 嗚咽交じりにそう言って首を振り、泣きながら笑うティファにクラウドも優しい微笑を浮かべるとそのままスーッと意識を失った。

 そうして。
 ほぼその直後、周りで起こっていた同士討ちも唐突に終わりを告げた。
 ”あやつられていた”隊員たちが我に返り、武器を全て地面に投げ捨て、両手を頭の後ろに回したのだ。

 目を見張りながら驚き、怪しむ”あやつられなかった”隊員たちだったが、
「全員、無事か?」
 いつの間にか姿を消していたWRO最年少の中佐がズルズルと男2人を引きずって現れたことにより、ようやく同士討ちと言う悪夢が終わったことを知ったのだった。


 *


「今回の事件ですが、まさかこんなことになるなんて思いもしませんでした」

 溜め息を吐き、リーブはコーヒーカップを口に運んだ。
 目の前にはクラウドとティファ。
 2人とも、額に白いガーゼを貼り付けている。
 クラウドは肩を落とし、ティファはそんなクラウドを力づけるかのようにその手を握っていた。
 人前では絶対に恥ずかしがって手を繋いだりしない彼女なりの、励ましの仕方なのだろう…とリーブは微笑ましく思った。

「我々が保管していたマテリア。あれが全ての元凶になるとは」
「それで、本当に完成していたの?その、『魔力増幅マテリア』の生成って」

 ティファは眉を顰めながらたった今聞いた言葉を口にした。
 リーブは「えぇ…そのようです」と答えると、肩を竦めた。

「なにしろ、クラウドさんの脳を破壊することなく3日もあやつることが出来ていたんですから」

 繋いだ手からクラウドがピクリ、と反応したのをティファは感じたが、黙って知らないフリをする。

「でもリーブ。どうして『魔力増幅マテリア』なんか作ろうとしたの?そんなもの、これからの世界にとって必要ないどころか邪魔でしかないじゃない」
「私も最初はそう思ったんですけどね。良い具合に言いくるめられましたよ。『マテリアの力を正しく知り、その可能性を模索して後世に残すことは星にとって悪影響ばかりではない。むしろ、正しい研究結果を後世に残し、その威力の恐ろしさを正しく伝えることこそが星のためになる』とかなんとか言われてしまって」

 天井を仰ぎ、「まあ、一理あるかなぁ…と思ったんです」と、顔を戻して苦笑したWRO局長をティファは苦笑で返した。

 種を明かすとなんでもないことだった。

 マテリアの保管と研究に携わっていた研究部門のチームリーダーこそが犯人だった。
 彼の手により、全く無関係の人間が一体何人犠牲になったことか。
 死人が出なかったことだけが唯一の救いだ。

「クラウドさんも本当にすいませんでした」

 ソファーに座ったままとは言え、深く頭を下げたリーブにクラウドは居心地悪そうに小さく身を捩らせると、
「俺は…結局役に立ってない」
 と、口の中でモゴモゴと言った。
 そんなクラウドが、小さな少年のように見えて、ティファは思わず口元をほころばせた。

 今、こうして手を繋ぎ、2人とも無事で傍にいられると言うことが奇跡のように思える。

「それにしてもお2人とも、本当に似たもの夫婦なんですねぇ」

 突然、それまでの重苦しい口調から一変し、悪戯っぽい響きを持たせたリーブにクラウドとティファはキョトン、と彼を見た。
 そうして次の瞬間、真っ赤になると、
「なにが!?」「なんで!?」
 同時に上ずった声を上げた。
 同じ顔色、同じ表情、同じ仕草の2人にリーブは声を上げて笑う。

「お2人とも同じ場所に怪我するなんて、目に見える形での仲が良い証拠のようですよ?」

 そう言ってからかうと、全く同じように口をパクパクさせて茹蛸になる2人にまた笑う。
 そうして、リーブはようやく心の底から”問題”の1つが解決したことへの喜びが沸いてくるのを感じた。


(さて…。もう1つの”デカイ山”はどうなるでしょうね…)


 心の中のみで呟くと、いまだ真っ赤な顔をした初々しい仲間2人を見る。
 出来れば、彼らの手を煩わせずWROだけでなんとかしたい。
 だが…恐らく無理だろう。
 敵は強大だ。
 注げる力を全て注ぎ、使える手段を全部使い込んで尚、勝算は薄いかもしれない。


(ですが……負けません)


 この星に生きるモノ全てのために。
 未来のために。


 心の中で決意を固めたリーブが仲間の中で一番音信不通となってしまうヴィンセントを捕まえることに成功し、彼をカームに呼び出したのはこれから数ヵ月後のことだった。



 あとがき

 麗音さんより、460,000番キリリク小説です♪
 リクエスト内容はこちらからどうぞvv
 にしても。
 本当に素敵なリクエストだったのにマナフィッシュが書くとどうしてこう、似たり寄ったり…orz

 え〜、反省はこのくらいにしておいて(笑)
 麗音さん、掲載許可を下さってありがとうございます♪
 これからもどうぞよろしくお願いします〜vv