待ち合わせ (後編)
「ん〜……どれが良いかなぁ…。最近、デンゼルもマリンも大きくなってきたから、何か買ってあげないと…って思ってたの」
「……そうだなぁ…。デンゼルだと………これはどうだ?」
いくつかの商品を物色し、クラウドが手に取ったのは、フード付きのトレーナー。
色はカーキ。
ティファは、デンゼルがクラウドに憧れていて自分も黒系統の服を着たがっていることを知ってはいたが…。
「ん〜そうねぇ。こっちの同じデザインの黒と比べると…やっぱりクラウドの選んだ色の方が良いわよね…」
「…黒?」
「うん。黒」
「何で黒?」
「ふふ…デンゼルは黒が好きなのよ?」
「……そうなのか?じゃあ、黒で別のデザインを探すか…」
あっさりとそう言って、自分の選んだ物を元の場所に戻し、う〜ん…と唸りながら真剣に選びだしたクラウドに、ティファは顔を綻ばせた。
そして、ある考えがふと脳裏によぎる。
「ねぇ、クラウド。クラウドはデンゼルの服を選んであげてくれる?私はマリンの服を選んでくるから」
「…一緒に選んだ方が良くないか?」
「ん〜、そうなんだけど、それだとうんと時間がかかりそうだから」
「…確かに…。でも、俺のセンス……あんまり良くないぞ?」
真剣に困った顔をするクラウドにティファは吹き出した。
「じゃあ、適当に選んだら写メールで送って?私も選んだらクラウドに写メールで送るから」
「そうか。その手があったか」
愁眉を開いたクラウドにもう一度吹き出すと、ティファは軽く手を振ってフロアーの反対側にある女の子専門のブロックへと足を向けた。
それから選ぶこと約15分。
クラウドから写メールが届く。
映し出されたのは、カーキ色でだぼっとしたハーフパンツと、黒い長袖のTシャツにグレーでロゴが入ったもの。
ロゴには『BOY’S BE AMBITIOUS(少年よ、大志を抱け)』と書いてあった。
「プッ!!」
堪えきれずに吹き出す。
クラウドはロゴの意味をちゃんと分かっているのだろうか?
分かっていない…と、賭けても良い!
だが、デンゼルにはピッタリの物だ。
カーキ色のハーフパンツにもぴったり合うだろう。
「クラウド、なかなか良い感じよ」
そう送信して、ティファも既に選んでいた薄いピンクのVネックの袖がバルーンタイプのTシャツ。胸のところで切り返しがされていて非常に可愛い。
そしてもう一点が赤いタータンチェックの膝上くらいまでスカートに、そのスカートの下に履いてもおかしくない様なこげ茶のスパッツ。
どうも、店員さんの話しだとスカートとスパッツを重ねて履くのが今風だとか…。
写メールを送信すると、程なくして電話が入った。
『良いんじゃないか?やっぱり俺よりもティファの方がセンスがある…』
どことなく落ち込んだ声音に、ティファは笑った。
「クラウドだって本当に良かったわよ?気付いてないの?」
『……そうか…?』
どことなく拗ねたようなその口調に、また笑った。
『じゃあ、こっちはこっちでプレゼント用に包装して貰うことにするけど…良いか?』
「うん!えへへ、実はもう、マリンの分、お願いしちゃったんだ…ごめんね?」
『…ティファは行動が早いな…。じゃ、また後で』
「うん」
ティファは嬉しそうに電話を切ると、店員さんにプレゼント用に包装してもらっているであろう商品を受け取りに、駆け出したのだった。
ビルの入り口で落ち合い、二人は並んでビルを後にした。
もうそろそろ帰宅しないとまずいだろう。
クラウドは不思議そうな顔をしてティファを…正確にはティファの持っている荷物を見た。
「なんか…多くないか?」
「そう?」
「ああ。デンゼルの物よりも紙袋がデカイ気がする…って、気のせいじゃないな。デカイじゃないか」
そう言ってティファの荷物を引き受けようとするが、いたずらっ子のように笑いながらティファは、
「ダ〜メ!これは私が持って帰るの」
「 ??? 」
「ふふ」
弾むような足取りで数歩先を歩くティファに、クラウドは首を傾げながらも、純粋に楽しそうなティファの様子に、やはり嬉しそうに笑みをこぼした。
愛車を止めているパーキングへ向かう間も、二人の会話は途切れない。
もっとも、話しているのはティファが主で、クラウドは聞き役だ。
それでも充分二人は幸せだった。
パーキングに着いて、手際よく再びクラウドが荷物を括り付ける。
その手馴れた様子に、ティファはうっとりと見つめるばかりで、流石にその時は黙ってクラウドの作業を見つめていた。
決して器用とは言えない彼が、こうして器用に荷物をくくりつけられるようになるまで、どれだけ苦労しただろう。
そう考えて、ふいに涙腺が緩みそうになり、慌ててそっぽを向く。
「 ? ティファ、どうした?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
振り返ってニッコリ笑うティファに、小首を傾げながらクラウドは愛車に跨った。
そうしてティファにも後ろに座るように目だけで合図する。
軽やかに跨った彼女に、
「しっかり掴まってろ」
一言だけそう言って、勢い良くエンジンを噴かせた。
後はもうあっという間。
フェンリルのスピードはある意味狂人じみている。
だが、ことこのバイクの操作でクラウドはミスったことがない。
人混みが多くても、道行く人達に恐怖を与えないで実に上手に街を走る。
あっという間に二人は我が家に到着した。
どうやら子供達はまだ帰っていないらしい。
ホッと胸を撫で下ろして、クラウドとティファは荷物を両手に抱えて店の中に入っていった。
それから僅か30分後に子供達が元気に帰ってきた。
丁度その直前、クラウドは簡単にシャワーだけ浴びて降りてきたばかりで、まだ生乾きの髪の毛はしっとりと湿っていた。
「子供達に注意できないわよ?」と、ティファが苦笑しながらタオルを渡し、クラウドが軽く首を竦めて受け取った。
チリンチリン…。
「「ただいま〜!」」
元気な声。
息を切らせながら駆け込んだ二人に、クラウドとティファが笑顔を向ける。
二人共、どこかで転んだのか泥だらけだ。
しかし、その顔はとても明るい。
きっと、喧嘩で転んだのではなく遊びに夢中になって汚れたのだろう。
「「あ!!クラウド〜!!!」」
カウンターのスツールに腰掛けながらティファの作業を見つめていたクラウドに気づき、子供達の顔に笑顔が浮かぶ。
嬉しそうに駆け寄ってくる子供達に、ゆっくりとしゃがみ込んでそのまま胸に飛び込んできた二人を軽々と抱き上げ、
「おかえり、二人共」
それぞれの額にキスを贈る。
「「ただいま〜!」」
くすぐったそうに首をすくめながら、デンゼルとマリンはクスッと笑った。
「いつもなら、俺達が『おかえり』って言うのにな!」
「うん。でも、こうしてクラウドに『おかえり』って言ってもらうのも良いね!」
嬉しそうに言う二人に、クラウドも「ああ…本当だな。これからは俺が二人に『おかえり』って言える日がもっと増えるように頑張るよ」と、目を細めながら頷いた。
そのたった一言がどれほど子供達とティファを喜ばせたことか、クラウドは気付いているだろうか?
なによりも嬉しいその言葉に、デンゼルとマリンは文字通り大はしゃぎで、甘えたようにクラウドの首にしがみつき、ティファはカウンターで嬉しさのあまり手元が狂い、危うくコンロの鍋をひっくり返して大火傷を負うところだった…。
当然、その姿に子供達がいち早く気が付いて大騒ぎとなった。
カウンターに背を向けていたクラウドが蒼白になってティファの元に駆け寄る。
大丈夫だから、というティファに、三人が深い深い溜め息を吐いて目を合わせ………笑った。
それは幸せな時間。
幸せな…家族の時間。
ティファは本当に幸せだった。
昼間は恋人としての時間を持つことができて、夜はこうして家族の時間を共有出来ている。
『ずっと…毎日こうだったら良いのにな…』
他の家庭ではあまり珍しくとも贅沢でもない願いは、ストライフファミリーにとってはとても貴重で贅沢な望み。
クラウドが近隣だけの配達に専念したら簡単に叶うその望み。
だが、この星の事情がそうはさせてくれない。
まだまだ、各地にはモンスターが我がもの顔でのさばっている。
復興に力を入れなくてはいけないこのご時勢。
近隣の町、村を繋ぐルートはまだ安全圏にない。
だからこそ、クラウドのような『デリバリーサービス』が重宝がられるのだ。
クラウドがようやっと見つけた『誇り』。
それを邪魔するようなことをしてはいけない。
目の前で子供達を穏やかな眼差しで見つめるクラウドに、ティファは改めてそう思うのだった。
「さ、二人共。夕飯の前にお風呂入っちゃって頂戴。泥だらけの格好で食事はダメよ?」
「「は〜い!」」
声を揃えて我先に!と、駆け出した二人に親代わりの二人は笑みを交わした。
「「いただきま〜す!」」
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
賑やかな食卓は、いつもよりもティファの料理を美味しく感じさせる。
子供達は次々とスプーン、フォークを伸ばして口に運び、クラウドはティファの作ってくれた特製カクテルで時折口の中を湿らせながら彼女の手料理に舌鼓を打った。
デンゼルとマリンは、今日あったことを面白おかしく交互に話しながら、実に器用に食事を平らげる。
口が一つでは足りないのではないか?と思われるほどのおしゃべりと食の進み具合に、クラウドは相槌を打ちながら感心していた。
ティファは、子供達の話し一つ一つにちゃんと応えるクラウドに目を細め、三人におかわりと飲み物を足してやる。
勿論、自分も食べることを忘れない。
和やかで幸せな食卓がこうして過ぎようとした時。
おもむろにクラウドがティファを見た。
その眼差しだけで彼が言わんとしている事が分かる。
コックリ頷いてティファは席を立つと、二階へ上り、すぐに戻って来た。
そして、不思議そうな顔をする子供達に一つずつ綺麗にラッピングされた物を渡す。
躊躇いながらそれを受け取った二人に、
「俺とティファからだ」
クラウドが静かな声音で二人に開けるよう促した。
パッと顔を輝かせて顔を見合わせたデンゼルとマリンは、包装紙に手をかけた。
デンゼルは豪快にビリビリと。
マリンは丁寧にテープを剥がして…。
中から出てきた真新しい服一式に、文字通り子供達は飛び上がって喜んだ。
そのままの勢いでテーブルを回り込むと、デンゼルはクラウドに、マリンはティファに飛びついてお礼を言う。
「「着てみて良い!?」」
全く同じ台詞を同時に言った二人に、親代わりの二人は噴き出しながら頷いた。
子供達は、入浴の時同様、我先に…と争うように二階に駆け上がり、約5分後に着替え終わって降りてきた。
クラウドとティファは目を細めて我が子を見る。
『『我ながら、中々良い物を買ったな(わね)』』
内心で自分を褒めながら、手放しで二人は子供達を褒めた。
久しく服など買ってもらっていなかったので、子供達は嬉しそうにしながらも照れ臭そうに、そして…どこか心配そうな顔をしている。
「ねぇ…クラウドとティファは?」
おずおずと訊ねるマリンの隣で、同じ心配をしているらしいデンゼルがじっと見上げてくる。
ティファはチラリ…とクラウドを見ると、クスリ、と頬を緩ませカウンターの中に足を運んだ。
クラウドはクラウドで、片眉を上げると「あぁ…その…実はな…」と、チラッとティファを見つつ、奥に引っ込む。
ティファはカウンターの中でしゃがみ込んでいた為、クラウドが奥に引っ込んだのに気付かなかった。
クラウドとティファが何やら相手に内緒にしつつ、ゴソゴソとしている姿に、子供達はピンと来る。
「クラウドって…」
「ティファって…」
呆れたように呟いて…、それでもやっぱり嬉しくなって笑い合う子供達に、親代わりの二人は気付かない。
何しろ、今から自分がしようとしていることで頭が一杯だったのだから。
ティファがカウンターの中から後手に何かを隠しながら出てきたとき、丁度クラウドも背に何かを隠しつつ戻って来た。
なんとなく……緊張する。
相手が緊張しているらしい雰囲気に、更に緊張が増す。
「「あの、これ!」」
同時に差し出されたソレに、二人の目が点になる。
「「え!?」」
同じく驚きの声を上げてマジマジと愛しい人の顔を見る。
まん丸に見開かれた恋人の瞳には、それ以上に驚いた顔をしている自分が映っている。
差し出されたソレに視線を落とす。
どう見ても…ソレには『服』が入っているとしか思えない。
「「いつの間に!?」」
同じ疑問。
ハモル台詞。
「帰る途中のショーウィンドーに飾られてて……」
「マリンの服を買った時に……」
自分の物ではなく『恋人』を喜ばせたい…と思った結果の出来事。
クラウドとティファはあまりのことにポカンと口を開けた。
そんな二人に子供達が同時に噴き出す。
「クラウドとティファって『類は友を呼ぶ』ってやつだよな」
「違うよデンゼル。『似たもの夫婦』って言うのよ」
ケラケラ笑う子供達に、二人は真っ赤になって固まった。
「ねね!二人共固まってないでさ、着てみてくれよ!」
「うんうん!二人が何をプレゼントしあったのか見せてよ!」
子供達に背を押され、クラウドとティファはギクシャクと二階に向かう。
階段を上る途中、恥ずかしくて互いの顔が見れない。
いや、恥ずかしくて……じゃない。
嬉し過ぎて……だ。
愛しい人が己のことよりも自分の事を優先させてくれたことが…本当に嬉しい。
いつの間にか自然に繋がれた手が、熱を持つ。
寝室に着いた時、ようやく二人はそろそろと視線を合わせ、はにかむように微笑み合った。
「「うわ〜!!」」
着替え終わって降りてきた二人を、デンゼルとマリンが歓声を上げて出迎えた。
クラウドは、彼が今まで持っていなかった白いVネックのカットソーに黒のテーラードジャケット。
襟の部分がグレーになっており、非常にシックでカッコイイ。
クラウドの金髪にも良く映える。
そして、これまた黒を基調としたデニムパンツ。
光の加減でグレーに輝いて見えるそれは、クラウドのスタイルの良さを惹き立てていた。
対してティファ。
本当にクラウドが選んだのか!?と、思ってしまうようなその服は…。
マリンだけではなくデンゼルまでも目を輝かせた。
Vラインのカットソーは、肩の部分に大きくカットが施されており、彼女が好んで着ている動きやすい服装。
襟ぐりの中心から裾までと、肩の部分から袖口までフリルが上品にあつらえられているベージュのそれは、ティファをいつも以上に明るく柔らかな雰囲気に見せている。
そして下には…。
黒いマーメイドラインを思わせるスカート。
左腰から大きく緩やかなフリルが裾まで続き、裾には大胆なカットが施されていて、後ろが少し長くなるようなデザインになっている。
プロポーションが抜群のティファが身につける為に作られたかのようなそのスカートは、非常に…セクシーで。
「「二人共すっごくカッコイイ!!」」
手放しに褒められた二人は恥ずかしそうに…だが、心から幸せそうに微笑んだ。
「それにしても、本当にビックリしたわ」
「それは俺もだ。よくあんな短い時間で買ったよなぁ…。俺なんか、すっごく時間かかったのに…」
ひとしきりはしゃいだ子供達がようやく眠りに発ってから、クラウドとティファは普段の服装に戻ってカウンターのスツールに腰掛けていた。
「クラウドがあんなに素敵な服を買ってきてくれるだなんてビックリ!」
「なんだよ…それ」
おどける彼女に、ほんの少し口を尖らせる。
ティファは「ウ・ソ!ごめんね、怒った?」と、軽く舌を覗かせて手を合わせて見せた。
当然、クラウドは怒ってなどいない。
ちょっと恥ずかしかっただけだ。
「ま、俺も今思い返したらよく買ったなぁ…って思うからな…」
クシャリ、と髪を掻き回して笑った。
そんなクラウドが愛しくて……彼の想いが嬉しくて…。
ティファはキュッと隣に座っているクラウドの腕にしがみ付いた。
恥ずかしがり屋の彼女の行動に、クラウドはドギマギする。
が、当たり前だが振り払うというアフォなことはしない。
そのままコツン…と、寄せられた彼女の頭に頬を乗せる。
静かな時間。
穏やかで…涙が出る程の…幸福な時間。
「また…」
「ん?」
ポツリと呟いた彼女は、独り言なのか…それとも語りかけたのか判断がつかない。
条件反射のように反応したクラウドに、ティファはスリ…と、しがみついている腕に頬を摺り寄せた。
「また、今日みたいにどこかで待ち合わせして…散歩したいな」
昼間の温かくて幸福なひと時が蘇える。
「あぁ、そうだな。ああいうのって…本当に良いよな」
「今日クラウドに貰った服、着て行くわ」
「じゃ、俺も今日、ティファに貰った服を着て待ち合わせするよ」
「本当?」
「あぁ、勿論」
そっと身体を離して暫し見つめ合い、微笑みながら目を閉じる。
与えられた温もりに、お互いが酔いしれつつ幸せな溜息がもれる。
脳裏に蘇えるのは…今日の新鮮で幸せだった時間。
大切な人との待ち合わせ。
心が弾む…至福の時間を、もう一度…あなたと…。
あとがき
はい、これまた突発的に思いついた話でした。
しかも、またもや長くなったし…。
クラウドもティファも、自分の為にお金はあんまり使わないと思います。
自分の為に使うなら、子供達や相手のため、そして身寄りのない子供達や身体の不自由な人達の為に使うんじゃないでしょうか。
それは、偽善とかじゃなくて、純粋に心が優しいから『せずにはいられない』っていうか…。
ん〜…そうであって欲しいなぁ…(笑)
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!

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