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今ならば、何度だって言える。

君を愛している。
心の底から。
これまでも。
これからも。
いつだって・・・・・・・・・



「・・・今度の日曜?」
「うん。シエラさんの赤ちゃん産まれたじゃない?だからそのお披露目会って名目で、みんな集まらないかって話になったみたいなの。クラウド、仕事入ってる?」
「あー・・・日曜は得意先の配達が入ってる。キャンセルはちょっと無理かな」
「・・・・・・そっか」

閉店後のセブンスヘブン。
カウンターでグラスを傾けていた俺に、彼女がうきうきとした顔で話を持ち掛けてきた。
結婚して2年以上経っているシドの家に、待望の第一子が誕生したと知らせが入ったのはつい数日前のこと。
彼女が連絡を受けたとき、シドの声は喜びで上擦っていたらしい。
シドの緩みきった顔を想像すると俺でも苦笑せずにいられないが、シエラさんとの子供の顔は、俺も是非見ておきたかったところだ。
しかし、生憎その日は前々から得意客の依頼が入っており、断るのは無理と言うもので。
俺の口から零れた言葉が、彼女の表情に淡い影を落とした。

「・・・マリンとデンゼル連れて、行って来いよ、ティファ」
「え?・・・だけど」
「俺は・・・残念だけど、次の機会にするよ。配達のついでに寄れるときもあるだろうし」
「・・・いいのかな。クラウドが仕事してるときに私が遊びに行くなんて。申し訳ないって気がするし、それに・・・」
「それに、なんだ?」
「・・・・・・クラウドと、一緒が良かったな・・・って」
「・・・」
「あっ・・・ごめんね?私何言ってんだろ・・・仕方ないのにね」

彼女が、珍しく素直な気持ちを漏らした。
そんな自分の言葉に慌てた様子で、赤みがさした頬を両手で包み込んでいる。
本当に・・・可愛いよな。
残りの酒を一気に喉へ流し込んだ俺が立ち上がったのを見て、彼女は少し驚いたように目を瞬いた。

「クラウド・・・?」
「なあ、俺は思うんだけど」
「え?」

カウンターの中へ回り込んだ俺は、欠片も酔ってなどいない頭で悪知恵を働かせてみる。
瞳に甘さを湛えた俺に腰をさらわれて、彼女は視線を彷徨わせた。

「・・・酔ってる、よね?」
「・・・そうかな」
「変だよね・・・?大して飲んでないはずだけど・・・」
「・・・きっと、ティファがくれた嬉しい言葉に酔えたのかな」
「あ・・・あの、クラウド」

近頃は酔ったフリもできるようになった自分を、お前なかなか器用だったんだな、と褒めてみたりもする。
子供たちも寝静まっている今、何も遠慮はいらないはずだから。
そのまま強く抱き締めて、彼女の首筋に唇を寄せる。
吐息に彼女が身じろぎ、待って、と声を絞り出した。

「ね・・・今何言おうとしたの?俺は思うんだけど、って言ったでしょ?」
「ああ・・・シドの子も可愛いだろうけどさ。ティファの子供が産まれたら、きっともっと可愛いだろうなって」
「わ、私の・・・?」
「ティファと俺の・・・想像しただけで、頬擦りしたくならないか?」
「・・・・・・クラウド」
「・・・シドの子よりも、俺たちの子の方が可愛いに決まってる。絶対に」
「・・・そんなこと、張り合ってどうするのよ?・・・ほんとにクラウドらしいんだから」

あくまでも酔っているフリを決め込んでいる俺は、まだ影さえも見えない自分たちの子供の顔を思い描きながら、軽く睨みつける彼女の薄紅色の唇に、そっと想いを注ぎ込んだ・・・・・・。



「船で・・・?なんでまたわざわざ?」
「デンゼルが乗ってみたいって言うのよ。私も暫く乗ってなかったし、マリンと3人でゆっくり行って来ようかなって思って」

日曜の朝。
シエラ号で一直線にロケット村へ向かうとばかり思っていた俺は、ジュノン港から船で西の大陸へ渡るという彼女の言葉に眉根を寄せてしまった。
しかし、聞けばデンゼルの願いらしい。
船旅と聞いて俺の頭に浮かぶのは、「船酔い」という単語くらいのものだ。
シエラ号の方がまだ速い分だけマシだと思えたのだが。
まあ、デンゼルには俺の事情なんて関係ないだろう。

「けどな・・・ジュノンまではどうするつもりだ?さすがにフェンリルには4人は乗れない」
「うん。シドがね、デンゼルの願いならオレ様に任せとけって。ここまで来てくれて、ジュノンで降ろしてくれるって言うから、申し訳ない気もしたけど甘えることにしちゃった」
「・・・そうか」

そこまで手筈が整っているなら、俺が反対する理由などどこにもない。
こんなときでもなければ船など経験できないだろうし、子供たちにもきっと楽しい思い出が一つ増えるに違いない。
俺は快く送り出すことにした。

シエラ号が近くの広場まで迎えに来た頃には、マリンとデンゼルはすっかり身支度を整えて待ち構えていた状態だった。

「クラウド、あたしたちがいなくて寂しいだろうけど、明日には帰るから、我慢して待っててね?」
「え?・・・ああ、分かってる」
「なあクラウド。ええと・・・シドの赤ちゃんの写真撮ってくるからさ。帰ってきたら見せてやるよ。それと・・・お土産、何がいい?」
「土産・・・?」

どうやら独りで残される俺に同情しているらしい子供たちが、しきりにこちらを振り返って声を掛けてくる。
・・・子供か、俺は?
思わず心中で呟きながら、子供たちの頭を順番に撫でてやる。
くすくすと笑う2人を眺めながら、明日まで小さな可愛い顔に会えないことに、内心気持ちが揺らいでいる自分に気付いた。

「さあ、2人とも。シドが待ってるから先に乗ってて。すぐ追いかけるから」
「はーい!」

子供たちは元気よく手を繋いで広場の方へと駆けて行った。
振り返った彼女は、いつもと雰囲気の違う、清楚な紺色のワンピースを身に纏っている。

「・・・ね、これ、おかしいかな?」
「おかしいって言ったら、今から着替えるつもりか?」
「え?やっぱりおかしい・・・?じゃあ・・・あの、私着替えて・・・」
「嘘だって、冗談だよ」

荷物を置いて部屋へ戻る勢いの彼女の腕を慌てて掴んだ。
「・・・似合ってるよ」
「ほんと・・・?」
腕の中で彼女が頬を染めた。
「明日のいつ頃になりそうだ?」
「・・・そうね、たぶん夕方には戻れると思う」
「夕方か・・・待ち遠しいな」
「・・・なあに?まだ出掛けてもいないのに」

確かにそのときの俺は、自分でも変だと思うほど、彼女の温もりを手放せなくて。
彼女をこのまま行かせたら、身体のど真ん中にぽっかりと穴があく気がして。
そんな気持ちを言葉にするのももどかしく、彼女の柔らかな唇を塞いでいた。
戸惑いながらも俺を受け止めてくれた彼女は、やがて唇が離れると、緩やかに笑みを浮かべた。

「私も・・・気持ちは同じだよ」
「そう?」
「うん・・・時々クラウドに電話するから。声聞いてる間は近くに感じられるでしょ」
「電話、か。・・・仕方ないな。それで手を打つことにする」
「いい子でお留守番できる?」
「・・・いや、どうかな」
「そこで調子合わせないでよ?ほんとにもう・・・・・・私そろそろ行くね」
「ああ。シドとシエラさんによろしく。それから・・・土産はティファのキスで十分だから、気を遣うなよ」

くすりと笑い声を漏らした彼女が手を振って去って行くのを、俺は飽くことなくいつまでも見送っていた。
自分が同行しなかったことをいずれ後悔することになるなんて、そのときは想像すらできないまま・・・・・・。






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