Mission20三人が並んで疾走する背後から、慌てふためいて我先に…と逃げ出す気配がする。 皆が皆、主人を庇う観念から遠く離れた精神状態である事が、後ろを見なくても容易に分かった。 「お、お前達…私を置き去りにするとは何事だ!?」 悲鳴にも似た、ディモンの叫び声が遠くから響いてクラウドの耳に届いた。 このままだと、確実にディモンは…。 そして、狂人のデルも…。 「おい、クラウドさん。余計な事考えてる余裕は俺達にもないんだ。分かってるか?」 思わず走る速度を緩める誘惑に駆られたクラウドを見透かしたように、シュリが声をかけた。 相変わらずの無表情な顔だが、その瞳は真剣だった。 クラウドは苦笑を浮かべると「ああ…そうだったな…すまない」一言謝罪し、再び前を見据えて走り出す。 「しかし……このままだと生き証人がいなくなるが…良いのか?」 シュリを挟んで反対側を走るシアスが冷静に訊ねた。 その言葉からは、かつての主人であり、また、自分の姪の腹違いの兄に対する『情』は微塵も感じられない。 恐らくラミアの為に、今日まで辛酸を舐めてきたのだろう…。 「その点は大丈夫だ。ちゃんと必要なデーターは入手してある」 シュリの答えに、シアスは微苦笑を浮かべると「本当に…見た目はそっくりなのにな…」と呟いた。 その呟きに込められた想いを思うと……。 クラウドは堪らない気持ちになった。 目の前に、失ってしまった自分の最愛の人の面影を宿した人間が現れたら……。 もしも、エアリスそっくりな女性が……ザックスそっくりな男性が……。 ある日ひょっこり目の前に現れたら、自分は平静を保てるだろうか…? ポーカーフェイスの仮面を被り、必死になって冷静さをアピールするだろう…。 きっと…。 シアスもそうだったに違いない。 そして、ラミアが時折自分に見せていたあの潤んだ眼差し…紅潮した頬は…。 その全ては、亡き最愛の人を自分の向こう側に見て思わず漏らした真実の感情だったのだ。 そのラミアとシアスの想いを利用し、己の野望達成の為に土足で踏み台にしたディモンに、同情の余地などない。 そして……人の命を己の研究対象としてしか見なかったデル・ピノスにもそれは充分当てはまる。 『あと五分で当屋敷は自爆します』 無情にも機械の音声が屋敷中に流れる。 クラウド達が迷路のような開かずの扉内の廊下を抜け出した時、目の前には信じられない光景が広がっていた。 「クラウド!!」 「ティファ!?」 思わず間抜けで素っ頓狂な声を上げてしまったクラウドに、ティファが黒髪を靡かせて勢い良く抱きついてきた。 それを、危うく転倒しそうになりながらも何とか踏ん張って受け止める。 「良かった……もう時間がないし、どうしようかと…!!」 「え……え…??」 全く状況の分かっていないクラウドに、ティファは力一杯クラウドの背に腕を回して抱きしめる。 そんな二人に、 「はいはい、お二人さん。今は時間がないから後でゆっくりね〜!」 と、お調子者の声が投げかけられる。 「ユフィ!?」 「は〜い!うんうん、無事みたいで何より何より!」 ニッと笑うユフィの姿に再び間抜けな声が出る。 「ホラ、クラウドさんもいい加減この状況に慣れなくてもいいから、死にたくなかったらとにかく急いで」 シュリが実に冷静に声をかけた。 そして、屋根を吹き飛ばされた書庫の中で、本来ならあるはずのないシエラ号に向かって走り出す。 クラウドに抱きついていたティファも、シュリの言葉に我に返ったようだ。 身体を離して満面の笑みを浮かべ、クラウドの手を握り締める。 そして、同じく漸く彼女に笑みを向けたクラウドと共にシエラ号に向かって走り出した。 シエラ号に乗り込んだクラウドは、屋敷の中にいた全員と思われるメイド達やその他執事に雑用係がちゃんと保護されているのを見て安堵の溜め息を漏らした。 そして、彼らを保護したのは…。 WROの隊員達。 ベージュの制服に身を包み、赤い帽子をトレードマークとした隊員達の姿が、凛とした姿で立っていた。 ラミアの屋敷の者達は誰もが不安そうにこの事態についていけていなかったが、流石、メイド頭の老齢の女性だけは堂々としたものだった。 シュリが抱えていたラミアを見るなり、勢い良く駆けつけ「お嬢様!ご無事でございましたか!!」と、感涙にむせび泣いたのだった。 シュリは、メイド頭にラミアを預けると、そのまま真っ直ぐ艦長であるシドの元へ向かった クラウドとティファ、そしてユフィも必然的に、外の様子が一望出来るシドのいる操舵室へと向かう。 四人が操舵室に到着した時、 『当屋敷はあと二分で自爆します』 という機械音が流れていた。 そして、それと共にボディーガード候補達と科学者達がドアの入り口から遠く見える位置にまで何とか走って来ているのが確認出来た。 しかし…。 「艦長。時間がないので離陸して下さい」 冷たいシュリの言葉に、シドは躊躇った。 が、躊躇うだけの余裕がないのも確かだ。 「シド!だってあそこに人がいるじゃない!!」 クルー達に離陸を告げたシドに、ティファが食って掛かる。 「ティファさん、しかし、このままだと確実に俺達も巻き込まれて死ぬしかないんです」 どこまでも冷たい言葉を口にするシュリに、初対面のティファはキッと眦を上げた。 「あなた……確かにそうかもしれないけど、でも…!!」 「ティファ…」 気遣わしそうに…それでいて彼の主張が正しいと言うかのように、ユフィが彼女の肩に手を置く。 その細い手は、悔しさからか微かに震えていた。 目の前の命を見殺しにする…。 それがどれだけ苦しい選択か…。 いつの間にか自分達の傍にやって来ていたバレットも、悔しそうに義手を叩いていた。 シエラ号が、まさに苦しく辛い選択を余儀なくされ、浮上しようとしたその時。 「なら、自爆を遠隔操作にすればどうでしょう?」 「「「「リーブ!!」」」」 穏やかな表情で、WROの総責任者が操舵室に現れた。 シュリが姿勢を正し、踵を合わせて敬礼する。 その姿に、場違いこの上ないのだが、クラウドは初めてシュリの本当の姿を見た気がした。 シュリは敬礼を解くと、すぐさま胸ポケットに手を伸ばして掌に乗るサイズの四角い物を取り出した。 それに、ディスクを挿入する。 ピピピ…という電子音が鳴ると共に、再びシュリの指が片手ではあるが恐ろしい速さでその機械の上を走り出した。 その場にいる全員がその作業を見守る中、 『あと一分で当屋敷は自爆します』 無情な機械の音声が流れる。 どの顔も、焦燥感に満ちていた。 そして、未だにシエラ号に辿り着いていない候補達も…。 知らず知らずの内に、クラウドとティファは固く手を握り合っていた。 お互いの掌が、汗で湿っている。 早く…早く…!! 誰もその言葉を口にしないが、誰もがそう願っていた。 『あと三十秒……二十秒……』 「ダメだ!これ以上ここにいたら巻き込まれる。おい、野郎共!大至急離陸だ!!」 痺れを切らしたシドが、同じく痺れを切らしたクルー達に指示を出す。 シドの一言で、全クルーが弾かれた様に己の持ち場で離陸に必要な入力を始め、シエラ号が僅かに浮上した。 『十…九…八…七…六…五……』 残された者への死のカウントダウンが始まる。 完全に離陸したシエラ号を見上げて、口々に何か叫んでいる候補達の姿が、スクリーンを埋め尽くしている。 その姿に…誰もが居た堪れない気持ちで目を逸らした。 『三…二…一…』 次に来るであろう衝撃に、クラウドとティファは固く抱き合い、他のメンバーもそれぞれ手すりにしがみついたり椅子に深く腰を掛け、頭を覆う。 ただ、シュリとリーブだけが真っ直ぐに立ったまま、何も寄りかからないで悠然としていた。 張り詰めた緊張感がその場を支配する。 誰もが、次に起こるであろう大きな衝撃を信じて疑わなかった。 その為、次に流れてきた機械の音声に、その場にいた全員が凍りついた。 『……やはり、自爆はキャンセルです』 「「「「「……………」」」」」 暫しの沈黙。 そんな中、リーブが満足そうに頷きながら青年を労う。 「シュリ、本当に良くやってくれました」 「はっ!」 再び敬礼する青年の姿…そして、その青年を誇らしげに見つめる上司の姿に……。 「「「「なんじゃそりゃーーー!!!!」」」」 その場にいた全員が突っ込みを入れたのは言うまでもない。 それからは、勿論ひと騒動あった。 完全に自分達は死んだものと思い、放心状態だったボディーガード候補達一人一人をWRO隊員達が手際良く縛り上げ、シエラ号に収容する。 錯乱状態に陥っていた候補達は、隊員達にわけの分からないむちゃくちゃな攻撃をして、何人かの隊員達が引っ掻かれたり殴られてしまった。(勿論、その候補達も厳重に縛り上げられたのだが…) そして、研究室の廊下の中程で失神していたディモンを、隊員が三人がかりで運び出し、更に研究室に程近い所で同じく失神していたデル・ピノスを隊員一人が背負ってシエラ号に運び込んだ。 その後、シュリはリーブを研究室に案内してディモンの目論見を説明し、その補佐にシアスが付いてシュリの説明を補った。 それから…。 屋敷は遠隔操作で自爆させた。 自爆はラミアの手でリモコンを押された。 メイド頭に会って、少し落ち着きを取り戻した彼女は、弱々しく微笑みながら、 「あの忌まわしい場所は、是非、私の手でかたをつけさせて下さい」 そう申し出たのだ。 リーブはこれに対して一つ頷くと、シュリにリモコンを渡させた。 静かに涙を流しながら、木っ端微塵になり、その後燃え広がって消えていく屋敷を見つめるラミアに、シアスが黙ってその華奢な肩を抱きしめて支えた。 その姿に、漸く二人が呪縛から解かれたのだとクラウドは思った。 様々な思惑を飲み込んで消えていくその広大な屋敷に…。 ラミアとシアスの悲しみも消えてくれたら良いのに…。 そう、願わずにはいられない、『ジェノバ戦役の英雄』だった…。 「それで、どうなったんだ?」 三日後。 すっかり元の生活に戻ったクラウドの元へ、リーブとシュリがセブンスヘブンへやって来た。 「ええ、あれからディモンに支援という形で『甦り』を依頼していた資産家達には釘を刺して回っていたのですが、漸くそれも終わりましたよ」 「そうか…。良かったな」 「ええ…」 「それにしても、今回の事は驚きの連続だったぞ…」 そうぼやくクラウドに、リーブが軽い笑い声を上げた。 あの日。 シエラ号がラミアの屋敷に到着する前、シエラ号はリーブの指揮の元、ディモンの屋敷を急襲していた。 主が不在であった為、屋敷を鎮圧するのに時間はかからなかった。 勿論、その急襲にティファ、バレット、シド、ユフィ、そしてナナキが活躍した事は言うまでもない。 ヴィンセントだけは、時間がなかった為探し出すことが出来ずに不参加だったという事だ。 暫し、黙ってティファの煎れてくれたコーヒーを口に運ぶ。 「それにしても、まさか『クラウドと私の不仲説』を言いふらしてたのがシュリ君だったなんて…!」 可笑しそうに笑いながら、ティファがポーカーフェイスの青年を見やった。 そう。 クラウドとティファが『別れる』『別れた』と言いふらしていたのは、他でもないシュリだったのだ。 シュリは、クラウドがラミアの屋敷を訪れて初めて対面するその直前に、自分の同僚であるWRO隊員からクラウドがラミアの屋敷に向かったと聞いてそのまま『噂』を流すように指示したと言うのだ。 「どおりでディモンもラミアも首を傾げるわけだよな…。自分達が指示をしたんじゃないんだから…」 溜め息をこぼしながら少々恨めしそうにシュリを見るクラウドに、リーブが苦笑しつつ口を挟んだ。 「本当に申し訳ありません。今回の『ディモンの悪事を暴く作戦』に関して、私は彼に全ての権限を与えていたものですから、責任は私にあります」 そう言って頭を下げるWRO統括を、シュリはどこまでも冷静に口を開いた。 「統括。今回の件は自分の独断ですから、統括が頭を下げる必要はありません。それに、結果的に見て『噂』を流したのはディモンとラミアの懐にクラウドさんを引き込む事に成功したので、問題はありません」 「……引き込む……?」 シュリの一言に、クラウドに眉間にシワが寄る。 それに対して全く表情を変えないで青年はコックリと一つ頷いた。 「クラウドさんにはどうしてもラミアの所に止まってもらう必要がありましたから」 「…何で…」 少々不機嫌になりながらも、クラウドにはこの目の前の青年に嫌悪感は微塵も湧いてこなかった。 それは、この三日間と言う短い期間ではあるが、彼が信頼に値する人間だと認めたからだろう。 「ラミアは幻想に囚われていた。彼女を救いたいと思いつつも、その手段が見つからないシアスの為にも、貴方は必要だったんです」 「……要するに、ラミアとシアスをディモンから開放する為に必要だった…ってわけか…?」 何となく、それだけが理由ではない気がしながらも、シュリからそんな思いやりの言葉が聞けるとは思っていなかったクラウドは素直に驚いた。 これに対して、シュリは素っ気無く首を横に振る。 「いえ、ディモンの狡猾な作戦はラミアあってのものであり、彼女を守るシアスもその一つだったわけです。ディモンから彼女達を引き剥がす事が解決への近道でしたから」 「………お前……もう少し言い方考えろよな……」 歯に衣着せぬ言い方をする青年に、ガックリと項垂れるクラウドに、子供達がクスクスと可笑しそうに笑い声を上げた。 子供達は、問題が解決したその翌日の早朝、セブンスヘブンに戻って来た。 嬉しそうに抱きついてくる子供達を、クラウドは愛しさを溢れさせて抱きしめ返し、家族は久しぶりに満ち足りた幸福に浸ることが出来たのだ。 「ところで、ご近所の方は大丈夫ですか?」 リーブが心配そうにクラウドとティファに訊ねる。 今回の『別れた』騒動で、近所から敵視されてしまったクラウドを心配しているのだ。 「あ、ああ。それもな……」 チラリとシュリを見ながら、クラウドが苦笑した。 「シュリ君がまた『噂』を流してくれたの。『政財界を牛耳ろうとしていた諸悪の根源に近付く為、一芝居うった』って」 「その『クラウドの活躍のお陰で、その悪者がWROに捕まって一件落着』って皆そう言ってるよ」 ティファとマリンの言葉に、デンゼルがニコニコ笑いながら嬉しそうにシュリを見上げている。 すっかり、このポーカーフェイスの青年に憧れてしまったようだ。 クラウドは、苦笑を湛えたまま「ま、そういうことだ。お陰でここでの暮らしもこれまで通り、続けられるみたいだ」と言った。 「ハハハ、本当にシュリは稀に見る逸材ですよ」 自慢げに笑うWRO統括に、青年はどこまでも生真面目に「いえ。自分はまだまだです」と答えている。 にこりともしないその表情からは、彼が本気でそう思っているのだと信じざるを得ない。 『あんなに凄い事をこなしたのに…『まだまだ』って……』 クラウドは内心で舌を巻いた。 全く、世の中は広い。 自分よりも凄い人間がまだまだいるもんだ。 「ところで、クラウドさんはどうしてラミアの屋敷に…?」 「ああ…実はなぁ…」 リーブの質問に、クラウドは初めてラミアに近付いた目的を話して聞かせた。 それは、シュリにも初耳の話で、二人はクラウドの話しを最後まで黙って聞いていた。 「それじゃ、あの屋敷の中にその『スタールビー』が…?」 「ああ…多分な」 本来潜り込んだ目的を果たせなかった事を思い、知らず溜め息がこぼれる。 「何と言うか……クラウドさんらしいというか……」 話を聞いたリーブも、苦笑するしかない。 「ま、彼には黙って勝手に動いたからな。このままそっとしておくさ」 半ば投げやりにそう言ったクラウドに、シュリが唐突に口を開いた。 「多分、その『スタールビー』はシアスが持ってると思います」 「「「「「え!?」」」」」 クラウド達だけではなく、リーブも驚いてシュリを凝視する。シュリは淡々とした口調で話し始めた。 それは、少し複雑な話になる。 そもそも、ラミアとディモンが『異母兄妹』だということ自体が驚きだったのだが…。 それ以上に驚いたのが、ラミアの母とシアスが『血の繋がらない兄妹』だという事だった。 それ故、戸籍上は『伯父と姪』の間柄であるが、血縁関係で見ると何の関わりもないのだという。 そして、その『伯父』の『実家』は、さる名家であったのだそうだ。 ところが、『伯父』=シアスが生まれた直後に事業が失敗し、莫大な借金を背負う羽目になった。 その時に、シアスの祖父が手放さざるを得なかったのが……。 「家宝の『スタールビー』だったらしい」 「……『家宝』って…、でも『彼』の家でも『家宝』だと言われていたんだぞ?」 首を傾げるクラウドに、シュリは珈琲を一口啜ると話を続けた。 「そのクラウドさんの知人の『名家』だけど…。今でこそ落ち着いてるけど、シアスの祖父の時代ではかなり『悪名高かった』らしい」 「え……そうなのか…?」 新事実の連続で、頭がパンク状態のクラウド達に、シュリは淡々と言葉を続けた。 「それで、その『悪名高い資産家』が熱心だった事の一つが、『他の資産家が家宝として大切にしている物を横取りする事』だったんだそうだ」 『『『『『…………何て性格の悪い…』』』』』 「だから、本来ならあの宝石の正当な持ち主はシアスだ」 『『『『『…………確かに』』』』』 「ラミアも、その金持ちの坊ちゃんの家で偶然その宝石を見た時、咄嗟に盗み出したんだってさ」 「……何でそんなに詳しいんだ…?」 衝撃の新事実を淀みなく説明するシュリに、呆れたような声でクラウドが質問した。 「ああ、だって聞いたからな」 「……誰に?」 「ラミアに」 「……いつ?」 「盗んだその日に」 「「「「「…………」」」」」 もう、誰も言葉が出てこない。 青年の上司であるリーブですら、この話しに目を丸くしている。 「まぁ、そのクラウドさんの知人の坊ちゃんだけど、もう立ち直って大丈夫みたいだし、このまま宝石はシアスが持ってても良いだろうとは思うけど、話してみる?」 「…話すって、今の話をか!?って言うか、それよりもその『立ち直って大丈夫みたい』って何の事だ!?!?」 困惑するクラウドに、黒髪・ポーカーフェイスの青年はこれまた淡々と口を開いた。 「昨日、俺の部下がナンパされた」 「………は!?」 思わず身を乗り出して素っ頓狂な声を上げるクラウド。 ティファと子供達はあまりの事にポカンと空いた口が塞がらない。 「…シュリ、部下と言うのは……??」 恐る恐る質問するリーブに、シュリは至極真面目に淡々と答えた。 「ラナ・ノーブルです」 「「「「ラナさん!?」」」」 シュリの答えに驚きの声を上げたのは、リーブではなくストライフファミリーだった。 「あれ…?皆さんラナ・ノーブルと知り合いですか?」 首を傾げるシュリに、口々に声を上げる。 「知り合いもなにも、うちの常連さんよ?」 「それもかなり仲良くしてくれてるんだぜ?」 「ラナお姉ちゃんの上司なの!?」 「……人生は驚きの連続だ……」 クラウド達からの話しに、シュリは僅かにポーカーフェイスを崩し、「へぇ…それは知りませんでした」と、一言だけ呟いた。 クラウド達からすれば、「それだけかい!?」という反応だが、まぁ、この青年にしては珍しく驚いた表情だったのだろう…。 「それで……そのお坊ちゃんは『無事』だったんでしょうね……? リーブの不吉な発言に、クラウド達は顔を見合わせ、ラナの気性を思い出す。 無事じゃないかもしれない……。 家族皆が不吉な想像をしてしまったが、それは青年が払拭してくれた。 「大丈夫です。特に何も問題は起こしていないとの報告を受けてますし、後で確認もしていますから」 「そ、そうですか…」 あからさまにホッとした上司に、シュリは小さく「ま、暫くはナンパなんかしないかもしれませんけど…」と実に不安になるようなことを呟いたのだった。 「では、長居をしてしまいました」 「また来てね、お二人共」 セブンスヘブンの入り口で、家族の見送りを受けながらリーブとシュリを乗せた車が走り去っていく。 もう少しゆっくりすれば良いのに…というティファの誘いを、リーブは「まだしなければならない仕事がありますから」と断り、せめてシュリだけでも…という子供達にも「新しい任務に付いたので…」と断れてしまった。 西日が染める街を走り去る車を見送りながら、クラウドは隣に佇むティファをそっと抱き寄せた。 ティファも黙ってその身を寄せる。 ティファの温もりを感じながら、WROの施設で養生をしているというラミアを想った。 愛しい人の崩れ去る身体を最後まで抱きしめていた彼女…。 そして、『過去との決別』の為に自らの屋敷を爆破した彼女…。 その彼女を、そっと支えるシアスにも……。 これからは沢山の『幸福』があれば良いと心からそう願う。 「大丈夫だよ」 「え…?」 心を見透かしたようにティファが微笑んでいる。 「大丈夫。だってこれからだもん。ラミアさんもシアスさんも」 「……ああ、そうだな」 「そうだよ!だって、ラミア姉ちゃんとシアスのおっちゃんにはクラウドや俺達がいるじゃん!」 「そうそう、一人じゃないんだもん、大丈夫だよ!!」 今度お見舞いに行こうよ!! 明るくそう言う子供達に、心の底から温かい気持ちが湧いてくる。 そうだな…。 きっとこれからは…。 クラウドは微笑を浮かべると、大切な家族を伴い、店の中へと入っていった。 セブンスヘブンに柔らかな明かりが灯ったのはそれから数時間後のこと。 家族の温かさに満ちたその明かりが、お客さん達の為に灯される事になったのは、それから一週間後。 そして…。 今夜もエッジの街にセブンスヘブンから明るい笑い声が聞こえる…。 END 長々と続いていたMissionシリーズ。 ついに完結です!! 本当に長くなってしまってしまいました…(汗)。 菜奈美様からリクをお受けしたのが昨年の11月11日。 それからカタカタ書き始めて漸く完結……。 って、三ヶ月もかかってるじゃん!! 連載20話というのも拙宅では初です…(苦笑)。 菜奈美様からリクをお受けして、私なりに頑張って書いてみましたがいかがでしたでしょうか…。 少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。 クライム・コメディーという事で、シリアスになりがちなお話の中に無理やりギャグ・突っ込みを入れてみましたが……それでも暗いですよねぇ…。 菜奈美様からクライム・コメディーの説明を聞いて『ルパン三世』=『007』と結びついちゃった私(ダク汗)。 という訳で、こんなにもドロドロした真相が明らかになる羽目になったんですねぇ…(コラコラ!!) 菜奈美様からのリクを受けて、私自身、本当に視野が広がった作品です。 でも、まさかこんなに長くなるとは夢にも思いませんでした…。 菜奈美様、ご迷惑をおかけしました。 とにもかくにも、これにてMissionコンプリートですo(*^▽^*)o |