モテる恋人(前編)「くっは〜〜……疲れた〜〜!!」 うーん…と大きく伸びをしながら、凝り固まった肩をほぐすと、ポンと背中を叩かれた。 「よっ!お疲れさん」 「あ、お疲れ様っす」 目の前には三歳年上の上司。 「今夜、また例の店に行くつもりなんだけど、お前もどう?」 「『セブンスヘブン』っすか!?行く行く、行きます!!」 「よっし!そんじゃ、行くか!!」 はい、こうしてやって来ました、『セブンスヘブン』。 ミッドガルに寄り添うように出来た新しい街、ここエッジの中で働く俺にとって、この店は俺が知る中でダントツに最高な店だ!! 何しろ、世界中が不景気この上ない状況の中、財布に優しいのに出される料理は格別で、店ご自慢の看板息子と看板娘はまだまだちっこいのに、これがまた良く働くのって!! おまけに、ここがポイントだけど、この店の店長がさ〜。 若い美女!!!! もう、そこら辺にウロウロしてる浮ついた女どもじゃあ話にならないぜ。 比べるのもアホらしくなるほどだ!! おまけに、この美女店長の恋人がこれまた……。 若い美男子!!!! いや、ちゃんと断っとくけど、俺は同性には興味ない。 ちゃんと恋をする相手は異性だけだ! だけどな。 この恋人が同性の俺が見てても溜め息が出るくらいイイ男でさぁ…。 いやぁ……あの顔って作り物じゃないのか!?ってくらい、すっげー整ってるんだ!!! このカップルに勝るカップルがこの星にいるとしたら、それは…。 俺と俺の愛しい彼女だけだね。 あん?なんだよ、その不満そうなオーラは。 良いんだよ、俺と彼女はそう信じてるから。 第三者が俺達カップルと、セブンスヘブンの美男美女カップルを見てどっちを選ぶかはちゃ〜んと分かってるから。 良いの良いの! それでも俺達にとって、この星一番のベストカップル賞は俺達だから〜♪ …って、そんな話はおいといて。 ほんっとうにこの店は大繁盛だ。 そりゃ、これだけすっげー要素盛りだくさんの店だから、繁盛しない方がおかしいと思うけど、それにしても……。 「ティファちゃーん!!注文お願い!!」 「ティファちゃん!こっちも〜!!」 「おっと、こっちが先だっつうの!!」 「あんだと!?」 「やるか〜!?」 「望むとこ「お客様」 客が喧嘩をおっぱじめそうになった、まさにその瞬間。 極寒のオーラを全身から惜しみなく放出しつつ、この店の美女店長が氷の微笑で割り込んだ。 おお…。 流石だ。 あっという間に喧嘩しようとしていたおっさん達が青い顔して握手してるよ。 この店の店長は、すっげ〜モテモテなのに、全然それを鼻にかけたりしない。 っていうか、きっと『モテる人間』って意識が無いんだろうな。 しかもこの店長、ただの美女じゃないんだなぁ。 あの『ジェノバ戦役の英雄』の一人なんだ!! そして、彼女の恋人は『英雄達のリーダー』だったんだぜ!? こんなゴールデンカップル、この星には他にいないな。 あ、さっきも言ったけど、俺的には俺と彼女がベストカップル賞なんだけど、第三者が見たらそうじゃないくらいはちゃ〜んと自覚してるから! んで、そんなすっげー英雄に極寒の視線で睨み上げられて平気な人間がいるなら、是非お目にかかりたいね。 絶対にそいつはまともじゃないな。 英雄達と同じ位すっげー人間か、さもなきゃ狂人のどっちかだろう。 にしてもさぁ。 俺はそんなに頻繁にこの店に来るわけじゃないのに、『あ、あの顔、見覚えある』って思う人間が店に来てるってどうよ、これ!? どれだけ足しげく通ってるんだよ!? どんだけ甲斐甲斐しく通っても、アンタ達の想いは届かないぞ……多分……永久に……。 だってさぁ。 ハッキリ言って悪いけど…。 ティファさんってすっげー鈍感なんだ。 もう信じられないね。 実は、俺をここに連れてきた上司も、めっちゃティファさんのことが好きでさぁ。 もう、それはそれは、お熱なんだ。 んで、この店に来る度に…。 「ティファさん。これ、子供達にお土産」 「まぁ!いつもすいません!!」 甲斐甲斐しく子供達へのお土産と称して、甘いものが手に入りにくいこのご時勢の中、一生懸命働いて手にした金をせっせせっせと、彼女へ別の形として貢いでいた。 はん? 何で『別の形』で貢んだって?? そんなの分かるだろう? もしも彼女へのプレゼントとして、宝石類とかを贈ろうとしてみろよ。 彼女の愛しい『彼氏』さんからそれはそれは恐ろしい『お返し』を頂戴する事になるじゃないか。 ま、その『彼氏』さんも、毎日仕事で忙しいみたいで、滅多に営業中に帰宅できないみたいだけどさ。 でもだからって、危険を冒す勇気は俺の上司には無いんだ。 それに、よしんば彼女宛のプレゼントを贈る勇気があったとしても、確実に突っ返されるだろう? だって、彼女はすっげー誠実な人だからさ。 プレゼントだけ受け取って、相手の気持ちを完全無視〜……なんて出来ないんだよ。 本当、世の中をヘラヘラ笑ってるバカ女どもに彼女の爪の垢でも煎じて、腹いっぱい飲ませてやりたいね。 でも…。 ほんっとうに哀れな上司に同情するぜ。 いっくら上司が頑張っても、絶対に上司の想いが叶う日は来ないんだから。 最大のチャンスだった『あの時』も無理だったしなぁ。 ああ。 『あの時』っていうのはティファさんの恋人、クラウドさんが家を出ている間の事でさ。 あの時はなんで、クラウドさんが家を捨てたのか分からなくて、色々無責任な憶測が飛び交ってたな。 んで、俺もその憶測に引っかかった人間の一人なんだけど、俺の上司なんかモロに引っかかってさ〜。 いやぁ、アン時は『ティファさんを幸せにするんだ〜!!』って男共がすっげー勢いで連日連夜、ティファさんの心を射止める為に、あの手この手で迫ったもんさ。 …………ことごとく失敗したけどな…。 んで、そうこうしてるうちに、エッジに大量のモンスターは出現するわ、怪しさ満載の銀髪の男が何人か登場するわ、かと思いきやでっけー召喚獣が召喚されるわで、エライ騒ぎになった。 その日に。 『奇跡の雨』が世界中に降ったんだ。 いやぁ……お祭り騒ぎとはあの事だよな。 俺の友人も何人か星痕症候群で苦しんでたんだけどさ、ほんっとうに神様の存在を信じた瞬間だったな。 もう、抱き合って泣きながら喜んでよぉ。 んでもって、『こんなめでたい日に飲まいでかーーー!!』って事になって、セブンスヘブンに来たらさ。 子供達だけが留守番してるみたいで、『ごめんなさい。今夜はお店、開けられないの』って、看板娘の不安そうな声がドアの向こうから聞えて来たんだよ。 俺らがセブンスヘブンに到着した時には、既に俺達みたいな考えに至った沢山の先客で溢れてたんだけど、そのどの顔も心配そうに暗かったな…。 んで、その翌日にやっぱり心配になって店に行ったらさ〜〜。 帰って来てたんだよなぁ〜〜、クラウドさんが!! あの時の大半の野郎共は見物だったぜ〜。 もう、目一杯、悲しみと苛立ちと悔しさと………何より絶望を身体全体で表現してたな。 んで、残りの少数派は、ティファさんの幸せが戻って来た事を心から祝福してたんだ。 いやぁ……あの瞬間に誰が本当に良い人間か、そして誰が『良い人間』の仮面を被った偽善者か分かったな。 『………なんか、……人間って怖いわね』 俺の愛しい彼女がそう言って苦笑してたっけ。 あ、勿論俺の上司は……。 残念ながら大半派…。 本当にこの上司は良い人間なんだけど、ティファさんが絡むとそこら辺の動物と同じになるんだよ。 …人間って悲しいよなぁ…。 ま、かく言う俺も、愛しい彼女が絡むとどうしてもそこら辺の動物と同じになるんだけどな。 だって、やっぱ大好きな人が他の野郎と楽しそうに笑ってるの見たら、ムカムカして牙を剥くし、威嚇の唸り声も上げるし、時には角を付き合わせるっつーの。 そう。 人間も動物なんだ。 ただ、他の動物と違うのは、『己を飾る』事が出来るって事だな。 相手に良く見られようと、『己を飾る』んだ。 例えばヤキモチ妬いて、めっちゃ腹立ってもそれをオブラートに隠して『俺の女にちょっかい出すな』って気持ちを込めて相手の男へ極寒の笑みを見せる……とか。 ……今、俺の事『アホ男』とか思っただろう……? 良いんだよ!人間ってそんなんなんだから!! クールでナイスガイ(死語)なクラウドさんだって、ティファさんが絡んだら……。 あれ……? そう言えば。 俺が見る限り、たま〜に営業時間内に帰って来れたクラウドさんは、客達に絡まれてるティファさんを見ても、あんまりこう…『ヤキモチ』ってやつを妬いたところ……見た記憶がないな…。 いや、全然……てないわけじゃないんだ。 不機嫌そうな顔はするんだけど、俺みたいに相手を威嚇するところは……見た事ないかも。 んん〜? なんでだ?? 俺なら……そうだなぁ。 もしも俺の愛しい彼女が、他の男に俺の上司みたいな猛烈なアピールをされてるの知ったら、めっちゃ腹立つけどな。 そりゃ、何でかって言えば。 そこに愛があるからだ!! ん? そんじゃ、ちょっと待てよ?? クラウドさんはあんまりヤキモチを妬かない…。 って事は…。 ティファさんへの愛が少ない!?!? うっわ〜〜、俺ってばエライ事に気付いてしまったよ!! これはあれだ。 トップシークレットに値する重大な問題だよ!!!! 「なにさっきから百面相してるんだ?」 「……え!?」 おっと。 俺が重要機密について真剣に考えてたから、上司が不審そうに見てるよ。 ダメだ! この秘密は絶対に『目の前にいる種類の人間』に悟られてはいけない!! だって、この事がバレてみろよ。 折角訪れたセブンスヘブンの平和と幸せが、脆くも崩れ去るじゃないか!! ダメダメ!! 俺は、世界中で一番愛しの彼女が大事! んでもって、二番目は俺と彼女の家族。 三番目は友人とこのセブンスヘブンの住人達なんだ!! あ? なんで三番が二つもあるのかって?? 甲乙つけ難いからだよ、文句あるか!? 「あの、お飲み物のおかわりはどうされますか?」 「お?マリンちゃん、いっつも良く頑張るね〜!」 上司が満面の笑みでこの店ご自慢の看板娘の頭をグリグリ撫でる。 マリンちゃんは、本当に良く働く良い子だ。 その事は、恐らくこの店に来た事のない人も、伝言ゲームのように伝え聞いて知っているだろう。 しっか〜し! きっとこの事実はこの店の常連客の人達もあんまり知らないはずだ。 この可愛い容姿をした、中身もとってもイイ子のマリンちゃんが…。 実は物凄く切れ者で…。 クラウドさんとティファさんの事をほんっとうに大事に想ってて…。 その想いの強さ故に…。 ― 二人の恋路を邪魔しようとする輩は絶対に許さない!!という本当は物凄く怖いお子様だという事を!!! ― ウソだと思うだろう? でもな。 今も目の前で、「いつも美味しいお菓子をありがとうございます!」って、満面の笑みで上司にお礼を言っているこの可愛い女の子の目が…。 心から笑っていないんだよ!! これはもう、完全な『営業スマイル』というやつだ!! それを、幼少でありながら完璧に身につけているこの看板娘は、絶対に将来すっげー商売人になるに違いない!! んでもって、その看板娘の『営業スマイル』を『営業』とは全く気付いていない哀れな上司は、笑顔満開で「良いんだよ。喜んでもらえて本当に嬉しいよ!」などと言っている。 マリンちゃんは、上司の『グリグリ攻撃』を実に自然な動きで身体をずらして中断させると、 「おかわりはよろしいですか?」 空になったジョッキをお盆に乗せた。 「あ、おかわりお願い!」 「じゃあ、俺も〜!」 上司が少し慌てておかわりを頼んだから、俺もそれに乗じて新しいビールを頼んだ。 マリンちゃんが、クルリと俺に向き直って、 「はい、少々お待ち下さいネ」 『営業スマイル』ではない本当の『スマイル』を見せてカウンターへ立ち去った。 小さな背中が大きく見えるのは……きっとマリンちゃんの本当の姿に気付いたからだろうな。 あん? なんで俺には『営業スマイル』じゃないのかって? それはだな。 俺がティファさんに対して『ヨコシマな想い』というやつを抱いてないのを、マリンちゃんは鋭く見極めているからさ。 本当に…末恐ろしいお子様だ…。 「見たか?あの嬉しそうな顔。これで、マリンちゃんのポイントをまた稼げたな」 テーブルの上に身を乗り出して、向かい合わせに座ってた俺に上司がそう小声で言って来た。 「あ……そっすね〜」 「ふふふ…。順調に俺の作戦は功を奏している。俺の努力が報われる日は、そう遠くないな」 「………そっすね〜」 「お前も何かと気を揉んでくれただろ?だから、俺の『式』には絶対に招待するからな!楽しみにしててくれ」 ………『葬式』ッスか……? なぁんて思ってても、絶対に口には出来ない。 「楽しみにしてまっす!」 敬礼の物まねみたいな事をして、ちょっとおどけて見せると、上司は満足そうに椅子に座りなおした。 上司の作戦っていうのは、『お子様達を味方にして、ティファさんをゲットしよう♪』という、なんとも陳腐なものだった。 そして、その作戦を実行している人間が、実は上司以外にも沢山いたりするんだなぁ。 そんでもって、その事を俺の上司は知らないんだよ……。 あれだね。 まさに『知らぬが仏』ってやつだ。 だって、上司は『完璧な作戦』だと信じて疑ってないから。 ……フッ…。 俺は常識人なんだ。 上司の儚い夢を打ち砕くような非情な言動は慎んで、今夜も生温かく見守るに徹するのさ。 それにしても、今夜も本当に大盛況だなぁ。 クルクルとカウンターの中で美女店長が働く姿は、それはそれは心癒されるってもんだ。 んでもって、看板娘と看板息子が顔を輝かせて笑ってる姿は、胸が幸せで満ちるってもんさ。 そして…。 そんな子供達の本当の笑顔を見られる人間は…。 すっげ〜少ないんだよ!! どれだけティファさん狙われてるんだよ!!って突っ込み入れたくなるね。 ま、それでもティファさんがクラウドさん以外の男とハッピーエンドを迎えるとはどうしても想像出来ないなぁ。 いや…本当に。 だってさ。 ティファさんって、クラウドさんだけにしか見せない『極上の笑み』を持ってるんだ。 あれは本人無自覚だろうけど、もう、すっげ〜綺麗なのよ!! あの笑みはクラウドさんにしか向けられないんだ。 子供達にも向けられない………『恋する女性の笑顔』。 そんでもって、その『恋する女性の笑顔』を目の当たりにした『ティファさん狙い』の野郎共は、その日の晩は尻尾を垂らしてスゴスゴ退散するんだよ。 ………俺の上司なんか、次の日の凹み具合、尋常じゃなかったよ…。 それにしても…。 クラウドさんの『ティファさんへの愛情が少ないかも疑惑』が浮上してからこっち、ちっとも料理が美味しく感じない。 勿論、俺の勘は当てにならないし、本当はクラウドさんは嫉妬をあのポーカーフェイスの下に押し殺しているのかもしれないけどさぁ。 それでも、もう少し『俺の女に近寄るな』って表情を見せても良いんじゃないかなぁ? モソモソと料理を食べてると、おかわりのビールがやって来た。 「やあ、デンゼル君!今夜も良く働くね」 「あ、今晩は。お菓子、どうもありがとうございました」 デンゼル君はマリンちゃんと違って少しぎこちないんだよなぁ。 まだまだ、看板息子は修行が必要だ。 立派な『営業スマイル』が出来るようになるまで頑張れよ! なぁんてバカな声援を心の中で送ってると、デンゼル君が二カッと俺に笑いかけてきた。 デンゼル君もマリンちゃんと同じで、もう、めっちゃ鋭い目を持ってる。 そんでもって、俺は『敵』とは見なされていないので、こうして『営業』ではない笑顔を向けられるという権利を手にしているのだ。 ……上司はそれがなんとなく気に入らないらしいけど……仕方ないっしょ……? 「なぁ、今夜はもう少しいられる?」 「お?そうだなぁ…。愛しい彼女が待ってるから、俺はあんまり長居は出来ないけど……何かあるの?」 「ヘッヘ〜。今夜はクラウドが早く帰って来れるんだ!」 もうめっちゃ嬉しそうにデンゼル君がそう言った途端。 ガタタ! ガッタン!! ブハッ!! ゲホッ!! 周りのテーブルから実に様々な物音が聞えてきた。 そんで、それに対してデンゼル君が実に嬉しそうな顔をしたのを…俺は見た! 絶対に確信犯だ! 何て末恐ろしいお子様達なんだ、セブンスヘブンのお子様は! 俺の上司も、思いっきり顔が引き攣ってるし。 あぁ……本当に同情しますよ……。 「そっか、良かったなぁ〜!」 「へへへ〜!」 あ〜、可愛いなぁ。 確信犯であろうが、切れ者であろうが、やっぱりこの店のお子様達は可愛い! 俺の愛しい彼女がメロメロになるのも仕方ないって奴だな。 それにしても。 デンゼル君がたった今、教えてくれた事は俺にとってまさに『渡りに船』ってやつだ! クラウドさんの『ティファさんへの愛情が少ないかも疑惑』が浮上してしまった以上、その疑惑を突き止めなくては!! 「お、俺はそろそろ……帰ろうかなぁ……」 などと、すっかり負け犬状態になってる上司には悪いけど…。 「クラウドさんが!なら、帰って来るまで待ってるよ!久しぶりだもんなぁ、クラウドさんに会うの!」 「そう!?へへ、ありがと!」 俺とデンゼル君はゲンコツ作って、それをお互いにコツリと当てる。 うんうん。俺も将来はこんな可愛い男の子が欲しいな! 俺が帰らない事を知った上司は、顔を少し強張らせたけど、「じゃ、じゃあ…悪いけど俺は帰るな。また、明日な」そう言って、少し多目のギルを残してトボトボと帰って行った。 「「またのお越しをお待ちしてま〜す!」」 看板息子と看板娘の可愛い声が、寂しげな上司の背中を送り出したのだった。 あとがきは、最後にまとめますm(__)m |