モテる恋人(中編)




「それにしても、クラウドさんが営業中に帰宅できるのって久しぶりよね?」
「おお、そうなんだよ!だから、お前にメールしたんだ!」
「ウフフ…ありがとう!もう、ほんっとうに大好き!!」
「勿論、俺の方が大好きだけどな〜♪」

 上司が帰ってから、俺は即行、愛しい彼女にメールをした。
 そして、予想に違わず、俺の可愛い彼女は即行で飛んで来たんだ。
 と言うわけで、俺の目の前には上司の不機嫌&悲しい顔ではなくて、可愛いとびきり最高の笑顔を見せてくれる俺の愛しいハニーが座ってるのさ。

 あ、バカップルって思ってるだろう!?
 良いんだよ、俺達『バカ』だもん。
 バカップルになるのはここに確かな愛があるからさ〜♪

 おっとっと。
 俺と彼女の話しは置いといて。

 俺の斜め前に見えるカウンターのスツールには。
 問題の美女店長の恋人が座っていた。

 俺の彼女が来るちょっと前に帰って来たんだ。
 俺の上司がすごすご退散してからほんの十五分後くらいだったな。
 ……明日は物凄く凹みまくってるんだろうなぁ…。

 クラウドさんは、さっきまで店の二階にある居住区で汗を流してきたみたいで、髪がしっとりと水分を含んでる。
 ちゃんと乾かさずに下りてきたんだよ。
 ……それだけ早く、ティファさんの傍に……って事だろうな…うん。
 そう思うと、クラウドさんの『ティファさんへの愛が薄いかも疑惑』が揺らいでくる。
 まぁ……疑惑は俺の勝手な妄想の産物だからな。
 外れてても全然不思議じゃないし…。
 それにしても…。
 同性なのにあの色気はなんだ!?
 ティファさんを見つめる紺碧の瞳の優しい事!!
 もう、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいなんだけど。
 おまけに、さっきも言ったけどシャワー浴びてろくに乾かさなかった髪が、これまた色っぽくてさぁ…。
 同性なのに、俺、ちょっとドキドキするじゃないか!!

「クラウドさんって、本当にティファさんの事、愛してるのねぇ…」

 うっとりと見つめながら俺の彼女がそう言った。
 何だか語尾にハートマークが付いてるみたいで気に喰わないけど、それでもやっぱり仕方ないなぁ…って思えるくらい、今夜のクラウドさんはすっごく優しい顔をしてた。
 んでもって、ティファさんもさっきまでの表情とは全然違うんだ。
 もう……心から安らいだ顔しててさぁ。
 仕事をこなす姿とかは全く変わらないのに、放つオーラが違うんだ!
 そうだな。
 さっきまでが『クリーム色』だとしたら、今は『幸せピンク色』だな。

 ……俺の事……本当に『アホ男』って思ってるだろう!?
 でもな、こうも『幸せオーラ』を全身から出されてるのを見たら、絶対にアンタもそう思うって!!
 こう……何て言うか……。
 無色透明のはずの空気が、幸せ色に染まるのが見えるんだってば!!
 実際、クラウドさんが帰って来た直後から、ティファさん狙いの哀れな常連客達がすごすご退散しちまったんだから。
 少しくらい、

『俺もあんたに負けないくらいティファさんを想ってるんだー!!』

 っていうガッツを見せてくれても良いと思うんだけど、まぁ……無理だな。
 だって、肝心のティファさんの意識は、完全にクラウドさん一色になってるから。
 見てて分かるんだよなぁ…。
 って言うか、分からない鈍感人間がこの世に存在するのかねぇ…。

 看板息子と看板娘は、本当に満足そうに哀れな常連客達を送り出した。
 もう、全然、これっぽっちも引き止めずに!


 …………本当に……末恐ろしい根性を備えたお子様達だ………。


 というわけで、今店にいるのはティファさんとクラウドさんの仲を心底認めてる数少ない人だけだ。
 それでもさぁ。
 こうなるまでにはそれなりに時間がかかったよな。
 クラウドさんが家出から帰った直後なんか、非難の嵐だったし。
 でも、それをティファさんと子供達がすっげー怒ってさ。
 …あれは見物だったよなぁ。
 そうそう。
 子供達は知らないみたいだけど、クラウドさん自身もティファさんと子供達を二度と悲しませる事はしない、って宣誓してたし。
 あの台詞はカッコ良かった……。(*宜しければ『誰よりも愛しい人』をどうぞ)
 男の俺でもうっかり惚れちまいそうになったな…うん。

 まぁ、そんなこんなで、ティファさんに変なちょっかいをかける奴はグンと減ったんだけど、それでも仕事で忙しいクラウドさんの隙を突いては、姑息な手段に出る奴らもいたりして…(俺の上司みたいにさ……)。
 本当に……罪作りな美男美女カップルだよなぁ…。


「旦那、本当に久しぶり!!」
「ああ…」
「最近とんと見なかったけど、仕事が忙しいみたいだな〜」
「お蔭様でな」

 常連客の一人が、ほろ酔い気分でクラウドさんに話しかけてる。
 クラウドさんも、それをかすかに微笑みながら相槌を打ったり、一言二言言葉を返してた。

 家出する前のクラウドさんからはちょ〜っと想像出来ないなぁ。
 家出した事で、クラウドさんに良い変化があったって事だな。

 そんなクラウドさんを、ティファさんがカウンターの中からすっげ〜嬉しそうに見つめてる。

 あ〜、良いよなぁ。

「やっぱ…俺の勘違いかなぁ」
「なにが?」

 ポツリと呟いた俺に、彼女が不思議そうな顔をした。
 あぁ、そう言えば彼女には『ティファさんへの愛が薄いかも疑惑』の事を話してなかったっけ。
 というわけで、かいつまんで彼女に俺の推論を話したところ…。

「バカね〜。クラウドさんって物凄くヤキモチ妬きなのよ?」
「え……そっか〜??」

 彼女が呆れたような顔をした。
 これまでそんなクラウドさんを見た記憶がないんだけど……。

「もう、これだから男はダメね。よ〜く見ててよ。ホラ、今もちょっと警戒してるでしょう?」
「へ?どれを??」
「ホラホラ、あそこに座ってるちょっとカッコイイ感じの若い男の人を」
「……なんっか面白くないなぁ…」

 彼女の口から、他の男を褒める言葉が出てきて少しムッとしつつも、彼女の視線をそっと追うと…。

 そこには丁度クラウドさんとは対極に位置するカウンターのスツールに腰掛けてる色男が一人。
 何やらティファさんに声をかけてる。
 もう…それはそれは、満面の笑みで。

 チラリ…と視線をクラウドさんに移すと、当のクラウドさんは常連のおっさんとまだ話し中。
 でも…。


 チラ…。
 ピキッ…。
 ムスッ…。
 ……無言。


「あ〜…なるほどね」
「ね?すっごくヤキモチ妬いてるでしょう?」

 元々、ポーカーフェイスで分かりにくいんだけど、彼女の言う通りクラウドさんはかなりその若い色男を意識してるみたいだ。
 そんでもって…めっちゃ機嫌悪い。
 だって、眉間にくっきりシワが寄ってるし。
 常連のおっさんの話しに対して上の空っぽいし。
 なにより…。


「「グラス持ってる手が震えてる」」


 俺と彼女の声がハモる。
 いやぁ、やっぱり愛だねぇ。
 こんなにも気が合うとは!!

 彼女と顔を見合わせてプッと吹き出し、声を殺して必死に笑いを堪える。
 いや、だってさぁ。
 こんなところで爆笑したら『変態カップル』になっちゃうじゃん?
 それに、必死に嫉妬と格闘してるクラウドさんに悪いしさぁ。
 いやいや、それにしても。
 あの色男……相当な肝っ玉だ。
 ティファさんに全く相手されてないのに、これでもか!!ってくらい、笑顔を振りまいてるし。
 多分、他の女ならその笑顔の前にコロリとやられちゃうんだろうけど、ティファさんはそうじゃないんだなぁ…これが。

「あら、そうなんですか?大変でしたね」
 いつもの笑顔で色男の『笑顔攻撃』をスルーしてる。

『いつもの笑顔』=『営業スマイル』。

 ま、ティファさんの場合、『営業スマイル』でも充分魅力的なんだけどな。
 だから……かもなぁ。
 色男は『自分の魅力に彼女もメロメロ〜』って勘違いしたんだろう。
 ティファさんに必要以上に触れようと手を伸ばす。
 それを、実に巧みに避けながら、ティファさんの視線は自然とクラウドさんに注がれてて…。


 ポッ!


 あ…。
 ティファさんが赤くなった。
「クラウドさんとティファさんって、いつまでも初々しいのねぇ。何だか見ててすっごく懐かしい気持ちになってくるわ〜」
 同じくほんのり頬を染めたクラウドさんを見て、彼女が夢見る乙女の顔をした。
 あぁ……本当に。
 俺も勿論、彼女の事を愛してるけど、始めてであった頃の初々しさは流石に無いからなぁ。
 その点だけは羨ましいかな…。
 でも…。


 未だに見つめ合って顔を赤らめる仲って……どうよ……!?


「う〜ん…。まぁ、良いんじゃないかしら。クラウドさんとティファさんが、私達みたいな『ラブラブカップル』になったりしたら……なんかそれだけで中(あ)てられちゃって、近寄りがたくなるんじゃない?」
「ん〜…まぁそうとも言えるけどさぁ。今でも充分近寄り難いじゃん…」
「そうでもない人もいるみたいよ?」
「え……あぁ……アイツなぁ…」

 彼女の一言でその人物へ視線をやった俺は、頬杖をついた。
 勿論、それは『自意識過剰な色男』のこと…。
 ティファさんが自分に向けてる笑顔が『営業スマイル』だってことに全然気付いてないバカな男。

 さっき、『ティファさんの意識がクラウドさん一色になってる事が分からない鈍感人間がこの世に存在するのかねぇ…』とか思ってたけど……。
 いたよ、ここに!!
 これはもう、天然記念物ものだ!!

「あのカッコイイ男の人、見た事ないわねぇ」
「…………新顔じゃないのか…?」
 ムスッとする俺に、彼女が嬉しそうな顔を向けた。


 …何でそんなに嬉しそうなんだよ!


 なぁんて心の中で突っ込んだ俺に。
「だって、ヤキモチ妬いてくれてるんでしょう?それって、それだけ私の事を想ってくれてるって事じゃない?」
「……一言も話してないのになんで分かったんだ?」
「フフ…、顔を見たらそれくらい分かるわよ」

 くぅ〜〜…。
 ダメだ、可愛すぎる!!
 流石俺の彼女!!

「あ…」
「へ…?」

 俺が彼女への想いに、一人感動していると。
 彼女が目を見開いて小さく声を上げた。
 その彼女の顔が、何だか尋常じゃなかったから…。
 たった今まで感じていたフワフワした幸せな気持ちは一瞬の内に消え去り、イヤな予感で一杯になった。
 恐る恐る……固まってる彼女の視線を追うと…。


 Oh、My God!!!!


 勘違い野郎が、こともあろうにティファさんの手を握り締めて…。
 その甲に唇を……!!!!!


 ティファさんを見ている俺の視界の端で、クラウドさんがスツールから物凄い勢いで立ち上がったのが見えた。
 看板娘と看板息子が目を剥いて、持ってるお盆を振り上げてる。


 ギャーーーー!!!!
 死人が出るーーー!!!!


 クラウドさんがいくら丸くなったからって言っても、彼は『ジェノバ戦役の英雄のリーダー』だった最強の男。
 その男の彼女に…なんちゅう事を!!!!
 クラウドさんの魔晄の瞳に、言葉では表せられないほど強烈な怒気と殺気が混じる。

 誰もが息を飲んでクラウドさんの一挙手一投足を見つめていた。
 それは時間にしてほんの刹那の事。
 でも、永遠に感じられるほどの長い時間。
 俺も彼女も、クラウドさんの手によって色男が蛙男並みに変形される事を確信した。
 ところが。



なにするのよーーーーー!!!!!



 ドッッゴォォォオオオンン!!!!!



 これまで聞いた事の無い怒声と共に、全身に鳥肌が立つほどの恐ろしい音を上げた強烈なパンチを繰り出したのはティファさんだった…。

 あぁ……、そうだったよなぁ。
 ティファさんも『ジェノバ戦役の英雄』だったもんなぁ。

 こうして、愚かな色男の身体は、天井に半分以上もめり込んだ。


『『『『……生きてるだろうか……』』』』


 この瞬間、セブンスヘブンにいた俺達と他の常連客達の心は一つになった…。





「……本当に…皆さん……お見苦しい所を……」

「い、いや…」
「ティファちゃんが悪いんじゃないし」
「そうそう、あの兄ちゃんも生きてたしさぁ」
「大体、ティファちゃんにちょっかい出したあの兄さんが悪いんだって」
「気にするなよ……な…?」

 あの後。
 天井から『元・色男』を救出したのはクラウドさんだった。
 ティファさんの怒りの鉄拳に、俺達同様、呆気に取られて目を丸くしてたけど、そこは流石と言うべきか…。
 一番に我に返ると、二階に駆け上って『元・色男』を引きずり出した。
 いや、身体の半分以上が天井にめり込んでたから、二階から引きずり出す方が簡単だったんだよ。
 って言うかさぁ…。
 あの細い腕のどこにそんな力があるんだろう……。
 ほんっとうに不思議だよなぁ…。

『元・色男』は、クラウドさんの手によって救出された後、回復アイテムで一命を取り留めた。
 そして…。
 幸か不幸か、殴られたショックからか、自分の身に何が起こったのか全然覚えてなかったんだ。

「あれ…?何で俺はこんな所で寝てるんだ?」
 そう言ってキョロキョロと不思議そうな顔をしてる男に、
「アンタ、飲み過ぎて倒れたんだ。もう帰った方が良いんじゃないのか?」
 と、サラリとウソを吐いたクラウドさんは、ハッキリ言って……めっちゃカッコ良かった!

「あ、そ、そうなんですか?本当にお騒がせしてしまって……」

 クラウドさんのウソをあっさり信じた被害者は、そそくさと勘定を済ませるとあっという間に帰ってしまった。
 看板娘と看板息子が、しょんぼりと落ち込んでいるティファさんを必死に慰めてるけど、ティファさんはすっかりしょげかえってしまって、どうにもこうにもならないらしかった。

 というわけで…。

「皆…本当に申し訳ないんだが、今夜はもう店じまいさせてもらいたい」

 クラウドさんが、すっかり落ち込んでいるティファさんの肩を抱き寄せながら頭を下げて…。
 セブンスヘブンは、微妙な空気を残したまま今夜の業務を終える事になった。


「凄かったわね…」
「そうだな…」
「あの天井……どうするのかしらね…」
「……クラウドさんって顔が広いから……誰かに何とかしてもらえるんじゃないのか?」
「あぁ……そうよね……」
「………………」
「………………」

 彼女を家に送って帰る途中、俺達はそれきり黙ったまま黙々と帰路に着くのだった…。