モテる恋人(後編)




 ティファさんの鉄拳事件の翌日。
 案の定、俺の上司は凹みまくっていた。
 ハッキリ言って、今更凹むのもどうかと思うんだけどなぁ…。
 いい加減、気付けば良いのにさぁ。
 そんでもって、新しい恋を求めて羽ばたいていけば良いのに…。

 まぁ……無理だろうなぁ。
 俺の上司は、良く言えば『一途』、悪く言えば『諦めが悪い』人間だから…。
 本当に…言葉って不思議だ。
 言い方変えたらこんなにも響きが変わるんだからなぁ…。

 とまぁ、俺の上司がそんなもんだから、今日はちょっと早めに切り上げる事にした。
 同僚達には事前に説明済みだったから、同僚達も暗黙の了解で上司に避けな突っ込みを入れる事は無かった。
 う〜ん…本当に俺の職場は素晴らしい!!
 この細やかな心遣い。
 他の職場じゃあ、そうそう無いだろうなぁ…うんうん!

 と言うわけで、俺達は凹む上司を半ば強引にセブンスヘブンとは違う飲み屋に連れて行くことにした。
 ハッキリ言って、セブンスヘブンと比べると、店長はおっさんだし、値段は財布に攻撃的だし、味は三流だし…。
 良い所は無いんだけど、それでも仕方ないだろう?
 昨日の今日で、セブンスヘブンに連れて行く事なんか出来ないんだから。
 店のドアを皆でくぐると、そこには昨日の夜にセブンスヘブンで見た顔が、いくつも陰気臭い表情で並んでた。

 ………考える事はみな一緒かよ……。

 俺がその面々に気付いたって事は、当然相手も俺と上司に気づくと言う事だ。

「あ……アンタ達は昨夜……もしかしてセブンスヘブンに来てた……?」
「あ〜…まぁ……そうです」
「やっぱりなぁ!まぁまぁ、良かったら一緒にどう?」

 なし崩し的に誘われるまま、そのテーブルに着くことになってしまった。
 そのままティファさんを酒の肴に、盛り上がって…。

「なんであんなにイイ女とイイ男がカップルかねぇ…」
「そうですよねぇ!世の中、不公平ですよねぇ!!

 上司はすっかり酔っ払ってご機嫌だ。
 自分と似た境遇にある同志に出会えた……っていう喜びみたいなものを感じてるんだろうなぁ。
 俺と同僚達は、当たり障りの無い程度に笑って適当に酒を飲んでた。
 でも…。
 ここにきてどうしても!!!!!
 許せない事を言いやがった奴がいたんだ!!


「俺ってさぁ、これまであんまり恋愛経験無いままきたんだけどさぁ。クラウドの旦那とティファちゃん見てたら、俺も親の勧めで今の女房と一緒になったこと、やっぱり後悔しちゃうっていうか…」

 おいおいおい!!
 あんた、自分の嫁さんを悪く言うつもりかよ!!
 ハッキリ言って、俺的に言わせて貰うなら、あんたみたいになんでもかんでも周りの責任にするよな男ほど情けない奴はいないね!!

 って、俺が心の中で突っ込みを入れた、その絶妙なタイミングの瞬間に…。


「やっぱ自分で決めた女と一緒になりたかったぜ」


 酒に酔って若干赤くなった頬をテーブルに押し付けてそう言いやがったおっさんに…。
 俺はついついカーッとなった。


「てめぇ!ふざけんてんじゃねぇ!!!!」


 思いっきり怒鳴りつけながら勢い良く立ち上がり…。
 呆気に取られてる上司と同僚に目もくれず…。
 ポカンとしているおっさんの胸倉を掴み上げた……。

「てめぇ!仮にも自分の人生の伴侶だろうが!それをそんな風に悪し様に評価下してるんじゃねぇよ!!てめぇこそ、嫁さんに自慢してもらえるような旦那してるのかよ!!!!」



 俺とした事が……。
 ついついカーッと頭に血が上ったせいで……。
 気がついたら全身殴られて、道端でダウン……。

 正直言うと、喧嘩、めっちゃ弱いんだよねぇ……。
 んでもって、俺の逆鱗に触れたおっさんとそのオトモダチ…、めちゃくちゃ喧嘩強くてさぁ…。
 あっという間にボッコボコ…。
 ついでに俺と一緒にいた上司と同僚も巻き添え食っちゃってボッコボコ…。


 ホンットウにすいません。
 俺だけならまだしも、皆を巻き込むつもりは全く無かったんです……。


 なぁんて凹んでる俺に、おっさんがニヤニヤ笑いながら顔を覗き込んできた。

「よう、さっさと『ごめんなさい』って謝れよ。そうしたら今夜の事は許してやるからよぉ」


 ムッカ〜〜!!
 誰が謝るか、コンチクショウ!!!!


 と思ったけど、地べたに蹲ってる上司と同僚に、俺の上った血も下がるしかなくて…。


「………すいませんでし「なにしてる…?」」


 不本意ながら口にした謝罪の言葉に、低い男の声が重なった。
 聞き覚えのあるその声に…。
 俺の胸倉を掴んでるおっさんとそのお友達が「「「「ゲゲッ!!!」」」」と何ともおっかしい声を上げて固まった。
 もう…振り返ってみるまでも無いけどさぁ…。
 やっぱり条件反射…?って言うのか、振り返ったら、そこには街灯を背に受けて金髪を輝かせた英雄の姿。

 ……カッコイイ!!
 なに、このシチュエーション!!
 まさに『ヒーローの登場』じゃん!?

 んでもって、そのヒーローは、登場した時同様、メッチャカッコ良くおっさん達をあっという間に逃げ帰らせると、俺と同僚と上司を手際よく介抱してくれた。
 もう何て言うの!?
 クラウドさんの一睨みで蜘蛛の子散らしたみたいにあたふたと逃げるおっさん達の無様な事!!
 絶対にボコボコにやられてる俺達以上にカッコ悪いね!
 あ〜、それにしても手際よく介抱してくれるクラウドさんって流石だよなぁ…。
 もう完全に手馴れてるし。
 流石、あの過酷な旅を続けて『ジェノバ戦役』を終らせた『英雄』だよなぁ…。

「大丈夫か?」

 一通り、俺達全員の手当てを終えてクラウドさんが心配そうに眉根を寄せた。
「あ〜、もぅ…全っ然大丈夫です!!…って〜〜…」
「いや……結構殴られてるから無理しない方がいい……」
 調子に乗って敬礼の真似事しようとしたら、肩から背中にかけて激痛が……!!
 蹲る俺に、クラウドさんが呆れたような……それでいて慌てた様にそう言って、ポケットから回復アイテムを一個取り出した。
「見たところ、あんたが一番怪我してるからな。これ…」
「…………」
 いやもう…、感激しすぎて言葉が出ない!!
 なんて優しいんだ!!
 もうあれだ、ジェントルマンだ!!!

 震える手でそれを受け取ると、同僚達がおずおずとクラウドさんに声をかけた。
「本当にありがとうございました」「お陰で命拾いしました」「ほんっとうに感謝の言葉もないです!」
 それらの言葉に、クラウドさんは苦笑しながら片手を上げて制すると、
「いや、大した事じゃないから。それよりも、車でも呼ぼうか?」
「いいえ!」「とんでもない!!」「歩いて帰れます!!!」

 何とも恐れ多いお言葉に、同僚だけでなくちょっと不貞腐れたような顔をしていた上司までが、ぶんぶんと首を横に振った。(上司は、クラウドさんに助けられた事が少なからず不本意だったらしい……)

 そんな俺達を見て、クラウドさんはちょっと心配そうな顔をしながらも俺達の『男の顔』を立ててくれた。
「じゃあ……気をつけて」
 そう言うと、道路脇に停めてた馬鹿でかいバイクに跨ると、颯爽と去って行った。

 いやぁ……もう……同性の俺でも惚れ惚れするよなぁ……。

「やっぱ、カッコイイなぁ!」「だよなぁ!!」「あ〜、俺もクラウドさんみたいになりたかったなぁ!!」

 感動しきりの同僚達と、やっぱりちょっと不貞腐れたような上司に囲まれて、俺達は痛む身体を引きずりつつ無事に帰路に着いた。


 翌日。
「もう!無茶したらダメでしょう?」
 昨夜の一件を話して聞かせた俺は、彼女にこっぴどくお説教を受けた。
「お、おう…」
「ただでさえ喧嘩が弱いのに、喧嘩を売ってどうするの?」
「……ぐうの音も出ません……」
「本当に、クラウドさんが来てくれたから良かったけど、そうじゃなかったら今頃ジュノンの港に浮いてるかもしれないじゃない!!」
「……そんな生々しくておっそろしい想像……やめてくれる…?」
「私を残して死ぬとこだったのよ!?少しは反省して頂戴!!」

 うっすらと涙を浮かべる彼女に、もう俺の胸は一杯になった。

「ほんっとうに悪かった!」
 精一杯の謝罪と共に、彼女をギュッと抱きしめる。
 彼女も俺にキュッとしがみ付いてくれて……。


 くぅ〜〜…幸せだ……。


 などとアホな事を考えてると、俺の腕の中で彼女がポソッと呟いた。
「ティファさんも……いっつもこんな風にクラウドさんの事を心配してるのかなぁ……」

 ………う………。
 そうかもしれない………。
 クラウドさんの場合は、荒野とかをバイクで走ってるから、俺よりもうんと危険な場面に遭遇する可能性が高いわけだ。
 勿論、俺なんかと比べて腕っ節はめっちゃ強いし、並大抵な事じゃ殺したって死なないだろうけど(← 失礼)、それでもやっぱり心配だろうなぁ…。
 でも、ティファさんがクラウドさんの心配をしてる姿は何となくその時に纏ってる空気で分かる。
 うん、ティファさんは隠してるつもりだろうけど、クラウドさんが帰る予定よりも遅くなった時は、店の時計を見る回数が自然に増えてるんだ。
 んでもって、『営業スマイル』も霞んでくる。
 でも…。
 ここで俺はハタと気が付いた。
 ティファさんがクラウドさんの事を心配してる顔は良く見る。
 でも、一昨日の夜、クラウドさんが見せたような『ヤキモチを妬いた顔』……って………見たこと……ない……かな……?
 ………ないかも…!?
 いや……ない!!(キッパリ)。

 おいおいおい!
『クラウドさんがティファさんに愛情が薄いかも知れない』……って思い込んで、それが勘違いだと分かった次に、今度は『ティファさんのクラウドさんへの愛情が薄いかも疑惑』が浮上しちまったよ!!!(← かなりな思い込み)

 うわあぁぁぁぁあああ!!!!!
 えらいこっちゃ!!!!

「どうしたの……?」

 俺が一人でパニックになってると、彼女が不審そうに見上げてきた。

 おおう……!!
 いくら最愛の彼女でも、このトップシークレットを告げて良いものか!?!?
 しかし、小さな隠し事が大きなハプニングに発展する事も珍しくないし……。
 だからと言って、こんなにも重大な事実を告げて良いものなのか!?!?
 うあああぁぁぁぁああ!!!!
 どうしたら良いんだ〜〜〜!!!!!


「あ……ティファさんとクラウドさんだ…」

 ドッキーーーーン!!!!

 思わず彼女を突き飛ばすように立ち上がる。
 そして、彼女が先程まで見ていた視線を辿ると、そこには……。


 まるで映画のワンシーン。


 美男美女が、ゆっくりと街を歩く姿。
 クラウドさんの両手とティファさんの片手には買い物袋。
 珍しく二人で買い物に行った帰りのようだ。


「なぁに……もしかして、さっき変な顔してたのはティファさんの事を考えてたからなの!?」
 少々唇を尖らせるようにして俺の顔を覗き込んだ彼女のドアップに、ピシリ…と身体が固まる。
 しっか〜し!!
 それも一瞬だ。
 彼女は勘違いしてるに違いない!!

「ち、違うんだ!!俺が愛してるのはお前だけだ!!」
 もう…必死だっつぅの!!
 このまま彼女が『別れる!!』なんて言ってみろ!!
 俺は生ける屍になるしかないじゃねぇか!!!!


「プッ!!冗談よ、冗談!分かってるよ、ちょっとからかっただけじゃない」
 俺の必死な顔が面白かったらしく、彼女はお腹を抱えて笑い出した。

 ………ホッ…。
 良かったぁ……。(← とことんヘタレ)


「でも、どうしたの?クラウドさんとティファさんが気になるのは本当でしょう?」
 彼女の真っ直ぐな眼差しに、俺はあっさりと白旗を上げる事にした。
「………うぅ……実はな……」

 そうして…。
 俺の推理を聞いた彼女は…。
「うぅぅん…。クラウドさんがヤキモチ妬くのはよく見るけど、ティファさんがヤキモチ妬くところは……見た事ないわねぇ……」
 顎をつまんで何やらブツブツ言っている。
 でも、それもほんのちょっとの時間。
「だけど、それは仕方ないんじゃないの?私達がクラウドさんとティファさんの二人を見るのって、セブンスヘブン以外ではないんだもん。今日が初めてよ、お店以外の場所で二人を見るの」

 ………あ、そうか。
 ティファさんとクラウドさんに会うのは、俺が店に行く時以外ではなかったな…。
 ………となると…。
 店の外ではティファさんはヤキモチを妬いたりするんだろうか……??

「「…………………」」


 俺達二人は、顔を見合わせるとニッと笑い合って、クラウドさん達をコッソリ追いかける事にした。


 もうあれだ。
 気分はまるで私立探偵だ。
 俺達の前方には、ターゲットである二人が仲良く肩を並べて歩いている。
 これって、滅多に見られない貴重な光景だぞ!?
 クラウドさんがさりげなく車道を歩いているところとか、ティファさんがはにかむような笑顔を向けつつ、ほんのり頬を染めてるところとか。
 なによりも、二人共あんまりおしゃべりしてるわけじゃないけど、そこだけ空気が違うんだ!
 あれだ。色で例えたらコスモス色だ!淡いピンク色だ!!
 もう、めっちゃ純粋で可憐で綺麗なオーラが溢れ出てるんだ!!

 二人の周りには勿論、他にも沢山の通行人がいるわけだけど、誰もが思わず振り返ったり立ち止まったりしてる。
 うんうん、その気持ちがよく分かるよ。
 んでもって、クラウドさんは男達の視線い対して、時折鋭い視線で応酬で牽制してる。
 ティファさんは、そんなクラウドさんに「クラウド、どうしたの?」なんて言ってるみたいだ。
 聞えないんだけど、口の動きと小首を傾げてる仕草とかの雰囲気で、何となくそう思う。

 ……ティファさん……もう少し自覚した方が良いんじゃ……。

「ティファさんってやっぱりモテるわねぇ」
 彼女が隣でしみじみと言う。
「だよなぁ…。それなのに、全然気にしてないってところが……天然というか……何と言うか……」
「でも、クラウドさんに目を輝かせてる女の子達には敏感に反応してるから、そこはやっぱり『愛』よねぇ」
 この彼女の言葉に、思わず「へ?」なんて間抜けな声を上げた俺に、彼女は呆れたような顔をして見上げてきた。
「気付いてないの?ほら、今もあそこの街灯に隠れるようにしてクラウドさんを見てる女の子に、浮かない顔してるし」

 彼女がそっと視線で示した方を見ると、なるほど。
 赤茶色の髪をアップでまとめた、なかなか可愛い女の子が、なにやら後ろ手にコソコソとプレゼントらしき紙袋を持って、クラウドさんへ熱い視線を送ってる。
 それを、ティファさんがチラチラと気にしつつ、隣をゆったりと歩くクラウドさんと見比べたりしてる。

 ……っていうか、よくあんな離れた所に立ってる女の子に気付いたな!?
 俺はそっちの方がびっくりだよ……。

「だって、ティファさんが微妙に強張ったんだもん。見てたらすぐに分かったわ」

 ……いやいや、俺、まだ何も言ってないのになんで分かったんだ!?
 あれか、読心術を身につけてるのか!?!?

「だって、分かりやすいから」
「………頼むから何も言ってないのに、ツッコミを入れないでくれ……」
 なんとなく脱力する俺に、彼女はクスクス笑ってたけど、すぐに可愛い笑顔を引っ込めてしまった。
 何やら彼女の顔が強張ってる。
 自然に彼女の視線の先を追うと…。


「クラウドさん!!これ、受け取って下さい!!!」


 通行人達も俺の隣の彼女も俺も、そして……ティファさんも…。
 赤茶色の可愛い女の子の、おおよそ外見からは想像も出来ない大胆な行動に、一瞬で石化した。
 唯一、石化してないのは女の子と……クラウドさん。
 少しくらい困ったような顔をしてるのかと思いきや、何を考えたのかあっさりと差し出されたその紙袋を受け取りやがった。
 その行動に、誰もが目を剥いた。
 勿論、俺と俺の彼女も…………。
 クラウドさんの隣にいるティファさんは、青ざめて小刻みに震えてる。
 そして…。
 赤茶色の髪の女の子は、意味ありげにティファさんを見ると、『勝利の笑み』を浮かべやがった。

 その光景に、俺の血圧が一気に上った。


 なんだよ、それ!
 いっつも無愛想なくせに、実はムッツリだったのか!?
 こともあろうに、ティファさんの目の前で他の女からのプレゼントを受け取るとは、どういう神経してるんだ!!
 もうあれだ。
 見損なったね!!
 男のクズだ!!!!!


「それで?」
「え?」
 思わず引き止める彼女を振りほどいてクラウドさん達に駆け寄ろうとした俺の耳に、クラウドさんの不思議そうな声が聞えてきた。
 何やら、渡された紙袋をひっくり返したり横に向けたりして、しげしげと見つめてる。
 そんなクラウドさんに、赤茶色の女の子の顔が、勝利の笑みから戸惑った表情へ変化した。

「差出人もあて先も書いてないんだけど……、どこの誰に配達すれば?」


 ……はぁぁぁああああ!?!?!?!?
 なに言ってるんだよ!!!!
 もしかして………もしかしなくても……!!!!


「これじゃ配達出来ないから、悪いけどちゃんとあて先と名前、差出人の住所とかも忘れずに書いて連絡してくれ。また取りに行く。あぁ、なんなら今から店に来てくれても構わない。店で書いてくれたら、本当は今日は仕事を請けないつもりだったんだけどカームまでならすぐに配達する」


 うぉい!!
 配達の依頼と思ってるよ、この人!!!!
 ほらほらほらほら!!
 もう、一部始終を見てた通行人の人達もあんぐり口開けてるよ!
 ティファさんなんか、びっくりし過ぎて目がまん丸。
 赤茶色の髪の女の子に至っては、あまりの事実にめっちゃ顔が歪んでる。
 ……可愛いはずの顔が、これ以上無いくらい不細工に………。


「ち、違います!!これは、クラウドさんへのプレゼントです!!」

 真っ赤になった顔を悔しそうに歪めた女の子の言葉に、クラウドさんは最初、キョトンとしていた。
 ハッキリ、面と向かって言われたにも関わらず、意味が分かってないのは明白だ。
 その証拠に…。

「俺……今日、誕生日じゃないけど……?」

 なぁんて首捻ってるよ!!
 もうあれだ。
 クラウドさんは、俺の想像以上に鈍い!
 鈍感が服着て歩いてるようなもんだ!!
 隣で青ざめてたティファさんまでが、気の毒そうな顔をしてその女の子を見てる。
 そんでもって、自分的には『ライバル』だと思っているらしいティファさんに、同情の眼差しを向けられたことで、その彼女の自尊心はいたく傷ついたようだ。
 キッとティファさんを睨みつけると、
「私、クラウドさんを想う気持ちは誰にも負けてません!!」
 そうのたもうた…。

 彼女のその台詞で、クラウドさんは漸く『告白されている』という事実に気付いたらしい。
 一瞬固まったかと思ったら、次の瞬間目を最大限に見開いて「え!?」と驚きの声を上げている。

 ……いやいや、遅すぎるだろう……?

 俺の内心のこの突っ込みは、一部始終を見ていた街の人達と同じだったはずだ。
 もう、一瞬だけど俺達の心は一つになったよ……マジで…。

「あっと…いや、それはちょっと………」
 クラウドさんはもう、これ以上無いくらい戸惑ってオロオロしてる。
 これはこれで、物凄く貴重な姿なんだけど…。
 俺的にはこう、『悪いけど、俺にはティファがいるから』って言って欲しいんだけどなぁ…。

 見守っていた人達が、ジリジリとじれったい気持ちで食い入るように見守っている。
 その集中する視線の中、俺の……そして見ていた全員の想像しなかった行動に出たのは…。


「クラウドを想う気持ち、あなたは負けてないって言うけど、それじゃあ彼のどこを好きになったの?」


 ティファさんが恐ろしく冷静な光を瞳に宿し、静かに口を開いた。
 赤茶色の髪の女の子が、ティファさんの気迫に気圧される。
 少々仰け反るようにしつつも、後ずさらずに踏み止まったのは、いっそ見事としか言いようが無い。
 それでも、ティファさんは言葉を切ったりはしなかった。

「クラウドの何を知ってるの?彼が本当はとっても繊細だとか、責任感が強過ぎてすぐに自分を責めるとか、挙句の果てには自分よりも他人の命を優先させてしまうとか……そういうことを全部知ってて、『誰よりも想ってる』だなんて言ってるの?」

 あまりの迫力に、隣に立ってるクラウドさんまでもが驚いてティファさんを凝視してる。
 女の子はもう、言葉も無いらしい。
 ティファさんはそんな女の子に止めを刺した。

「クラウドの外見だけで『好き』とか『誰よりも想ってる』だなんて口にしないで。クラウドを外見だけで好きになっただなんて……ハッキリ言って侮辱だわ。彼の中身を知ってから告白してきて」

 キッパリと言い切ったティファさんに、女の子はどうやら『外見だけで』クラウドさんに好意を持ったらしい。
 見事に図星を指されたのか、見る見るうちに真っ赤になって眉尻をキュッと上げた。
「じゃあ、貴女はクラウドさんのどこに惹かれたんですか!?」

「クラウドが本当に優しくて、強くて……でも、本当は弱いところ。弱いが故に苦しんで、私達家族や仲間を悲しませまいとして、一人身を隠してしまうところ、甘えベタででも本当は寂しがり屋で……。でも、やっぱり誰よりも頼りになって、私達『家族』を愛してくれるところ…。それで…」
「ティファ………あの……もう良いから……」

 真っ赤になったクラウドさんが、まだ続けようとするティファさんを制した。
 ハッと我に帰って周りを見渡し、いつの間にか山のようなギャラリーが出来ている事に気付いたティファさんは、首まで真っ赤になるとクラウドさんに肩を抱かれてその場を足早に去って行った。
 去り際に、「悪いけど俺、ティファ以外に考えられないから」そう女の子に宣言する事を忘れなかった。


 …………カッコイイ!!!!
 なにあのカッコイイバカップル!!!!
 くぅ〜〜〜〜!!!!
 後つけて良かった〜〜!!!


 俺の隣では、俺の彼女もメッチャ嬉しそうに笑ってるし、集まったギャラリーもみな、満足した顔をしてる。
 うんうん、やっぱりクラウドさんにはティファさん、ティファさんにはクラウドさんだよな!!


 俺の上司のように…そして、クラウドさんにこっぴどく振られて茫然自失になってる女の子のように、クラウドさんやティファさんに惹かれてる人達には気の毒だけど。
 その想いが実る事は永久に無いな…うん!


 それにしても、モテる恋人を持つって言うのは並大抵の苦労じゃすまないなぁ。
 でもさ。
 それでも、そんな苦労もやっぱり愛しい人の隣に立つためなら、何でもないんだろうな。


「よっし!明日一緒にセブンスヘブンに飲みに行こうぜ!」
 どうせ今夜は家族水入らずになるだろうから、臨時休業するだろう。
 俺の隣の彼女は、俺の腕に自分の腕を絡ませてニッコリ笑って頷いた。



 あ〜!
 明日、クラウドさんとティファさんに会えるのが楽しみだなぁ!!


 そうして、俺達は胸いっぱいに広がる幸福感を抱えながら、デートの続きへと戻って行った。




 あとがき

 はい。何とか予定通り、三部で終りました。
 今回はティファがヤキモチを妬く……お話しにする予定だったのに、例の如く指が滑ってしまって…。
 気が付けばティファの『告白』で終りました(苦笑)。
 ま、いっか。
 ティファは普段はクラウドに女の子が言い寄っても、それに対して嫉妬するより『私よりもそのこの方がお似合いかも…』って凹むタイプのような気がします。
 でもそれでも、やっぱりクラウドが好き!!っていう話を書きたかったんですが………(ダク汗)。
 ここまでお付き合い下さり、ありがとうございましたm(__)m