My hero(後編)




 店内が静寂に包まれる中、癖のある漆黒の髪を静かに揺らしながら、その若い男の人は真っ直ぐラナの元へ歩いてきた。
 ラナも、グリートさんもライさんも完全に固まって微動だにしない。
 その男の人の後ろから、額に手を当ててクラウドさんが溜め息をこぼしつつやって来た。
 そっとカウンターの中のティファさんに何やら耳打ちをしている。
 ティファさんの瞳が一瞬大きく見開かれ、次いで苦笑した。
 クラウドさんが一体何を囁いたのか分からないけど、私に分かった事はただ一つ。



 このままここにいたら、確実に巻き込まれる…!!
 え?
 何にかって?
 そんなの決まってるじゃない…。
『修羅場』にだよーー!!!!



 溜め息を吐きながら、三人の前にやって来たその若い男の人は「それで…?」と、何の前置きもなく唐突に質問をした。
 ビシッと背筋を伸ばしてライさんが口を開く。
「申し訳ありません。少々飲ませ過ぎたようです」
 そんなライさんに、自分を取り戻したグリートさんも背筋を伸ばして、
「自分の監督不行き届きでした。もう今夜はこれで失礼させて頂きます」
 そう言って、二人揃って踵を合わせて敬礼した。

 うわ…。
 凄い。
 こんな時になに言ってんだ…って言われそうなんだけど…。
 とても今まで一緒に楽しくお酒を飲んでいた人達と同じとは思えない。
 だって…。
 二人共物凄くカッコイイの!
『さまになってる』ってこの事を言うのかな。

 でも、ラナは相変わらず固まったまま……。
 ううん。
 もしかして…、さっきよりも機嫌が悪くなった……?
 眉間にシワが寄ってるのは変わってないんだけど…。
 目つきがさっきよりうんと鋭い。

 ………。
 …………。
 絶対まずい…!!
 絶対絶対、このままだと……まずいって!!。


「小隊長殿はどうしてこのお店に?」
 グリートさんとライさんがラナの両脇を支えようと手を伸ばしたその時、ラナの口から冷たい言葉が吐き出された。
 彼女とは長い付き合いだけど、ここまで露骨に嫌悪感を露わにした声音は、過去に一度しか聞いた事ない。
 ホラ、あの『ライさんの従姉妹』の話のとき。
 それ以外は全く聞いた事のないラナの冷たい口調に、店内が凍りつく。
 グリートさんとライさんは、すっかりお酒が抜けてしまって、真っ青な顔でラナさんを押し止めようとしてるんだけど、そんな二人を押しやるようにして一歩、その男の人に近付いた。

「まさか、こんな所にまで来て、嫌味を言うおつもりですか?」
 挑戦的なラナの言葉に、その男の人は全くの無表情でラナを見返した。
「それこそ『まさか』だな。俺はそんなに暇人じゃないし、この店に来たのはクラウドさんに半ば強引に連れて来られたからだ」
 青くなってるグリーとさんとライさんには、全く目もくれず、自分を睨みつけているラナの目を真正面から見つめ返し、淡々と口を開く。
 店内にいるお客さん達が、息をひそめて事の成り行きを見守ってる気配をヒシヒシと感じる。
 そんな中、ラナがバカにしたように「フフ…」と笑った。
「あぁ、そうですか。クラウドさんに…。それじゃ、私達がこの店に来てるのを知ってらしたわけじゃないんですね」
「当然だな」
 即答したそのラナ達の『上司』さんの後ろで、クラウドさんが何か言いたげにウロウロしてる。
 ティファさんも、この非常事態にオロオロしてる。
 子供達は……何故か興味津々な顔…。

 ……こらこら!
 そんなに興味津々な顔をしてる場合じゃないでしょ!?

 そんな中、ラナが更にもう一歩『上司』さんに近付いた。
「なら、ここで私がどんな風に楽しもうと、小隊長殿には関係ないですよね!?」

 完璧に目が据わってる。
 こんなに挑発的で嫌悪感を露わにしているラナを見た事ない。
 ハッキリ言って…物凄く…悲しい。
 ラナにこんな顔は似合わない。
 いつでも笑顔で、どこか自信があって、堂々としてて。
 それで……それで……。
 こんなに暗い目をしてなくて、生き生きとした顔をしてるのがラナなのに…!!

 思わずラナに向かって腕を伸ばした時、
「そうだな。周囲の人に迷惑をかけてないなら、俺には全く関係ない」
 そうあっさりと『上司』さんは頷いた。
 あっさりし過ぎていて…何だか寒い。
 だって、全然ラナ達に…自分の『部下』に関心がない……そう言っているみたいに聞えるの。。
 そして、それはラナやグリートさんやライさんにも同じ事だったみたいで、三人の顔が瞬時に強張った。
 ラナは怒りの為…。
 グリートさんは不快感の為…。
 そして……ライさんは……何故か悲しそうな顔をして…。
 それぞれがそれぞれの表情を浮かべる。

「は……何なんですか?私がいつ、迷惑をかけたと!?」
「無自覚というのが一番性質が悪いな、ラナ・ノーブル二等兵。これだけ他のお客さん達の関心を一身に集めておいて、どの口がそんな台詞を言うわけだ?」
 淡々と予め(あらかじめ)機械が決められた言葉を流しているかのように、『上司』さんはカッとなって声を荒げるラナをあしらった。
 それが、更にラナの神経を逆撫でしたらしい。
 赤い顔を益々赤くして、
「今は任務中ではないんですから、階級で呼ばないで下さい!」
 半ば怒鳴りつけるように言葉を吐き出す。
 それに対しても、やっぱり『上司』さんは飄々とした態度を崩さない。
「じゃ、キミも俺の事を『小隊長殿』などと呼ぶな」
 軽くラナの言葉に対して揚げ足を取ると、グッと言葉に詰まったラナからあっさり視線をはずし、後ろでオロオロしていたクラウドさんを振り返った。

「今夜はこういうわけだから、折角だけどこれで失礼する」
「あ、ああ…でも…」
「いくら二階の私室で…って言ってくれた所で、この屋根の下に俺がいる事自体、彼女達が不快になるだろうし、それに他のお客さん達にも示しがつかないだろう?」


 ああ……そうなんだ。
 クラウドさん、さっき『上司』さんを店から一旦出して、自分の部屋に招こうとしてたんだ…
 だから、カウンターの奥から『上司』さんが出てきたんだね…。
 そこまでして、クラウドさんが話をしたい…一緒にお酒を飲みたい…って思える人なんだ……この『上司』の人は。
 それなのに…。
 どうして、ラナもグリートさんもライさんも、この人と上手くいかないんだろう…。

 まぁ、大体上手くいかない理由が分かった気がするけど…ね。

 だって、とにかく何だか『近寄るなー!!』ってオーラが全身から出てるんだもん。
 こっちがいくら仲良くしようと頑張っても、見向きもしない感じ…。
 だから、普段は物凄く人が好いラナ達もこの人が苦手……なんだね。
 そんでもって、ラナは今日…なのかな?この人に『仕事で怒られた』事で更に嫌になってるんだ…。

 でも…。
 このままこの人が帰っても、何にも解決なんかしないんじゃないの?
 むしろ、これから先、仕事がしにくくなるんじゃない?
 だって……絶対に『しこり』が残っちゃうよ。
 そりゃ、この『上司』さんはそんな事は全然関係なく仕事が出来るだろうけど、グリートさん達はそうはいかないよね。
 ……特に…ラナは…。


 そう思ったら…。
 いても経ってもいられなくなっちゃって…。
 気がついたら……。


「なにか?」
「ふぇ!?」
 クラウドさん達がびっくりして私を見てる。
 私も、自分にびっくりして目をまん丸にしてしまった…。
 でも…。
 掴んだ黒い服の裾はしっかりと握り締めてて、指先が真っ白になるくらい力を入れている。

「あ、あの……!!!」
「……はい……?」
 漆黒の瞳が真っ直ぐ私を見つめてくる。
 その顔はどこまでも無表情で、何の感情も宿していない。
 でもね。
 ほんの少しだけ、その漆黒の瞳が揺らいだような気がしたの。
 私の行動に、内心ちょっぴりびっくりしたんだって……そう…思いたい…。

「よ、良かったら…、私達と一緒にクラウドさんのお部屋で食事をしませんか?」

「「「「……はい!?」」」」

 グリートさん、ライさん、ラナ、それにクラウドさんのびっくりした声が何だか遠くから聞える気がする。
 でも、私は何だかこのままこの人を帰しちゃいけないって…それだけで頭が一杯で、もう…心臓が爆発するんじゃないかってくらいドキドキしっぱなしで…。
 周りの人達がどんな顔をしているのかなんか、全然見えてなかった。

『上司』さんだけは、ほんの少し眉を寄せただけだったけど…。

「あの……だって……このままってわけには……。やっぱり……あ〜〜〜、上手く言えないんですけど……!!」
 もう一人でパニックになってしまった。
 なに言ってるのか自分でわからない。
 そもそも、クラウドさんやティファさんに許可貰ってないのに、なに勝手に『クラウドさんのお部屋で〜』なんて言ってるわけ!?!?

 もう…もう……本当に私ったらーー!!!!

 あわあわ言いながらも、それでもしっかと掴んだ服の裾。
 それを、『上司』さんは無理やり引き剥がす事もせず、だからと言って、何か言ってくれるわけでもなかったんだけど……。
 不意に後ろから誰かに頭をポンポンと優しく叩かれた。
 振り返ると、この店の女店長の優しい笑みが視界一杯に広がる。

 う〜〜、それだけで何だか涙が出そうだよ〜!!

 ティファさんはニッコリ笑って、私を見て、それから『上司』さんへ視線を移した。

「シュリ君。このお店は誰のお店?」
 唐突過ぎるティファさんの質問に、『上司』さんだけでなく、周りでハラハラしていた他のお客さん達もキョトンとする。(勿論、『上司』さんはあくまでポーカーフェイスだったけど…)
「ティファさんとクラウドさんのお店でしょう?」
 あっさりと即答した『上司』さんに、ティファさんは満足そうに頷いた。
「そう。ここは私とクラウドのお店。それに、子供達のお店なの。ちなみに、この店の店長は誰?」
「……ティファさん」
「大正解!それじゃ、私が言いたい事って分かるわよね?」
「……あんまり分かりたくない気がするのは、俺の気のせいか…?」
「うふふ、気のせいじゃないわね、非常に残念だと思うけど」
「はぁ……」

 何だか私には分からない会話が交わされて、そして終わった…。
 周りのお客さん達をそっと窺うと、お客さん達も皆首を傾げてる。
 チラリと後ろにいるラナ達を見るけど…。
 やっぱり三人ともポカンとしていた。

 でも…。
 クラウドさんと子供達は満足そうに笑っている。

 ………。
 …………なんで!?
 その理由が分かったのは…。






「で……揃いも揃って、『セブンスヘブン』の人達はお人好しって事なんだな…」
「分かってくれれば良いのよ。じゃあ、これから料理とお酒、持ってくるから大人しく待っててね。クラウド、見張りお願いね」
 実に満足そうに子供部屋を後にしようとするティファさんに、「俺はお茶で」と『上司』さんが声をかけている。

 バタン。

 子供部屋の扉が閉められた。
 残されたのは…。
 ラナ、グリートさん、ライさん、クラウドさん、上司のシュリさんと……私。
 二つあるベッドの一つに、私とラナとグリートさんが腰を掛け、もう一つのベッドには、クラウドさんを真ん中にして残りの三人が腰をかけている。
 何とも言えず………気まずい。

 気まずいと言っても、そう感じているのは多分私とラナ達だけで、クラウドさんは当初の予定が若干狂ったもののシュリさんと一緒にお話が出来る事になって嬉しいみたいだし、シュリさんは……相変わらずの無表情っぷりでなに考えてるのか分からない。
 もしかしたら、内心、物凄く嫌がってるのかもしれないけど……。
 そうだとしても、全くそういう風に見えないんだよね。


「それで?」
「はい!?」
 私の目の前に座ってるシュリさんが、突然私へ顔を向けて声をかけてきた。
 いきなり過ぎて、何を質問されてるのか分かんない。
「こうして貴女の望みどおり、同じ部屋で話が出来る状態にはなったけど、具体的に何を話し合って欲しかったわけ?」
 シュリさんの言葉に、カーッと顔に血が上る。

「う……えっと……その……」

 言葉に詰まっていると、グリートさんを間に挟んで座っていたラナが、キッとシュリさんを睨みつけた。
「そんな事、いちいち聞かないと分からないんですか?」
「じゃ、キミは分かってるんだな?ならキミから話を始めてくれ」
 さらりとラナの抗議の言葉を受け流し、真っ直ぐ視線をラナに向ける。
 その視線に気圧されたように、ラナは再び言葉を詰まらせた。

 そんなラナに代わって、グリートさんがそろそろと挙手をした。
「じゃ、グリートさんから」
 苦笑しながらクラウドさんが話を促す。
 ちょっと咳払いをしながら、グリートさんは背筋を伸ばした。

「ようするに、俺達がこのまま今夜、気まずいまま別れたら、今後の仕事がし辛くなる……。そうリリーちゃんは心配してくれて、こうして『小隊長殿』と和解する場を設けようとしてくれたんだと思います」
「うん、そうだろうね」
 至極あっさり、シュリさんは頷いた。
 それに対して、ラナが再び目を剥く。
 それを今度はライさんが口を開く事によって押し止めた。
「確かに今夜は、彼女も勿論ですが僕達も羽目を外し過ぎました。WRO隊員としては恥ずべき行為だったと思います」
 そう言って立ち上がると、深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
 グリートさんもライさんに倣って一緒に頭を下げた。

「止めてよ、そんな事!!」
 勢い良く立ち上がって、頭を下げ続けている二人に手を伸ばす。
 でも、意外にもその手を押さえたのはライさんとグリートさんだった。

「ラナ。今夜はどう考えても僕達が悪いんだよ」
「そういうこと。認めたくないけど、あそこであんな風にWROの名前を出して、挙句にその『上司』に『いちゃもん』つけたんだぞ?周りの一般のお客さんから見たら、『WROって大したことない』なんて思われる結果になるかもしれない…そう思わないか?」

 ラナは、その言葉に漸く頭が冷めたようだった。
 グッと唇をかみ締めると、二人に並んで「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。

 私は、三人が相して頭を下げている姿を見て、何だかとても大変な事をしてしまった気分になった。
 だって。
 確かに、気まずいまま何の解決もせずに今夜、シュリさんと別れたら、後々『しこり』が残って、仕事がしづらくなると思ったから、せめて和解をしてもらいたかっただけ…。
 こうして、三人に頭を下げさせる為なんかじゃなかった!!


 すると…。
「リリーさん…でしたか?感謝します」
 名前を呼ばれて一瞬ビクッとした私に、シュリさんが頭を下げてきた。
 その姿に、ラナもグリートさんもライさんも……皆びっくりして目を見開いている。
 シュリさんは、顔を上げると真っ直ぐ私を見つめて口を開いた。

「貴女がきっかけを与えてくれなかったら、こうして彼女達と今日中に和解は出来なかった」
 そして、顔を三人に向けると、小さく息を吐き出した。
「キミ達が俺の事を嫌っているのは充分承知している。それに、君達だけじゃない、WROの中でも俺の事を悪し様に言う隊員達が多い……いや、ほとんどがそうだっていう事もな。だから、今夜、ラナ二等兵が口にした俺への不満は俺にとって大した事じゃないから気にしなくて良い。ただ…」
 言葉を切ると、再び私に顔を戻した。
 どこまでも真っ直ぐ、その漆黒の瞳を私に注いでくる。
「その事を彼女達に告げるきっかけを、貴女が与えてくれた。俺が気にしていないことを知らないままだと、ラナ二等兵だけでなく、グリート、プライアデス両下士官までもが、心にわだかまったものを抱えてこれからの任務に就かなくてはならなくなるところだった。本当に……ありがとう」

 私はその言葉に…。
 もう胸が一杯で。
 シュリさんの隣に座ってるクラウドさんが、本当に優しく笑いかけてくれてて……。


「リリー…ほんとにごめんって」
「ウッウッウッ……」
「リリーさん、本当にありがとう…」
「フエェ〜〜……」
「感謝してるから、本当に!だからさ……」

「いい加減泣き止んでくれても良い頃だと思うんだが…」

 シュリさんの言葉に、困ったような感情が込められていた気がして、思わず私は涙でグショグショの顔を上げた。
 目の前には、漆黒で癖のある髪をガシガシと掻きながら、弱りきった顔をした……ポーカーフェイスを崩したシュリさんの顔。

 そして、その隣には何だか上機嫌な(と言っても、うっすら微笑んでるだけなんだけど)クラウドさんがいてくれて。
「フワ〜〜ン…!!」
 何だか益々泣けてきた。

 その時、子供部屋のドアが実にタイミング良く開かれた。
 料理を運んで来てくれた子供達が、目の前の光景……つまり、私が号泣している姿にポカンとする。
 そして、その次の瞬間目を吊り上げると、ギラッと私以外の全員を見渡した。
 そう……『全員』を。
「リリーお姉ちゃんに何したの!?!?」
「そうだよ!リリー姉ちゃんは、シュリの兄ちゃんとライ兄ちゃん達を仲直りさせようと頑張ってくれたんだぞ!!」
「いやな、デンゼル、マリン…違うんだ…これは」
 説明しようとしたクラウドさんが子供達に一歩近付いた。
 それを……。
「「クラウドは黙ってて!!」」
 実に絶妙なハーモニー…。
 込められた激しいまでの怒気に、クラウドさんはビシッと固まった。
 そして、怒りの矛先はそのままクラウドさんへ…。
「大体、クラウドがついててどうしてこんな事になってるんだよ!!
「そうよ!クラウドならリリーお姉ちゃんがこんなに泣くまで酷い事にはならないって信じてたのに!!」
「あ〜……その、なんだ……」
 二人の迫力に完全に負けて、クラウドさんが明後日の方を見ながら後ずさる。
 本当なら私が説明すべきなんだろうけど、しゃっくりを起こしてしまってて言葉が出てこない。


「お子様二人、落ち着け。そして人の話を聞け」


 妙に落ち着いた声で、シュリさんが淡々と話しかけた。
 子供達は、ギンッ!とシュリさんを睨んだけど、肝心のシュリさんはやっぱりどこまでもポーカーフェイス。
 そんな事には全く動じず、無表情のままこれまでの経緯を実に簡潔に説明してしまった。
 その間、子供達が口を挟む隙も全く与えない。
 結局、デンゼル君とマリンちゃんは、最後までシュリさんの話を聞く事となり、自分達がすっかり誤解している事を理解した。

「「ごめんなさい!!」」

 勢い良く頭を下げる子供達に、グリートさん達は苦笑しつつ「いやいや、誤解させたこっちが悪い」「本当に…さっきはごめんね?あとでティファさんにも謝るけど…本当に私ったら……いくら酔ってたからって…」と、口々に子供達へ逆に謝った。

 そんな子供達のやり取りを冷めた顔をしてみていたシュリさんが、ホンの一瞬……私の見間違いかもしれないけど……。


 うっすらと……笑った。


 でも、本当にそれは一瞬だった。
 私の視線に気付いたからなのか、それともやっぱり見間違いだったのか分からないけど、私に顔を向けた時にはいつものポーカーフェイスに戻ってた。


 料理を置いて、子供達が名残惜しそうにお店の手伝いに戻る。
 そうして、その時になってようやくしゃっくりも涙も止まった私に、ラナが今までのお詫びと言わんばかりに、いつも以上に笑顔全開で私に料理をとってくれたり、お酒を注いでくれたりしてくれた。
 グリートさんとライさんも、ラナに笑顔が戻った事でホッとしたのか、いつもと同じ様に寛いだ表情をしている。

 それを見て安心したのだろうか…?
 シュリさんは、クラウドさんと小声で一言二言話をしたと思ったら、ベッドから腰を上げた。


「では、申し訳ないがこれで失礼する」
「「「「え!?」」」」
 びっくりして見つめる私達に、シュリさんは「仕事が入ってるんだ。あと五分でエッジの記念碑前に行かないといけない」腕時計を見つめながらそう言った。

「エッジの記念碑……って、ここから走っても十分以上かかりますよ!?」
 びっくりする私に、ライさんが「ああ、小隊長殿なら大丈夫だよ」と柔らかい笑みを湛えながらゆっくりと立ち上がった。
 グリートさんとラナも立ち上がる。
 そして、そのまま踵を合わせて敬礼すると、
「「「ご無事のご帰還を」」」
 そう言って真剣な眼差しをシュリさんに向けた。
 それを受けるシュリさんも黙って軽く敬礼で返すと、「それじゃ」と、クラウドさんに会釈をし、最後に私を見て口を開いた。
「今夜は本当にありがとう。もしもまた会う事があったら、その時改めてお礼をさせて頂きます」
 そう言い残して、何と子供部屋の窓からヒラリと身を投げた。


 ギョッとして駆け寄ったけど、もうその時にはシュリさんの姿は影も形も見えなかった。
「小隊長殿の身体能力は桁外れなんだ」
 ライさんがそう言って、私の肩に手を置いた。
「でも、それでも未だに『小隊長』っていうのが俺には分からないんだよな」
 グリートさんの言葉に、
「多分、あの性格のせいで昇進出来ない…って言うか、絶対断ってるのよ」
 ラナがベッドに腰をかけながら飲み物に手を伸ばした。
「なんで?」
 首を傾げる私に、クラウドさんが隣に腰を下ろして溜め息を吐いた。


 キャッ!!
 ク、クラウドさんが私の隣に!!


「アイツは……人を信じようとしない…って言うか、何となく自分に寄せ付けないようにしてるんだ。それは分かっただろ?」
 クラウドさんの端整な顔をにボーっとなりながら、無言でコクコク頷く。
「アイツはさ…。多分背負ってるものが大き過ぎるんだ。ま、俺もリーブも何を背負ってるのか教えてもらってないからそれは分からないけど…。だから、それに極力誰かを巻き込まないようにしてる…。そのせいで、これ以上部下が増えるのを避けている……そんな感じだな」

 クラウドさんの言葉に、ラナが少しショックそうな、非難がましいような顔をした。
「それで……隊の中であんなにつっけんどんだって言うんですか…?」
「さぁ。俺にはアイツが隊の中でどんな風にしてるのか知らないからな。何とも言えないけど……。それでも、アイツはアイツなりに人の事を思いやれる人間だと思う…」
 そこで言葉を切って再び口を開く。
「色々背負ってる人間って……結構世の中にいるだろ?だから…別にあいつの事を好きになってやれとは言わないけど、理不尽な人間だとは思わないで欲しい」


 クラウドさんの言葉が、三人の隊員達の心に染み渡ったのが、聞かなくても分かった。



 結局その夜は、裏口から店を後にした。
 帰る途中、何となくいつもよりも黙りがちになる私達は、言葉数少なく夜の街を歩いていく。
 だって…やっぱり何となく『シュリさん』が気になって。

「小隊長殿が背負ってるものか…」
 ポツリとライさんが呟いた。
「何だ?お前、気になるのか?」
「え…うん、まぁね。それに、僕は元々あの人、嫌いじゃないんだ。まぁ、好き…って言うまででもないけど、尊敬してる」
「え〜!なんで!?」
 非難の声を上げるラナに、ライさんは苦笑した。
「だってさ。確かになに考えてるか分からないし、僕達の事を信頼してない…って言うか、近寄らせないように一線引いてるけど…。それでも僕達部下の事は物凄く気にかけてくれてるよ」
「さっぱり分かんない!」
 頬を膨らませるラナに、グリートさんが苦笑した。
「今回のお前の件、あれって小隊長殿だからこそ、良かったようなものだぞ?」
「なんで?」
「デンゼル君が言いかけてたこと…覚えてるか?」
 ライさんの言葉で、一番最初の方にデンゼル君が『確かその時……シュリの兄ちゃん……』って言いかけてた事を思い出した。
「あれさ。ラナがナンパ相手に二週間の怪我をさせたこと、上には内緒にしてくれてるんだぜ」
「え!?うそ!!」
 グリートさんの言葉に、ラナが目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。
「当たり前だよ、そうじゃなかったら一週間の『雑用係』なんかで済むはずないじゃないか」
 ライさんが苦笑して肩を竦める。
「それに、もしもこれが『サウール小隊長』だったら、確実に除隊命令出てると思わないか?」
「…………」
「だから、一週間の罰則くらい、良いんじゃない?」
 グリートさんとライさんにそう諭されて、ラナはようやく白旗を揚げた。
「あ〜、はいはい。私の負け。分かってるわよ…。本当は『小隊長』の嫌味くらい、有り難い処遇だったんだって」

 でもさ〜。
 あの人、全然私とか他の隊員の事を認めてないみたいな顔してるから……それで腹が立って、悔しかったんだ…。


 そう言ったラナは、私の大好きなラナの顔になってた。


「こうなったら、絶対にシュリ小隊長に認めてもらえるような隊員になってみせるわ!!」
「おお…」
「それでこそラナだよな」
「見てなさい!シュリ小隊長!!これからが勝負よ!!」


 満天の星空の元。
 ラナの決意を柔らかく綺羅星達が包み込んでいた。

 でもシュリさんは…きっと、ラナとグリートさん、それにライさんの事は認めてくれてると思うんだけど…。
 それは……内緒!
 今度はいつ会えるだろう…。
 今日初めて会ったシュリさんとは、きっとまた会えると思う。
 勿論、この『三人』と一緒に…ね!

 その日を楽しみに。
 私達はエッジの街をゆっくりと歩いて行った。



 あとがき

 はい。オリキャラ満載のお話でした。
 しかも…。
 シュリ……人気ないんですよね…WROの中で(汗)。
 まぁ、これは当初からマナフィッシュの頭の中で決定していた設定ですので……どうか大目に見てください。
 少なくとも、クラウドファミリーとリーブは彼を信頼してますから。

 いつか…シュリの目的のお話をかけたらなぁ…とも思いますが、それは予定がまだまだ立ってません。
 ダラダラと長くなりましたが、ここまで読んで下さってありがとうございましたm(__)m