My hero 7(中編)




 何とも言い難い重苦しい空気が私達のテーブルを支配する。
 グリートさんもライさんも、すっかりブルーモードに突入しているし…ラナはラナで、先ほどのデンゼル君の言葉の衝撃からまだ立ち直っていない…みたい。

 何か良く分からないけど……。
 きっと、今夜の『緊急召集』ってさっきデンゼル君が言ってた『シュリ』っていう上司の人の『愚痴吐き大会』なんだよね……?
 それなのに、『あんまりイヤな人じゃなかった』って言われたら……。
 そりゃあ、困るって言うか何て言うか。
 物凄く不快にもなるわよねぇ…。
 でもね…。
 私はその『シュリ』って人がどんな人か分かんないんだけど、さっきラナがこぼしてた愚痴を要約してみると…。

 1、ラナが大財閥のご令嬢という立場を利用しようとした。
 2、ラナがそのターゲットの相手に全治二週間の怪我を負わせた事に対してネチネチ嫌味を言った。
 3、ラナが嫌いな人物に『これからはそういった仕事は頼むことにする』と更なる嫌味を言った。
 4、バツとして一週間の雑用を言い渡された。
 5、無愛想で近寄りたくない人。
 6、結構若いけど、中身がおっさん…(?)。

 ってことなんだろうか……。

 ………。
 何だか激しくこの『上司』さんの事を間違えて認識してしまった気がするのは気のせいかな…。
 いや、誰がって私なんだけど…。
 でも、ラナが言ってた事って……こういう事だよね?
 ん〜〜、何か引っかかるんだけど……。
 普通……って言っても勿論何が普通なのか私は知らないけど、任務に失敗して…。
 しかも相手を全治二週間という怪我させておいて…。
 それで一週間の雑用って……結構……厚遇っていうか甘くない…罰則にしては?
 だから、ラナが言うほどそんなにイヤな人じゃない気がするんだけど…、ま、これは言わない方が良いよね?
 それにグリートさんもあんまり好きじゃないって言ってたし…。
 ライさんもそれに対して明確なフォローはなかったし…。
 やっぱりデンゼル君が言うよりは、一緒にいる時間が長いラナの印象の方が正しいのかも…。
 まぁ……私は一生会うことはないけどね(笑)。


「ま、まぁ……人それぞれってやつだよな」
 漸くグリートさんが気を取り直してライさんに強張った笑顔を向けた。
「そうだよね……うん。それにさ、この前の一件もやっぱり小隊長でないと任務は遂行出来なかっただろうし…」
 そう言って、ライさんがグリートさんに応えた瞬間、ライさんの顔が『しまった…』と言わんばかりに強張った。
 恐る恐る隣に座るラナに目を向けている。
 グリートさんも、『このバカ!』と口の動きだけでライさんに毒づきながら、恐々ラナに視線を移した。
 私は……。
 怖くてラナが見れない!!


 そんな私達を全く気にする事無く、セブンスヘブンは営業を続けていく。
 立ち代り、入れ替わり、お客さん達が店を後にしてはやって来る。
 そん中、私達は新しいメニューを頼む事無く、会話が弾む事もなく時間だけが経過している。
 正直言って、開店の早いお店にとっては私達みたいなお客は迷惑でしかないだろう。
 私は、何となくいづらくなってしまって誰にも相談せずに勝手にお勘定を済ませてしまおうかと席を立った。
 今夜は、両親からお小遣いを沢山貰っているし…。
 WROの給金だけでは三人とも辛いと思って…。(メールでラナが『WROの給金が少なくて…って愚痴ってた事があったの。まぁ、三人とも今までお金に不自由のない生活してたわけだから仕方ないのかもね…)
 という事で、今夜は私が奢る事に勝手に決めていた。


「ティファさん、お勘定お願いします」
 カウンターへ行ってコソッと囁くと、ティファさんは私の様子を見て察してくれたらしく、ニッコリ笑うとコソコソッとお勘定をカウンターの中で計算してくれた。
 その間も、私達のテーブルではラナを中心にどんよりとした空気が漂っている。
 賑やかな店内で、そこだけが一種の異次元のように見えて…。
 テーブルを離れて初めて分かったけど、かなり『浮いてる』その光景に、私は思わず苦笑いを浮かべた。

「はい、じゃあこれがお釣りね。ところで…忙しくて顔を出せなかったんだけど…何かあったの?」
 そっとお釣りを渡してくれながら、ティファさんが心配そうな顔を寄せてきた。

 うわ!
 本当に綺麗な顔!!
 もう、肌理の細かな肌に完璧に整った目鼻立ち…!!
 同性の私でも、そんなに顔を寄せられたらドキドキしちゃうよ〜〜!!!!

「リリーさん?」
 思わず目を逸らして胸に手を当てた私に、ティファさんの心配そうな声をかけてくれる。
「い、いえ!ごめんなさい…」
 エヘヘ〜〜…。
 しまりのない顔で笑って見せて、とりあえず深呼吸をひとつ。
「実はですねぇ…」
 私が今夜の『召集』の内容を話そうとした時、軽やかにドアベルが響き、新たなお客さんがやって来た。

「いらっしゃい……あ、おかえり、クラウド」

 ドッキーーーン!!!!

 ティファさんの笑顔とその言葉に、私の心臓が大きく跳ね上がる。
 振り返った先には、金色の癖のある髪を煌かせ、魔晄の瞳を真っ直ぐにティファさんに注いだ私の初恋の人。

 店内のお客さん達も、一瞬静かになってクラウドさんを見つめている。
 気軽に話しかける人もいれば、興味津々に見つめている人、そして………何故かガッカリして項垂れている人…。


 なんで……?


 首を捻る私の目の前では、忙しく働いていた子供達が顔を輝かせてクラウドさんの所へ駆けて行く後姿。
 そしてそのまま、しゃがみこんだクラウドさんに、
「おかえりなさい!!」
「おかえり、クラウド!!」
 と抱きついた。

 クラウドさんはそのまま片方ずつの腕で、軽々と子供達を抱き上げると、
「ただいま、二人共」
 と、子供達のおでこにキスを贈っている。


 きゃー!!!
 私にも……(///)。
 ううん、それはやっぱり無理。
 もしもされたら……そのままあの世に飛んで逝っちゃって帰って来られない気がする…。


 子供達を抱き上げたまま、様々な表情を浮かべるお客さん達の間をゆっくりと歩き、カウンターまでやって来たクラウドさんは、
「ただいま、ティファ」
 と、もうとろけそうな声音でティファさんにただいまの挨拶を口にする。
 そして、その後すぐに私に気付いてくれて、
「いらっしゃい、リリーさん。来てくれてたんだ」
 うっすらと笑みを浮かべてそう言ってくれた。


 もう……このまま死んでも良いかも……。


「は、はい!こんばんわ、お邪魔してます!」
 ガバリ、と勢い良く頭を下げた私は、ドッキドッキと激しく打ち付ける心臓に、中々頭を上げられない。
 もう…絶対に顔、真っ赤だよ。

「いや、そんなに畏まらなくても…」
 頭を下げた私に、何だか困ったようなクラウドさんの声がする。

「あ〜、そうですよね。あはは…」
 確かに、ガチガチに固まった私は他のお客さん達から見たら絶対に『変な子』だと思われるし、それに、心無い人が余計な詮索をするかもしれない。


 いや……もう既に何人かのお客さんが笑ってる…。
 あはは〜〜……。


 子供達を下ろしたクラウドさんは、グルリと店内を見渡して一つのテーブルでその視線を止めた。
 眉を顰めて私を見る。
「何かあったの?」
 クラウドさんの眉を顰めた原因は…。
 言うまでもなく私達のテーブルに座っている三人のWRO隊員の姿。
 未だにどんよりとした空気をその背に背負い、クラウドさんが帰った事にも気づいていない。

 ラナは…不機嫌。
 グリートさんは…何だか疲れた顔。
 ライさんは……なんか視線が宙を彷徨ってる……大丈夫…?


「なんか、ラナの姉ちゃんさ。シュリ兄ちゃんに怒られて腹立ててるんだよ」


 ゲッ!!!

 デンゼル君がなんでもないように実にさらりと真実を暴露してくれた。
「「「え?」」」
 驚いた顔をした三人のセブンスヘブンの住人さん達がテーブルを見て、その後当然のように私に視線を移す。

「怒られた…って、もしかしてこの前の…」
「ナンパされた件か?」
 ティファさんとクラウドさんが顔を見合わせて私に尋ねてくる。
 その二人の傍では、マリンちゃんが大きな目をキラキラ輝かせて興味津々に見つめてるし、デンゼル君は「絶対そうだって。だってそう言ってたもん、ラナ姉ちゃんが」と妙に自信満々に胸を逸らせてる…。


 マリンちゃん…。
 ダメだよ、そんな事に興味を持っちゃ…。
 大人には大人の『ジジョウ』というものがあるんだよ…。
 デンゼル君……キミはもう少し『トキとバアイ』を考えようね…。


「あ〜……まぁ……概ね(おおむね)その様なものです……」
 否定するわけにもいかず、かと言って大声で肯定出来る内容でもない為、私は明後日の方を見ながら言葉を濁した。

 すると、何故かクラウドさんが片手で口許を覆い「そうか…」と、困ったように呟いた。
 私は勿論、ティファさんと子供達も不思議そうにクラウドさんを見上げる。
 クラウドさんは大きく溜め息を吐くと、
「実はなぁ…」
 と、口を開いた。
 その時…。

 チリンチリン…。

 ドアベルの音が軽やかに店内に響き、新しいお客さんが来た事を知らせた。
 ティファさんと子供達が笑顔で一斉にドアを振り向く。

「「「いらっしゃ……あー!!」」」

 見事にはもったその声に、店内のお客さん達がギョッとする。
 それは、店に入って来たばかりのお客さんもそうだったと思う。
 でも、その男の人は僅かに眉を顰めただけ。
 どことなくクラウドさんに雰囲気が似ているその若い男の人は、怪訝そうな顔をしたまま一歩カウンターへ近付いた。
 その瞬間。


 ツカツカツカツカ……グイッ……バタン……。


 クラウドさんが何やら鬼気迫る形相でそのお客さんに半ば駆け出しそうな勢いで歩み寄り、無言で肩を引っ掴むと、そのまま有無を言わせず店の外に一緒に出てしまった…。

 唖然とその後姿を見送る店内のお客さん達とティファさん、子供達、そして…私…。


 なんかよく分からないけど……。
 なんとなく分かった気がする……。

 私はティファさんをチラリと見た。
 私の視線の意味に気付いたティファさんが、苦笑しつつコックリと頷く。

 あはは……やっぱり……。

 私はそっとラナ達が座っているテーブルを見た。
 そして……。
 クラウドさんの折角の行動が無駄だった事を知った。


 ラナが信じられないものを見た!!と、言わんばかりの顔をしてドアをジッと見つめている。
 グリートさんも、そしてライさんもその表情は……凍り付いていた。


 そりゃ…。
 ティファさんと子供達三人の声があれだけ大きく響き渡ったら、いくらなんでも気付くよね…。


 引き攣ったように笑うしかない私達の所へ、不意にフラフラとラナが立ち上がって、おぼつかない足取りでやって来た。

「ティファさん……今、来たの…もしかして……」
「え……あ〜、誰かしらね。クラウドの友達じゃないかしら…」


 ダメだよ、ティファさん…。
 顔、引き攣ってる。
 目、泳いでる。
 料理する手、何か空回りしてる。

 動揺してるの、バレバレですよ……。


 ふと気付くと、子供達はちゃっかり自分達の仕事に戻ってる。


 に、逃げたな……!
 私だって逃げたいのに……!!


「ティファさん…今の…」
 気付けば、グリートさんとライさんまでカウンターにやって来ていた。
 三人とも信じられないものを見たー!!って顔で言っている。

「あ〜、うん。ほら……クラウドのお友達……かな…?」

 ティファさん……。
 どうしてそこで『疑問系』なんですか…。
 いや、もう無理ですから…。
 もう全然、ごまかせてませんから…。
 ホラ…ラナが……普段物凄く知的美人でキリッとしたラナの顔が……。
 今は正視に耐えないくらい怖くなってますから…!!


「ハッキリ言って下さい!!」


 ラナがカウンターをバンッ!!!と叩いた。
 店内が重苦しい静寂に包まれる。
 普段なら絶対にそんな事しないのに、今のラナはただの酔っ払い。
 常識と非常識が分かってない。
 ラナの気迫に押されながらも、グリートさんは「やめろって、お前、飲みすぎだ」と、諌めながらティファさんと店内のお客さん達に頭を下げている。

 うん。
 何だかこういう時になんだけど、そんなグリートさんの姿、ラナの『お兄さん』って思っちゃう。

 ライさんもグリートさん同様、ラナを落ち着かせようと色々声をかけたり、テーブルに戻るよう促しつつティファさんとびっくりした顔をして見つめている店内のお客さん達に頭を下げていた。

 そんな二人の努力も空しく、酔っ払いのラナには全くその気苦労が伝わらない。
 お酒のせいか、はたまた興奮のせいか、真っ赤な顔をしてティファさんに詰め寄る。

「なんであんな『非常識』で『無愛想』で『人の感情を逆撫でする事にかけては天下一品の最低男』がここに来るんですか!?」


 ラナ…。
 大声でそんな事言うラナも…充分『非常識』だよ……。


「ラナ…。今はお前の方が『非常識』だ」
 グリートさんが私の心を読んだかのようにハッキリ・キッパリ言い切った。
 それに対して、ラナが物凄く怖い顔をしてギロッと睨む。
「兄さん!兄さんはあんな『極悪非道』の『冷血漢』の肩を持つの!?」
「ラナ……それは言い過ぎだよ…」
 ライさんが顔を引き攣らせながら声をかけた。

 そんな二人に、ラナは益々機嫌を悪くしてしまったようだ。
 眉間に思いっきりシワを寄せ、二人を睨みつける。


 ……ラナ。
 普段はあれだけ常識人なのに…。
 本当に今日のお酒は悪いお酒だね。
 そんなにあの『シュリ』っていう人にイヤなこと言われたんだね…。
 でもね。
 もう……。
 店内のお客さん達の視線で体中穴が開きそうなんだよ……私達…。

 大きな穴があったら躊躇う事無く飛び込むわ。
 私がそう思った時、

「ラナ・ノーブル二等兵。店内で大声を出すな。他の方々にご迷惑だ」

 何の感情も持たない飄々とした口調で、噂の『シュリ』その人がカウンター裏のドアから姿を現した。



 あとがき

 はい。
 もう……あとがき……書けません…(汗)。
 後編でまとめます……(再び逃避!)