My Home(後編)




「…………は?」

 あまりにも突拍子もない彼の言葉に、クラウドは思わず間抜けな声を出してしまった。
 もしも、クラウドを知っている者が誰か一人でもいたら、絶対にこの場を逃げ出したはずだ。
 しかし…やはり彼の事を知るものは只の一人も入るはずもなく、全員がこのやり取りを実に面白そうに見物している。
 ハッキリ言って…。
 この場にいる全員、自分の命の危険が迫っている事を全く感知していない、愚鈍な生命体だと言えよう…。

 クラウドが彼の言った言葉を理解するのには時間がかかった。
 今までに、そんな事を言われた事がないし、その手の話しは耳にした経験が余りにも少ない。(勿論、多くても困るのだが…。)

 クラウドが自分に吐き捨てられた台詞を理解するのに苦しんでいる間、これ幸いとその男は矢継ぎ早に言葉を叩き付けた。
「ハッキリ言って、この店はアンタみたいな趣味の男の来る店じゃないんだ。何なら、あんたみたいな趣味に会う店を紹介してやっても良い。その代わり、彼女を酷い目に合わせた侘びをきちんとしてもらおうか!」

 それらの暴言で漸く彼の言っている言葉の意味をクラウドが理解した時、事の成り行きを見守ってた他の客達にも、彼の考えが浸透してしまった。

 
 クラウドが……男にしか興味がない……という人種だということに…。


 どこの世界に、最愛の女性を心に抱いている男が、『男性にしか興味がない』と言われて喜ぶだろうか!?
 クラウドは慌てて口を開こうとするが、時既に遅し…。
「何だ…、だから私にも冷たい態度を取ったのね」
 赤い服を着た女が肩を竦め、蔑んだ目でクラウドを改めて眺めまわしたをきっかけに、他の客達が一斉にクラウドから遠ざかった。
 まるで、汚らわしい者を見るかのような眼差し…。
 クラウドはこの日、初めて心から怒りを感じた。

 ギンッと睨みつけながら、胸ポケットに手を突っ込む。
 そして、妙に勝ち誇った顔をしている青年の目の前までつかつか歩み寄ると、ギョッとして身構える青年の鼻先に、取り出したパスケースを広げた。
 そのパスケースには、輝く笑顔のティファと子供達、そして自分の写った家族の写真。
 そしてもう一枚…。
 ティファ一人だけが恥ずかしそうに微笑んでいる極上の写真が飾られていた。

 男の細い目が、最大限に見開かれる。

 ティファの極上の写真と、青い服の女性の媚びた笑顔…。
 一体どちらに軍配が上がるか…。
 そんなの…、わざわざ表現することもバカらしいほどの差。
 月とすっぽん、ダイヤの指輪とガラス球の指輪、ケーキと泥饅頭……。
 比べ始めたらキリがない。
 勝敗は目に見えている。

 ポカンと口を開けて、その写真を食い入るように見つめている青年を確認すると、これ以上見せるのは勿体無いと言わんばかりにサッとそれをポケットにしまいこむ。

「これが俺の家族と、……その…恋人の写真だ…」

 恋人の写真。
 そう言う時に、気恥ずかしさから少し言いよどんだが、そんな事に突っ込みを入れられる余裕は、青年にはなかった。
 最大限に口を目を開け、言葉をなくした彼の反応に、怒りを収め、代わりに幸福な優越感がクラウドの胸を温かくする。
 その様子を見ていた他の客達、とりわけ、赤い服と青い服を着た女達がパスケースの中身に強い関心を示し、男を押しのけるようにして押し合いへし合いクラウドを取り囲もうとするが、丁度会計が終わったとのマスターの言葉に、あっさりとクラウドは背を向けた。
 そして、勘定を済ませて一旦部屋に戻ると、クラウドは全ての荷物を持って再び酒場に下りてきた。
 酒場を通らないとこの宿屋から出られないのだ。

 もう、この宿に泊まる気などサラサラない。
 このままウータイまで戻って、ユフィのところにでも大人しく泊めて貰おう…そう決意したのだ。
 常の彼からは考えられない決断と言える…。

 酒場に戻ったクラウドを待っていたのは、先程の青年を中心に、何を見たのか聞き出そうと躍起になっている赤い服の女と青い服の女、そして、それを実に楽しそうに遠巻きに見学している下卑た笑いを顔に張り付かせた客達の姿だった。
 彼女らはクラウドを見ると、放心状態の青年を放り出して一気に詰め寄った。
「さっき、何を彼に見せたんですか!?」
「恋人…って仰ってましたけど…その人、私達よりも綺麗……だなんて言うんじゃないですよね!?
 女の自尊心にかけて、それだけは容認出来ない!
 そう物語っている血走った目に、クラウドは深い溜め息を吐いた。

『…ティファと張り合えると思ってるだなんて……身の程知らずだな…』

 内心でそう呟きながらも、再び胸ポケットに手を入れる。
 そして、再びパスケースを取り出すと、黙って彼女達に写真を見せた。
 二人の女は、青年同様、あんぐりと口を開けて食い入るようにティファの写真を凝視した。
 彼女達のその尋常ならざる様子に、他の客達が気にならないはずがない。
 コソコソッと彼女達の後ろから写真を覗き込み、

「「「「おおーーーー!?」」」」

 感嘆の声を漏らした。
 その客達の反応に、クラウドは『当然だ』と思いながらも幾らか気分を良くしたが、だからと言って宿に泊まる気はもうなかった。
 パタン…とパスケースを閉じると、黙って荷物を背負いなおし、出て行こうとした。
 そのクラウドに…。

「何よ……」

 女が震える声で呟いたのが聞こえる。
 その余りにも低い声音に、思わず振り返ると、嫉妬心にまみれた女二人が、わなわなと肩を震わせているではないか…。
 その形相は、以前ユフィに見せてもらったウータイ特産の『般若』という面にそっくりだ。

「何よ!そんな女!!どうせ、そんな純情そうな顔してても、アンタがいない間、どこかの男とよろしくやってるに決まってるわよ!!」


 プチッ……。


 クラウドの中で、何かが切れる音がする。
 しかし、彼は堪えた。
 相手は女性なのだ……一応…。
 そう…いくら『般若』の形相をしていても……女には間違いない……多分。
 女性に手を上げたなどとティファに知れたら…ましてや、ティファを蔑まれたからからだと彼女が知ったら…どんなにか悲しむか……。

『耐えろ…耐えろ、俺!あの旅の辛さに比べたら、こんな戯言くらい…』

 クラウドが必死に己の自制心を総動員し、衝動的に事を起こさないように耐えていたのに……。
 激昂と言うギリギリの崖っぷちに立たされていたクラウドの背中を、

「そうよ!大体このご時勢で、一人の女だけで満足出来るおめでたい男も、一人の男だけで満足できるお子様な女も、いやしないわよ!そんなバカ、アンタだけよ!!」
 バカな女が『ポン』と一押ししてくれた……。



 プッチーーーーン!!!!



 クラウドの中で、堪忍袋と言う人間の中にある目には見えない袋の緒が……ド派手に切れて跡形もなく散り散りになった。






「それで、ここに来たって言うの?バッカだねぇ。あそこの宿屋の評判って最悪なのにさ」
「…………」
「それにしても、良かったじゃん?壊した物、弁償しなくて済んだんだしさ」
「…………」
「それに、死人は出なかったんでしょ?あんたにしちゃ、上出来じゃないさ!」
「…………」
「これからは、大人しくあたしの所に泊まりに来ることだねぇ!」
「……そうする」

 あの後…。
 激昂したクラウドは、背にしていたバスターソードを抜き放つと、リミット技『画竜点睛』をぶっ放した。
 ユフィの言うように、奇跡的にも死者は出なかったが、宿屋も酒場も見る影がない程、崩壊してしまった…。(超究武神覇斬を繰り出していたら、確実に使者が出ていただろうが…)


 全ての建物を崩壊させ、夥しい(おびただしい)負傷者を出した惨劇の後、我に返ったクラウドにマスターは言った。
「お願いです、お願いです!!彼女達の非礼はお詫びします、ええ、心から!!そのお詫びとして、建物などの修理費、怪我の治療費は一切結構です、ええ…ですから、ですから…!!!どうか、もう二度と来ないで下さい、お願いします!!」

 他の客達も同様だった。
 皆が皆、平身低頭非礼を詫び、怪我の治療費は一切要らないと言い張った。
 そして、フェンリルで走り去るクラウドの背を、皆が合唱しながら見送ったのだった…。


「ま、良かったじゃん?だからこうしてあたしの家で美味しい物を食べられてるわけだしさ〜」
 すっかり気落ちしていつも以上に無口になっているクラウドを、ユフィはカラカラと笑いながら背を叩いた。
 いつもなら、こう言う時、調子に乗って更にからかうのだろうが、あまりにも疲弊しきっているクラウドに対して、そこまで彼女も鬼ではないようだ。
 ここに来る経緯をポツポツ口にするクラウドに、「ふ〜ん、アンタ、そこまでしてあたしに会いたくなかったんだ…」と、拗ねたように口を尖らせた以外は、絡む事無くうんうん、と頷いき、疲れ切った哀れな青年の晩酌に付き合った。
 そして、珍しく疲れ切ったクラウドを早めに解放してやると、干したばかりだという布団で寝かせてやったのだった。


 翌日。
 クラウドが昨夜の礼をユフィに述べると、ニヤニヤしながらお元気娘がフェンリルに跨った。
 嫌な予感がクラウドを襲う。
 そしてその予感通り、
「あたしも久しぶりにティファと子供達に会いたいからさ〜、乗っけてってv」
「…………」
 無表情ながらも、明らかに快く思っていない仲間に、ユフィはニヤニヤ笑いのまま、一つの袋を差し出した。
「あ、それからこれ」
 怪訝そうに受け取ると、なんと、中にはかなりのギルが入っている。
 目を見開くクラウドに、ユフィはニシシと笑った。
「アンタさ〜。ここのエンジニアにバカ正直にタイヤのお金、払ったって言ってたっしょ?んなのバカ正直に払うなんて、本物のバカだよ!ま、勿論仕入れがエッジに比べて上手くいかないけどさ、だからと言ってアンタが払った金額はぼったくりだっつうの!というわけで、取り返してあげたから、感謝しなよ!」
 胸を反らせたユフィに、クラウドは心底驚いた。
 そして、苦笑すると「ああ、すまない。助かった」
 と、彼にしては珍しくユフィに素直に礼を述べた。
「という訳でさ、あたしもエッジに連れてってよ!」
 一宿一飯の恩義に加え、ぼったくられた金まで取り返してくれた恩人を、断る理由があるはずもない。

 お元気過ぎる忍者娘を伴って帰る事くらい、昨夜の惨事に比べればどうって事はない上に、こうして色々世話を焼いてもらったのだ。。
 クラウドはユフィを後ろに乗せて、勢い良くエンジンを吹かせた。
「乗り物酔い起こして吐いたりするなよ」
「む〜…気にしてる事言うな!本当に吐いちゃうかもしれないじゃないか〜!」
「おいおい!!」
「あ、大丈夫!クラウドに掛からないように横向いて吐くから」
「……勘弁してくれ…」

 などなど、他愛ない会話を交わしつつ、予定通り出向となった船にも無事乗り込むと、そこで漸くクラウドはティファに電話をかけた。

『もしもし』
 愛しい人の声に、胸が一気に温かくなる。
「ああ、俺だ。予定通り船に乗れたから、今日の夕方には帰れると思う」
『本当!?良かったぁ。心配してたの、昨日の電話だと、クラウド、本当に疲れてるみたいだったから…』
 上辺だけではないその言葉に、自然と口許に笑みが浮かぶ。
「ああ…昨日はちょっと色々あったから…。それはまた帰って話すよ。ああ、それから、予定外な事があるんだが…」
 クラウドがユフィの事を説明しようとした時、横からサッと手が伸びたかと思うと、問題のお元気娘が、
「やっほー、ティファ〜!」
 と勝手に話をし始めた。
『あれ?ユフィ!?』
「そうそう!いつも元気なユフィちゃんだよ〜!クラウドと一緒にそっちに行くから、美味しいご飯、よろしくね〜!」
 言うだけ言うと、「はい」と携帯をクラウドに戻す。
 苦笑しながら再び携帯を耳に当てると、ティファの心地良い声が響いてきた。
『クラウド、じゃあ昨夜はユフィの所に泊まったの?』
「ああ、実はそうなんだ」
『へぇ、珍しいわね。今までなら極力避けてなかったっけ?』
 クスクスと笑う彼女に釣られて、クラウドも笑顔を見せる。
「ああ、その経緯もまた話すよ。ま、そう言う訳だから、すまないがよろしく頼む」
『はぁい、任せて!クラウドも楽しみに帰って来てね。美味しい物、沢山作っておくから』
 彼女の笑い声を耳に残し、携帯を閉じる。

 やっと帰れる…。

 今のクラウドは、昨日とは打って変わって穏やかな顔をしていた。
 しかし…。
 そのクラウドとユフィの余裕もあと数分間だけの事。
 襲い来る船酔いに、へらず口を叩く気力すらなく、甲板でグッタリとしている二人の姿を、同じ乗船客達が何人も目撃したらしい…。




 西日がエッジの街を彩る頃…。
 セブンスヘブンの店先では、小さな影が二つ、今か今かと通りの向こうに目を凝らしていた。
 やがて、その小さな影がピョンと飛び上がり、大きく手を振って駆け出した。

「おかえり、クラウド!!」
「クラウド〜!それにユフィ!!おかえり〜!!待ってたんだぞ!!」
「ああ、ただいま。デンゼル、マリン」
 駆け寄る可愛い子供達をそれぞれ片腕で抱き上げながらギュッと抱きしめる。
 子供達の匂いに、心からホッとしたクラウドを、ユフィがニヤニヤ笑いながら眺めていた。
「お〜お〜、クラウドったらすっかり良いパパさんだねぇ」
 ユフィの冷やかしも、昨夜の酒場の客達の冷やかしとは全く違う。
 心が和む温もりを感じさせるものだ。
 
「おかえりなさい、クラウド。それから、ユフィ、いらっしゃい」

 聞きたくて仕方なかった愛しい彼女の声に、クラウドは戸口へ顔を向けた。
 穏やかで温もり溢れる笑顔を湛え、ティファが静かに立っている。
 子供達をそっと下ろすと、ユフィと子供達の目の前だと言うのに、クラウドは思わずティファを抱きしめた。
 案の定、ティファは顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうに身を捩り(よじり)、ユフィは口笛、子供達はクスクスと笑ってそれを見守った。

「………クラウド?」
 あまりにも、いつもより長いく自分を抱きしめるクラウドに、ティファが心配そうに声をかける。
 彼女の心配そうな声音に、クラウドは身体を離すと、
「ただいま」
 穏やかな笑みを愛しい人に見せたのだった。


 やっぱり我が家が一番だ…。
 やっぱり家族が世界で一番最高だ…。
 やっぱり彼女が世界で一番…良い女だ!


 改めて幸せをかみ締めたクラウドに、子供達が飛びつき、ユフィが背を叩いてサッサと店内に入って行く。
 そして…。

 嬉しそうに頬を染めた彼女が、クラウドの手を取ると、家族は扉の向こうへと消えて行った。

 それは…。
 本当に幸福に満ちた、温かな家族の姿。




 あとがき
 はい。何とか終わりましたねぇ。
 えらく長くなっちゃいまして、申し訳ありません。
 本当は、もうちょこっと短めにする予定だったのですが、予定は未定…。

 ティファを恋人に持つクラウドが、他の軽い女に言い寄られてそれを男らしくバッサリ断る…ていうお話が書きたかったはず…何ですが……。
 あれれ〜…?
 出来上がったらこんなんになってるよ〜…(汗)。

 はぁ、文章力が欲しいなぁ。

 ここまでお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました!