「状況証拠であるそのMD。こちらで分析させてもらいたい」

 突然の言葉に、警察の科学班は騒然となった。






My road 6






「な…」
「そんなことになったら〜…またティファさんが…」

 僅かに怯んだ女数名がクラウドに毒を吹き込もうとする。
 だが、クラウドはそんなチンケな脅しに屈することはなかった。
 なにしろ、こちらは潔白なのだ。
 なにを恐れる必要が?

「ティファは潔白だ。きちんとした法的手段で戦い、勝つだけだ。そうすれば、ティファを面白おかしく追いかけている外の奴ら(マスコミ)も恥の上塗りになるだけだし、俺にとってもティファにとっても願ったり、叶ったりだ」

 ニッ…と笑うクラウドに、怯んでいた女達はまだ傲然途胸を張っている女達を見た。
 彼女達にも分かっているのだ。
 自分達の計画に綻びが生じることを。
 だが、おどおどし始めた女性達と違い、全く余裕の態度を崩さない女性達は顎をつんと逸らせて微笑を絶やさなかった。

『その豪胆さには敬服だな…』

 クラウドはそっと胸の中で呟いた。
 そのクラウドの呟きが聞こえたはずはないのだが、応えるように態度を崩さない女の1人が紅唇を開いた。

「そんな簡単に解決すると本当に思ってるんですか?」

 その言葉には自分達が勝利すると言う確固たる自信が含まれていた。

「当然だ」

 女を睨みながら答えたものの、クラウドには分からなかった。
 どう考えても彼女達は正当な法の裁きを受けると敗訴するのはほぼ確実だ。
 ティファが不法侵入した女達をセブンスヘブンから追い出した時、彼女達が地面に転がって青アザが出来てしまったことに対してはこちらが不利になるかもしれない。
 だが、そんなに大きな事柄として槍玉に挙げられる可能性は低いはず…。
 それなのに、彼女達の自信はどこから…?

 疑問に思ったことが顔に出たらしい。
 自信満々の女達のうち、もう1人が口を開いた。

「確かに私達も失礼な態度をとってしまったわ。それは謝罪します。でも、一般人を店から追い出す際に腕を掴んで引きずり、怪我をしないような対策を何も施されていない地面に突き飛ばされたのは事実」

「『英雄』という肩書きがある人間が、防御も受け身も習得していない一般人を突き飛ばした」

「世間様はどう感じるかしら…」

 クラウドは唇を引き結んだ。
 それこそがまさに心配していたこと。
 ティファがこれ以上、世間から誤解を受けて冷たい視線を浴びることになるのが何よりも恐ろしい。
 だが…。

「それがどうした?」

 クラウドの一言に、最後の最後まで傲然と胸を張っていた女達の表情がとうとう崩れた。
 驚きが顔に走った。
 その様子がクラウドにとって、暗い喜びをもたらすものだった。
 唇の片方を持ち上げ…笑う。

「世間がどう感じるか……ね」
『全く…、これ以上ティファを晒し者にするのは許しがたい。だが…』



「そんなもの、興味ないね」



 女達が息を飲んだ。
 クラウドがまさか、そういう態度に出るとは想定していなかった、と言わんばかりだ。
 それだけ、クラウドがティファを大事に思っていると知っていたのだろう。
 いや、それだけではなく、徹底的に調べ上げたに違いない。
 クラウドにとって、ティファは唯一頭が上がらない存在であり、大切に守りたい女性(ひと)なのだと…。

 勿論、彼女達の思っている通り、クラウドはティファを守りたいし、頭が上がらない。
 だが…。

『他人に言われると、なんでこうも落ち着けるんだろうな…』

 女達が、まさに自分の案じていることを言葉にしたことが、逆にクラウドの中でわだかまっていたものを綺麗さっぱり、払拭してくれたのだ。
 女達が踏んでいた『確かな脅迫になる事柄』である『ティファを世間の晒し者へ』という恐ろしい計画。
 だが、それを案じていたくせに、女達に言葉にされたことで、逆の発想が浮かんだ。

 つまり、外でひしめいているマスコミをこちらの味方につけるということを。
 そのためには、たった今、女達が示談として提示した条件をマスコミに証拠として突きつけるのが一番効果的だ。
 だがまぁ、当然そんな準備、クラウドはしていない。

『盗聴器…、用意して置けばよかったな…』

 少し残念に思わないでもない。
 当然だが、そんなものセブンスヘブンにもストライフデリバリーサービスにも常備しているはずもなく、入手するためにはリーブかユフィにお願いしなくてはならないだろう…。
 というわけで、昨日の今日の話だからどちらにしろ、盗聴器の準備などは間に合わなかったな……と、自分を慰めてみる。
 ついでに言うと、MDというものもこの店の中にはない。
 ティファは常にラジオを店内に流しているだけだし、クラウドは音楽を聴かない。

『今度からはウォークマンくらいは持っておくか…?』

 今後のことを考えてふとそう思いついた。
 だが、勿論こんなこと、再々起こってしまってはたまらないのだが…。

「本当にそれで良いんですね?」

 最終警告として聞こえるように低められた声音。
 クラウドの心は微塵も揺れなかった。

「好きにすれば良い。俺の気持ちは変わらない。ティファを守っていくのが俺の生きる道だ」

 挑戦的な笑みを浮かべたクラウドを前に、ある者は悔しそうに、ある者は自分達の計画が効かなかった衝撃によって顔を歪めた。

 用事は終わり。
 場の空気が自然とその流れになる。

 女達が交渉決裂した悔しさと、これから行われるであろう正当な法の裁きに不安を抱きながらクラウドに背を向けた。
 その足が止まる。
 クラウドもハッと目を見開いて振り向く。


「ティファ!」


 階段へ続く戸口に真っ青な顔をしたティファが、シエラに身体を支えられながら立っていた。
 後ろにはシドがオロオロしている。
 シエラの表情から見ると、階下に下りようとするティファを制し切れなかった…と言うのが分かった。

「ティファ、話はついたからベッドに」

 手を差し出しながら足早に近づいたクラウドを、ティファは激しく首を振って拒んだ。
 そして、クラウドの身体を回り込むようにして女達へ身を乗り出す。

「あの…、昨日はごめんなさい。カッとなってしまって……」
「ティファ!謝る必要は」
「本当にごめんなさい」

 クラウドの声を振り切って深々と頭を下げる。
 女達がその姿に、失っていた余裕を取り戻すのに時間はかからなかった。
 クラウドはティファの最敬礼をやめさせようとするが、彼女は頑固者だ。
 素直に言うことを聞いてくれない。

「あら、本当に悪かったと思ってるのかしら?」

 カッ!と目を怒りに燃やしてクラウドが振り返る。
 シドもシエラも同様だった。
 ティファの身体を気遣いながら、女達へ視線だけで殺せそうな怒りをぶつける。
 中にはその怒りに身を竦めた女もいたが、大半は平然と立っていた。
 折角上手く行きかけたと思われた事態が、またもやこう着状態に突入しそうになる。

 ティファは頭を下げたまま、
「もちろんです…」
 そう言おうとして…。

「う……」

 口元を覆うと、サッと身を翻して2階に駆け上がった。
 慌ててクラウドがその後を追う。
 次いでシエラも。

 残されたのは、ティファの変化に驚いている女達と、仲間を精神的にここまで追い詰めた女達への怒り心頭状態のシド。

 2階から、ティファが吐いている声が微かに聞こえてくる。
 ろくに食べていないので吐けるものと言えば大半は胃液だろうか…。

 そんなことを考えると、益々頭に血が上った。
 だがこれでもシドは『ジェノバ戦役の英雄』。
 見た目が短気そうなオヤジでも、彼だって忍耐力は人並み以上に持ちえているのだ。
 それに、彼には秘策があった。
 そのことを思い出して、なんとか『ティファの二の舞』をおかさないように自分自身を戒める。

「おら、もう話はないだろうが。とっとと帰んな」

 片手でシッシ、と汚いものでも追い払うかのような仕草をする。
 女達の目に怒りが宿ったが、蚊ほども痛みを感じない。

 女達は唇を強張らせながら勢い良くきびすを翻し、今度こそ本当に去っていった。


「へっ。これから楽しみにしてろよ」


 荒々しく閉まったドアに向かって、シドは挑戦的に笑った。


 *


「ティファ、大丈夫か?」

 ひとしきり吐いた後、グッタリとへたり込んだティファをクラウドは抱きかかえてベッドへ連れて行った。
 その後をシエラが心配そうに着いていく。
 クラウドの言葉に、ティファはゆっくりと首を振った。
 その目から涙が溢れている。
 クラウドの胸が抉られるような…痛々しい姿だった。

「ティファ…気にするな。ティファに非はない。正当な法の裁きで痛い目を見るのはあっちだ」

 宥めるように話すクラウドに、それでもティファはゆっくりと首を振った。
 振ったことにより、涙がハラハラと頬を伝う。
 クラウドは何度もティファの黒髪を撫でながら、途方に暮れたようにシエラを見た。
 シエラもすっかり困惑している。
 シエラが知っているティファ・ロックハートは、こんなにも弱々しい女性ではない。
 流石に今回のことでダメージを喰らったとしても、それにしては情緒不安定になりすぎでは…?

 と…。

 ピリリ、ピリリ、ピリリ。

 クラウドは顔を上げた。
 店の電話が鳴っているのだ。
 シエラに目でティファをお願いすると、そっとティファの額にキスを1つ落として足早に階下へ降りた。
 電話を取った時には、既にシドが女達を追い払っており、ホッとする。

「はい…」

 無愛想な声で電話に出る。
 ブスッとした表情が、驚きへ…、そして喜びへと変化していくのをシドはニヤニヤしながら見ていた。

「そうか、ありがとう、リーブ!」

 弾んだ声でクラウドは電話を切ると、シドへ振り返った。
 シドには既にどういうことが起きたのか分かっていたようで、ニヤッと笑うと親指を立て、
「やったな」
「あぁ」
 2人で笑いあった。

 そうして、改めてTVを見る。
 相変わらず、何か大事件が勃発したかのようにセブンスヘブンが取り上げられているが、急遽、そこでテロップが入った。


 ―【ティファ・ロックハート嬢を脅迫!?】―


 その文字を見た時、クラウドはようやっとティファの身の潔白が証明されたことを確信した。


 *


「彼女達が証拠として提示したMDですが、皆さんの予想通り、都合の良いように編集されていました」

 その日の晩。
 多忙な中、リーブが時間を割いてセブンスヘブンへやってきた。
 今回の騒動を解決するため、彼はWRO局長の肩書きをフル活用したのだ。
 リーブ自身が最も嫌っている行為である『肩書きの乱用』というやつなのだが、それを厭わずに行使したのは、一重に仲間のため…。

 クラウドは素直に感謝した。

「だがよ、警察だって編集されていないかどうか、ちゃんと検査するだろうが…?」

 シドが怪訝な顔つきでリーブを見る。
 女達がバカな真似に走った理由が分からないのだ。
 警察に証拠として提示したMDが、都合よく編集されたものだとバレた場合のリスクを考えなかったはずがない。
 リーブはシドの言わんとしている事をちゃんと汲み取った。

「えぇ、勿論警察の持っている技術は素晴らしいので都合の良いように改ざんされたものであるかどうか、すぐに分かります。ですが…」
「……?」

 首を傾げるクラウドとシド、シエラにリーブは溜め息を吐いた。

「警察の内部に彼女達の仲間がいたんですよ」
「「「 は!? 」」」
「彼女達から金を受け取って、今回の騒動に一役も二役も買って出たんです」
「「「 …… 」」」
「本当に嘆かわしい。ですが、こちら(WRO)でちゃんと検査して、ついでに警察の内情も調査したので、明日の朝には不正が発覚されたとTVやマスコミ関係者は大騒ぎするでしょうね」

 クラウドは大きな溜め息を吐いた。

 まったく、なんということだ。
 バカな女達はきっと、リーブがWRO局長という権威をかさにきて、警察内部の事情を探ることまでするとは思いもよらなかったに違いない。
 警察とWROは似ているようで似ていない。
 WROはあくまで民間での運営。
 警察は法に基づいた組織。
 その法に基づいた組織を民間の組織が探るとは…。
 もっとも、WROは既に民間レベルではなく、星全体のレベルにまでなっているわけだが…。

「ところで、ティファさんは大丈夫ですか?まだ起きてこられないほどに…?」

 心配そうな顔をするリーブに、クラウドの表情が曇った。

「まだ調子が悪い。今回のことでかなり神経的にダメージを受けたみたいだから…。スープを食べても胃が受け付けないみたいで…」

 暗い顔をするクラウドに、シエラも目を伏せた。
 この1日だけで、ティファはやつれてしまった。
 シドもリーブも、大切な仲間の憔悴しきった様子には胸が痛い。

「明日にでも病院に行こうと思ってる。とりあえず、点滴だけでもしてもらわないと…」
「そうですね。それが一番でしょう」
「俺様が送っていこうか?」

 あり難いその申し出を、クラウドはやんわりと断った。

「シドには悪いが、ウータイまで子供達を迎えに行ってやってくれないか?さっき電話したらかなり心配してたから」
「おう、まかせとけ」
「シエラさんにも本当に今回はご迷惑を…」
「まぁ!そんなこと言わないで。もっとお役に立てたらよかったんですけど…」
「いえ、充分です」

 ようやく和やかな雰囲気が辺りを包む。
 リーブは席を立つと、ドアまで見送りに出たクラウドに微笑んだ。

「大丈夫ですよ、ティファさんは強いですからね」
「あぁ」
「あ、それと念のため、明日、病院に行かれたら結果を教えて下さい。気になりますから」
「分かった」
「では、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。今日は本当にありがとう」

 クラウドの言葉を背に受け、温かい気持ちになりながらリーブはWRO本部へと戻っていった。

 そして、翌日。
 ちゃんと約束どおり、クラウドから携帯に連絡が入った。
 ティファの病院受診の結果報告。
 その思わぬ内容に、リーブは局長室で飛び上がった。







『ティファ、妊娠してたんだ!』






 携帯の向こうで、さぞ満面の笑みを浮かべているであろうクラウドに、リーブも破顔した。

 ようやっと仲間の元へ訪れてくれた幸福。
 それを喜ばずにいられようか!?

「おめでとう!!本当におめでとうございます!!今度、ベビー用品、お持ちしますね!」

 携帯を切った後も、暫くは興奮状態だった。
 きっと、今頃は赤いマントの仲間や、赤い獣の仲間にも伝わっているだろう。
 彼らは必ず、近日中にセブンスヘブンを訪れるはずだ。
 その時に自分も合流しよう。

「そのためには、この仕事を片付けないとね」

 リーブは笑った。
 山のような仕事でもなんでもこい!という気分だ。

 幸せそうに自分のお腹に手を当てているティファと、そんなティファの肩を抱いて、同じく幸せの絶頂にいるクラウドの姿を思い浮かべる。
 デンゼルとマリンが、大はしゃぎしながら、ティファのお腹に耳を当てている姿が目に浮かぶ。
 そして、そんな『家族』の姿を笑いながら見つめている仲間たちと自分の姿も…。

 そんな幸せな情景を思い浮かべ、リーブの心が浮き立った。

「さ、頑張りますか!」


 WRO局長の読みが当たり、セブンスヘブンに英雄達が勢ぞろいしたのは3日後。
 幸せ一杯で微笑み合い、見ているこちらが砂を吐きそうなほどの甘ったるい雰囲気だったが、それでもやっぱり嬉しくて仕方のない時間となったことは言うまでもない。


 さぁ、新しい門出をみんなと一緒に。
 自分の生きる道を真っ直ぐに見つめながら…。



 あとがき

 なんとか終わりましたね。
 ティファのおめでた話がどうしても書きたくて!!
 途中、卑猥な表現が出てしまったこと、お許し下さい。
 少しでもお暇つぶしになれば嬉しいです♪

 あぁ、それにしても公式でもティファご懐妊話し、作ってくれないかなぁ…。(← ありえない望み)

 はい、お付き合い下さってありがとうございました<(_ _)>