涙 9(完結)まだ死ねない!! 激痛の中、身を捩り迫る手裏剣の軌道からなんとか外れようとする。 しかし、遅すぎた。 どうあっても回避出来ないその距離に、ユフィは歯を食いしばって衝撃に備える。 が…。 鼓膜が破れるほどの轟音が2回上がると共に、目の前で手裏剣が木っ端微塵に粉砕した。 それが銃声だったことに気づいたのは、リューガが驚愕に目を見開いたままゆっくりとその身体を傾げ、ついに床へドオッ…と倒れたときだ。 信じられない目の前の光景に、ユフィが身を起こすと、 「大丈夫か?」 硝煙がまだ薄っすら上る銃を手に、ヴィンセントがそっと腕を貸した。 しかし、ユフィは倒れたリューガしか見えていない。 倒れた男の身体の下から、床一面に血溜まりが広がっていくのが薄暗い部屋の中でも見えた。 「ユフィ…?」 何も言わず、微かに震えるユフィにヴィンセントが心配そうな声で呼びかける。 「……ンタ…」 小さく震えた声は、身を寄せているのに何を言ったのかヴィンセントは聞き取ることが出来なかった。 満身創痍のユフィにヴィンセントが不安を募らせたその瞬間、ユフィはカッ!と目を見開き、ヴィンセントの胸倉を掴んだ。 「アンタが!!アンタがリューガを!!」 怒り、憎しみ、悲しみ、そして……大切なモノを奪われた苦痛。 それらをない交ぜにした憤怒の形相で掴みかかり、今しも仇を討たんとせんばかりの鬼気迫るユフィにヴィンセントは完全に気おされた。 しかし、それを止めたのはこの場にいたもう1人だった。 「違う、俺ですよユフィさん」 ヴィンセントの胸倉を掴んでいるユフィの手をそっと離させたのは、WROの若き中佐。 ユフィの怒りがヴィンセントからシュリへ移る。 ヴィンセントの腕を振り払い、傷だらけの自身の身体を全く厭わず、シュリに掴みかかる。 しかし、それを今度はヴィンセントが止めた。 「よせ、ユフィ!」 「離せヴィンセント!!よくも…よくも!!」 憎悪という狂気に駆られたユフィに、ヴィンセントは大いに動揺した。 しかし、シュリはユフィの激しい怒りを前に無抵抗で目の前にいた。 殴りたければ殴れ…と無言のうちに言っている。 「この人殺し!!絶対……絶対に許さないからな!!」 「ユフィ!!」 あまりの暴言に戸惑いながらもヴィンセントは叱咤するが、極度の興奮状態に陥っているユフィには届かない。 シュリはユフィとは対照的にどこまでもいつもの彼だった。 「えぇ、俺は人殺しです」 「よくもよくもよくも!!絶対、絶対に許さないからな!!」 「えぇ、許さなくていいです、俺のことなんか。でも」 「自分のことは赦してやって下さい」 ハッ…!と、ユフィは目を見開き、息を呑んだ。 ピタリ、と止まったユフィにシュリは続ける。 「ユフィさんが言う通り俺は人殺しです。任務と称し、何人も手にかけてきた。それに敵を排除することになんの躊躇いも無い。殺(や)らなければ俺や仲間、それに無関係の人間が殺(や)られてしまう。だから俺は殺すことになんの後悔も無いし、今、リューガ・ウヅキという男を撃ったことにも後悔は無い。でも…」 目を見開いたまま硬直するユフィに続ける。 「アナタは違う。アナタにとって、あの男はただの”敵”じゃなかった。自分の手でケリをつけると息巻いてたけど、実際アナタが自分の手であの男を仕留めていたら、この先アナタは絶対に後悔していたはずだ」 そんなことはない……と、唇を震わせながら弱々しく反論するユフィに、シュリははっきり首を横に振った。 「いや、違わない。本当はリューガ・ウヅキを生かしたかったと思っていたアナタが彼を自ら手にかけようと決意した理由はたった1つ。バルト准尉への自責の念だけだ」 キッパリ言い切ったシュリに、ユフィは言葉も無くただ弱々しく小さく首を振るだけだった。 シュリは容赦しなかった。 「自分の軽率な独断潜行によって瀕死の重傷を負ったバルト准尉への自責の念、それだけがアナタをここまで動かした。ウータイの長から話を聞いて尚、アナタの胸にあったのはリューガ・ウヅキとクレハ・サツキへの友愛以上の情だ。勿論、同じ一族出身ということで、同族の汚名は同族が晴らすという責務もあったはず。しかし、それだけでは恐らく、アナタは殺すところまで思わなかった」 シュリはフッ…と一息吐いた。 そして、力なく目を見開いたまま硬直するユフィに初めて微かに辛そうな目を向ける。 「バルト准尉が死んでいたなら、リューガ・ウヅキに止めを刺すチャンスをアナタにもう1度巡るようにサポートした。でも、彼は死んでない。助かったんだ。なら、彼が元気になったその時、その姿を見てアナタは幼馴染を手にかけたことを後悔しないか?絶対に後悔せず、”一族の汚名を晴らすことが出来た”と胸を張ることが出来るか?」 容赦の無い言葉の奔流。 普段、無口な彼にしては珍しいどころの問題ではない。 しかも、内容は酷薄だ。 心身ともにボロボロになっているユフィに向かってあまりに酷すぎる。 しかし、ヴィンセントは黙ってユフィの小さい身体を支えているだけで黙していた。 今、庇ってやることは簡単だ。 シュリに『黙れ』と言って、傷ついたユフィを優しく抱きしめてやれば良いのだから。 しかし、そうすることが本当にユフィのためになるかと自身に問うた結果、黙って見守ることを選んだ。 今、シュリがユフィに吐き出している言葉たちは、この先ユフィがユフィ・キサラギを取り戻すために必要な言葉であり、タイミングなのだ。 「アナタは優しすぎる。勿論、ジェノバ戦役の英雄として沢山の命を手にかけただろう。しかし、それは皆、アナタにとって”純粋な敵”だったはずだ。誰一人、アナタという人間を形成した深い関係を結んだ人間はいなかっただろう?」 ユフィは小さく震えながらただ黙っていた。 何か言い返してやりたかった。 しかし、何も言えない。 そう、全部シュリの言う通りだ。 リューガとクレハはユフィにとってとても大切な人間で、過去、一度は目の前からいなくなってしまったが、再び現れてくれた。 それが敵と言う形であったとしても、自分を憎んでいたとしても、それでも自分はどうしても憎めなかった。 憎めるだけの時間を彼らはユフィに与えてくれなかったのだから…。 リューガたちが世界中で犯した罪は知っている。 しかし、それをリューガたちが犯したという場面を己の目で見ていないユフィにとって、それはあまりにも”非現実的”だった。 頭で理解しても心で理解出来ていない状態だったのだ。 だから、シュリの言う通り、プライアデスが死んでいたらもっともっと、ことは簡単だった。 憎むことも出来ただろう。 しかし、プライアデスは生きている。 生きて、元気になると医師が保証してくれている。 ならば…。 ゆっくりゆっくり…うな垂れたユフィに、シュリは口を閉ざすと立ち上がり、背を向けた。 「憎むなら俺を。でも、アナタはこんなところで立ち止まってはいけない。ましてや…同族殺しなんかで手を汚すことなど、論外だ」 背を向けたままそう言い残すと、シュリは床に開いた穴から地下へと舞い降りて行った。 * 小さい村が宵闇の中、赤々とした炎に包まれている。 シエラ号で上空からその光景を見つめていたユフィの横顔は、言いようのない寂寞感を湛えており、仲間たちは誰も声をかけることが出来なかった。 地下施設に幽閉されていた子供たち34人、それに生き残った忍たち23人を収容した後、村に火を放った。 丸ごと燃やしてしまうことにクラウドたちは眉を顰めたが、村が事業として裏で営んでいた”麻薬”効果のある植物の繁殖を抑えるためと、世界にまだ散っていると思われるウータイの忍の亜流たちへ釘を刺す意味でも、リーブの決定に従うしかなかった。 自分の手でリューガたちを星に還せなかったことを、ユフィはまだ、自分の中でどうケリをつけて良いのか分からなかった。 せめて、リューガの遺体だけでも持ち帰ってウータイの村の端っこにでも埋葬してやりたかった。 しかし、心身ともに疲弊しきっていたユフィをヴィンセントが一足先にシエラ号に連れて行き、戻って来た時には男の遺体はなかった。 それに、クレハ・サツキもとうとう最後まで見つからないままだ。 「どこかで生きてるんだろうなぁ…」 シドがユフィに聞こえないよう声を抑えて呟くと、ナナキが「そうだよねぇ…」と暗い声で答えた。 ナナキの鼻でもクレハとリューガの跡を追うことが出来なかった。 村にはお香の匂いが漂っていたため、嗅覚の鋭いナナキの鼻は”バカ”になってしまっていたのだ。 「また…ユフィやウータイを狙うのかな…」 「さぁなぁ…」 「普通ならそう思うところだろうがよ、今回はこの先のこと、あんま考えたくはねぇなぁ…」 心配そうなナナキにシドはテーブルに顎をベッタリとくっつけながら気のない返事をしたが、バレットは困ったような声でガシガシと後頭部を掻きながら隣の部屋へ続くドアを見た。 「にしてもまさかなぁ、あんな置き土産、するとは思わねぇだろ、普通…」 盛大な溜め息をこぼしたバレットに、珍しく、ほんっとうに珍しく、ヴィンセントが「まったくだ…」と声に出して同意した。 その隣の部屋にいるティファとクラウド、それにシュリはと言うと…。 「おい、ティファ。ミルクってこれくらいの温度なのか?」 「ん〜…多分。人肌って聞いたことがあるし…」 「ティファさん、マリンを育てたのになんでそんな弱気なんですか」 「だって、マリンはもうミルクを飲む年じゃなかったもの!」 「あ、こらティファ!折角泣き止んでたのにまた泣き始めたじゃないか!」 「ご、ごめんなさい!!」 「…お2人とも、声が大きいです…」 「「……ごめんなさい」」 必死になって、生後数ヶ月と思しき双子の赤ん坊をあやしていた。 クラウドとティファがクレハを見失ったあの後。 2人は揃って小屋の中を隈なく探した。 そうして見つけてしまったのだ、この双子の赤ん坊と赤ん坊の世話に必要なもの一式、それに置手紙を。 差出人はクレハ・サツキ。 あて先はユフィ・キサラギ。 その置手紙はクラウドの手によってユフィへ渡されている。 「まさか…なぁ…」 「そうよねえ。まさか…ねぇ」 「「なんで、クレハを見つけずに赤ん坊を見つけちゃうわけ(だ)?」」 図らずも同じ言葉を口にしたクラウドとティファに、シュリは赤ん坊をあやしながら盛大な溜め息を吐いた。 ユフィは懐に入れていた封書を再び取り出した。 甲板に出ているので風が強いし暗いから読めないため広げはしないが、握るだけでクレハの温もりを感じられるような気がした。 読まずとももう暗記したその封書の中身を思い出しながら、どんどん小さくなっていく赤い光を見つめ続け、やがてそれが完全に見えなくなってからユフィは艦内へ入ると、ゆっくりゆっくり、クラウドたちのいる部屋へ向かった。 ―『ちっちゃなユフィへ』― まったく、あのちっちゃくて生意気なユフィがここまで大きくなっているとは思わなかったわ。 でも、そうよね。もうあれから8年も経つんだもんね。 3ヶ月前、ユフィに見つかったのが運の尽き。 この手紙を読んでいるということは、私もリューガも、とうとう死神の鎌に掴まったか、再び身を隠さなくてはならなくなったかのどっちかね。 まぁ仕方ないわ。 私たち”亜流”は、所詮陽の下を歩くことは出来ない。 それはもう宿命みたいなものよね。 でも、それをなんとか覆したくて足掻いてみたけど、やっぱりその方法は間違いだったんでしょうね。 子供を誘拐したり、洗脳教育するなんて…ねぇ、どう考えてもやり過ぎよね。 でも私にはそれを止めることが出来なかった。 リューガも私も、それに世界に散っていて今回集まった”亜流”の仲間たちも、ずっとウータイ本家を恨んで、それを糧として生きてきたんだもの、今さら変えられない。 でも。 すっごく勝手だって分かってるけど、ユフィがこの手紙を読んでいるということは、私たちは負けたということ。 敗者に残っているのは日陰の道ただ1つ。 私とリューガの子供にそんな道は歩ませたくない。 はいはい、分かってるわよ、すっごくすっごく勝手なことだって。 でも、誘拐した子供たちもユフィたちが助けちゃってるんでしょ? なら、あの子たちもすぐ元の生活に戻れるんだし、勘弁してよ。 洗脳するための”お香”だけど、あれね、私が新開発した”依存性の無い麻薬”なのよねぇ。(すごいでしょ?) だから、普通の生活に戻るに何の支障も無いはずよ。 ただちょっと、他の子供たちよりも身体能力がアップしているだろうけど、それはマイナスにはならないでしょ? ユフィ。 小さい頃、アナタが本当に嫌いだったわ。 単純で、バカみたいに真っ直ぐで。 姑息なことをしようとするくせに、根がバカ正直だから全然隠せてなくてバレバレで。 よくもまあ、こんな子がウータイの長の血を引く次期村長とは…って思ったものよ。 でも、それだけじゃなかった。 羨ましかった、本当に。 馬鹿みたいに無邪気に笑って、真っ直ぐぶつかれる子供らしい子供のユフィが。 恨みや妬みから無縁の時間を過ごしていたアナタが羨ましかった。 私もリューガも、物心着いたときから親に”亜流”としての苦しみを叩き込まれていたから、アナタが眩しかった。 私にもリューガにも無いものを沢山持っているユフィが羨ましかった。 そんなアナタにだからお願いするわ。 コノハとソウハ(両方男)をお願いね。 2人とも私とリューガに似て美形ですごい腕前の忍に育つこと間違いないわ。 後は子供らしい時間を伸び伸びと生きることが出来る環境だけが必要なの。 アナタなら出来るでしょ? ”亜流”の血を引いていようがそんなの関係なく、ウータイの忍として誇り高い人間に育てることが。 子供たちが大人になったとき、もしもまだ私が死なずにいたらこっそり見に行ってやるんだから。 その時、子供たちが私たちみたいになってたら絶対に許さないわよ? なぁんて、本当に私は勝手なことばかり言ってるわね。 ユフィ。 大嫌いだったユフィ。 でも、大好きだった私の妹(ユフィ)。 私にとってもリューガにとっても、アナタとの日々はかけがえの無い時間だった。 アナタがアナタらしくこれからも生きてくれると信じてる。 * 「…なにしてるのさ…」 ドアを開けた途端、赤ん坊の泣き叫ぶ声に歓迎されたユフィはげんなりとしながらクラウドたちを見た。 クラウドは哺乳瓶片手に、ティファとシュリはそれぞれ赤ん坊を抱っこしてオロオロとしている。 ユフィが入ってきたことでピタリ、と止まったシュリとティファに抗議するかのように、赤ん坊が更に激しく泣き叫んだ。 「もう、なにしてんだよぉ…」 唇を尖らせながら、ユフィは三角巾で吊っているために片腕しか仕えないと言うのに危なげなくシュリの腕から赤ん坊を抱き上げると、椅子に座り、膝を組んでその上に赤ん坊の半身を置いてバランスを取るとゆっくりあやし始めた。 「ほぉら、泣くな泣くな。ん?お腹空いたのか〜?うんうん、大丈夫大丈夫。すぐご飯あげるからなぁ〜」 そうしてキッ!とクラウドを睨み上げると「ほら、何してんのさ」と哺乳瓶を赤ん坊の口に含ませた。 あっという間に空になろうとする哺乳瓶に、クラウドとティファ、それにシュリまでもが目を丸くして見入る。 対照的にティファの腕の中にいる赤ん坊は火がついたように泣き叫んだ。 「ほらティファも。哺乳瓶、一本じゃないんでしょ?」 「う、そうだけど…。これくらいの温度で本当にいいの?」 「ん?どれ〜?うん、大丈夫大丈夫。ちょっと冷め気味かもだけど、許容範囲っしょ」 「…手馴れてるな…」 テキパキと指示を出し、あっという間に泣き叫ぶ赤ん坊をあやしてしまったユフィにクラウドが感心する。 ユフィは満腹になってウトウトし始めた赤ん坊を優しく見つめたまま、 「まぁね。村には赤ん坊なんてわんさかいるし」 口元に笑みを浮かべる。 そうして、ウトウトし始めた赤ん坊といまだにティファの腕でぐずっている赤ん坊を交換すると、同じようにあやしてミルクを飲ませ始めた。 「……この子達はウータイで育てるよ」 ポツリ、と呟くように言ったユフィに、クラウドたちは心配そうに眉を顰めた。 ユフィは顔を上げた。 その顔はどこかスッキリとしていて久しぶりにユフィらしい顔をしていた。 「大丈夫、村にいるのはアタシなんかよりも遥かにベテランのお母さんたちなんだ。村の皆で責任もって育てるよ」 「だが…」 「大丈夫だよ…。子供は少しも悪くないってこと、誰よりもウータイの人間は分かってる。それに…」 真っ直ぐシュリを見る。 シュリもまた、ユフィから目を逸らさなかった。 「もう、2度と同じ過ちは犯さない。リューガとクレハはアタシにとって大切な幼馴染だ。たとえ、2人がアタシのことを憎んでいても…」 「…はい」 「それに…それに……」 声が震える。 喉の奥から競り上がってくる嗚咽。 目がカァッと熱くなり、止め処なく溢れてくるものがユフィの頬を濡らす。 「アンタのことだって大切だ。みんな…みんな、アタシにとっては大切な仲間だ。シュリ、アンタは自分を恨んでいいって言ったけど、アンタを恨むことは絶対にない。クレハとリューガを恨めなかったのと同じように」 クラウドとティファは言葉もなく、強く胸を揺さぶられた。 シュリは黙ったまま、その表情からは何を感じているのかを知るのは難しい…。 「アンタの言ったことは正しい。アタシには…リューガたちを殺すなんて…無理だった…!」 ボロボロ泣きながらそう言ったユフィに、ティファはようやっと抱きしめてあげることが出来ることを知った。 躊躇わず、赤ん坊をクラウドに押し付けるとユフィの頭を胸に抱き寄せる。 声を上げてユフィは泣いた。 折角泣き止んだ赤ん坊が呼応するかのように泣き始める。 しかし、クラウドもシュリも、赤ん坊の泣き声に顔をしかめることなどなく、どこかホッとしたように目を見合わせた。 やっと。 ユフィの中で長い長い3ヶ月の戦いにケリがついたのだ。 泣きたくても泣いてしまえない辛さはどれほどだったろう? 今はただ、ようやく孤独な戦いから解放されたユフィを思い切り泣かせてやりたかった。 泣くことすら己に禁じ、自分らしさを殺して無理に非道な道へ足を踏み入れようとしたユフィ。 それをギリギリで阻止し、彼女にとっての正しい道へと軌道修正させてやることが出来たことをクラウドたちは心から喜んだ。 こっそり、ドアの影から部屋の中を伺っていたナナキたちが、そっと目尻を拭い、泣き笑いを浮かべながらそっと後にする。 ヴィンセントも薄っすら笑みを浮かべながら、それに気づいたクラウドと目を合わせると小さく頷いた。 そして。 「みなさん、本当にご苦労様でした!」 翌日の昼過ぎ。 子供たちを迎えに行く前にWRO本部へ立ち寄ったクラウドたちは、リーブをはじめ、WRO隊員たちの敬礼によって出迎えられた。 最前列に車椅子で参列しているプライアデスの姿に一同は度肝を抜くこととなった。 無理をするな!と怒るユフィに、大丈夫です、といつもの笑顔で応酬する青年隊員に、彼の上司が渋い顔で、 「当分、任務には着かせん!」 と厳命したり、それに対して、横暴だ!と珍しく拗ねた顔をするプライアデスに呆れた顔をしてユフィが笑いを誘われ、仲間たちは今度こそ大丈夫だ…と安堵した。 そうして。 時間はかかったが、今回の事件に加担していた協力者とも言える共犯者や世界に散っている”反ウータイ組織””反WRO組織”も捕虜とした忍たちから聞き出し、制圧していくこととなる。 もっとも、忍の鉄則である『敵に捕まったら情報が洩れる前に自害する』という掟を守り、自害した者も少なくなかったわけだが…。 一方で。 ウータイで双子の赤ん坊は大人気となり、里親募集に募集者が殺到して収拾がつかなくなったため、ゴドーが村長権限で自分の屋敷に引き取ることとなったとクラウドたちのところへ連絡が入ったのはそれから数日後のことだった。 十数年後、ウータイから凄腕の双子の忍が世に知られるようになる。 兄弟のその人となりは忍らしからぬ”情に篤い”性格だったという。 しかしそうなるまでの十数年、ウータイでは、村長の娘の跡を継ぐかのように破天荒なあばれっぷりに手を焼くこととなるが、それはまた別の物語である。 |