絶対に失いたくないものは誰だって持っている。 それは己の命だったり、お金だったり、時間だったり、若さだったり…。 生きている限り、絶対にそういう『かけがえのないもの』があるハズ。 その『かけがえのないもの』を、理不尽に奪われようとしたら、そのとき、人は必死になって戦うだろう。 己の全存在をかけて。 なにを失ったとしても…。(前編)胸が痛い。 それは、身体の限界以上にここ数日、酷使してきたからだけではない。 ズキズキ痛む胸は打ち消しても打ち消しても湧き上がってくる『恐怖』のせい。 (クラウド…) かの人の名を心の中で呟くと、新たな痛みが胸の奥底を抉るように走った。 思わず奥歯をかみ締める。 そっと右の二の腕に触れてきた手は、いつもはハチャメチャなお元気娘のもの。 視線を流さなくても、ユフィが心配でたまらない、と言わんばかりの顔をしているのが分かる。 ユフィが心配しているのは当然、クラウドのこと。 だが、同時に自分のことも心配してくれているのだ、とティファには分かっていた。 だから、見ない。 今、ユフィの張り裂けんばかりの表情を見ても、気休めにしかならない作り笑顔1つ浮かべてやることが出来ないから。 それに、彼女のその表情すら、今、この時は煩わしく感じてしまうだろう。 心優しい彼女を更に悲しみに突き落とすのは忍びないし、後々、クラウドが、 『あのときのティファ、超怖かった〜!クラウドのせいだかんな!』 などと詰られないためにも、ユフィも、ナナキも、バレットもシドもヴィンセントも見れない。 うっかり目が合ったりしたら、八つ当たりをしてしまいそうだった。 それくらい、今のティファは追い詰められていた。 今、ティファたちジェノバ戦役の英雄はミディール地帯にいくつも点在している孤島にその身を潜めていた。 孤島の多くが無人島なのだが、ティファたちが潜入した島には人の痕跡があった。 あった…というか『ある』と表現すべきか。 元々、金持ちが所有権を持つこの孤島は、数年前にその持ち主が没落して後、遺族は田舎過ぎるがゆえの交通の不便さ・熱帯雨林に覆われていることによる過ごしにくさゆえ、放置状態になっていた。 そう、持ち主はいるが放置孤島となっていたはずなのだ。 それが、いつの間にやらジャングルの真っ只中に豪勢な建物が建ち、その建物目掛けて怪しい物資が運び込まれている、という通報がWROへ入るまでになった。 無論、その通報を放置などしないWROは早速、正当な持ち主にコンタクトを取った。 持ち主は困惑した。 いくら放置していたとは言え、自分たちの領土に堂々と不法侵入している者が…、しかも恐らく非常に厄介で危険極まりないモノが集まっているのだから。 そのため、あっさりと持ち主たちは土地の権利書等々をWROに寄贈してしまった。 というわけで、この孤島は先日からWROの正式な所有地となっている。 無論、そんなことは不法侵入者たちにとって知らない話だろうし、知ったとしても『それがどうした?』と跳ね返されるだろう。 WROが大きな組織となっているのは世情に疎い者でも当然のこと、として知れ渡っていることではあるが、同時に敵も多い組織であるし、危険視されている組織でもある。 大きな武力を所持しているのだ、危険視されて当然だろう。 その『警戒心』を取り払い、本当に星のために必要な『組織=力』だと認識してもらうことが、リーブ…、WROにとって大きな課題となっていた。 その大きな問題を抱えながら必死に未来へ走っているWROへこのたび突きつけられた挑戦状。 それは、リーブを心の底からゾッとさせ、かつての旅の仲間へ緊急招集をかけることを躊躇わせず、同時にWRO上層部には震撼が走った大事件だった。 「ティファ…」 緊張感に耐えられなくなったのか、ユフィが小声で囁いてくる。 今のティファにはその囁き声ですら苛立ちを助長させるものでしかなかった。 だが、八つ当たりをするわけにはいかない、とかろうじて残っていた理性でなんとか苛立ちをぶつけないように押さえ込む。 黙ったまま視線を向けると、ユフィは怯えたようにビクッとした。 その姿に、焦燥感を抑えきれていなかった自分のことを棚上げにして、なんとか押しとどめていた苛立ちが理性を押しのけようと強く抗う。 (…見なかったら良かった) 思わずティファはそう思い、思ってしまった自分に苛立った。 なんて余裕がないんだろう…と自分で自分がイヤになる。 そっと深呼吸をして、 「なに、ユフィ?」 苛立ちがこれ以上にじみ出ないよう、努めて平静さを装う。 果たして成功したかどうかは、ユフィや周りで気配を殺している仲間、WRO隊員たちを見たら一目瞭然だ。 やはり、自分で思っている以上に余裕がないらしい。 ユフィは結局、「なんでもない…」と小さな声で呟いてそっと手を離し、俯いてしまった。 心の奥底ではチクリ、と申し訳なさが胸を突いたものの、それはすぐに他の感情で消えてしまった。 クラウドを想う張り裂けんばかりの感情で。 どうしてこんなことに? 何度も、何十回も考えた疑問は未だに明確な回答を得られず胸の中でわだかまっている。 ティファの心は、やり切れない思いに切り裂かれんばかりになっていた。 そして、そんな彼女をこの場にいる全員が実に正確に感じ取っていた。 ―『夕方には戻れそうだ。あと一件で終わるから』― 電話越しの声は嬉しそうだった。 ティファがクラウドとこの最後の言葉を交わしたのは、実に一週間も前になる。 帰宅予定の時刻を大幅に過ぎてもティファは、 『なにかあったのね…。道がぬかるんでるとか、モンスターに襲われたとか…』 そう自分に言い聞かせ、店の時計を何度も不安気に見つめた。 翌日になっても帰らないクラウドに、ティファは一睡も出来ないまま、大きく膨れ上がった不安を胸に、何度もクラウドへ電話をした。 そのたびに、電話はあの『家出』の頃のように留守電に切り替わった…。 それでもまだ、その時は我慢していたのだ。 仲間たちに変に心配かけることだけはしないように…と自分に言い聞かせ、必死に耐えた。 しかし、その日も結局クラウドの携帯が通じることはなかった。 心配し、不安がる子供たちを宥めながら、ティファも限界だった。 こんなに連絡がつかないのは何かおかしすぎる。 もしかしたら事件に巻き込まれたのかもしれない。 だが、ことを大きくすることは出来るだけ避けたかった。 自分たちは、望もうと望むまいと、『ジェノバ戦役の英雄』だ。 ちょっとしたことくらいで大騒ぎをしては、世の人たちの不安を煽ってしまう…。 その思いもあって、ティファは子供たちを宥めながら、『まだ大丈夫』、と仲間たちへの連絡を控えていた。 こう着状態。 その状況が急変したのは、クラウドの帰宅予定日から2日後。 不安がる子供たちを宥めることも、自身の抱えている不安を押し殺すのも限界に来たときだ。 「こんにちは、ティファさん」 突然店にやって来たのは、紫紺の瞳を持つ青年隊員。 セブンスヘブンに来るときはほとんど私服に着替えているというのに、その日は隊服のままプライアデスは現れた。 そうして、駆け寄った子供たちにニコニコ笑いながらこう言った。 「ごめんね、クラウドさんと連絡つかないでしょ?実は、急に僕たちの仕事をサポートしてもらうことになってね。妨害電波は飛んでるし、状況は中々好転しないしで連絡が出来なかったんだよ。あ、リーブ局長?局長も連絡するだけの余裕が全然なくてね。それに、電話をするにしても、どこで盗聴されてるから分からないから、中々皆に連絡出来なかったんだよ。本当にごめんね。それで、ようやっと手が空きそうになったから僕が代表してお知らせに来たわけ」 いつもの笑顔、立て板に水と言った言葉の数々。 子供たちの張り裂けんばかりの顔が一気に喜色づいた。 口々に、WROの対応の悪さを言いながら、クラウドが無事だということに喜び、笑った。 しかし、ティファは子供たちとは正反対だった。 プライアデスの言葉を聞いているうちにどんどん不安が恐怖へと摩り替わる。 青年の表情はウソくさくない。 完璧な微笑だ。 しかし、何かが違う、と直感した。 不自然すぎるプライアデスの報告に、ティファはとりあえず子供たちへ笑顔を向けた。 『ね、言ったとおりでしょ?クラウドは大丈夫なの』 『うん、ティファ良かったね!』 『本っ当にクラウドは俺たちに心配ばっかりかけるんだから。帰ったらお説教だな、うん!!』 デンゼルの『帰ったら』という言葉に、プライアデスの瞳がにわかにスッと細くなったのをティファは見逃さなかった。 青年は、ティファに見られたことを意識しただろうに、顔を背けることすらせず、むしろ真っ直ぐティファを見た。 ティファの心に警鐘が鳴った。 内心で身構える。 プライアデスはほんの一瞬、小さく頷いた。 すぐ申し訳なさそうな顔を作ると、子供たちへ向き直った。 「本当にごめんね。実はまだ解決してなくて…。今の状況じゃ、クラウドさんや他の英雄の皆さん全員に出てもらってもちょっと厳しいんだ」 ティファは足元が崩れ落ちる感覚に襲われた。 それはつまり、クラウドに起きている何かが『ジェノバ戦役の英雄全員』を要してもなお、それでは足りない大事件だということではないか。 察しの良い子供たちは、二つ返事でロケット村のシドの家に行くことを承諾した。 シドの家でシエラと少しの間、世話になる。 ロケット村へはプライアデスではない他の隊員が送ってくれることになった。 子供たちを完璧な作り笑顔で送り出しながら、ティファの胸は千切れんばかりだった。 『クラウドに、気をつけて…って言っててね?』 『怪我しないで早く帰ってきてくれな!』 子供たちの笑顔と、クラウドの安否。 それらが胸いっぱいに広がって、ティファを大きく揺さぶっていた…。 WRO本部に着くまでの道中、プライアデスから事件の発端からこっちの動きをティファは聞いた。 そうして、その話を聞いた瞬間から既に4日もの間、ティファの心にはドス赤黒い感情が支配し続けている。 それは、心優しい子供たちには絶対に聞かせられない感情であり、気心の知れた仲間たちにも打ち明けるには憚られる激情。 野生の獰猛な猛獣が持つに相応しいソレ。 (絶対に……!) 前を睨みながら何度も繰り返した言葉を胸中で呟く。 その言葉は既に呪いとなってティファを支配していた。 「全隊員、準備はいいか?」 耳にねじ込んだ小型マイクからリーブの声が聞こえた。 ざわり、と血が滾(たぎ)る。 待ちに待っていたその瞬間が訪れようとしているのだ、興奮するなという方が無理だろう。 にわかに殺気を膨らませたティファに、傍らのユフィはビクッと息を呑んだ。 反射的にティファへ手を伸ばす。 その手は反対側から身体を引かれることでその目的を達成しなかった。 抗議するかのようにユフィは自分の身体を引っ張ったヴィンセントを振り返った。 しかし、ひた…と見つめている紅玉の瞳に結局迫力負けすると黙って前を向いた。 (ヴィンセントも……今のティファみたいな時があったんだもんね…。今のティファの気持ちが一番分かるのはヴィンセントだよね…) 同性として、ティファと同じ立ち居地にいるユフィだが、それでも今のティファに最も近い者が誰かは分かっている。 ゆえに、その人物が押しとどめようとするなら、それに従うしかない。 (…まぁ、ティファが暴走してヤバイことになりそうだったら、アタシたちがフォローすれば良いだけだもんね) 努めて明るくそう思おうとして、ユフィは失敗した。 結局、この不利な局面が好転しているわけではないのだから…。 ―『賭けをしよう』― WRO局長のリーブの下に、突然ふざけたメールが届いたのは二週間前だった。 クラウドが行方をくらませた丁度一週間前である。 最初、リーブはあまり相手にしていなかった。 というのも、ちょっと現実のこととして受け止めるにはあまりに突拍子もないことだったからだ。 ―『おたくのお仲間を1人、掻っ攫うことにする。そうして、一週間監禁する。それにもしも成功したら…』― 賭けの内容と、相手が勝利したときの条件。 それは、リーブでなくとも一笑に付してしまうようなありえないこと、非常識なこと、非現実的なことだった。 だからリーブは、いつもの『悪戯メール』だと判断したのだ。 WROが創立してから徐々にこの手の類は増えている。 元・神羅社員からだったり、『非武装運動』の人間だったり、さまざまではあったのだが、そんな輩(やから)からのメールと内容が良く似ていた。 いちいち相手にしていても仕方なかったし、ちゃんとメールの送信先はシャルア博士に命じて突き止めていた。 だから、送信相手が特段注意すべき『力』も『組織』も持っていないことは既に報告を受けていて、その報告を受けた時点でリーブの思考から完全にシャットアウトされていた。 そうでもしなければ、超多忙を極めるWRO局長の務めは果たせない。 だからこそ招いてしまった今回の事件。 隊員と英雄たちの耳に、リーブの緊張した声が命令を下した。 「最優先事項はクラウド・ストライフさんの安全確保、その次は皆さんの命、更にその次が犯人たちの命です。では、作戦通りA班はJ班のサポート、及び状況の把握と退路の確保。J班、潜入せよ!」 リーブの言葉が終わるや否や、ティファは潜んでいた大木の陰から身を屈めたまま突進した。 獲物を狙う黒豹のような滑らかで力強い動きに、思わずユフィは見惚れ、出遅れた。 「ユフィ、行くぞ」 言い捨てるようにマントを翻しながら駆け出したヴィンセントにハッと我に返る。 慌てて走り出すも、既にティファは建造物の軒先に身を滑り込ませていた。 地面に爆発物などのトラップが仕掛けられているかもしれない、という懸念は彼女にはないらしい。 いつものティファからは考えられないその無鉄砲さに、いつの間にやらユフィの足元を走っていたナナキが緊張気味に呟いた。 「冗談じゃなくて、このまま長引いたらティファは自滅しちゃうね…」 「…うん」 いつもなら勝気に、 「そんなことないって、心配性だなぁ」 とか、 「ま、そん時はそん時じゃない?アタシたちが着いてるんだからダイジョブ、ダイジョブ」 と、軽く返すはずのユフィも、鬱々とした顔で頷いた。 「そのために、俺様たちがフォローに回るんだろうが!」 不意に、2人の背後から隠密行動に相応しくないがなり声が上がった。 言わずと知れた、義手の男。 その男の隣を疾走する槍使いは、 「やかましいぞ、バレット!」 小声で突っ込みながらニッ…、と2人に笑って見せた。 「ま、バレットの言うとおりだな。いつも冷静に俺たちのフォローをしてくれてるティファやクラウドへの日頃の恩返しってことだ。気張って頑張るぜ」 気休めだとしてもその言葉がとても温かい。 2人の心が高揚する。 ユフィはグッと奥歯をかみ締め、大きく息を吸うと気持ちを切り替えた。 「うん!」 ナナキも隻眼に闘気を宿すと無言のままスピードを上げた。 既に、ティファとヴィンセントは建物の中に入っていた。 * 一歩、建物の中に入った瞬間から狙いをつけられていることにティファは気づいていた。 ねっとりと全身を舐め回すような視線。 不快以外のなにものでもない。 視線は感じるのにどこから見られているのかが分からず、ティファはイライラと走る足に力をこめた。 結構なスピードで走っているというのに、不快な視線はピッタリとくっついている。 視線がどこから向けられているのか、そこまでは分からない。 分かるのは、ただ不快なことだけ。 イライラする。 すぐ傍を走っているヴィンセントも当然のようにその視線に気づいていた。 チラリ、と背後を窺う。 「尾けられてるな」 ティファは少し意外な気持ちで同じように視線を送ってみた。 しかし、相変わらず視界に捉えるのは豪勢な絵画と絨毯、半分しか明かりの灯っていない照明だけ。 窓はない。 広々とした廊下なのに窓がないせいで、なんとなく隔離された世界に感じてしまって息苦しい…。 「…本当に尾けられてる…?」 久しぶりに声を出してみると、思いのほか低く陰惨な声音をしていて、自分でもちょっとだけ驚く。 しかし、ヴィンセントは表情を変えずに小さく頷いた。 「斜め後方、3人だな」 「…ユフィたち…じゃないのね」 「あぁ、ユフィたちも無事に潜り込んだようだ、あちらは心配ないだろう」 「…え?」 「ん?」 「どうしてユフィたちじゃないって言い切れるの?」 ヴィンセントは少しスピードを緩めた。 ティファも釣られて足を緩める。 振り返るとヴィンセントが驚いた顔をしていたことに驚いた。 眉根を寄せて苛立たしげにヴィンセントを見る。 ヴィンセントはティファがそんな顔をする理由を問う前に、首を振った。 「ティファ、お前の気持ちはよく分かる。しかし、そこまで何も見えない、聞こえない状態では取り戻せるものも取り戻せないばかりか、失うことのほうが多い」 「なにが言いたいの」 聞き返しながら、ティファは彼の言わんとしていることを正確に汲み取った。 全力でその言葉を否定するべく怒りの矛先をヴィンセントに向けた。 誰がなんと言おうと、この任務から離れるつもりはないし、邪魔すると言うのなら例え仲間であっても全力で…! 危険な考えに思考が急速に傾く。 ヴィンセントは針のように目を細め、本人も気づかない間に殺気を向けているティファを見た。 にらみ合うことほんの数秒。 当人たちにとっては数分。 ふいに、ティファの耳に聞きなれた声が届いた。 『ティファさん、すぐ引き返して下さい』 「シュリ君!?」 思わぬタイミング、思わぬ人からの撤退命令に、ティファは声を抑えることも忘れてその名を呼んだ。 ヴィンセントは黙ったままだが、十中八九、シュリの声は彼にも聞こえている。 この場にいない全員が、このシュリの言葉を聞いているはずだ。 ティファにとって、それはどうでも良いことなのだが…。 「冗談じゃないわ。聞けない!」 『本当は我々としてもアナタの戦力は惜しいので、こんなことは言いたくないんですが仕方ないです』 「意味が分からない!そんなくだらないことでこれ以上時間をとるつもりもないわ。どうしてもダメだって言うなら、ここからは1人で勝手にやらせてもらう」 苛立ちはすぐ沸点に到達。 常の彼女から考えられないほどの挑戦的な台詞をはき捨てると、ティファは勢いよく走り出した。 いや、走り出そうとしてヴィンセントに二の腕を掴まれた。 ブンッ! 風を切る音。 彼女の細腕がヴィンセントの顔面目掛けて突っ切る。 紙一重でそれをよけると、ヴィンセントは反対の腕を掴もうとした。 ティファはそれも跳ね飛ばす。 ヴィンセントが取るだろう行動は予想の範疇だ。 ティファは今回の一件、仲間たちがクラウドを救い出す一部始終を傍観して待つつもりはなかった。 この手で彼を救い出す。 その一念でこの数日間、グツグツと滾(たぎ)る怒りを押さえ込んでいたのだ、誰にも邪魔させない。 「ティファ、聞け!」 「邪魔しないで!!」 ティファの回し蹴りをかろうじて避けたヴィンセントと、かろうじて避けられてしまったティファは広い廊下のど真ん中で一定の距離を開け、睨みあった。 完全に臨戦態勢だ。 ティファの瞳がギラギラと光るその様を、ヴィンセントは内心ゾッとする思いで見つめ返していた。 このまま、冷静さを失って暴走してしまうと、ティファまで大変なことになる…。 敵の思う壺だった…。 どうすればこの場を良い方向へ導けるのか。 寡黙が売りのような英雄は拙い言葉を紡ぐため、口を開いた。 「アナタがそんな状態だからですよ、ティファさん」 言ったのはヴィンセントではなく、WRO期待の若手隊員。 ティファとヴィンセントが振り返ると、そこにはこの場にいるべきではないはずのクセの有る黒髪を持つ青年隊員が立っていた。 |