「確か、誰も使ってない小屋が浜辺にあっただろ?あそこで暗くなるのを待ってから海に行くことにするわ」 「……そうか」 善は急げと言わんばかりにとっとと城から出ることを決めてしまったザックスに、出てからどうするのか訊ねると、いとも簡単にこんな答えが返ってきた。 考えていないようでちゃんと考えている兄に呆れるやら感心するやら…。 「なぁクラウド。頼みがあるんだ」 まだ意識の戻らないエアリスを背負ったザックスが悪戯っぽく笑う。 クラウドは視線だけで続きを促した。 ザックスは笑った。 「水路、作ってくれないか?城にさ」 意外なそのお願いに軽く目を瞬かせたクラウドは、すぐその言葉に込められている意味を理解した。 「あぁ、分かった。任せてくれ」 力強く頷いた弟に、ザックスはニッカリと太陽のように笑った。 人魚姫の恋 番外編 第二王子の恋 8(完結)とんでもない未来へと躊躇いなく足を踏み出したザックスに、クラウドは言いたいことを飲み込み、小さく微笑んで見送った。 衛兵の目を盗んでとっとと城から出て行ったザックスの俊敏な動きに感嘆してしまう。 クラウドとティファはザックスの部屋の窓辺に立っていた。 あっという間に小さく見えなくなってしまったザックスとエアリス。 クラウドの揺れる瞳を見上げてティファは口を開こうとし、結局何と言って良いのか分からず何も言わずに閉じた。 そんなティファにクラウドは気づいたのだろう、視線を窓から彼女に移し真っ直ぐ見つめた。 そう、まだ自分は肝心なことを彼女に伝えていない。 今こそ、彼女に伝えるときだ。 「ティファ」 片膝を着き、驚く彼女の左手を恭しくとるとその甲に口付けを1つ落とした。 「ティファ、あなたを愛してる、誰よりも…」 顔を上げてティファの瞳から目を逸らさず…、真っ直ぐに彼女へ愛を伝える。 薄茶色の瞳に透明の雫が盛り上がる。 「生涯かけてあなたを幸せにすると誓う。どうか、私と結婚して下さい」 彼女の頬に幾筋も涙が伝う。 「はい」 初めて見せた彼女のその笑みはまさに眩いほどに輝いていて、クラウドはティファの左手を握ったまま立ち上がるとその頬に手を伸ばさずにはいられなかった。 涙を親指の腹で拭うと、ティファの笑みがますます深くなった。 そうして、極々自然に顔を寄せると彼女はうっとりと目を閉じた。 重なった唇の感触に全身が歓喜に震えた。 「愛してる」 「わ…たしも…」 再び重なった唇を離したとき、2人は誰よりも幸福に満ち溢れた笑顔を交し合った。 * その後、当たり前だがバレンタイン城はちょっとした騒ぎになった。 ―『父上、母上。今日(こんにち)まで愛し、慈しみを持って育てて下さった大恩に報いぬまま、飛び出したる不孝、なにとぞご容赦を…。』― から始まる文面を残し、この国の次の王となるはずだった頼りがいのある第一王子が失踪してしまったのだから。 広間に集まった重臣たち、それを見下ろすかのように玉座に着いているヴィンセント。 物々しい雰囲気の中、クラウドは少し遠い目をして『王子』として椅子に腰掛けていた。 今日までずっと『本当の兄弟』として愛し、守ってくれた『兄』への恩返しをするため、絶対に『第一王子』の地位を手にして『時期国王』となり、後顧の憂いを絶ってみせなくてはならない彼にとって、この場こそが正念場だった。 ただでさえ、『第二王子』という地位を手にしている境遇を不満に思っている者たちが沢山いるのだ、これ以上、余計な敵を作るわけにはいかない。 (まぁ、どうせ反感また買っちゃうし、敵を作っちゃうんだろうけど…でも…もうそろそろ頑張らないと…な。今までのアイツに報いるためにも) ここが踏ん張りどころだ。 ティファの笑顔をそっと思い浮かべると、これからしようとしている大胆なことも成功させることが出来る気がした。 いや、気がする…だけでは意味がない、何が何でも成功させるのだ。 やかましい己の鼓動を宥めるべく、スーッと息を吸って……立つ。 喧々諤々(けんけんがくがく)、今後のことを口々に議論している重臣たちを前に沈痛な表情をしているヴィンセント王の前へゆっくりと歩みを進めた。 ヴィンセントのそんな顔を見たのは初めてで、チクリ…と胸に痛みが走る。 ザックスがエアリスと共に生きることを決意したとき、クラウドは全く止めなかったのだから今、養父にこんな顔をさせている責任は自分にもある…と感じた。 その顔を、更に深い痛みに歪ませてしまうかもしれないことに、改めて自分のしようとしていることに慄然とする。 だがしかし、逃げるわけにはいかない。 今まで散々逃げてきたのだ、王族として生きることから。 絶対にこの場から逃げない。 重臣の1人がクラウドに気づいて口を閉ざし、もう1人も気づいて視線を釘付けにする。 それが波紋のように広がってもう1人、もう1人と口を閉ざし、クラウドの動向を見やった。 広間の全員が第二王子の奇行に気づいて押し黙るのにさほど時間はかからなかった。 クラウドは全身に突き刺さる視線を感じながらも黙って王の前で膝を突き、頭を垂れた。 ヴィンセント王はただ黙ってクラウドを見つめている。 無数に感じる視線の中から特に強い力を感じる父の眼力。 声が震えないようしっかり腹に力を入れてクラウドは口を開いた。 「父上…、どうかご寛恕を持って兄上をお許しくださり、その気持ちをお汲み取り下さいませ」 予想通り、衝撃が走った重臣達のどよめきが耳を打つ。 「じょ、冗談じゃありませんぞ!?」 声を荒げたのがザックスに心酔している重臣グループの1人であることにクラウドはすぐ気づいた。 クラウドが正当な王位継承の血を引いていないことを日ごろから『取るに足らない存在』と小バカにしていた派閥だ。 クラウドの発言なぞ、到底認められないと噛み付いてくるのは目に見えていた。 黙ったままのクラウドに、ザックス派の重臣たちがますます声高に反対を主張する。 「国王!確かにクラウド殿下はこの国の第二王位継承者。しかし、ザックス殿下とは違い、正当な王族の血を引いてはおられません!そもそも、ザックス殿下は今、少しばかり目先のことにとらわれて正常な判断が出来ないだけのこと。すぐにいつもの聡明さを取り戻されましょう!それなのに、クラウド殿下のこの仰りようは分を超えておりまする!即刻、捜索隊を編成し、ザックス殿下をお探し申し上げることこそが最善でございます!!」 次々と賛成の声が上がる。 自分を認めない声が上がる中、クラウドは何も言わずに黙ったまま、膝をついてじっと待っていた。 一瞬の静けさはあっという間にそれまで以上の騒ぎに飲み込まれた。 ザックス派が圧倒的に多かったが、中にはクラウドを立てる第二王子派もおり、猛然と抗議するザックス派の言葉を遮るように甲高い声でヴィンセント王へクラウドの言を聞き入れるように訴える。 それでもクラウドはやはり黙ったままだった。 黙って待った。 重臣たちの言は確かに貴重だ。 しかしこの場合、クラウドが最も重視しなくてはならないのは重臣たちではなくこの国の絶対権力者、ヴィンセント。 養父が認めてくれなくては意味がない。 割れんばかりの怒声で溢れかえる中、待ちわびたヴィンセントの声が響いた。 「黙れ」 顔を真っ赤にしてがなり立てていた者ですら一瞬にして蒼白になるほどの気迫。 ヴィンセント王の静かな一言の中にこめられていた気迫に、一気に広間は静まり返った。 罵声を飲み込み、振り上げていた拳を引っ込め、昇りきっていた血圧を一気に下降させて臣下たちは固まった。 その真っ青になった臣下たちの前で、ヴィンセントは頭を垂れたままのクラウドをジッと見つめた。 見つめたまま、静かに口を開く。 「クラウド…。お前とザックスはどんな話をした?」 エアリスが飛び出してからの事を指しているとちゃんと分かったし、想定の範囲内の質問だった。 クラウドは最敬礼の姿勢のまま、ゆっくりと顔を上げた。 その落ち着いた…、決意を固めた紺碧の瞳がヴィンセントの紅玉の瞳と重なる。 「…城内に水路を作る約束をしました」 固唾を呑んで見守っていた臣下たちの耳に、その言葉はとても突飛に聞こえたが、ヴィンセント王は紅玉の瞳を僅かに揺らめかせて…。 「そうか」 そのたった一言だけを返すと、唖然とする臣下たちの前でスッと立ち上がった。 そして、跪いたままのクラウドを自らの手で立ち上がらせる。 「皆の者、この瞬間をもってザックスは廃嫡。代わりにこのクラウドを第一王位継承者にする」 誰も異を唱えることを許さない王の厳命。 言葉に出来ないほどの衝撃が走ったのに、誰一人『否』とも『是』とも言えない国王の覇気。 震えるようにして広間の全員が一斉に最敬礼を取る。 ザックス派の重臣たちも、王の宣言にあえなく屈し、深く頭を垂れるばかりだった。 その光景を前に、クラウドは息を呑んで目を見開くばかりだった。 まさか、こんなにあっさりと自分の言葉が聞き入れられるとは思っていなかったのだ。 呆けていると、肩をポン、と叩かれハッと顔を上げる。 「期待してる、クラウド」 「………ち、父上…」 そこにあった『父王』の優しい眼差し、暖かい声音。 これまでずっとザックスと変わらず愛され、期待されていたと感じることが出来る『父親』の存在。 うっかり泣きそうになる…。 この優しくて大きな人を今まで真正面から見ようとしなかった自分の不甲斐なさに呆れると共に、これまでの『親不孝』を全身全霊をもって詫びていこう…、そう強く思った。 グッとアゴを引き締めて決意も新たに強く頷いてみせると、今まで見せてくれたことのなかった柔らかな微笑みを向けられ、鼻の奥がツン…とした。 ザックスの想いを汲み取ってくれたこと。 自分の想いを汲み取ってもらえたこと。 初めて、『親子』になれた…という大きな喜び。 そして、大役を果たすために一歩を踏み出せたと言う喜びと別室で『行動』しているはずの初恋の人を思い、クラウドはとうとう堪えきれずに微笑んだ。 それからはクラウドもティファも大忙しだった。 何しろしなくてはならないことが山のようにある。 まずはザックスとティファの結婚式に参列してくれていた諸外国への謝罪と、改めて式を執り行う旨の書簡をしたため手配することから、国民への第一王子廃嫡とクラウドが新たな第一王位継承者になる旨の布告にザックスとの約束である城内への水路建造。 更に、ティファは1度シド王、シエラ王妃と共に自国に戻る必要があった。 ザックスが廃嫡になってしまったことに国の留守を守っていた重臣を筆頭に国全体が、 『ハイウィンド国を侮辱した』 と激怒し、戦争を起こしかねないほどの勢いであることが分かったからだ。 予想の範疇とは言え、国の怒りを治めなくてはならないティファを思うとクラウドは気がふれてしまいそうだった。 「大丈夫、きっと分かってくれるわ。それにシェルクも一緒に帰ってくれることになってるから」 ニッコリ笑って見送るクラウドへティファは言い切った。 彼女の隣では、無表情な王室付き魔法使いが軽く頷いている。 「大丈夫、ハイウィンド国の民たちは『人魚姫伝説』を心から愛していますから、ティファ王女が今度こそ幸せになると説明したら納得します」 ティファが古(いにしえ)の人魚姫の生まれ変わりであることも、自分自身がそのときの王子の生まれ変わりであることも知らないクラウドは、ティファと一緒になって首を傾げた。 「まぁ、心配いらないよ。大丈夫大丈夫」 シェルクの足元でそう言ったナナキに、クラウドはそのとき初めてナナキがしゃべったのを聞いてたいそう驚いた…。 小さくなるティファたちの馬車を見送っていたクラウドに、シャルアがそっと近づいた。 見送っている国王達や重臣達に聞こえないよう、小声で囁く。 「やれば出来るじゃない」 「……なにが…」 ふふん、と笑い、白衣の美女は少し拗ねた顔をするクラウドを一瞥した。 「根性、出そうと思ったら出せたじゃない」 「……」 「ま、それくらいはしてもらわないとね。可愛い従姉妹をお嫁にって望んでるんだから」 「まぁ…確かに…」 ティファがティナとしてエアリスの隣にいたときの失態からこっち、シャルアはクラウドをことさら無視していた。 それが、こうして傍に来て言葉をくれた。 クラウドのことを認めてくれた証だろう。 そう思うと、やはり嬉しく感じてしまう。 シャルアは満足そうにニンマリ笑うと、「そんな殿下にご褒美があるんだよねぇ」と囁いた。 視線を馬車が消えた道の向こうからシャルアに移し小首を傾げると、博士はチョイチョイ、と人差し指でクラウドに顔を寄せるようジェスチャーする。 怪訝そうに少し顔を寄せると、博士は唇を寄せた。 「アンタの悩みの種だった伯母さん、お抱え占い師のハイデッカーと一緒に恐喝罪でコスタに飛ばしてあげたから」 「え!?」 驚き目を見開くクラウドに、彼女は得意そうに笑った。 「王妃様にこのことがバレるのは時間の問題だとは思うけど、もう暫くは内緒にしてあげましょ。ザックス殿下のこともあるし、クラウド殿下の結婚式やらなんやらで大忙しだからね」 「…いつの間に…」 「ふふん、私を誰だと思ってるの?人脈だけで言ったらザックス王子よりもうんと広いのよ、私は」 言外にクラウドの人脈なんか物の数に入らない、と言っている。 クラウドはちょっぴり苦笑いを浮かべたが、すぐ真顔になるとシャルアへ深々と頭を下げた。 クラウドやルクレツィアでは少しばかり行動するには問題があった親族関係のゴタゴタを片付けてくれた彼女への感謝の気持ちからだった。 シャルアは頭を下げたクラウドに目を細めた。 「本当に…急にイイ男になったじゃない」 博士のその言葉に、クラウドははにかんだように微笑んだのだった。 それから数日後。 ハイウィンド国の物々しい混乱は、シェルクやナナキの言ったとおり、あっという間に平定されたとティファから連絡を受けた。 父王と共に国内を廻り、ティファは自ら今回の婚礼の破談と新たな婚姻を心から望んでいることを国民に伝え歩いた、と手紙にはあった。 彼女の実直な性格は幼い頃から変わっていない。 そのことをこの数日間、手紙や伝え来る噂によって知るにつれ、クラウドはますますティファへの想いが深くなるのだった。 彼女の丁寧な文字を一文字一文字目で追いながら自然と口元が綻んでくる。 そうして、クラウドは無骨な手で懸命に彼女へ返事を書くのだ。 自分がどれだけ彼女を想っているのか。 エアリスの傍にいた『ティナ』を警戒したそのいきさつである『メイド事件』もちゃんと記して、改めて謝罪をしたのは一番最初の手紙の返事でだった。 今回は何を書こう?と、ペンを止めて空白の多い便箋を睨む。 そのクラウドの足元が微かに振動を伝えてきた。 今、城内では急ピッチで水路が作られていた。 その工事の音が振動と共に伝わってくる。 それは、クラウドが新たな一歩を踏み出した音だった。 「…ティファ、もうすぐだな」 微かに頬を緩め、クラウドは窓の外を見た。 吸い込まれそうな青空に綿毛のような雲が浮いている。 それはそれは、美しい晴天の空。 兄に、そして愛しい人に立てた誓いを違わないために全身全霊を賭けると、改めて己に誓わせるような、そんな大自然の力に溢れていた。 そうして…。 「クラウド!!」 今、クラウドは新たな人生の岐路に立っている。 国を背負い、愛しい人の人生を背負い、そして己の人生に責任を持って前を見据えて生きる岐路に。 その門出の日に、出来たばかりの水路を使って現れたのは、新しい生き方を見事手にした自慢の兄。 「兄上」 顔を綻ばせるとザックスは少し驚いた顔をして、破顔した。 「おお、馬子にも衣装じゃないか!」 「うるさい。……久しぶりだな、兄上」 「おう」 「エアリスも」 「ふふ、カッコいいわよ、クラウド」 「おいおいおい、夫の前で他の男を褒めるか?」 「あら、ヤキモチ?」 「ふん」 目の前で仲良く夫婦漫才を始めた兄夫婦に目を細める。 シェルクからはザックスが見事、エアリスの夫の座を手にした事は聞いていた。 しかし、慣れない海底世界で本当に大丈夫なのか…と案じていたのだが、杞憂に終わってくれたことにホッとする。 そんな兄夫婦のやり取りを目を細めて見守る両親の温かな眼差しに心が温かくなる。 ヴィンセントとルクレツィアの愛情を、この一ヶ月で素直に受け止められるようになっていたからなお更だ。 「お時間でございます」 礼拝堂。 厳かなオルガンの音色に誘われ、クラウドの最愛の人が父王と腕を組んで現れた。 その美しい花嫁の姿に参列者からは感嘆のため息が洩れ、クラウドは意識の全てを引き寄せられた。 誓いの言葉。 誓いの口付け。 それらが滞りなく終わり、司祭による夫婦の宣言がなされた瞬間、会堂は大喝采に震えた。 「幸せになれよ、クラウド!」 「素敵よ、クラウド王子、ティファ王女〜!」 兄夫婦の祝福の声が胸に響く。 歓喜のあまり、涙をこぼした花嫁をそっと抱き寄せ、その涙をハンカチで拭うとクラウドはそっと顔を寄せて口付けを贈った。 歓声が一際大きくなる。 ヴィンセント王も、ルクレツィア王妃も、シド王、シエラ王妃、シャルア博士、シェルク魔法使いその他、参列者が微笑み合い、新たな夫婦の門出を祝った。 あの幼い頃、彼女がくれた約束が唐突に胸に蘇った。 心が吸い込まれそうな見事な満月の夜の約束を。 ―『ねぇ、クラウド。きっと良いことあるよ』― ―『みんな、クラウドのこと心配してるんだよ』― ―『みんな…一緒にいてくれるよ』― ―『私もいるよ』― そうだな…、これからはずっと一緒にいられるな。 父上も、母上も…、博士や国民……それに、ティファと一緒に。 そう心の中で呟くと、まるで聞こえたかのようにティファが涙でキラキラ光る瞳を向け、嬉しそうに微笑んだ。 愛しい人の微笑みにクラウドも花が綻ぶように微笑んだ。 第二王子の初めて見せたその満面の笑みに、結婚式は感動と興奮に包み込まれた。 やがて両国の結婚によって2つの国は長き平和の恩恵に預かることとなる。 更に時が過ぎ、城に作られた水路は陸に生きる弟と海に生きることを選んだ兄の血を引く子供たちによってその存在理由を存分に発揮することになった。 「…また来たのか?」 「だ〜って叔父上〜!母上が怒るんだも〜ん!!」 「エアリスを怒らせるなってあれほど言ってるのに…」 「叔父さま、お兄様にそんなこと言っても無理ですわ」 「……誰に似たんだ……」 「あ〜!来た来たー!」 「あしょぶ、あしょぶ(遊ぶ、遊ぶ)」 「アナタたち、この前溺れかけたばっかりでしょう…?」 「母上〜、浮き輪、浮き輪〜」 「うきあ、うきあ(浮き輪、浮き輪)」 「クラウド、どうしよう…」 「…ティファ、認めないでくれ。…2人とも、頼むから陸で遊んでくれ」 「父上と母上が来る前に行くぞ〜!」 「お父様とお母様がその前に来る方に今日のおやつ、賭けますわ」 「賭け事するんじゃない」 「ゲッ!父上!!」 「はい、ワタクシの勝ちね」 クラウドとザックスは子供たちに呆れながらも目を細め、笑い合う。 選び取った生きる道は違えども、手にした幸せは間違いなく確かなもの。 何者にも奪われることがないよう、決意を新たに前を向く。 陸も海も、今日も幸せが満ちていた。 あとがき 人魚姫番外編、これにて完結です。 うわ〜、終わった〜! クラウドが最後、生まれ変わったかのようにかっこよくなりましたが(笑)いかがでしたでしょうか? 1つ吹っ切れたら滅茶苦茶強くなると思うんですよね、彼は。 もっと甘くしてやりたかった!と思わないでもないですが、これ以上甘くしたら胸焼けしそうだったのでやめました(苦笑) 人魚姫パロ本編ではザクエア色をガンガンに出したので、番外編は文字通り『クラウドの恋』に重点を置いて見ましたが……ど、どうだったかしら、まだ不十分だったかしら…(^^;) ギリギリ長くなりすぎないように終わらせたつもりですが、それでもやっぱり長かったですね。 ここまでお付き合い下さって本当にありがとうございました〜♪ |