「やっぱり基本は『指輪』を贈ることか…?」
「そう…だと思うが…」
「ん〜〜…それだと困ったなぁ…、俺、死んでるから指輪買えないし…。そもそも、ライフストリームに指輪売ってるところなんかないしなぁ…」
「…だろうな…、あったらあったでビックリだが…」
「だよなぁ…。どうしよう…」
「ようは気持ちじゃないのか?」
「お?お前、えらくまともなこと言うじゃないか」
「…俺はいつだってまともだ」
「なに言ってる。いつまでもズルズル引きずってたくせに」
「そ、それとコレとは関係ないだろ?」
「…まぁな…」
「……」

「「 はぁ…… 」」

 セブンスヘブンではちょっとしたトラブルが起こっているというのに、教会ではバカみたいなやり取りが続いていた。






汚名返上!(後編)







(どうしよう…)

 エアリスは真剣に困っていた。
 いや、『真剣に困る』という表現はちょっとおかしいかもしれないが、それでもエアリスにとって目の前で妙な方向で落ち込んでいるティファは本気で困った状態だった。
 なにしろ…。

(あ〜〜…本当にどうしよ……)

 自分が原因なのだから、困らないはずがない。
 大事な友達で仲間のティファ。
 そのティファをいつまでもズルズルと『そのまま』にしていたクラウドに心底腹が立った。
 だから、頭を冷やさせてティファへの決意をしっかりと固めてもらうために教会に閉じ込めたのに、ここまでティファが勘違いしてくれるとは!

(大体、あそこまで『ティファのこと大好き』って態度なのに、なんでクラウドが私に惹かれてるって思うわけ…?)

 どこまで自分に自信のないカップルなんだろう…。
 呆れるというか…なんと言うか…。

(…いっそのこと、クラウド呼んじゃう…?)

 なんとも他力本願なことが脳裏をよぎった。
 しかしこの場合、それが一番効果的な気がした。
 そもそも、ティファがこんな風にクルクルと様々な感情に翻弄されたのはクラウドがはっきりした決意を固めないせいだ。

(そうよ、ぜ〜〜んぶクラウドのせいよ!大体、『家出した自分が本当に結婚してもティファを支えられるのか』とか『自分ばっかりティファに支えてもらって…救ってもらっているのにこんな自分がティファを幸せに出来るんだろうか?』とかとか、もうズルズル言ってるからこんなことになるのよ!!)

 もしも…、もしもエアリスの心を読める人間がここにいたら、
『うぉおおい!!!』
 と、激しい突込みを入れたことだろう…。
 だが、それくらいエアリスも切羽詰っていた。
 ティファを大事に思う気持ちはクラウドに負けていない、と自称しているくらいなのに、クラウドと同じくらいティファを傷つけたとあっては元も子もないではないか。

 と、そこでエアリスはピンッ!ときた。
 落ち込んでいるティファの肩をガシッと掴むと驚いた顔をしている彼女に向かって満面の笑みを見せた。

「ティファが勘違いしているって教えてあげるわ」
「へ…?」
「もういい加減に頭も冷えて、決心も固まっているはず!」
「…なんの話し…?」
「ふふふ、百聞は一見にしかず!善は急げ!」
「え?え!?」
「さぁ、行くわよティファ!!」
「え!?どこに!?!?」

 その疑問に答えることなく、エアリスはティファをギュッと抱きしめて飛び上がった。


 *


「なぁ…本当に出してくれないか?」
「だ〜か〜ら。俺は今回エアリスの味方なわけ。だから、エアリスが出さない!って言ってる間は出してやれない」
「…なんでエアリスの味方なんだよ」
「そりゃ、俺がエアリスに惚れてるからに決まってるだろ?」
「…そりゃ、ご馳走様なことだ」
「お前も俺くらいに『ティファが誰よりも大事だー!』とか『ティファをこの世で一番愛してるー!』とか素で言えるようになれよ」
「なれるか!!」
「だったら、いつまで経ってもエアリスは出してくれないぞ…。多分、餓死することになっても」
「……不吉なこと言うな…」
「だって本当のことだもんね〜」
「…あんたがそんな風に言っても可愛くない」
「うるせっ!」
「それに、エアリスにプロポーズ出来てないって時点で俺と同等のくせに、偉そうに言われたくない」
「あん!?」
「どうせ、『エアリスを一番愛してる』って直接言ってないんだろ?」
「うぐっ…」
「ほら、俺と一緒じゃないか」
「い、言ってないけど、1人の時は言ってるし、今だってお前の前で言っただろ!?」
「ふざけ半分で言ったって言ったうちに入るか。しかも本人に言ってないなら言った意味ないじゃないか」
「くぉの〜、生意気だぞ、クラウドのクセに!」
「どういう意味だ!」
「そのまんまの意味だ!!」
「意味分かんないね、ちゃんと言葉を勉強してくれ!」
「ほっほ〜、この俺様にそこまで言うか!」
「いくらでも言うね」
「……やるか!?」
「……受けてたってやる」


 互いにバスターソードを抜き放ち、何故か決闘にもつれ込んだ男2人を、エアリスとティファは呆然と見つめていた。
 教会の天井から。


「……」
「……」
「……エアリス…」
「……なぁにティファ」
「あの……」
「うん…?」
「止めた方が…良くない?」
「…そうかも…でも…、出て行ける?」
「……無理…」
「…私も…ちょっと今は無理…」


 2人の眼下では、まさに今、死闘が繰り広げられようとしていた。
 本当ならすぐにでも割って入らなくてはならないのに、どうしても出来ない。
 何故なら…。


「「 こんな赤い顔してたら、絶対に盗み聞きしちゃったってバレちゃうもん! 」」


 まさか…。
 まさか、こんな形で愛しい人の告白を聞くとは思いもしなかった!
 て言うか、誰も思わないだろう、死闘を繰り広げようとしている男2人も当然。
 こんな形でザックスとクラウドの気持ちを耳にするとは!
 しかも、互いに親友が傍にいる状態で!!

(( は、恥ずかしい…!! ))

 恥ずかしいのだが…。
 それ以上に嬉しくて、頭と心がフワフワとする。
 これ以上ないくらい真っ赤に2人は染まっていた。
 思いがけない告白。
 ずっと聞きたいと…、そして自分も伝えたいと思っていた想いを耳に出来るとは。
 ティファは本当に幸せだった。
 幸せすぎて視界がユラユラと歪む。
 一方、エアリスはようやく『気づいた』。
 クラウドが教会に来てはウジウジとティファへの想いを口にしつつ、行動に出ないことだけに腹を立てていたわけではないのだ…と。
 本当はザックスから聞きたかったのだ。
 クラウドがティファを想っているくらい、ザックスも自分のことを想ってくれているのかどうか。
 星に還った後も、こうしてずっと傍にいてくれているのだから、言葉にしなくても彼が想ってくれていることは分かっていた。
 だけど、言葉にされるのとされないのとでは全く違う。
 より一層、ザックスへの想いが深く、熱くなる。
 そして、誰よりも…、ティファよりも自分は幸せ者だ、と思えるのだ。
 生きているときには聞かれなかった彼の愛の告白。
 それを、ずっと聞きたいと思っていたのだ、心の奥深くで。
 自分でも知らない奥の奥の方で。
 だから…。

「ティファ…」
「ん?」
「ありがとう」

 ビックリして目を丸くしたティファに、エアリスはもう1度「ありがとう」と言った。
 ティファがクラウドをずっと想い続けて、待っていてくれたからこそこんな素敵なサプライズが起こったのだ。
 とてもとても幸せなサプライズ。


「覚悟しろ!!」
「そっちこそ覚悟するんだな!」
「はん!俺はもう死んでるんだからこれ以上ダメージはないね」
「な…!ずるいぞザックス!!」
「はっはっは〜、これこそが『死んだ者の特権』だ!」
「そんな特権、聞いたことないわ!!」
「今言った。行くぜ!!」
「くっ!負けるか!!」


 エアリスとティファが幸せに浸っている間に、とうとう激闘に突入しようとしていた。
 と…。


 ギーーー…。


 重い音が響く。
 ザックスとクラウドは数ミリ、というところで剣を止めた。
 ハッと顔を向けると、教会のドアが開いている。
 思わず顔を見合わせ、グルリ、と教会を見渡す。
 しかし、そこには誰もいない。

「…ザックス…エアリスはいるのか?」
「…いや……いない…な」

 突然のことに、闘争心など霧散してしまった2人は、呆けた口調で間抜け面を晒していた。

「…なんでドア開いたんだ?」
「……もう良いってこと…かなぁ…?」
「…なんで?」
「…さぁ…」
「…俺、帰っても良いのか?」
「…良いんじゃないのか?開いたから」
「…なんで開いたんだろう…?」
「………」

 突然沈黙し、徐々に蒼白になっていくザックスにクラウドはイヤな予感に胸を締め付けられた。

「…なんだよ、そんなに変な顔して」

 恐る恐る訊ねる。
 ザックスは言いにくそうに途切れながら答えた。

「いや…もしかして…と思って」
「何が?」
「…俺たちのさっきのやり取り、聞かれてたのかなぁ…って」
「 !? 」
「もしも…もしもそうだったとしたら…」
「…ザックス…」
「俺は…、俺はーー!!」
「お、落ち着けザックス!そうじゃないかもしれないだろ!?」

 親友の突然のパニックに落ち着かせようと手を伸ばす。
 が、当然その手はすり抜けた。
 すり抜けたことを悲しい、と思うひまもなく逆ギレ状態のザックスがクワッ!と目をむいた。

「じゃあなんでいきなりエアリスが許したんだよ!」
「そ、それは……、そう、きっとティファが異様に落ち込んだから、それで仕方なく今回のことは不問にしてくれたんだ、きっと」
「…そ、そう…かな…」

 苦し紛れの説得。
 その説明を口にするのは、クラウドにとってとても痛いことだったのだが、自分の痛みにはあえて見ないフリをする。

「そうだ、絶対に!だって、気配感じなかったんだろ、エアリスの」
「…いや…それが…」
「…なんだよ…」

 言葉を濁すザックスに、クラウドは更に不吉な予感を覚えた。

「さっき、お前とマジバトルに突入しようとした時とか、その前の…その、『アイノコクハク』の時はさ…」
「……」
「いっぱいいっぱいだったから、周りに気を配ってなくて…」
「…それって…」
「……」
「……」
「お、俺は」
「…ザックス…?」
「俺は……旅に出る!!!」
「お、落ち着けー!!」
「落ち着いていられるか!」
「取り乱してどうする!どうせ告白するつもりだったんだろう!?なら一緒じゃないか!!」
「バカ言うな!ちゃんと本人に向かって言うのと『うっかり男友達と相談しているのを聞いちゃった』って状態とはえらい違いだ!!」

 涙目のザックスにクラウドは言葉をなくした。
 元々、言葉のボキャブラリーが少ないのだ、ここまでザックスと言い合えたことなど奇跡としか言いようがない。
 押し黙ってしまったクラウドに、ザックスはキレたまま八つ当たりをした。
「この薄情者!なんか言えよ!」
「なにを言えって言うんだよ!」
「親友がクソ真面目に落ち込んでるのに、かける言葉もないのか、この非人間!!」
「『クソ真面目』に落ち込むってお前…言葉おかし」「そんな突っ込みいらんわ!!!」

 実に虚しい掛け合いが、教会に響き渡った…。


 *


「エアリス、本当にありがとう。それで…ごめんね、いつも心配かけて」
「ううん、私のほうこそごめんね?ちょっとやきもち妬いちゃった」

 はにかみながら謝ったエアリスに、ティファは微笑んだ。
 エアリスが本当に今は星で幸せなんだ、と実感できたのだから…。

「じゃあ、私もうそろそろ帰るわ」
「うん、気をつけてね」
「それはこっちの台詞。あまり無茶な飲み方しちゃダメよ?子供たちが心配するし、身体壊しちゃう」
「はい、ごめんなさい」
「うむ、素直でよろしい」

 プッ、と同時に噴き出してひとしきり笑い合う。
 そして。
 フワリ、とエアリスはティファを抱きしめると羽のように宙に浮いた。
 その姿をティファは真っ直ぐ、微笑みを湛えて見つめた。
 また、暫しの別れ。
 エアリスは星に還ってしまった人だから。

「ティファ、またね」
「うん、またね」

『またね』

 そう言って別れられる関係にはもうないはずだ。
 ティファは生きていて、エアリスは死んでいる。
 だが、本当に『またね』と自然に言えたことがとても幸せで、本当にいつかまた会えるって思えていた。

 エアリスは、いつもの温かな微笑みを残してスーッと消えた。

「またね…エアリス」

 彼女の消えたところを見つめながら、もう1度ティファは呟いた。


 *


「……ファ…。ティファ…」

 肩を軽く揺さぶられる感触でティファは目を覚ました。
 カウンターに突っ伏して眠っていたらしい。
 傍にはクラウドの好きな酒瓶が空になって転がっている。
 どうやら飲みすぎで寝こけてしまったようだ。
 顔を上げると心配そうな顔をしたスカイブルーの瞳が間近で見つめていた。
 その吸い込まれそうな瞳に暫し見惚れる。
 クラウドは何も言わず、自分を見つめているティファに焦ったようだ。
 きっと、怒っている…と思っているのだろう。
 焦燥感が手に取るように分かる。
 ティファはそっとクラウドに両手を伸ばした。
 そのまま、驚くクラウドの頬に触れる。

「…温かいね…クラウド」

 微笑みながらそう言ったティファに、クラウドは一瞬困ったような顔をした。
 ティファがまだ寝ぼけている…と思ったのか、それとも『酔っている』と思ったのか、はたまた両方か。
 しかし、柔らかな微笑みに釣られるようにして強張った顔を徐々に和らげ、添えられた彼女の手に自分の片手を重ねた。
 そして、ゆっくりともう片方の手でティファの頬に触れる。
 ゆっくりと自然に顔を寄せて、口付けを交わし、そのままスッポリとティファを包み込んだ。

「遅くなって…すまない」
「ううん、良いの。私こそゴメンね?」
「なんでティファが謝るんだ?」
「…クラウドのこと、疑っちゃった…」
「それは俺が約束を守れなかったんだから、当たり前だ」
「クラウドは…優しいね」
「優しいのはティファだろ?」

 そしてそっと身体を離して…。
 教会で固めた決意を口にするため、ティファを見つめる。
 胸ポケットにしまっていた大事なものを取り出して、緊張しながらティファへそっと差し出す。

 ティファの頬に幾筋も歓喜の涙がこぼれ、2人はまた微笑みあって口付けを交わした。
 何度も…幸せを確かめるように…。

(ザックス、俺、ちゃんとティファに言えたぞ。あんたはどうだ?)

 心の中で、今、まさにエアリスへプロポーズしているはずの親友を思い、そっとエールを送った。

 その日、夢でザックスが照れ臭そうに、でもどこか誇らしげにガッツポーズを見せてくれるのはあと少しだけ先の話し。



 あとがき

 いつも遊びに来てくださっている某ユーザー様より、素晴らしいお話しを聞きまして、『もうこれは!!』と書かずにいられなくなり、お許しを得て書かせて頂きました<(_ _)>

 クラウドもそうですが、意外とザックスってちゃんとエアリスに言ってなさそう(^^;)。
 ちょこっと内容を変えちゃいましたけど、M様どうぞご勘弁を…。
 素敵なお話しのネタを提供してくださって本当にありがとうございました〜♪

 追記:この作品は、元ネタを提供して下さった『舞々』様が運営される『wild flowers』様へサイト開設のお祝いとして押し付けプレゼントさせて頂きます♪(H22.1.22)