想いのたけを込めて…。




 ティファ・ロックハートの作る物は何でも美味しい。
 それは、クラウド・ストライフをはじめ、彼女に心惹かれた男性達が持つ『惚れた欲目』からの意見ではない。
 彼女をライバル視する同性達ですら、彼女の料理の腕前を認めざるを得ないのだから。
 勿論、好いた惚れた以外の感情で食べるその他一般の大勢の客達は、彼女の作り出す数々の料理に舌鼓を打ちつつ、その日その日の疲れを癒したり、また新しい一日を頑張るための活力を得ている。

 そんな彼女の元に、ある日…。


「お願いします!!」

 ティファ・ロックハートは突然の来客に困りきった顔をして、「え〜と…その…」と、口の中でモゴモゴと呟いた。

 茶色の髪をみつあみにした可愛い女性が深々と頭を下げている。
 幸か不幸か、店にはティファとその女性しかいなかった。
 オロオロとする女店主を第三者に目撃されなかったという点では良かったのかもしれない。
 だが、デンゼルかマリンがいてくれたら、この場を切り抜ける突破口になったかもしれないので、そのことを考えると、女性があと一時間くらい、遅くに着てくれたらよかったのに…とか思ってしまう…。

『…困ったなぁ…』

 ティファは眉を八の字に寄せて顎に手を添えた。
 いわゆる、『困ったポーズ』だ。
 彼女のこんな姿を見たら、恋焦がれている男性は大興奮のあまり卒倒すること間違いない。
 ちなみに、遠い地で働いている愛しの彼が、もしも写メールなどで彼女のこの姿を見たら、とりあえずシドを呼びつけるだろう。
 無論、残りの仕事は放棄だ。

 良い大人が、仕事を途中で放棄して家に帰るとは何事か!
 しかも、世界屈指のシエラ号を簡単に『アッシー代わり』に呼びつけるとは、度し難い愚か者だ!!

 と、世の人達は立腹するに違いない。
 クラウド自身、そんなことをしてしまう自分を情けなく思わないでもないが、過去に家出をしてしまうというとんでもない愚行をしでかしたことと、彼女を二度と悲しませない!という強い決意の二重奏により、『常識』という美徳がティファ、デンゼル、マリン限定で大幅なズレを生じさせるに至った。
 それが良いことなのか悪いことなのか、立場によって真逆の結果をもたらすクラウドのズレた美徳は、さしずめ現時点ではシドを中心とした英雄仲間を巻き込みながらも、なんとか『ご迷惑』を世間様にかけることなく健在である。
 だから、シドが苦虫を100匹まとめて噛み潰した顔をしたとしても、彼はきっとこの凶行に走ることを止められないだろう…。

 …大人になれ、クラウド…。

 星の中心から誰かさんの嘆きが聞こえる気がする…。

 とまぁ、そんなことは置いといて。
 ティファの置かれた状況に戻ってみると、彼女は心底困っていた。
 ティファの中では結論が出ている。
 それを目の前の彼女になんと言って説得したら良いのかが分からない。
 他者の気持ちを深く汲み取るという美徳を持ちえているティファにとって、無下に断ることにより、この女性の心が傷つけてしまう…ということになることを恐れている。
 だが、この場合、どう考えても良い言葉が見つからない。
 下手な言い回しをする話術など、素直な彼女は持ちえていないのだから…。

 となると、ストレートに『無理です、ごめんなさい』と言うしかないのだが…。

『うぅ…どうしよう…』

 頭はグルグル、全身は冷や汗でびっしょり。
 頭を下げている女性の気持ちが同じ『女』ということもあって痛いほど良く分かる。
 だが…。


「あの…本当に申し訳ないんだけど…」


 ビクビクしながら口を開く。
 自分の言葉に彼女が一体どんな反応をするか…!?
 それを想像するだけで、胃が締め付けられるように痛い…。
 だが、ずっと頭を下げ続けている彼女のためにもはっきりと言わなくては!

 そう決意したのに…。


「お願いします!!」


 …。
 ……必死に追い縋る捨てられた子犬のような瞳。
 グラリ…とティファの心が揺れた。
 再度下げられた頭は、先ほどよりもうんと低い。

 む〜…。
 困った。
 これは本当に困った。
 出来れば彼女の願いを叶えてやりたいと思う。
 だが。
 ティファは『セブンスヘブン』の女店主というだけ。
 決して『お料理教室の先生』ではない。
 いくら彼女の料理の腕が一流であっても、それは『庶民の中でずば抜けている』だけなのだ…。
 料理の勉強を基礎から叩き込んだわけでなく、あくまで我流。
 だから、いくら頭を下げられても『料理を教える』ことは出来ない。
 もっとも、お友達の間柄にあって、気楽に『この調味料を試したら美味しかった♪』といった程度ならオッケーなのだが、この『押しかけ生徒』はティファにガッツリと料理を教えてもらいたい!と希望している。
 と言うわけで…。


「ごめんなさい、私は料理のプロじゃないから…教えてあげられません…」
「!!」


 ウルウルと目を潤ませて見上げるうら若い女性に、ティファの良心がズッキンズッキンと痛む。
 だがしかし、情に流されてこの話を受けるわけにはいかない。
 何しろ、自分は管理栄養士でも、調理師資格を持っているわけではないのだから!

「どうしても…ダメですか…?」

 潤んだ瞳。
 縋るような仕草。
 震える唇。

 ティファでなくとも、一般的な優しさを持っている人間なら誰でも彼女の味方をしたくなるような姿に、ティファの心がこれ以上ないくらい激しく揺さぶられる。
 だが、しかし!
 安請け合いなんか出来ない。
 料理なのだから!
 口から体内に入る代物なのだから!
 下手なことを教えてしまって、後々大変なことになったら、責任取れない。

「少しで良いんです」

「彼がティファさんの手料理をすっごく気に入ってて…」

「あの人のために、私も精一杯の心を込めて作ってあげたいんです」

「お願いします!!」

 三度頭を深く下げた彼女の姿に、ティファの心がズキューンッ!!と打ち抜かれる。
 もうそのいじらしさ!!
 愛する男性のために、精一杯の気持ちを込めて手料理を振舞いたい、という気持ち!
 痛いくらいに良く分かるその女心!!



 これほどまでにお願いされて、それを聞き入れないなど、女が廃(すた)る!!



「分かりました……少しだけで良ければお教えします」

 途端、花が咲いたような笑顔が彼女の顔にパッと浮かんだ。
 これにもズキューンッ!とハートを思い切り打ち抜かれる。
 おっとどっこい、危うく釘を刺すのを忘れてその笑みに見惚れるところだ。

 ティファは空っとぼけた顔をしながら咳払いをして、
「1つだけ約束を」
 人差し指を立てた。
 イチも二もなく頷いた彼女に、ことさらしかつめらしく声を潜める。

「絶対に私に教えてもらった、とは言わないで下さい。私は人に教えられるような資格を持っていませんから」

 無論、彼女がその条件を呑んだことは、言うまでもない…。


 *


「ただいま〜…っと、あれ?」
「ティファ、ただいま…って…お客様?」

 遊びから帰ってきたデンゼルとマリンが、ティファと見知らぬ女性がカウンターに立っているのを見て、笑顔からキョトン…と顔になる。
 次いで、店内に立ち込める馨しい香りは、食欲をそそられる「それ」と、妙な刺激臭の「それ」の二種類に、怪訝な顔になった。

 …ティファならこんなおかしな香りを出すような代物を作り上げるはずがない…。

 2人がそう思ったその次の瞬間。

「あ〜、ダメです、それはまだー!!」

 という、ティファの悲鳴にも似た叫び声と…。

 バチバチバチバチ!

 油が『これでもかーー!』と弾けるとんでもなくデンジャラスな音と、
「キャーーーッ!熱、熱、熱ーーーい!!」
 女性の甲高い悲鳴。

 ドンガラバッシャン!!
 ジューー……〜〜〜〜……。

 なにやらカウンターの中がエライことになっている。
 立ち上る黒煙は一体なにをどうしたらそんなことになるのだか…!
 デンゼルとマリンはギョッと顔を見合わせ、慌てて駆け寄った。
 その子供達に気づいたティファは切羽詰った顔のまま、

「デンゼル、マリン!ドア開けてー!」
「「うん!!」」

 母親代わりの言葉に慌ててドアへと方向転換。
 モクモクとした黒煙が、開け放たれたドアの上部からスルスルスル〜〜…と脱出していく。
 なんとも漫画のような光景。
 聡い子供達は、この一瞬の出来事でどういう自体になっているのか、ほぼ正確に把握した。

「ティファ…」
「お人よしにもほどがあると私は思うなぁ…」

 デンゼルとマリンの呟きは、だがしかし、慌てふためいて『押しかけ生徒』の火傷箇所を水にさらしているティファには聞こえなかったのだった…。


 五分後。


「ティファ…俺、人には向き不向きがあると思う」

 デンゼルの素直すぎるその意見に、ティファは「シーッ!」と慌てて口をふさごうとする。
 しょんぼりとしている女性の肩が可哀相なくらい、ビクッと震えた。

「ティファ。私もそう思う」

 マリンのダメ出しに、またしても女性がビクビクッ!と身を縮込ませる。
 ティファはデンゼルの口をふさいでいた手を今度はマリンに伸ばす。
 まぁ当然、そんなことをしても無駄なのだが…。

 息が詰まるような沈黙。
 その重苦しい静寂に、やがて女性の小さく嗚咽する声が漏れ響いてきた。
 流石に子供達も居心地悪そうに顔を見合わせているが、自分達が言った事を訂正もしなければフォローもしない。
 優しくて理解力のある子供達だが、同時に大人顔負けのシビアさも持ち合わせているのだ。
 無駄な努力…とまでは言わないが、どう頑張っても無理なことを『頑張れば叶う』と夢みたいなことを言って下手に慰めるようなこともしない…。

「あの……今度はもう少し簡単なものからお教えしますから…」
 だから、頑張りましょう?

 優しく女性の肩を抱くようにして慰めたティファに、女性はお下げをパッと払うようにして顔を上げ、心から嬉しそうに笑った。
 デンゼルとマリンは『しょうがないなぁ…』と呆れたような、諦めたような、それでいて、どこか嬉しそうな顔をして目を見合わせた。
 ティファは優しい。
 優しすぎるところがある。
 そして、そんな彼女だからこそ、デンゼルもマリンも大好きなのだ。
 デンゼルなど、ティファが『ティファであるからこそ』救われたのだから…。

 星痕症候群で苦しみ、クラウドの携帯から勝手に電話をしたあの時、ティファが『店に連れて来て』とクラウドに言わなければ…孤児院に運ばれていただろう…。

 そう思うと、やはりティファは甘いくらいが丁度良いと思ってしまう。

 そして、そんな甘いティファだからこそ、この『押しかけ生徒』である女性は、こんなにも嬉しそうに笑えるのだから…。


「じゃあ、ひとまず『揚げ物』はやめて、『焼き物』にしましょう」


 再度、カウンターの中に立つティファと『押しかけ生徒』。
 デンゼルとマリンは、店の開店準備に取り掛かっている。
 テーブルを拭き、グラスを磨く。
 カウンターの中に4人はきついので、店のテーブルの1つを使ってまな板、包丁、ざるを用意し、ジャガイモやニンジンの皮を剥く。

 カチャカチャ…というボールの中で『ネタ』を混ぜている音が、店内に小気味良く響く。
 マリンとデンゼルは協力して材料の皮むき、切る作業をしていたが、
「どうしていきなり『揚げ物』をしようとしたんだろうなぁ…」
「きっと、あの女の人のリクエストなのよ。まさかあそこまで料理音痴とはティファも思わなかったんじゃないかな?」
「そっか…。それにしても、あの黒い煙モクモク、俺、初めて見た。漫画とか映画みたいだったなぁ…」
「うん、なんか漫画とかだと笑って見られるけど、本当に実際目の前で起こったらとてもじゃないけど笑えないね」
「そうだなぁ…。もうあの場面は見たくないな」
「うん、そうだね。私達が料理する時はああならないように気をつけようね…、油断したらなるかもしれないし」
「うん、そうだな。あ〜、それにしてもマジ怖かった…クラウドいなくて良かったな」
「あ、でも逆にいてくれたら、ティファがこんな目に合わずに済んだかも…?」
「…そっかなぁ…。クラウドとティファのことだから、あんまり変わらない結果じゃないか?」
「そう?」
「うん。だって、クラウドもティファもお人よしだから」
「あ〜…それは言えてるかも」
 コソコソと小声で囁き合っている。
 ティファはデンゼルとマリンがなにやらコソコソと話をしていることは気づいていたが、なにぶん、この女性の『お守り』の方が大変だったので、内容に耳をそばだてる余裕はなかった。

 女性の手つきは、それはそれは見ていて恐ろしいものがあった。
 一体、なにをどう頑張ったらそんな手つきになるのだろう…と不思議になるくらいの『ザ・不器用』加減。
 ティファは途中、何度も自分が代わってやってしまいたくなる気持ちを抑えに抑えた。
 数をこなさなくては上手くならない…。
 それにしても…。

『どこかのお嬢様なのかしら…。本当に生まれてから一度もキッチンに立ったことがないみたい…』

 このご時勢で、キッチンに立ったことがない女性とは、すなわち『非常に病弱』か、『お金持ち』のどっちかだろう。
 見た限り、彼女は病弱ではなさそうだ。
 泡だて器を握り締めている手はしっかりとしていて、色も病弱な色白さをしていない。
 何より、先ほどの『油に喧嘩売りました事件』の後遺症をものともしない『根性』と『体力』は凄まじい…。
 もしかしたら、根性だけはティファより上かもしれない…。

「ティファさん、これくらいですか?」
「えぇ、上出来よ」

 ニッコリ笑ってボールの中を見る。
 ティファの言葉に、彼女は嬉しそうに笑顔を返した。

 さて、次だ。
 出来上がった『ネタ』をフライパンで焼く。
 そう、フライパンで焼くのだ…。
 大丈夫だろうか…?

 ティファの不安をよそに、女性は目を輝かせてフライパンに油を引いている。
 よし、中々上手に引けた。
 そう喜んでいるのが全身から溢れ出ていて、ティファの微苦笑を誘った。
 デンゼルとマリンは、黙々と肉を切り、タレに漬け込む作業を行っている。
 目の端で、女性がフライパンを凝視しているのを確認しているのが、ティファには痛いくらい伝わってきた。
 ティファは申し訳なさそうに子供達に微笑んだ…。

「じゃ、フライパンから薄っすらと湯気が上がってきたので、まずは豚肉を焼きましょう」
「これですね?」

 取り出したのは豚のバラ肉。
 薄切りになったそれは、それだけでも美味しそうに見えるから不思議だ。

 一枚を恐る恐る摘み上げたその指先が非常に不安だ。

 ティファは何とか『やっぱり私がやりましょう』と言う言葉を飲み込んだ。
 代わりに、
「じゃ、それをフライパンに入れて下さい」
「はい!」
 指示を出す。
 ティファの言葉に、彼女が元気良く答え、ジワ〜〜〜ッと肉をフライパンに置いた。
 当然、肉は熱した油によって油分をバチバチと弾かせる。
 女性が「ひぃっ!」と小さく悲鳴を上げ、勢い良く腕を引っ込ませた。
 その瞬間、腕がフライパンの柄に引っかかって、あわや、女性の足の上に落下!?という非常に危険なシーンとなった。
 が、それを充分予想していたティファは、鍋つかみを両手にはめてスタンバイ。
 見事、フライパンの柄を掴んで落下を防いだ。

「わ〜、流石です〜!」

 目をキラキラさせる女性に、ティファは引き攣った微笑みしか返せなかった…。


 *


 ひと波乱もふた波乱も巻き起こした『押しかけ生徒』の料理教室。
 結果、ティファが女性に教えたのは…。

「「お好み焼きか〜」」

 香ばしい香りにデンゼルとマリンがひょっこり顔を覗かせた。
 なんとかかんとか、出来上がったそのお好み焼きに、女性は感動のあまり目を潤ませ、感慨深げに皿を持ち上げ、見つめている。
 ちょっと焦げついたのはご愛嬌だ。
 ティファ自身も、彼女が無事に(?)お好み焼きを作り上げたことに感動していた。
 何しろ、お好み焼きのネタを作るべく、キャベツをみじん切りにした時の手つきと言ったら、ほんっとうに恐ろしかった!
 どんな罰ゲーム!?と言いたくなるような手つき。
 見ている者の方が寿命が縮む。
 そんなこんなで、なんとか一品作り上げた女性は、感動のあまりティファの手を握り締めて何度も何度も礼を繰り返した。
 彼女の姿に、自然とティファ、デンゼル、マリンの顔に笑みが浮かぶ。

「まだまだ初心者ですけど、これからも頑張ります!本当にありがとうございました!!」

 本日何度目かの深いお辞儀。
 ティファが優しく目を細めて、「良かったわ。これで少しでも彼が喜んでくれたら良いわね」と言葉をかける。
 デンゼルとマリンが、嬉しそうに笑い合う。

 と…。


 チリンチリン。

 本日第一号のお客様。
 そう思った3人がドアへ振り向くと…。

「「「 クラウド! 」」」

 今夜、遅くに帰宅する予定だったクラウドが、仕事で疲れているはずなのに、穏やかな顔で立っていた。

「ただいま」
「「おかえり!」」

 喜び一杯で子供達が駆け寄る。
 汗と埃まみれのクラウドに、そんなこと、全く構わず抱きついた。
 クラウドも、しゃがみ込んで2人を抱き上げ、目を細めて、「ただいま…」もう一度繰り返す。

「クラウド、どうしたの?早かったのね」

 知らず、弾むその声には紛れもない『恋する乙女の気持ち』が込められている。
 クラウドは子供達をそっと下ろすと駆け寄ったティファに微笑んだ。

「早く帰れることを連絡しようかとも思ったんだが、その時間も惜しい気がして、飛ばしてきた」
「もう、早く言ってくれたら今夜、お店お休みしたのに」
「そう言うと思った。たまには俺も店を手伝いたいからな」
「…クラウド…」

 お〜っと、このまま甘いラブシーン突入か!?
 子供達が気を利かせてパッと身体を反転させる…。
 その視界に入ってきた『人物』に、デンゼルとマリンは、笑顔から真顔に急転化。

「ティファ!」「クラウド!」

 子供達の大声に、折角の甘い恋人同士の空気がパチン…と弾ける。
 ビックリして現実に引き戻された2人は、

「「 お客様!! 」」
「「 …あ… 」」

 ポツネン…と佇んでいる『押しかけ生徒』に気がついた。
 途端、ティファは真っ赤になってクラウドから離れ、クラウドも耳まで赤くなってクルリ、と身体を反転させた。

「えっと…ごめんなさい、その…」

 しどろもどろ、言い訳するティファ。
 それをどうにもしてやれず、モヤモヤとする子供達。
 彼女が一体、何者かさーっぱり分かっていないものの、とにかく自分とティファのラブラブな場面を目撃されてテレまくっているクラウド。

 なんとも言いようのない微妙な居心地の悪さをセブンスヘブンの4人が味わっていると…。


「あの…」


 おずおずと歩み寄ってきたその女性。
 ティファの前までゆっくり…ゆっくりと…。
 対するティファは、オロオロオロオロ。
 勿論、もう今日のレッスンは終わりなので、お引取り願っても構わないのだが、なんとなく宙ぶらりんなこの状況に、なにを言って良いのやら…。

 ティファの混乱。
 子供達の戸惑い。
 クラウドの羞恥心。

 それらが最高潮に達した。



「これ、食べて下さい!一生懸命、心を込めて作ったんです!!」



「「「 ……え……? 」」」

 差し出された皿には、ちょっと焦げのついたお好み焼き。
 差し出された相手は、帰宅直後の英雄。
 唖然と見つめる目は6つ。
 びっくり、戸惑っている目が2つ。
 潤んだ瞳が2つ。

「「「「 …え…? 」」」」


 *


「ったく、ほんっとうに信じられない!!」

 マリンの憤りたるや、凄まじく、もう小一時間は経とうというのにその勢いは止まるところを知らず…。

「ほんっとうに信じられないよな!!」

 デンゼルの憤慨も納まることなど全くなく、足音荒く店内を行き来している。
 常連客達が不思議そうな顔をして、無言でティファに質問をする。
 ティファは…と言うと。


 意気消沈。


 この言葉が最も相応しい。
 そして、その傍らには…。


 放心状態。


 金髪・碧眼の青年。
 二人して、破天荒甚だしい女性のに大ダメージを受けていた。


 ―『は!?姉ちゃんはクラウドのために料理を習ったのか!?しかもティファから!?』―(デンゼル)
 ―『だって、クラウドさんはティファさんの料理が一番だっていつも仰ってるから』―(押しかけ生徒)
 ―『そんな!非常識にもほどがあるわ!!』―(マリン)
 ―『 ……(放心状態)』―(ティファ)
 ―『クラウドさん、どうか…お願いします。私の気持ち、受け取って下さい』―(押しかけ生徒)
 ―『は…?え…!?』―(クラウド)
 ――『『クラウド、そんなの食べなくて良い!!!』』――(デン・マリ)


 なぁんてことはない。
 クラウドを恋い慕っている女性が、クラウドの心に少しでも自分を残そうとしただけのこと。
 しかも、ティファの手料理を一番愛している、という彼の常套文句を真に受けて、
『ならば、ティファに教えてもらった料理なら食べてくれるはず』
 と短絡思考に走った結果の珍騒動。


 ティファは思った。
 確かに、思っている相手に食べてもらうために、想いのたけを込めた手料理を贈りたい。
 その気持ちは女性なら誰でも持っている気持ちだ…でも!!

 今回のは……あんまりじゃなかろうか……。


 クラウドも思った。
 いや、確かに自分のことを想って作ってくれたのはあり難い。
 だが、それを習った相手がティファって……どうよ…それ…。


 想いを込めに込めて作った手料理。
 それがこんなに『味気なく感じる』とは、なんとも悲しい事件だ。



「ティファ…」
「…うん…?」
「俺、ティファの手料理だから美味しいんだ」
「…え…?」
「いくら、誰かがティファと同じ材料、同じ作り方をした料理でも、ティファが作ったやつじゃないと意味がないから」
「……それ…って…」
「……俺にとっての一流シェフはティファだけだから…」
「……うん」



 あぁ、せめてもの救いは、ティファの手料理が一番だとクラウドが再認識してくれたことだろう。



 想いのたけを込め込めに作った手料理。
 だが、それも作った『料理人』が贈られる人にとってどういう人かによって変わってくる。



 人間とはかく、複雑で、実は単純な生き物だったりする…。



 あとがき

 あはは〜〜ん…。
 なにやら意味の分からない話に…。

 ま、おふざけと言うことで…脱兎!!ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ヘ(;°∇°)ノ