「な、なんで!?」 「男が……」 「「「女装〜!?!?」」」 驚きの声がビリビリと店の窓ガラスを震わせた。 想い人(後編)セブンスヘブンは今や混乱の『るつぼ』だ。 どの顔も引き攣ったり、あんぐりと口を開けていたり、目を剥いていたり…。 それは、数々の修羅場を潜り抜けてきたティファや、歳のわりにしっかりとした子供達も同様で…。 「なんで…!?」 「いや……あの姉ちゃんって…兄ちゃんだったのか…!?」 「………意味が分からないわ……」 グルグルわけの分からない言葉の羅列が脳内を旋回する。 意味を成さない単語。 『男で女』『女で男』『果たしてその正体は…???』 なんだか何かのキャッチフレーズのようだ。 そんな大混乱真っ只中の面々を見て、『サーク』と名乗った青年……というにはまだ若いその少年は、悪戯が成功したかのような会心の笑みを浮かべた。 「まっさか、アラムの想い人がエッジまで来てるとはなぁ〜!それに、いきなり両思いだなんて、ほんっとうに神様って何してくれるのか分かんないねぇ〜!」 いやぁ、粋な計らいってやつじゃねぇ??? などと興奮気味に口走っている。 対して、アラムは真っ赤になっているサラを抱きしめたまま愛しそうに見つめ、 「本当に…なんか夢みたいだ…」 と、ノロケるばかりで、周りが良く見えて…と言うよりも全く見えていないらしい。 「俺、女装する必要なかったかなぁ…って思ったけど、やっぱり少しは役に立ったのかな〜♪」 へへへ〜…と笑う少年に、呆けていた客の一人がハッと我に返った。 ビシッと指を突きつけ、 「ちょっと待て〜〜〜い!!どういう意味か説明しやがれーー!!!」 唾を飛ばさん勢いで喚いた。 「あ、これ?」 少年がヒラヒラのスカートを摘み上げてクルリと回って見せる。 かつらを取った少年のその仕草に、危うく胸がときめきそうになって数人の客が慌てて視線を逸らした。 「理由は〜…」 ニコニコと笑いながらその理由を口にしようとした少年がハタと動きを止めた。 そして、ゆっくりとカウンター裏を指差す。 「理由〜♪」 そこには……。 「「「クラウド!?」」」 魔晄の瞳を見開いて驚くジェノバ戦役の英雄達のリーダーの姿。 「なんだ……一体……?」 驚きを隠せないクラウドに、ティファが「さぁ……」と困惑顔で首を捻って見せる。 子供達も、クラウドに駆け寄って「「おかえり〜!」」と言いながらも、クラウドの疑問に答えることが出来ない。 なにしろ、自分達だって分かってないのだから…。 「アラムがクラウドさんに睨まれちゃった…って凹んでるから、アラムの彼女の振りしてやろうかと思って〜」 大テーブルには、今回の騒動の元凶となっている青年と少年、更にはその『想い人』が腰を下ろし、帰宅したばかりのクラウドと常連客達数名が席に着いていた。 無邪気に言う少年に「なんで!?」という声が上がる。 当然、クラウドも眉を寄せて青年と青年の幼馴染を見つめる。 真っ赤な顔をして俯いている女性を、周りが火傷しそうなほど愛しそうに見つめる青年にこちらまで照れてくるのは…仕方ないのではないだろうか……? そんな二人の隣に腰を下ろしている少年は、実にあっけらかんとしたものだ。 「ん?アラムに彼女がいる…って思ったら、クラウドさんも睨んだりしないでしょ?」 サラッと言った少年に、開いた口が塞がらない。 それでも気を取り直した客の一人が、 「いや、そうじゃなくて…!好きな奴がいるのに、そんな事までしてティファちゃんに会いに来る理由が分かんねぇって言ってんの!!」 叫ぶように声を荒げる。 「あ、それはですね…」 その声にようやくアラムは真っ赤になっているサラから視線を外すと、そのまま立ち上がって戸惑う彼女を立たせた。 そして、肩を抱いてクラウドの為に食事を運んできたティファの隣に並ばせる。 「え?え…!?」 「アラム……なに……?」 ドギマギする二人に、青年はニコニコと笑顔を浮かべて客達とクラウドを振り返った。 「ほら、似てるでしょ?」 「「「「「え……?」」」」」 「ティファさんとサラ」 「「「「「…………」」」」」 ガチガチに固まっているサラと困惑仕切りのティファ。 並んでみると…。 「確かに…」「似てるかも…」「ああ……」「そうだな…」「言われてみれば……」 客達の口から同意の声が漏れる。 そして、クラウドもその意見に少なからずとも賛成だった。 纏っている雰囲気は全く違うが、それでも顔の造りや背格好は良く似ている。 「それで……似てるから…ってだけで……?」 疑わしそうな視線を受け、アラムは苦笑いを浮かべて一つ頷いた。 「実は…、彼女の実家…めちゃくちゃ敷居が高いんですよねぇ…」 ティファの煎れてくれたコーヒーを啜りながら青年が語る。 「僕の家は庶民中の庶民なんですけど、彼女は村長の娘なんです。それで、彼女に相応しくなる為には一旗上げないと…って思いまして。それでエッジに来たんですよ」 クラウドは内心驚いた。 まるで、自分とティファの事のようだ。 ティファもニブルヘイムの村長の娘。 対する自分は村の爪弾き者。 どう考えても釣り合えない……そんな間柄。 だからこそ、一大決心をして…。 皆に認めてもらいたくて…。 彼女の父親に認めてもらいたくて…。 ティファに認めてもらいたくて…村を飛び出し、神羅に入社した。 ソルジャーになれば…きっと皆、認めてくれる。 そう……信じて……。 「でも、中々上手くいかなくて、最初の一ヶ月はもうホームシックに罹って大変でした」 苦笑いを浮かべる青年を、サラが何とも言えない顔をして見つめる。 「それでもやっぱりサラの声を聞くと元気が出てきて、『絶対に一人前になって彼女に告白する!』って思えて…頑張ってきたんです」 へへ…。 照れ臭そうに笑う青年に、客達がグッと胸を詰まらせた。 今時にないその純情ぶりに、心が洗われる様だ。 「そうそう!お蔭で俺の父さんの会社も随分軌道に乗ってくれたし〜」 社長子息がのほほんと相槌を打つ。 「それで、自分で決めた目標まであと少しってところまできたんですけど……」 言葉を切ってコーヒーをもう一口啜る。 「なんだか…目標が目の前にきた途端、急にサラに会いたくなっちゃって…、声を聞くとその気持ちが余計に強くなってきちゃって、だから電話するのを止めたんですよ…」 恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべ、頭を掻く。 「でも、声も聞けないし…ましてや会いにも帰れない。、あ、帰れないって言うのは、勝手に自分で村を出た時に決めたんです。『一人前になるまでは絶対に会いに帰らない』って」 ― 一人前になるまで帰らない ― あの時…。 クラウド自身もそうだった。 己自身への誓い。 結局それは果たせなかったけど、それでも決意した時は……真剣だった。 絶対に…ソルジャーになる。 ソルジャーになるまでは……帰らない! そう強く誓ったのに……。 沈み込みそうになる気分を持ち上げ、クラウドは青年を見た。 つい先日まで、ティファを狙っている男達の一人としてしか見えなかったのに、今はこんなにも違って見える。 実際、青年がティファを通して『幼馴染』の面影を追っていただけだと知ったのだから当然といえば当然なのだが…。 青年への評価が180度変わるとは…。 『大した奴だ…』 素直にそう思う。 自分が成し得なかった事を成そうとしているからこそ尚更だ。 「でも、声も聞けないし会うことも出来ないように自分で自分を追い込んじゃうようなことして、業務成績ががた落ちしちゃったんですよねぇ。もう、悪い想像が頭の中をぐるぐる回るし」 「悪い想像…?」 サラが俯いたままボソリと訊ねる。 「うん、サラが身体を壊してないか……とか……、もしかしたらサラに誰かその…良い人が現れてないか……とか……、はたまたサラにお見合いの話しとかが出てないか……とか、もう気になっちゃって」 「そんな…こと…」 青年の告白にサラが驚いたように顔を上げる。 だが、やはり顔が赤い以外は……無表情に近い……。 「ま、それだけアラムはサラさんにベタ惚れってやつなんですよねぇ」 社長子息がからかうように口を挟む。 サラが薄っすらと目元を赤らめて俯いた。 「それで。そんな時にWROの広報誌を見てセブンスヘブンの事を知って、思い切ってお店に来たんです。そしたらティファさんが笑いながら元気に働いてるでしょう?もう、その笑顔を見て『あぁ、サラも僕が告白した時にああいう風に笑ってくれると良いなぁ…』って思っちゃいまして」 ハハハ…。 テレながら笑う青年に、 「「「「「………なるほど…」」」」」 と、誰ともなく呟いた。 要するに、田舎に……彼女の所に帰りたいという思いを抑える為、ティファの顔を見ることでなんとか我慢していたというだけの話し。 しかし、ティファの恋人に思いっきり目をつけられてしまった為、その唯一の心の拠り所をなくしてしまい、凹んでいた。 そんな青年を見かねて社長子息が一肌脱いだ……という事らしい…。 「ほら、クラウドさんもアラムが女性同伴で来店したら睨んだりしないっしょ?」 「う……あ〜、まぁ……」 話の矛先が自分の嫉妬心に向けられたことに、クラウドは咄嗟に言葉に詰まる。 好奇の視線が否応なしに突き刺さるが、自分が勘違いをしたが為に一人の青年が悩んでいたと言う事実を前に、ごまかすのもどうかと思われる。 どもりながらも肯定したクラウドに、ティファが真っ赤になって視線を彷徨わせた。 「でもさ、兄ちゃんがわざわざ女装なんかしなくても、他の女の人にお願いしたら良かったんじゃないの?」 デンゼルが不思議そうに小首を傾げた。 途端、左右両方からクラウドとティファの手が飛ぶ。 ビシッ! バシッ! 「いって〜〜〜……」 「……バカね、デンゼル」 「なんでだよぉ……」 涙目になりながら頭を抑えるデンゼルをマリンが冷ややかに見た。 その『家族』のやり取りに客達が噴き出す。 「あ〜、ダメダメ。アラムはサラさん一筋だから、他の女の人と二人きりでどっかに行くなんて、罪悪感一杯になって無理無理〜!」 カラカラと笑う少年に、 「いや、だからってお前、女装って……抵抗なかったわけか……?」 常連客が苦笑交じりにそう問いかける。 ところが、問いかけられた少年はキョトンとすると、 「へ?なんで…???」 「「「「「なんでって……」」」」 不思議そうに質問で返した。 客達が返答に窮する。 プッ! 少年は口をモゴモゴさせる大人達を前に吹き出すと、 「アッハッハ〜!ウソウソ、ゴメンナサイ」 片手をヒラヒラさせながら口先だけの謝罪の言葉を舌に乗せる。 「いや、だってさ。滅多にしないじゃん、こんなこと」 『『『『当然だ!!!』』』』 「もしもこれが成功したら、クラウドさんとティファさんっていう『二人の英雄』を見事に引っ掛けられたってことっしょ?それって凄くない!?」 目をキラキラさせる少年に、大人達は脱帽した。 「それに、アラムは本当に良く頑張ってくれたし、俺にとってもなんだかほっとけない『兄貴』って感じなんだ。だから、アラムの為に何かしてやりたかったし…」 言葉を切って立ち上がると、スカートをフワリと翻してクルリとターンしてみせる。 「なんとなく似合ってない?」 「「「「「…………お似合いです」」」」」 楽しそうにそう言い切った少年に、一同は頷きながらも少年の未来を案じずにはいられなかった……。 「それで…サラさんは結局どうするの?」 ひとしきり二人を祝福して盛り上がった後、コソッとティファが真っ赤な顔をしてほろ酔いになっている彼女に声をかけた。 「予定通り、明日帰ります」 「…良いの?」 「はい」 穏やかな目をして頷く彼女に、ティファは「そう…」と微笑んだ。 表情は…顔が赤くなっているだけで相変わらず『マネキン』のように無表情だ。 だが、瞳が優しくなっている。 「思い切って……自分の殻から飛び出して……本当に良かったです」 「うん」 「……たった二週間電話がなかったくらいで……もしかしたら彼に素敵な人が出来たんじゃないかって……私はもう…邪魔な存在なんじゃないのかって……。そう思ったらいても経ってもいられなくて……」 こんなところまで来てしまいました。 ごにょごにょ尻すぼみになりながらそう言ったサラに、ティファは胸がギュッと締め付けられた。 自分も…クラウドから手紙の返事が来なかった時、同じ様に…そう思ったのだから。 そして、あの時の自分には目の前にいる女性のように己の殻を破るだけの力がなかった。 もしも……その勇気があれば…何か変わったかもしれない。 彼が…ニブルヘイムに任務に来て…。 あの惨劇の被害者にもしかしたら……ならなかったかも……。 しかし、それは根拠のない想像でしかなく、起こった過去は変えられない。 ティファはただ黙って目の前の女性に微笑んだ。 自分の感情を表すのが下手な…不器用な彼女。 そんな彼女の本質をとっくの昔に見抜き、その中味に恋をして彼女の隣を歩けるように村を飛び出した青年。 『本当に素敵なカップルよね』 ティファは嬉しさのあまり、誰にも気付かれないように二人の勘定から半分以上、オマケをしたのだった。 「…何と言うか……昔を思い出させる二人だったな」 「ふふ…そうね」 嵐の去った店内で。 クラウドとティファは静かな時間を共有していた。 話題に上るのは田舎から出て来た幼馴染の二人の事ばかり。 「なんだか…子供の頃を思い出した」 「私も…」 「俺も……アラムと同じだったからなぁ…」 「……私も……サラさんと同じだったわ」 「え?」 ビックリしたように見てくるクラウドに、ティファは小首を傾げた。 「なに?」 「え……いや、だって……サラさんと同じだったって……」 みるみるうちに真っ赤になるクラウドに、ティファは今更ながら自分が何を口走ったのか気付き、釣られてカーッと赤くなる。 しかしそれでも、先ほどの二人の姿を思い出して…勇気を振り絞る。 「だ、だから……。クラウドが村を飛び出していってから……その……どうしてるかなぁ…とか、素敵な女の子が出来たから手紙の返事もくれなかったのかなぁ…とか…」 思わぬティファの告白に、クラウドは魔晄の瞳を見開くとソワソワと落ち着きなく視線を泳がせる。 「いや……書こうとしたんだ…。でも、元々人付き合い苦手で…手紙貰ったのもティファが初めてでさ。なんて返事して良いのか分かんなくて…。何回も書き直して……。気が付いたらすっごく日数がたってたから、今更送るのは変だなぁ…って思って……」 結局…やめたんだ……。 赤い顔をしてボソボソ言うクラウドに、ティファは目を丸くした。 「……そうだったの…?」 「………」 「……初耳……」 「………」 「…………なんか、嬉しいな…」 「………そうか…?」 「うん!」 ふふ…、と笑いながら、ティファは赤い顔をごまかすように隣に座っているクラウドの腕に自身の腕を絡ませると、クラウドの右肩に右頬を押し付けた。 ビックリしてティファを見るが、顔が後ろを向いているのでその表情が見えない。 しかし、つむじまで真っ赤になっていることから、彼女が真っ赤になっていることが容易に想像できる。 気のせいか、押し付けられた右肩が熱い。 「あの時…私も『殻』を破ってたら良かったなぁ」 「…『殻』?」 「うん」 そのままの姿勢でポツリと呟いたティファの声が、なんだか寂しそうで…。 クラウドは片眉を上げた。 「もしも…私もサラさんみたいに……思い切ってクラウドに会いに村を飛び出してたら……クラウドに会いにミッドガルに行ってたら……」 何か…変わってたかもしれないもん。 寂しそうに呟く彼女に、クラウドはそっとその頭に頬を寄せた。 お互いにもっと…もっと自分に素直になっていたら…もしかしたらもっと違う未来が開けていたかもしれない。 もしかしたら、ザックスと楽しい時間を共に過ごせたかもしれない。 エアリスとももっと早く出会えていたかもしれない。 しかし……。 「でも、俺はやっぱりこれで良かったと思う」 「……そう?」 「ああ…。今の幸せは…あの頃からの積み重ね…だからな。あの頃の事は…一つも無駄じゃない」 「………うん」 クラウドの言葉に頷いたティファの声が潤んでいたのは……気のせいではないだろう。 そっと身体を離して彼女を背中から抱きしめる。 ティファの肩に顎を乗せるようにして頬を寄せると、クラウドの頬に温かな雫が伝った。 「うん…やっぱり…私も今…幸せだから……」 「ん……」 「これで…良いんだよね?」 「…良いさ。問題は…いつだってこれから……だろ?」 「うん」 そっと身体を離すとゆっくりティファは振り返った。 濡れる頬を拭って、頬を包んで…。 彼女が幸せそうに目を閉じる。 セブンスヘブンの波乱の一夜が静かにその幕を閉じたのだった。 オマケ 「ところで昨日の兄ちゃん、女装がめちゃくちゃ似合ってたよなぁ…」 「そうだね」 「なんか…違和感なさすぎだったよな…」 「またあの格好でお店に来たら面白いね!」 「ああ、絶対に他のお客さん、騙されて口説きにかかると思うな」 「私も〜!」 「こら、デンゼル、マリン。バカみたいなこと言ってないで手伝って」 「「はぁい!」」 「クラウドはこのお皿お願いね」 「ああ」 チリンチリン。 「「「いらっしゃい………ませ………」」」 「…!?」 「えへっ!来ちゃった♪」 「「「「……(絶句)」」」」 あとがき お、終った……(汗)。 また終らなかったらどうしようかと思いました(滝汗)。 クラウドとティファが小さい頃を思い出してちょっと切なくなる……って言うのが、今回の話のポイントだったはずなのに…。 例の如く外れまくり……(遠い目)。 そして、最後の最後で余計なものを……。 本当にすいませ〜ん!!(脱兎) |