「それじゃ、私達先に行ってるから早く着てね!!」
「うん。二人共、みんなの言う事ちゃんと聞いて、大人しく…出来るわよね、二人なら」
「そうだな…。むしろ、子供達よりも心配な要素を沢山持つ人間が他にいる。あいつをどうにか出来るよう、健闘を祈る……」
 ヴィンセントの言葉に、ティファは苦笑しつつ子供達の額にそれぞれキスを贈った。



思いがけずに一人旅 1




 この日。
 仲間達全員の予定を合わせて、皆でボーンビレッジに行く事になっていた。
 リーブが言うには、ここ最近、ボーンビレッジで非常に珍しい古代の遺物が発見される事が多くなったのだそうだ。
 それほど、発掘が進んでいるという証拠なのだが、その発掘した物の中には、何とモンスターをおびき寄せる作用のある物まであるらしく、採掘者達を守る為の人員が急遽必要になったらしい。
 勿論、それほど危険なモンスターは今のところ現れていないものの、手が空いていたら手伝って欲しいとの事だった。
 ティファとクラウドは迷った。
 他でも無い仲間からのSOSなのだから、すぐにでも飛んで行きたい。
 しかし、子供達がいるのではティファは無理だろう…。
 クラウド一人が配達の仕事を暫く休んで、救援に駆けつける…。
 それで話はまとまったかに思えたのだが、
「え〜!ずるいよ〜!!」
「俺も、過去の遺産って奴を見て見たい!!!」
 子供達の猛反対を受けた。
 最初、クラウドとティファはお留守番をしてもらえるよう、宥めたり、説得をしたり、とにかく必死にあの手この手で納得してもらえるように頑張ったのだが…。
 今回に限り、子供達は首を縦に振らなかった。
 その理由は、過去の遺産を見て見たい…という言葉通りのものとは別にもう一つある事に、そのうちティファは気が付いた。

 ここ最近。
 クラウドの仕事が異様に忙しくなっている。
 村と町と街を結ぶ交通網、そして港に続く交通経路、その村と町と街、大陸と大陸を繋げる重要なポイントの各要所で、最近モンスターが出没する確率が高くなっているのだ。
 モンスターの目的は、主に配達で運んでいる食料。
 時には、その配達している人間自体が目的の『食料』になる事もあったりするわけで、現在配達関係の仕事は、危機に瀕している。
 何しろ、モンスターに襲われてもまともにやりあえる人間はそうそういるものではないのだから…。
 配達業者達は、そのモンスターから自分の命と同時に荷物も守らなくてはならない。
 正直、他の一般企業として配達業を行っている一般社員には無理だ…。
 そういうわけで、一般企業は遠距離での配達を断る傾向にある為、必然的に全国どこでも配達してくれる『ストライフ・デリバリー』が大人気で引っ張りだこになっていた。
 というわけで、クラウドは現在早朝から深夜まで、愛車に乗って全国を走り回っている。
 数日間家に帰れない事など、今では珍しく無い。
 そしてその間、子供達がどれほどクラウドを恋しがっているのかも……そして、そんな姿を見せまいと気丈に振舞っていたのかも、ティファには分かっていた。
 だから……。

「じゃあ…行こうか二人共」
 そうティファが言った途端、子供達は飛び上がって大喜びした。
 しかし、その子供達の心情に対してティファに比べると疎いクラウドは、正反対に目を剥き出してティファを見た。
 はしゃぐ子供達を寝かしつけ、ティファが店内に降りてくると、待ちかねていたクラウドが不機嫌そうに開口一番こう言った。
「ティファ…一体何考えてるんだ?これから俺達が行く所はリーブから救援を要請されている所なんだぞ?そんな危険な所に子供達を連れて行くだなんて…!!」
 普段、こんなにも怒った事の無い彼を前に、ティファは少々たじろぎながらも、
「ね、お願いだから私の話を聞いて?」
 そう頼み込んでクラウドをカウンターの定位置に座らせた。
 そうして、フイッと顔を背けてスツールに腰を下ろしたクラウドに、とりあえず彼の為の夕食とお酒を準備する。
 その間、二人共無言だった。
 クラウドはいつになく機嫌が悪い。
 それも、勿論子供達の事を心配して、ティファの発言に対して怒っているのもあるのだろうが、それだけでは無いだろう…。

 クラウドは、連日連夜のハードスケジュールで心身共に疲れているのだ。
 ティファにはそれが良く分かっていた。
 だからこそ、何か口にして、お腹が膨れたら多少は気も落ち着いて話もしやすくなるに違いない。
 手早く夕食を作り終え、お酒と共にそっとクラウドの前に置く。
 しかし、いつになくへそを曲げてしまったらしいクラウドは、そっぽを向いたまま料理に手をつけようともしない。
「クラウド…お腹空いてるでしょう?食べながらで良いから…話を聞いて欲しいの…」
「…………」
「ねぇ。あのね、私が子供達を連れて行くって言ったのは、あの子達が本当はクラウドと一緒にいる時間が欲しかったからなんだよ?」
「…え?」
 漸くティファに向けられたその眼差しは、すこしまだ怒っているようだったが、今はほんの少し躊躇いに揺らいでいる。
 そんなクラウドに少し安堵しながら、ティファは言葉を続けた。
「クラウド、最近子供達の顔まともに見たり、話をする時間が無いでしょう?それは子供達も一緒。だから、本当は二人共とっても寂しがってるの…」
 口では言わないけど…ね。


 ティファの話を聞くと、クラウドはあっという間にシュンと項垂れた。
「確かに……最近全然デンゼルとマリンと話して無いな…」
 呟くように言って暫し考える。
 ティファはその間、じっと口を挟まずにクラウドが決断するのを待っていた。

 そして。
 待っていたティファに、クラウドが期待通りの答えを口にしたのは、言うまでも無い。

「ただし!リーブとちゃんと相談してからだからな」
 喜んで抱きつくティファに、顔を赤くしながらぶっきらぼうに付け加えると、満面の笑みでティファは顔を上げた。
「勿論!私もそう思ってたもん。リーブの許可が無いと子供達は発掘場に入れないだろうしね」
 ニコニコと笑う彼女に、とうとう降参してクラウドも笑みを浮かべた。
 結局、我が家では彼女が一番家族の事を把握して、最善の道を選んでくれるのだ…。

 翌日。
 リーブに早速電話をかけたティファが満面の笑みで電話を切り、配達に出かける直前のクラウドへ了承を得る事に成功したと告げた。

『子供達には採掘場から出ないように約束してもらえたら同行してもらって良いですよ。二人共、採掘者の邪魔をするような子供達じゃありませんからね。それに、採掘場にモンスターが入り込まないようにするのが今回の任務なのですから、子供達がいた方がWROの隊員達も一層気合が入るでしょうし…。何より、子供達に危険が迫った時、クラウドさんとティファさんなら、『火事場のバカ力』が期待できそうで、こちらとしても一石二鳥です』

 そう笑って快諾してくれたリーブの言葉を伝えると、クラウドは苦笑しつつ真面目なのだが愛嬌のある仲間の顔を思い浮かべた。
『ま、今回はリーブに感謝だな』

 クラウドとて子供達との触れ合う時間が欲しいとは思っていた。
 しかし、次々舞い込んでくる配達の依頼に、断る口実がなかったりもして、結局気が付けば仕事優先の生活になっていたのだ。
 周りの人間から言わせれば、

「真面目すぎる!」
「疲れてるなら適当に理由をつけて休日を作ればいいのに!」

 なのだが、そんな器用な芸当が出来るクラウドでは無い。
 こういう表立った名目が出来た事がむしろ有り難い。
 それが、危険を伴う『WROのサポート』という任務であったとしても。

 ティファは嬉しそうにリーブからの返答を聞いて愛車を発進させたクラウドの背中を見送りながら、自身もワクワクと浮き立つ気持ちで店内に戻った。
 子供達もそろそろ起きてくるだろう。
 子供達に今回の事を告げた時に見せてくれるであろう笑顔を思い浮かべ、一人笑みをこぼしたのだった…。

 それから一週間。
 クラウドはそれまで以上に仕事に専念した。
 これまでもイッパイイッパイに頑張ってきたのに、一週間後に出立が決まってからはなるべくそれまでに受けた依頼を消化しようと躍起になっている。
 ティファも、なるべくそんなクラウドの力になれるようにと、消化の良い食事を考えたり、寝る前に彼の疲れ切った身体をマッサージしたりと、自分に出来る範囲で精一杯支えようとした。
 しかし…。
 約束の日が近付くにつれ、クラウドの心身は限界になってきた。
 無理も無い。
 過剰労働もいいところなのだから…。
 深夜に疲れ切って帰宅するクラウドに、ティファの心配は増すばかりだった。
 このままではWROのサポートをするどころか、体調を崩してしまう…。
 ティファは密かに、リーブに断りの電話を入れようか悩んでいた。
 しかし、結局その電話もする事無く、いよいよボーンビレッジに立つ前日を迎えた。

 子供達は明日からのちょっとした小旅行に備え、既に就寝している。
 ティファも店を早めに閉めて明日の準備の最終チェックを行っていた。

 店内の時計が鳴り、ティファは目を向けた。
 深夜零時…まだクラウドは帰宅していない。
 昨夜も帰宅したのは零時を回っていた。
 そして、今朝、配達に出かけて行ったのは六時。
 いくらなんでも過剰労働し過ぎている。

 このままではモンスター退治をしている時に、本当の力を出せず、逆に危ない目に合うのではないだろうか?

 そんな心配が胸に広がる。
 常のクラウドなら全く心配ないのだが、今は疲労のピークをとっくに過ぎている。
 万が一…という事態が訪れてもなんら不思議は無い。

『ボーンビレッジに着いたら、とりあえず初日だけでもゆっくり休ませて貰おう…』

 ティファは不安を払拭するようにそう決めると、未だ帰らない愛しい人の帰りをじっと待った…。
 やがて、時計がもう一回りを過ぎた時、裏口がそっと開けられる物音がした。
 ティファは弾かれた様にカウンターのスツールから立ち上がると、裏口へ飛んで行った。
 顔色も悪く、疲れ切って重い足を引きずるクラウドに、ティファは声を詰まらせた。
「…ただいま…」
「あ…おかえり!!」
 クラウドの疲弊しきった声にハッとし、慌ててクラウドの肩から荷物を受け取る。
「…クラウド…夕食どうする?」
 遠慮がちに尋ねるティファに、クラウドは億劫そうに首を横に振り、
「シャワー浴びたらもう寝る…」
 一言口にして階段をノロノロと上って行った…。
 疲労の色濃いクラウドに、ティファは他にかけるべき言葉も見つからず、そのままその背が消えるのを見つめていた…。


「どうしよう…」
 クラウドの為に用意していた夕食を片付けながら、誰に言うともなくポツリと呟く。
 さほど広くない店内に、その呟きがやけに大きく響いた気がした…。
 たった今帰宅した彼の様子を見て、ティファは迷っていた。
 このまま予定通りボーンビレッジに行ったとしても、恐らく今のクラウドではモンスター退治など出来ない。
 例え、一日休ませてもらったとしても、あれ程疲れ切っている状態だと大して回復しないだろう…。

 ティファは動かしていた手を止め、シャワーの音が止んだ二階に思いを飛ばした。
 きっと、今頃は髪も乾かさずにベッドに潜り込んでいるだろう彼を思うと……。
 とてもじゃないが、明日……いや、正確にはもう『今日』になるのだが、予定通りボーンビレッジに向かう事は出来ない。
 クラウドは意地でも行こうとするだろうが…。

 ティファは深く溜め息を吐くと、店内の電気を消し、寝室へと向かったのだった…。


 翌日。
 朝からセブンスヘブンには不穏な空気が重く垂れ込めていた…。
 子供達は、困ったように顔を見合わせては親代わりの二人を前に、どうしたものかと頭を抱えていた。

 ティファの予想通り、クラウドは予定通りボーンビレッジに行くと言って聞く耳を持たなかった…。
 そして、ティファも今回ばかりはクラウドの意見に折れるつもりはなかった。

「だから、そんなにフラフラなのに、向こうに無理して行ってもまともに戦えないわよ…」
 一晩休んでも顔色も悪く、明らかに疲労が色濃く残っているクラウドを宥めるようにして説得するティファに、クラウドはイライラしながら応対する。
「大丈夫だ!シエラ号で横にならせてもらうし、それでもまだ体力が回復しないようなら向こうに着いてからも少し休ませてもらう!」
「ダメだよ…。無理したら逆に大変な事になるって分かるでしょう?」
「無理じゃない!大体、何の為に一週間無理してたのか分からないじゃないか!」
「それは…分かるけど…。でも、だからって無茶する意味が無いじゃない…」
「意味が無いってどういう意味だよ!」
「だから、そんなに顔色悪くてフラフラな状態で、どうやってWROの人達をサポートするの!?」
「それこそさっきから言ってるだろう!?シエラ号で…」
「クラウド!二年前の旅だって飛空挺でまともに眠れた事なかったじゃない!それなのに、シエラ号で横になったからって何とかなるはず無いでしょう!?」

 最初は意地になっているクラウドを宥めていたのだが、段々聞き分けの無い彼にティファはとうとう腹を立てた。
 語気を荒げた彼女に、最初から苛立っていたクラウドは益々眉間のシワを深くし、眉を吊り上げた。

「ティファ…、いつからティファは俺の母親になったんだ!?」
「な……」
「そんな風に子ども扱いされなくても、自分の健康管理くらい出来る!」
「わ、私はそんなつもりは…。クラウドの事を心配して…」
「だから、それが子ども扱いだって言ってるんだ!!!」

 いつになくきつい口調のクラウドに、ティファは頭に上っていた血が一気に下降した。
 しかし、クラウドはそうではなかったらしい。
 自分の言葉に煽られたかのように、
「もう良い!説教は沢山だ!!」
 止めの一言を吐き捨てた。

 この台詞に、ティファだけでなく子供達もびっくりして固まった。
 重苦しい空気が流れる。
 目を見開き、固まっている三人にようやくクラウドは自分が何を言ってしまったのか理解した…。
 しかし、口から出た言葉は戻ってこない。
 更に悪いことに……。
 この時のクラウドは、溜まりに溜まっていた疲労の為か、素直な謝罪の言葉を口にする事が出来ない心境だった。
 謝る事も、場を取り繕う言葉も口に出来ず、ただただ苦い思いが胸を侵食する。

 クラウドはグッと唇をかみ締めると、その場から逃げるように足音も荒く、デリバリーサービスの事務所へ去ってしまった…。
 残された三人は、暫しショック状態のまま呆然としていたが、クラウドの背が階段の向こうへ消えてから、デンゼルとマリンは恐る恐るティファに近付いた。
「ティファ……」
「あのさ……」
 しかし、声をかけたところで何を言って良いのか分からない。
 それに、子供達自身も未だに激しく動揺していた。

 あんなにティファに対して怒ったクラウドは、今まで見た事が無い。

 半分泣きそうな顔をしている子供達を前に、ティファは怒鳴られた衝撃から無理やり震える己の心を叱咤し、引き攣った笑みを浮かべた。
「ごめんね、二人共…。怖かった…よね…?」
 そう言って、二人をギュッと抱きしめる。
 デンゼルは泣くまいと唇をかみ締め、マリンは小さな肩を震わせて声を殺して泣き出した。
 子供達を抱きしめながら、ティファは大きく深呼吸を繰り返し、自分の心を落ち着かせる。
 そうして、二人をそっと解放すると、苦笑して見せた。
 その苦笑いは、先程見せた引き攣った笑いよりもうんと安心する表情だった。

「クラウドと少し話をしてくるから、ちょっと待っててくれる?」
 不安そうに見上げながらコックリと頷く二人を店内に残し、ティファは二階へ向かった…。

 階段がこんなに長く感じるのは初めてだ。
 一段一段踏みしめながら、自己嫌悪に陥っているであろう彼の事を思う。
 疲労が溜まっているクラウドに、真っ向から彼の意見を否定するような事を言ってしまった自分が情けない。
 もっと…もっと、考えて言葉を選べば良かったのに…。
 クラウドが帰宅するまで毎晩寝ずに待っていたティファ自身、かなり疲れが溜まっていたらしい…。

『これじゃ、クラウドの事ばっかり言えないよね…』

 自嘲気味な笑みに口許を歪めながら、ティファは事務所のドアをノックしようと手を上げた。
 その時、事務所の中から電話のコール音が聞えてきた。
 何となくノックするタイミングを逃してしまったティファは、そんままドアの前でクラウドが電話で話をしているのを立ち聞きする形になってしまったのだが…。

『はい、ストライフデリバリーサービスです。……いえ、今日から一週間休暇を頂いてます。………ええ、ですが……。はい……。はい……。え…?しかし、こちらも事情がありまして……。はぁ、そう言われても……』

 配達の依頼が来たらしい。
 それも、何やら切羽詰った内容のようで、断りを入れているクラウドの歯切れが悪い。
 イヤな予感が胸を占める。
 そして、ティファのその予感は裏切られる事はなかった…。


 扉を開けたすぐ目の前に立っていたティファに、クラウドはギョッとして仰け反った。
 俯いている為に彼女の表情は見えないが、怒っている事だけは雰囲気で分かる。
 恐らく、今の電話のやり取りを聞いていたのであろう…。

 クラウドは気まずい思いをしながら、深く息を吸い込んで口を開いた。


「断れない仕事が入った」




「はぁ〜!?何それ、仕事断るって言ってたじゃん!!」
 セブンスヘブンに迎えに来たシドに同行したユフィが、店の前で怒鳴り声を上げる。
 道行く人達が、何事か!?と振り返るが、それにも全く動じる事無く、疲れた顔をしているティファに詰め寄った。
 クラウドは既に依頼主の所へ出かけてしまっていた。

「うん…。どうしても今日中に届けてもらわないと困る物があるんだって…」
 俯き勝ちになるティファに、流石のユフィもそれ以上詰問口調を続ける事は出来なかった。

 シドがタバコの煙を吐き出しながら、元気の無い子供達とティファを見る。
「よぉ…何かあったのか?」
 投げやり口調なクセしてどこか温かみのある言葉に、子供達が潤んだ瞳を向けた。
 その今にも泣き出しそうな表情に、ユフィとシド、そして同じく出迎えに同行『させられて』いたヴィンセントは眉を寄せた。
 いつも元気一杯な子供達が、こんなにも辛そうな顔を見せるとは…。
「うん……ちょっと…ね」
 言葉を濁すティファの態度も、二人は気になった。
 いつも、自分の中に溜め込んで無理をするティファに、相談下手なクラウド…。
 急な配達の仕事が入った以外に何か良くない事があったのだ……。
 そう判断するのにやぶさかではない。

「それで…どうする?」
「え…?」
 ヴィンセントが子供達の頭に手を乗せながらティファに問いかけた。
「クラウドが戻るまで待つのか?それとも、先に行ってるか?」
「あ……うん……」
 ティファは、先程のクラウドの言葉を思い出す…。


『どうしても今日中に届けないと困る品があるそうだ。だから、配達が終わったら俺は船で直接ボーンビレッジに向かうから、先に行っててくれ』


 たったそれだけを告げると、急に配達の仕事が入った事に対して謝罪の一言もなく、クラウドは仕事に行ってしまった。
 あまりの事に、その場で呆然としていたティファには、クラウドが出掛けに子供達に何と言っていたのか分からないままだ。
 また、今のティファにはそれを聞く勇気もなかった…。

 優しいクラウドの事だから、子供達には謝罪を述べたかもしれない。
 しかし、もしかしたら……。
 今日のクラウドはかなり動揺していたので、それすらしていないかもしれない。
 もしもそれすらしていなかったら……!?
 子供達の心痛はどれ程深いことか…。
 そして、そう思いながらも、それをあえて聞くだけの余裕が無い自分が、また何とも言えず情け無い…。


 結局ティファは、
「先に行っててくれって。配達先から直接船に乗ってボーンビレッジに向かうって言ってた…」
 そうヴィンセントに返答した。
 すると、意外な事に子供達が声を揃えて反対したのだ。
「ティファ!ティファはここに残ってて!」
「うん、ティファも最近クラウドに付き合って朝早くに起きて夜遅くに寝てたから、ゆっくり出来なかったでしょう?」
「クラウドには後で電話入れてさ、ティファがまだ店にいる事を伝えておくから!」
「だから、俺達先に行って向こうで待ってるから、ティファはクラウドと一緒にボーンビレッジに来てよ!」


 子供達が、自分達が仲直りする為に咄嗟に考えたであろうその計画に、ティファは涙が出そうだった…。
 そして、心から感謝した。

「シド、ユフィ、それに…ヴィンセント…。私とクラウドが着くまで子供達をお願いしても…良いかな…?」
 躊躇いがちに頭を下げるティファに、仲間達は、
「あったりまえじゃん!」
「おう、任せとけ」
「少なくとも、そっちの大きい子供よりはこの子供達の方がうんと大人だろうからな。心配要らない」
 そう快諾してくれたのだった…。
 その言葉と温かな笑みに、ティファは堪えきれずに一雫の涙をこぼした…。


「それじゃ、私達先に行ってるから早く着てね!!」
「うん。二人共、みんなの言う事ちゃんと聞いて、大人しく…出来るわよね、二人なら」
「そうだな…。むしろ、子供達よりも心配な要素が沢山目の前にいるじゃないか……」
 ヴィンセントの言葉に、ティファは苦笑しつつ子供達の額にそれぞれキスを贈った。


 エッジの郊外に停泊している飛空挺まで見送りに行き、そこでシエラ号が見えなくなるまで手を振っていたティファは、空の彼方に飛空挺が見えなくなって、漸くセブンスヘブンへの帰路に着いた。
 胸にはまだ、大きな不安が残っている。

 本当に…、仲直りが出来るだろうか…。
 勿論、自分も言い過ぎたが、クラウドも……結構酷かったよね……。
 しかし、決してそんな彼に腹を立てているのではない。
 むしろ、そんなにひどい事を言わせてしまったのが自分だという事に、また更にティファの思考は暗く沈んでいくのだった。



「クラウドとティファ……仲直り出来ると良いなぁ……」
「うん……」
 シエラ号のデッキで、相変わらず元気なく身を寄せ合っている子供達に、
「心配するな。大丈夫だ、二人共不器用だが大人だからな」
 そう言って慰めてくれたのは、意外にもヴィンセント。
 寡黙な青年の言葉に、子供達はまだ不安そうな顔をして青年の横顔を見つめる。
「それに、クラウドにはティファ、ティファにはクラウドが必要だろう?自然と上手くいくさ」
 その一言で、子供達は胸の中の靄がスーッと晴れるのを感じた。

 そうだ。
 クラウドもティファの、お互いに絶対に必要なんだから!!
 だから…。
 きっと大丈夫だよ……うん。


 明るい顔になった子供達に、うっすらと笑みを浮かべたヴィンセントは、
「風邪を引くなよ」
 と、声をかけてから艦内に戻って行った。

「大丈夫だよね」
「ああ…絶対にボーンビレッジに着いた頃には二人共ラブラブになってるよ!」

 すっくと立ち上がった子供達の表情は、すっかり明るくいつもの元気を取り戻していた。
 そして、二人揃って仲良く艦内に戻ったのだった…。



 あとがき

 はい。まだまだ続きます。下手したら……長くなりすぎるかも……(汗)。
 という訳で、今回のお話は(前編)とかの書き方をしなくて久々の長編とあいなりました(苦笑)。
 最後までお付き合いくだされば、嬉しいです♪