思いがけずに一人旅 20




「……なんでこんな事になってるんだ……?」
「…………………」

 澄み渡る青空、青い海、白い砂浜。
 めまぐるしく変化した自分達の置かれている状況に、クラウドとティファは呆然とするばかりだった。



 ボーンビレッジで出現した化け物をライフストリームに叩き落し、その存在を消し去る事に成功したのはつい昨日の事。
 今は翌日の昼食時だ。
 化け物を叩き落した時には、既に一番星が空に輝いていた。
 喜び祝うシエラ号のクルー達に引き上げられた英雄達は、そのままシエラ号でミディール村へ向かった。
 とにかく、一刻も早く負傷したシュリを治療する必要があったからだ。
 孤島に着陸していた他の隊員達も収容し、その隊員達から残っていた回復アイテムを全部使用したお陰か、シュリは一命を取り留めた。
 もっとも、ミディールの医者が言うには、
『……この青年は人間か……!?』
 だそうだが…。

 まぁ、何はともあれ助かった命に、英雄達は勿論、皆が飛び上がって喜んだ。
 ところが…。
 この事実を知らずにクラウドとティファは深い眠りに落ちてしまっていた。
 シエラ号で子供達と再会し、ひとしきり喜びを分かち合った後、二人して倒れたのだ。
 極度の過労と睡眠不足の結果であった。

 と、言うわけで、それらの詳細を二人が知るのは少々先になる…。


「……どうして目が覚めたらコスタの宿なんだ……!?」
「…………さぁ……」


 そう。
 クラウドとティファは、現在コスタの宿のテラスに呆然と突っ立っているのだ。

 最初に目を覚ましたのはティファだった。
 ティファは、全く見覚えの無い天井にベッドに横たわったまま首を捻った。
 そして次の瞬間、ガバリと跳ね起きると隣のベッドで熟睡しているクラウドを叩き起こした。
 目をこすりながら寝ぼけているクラウドを強引にベッドから引きずり出し、二人してテラスへ出た。
 そこで目にした光景が…。
 冒頭になるわけだ。


 暫く呆けていた二人だったが、ノックの音でハッと我に返る。
 大慌てでドアを開けると、宿のハウスキーパーがその勢いにギョッとして後ずさった。
 その彼女に、クラウドとティファは自分達がどうやってここに連れて来られたのか詰め寄るようにして尋ねた。
 彼女曰く…。


 本日の早朝、浅黒い肌をした巨漢がクラウドを、真っ赤なマントを羽織った美青年がティファを抱えてやって来たらしい。
 その二人の足元には隻眼の獣。
 二人が目を覚ましたら渡すように頼まれた物がある、と、彼女が差し出したのは小さな箱。
 いくら待っても起きてこない二人の様子を見に来たのだと言う。
 その彼女に対し、お礼の言葉もそこそこに、二人は慌てて箱を開けた。
 自分達をここに運んだのがバレットとヴィンセント、そして、ナナキである事は分かったが、その真意がさっぱり分からない。

 大急ぎで箱を開けた二人は、中身を見てキョトンとした。

「「携帯…?」」

 何の変哲も無い黒い携帯電話。
 そして、携帯の上には番号が書かれたメモ用紙。

 ハッと何かに気付いたクラウドは、ポケットを探る。
「ない……」
 ポツリと呟いた言葉に、ティファもクラウドの言葉の意味に気付いて自分のポケットを探った。
「私もない……」
 二人して顔を見合わせると、ベッドを振り返る。
 ベッド横には二人の荷物がきちんと置かれていた。
 そのカバンの中を探るが……。
「……やっぱり……」
「……ないわね……」
 クラウドとティファは同時に溜め息を吐いた。

 二人の携帯が抜き取られていたのだ。
 いちいち、携帯に入力している番号など覚えていない。
 せいぜい覚えているのは、自分の番号とお互いの番号だけ。
 子供達の番号ですら覚えていないのに、仲間の番号など全く分からない。

 クラウドとティファは、メモに記されている番号にかけるしか道がない事を悟った。

「なんとなく…気が進まないな…」
「……そうね…」
「でも……仕方ないよな……」
「……そうね……」

 力の無い会話を交え、クラウドは黒い携帯のボタンを押した。

 数回のコール音の後、出たのは…。


『やぁ、目が覚めましたか?』
「……リーブか……」
 陽気なWROの局長の声に、クラウドは深く息を吐いた。
 ティファが目を丸くしている。
 まさか、リーブがこんな事をしたとは想像していなかったからだ。
 せいぜい、あのお元気娘が中心になっているものとばかり思っていたのに…。
「リーブ……一体どういうつもりだ……?」
『いや…それがですねぇ…』
 リーブが言いにくそうにしていると、何やら『おい!クラウドからか!?それとも、あのシュリって野郎からか!?!?』というバレットの怒鳴り声が漏れ聞えてきた。

「???」

 何やら携帯の向こう側から不穏な空気が流れてくるようだ。
 クラウドは眉を顰め、「おい……どうしたんだ……?」と、躊躇いがちに声をかけた。
 すると…。

『わわ…、ちょ、ちょっとバレット、待って…!』
 というリーブの慌てた声が聞えたかと思った瞬間、


『くおら、クラウド!!てめぇのせいでマリンが人質に取られちまったじゃねぇか!!!!』


 バレットの重量感たっぷりの怒声がクラウドの鼓膜を直撃した。

 携帯から離れていたティファにもしっかり聞えたバレットの怒鳴り声に、ティファは目を丸くし、クラウドは思い切り顔を顰め、慌てて携帯を耳から遠ざけた。
 そのクラウドの手から携帯を取ると、
「ちょっと、バレット!マリンが人質に取られたってどういう事!?」
 ティファの金切り声に、今度はバレットが携帯の向こうで呻き声を上げる番だった。

『ティファか?』
「ヴィンセント!?」
『……そんなに大声を出さなくても聞えるから、少し落ち着いてくれ。でないと話しも出来ない…』
「あ……ごめんなさい…」

 寡黙な仲間の冷静な声に、ティファは少し冷静さを取り戻した。
 クラウドも耳をこすりながら、携帯の向こうの声を聞き取ろうと、携帯に耳を近づける。
 自然と顔を寄せ合うような形になり、二人はハッと赤くなったが、
『実はな…』
 と、真相を語りだしたヴィンセントに、再び意識を携帯から聞こえてくる仲間の声に集中させた。







「………ウソでしょう……?」
『…ウソだと思うか………?」
「……ごめんなさい…ただの願望よ…」
『期待を裏切って悪いが……』
「……そう……」
『と言うわけだ。とてもリゾートを味わう気分じゃないかもしれないが、とにかく楽しんでくれ。子供達なら大丈夫だろう……多分…』
「……そうね……」
『では、リーブに代わる』

『ティファさん……大丈夫ですか……?』
「……まぁ…身体は大丈夫よ…」
 ティファの返答に、リーブが苦笑した気配が伝わってきた。
 ティファは、チラリと視線を横に流した。
 そこには、蒼白な顔をして呆然としている愛しい人の横顔。
 自分も充分驚いたが、クラウドは自分以上に驚いているようだった。
 何となく、そんな彼の横顔にホッとするのは……何故だろう……?

 自分の中の感情に内心で首を傾げつつ、ティファの耳は携帯の向こうへ集中していた。

『すいません……まさかシュリがあんな行動に出るとは夢にも思っていませんでしたから……』
 なんとも申し訳なさそうなリーブの言葉に、ティファは苦笑した。
「ううん、良いの。きっと、シュリ君なりに気を使ってくれたのよ…」
『はぁ……まぁ、そうだと思いますが…それにしても……』
「ん〜、勿論デンゼルとマリンを『人質』にしたのはちょっとどうかと思うけど…。案外あの子達の方から言い出したような気もするし……」
『…そうでしょうか……』
「…うん……多分……」
『まぁ…そうかもしれないですねぇ…。シュリが他人に対してお節介な行動に出た事は私の知る限りではありませんから…』
 どこか少し安心したような声をするリーブの後ろから、
『バッカ野郎!そんな悠長な事言ってられるかよ〜〜!!』
 という、バレットの雄叫びが響いてくる。
 仲間達が、溜め息を吐きつつ宥めている気配をひしひしと感じながら、ティファは困ったようにクラウドを見た。
 クラウドも同じ様に困り果てた顔をしている。
 二人して困ったような顔をしていたが、立ち直ったのはティファが早かった。
「それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな……。そうしないと二人共返してもらえないみたいだし…」
 照れながらそう言うティファに、クラウドがびっくりしたように目を丸くした。
 携帯の向こうでは、リーブがホッと安堵の溜め息を吐いている。
『そうですか。良かった…。では、お二人とも頑張って……と言うのもおかしいですが、しっかり休暇を満喫して下さい』

 リーブの穏やかな声援を受け、ティファは携帯を切った。



 リーブからの説明はこうだ。

 ミディールの診療所で一時入院となったシュリが、今朝、リーブ達が訪れた時には既にいなくなっていたと言う。
 おまけに、枕の上には書置きが残されていたが、それが驚くべき内容だった。


 ― 局長へ。

 勝手を言いますが、暫く休暇を頂戴します。
 つきましては、まだ不自由の残る右肩の療養中、デンゼル君とマリンちゃんに看病をお願いする事にしました。
 子供達の了承は得ています。
 尚、子供達をクラウドさんとティファさんの元に返すか否かは、今後のお二人の『状況』によります。
 正直申しまして、『痴話喧嘩』の仲裁という職務はWROにはないはずです。
 しかし、今回の局長からの命令は明らかに職務外です。
 今後、局長の大切なご友人が同様の状況になる事が無いよう、お二人に強くご進言下さい。
 お二人が絶対に子供達を不安にさせるような事が無い……と判断が出来次第、子供達を自宅に送ります。
 しかし、それに対して確信が持てない間は、いつまでも子供達がエッジに帰る事はありえません
 と言うわけですので、自分がいつ隊に復職するかは、クラウドさんとティファさんにかかってます。
 その事を重々お二人に申し伝えておいて下さい。
 更に、お二人が自分と子供達を探し出そうとするかもしれませんが、それも諦めるようお伝え下さい。
 自分は、潜入のプロです。
 子供達を赤の他人の様に変身させる事も充分可能ですし、子供達と自分の計三人の痕跡を残さずに一生を過ごす術も充分身に着けています。
 勿論……それは、局長ご自身が充分承知して下さってるとは思いますが…。
 では、これにして失礼します。

 ― シュリ ―


 その書置きを読み終えた途端、バレットは発狂寸前になり、ユフィは楽しげに口笛を吹き、ナナキはニッコリと笑みを浮かべ、シドは「へぇ…あの兄ちゃんも中々やるじゃねぇか!」と面白そうに笑い、ヴィンセントまでが薄っすらと笑みを浮かべた。
 要するに、バレットとリーブ以外は、シュリの行動に諸手を挙げて賛成したわけだ。
 ユフィなどは、
「じゃあさ!お流れになってた『二人をラブラブバカップルにするぞ作戦』を決行したら良いじゃん!!」
 と言い出し、誰もこれに反対出来なかった為、眠っている二人に睡眠スプレーを少々噴射させて絶対に起きないよう念には念を入れて、クラウドとティファをコスタに運んだのだった…。
 当然、この事実はクラウドとティファの携帯では伝えなかったエピソードである…。



 クラウドとティファからの携帯を切った直後、クルーの一人が通信を知らせた。
「誰からです?」
 WROの局長の顔になって尋ねるリーブに、シエラ号のクルーは、
「あ、シュリ隊員からです」
 あっさりとそう言った。

「なにーーーー!!!!」

 大声を上げたのは勿論、バレット。
 なにしろ、目に入れても痛くない可愛い娘が拉致されたのだ。
 その犯人からの通信が来ているというのに、平常ではいられない。
 リーブに差し出された通信機を横からひったくると、バレットはありとあらゆる暴言を喚き散らした。
 その巨漢の男に、クルー達がびっくりして後ずさる。
 危険なものから身を守るのは、生き物としては当然だ。
 そんなバレットをシドが「やかましい!!」と一喝し、ユフィが思い切り後頭部を殴り飛ばした。
「いってーーーー!!!」
 別の悲鳴を上げながら、蹲って悶絶するバレットを、ナナキが気の毒そうに鼻を摺り寄せる。
 仲間達のその行動に、乾いた笑いを漏らし、リーブは回線を開いた。


『局長、おはようございます…と言うには時間が経ち過ぎていますが…』
 淡々としたいつもの口調が操舵室に響く。
「……シュリ……あのですね……」
 あまりにもいつもと変わらない部下の口調に、リーブは額に手を当てた。

 やはり、ここは最終責任者として部下の勝手な行動を叱るべきだろうか…?
 しかし、何と言って良いのやら…。
『了承も無く勝手に休暇を取るとは!!』
『子供達を人質にして姿を消すなど、言語道断!!』
 更には、ヘリが一機なくなっていたので、それに対しても言及しなくてはならない…。

 ………叱責しなくてはならない事が多すぎてどれから突っ込んで良いのか分からないじゃないですか……。

 あれこれ言葉を探して悩んでいる上司の心情を知ってか知らずか…。
『局長、クレーズさんはそこにいますか?出来れば代わって頂きたいのですが…』
 その言葉にクレーズが目を丸くする。
 他の乗組員達は、この異例ともいうべき状況に感覚が麻痺したのか、ポカンとしていた。

「え……はぁ…いますが……その前に、シュリ…。あのですね」
『申し訳ありません。叱責は隊に復帰してからお受けします。今は時間が限られていますので、クレーズさんに代わって下さい』

 せめて一言上司らしく叱責を……と思ったリーブの言葉を遮る部下に、リーブは深い溜め息を吐いてクレーズに場所を譲った。

 クレーズは何やら緊張気味に口を開いた。
「もしもし…?」
『クレーズさん。時間が無いので単刀直入に話をさせて頂きます』
「お、おう…」
『今回、あの遺物を発掘されたのはクレーズさんだと聞きましたが、間違いないですか?』
「お、おお……まぁ……」
『それから、遺物の入っていた『壺』を割ったのもクレーズさんで間違いないですか?』
「………おう…」
『そうですか…』
「………………」

 微妙な沈黙が流れる。
 喚き立てていたバレットも、シュリの話しが掴めずに黙って首を捻っていた。
 クレーズなどは額に汗まで浮かべている。

『それじゃ、クレーズさんには約十ヶ月分労働して頂きます』
「は!?!?」

 その言葉に、クレーズばかりでなくシエラ号の乗員達が目を点にした。

 そんな乗員達を全く無視し、淡々とした口調でシュリが説明をする。

『まず、貴方があの遺物を発掘しなければ、あの遺物は地中で悠久の時をかけて星に還るはずでした。しかし、貴方が発掘し、外気に…つまり『空気』に触れさせたせいで、既に星に還っていた『ドラゴン』がライフストリームから逃げ出してきたんです。それだけならまだマシだったんですが、人工の機械に触れさせましたよね?X線でしたか??そのせいで、『ドラゴン』がより明確にかつての姿に戻ってしまったんですよ。最悪な事に、貴方は『封印の壺』を壊してしまった。その為に『ドラゴン』が『己の一部だった物』から『エネルギー』を得てしまったんです。だから、あんなに手強くなってしまったんですよ。ここまでは分かりましたか?』

「「「「「…………………」」」」」

 誰一人、シュリの説明に頭がついていっていない。
 しかし、シュリはこれ以上詳しく話すつもりは無いようだ。
 さっさと次の台詞へ移ってしまった。

『そこで、今回の約十ヶ月分の労働の説明です。あの『ドラゴン』によってダメにされてしまった『マスク』。あれ、五十万ギルするんですよ』
「ゲッ!!」
 金額を聞いたユフィがギョッとした。
『クレーズさんの一月分の給金は、大体二十万ギルですよね。水道光熱費等の必要経費を除いて、自分が自由に出来る金額は大体七万ギルだと計算しています。そこで、五十万ギル弁償出来るのは、約七ヶ月。でも、七万ギル全てを毎月弁償代につぎ込むことは不可能でしょう?ですから、月々五万ギルずつ払って頂くと十ヶ月で済みます。しかし、まぁ月々二万ギルしか自由になるお金がないと何かと不自由でしょうから、今回は肉体労働という事でチャラにして差し上げます』
「…………意味が分からん……」

 顔面蒼白になってポツリと呟くクレーズに、シュリは無情にも言葉を続けた。
『ですから、五十万ギルは勘弁して差し上げますから、十ヶ月は俺の言う通り働いて下さい。それで勘弁して差し上げます。本当は、あの『マスク』は出来たばかりの新品だったので、あと二ヶ月は使用出来たんです。それを計算しても一年は働いてもらいたい所ですが……まぁ、俺も鬼じゃないので十ヶ月で大目にみましょう』

「充分鬼じゃねぇか……」

 シドがボソッと呟いた。
 誰もそれに反対しない。
 クレーズにいたっては、開いた口が塞がらない状態で、真っ青な顔で虚ろな目をしている。

『と言うわけですので、局長。クレーズさんは今日から十ヶ月、科学班の一員として骨惜しみせずに働いてくれる事になりました。既にシャルア博士に連絡済みです』

「「「「はい!?!?」」」」

『では、俺はこれからデンゼル君とマリンちゃんの三人で、潜入捜査に突入します。以後、連絡は取れませんから、クラウドさんとティファさんが早く仲直り出来るよう、祈って下さい。では』

 プツッ。

 通信は切れた。
 後には、何とも微妙な沈黙だけ…。
 リーブは、前々から引き抜きたくて仕方なかった優秀な人材を手に入れた事になるのだが…。

 ― 素直に喜んで良いのでしょうか…… ―

 優秀すぎる部下に頭痛がするのだった…。





「ティファ…あのさ」
 リーブとの電話を切った後、暫く呆けていたクラウドだったが、何やら嬉しそうな顔をしてテラスに出ていたティファに、おずおずと声をかけた。
 無言のまま振り返った彼女に、ドキンと心臓が跳ねる。
 澄み渡る青空と白い砂浜、そしてキラキラ輝く大海を背にした彼女は、目を奪われるほど美しい…。
 クラウドは言葉をなくしてティファを見つめた。
 そんなクラウドを、ティファは恥ずかしそうに俯き、はにかんだ笑みを浮かべている。

 その仕草の一つ一つが心を攫う。

 クラウドは吸い寄せられるようにティファへ近付いた。
 そして、そのまま自然な動作でティファをそっと抱きしめた。
 ティファも自らの腕をクラウドの背に回す。

 暫くそうして互いの存在を感じ、互いの香りにうっとりと目を閉じていた。

「あのね…クラウド…」
「ん…?」
 互いの鼓動に耳を傾けながら、口を開く。
「私、今回一人で船に乗ったり、セスナに乗ったりしたでしょう?あ、勿論、セスナにはスーンさんが一緒だったけど、仲間でも友人でもない人だったじゃない?気の置ける人と一緒に旅をしなかったのは、今回が初めてだったの」

「………その…ティファ、悪か」「良いの!違うの!!」

 クラウドの謝罪の言葉を遮り、ティファは顔を上げた。
 茶色の瞳が小さく揺れている。
 吸い込まれそうなその瞳に、クラウドは目が離せない。

「あのね。今回の『一人旅』で分かったの。私、皆に……特にクラウドに甘えてたんだなぁって…」
「そんな!俺の方こそがティファに甘えてて…!!」
「ううん、違うの。そうじゃないの、クラウド…」
 ティファの言わんとしている事が分からず、クラウドは黙って見つめる。
 魔晄の瞳に、自分の姿を写したまま、ティファは言葉を続けた。
「私ね。クラウドが一緒に生きてくれないとダメなんだって事に……当たり前の事を今更痛感したの」
「………ティファ…」
「子供達が傍にいてくれてもダメなの。子供達がいてくれても……クラウドがいてくれないと……ダメなんだって…そう分かったの…」

 そう言って、ティファは再びクラウドの胸に顔を埋めた。
「だから、今回一人で旅をする機会を持てて、良かった……って思ったわ。でないと、きっとこれから先、大変な間違いをしちゃうところだったかもしれないし…」
 そう言って、照れ臭そうにもう一度顔を上げたティファを、クラウドはきつく抱きしめた。

「俺の方こそ……ティファに愛想尽かされてたらどうしよう…ってそればっかり考えてた」

 クラウドの告白に、ティファは僅かに身体を強張らせた。

「本当に…?」
 耳元で囁くように尋ねる愛しい人に…。
「本当に」
 ハッキリとそう口にした。

 ティファが満面の笑みを浮かべ…。
 クラウドが魔晄の瞳を優しく細め…。

 二人がそっと唇を合わせた姿は、まるで誓いの儀式のようだった…。



 その後、二人は一般のカップルよろしくコスタで過ごし、心から楽しく幸せな時間を過ごした。



 そんな二人が、ユフィの言う『ラブラブバカップル』になってエッジに帰ったのは三日後。

 自分達が仲直りした事をどうシュリに伝えるか考えていた二人だったが…。



「「お帰りーー!!!」」
「想像以上に早かったですね」

 出迎えた三人の姿にびっくりする事になった。


 結局、シュリと子供達はシエラ号からまっすぐセブンスヘブンに戻ったのだと言う。
 何ともしてやられた感が否めず、少々不貞腐れてリーブ達に書置きしていた内容と違う事を指摘したクラウドに…。
「『敵を騙すにはまず味方から』って言うじゃないですか」
 シレッとそう言い返された。
「ほんとに……お前は大した奴だ……」
「ありがとうございます」
 ガックリと脱力するクラウドに、シュリは無表情で返すと早々にセブンスヘブンを後にした。

「もう行っちゃうの?」
「もっとゆっくりしてくれよ〜!」
 せがむ子供達の頭をポンポン叩き、
「任務が山積みなんだ」
 そう言って、あっさりと帰ってしまった。

「何か……本当にシュリ君ってあっさりしてるわね」
「まったくだ…」

 呆気に取られる親代わりの二人に、
「でも、シュリ兄ちゃんってすっごく物知りなんだ!」
「とっても面白いお話し沢山聞かせてくれたの!!」
「それに、料理も上手でさ〜!びっくりしたよ!」
「それにそれに、お兄ちゃんって本当はすっごく優しいんだよ!!」
 子供達が嬉しそうにこの三日間であった事を話して聞かせたのは…。

 また別のお話し。



 クラウドとティファが仲直りをし、以前よりも幸せそうな二人の姿に、子供達が満足そうに英雄達に知らせたも…。
 当然のこと。



 そんなこんなで、セブンスヘブンは今日も幸せで満ちている。



 あとがき

 終りましたー!!
 予定より二倍も長くなってしまったこのお話。
 本当は、ボーンビレッジにクラティは行かないで、コスタでリゾートする予定だったんです。
 ところが…。
 どこで間違えたのか……(恐らくクレーズを登場させたことでしょうが…苦笑)強いモンスターを出さずにはいられない状況になってしまい…。
 そんなにもヤバイ敵が現れたのにクラティが闘わないわけにもいかず…。
 あれよあれよと言う間に、こんなに長くなりました…(汗)。
 本当にここまでお付き合い下さってありがとうございました!!
 こんなにダラダラと続けてしまって申し訳ないです(^^;)。
 応援してくださった皆様に、心からの感謝を…。

 あ、それからこの回を読んで頂いて分かられた方もおられると思いますが…。
 何故シュリがあんなに物知りなのか…解き明かされていないのですよねぇ…。
 そのお話はまた後日、番外編などで語りたいと思います。
 とりあえず…。
 これにて『思いがけずに一人旅』は完結です。
 お付き合い下さり、本当にありがとうございました!!