理想の家族=友人の家族=? (前編)




 こんにちは、お久しぶりです。キッドです。
 本当はきちんとご挨拶をしないといけないんだと思いますが、今はそれどころではないんです…。
 何故かというと…。
 現在、友達同士の喧嘩に巻き込まれてしまって……。
 頬っぺたとかお腹とか背中とか……。
 とにかく全身が痛いです…。

 ……止めに入っただけなのにな……。

 腹も立つんだけど、何となく悲しくて、痛くて…涙が出そうです。
 でも…。

『いいか?男はここって言う時以外は泣くんじゃねぇぞ!!』

 父さんがいっつも口癖のように言ってるので、今は『ここって言う時』じゃない気がしたから、泣かないように頑張ってます。
 とは言え、どうして喧嘩を止めに入った俺まで『メノカタキ』みたいに殴られなくちゃいけないのかが分かりません。

 喧嘩を止めに入った『たちばじょう』、相手を殴るわけにもいかなくて、とにかく必死に身体を丸めて団子虫みたいになってます…。

 ああ……でも……本当にこのままだと……まずいんじゃないかな……?
 だって…頭が痛すぎて…背中もお腹も蹴られたり殴られたり……。

「キッド!!」
「お前ら、止めろよな!!そいつは関係ないだろ!?」

 もう…とにかく全身が痛くて、上手く周りの音とかが聞えないんだけど、友達の泣きそうな声と物凄く怒ってる声が聞えてきて…。
 そんな声が聞えてきた瞬間、なんでか分からないんだけど急に力が湧いてきて…。

「デンゼル、マリン!!逃げるぞ!!!!」

 団子虫みたいに丸まってた体勢から、一気に相手にタックルをかまして…。
 友達二人に声をかけた俺は、とにかくがむしゃらに公園から駆け出した。

 うん、良かった。
 マリンとデンゼルもちゃんと付いて来てるし、喧嘩相手は追いかけてきてないみたい…。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…」
「はっ、はっ、はっ…」

 息を切らせて路地に駆け込み、壁にもたれてしゃがみこむ。
 もう、全身が痛いのにこれ以上早く走れないっていうくらい走ったから、まともに話しも出来ないよ…。
 デンゼルが何か言いたそうに俺に顔を向けたけど、俺と同じ位殴られたり蹴られたりしる状態で必死に走ったから、俺と同じで話が出来る状態じゃない。
 でも…。
 今にも泣きそうな顔をしてるから、デンゼルが俺に謝りたいんだって事がすぐに分かった。
 そんなデンゼルの隣で、マリンも息を切らせて座り込んでる。
 俺は殴られてる間中、マリンが気になってた…。
 ビクビクしながらマリンを見たけど、女の子だから殴られなかったみたいで、どこにもそんな痕がない。
 あ〜……良かった…。
 本当に…ホッとした〜…。
 やっぱり女の子が殴られたりっていうのはイヤだもんね。
 でも、肩で必死に息をしてるマリンは、大きな目からボロボロ涙をこぼしてた。

 そのマリンの泣き顔と、デンゼルの泣きそうな顔を見て、俺も何だか泣きそうになった…。


 どうしてデンゼルとマリンが友達と喧嘩……って言うか、この場合は一方的に絡まれたんだけど…。
 とにかくなんでこんな事になったのかと言うと…。
 理由は簡単。

『ヤキモチ』

 この一言だね、うん。

 ほら、デンゼルとマリンの家族は、あのジェノバ戦役の英雄のクラウドさんとティファさんだろ?
 それが周りから見たらとっても羨ましいんだよ。
 今までにも『良いよな、デンゼルとマリンはさ!』とか『私のパパとママと交換して欲しいわ』とか色々言われてた二人なんだけど、今日はそういう言葉だけじゃ済まなかったんだ…。

 絡んできた友達達はさ…。
 孤児院にいる友達だったんだ…。


 星痕症候群。

 この病気にかかって亡くなった人達は、大人も子供も沢山いる。
 そして、孤児になってしまった子供達も沢山いるんだ。
 今日遊んでた友達の中にもさ……その孤児の子供がいたんだよな…。
 それで、その子が『ヒキガネ』になって喧嘩が始まったんだ。

 その子はお兄ちゃんと一緒に孤児院にいるんだけど、中々里親が見つからないみたいで、ずっと孤児院で暮らしてるんだ。
 孤児院はとっても綺麗で、働いてるお兄さんやお姉さん、おじさんやおばさん皆、とっても良い人達ばっかりだから、別に孤児院で不自由してるって事は全然ないんだけど、それでもやっぱり『自分の家族』が欲しいって思うのは……普通だよね?
 だから…。
 同じ様に孤児だったデンゼルが、クラウドさんやティファさんみたいに素敵な人達……しかも『英雄』って世界中の人達から称えられてる人達の家族っていうのが、どうしても許せない……て言うか、『フコウヘイ』って思ってるみたいなんだ。


『お前も俺達と同じ孤児のくせに、何でそんなにすげぇ人達の家族になれるんだよ!!!』


 そう言って、殴りかかってきた友達の顔は…。
 詰られて、殴られたデンゼルよりも…。
 それを傍で聞いてて、殴られているのを見ていたマリンよりも…。
 もっともっと、痛そうな顔をしてた……。

 多分、今頃は頭も冷えてすっごく落ち込んでると思うんだ。
 今日はこんな事をしちゃったあいつだけど、お父さんとお母さんがいなくなって寂しくて悲しいだけで、本当はとっても優しい奴なんだ。
 だからきっと、今頃泣いてるかもしれない…。
 ほら、たまにあるじゃない?
 こう……どうしても自分の中にドロドロしたものがブワ〜ッと噴出してきて、自分じゃどうしようもない…ってこと。
 多分、あいつはそんな気持ちに流されちゃったんだよ。
 普段は、『お前達は良いよな、羨ましいよ』って少し寂しそうに笑ってたんだから…。
 それに対して、デンゼルとマリンはいつも困ったように曖昧に笑って何も言わないんだ。


 何を言っても、きっと相手を傷つけるから…。


 俺がどうして何も言わないのか聞いた時に、二人は声を揃えてそう答えたんだ。
 デンゼルもマリンも、友達の中では一番人の心を大切にする最高の友達なんだ。
 だけど…。
 今日はそんな二人の『人の心を大切にする』っていう美点が裏目に出ちゃった。


「デンゼルとマリンは本当に良いよな」
「なにが?」
 適当にサッカーとかして遊んだ後、公園のベンチに座ってデンゼルとその問題の兄弟、それに他の友達が話をしていた時、唐突にその問題の兄弟の弟の方がデンゼルに絡んできた。
 いつもの絡んでる口調に、弟が何を言おうとしているのか察したデンゼルは、『またかよ…』って顔をしちゃったんだ。
 そりゃそうだよな…。
 何回も言われてたら、いい加減イヤになるよな。
 でも、それが弟にはカチンときたらしい。
 サッカーでデンゼルのチームに負けた事もあり、弟はガバッと立ち上がると、デンゼルを睨みつけた。
「大体、お前はズルイんだよ!!」
 突然の怒鳴り声に、遠くのベンチで女友達と笑いながら話をしてたマリンが、びっくりしてこっちを見たのが見えた。
 デンゼルは、『お前はズルイ』という発言にムッとして、
「ズルイって意味がわかんねぇよ…。さっきのゲームだって、別にズルなんかしてないだろう!?」
 立ち上がって真正面から睨みあう。
 それを、周りにいた友達達が、面白がって煽ったりするもんだから、あっという間に公園には友達達の声で一杯になった。
 公園の入口にあるベンチに座っていたおじいさんが、ユルユルと顔を上げたけど、かなりのおじいさんで特に気にする事もなく、足元に集まっている鳩に餌を撒いて微笑んでる。
 今、この公園にいる大人はそのおじいさん一人だけ。
 この場を納めてくれそうな大人は見当たらない。


 心が『ケイショウ』を鳴らすってこんな感じだろうな…。


 マズイ…。
 絶対にここままだとマズイ…!

 女の子のいるベンチをチラリと見ると、騒ぎの中心にいるのがデンゼルだと気付いたマリンが、びっくりして慌ててこちらに駆け寄るのが見えた。
 そして、その後をマリンと一緒にしゃべってた女友達が、『なんだか面白そう』ってワクワクした顔で付いて来る。

 ………何て薄情で非常識な子達なんだろう…。
 本当に……呆れちゃうよな……。
 こう…なんて言うかさ、ちょっと常識があったら、喧嘩しそうになってるんだから非難めいた言葉を言ったり、誰か大人を捜しに行くとかっていう行動に出るんじゃないの?

 俺がマリンの後からひょこひょこと付いて来る女の子達に呆れている内に、事態は急展開を迎えていた。

「お前、本当にいっつも生意気なんだよ!!」
 そう怒鳴りながらデンゼルにその弟が殴りかかってきたんだ。
 既に体勢を整えていたデンゼルは、そのパンチをかわすと、グッと拳を握り締めた。
 そして、今にも反撃しそうになった時!

「ダメだよ、デンゼル!!クラウドに『喧嘩で使わない』って約束したじゃない!!」

 マリンの一言で、デンゼルがはた…と止まってしまった。
 そして、その一瞬の隙に体勢を立て直した弟が、力一杯デンゼルの横っ面を張り飛ばした。

 女の子達の悲鳴が上がる。
「デンゼル!!!!」
 マリンが倒れたデンゼルの所へ駆け寄ろうとするのを、殴った奴と仲が良い仲間が、イヤな笑いを浮かべながら前へ立ちはだかった。
 それを見た瞬間…。
 俺は何にも考えずに咄嗟にマリンを庇うように間に入った。
 それが何とも相手の気分を損ねてしまい、結果としてデンゼルと一緒に殴られる事になったんだけど…。

 俺とデンゼルが殴られ始めた頃は、一緒にサッカーをしていた俺やデンゼルと仲の良い友達が応戦してくれてたんだけど、相手の方が少し年上と言う事もあってさ…。
 二・三回殴られたらあっという間にその友達達は逃げちゃった…。
 傍観していた女の子達も悲鳴を上げながらどっかに走って行っちゃったんだよねぇ…。
 ああ…。
 せめて誰か大人を呼んできてくれてたら…と思うんだけど…呼んでくれないだろうなぁ…。
 どの子達も良い奴なんだけど、そういうことに頭が回らない気がするし…。


 そうして、俺の予想は外れる事無く、暫くデンゼルも俺も、手出しできないまま一方的にやられて……。
 今に至る…。


 でも、本当に良かったぁ。
 マリンが怪我してなくて。
 デンゼルの怪我が大した事なくて。
 何より…。
 デンゼルとマリンに俺は恩があるから、こうしてデンゼルとマリンが辛い目に会ってる時に一緒にいられて良かったって本当に思うんだ。
 やっぱり、こうういう辛い目に合った時、友達として一緒にいたいじゃん?
 そういうのが、本当の友達だって思えるしさ。
 俺の知らないところでデンゼルとマリンが辛い目に合ってた…って後で知った方がショックだよ…うん。

 そんな事を考えられるような友達を持てた俺って、本当にラッキーだよね。

 でも、俺がそうやって一人で満足してる間に息が整ってきた二人が、突然ガバッと頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「本当に…俺のせいで……ごめんな!!」

 二人の言葉に、びっくりして目一杯目を見開いた。
 そんな俺に、デンゼルとマリンはボロボロ泣きながら何回も「ごめんな」「巻き込んでごめんね」って繰り返したんだ。
 どんなに俺が「良いんだって!」「二人がイヤな目に合ってる時に無視出来るわけないだろう!?」って言っても、全然聞えてないみたいで、ひたすら謝ってくる…。
 ボロボロ泣いて謝る二人に、俺もとうとう涙がこぼれちゃった…。

 一粒涙がこぼれると、それまで我慢してた分、ぜ〜んぶ出ちゃうくらい止まらなくなってさ…。
 三人でわんわん泣いた…。
 殴られた頬っぺたよりも、蹴られた背中よりも、二人がとっても悲しい目に合ったっていうのが何よりも辛くて、涙が止まらない。

 ああ…。
 俺って本当に何にも出来ないんだなぁ…。
 一緒に殴られたり蹴られたりする事しか出来ないんだなぁ…。
 デンゼルとマリンが辛い思いをしてる時に傍にいたって、結局二人の『支え』にはなれないんだなぁ…。

 そう思っちゃうと、泣くしかないじゃん…?


 大好きな友達の『支え』になれない俺なんか…大嫌いだ……。



 ピピピピピ…ピピピピピ……。

 暫く三人で大泣きしてると、突然デンゼルの携帯が鳴った。
 しゃくり上げながらデンゼルが携帯を取り出すと、数回大きく深呼吸してから携帯に出る。
「…もしもし…?」
 デンゼルが必死に泣き声を悟られないように頑張ってる横で、マリンが口元を両手で押さえながら泣き声が漏れないようにしてる。
 多分、電話の相手にバレないように気を使ってるんだ…。

 本当に、マリンは俺やデンゼルよりも年下なのに、しっかりしてるよな…。

 マリンに倣って、俺も片手で口を押さえながら、これ以上泣かないように頑張ってみる。
 ……中々上手くはいかなかったけど……。

「…何でも…ないよ…。……え!?あいつらが!?」

 デンゼルがびっくりして大声を出した。
 その大声にマリンと俺がびっくりする。

 あ…。
 びっくりし過ぎてデンゼルとマリンと俺の涙がひっこんだ…。
 これが『ショックリョウホウ』とかいうやつなのかな…?

 なぁんて考えてる俺の目の前では、すっかり泣き止んだデンゼルが真っ赤になった目をマリンと俺にそれぞれ向けながら「うん…うん……一緒にいる……」って話を続けてる。
 それで、電話の内容が気になって仕方ない俺とマリンを見ながら、何だか困ったような…それでいて嬉しそうな……何か良く分からない顔をしてさ。
「じゃ……今から一緒に帰るよ……うん……大丈夫。マリンは殴られてないし……うん……それじゃ…」
 そう言って電話を切った。

「ティファから?何だったの?」
 待ちかねたように質問するマリンに、デンゼルは「うん…ティファからなんだけど…」って言いつつ、何故か俺をジッと見てきた。

 え…?
 なに……?

 ちょこっと首を傾げて見せると、デンゼルは頭を少し掻きながら、
「一緒に来てくれって……ティファが…」
 そう言ってちょっと笑った。





「まぁ!!本当にキッド君までこんなになって……」
 セブンスヘブンに着いてびっくりした。
 だって、喧嘩相手だった友達皆がお店の床で正座してたんだもん…。

 ティファさんからの電話の内容をデンゼルは話してくれなかった。
『帰ればすぐ分かるから』
 そう言って、デンゼルはせがむ俺とマリンに最後まで答えてくれなかったんだもん。

 その理由が分かったよ。
 確かになぁ、話しにくいよね…。


 喧嘩相手がわざわざ謝りに家に来てる……なんてさ…。


 ポカンとしてる俺とマリン、それに電話で知ってたデンゼルに、床で正座してた友達達がガバッと頭を下げた。
 いわゆる……『土下座』ってやつだ…。

「ほんとにごめん!」
「悪かった…!」
「俺達…どうかしてた…」
「「「「「ごめんなさい!!」」」」」

 ひたすら謝る友達の姿に、デンゼルとマリン、それに勿論俺が首を横になんか振れるはずないよな…?

 事情が分かってマリンが嬉しそうにコクコク頷いて…。
 デンゼルが「良いよ…。謝ってくれたんだからさ」って言いながら土下座を続ける友達達を立たせる。
 その間、俺はティファさんに半ば強引に椅子に座らされて、手当てを受けていた。
「本当に……キッド君までこんな目に合って……」
 友達達に聞えないよう、小さな声で申し訳なさそうに言うティファさんに、痛む身体を無視して一生懸命ブンブン首を振った。
 だって今にも泣きそうな顔してるし、本当に俺は一緒に殴られた事をイヤだなんて思ってないんだもん。


「キッドも…本当にごめん…」

 デンゼルに立たせてもらった友達達が、恐る恐る…って感じで俺に謝ってきた。
 あ…。
 そうだった。
 ティファさんに手当てしてもらってたから、『気にするな』とか『これからも友達だから』とかデンゼルみたいに言ってやってなかった…。
 だから、俺が怒ってるって思ってるんだ。

「良いよ、俺、気にしてないし」
「でもさ…」
 ニッコリ笑ってそう言うと頬っぺたが引き攣ったみたいに痛かった。
 それでも、俺が気にしてないって事を知ってもらいたかったんだ。
 だけど…。


「キッドは…俺達とデンゼルの喧嘩に巻き込んだって感じだったし…」


 デンゼルとマリンが強張ったのを見て、俺も顔が引き攣った。