理想の家族=友達の家族=? (中編)




 俺はデンゼルとマリンがまた悲しそうな顔をして俺を見てきた事に、無性に腹が立った。
 それと同じ位……悲しかった。
 俺はあんまり口が上手な方じゃないから、思っていることを上手く伝えられない事が沢山あって、これまでにも誤解されて相手が『キッドって嫌な奴!』って面と向かって怒鳴った事もあったよ。
 でもさ。
 その時はその相手が俺、あんまり好きな奴じゃなかったし、だから別に面と向かって『嫌な奴』って言われてそんなに傷ついたりはしなかった。
 まぁ……人に嫌われるって言うのは、やっぱり良い気持ちはしないんだけど…。
 それでも、あの時の言葉よりも、今のデンゼルとマリンの悲しそうな…申し訳なさそうな顔が一番……悲しい。
 そして……無性に悔しい。
 それでも二人の気持ちは良く分かるよ。
 俺だって、俺の事でデンゼルやマリンや他の友達が巻き添えになって殴られる…なんて事になったら、その子に対してどうやって謝ったら良いのかわからないくらい後悔すると思う。
 でもさ、矛盾してるって分かってるけど、俺はデンゼルとマリンにそんな顔をしてもらいたいわけじゃないんだよ。
 むしろ、俺は一緒に殴られてやれて、痛みを少しでも共有出来たのが誇らしいくらいなんだ。
 だから…。

「あのさ。俺、これからもデンゼルとマリンに何かあったら、一緒に殴られて、蹴られて、イヤな言葉一杯聞かされても、それをイヤだ何て絶対に思わない。って言うか、むしろ俺はデンゼルとマリンがイヤな目に合ってる時、誰よりも傍にいて、一緒に殴られて、蹴られて、イヤな言葉一杯聞かされる方が良い」

 喧嘩相手だった友達がびっくりして目を丸くする。
 デンゼルとマリンも戸惑いながら俺から視線を外す事無くジッと話を聞いてくれた。
 ティファさんは…。
 うわ……もしかして……いや、もしかしなくても……。

 泣いてるよ!!
 な、何で!?

 ティファさんが本当に嬉しそうに泣いてる姿は、幸い他の皆は気付いてない。
 俺は、とりあえず今が思ってることを全部伝えるチャンスだと思って、話の続きを口にした。

「俺さ。ほら、初めて会った時、嫌な奴だっただろ?こうして友達が出来たのも、全部デンゼルとマリンのお陰だし…。それよりも何よりも、俺はデンゼルとマリンが大好きだから、やっぱり友達としてデンゼルとマリンがイヤな思いをしてる時に一番傍にいたいって…そう思ってる。あ、勿論、デンゼルとマリン以外の友達皆、俺にとっては大事な友達だから、デンゼルとマリンだけそうしたい…ってわけじゃなくて……え〜と……」

 ああ、何だか言ってる内に訳が分かんなくなってきたよ!
 皆がポカンとしてる〜…!!
 ああああ……えっと…何が言いたかったんだっけ〜…!?

「よ、要するに!!!!」
 大きく深呼吸して自分を落ち着かせて…。


「俺は、お前らがもしもデンゼルとマリン見たいな目に合ってたら、やっぱり一緒に殴られる!!」


 シーン……。

 皆がカチンコチンに固まってる。
 ティファさんが、その皆の後ろでポロポロ涙を流してジッと俺を見てる。
 な、なな何か変な事言った?
 え…だってさ〜、友達なら…その子が辛い目に合ってたら、やっぱり自分も痛い目に合うのが分かってても傍にいたいって思うもんじゃないの……かな…?
 え…?
 ええ……??
 ち、違うのかな……???
 俺、何か変な事言った…!?

 あんまりにも皆が呆けてるから、身体からドッと汗が噴出してきた。
 もう、背中とか脇とかおでことか、汗でベッタリ……。
 気持ち悪くておでこの汗だけでも拭いたいけど、皆が固まってるのが俺にも移ったみたいで、ピクリとも腕を動かせないよ…。
 ううう……どうしよう…。
 これでデンゼルやマリンや、目の前で謝ってきた友達達に嫌われちゃったら……呆れられちゃったら……。
 俺…明日からどう生きれば良いんだろう!?(← かなりテンパってます)

 物凄く長い時間が経った気がするけど、実際はどうなんだろう…。
 突然ティファさんが足早に俺のところに歩いてきて、涙をポロポロ流したまま、ギューって抱きしめてくれた。
 いやもう…。
 何て言うか…。
 いきなりの事だったからグルグル悩んでた事がスッコーンって抜けて、頭が真っ白になった。
 なぁんにも考えられなくなったんだけど、ティファさんの温かい身体とか、柔らかい頬っぺたとか、さらさらの髪とか……何だかお母さんとは違う女の人なんだなぁ…って妙に思っちゃって、ドキドキした。
 それに、お母さんも良い匂いがするんだけど、ティファさんもお母さんとは違うとっても良い匂いがして、物凄く恥ずかしくなってきた。
 は、離れた方が良いのかな…。
 で、でも…。
 ティファさんはギューって強く抱きしめてきて、全然俺なんかの力じゃ……離れられない……。
 やっぱり、女の人でも『ジェノバ戦役の英雄』さんなんだなぁ…。

 そんな事を考えてると、
「本当にキッド君は良い子ね…」
 ティファさんがそう囁いてくれた。

 ………なんで……?
 いや…なんか良く分かんない……。
『良い子』って……。

「俺が!?」

 びっくりして思わず声が上ずっちゃったよ。
 そんな俺に、ティファさんがやっと身体を離して顔を覗き込んできた。

 う……。
 やっぱり綺麗だなぁ…。
 世の中の『おにいさん』達に怒られる……。

「うん。キッド君は本当に良い子だよ!ね?デンゼル、マリン!」
 ニッコリ笑ってデンゼルとマリンを振り返ったティファさんに、デンゼルとマリンが満面の笑みを浮かべて…。
「うん!!」
「最高の友達だ!!」
 そう言って、ティファさんの反対側からギューって抱きついてきた。
 デンゼルのフワフワした髪とマリンの小さくて細い腕が、俺の首や顔にかかる。
 セブンスヘブンの三人がギューって抱きしめてくれて、身体も胸の中もポカポカしてきて…。
 何だか物凄く恥ずかしいんだけど、それ以上に物凄く嬉しくて…。
 もう…お腹の底から笑い出しそうなくらい明るい気分になった。
 ティファさんの肩越しに喧嘩相手の友達達が、何だか困ったような…それでいて羨ましそうな…でもやっぱり嬉しそうに笑ってるのが見えた。

 良かった…。
 本当にこれで仲直りだよな?
 明日から、また一緒に遊べるよな?

 痛い思いもしたけど、それ以上に沢山良い事があったから、本当に良かった!
 やっぱり俺、エッジに来て良かったよ!!



「じゃ、また明日な!」
「おう!」
「本当に…ごめんな」
「気にしないで良いってば」
「……キッドもさ…」
「俺も気にしてないから、明日からまたサッカーやろうな?」
「ん!!」

 皆と仲直りして、ティファさんが俺達皆に特製ミックスジュースをご馳走してくれて…。
 夕方になって友達達は帰って行った。
 俺も本当は一緒に帰るつもりだったんだけど、
『キッド君は良かったらもう少しいてくれる?怪我しちゃった事をお母さんにご報告したいし、そのお詫びもしたいから…』
 そう小声でお願いされちゃったんだ。
 俺は全然気にしてないし、怪我した事も喧嘩した事も初めてじゃないから全然良かったのに、ティファさんがあんまりにも必死な顔をするから、つい頷いちゃった…。

 ああ…でもさぁ…。
 なんか悪いよな…。
 俺だけ特別扱いってさぁ…。

 何となく帰っていく友達達の後姿を見送りながら、ほんの少し申し訳ない気持ちになる。
 だって、勝手に俺が首を突っ込んだだけなのに…。

「じゃ、デンゼル。これ、ドアに掛けといてね」
 ティファさんが何か看板みたいな物をデンゼルに渡して、俺の肩に手を置くと店の中に入るように促した。
 そんな俺の背中から、
「ティファ…今夜は休むのか?」
 デンゼルが不思議そうな声が聞えてきた。
 そんなデンゼルにティファさんはニッコリと笑って頷くと、
「じゃ、三人ともここに座ってゆっくりしてなさいね?」
 って言い残して、二階に行ってしまった。
 きっと、俺の家に電話をかけに行ったんだろうな…。

「キッド…傷、痛くないか?」
 ソファーに腰掛けると、向かい合わせて座ったデンゼルが心配そうな顔をした。
 そう言うデンゼルの顔も、結構酷い事になってる…。
「俺は大丈夫。エッジに来る前にも喧嘩に巻き込まれて………って言うか、一方的に喧嘩売られて殴られた事あったから慣れてるし」
「え!?キッドが!?!?」
 俺の言葉に、デンゼルの隣に座ったマリンがびっくりして大きな目を見開いた。

 うわっ!
 マリンの目って本当に綺麗だよなぁ…。
 って言うか、大きな目が落っこちそうだよ……勿論そんな事ならない事くらい分かってるけど……。

「ん。そんなに意外?」
「「うん!!」」

 キッパリ・ハッキリ頷いた二人に、何だかくすぐったい気持ちが広がる。
 だってさぁ。
 デンゼルとマリン達と初めて会った時の事を考えたら、何で俺が喧嘩売られたりしやすいのか分かるだろ?
 それなのに、こうしてハッキリと頷いてくれたって事は、俺の事を『イヤな奴』って思ってないって事になるじゃん?
 ああ…本当にこいつら良い奴らだよな、うん!

「それにしてもさ。ティファさんって良いお母さんだよな」
「「へ?」」
 何となくくすぐった過ぎて、俺の話題から話を逸らしたくなったから、分かりきった事を言ってみた。
 そしたら、意外にも二人は声を揃えて不思議そうな顔をして見せた。
 てっきり『当たり前じゃん』とか『そうでしょう!』って言うかと思ったのに…。

「だって、デンゼルの怪我が心配で、デンゼルに負担をかけない為にお店休んだだろ?そりゃ、クラウドさんが働いてるからお店を一日や二日、いきなり休んでも生活に影響ないだろうけど、中々いきなり休んだりしにくいと思うんだよな」

 俺の言葉に、二人はポカンと口を開ける。
 ……なんで?
 俺、何か変な事言った??

 今日、何回二人のこんな『キョトン顔』見たかなぁ…。
 そんなにおかしな事言ってるのかなぁ……?

「そうか……そうなんだぁ!!」
 いきなりデンゼルはガバッと立ち上がり、怪我の痛みですぐにソファーに逆戻りした。
 そんなデンゼルに、マリンが呆れたような顔をしながら背中を擦ってやってる。
 その二人に、俺は『羨ましいな…』って素直にそう思った。
 だってさ。
 やっぱり兄妹って良いものだよな?
 俺、一人っ子だから、兄妹って憧れる。
 デンゼルとマリンみたいに血が繋がってなくても、こうしてどの兄妹よりもしっかりとした絆に結ばれてるって、本当に凄いことじゃん!
 さっきの喧嘩した孤児の兄弟は、まぁそんなに不仲…って訳でもないけど、デンゼルとマリンの方が運と仲が良いし、信頼し合えてると思う。
 たった一人、残された肉親なのに……それって悲しいよな。
 だからこそ、今日アイツは日頃から堪ってた不満を一気に爆発させたんだと思う。
 でも、今日の事で少しは気も晴れただろうし、胸に引っかかってたデンゼルへの嫉妬も消えてくれたんだと思うから、その事に関したら今日の出来事は必要だったんだよ…うんうん!!

「ところで、何が『そうなんだ』?」
 身体を急に動かしたせいで痛む傷に、うっすら涙目になるデンゼルに先程の言葉を質問する。
 デンゼルは、最初俺の言った事が分からなかったみたいだけど、「ああ…そうそう!」と手をポンと合わせると、何故かキラキラした目で俺の事を見てきた。

 ……いや、だから…。
 今日のデンゼルは良く分からないんだけど…。
 何でそんなに表情がクルクル変わるわけ?
 まるでマリンみたいだよ……。

「ティファがお店を休みにした理由!俺の顔が腫れてるだけなら、俺がずーっと店の奥で洗い物したら良いだけなのに、なんでわざわざ休みにしたんだろう…って思ってたんだ。だから、キッドがそれをズバリ教えてくれたからさ!」
 もう…本当にお前って凄いよなぁ…!!

 すっかり感心してうんうんと頷く友達に、何だか物凄く照れ臭い。
 マリンは呆れた顔して「私はすぐに分かったのに……相変わらずデンゼルったら鈍いんだから…。クラウドみたいだよ……」と、溜め息を吐きつつテーブルに頬杖を付いた。
「何だよ、だったらマリンが教えてくれたら良いじゃんか!」
「私はとっくに分かってるもんだと思ってたの!」
 ムッとして嫌味を言うデンゼルを、いともあっさり容赦ない言葉で応酬したマリンに、デンゼルが白旗を上げたのはもうお約束…。
 本当に…。
 マリンに全然頭が上がらないんだよなぁ……俺もだけど…。

「それより、もうすぐだな」
 デンゼルが店の時計を見ながら、弾んだ声を上げた。
 マリンもムスッとした顔から一転、笑顔になって「あ、そうだよ!もうすぐって約束だったもんね!!」と嬉しそうに笑ってる。
 首を捻る俺に気付いたデンゼルとマリンが、
「あ、今日はさ。ティファに内緒でクラウドが早く帰ってくるんだ」
「ティファにびっくりさせようって私達三人で計画したの!」
「最近クラウド、仕事が忙しくてさ〜。俺達も勿論だけど、ティファともまともにゆっくり出来てないみたいで」
「ティファ、時々元気ない顔してため息吐く事があるんだ〜」
「だから、そんなティファに元気出してもらおうと思って、ワザと内緒にしてるんだ」
「デンゼルったら本当はティファがびっくりする顔見たいくせに。ま、私もなんだけど…」
 そう言って、マリンは俺を見ると悪戯っぽくチラリと舌を出した。
「今日も遅く帰るってティファは思ってるから、急にクラウドが帰ってきたら絶対にびっくりして、それ以上に喜んでくれると思うの!その時のティファの顔、想像しただけで…すっごく楽しみ〜!!」

 嬉しそうに計画を話して聞かせる友達二人に、本当に『ああ…良いなぁ、こういう家族…』と改めてそう思った。
 孤児の子供達だけでなく、両親がいる友達達の『良いよな』って言葉がこの時妙に納得出来た。
 子供だからって甘やかされてるだけじゃなく、デンゼルとマリン自身が自分達に出来る事をクラウドさんとティファさんにしてあげよう……そういう姿が本当に『家族』って思えたんだ。
 デンゼルとマリンが『何かしてあげたい』そう思えるクラウドさんとティファさんをお父さん、お母さんに持つことが出来たデンゼルとマリンは、本当にラッキーだと思うよ!
 お互いがお互いを大切にし合って、支え合って、そんでもって笑顔が絶えなくて…。
 まさに『理想の家族』ってやつだよな。
 そして、その『理想の家族』をクラウドさんとティファさん、そしてデンゼルとマリンだからこそ作っていけてるんだと思う。
 うん。
 本当に俺の友人は最高の奴らだ!

「何だよ、キッド〜?」
「へ…?何が?」
「何がって、さっきからニヤニヤしてるよ?」
 デンゼルが何だか面白くなさそうに、そして対照的にマリンは何だか心配そうに俺を見てる。
「……俺…笑ってたの?」
 びっくりして恐る恐る聞くと、呆れたように「無自覚!?」「何か面白い事でも思い出したの?」と、それぞれ何とも対照的な質問を返してきた。
 ……本当に対照的な二人だよなぁ…。
「いや、別に大した事じゃない」
「くぉら〜!俺達は親友だろ?教えろよ〜〜!!」
 わざわざソファーを回って、デンゼルが俺の首に腕を絡ませる。
「う…バ、バカ…!く、苦しいってば!!」
「なら白状しろよ!一緒に殴られた仲だろう!?」

 本日俺にとって一番弱い台詞…。

 首を絞めるデンゼルと、そんなデンゼルを俺から引き剥がそうとしているマリンですら、何だか興味津々に俺を見てる。

 いや……期待を裏切って悪いけど本当にくだらない事なんだぞ…。

「あんまり…大した話じゃないんだけど…」
「「うんうん!」」
 目をキラキラさせながら溢れんばかりの好奇心をむき出しにしてる二人に、何となく申し訳なく思いながらも、俺はさっき思った事を口にした。

「クラウドさんとティファさんに何かしてあげたい、って思えるデンゼルとマリンがいるから、クラウドさんとティファさんはデンゼルとマリンの四人と家族になれたんだなぁ…ってさ。そんで、そんな二人はやっぱり最高の友人だと再確認しただけ…なんだ…」
 な?
 面白くない話だろ…?

 二人のガッカリした顔を予想していたので、何となく視線は逸らしたまま一気に言ってしまう。
 でも、いつまで経っても二人の『なぁんだ!』とか『そんな事分かってるじゃん!』という台詞は聞かれなかった。

 なんで…?
 本当に今日は二人の行動は不思議で一杯だ。

 そろそろと視線を二人に戻すと、目には言って来たのは…。
 二人揃って真っ赤になった熟したりんごみたいな顔。

 へ!?
 これって……照れてるの?
 あの二人が!?

 ポカンとする俺に、デンゼルとマリンは真っ赤な顔をしたまま、もう、ものっすごく嬉しそうに笑った。
「なに言ってんだよ!!」
「私達の方がキッドに出会えて本当に幸せなんだから!!」
 そう言いながら、ギューって抱きついてきた。
 昼間、ティファさんに抱きつかれた時もドキドキしたけど、今もやっぱりドキドキする。
 何かこう……人の温もりって良いよなぁ……。

 しみじみそう思ってると、
「どうしたの三人とも」
 キョトンとしたティファさんがすぐ近くまでやって来ていた。
 何となく気恥ずかしくなって二人から離れようとしたけど、ティファさんを見て二人は益々ギュギュギューって力一杯抱きしめてきて、
「へへへ〜!」
「最高のお友達が出来た喜びをかみ締めてるんだ〜」
 と、何ともとんでもない台詞を言ってくれた。
 その時のティファさんの顔を、俺は一生忘れないと思う。

「うん!本当に私も嬉しいわ。キッド君、これからもデンゼルとマリンの事、よろしくね」

 そう言って、今まで見た事ないくらい、本当に綺麗な笑顔を見せてくれた。
 温かくて…優しくて…何だか世の中の『おにいさん』達がティファさんをしつこく追っかけする気持ちが良く分かった。(でも、絶対に止めた方が良いと思うよ…)

「はい、これ今日のデンゼルとマリンのお礼」
 そう言ってティファさんが差し出してくれたのは、大きな箱。
 中を覗くと…。
「うわ〜!チーズケーキ!!」
「うん。今朝寝かしておいた物を、さっきの子達が謝りに来て、事情を聞いた後、焼いたのよ。粗熱も取れたし、良い具合に焼けたから持って帰ってね」
 すっごく甘くて美味しそうな匂いが箱から溢れ出る。

 あ〜、それで俺に残って欲しいって言ったのか。
 でも……何だか申し訳ないよなぁ…。
 それにこれ、もしかしてデンゼルとマリンのおやつだったんじゃ……。

「良いの。デンゼルとマリンにはまたいつでも作ってあげられるから」
「そうそう!俺達はいっつもティファの美味しいおやつ食べてるから、キッドは遠慮すんなって!」
「うん!それに、キッドのお母さんとお父さんにも食べてもらいたいし!」

 俺の顔を見て、三人がそう言ってくれた。
 そんなに顔に出てたのかなぁ……何もまだ言ってないのに……。
 流石、『英雄』と呼ばれる人の家族だ。
 鋭い観察眼を持ってるよ、うん。

「それじゃ……ありがとうございます」
 ペコリと頭を下げると、「どういたしまして」ってティファさんが嬉しそうに俺の真似をしてペコリと頭を下げた。
 頭を上げたティファさんと目が合って、何となく一緒に笑って、デンゼルとマリンがそれ見てやっぱり嬉しそうに笑って。

 あ〜、良いなぁ。
 本当に温かいな。
 心がホッコリしてくるよ。
 一緒になって殴られた怪我も、全然痛くない。
 やっぱり良かった。
 一緒に殴られても心は全然痛くない。
 身体の痛いのは怪我が治ったら痛くなくなるけど、心の痛いのは怪我が治っても中々治らない……って父さんが言ってた。
 俺もその通りだと思う。
 あんまり良い事言わない父さんだけど、たまにはホントに良い事も言うんだなぁ…。(← 失礼なお子様です)

 開けたケーキの箱を綺麗に閉じると、ティファさんが出してくれた紙袋に傾かないよう入れる。
 帰って母さんにこのケーキを見せるのが楽しみだな!

 母さんの喜ぶ顔を思い浮かべて頬が緩んだ俺を、デンゼルとマリンが「キッドったらそんなにチーズケーキ好きなのか?」「今度は私も何か作ってあげるね!」って言いながら、またギューってしてきてくれた。

 良いなぁ……こういうのって。
 俺も兄妹欲しいな…。

 デンゼルとマリンに両脇を囲まれて、俺は本当に心からそう思った。