「ねぇ、『目から火が出る』ってどういう意味?」 「あ〜?なんだ急に???」 「今日、友達がそう言って笑ってたから」 「???笑うようなことじゃないはずだけどなぁ…???」 「そうなの?」 「おうよ。『目から火が出る』ってぇのは、頭とかを思い切りぶつけて、そのあまりの痛さを表すんだぞ」 「へぇ、そうなの?」 「なんでその友達は笑ってたんだ?」 「さぁ。俺、途中から話しに寄ったんだけど、結局他の話しに流れちゃって、今思い出したんだ」 「そっか。まぁ、そんな経験、しない方が幸せだからな。言葉の意味だけ覚えとけ」 「うん、分かった」 「…くぅ〜……」 「なに、父さん…いきなり泣きまねなんかして…」 「ほんっとうに可愛く育ったよな!流石俺と母さんの息子だ、キッド!!」 「ぐぇっ…苦しい…」 こんなアホな会話をしたのが昨夜(ゆうべ)のこと。 まさか、翌日にその意味を実体験するとは思いもしなかったよ…。 これが本当の『夢にも思わなかった』ってやつなのかな…。 なぁんてバカなことを考えながら、大好きな友達が悲鳴を上げながら俺に駆け寄ってくるのが見えて、そのままスーッと気を失った…。 酒は飲んでものまれるな(前編)「へ?行って良いの?」 俺は目を丸くした。 目の前には大好きな友達がちょっと得意げに笑っている。 「ティファが良いって言ってくれたんだ!」 「キッドのお家にはティファから電話してくれるって!」 ニコニコ笑ってそう言ったデンゼルとマリンに、俺はびっくりしたけど、すぐにもう胸がバクバクするくらいに嬉しくって、飛び上がりそうになった。 「じゃあ、もうこのまま泊まりに行っても良いの?」 「そうそう!」 「着替えとかは俺の服を貸してやるよ!そのまま店に来いってティファが言ってくれたんだ」 そのままデンゼルとマリンに引っ張られて、俺は二人が住んでいるセブンスヘブンという店に駆け出すこととなった。 あ。 すっかり忘れてました。 こんにちは、キッド・フーレです。 ご無沙汰しています。(あ、初めての方ははじめまして…だね) この『エッジ』っていう街に引っ越してきてもう半年になります。 最初、すごく捻くれ者で友達が1人もいなかった俺だけど、今、俺の手を引っ張ってくれているデンゼルとマリンのお陰で友達が沢山出来た超ラッキーな8歳の男の子です。 あと半年しないうちに『お兄ちゃん』になるんだ。 弟かな…?妹かな…? 男友達は皆『絶対弟が良いって!』って言うし、女友達は『絶対に妹が良いに決まってる!』って言うんだけど、俺はどっちでも良いんだ。 だって、きっとどっちでも可愛いって思えると思うし、うん。 無事に元気に生まれてきてくれないかなぁ。 今から凄く楽しみです。 そうそう。 どうして俺がこうしてデンゼル達の家に急に泊まりに行くことが決まったかって言うと、今日、クラウドさんが帰ってくるんだって。 俺の憧れの英雄のリーダー。 すっごくカッコいいんだ! 金色の髪の毛をツンツン立てて、普段はすごくクールな表情なのに、デンゼルとマリン、それにティファさんに見せるちょっとした笑顔がすごく綺麗でさ。 それにすごくすごく強いんだ! 大きな剣持って、大きなバイクを自由自在に操るんだ! あ〜良いなぁ。 俺も大きくなったらクラウドさんみたいになりたいんだ!(あ、でもこのことは父さんには内緒。だって、父さんみたいになりたい、じゃなくて『クラウドさんみたいになりたい』って言ったら、絶対父さん、ショックで落ち込むと思うんだ) そんで、クラウドさんに暫く会ってないってことと、俺が『友達の家にお泊りしたことがない』って話しをしたら、デンゼルとマリンがティファさんに連絡を取ってくれたんだ。 なんか…気を使わせちゃったみたいでちょっぴり申し訳ないんだけど…。 でも、そんなこと言ったら絶対にデンゼルとマリンは怒ると思うから言わない。 『キッド!お前は気を使いすぎ!!』『キッド!私達、友達でしょ?そんなことで気を使ってどうするの!?』 なぁんて、ほっぺたパンパンに膨らませて怒るんだろうなぁ。 簡単にそんな2人が想像出来る。 うん、俺もこの2人のこと、だいぶ分かってきたんじゃないかな…? それに、純粋に初めてのお泊りは楽しみだ、すっごく! 俺、友達出来た、って言ってもこうやってお泊りしたりするくらいの仲良しはデンゼル達以外にいないもんな。 あ、もしかして俺のこと、可哀相!とか思った? 大丈夫、俺は充分幸せ者だから! デンゼルとマリンに出会えただけでもう満足満足♪ 「キッド、なに考えてんだ?」 「へ?」 「キッド、さっきから百面相してるよ?」 「そ、そう?」 「「 うん 」」 デンゼルとマリンは血が繋がってないはずなのに、すごく兄妹らしいんだよなぁ。 ……本当に血が繋がってないのかな…。 一滴くらい、同じ血が流れてるのかもね…。 「ま、いいや。早く行こうぜ!」 「わわっ。こけるこける!!」 「キッド、ファイトー!」 俺以上にはしゃぐ2人に引っ張られて、うっかりこけそうになりながらも、なんだかすっごくおかしくて楽しくて。 笑いながら俺達はあっという間にセブンスヘブンに着いた。 「いらっしゃい、キッド君、久しぶりね!」 「こんにちは。お世話になります」 ドアベルが可愛い音を立てた。 ティファさんはエプロンをつけて上機嫌で迎えてくれた。 俺がペコリ、と頭を下げるとクスクス笑いながら、 「はい、こちらこそお世話になってます」 って返してくれた。 はて? なにをお世話したのかな…? 「デンゼルとマリンといつも仲良くしてくれてるでしょ?」 俺が不思議に思ったことがバッチリ分かったみたいで、クスクス笑いながらティファさんは俺の頭をポンポンと叩いてくれた。 なんか…。 胸がドキーッ!ってしちゃった…。 あわわわ、クラウドさんにバレたら嫌われるかな…? 背中に汗がジワ〜っと浮かぶのが分かる。 「ティファ、キッドと一緒に部屋にいても…良い…?」 俺が固まっている隣で、なんとなくマリンが眉尻を下げてティファさんを見上げた。 すごく困っている…ような顔? ううん、違う。 なんかすごくすごく、『ごめんなさい』って顔だ。 なんで? ティファさんはそんなマリンにニッコリ微笑むと、 「勿論よ。今夜はお店しないんだからお手伝いは要らないわ」 そう言ってマリンの頭を優しく撫でながら「いつもありがとう、マリン」そう言った。 あぁ、そうか。 いつもデンゼル達は遊びから帰ったらお店の手伝いをしてるんだった。 だから、マリンも…そんでもってデンゼルもなんとなく『ごめんなさい』って顔でティファさんを見てるんだ。 デンゼルにもティファさんは「いつもありがとう、デンゼル」って、頭を撫でた。 2人ともくすぐったそうに笑ってる。 …良いなぁ…って思った。 すごくすごく、良いなぁって思ったんだ。 俺には優しい母さんがいる。 ちょっと変だけどやっぱり優しい父さんもいる。 だから、本当の『親』がいないデンゼルとマリンにこんなことを言ったら、きっと2人は怒ると思うんだけど、それでも俺は羨ましいな、って思った。 だって、血が繋がってないことなんか全然関係ないんだ。 ティファさんも、クラウドさんも、デンゼルとマリンをとても大事に大事に思ってる。 デンゼル達もティファさん達が大好きだ。 だから、一緒にお店を手伝うことが当たり前で、とても誇らしいって思ってるんだ。 そんな大好きな人達のために何かを一生懸命出来るってさ、中々出来ないよな? うん、帰ったら俺、もっと母さんのお手伝いしよう! 「じゃ、キッド、俺たちの部屋に行ってようぜ!」 デンゼルが俺の手を引っ張ろうとした。 その時。 ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ。 「「「 あ… 」」」 ティファさん達が同時に声を出した。 うわ〜、面白い!見事にハモッてたよ。 「ティファ、私が出るね」 そう言いながらマリンが店の電話まで走る。 「もしもし、セブンスヘブンです」 お〜! すごい、マリン。 まるでコールセンターの人みたいだ!! マリンの横をデンゼルに引っ張られて2階に上がる。 いや、上がろうとしたんだ。 「え!?」 素っ頓狂な声って、きっとこういう声を言うんだろうなぁ。 デンゼルもビックリして階段の途中で振り返る。 ティファさんが少し険しい顔をして足早にマリンに近づいた。 無言で手を出し、受話器を渡すよう促してる。 一瞬で店の雰囲気がピーン…と張り詰めた。 でも…。 「少々お待ち下さいね」 何となく困ったような顔をしながらマリンはティファさんに受話器を差し出した。 「ティファ、ツォンさんからだよ。今夜、お店を貸しきりたいって言ってる…」 ティファさんが目を丸くした。 スーッと険しい表情が和らぐ。 「もしもし、久しぶりね。どうしたの?」 あ。 お知り合いの人か。 あ〜良かった。 なんか変な人からの電話かと思っちゃった。 ほら、ティファさんってモテるから、お店の常連さんの中にしつこく言い寄ってくる人がいて、その人からの電話かと思っちゃった。 「あ〜、良かった。マリンが変な顔するからまたあのデブ男からかと思ったよ」 ……。 デンゼル、俺が思ったことを口に出し言うのはやめてくれる…? マリンはプクッ、とほっぺたを膨らませてデンゼルを睨んだ。 「だって、折角今日はキッドとお泊り会なのに〜!」 「あ…」 途端、デンゼルのからかうような顔が一変。 ティファさんがどういう返事をするのか食い入るように見つめる。 マリンもジーッ…と穴が開くほどティファさんを見る。 自然と俺もなんだか身体に力が入っていた。 いや、別に今日でなくても良いだけど。 なぁんて、そんな台詞を言える雰囲気じゃなかった。 例えるならあれだ。 市場のタイムセールを今か今か、と待っている近所のおばさん達の気迫に近い。(← 激しく間違えています)。 ティファさんはデンゼル達の視線に気づいているみたいで、なんとなくこっちを気にしながら電話の向こうの人に相槌を打っている。 「えっと……うん、そうね。そういうことなら仕方ないわね」 ビシッ! デンゼルとマリンが音を立てて固まった。 ユラユラと怒りのオーラが2人から立ち上る。 いや、本当に冗談とか大げさとかじゃなくて本当にそうなんだって! 俺だって漫画とか映画でしか見たことないから、こんな現象!! 「じゃあ、お待ちしてます。気をつけて来てね」 ガーンッ!!! 2人がまさにそんな効果音を立てながらショックを受けたように見えた。 …まぁ、俺もちょっとショックだったけど…。 これで今日のお泊り会は中止だな。 「あ、それじゃあ俺、帰りますね」 ティファさんが振り返る前にそう言って、階段から降りようとする。 いやだってほら、デンゼルとマリンは絶対に反対するだろうし、そうしたらティファさんが困るだろ? 別に俺は何が何でも今日、お泊りしないとダメ!!ってことないもん。 また別の日に泊まらせてくれたらそれで満足だし。 とか思ったんだけど。 「良いのよキッド君。今夜は泊まってって」 気を使わせてゴメンね。 苦笑しながらしゃがみ込んで俺と視線を合わせてくれたティファさんがクシャクシャと髪を撫でてくれた。 母さんとは違う女の人の香りにちょっとドキッとする。 「…でもティファ…」 「俺達との約束が先だったのに、なんで予約なんか受けるんだよ〜…」 デンゼルとマリンが唇を尖らせてティファさんを見上げる。 ティファさんはちょっとだけ眉尻を下げて困った顔をしながら微笑んだ。 「うん、断ろうかと思ったけどそうも言ってられないみたいだから」 「「 なんで〜? 」」 「ツォン達が来たら分かるわよ、すぐに」 そう言ってティファさんは悪戯っぽく笑った。 デンゼルとマリンは、結局そのティファさんの表情に文句を言うことを諦めたみたいだった。 「しょうがないなぁ…」 「本当だよぉ。キッド、ごめんね?」 「そうだよなぁ、キッド、ごめんな?でも、タークスのおっちゃん達、結構面白いから楽しいと思うからさ!」 「うんうん、きっとキッドも好きになるよ」 最初は俺に気を使って言葉を探してただろうに、2人はあっという間に『素』で笑顔になった。 だから、俺も釣られて笑う。 きっとそうなんだろうな。 「じゃあ、私は今夜のご馳走の準備をするから3人は上で遊んでて」 クルリと背を向けてカウンターの中に入りながら、手早くエプロンを身に付けたティファさんはすごく綺麗だった。 背筋がピシッと伸びてるから、歩き方とか動きが颯爽と見えるんだ。 カッコいいなぁ。 俺も今から気をつけて猫背にならないようにしてたら、大人になった時にあんな風に動けるかな…? と…。 「デンゼル」「マリン」 デンゼルとマリンが揃って呼びかけた。 2人共、見事に言葉がかぶっちゃってビックリしてる。 ちょっとだけ黙って気を取り直して…。 「キッドと遊んでてくれよ」「キッドと遊んでて」 また同じ言葉が飛び出した。 いよいよ2人は目を丸くした。 「「 なんで!? 」」 …今度は丸々同じ台詞だ。 「「 ティファの手伝いするから 」」 おぉ〜! ここまでハモルなんて、意識しても難しいと思う。 とと、楽しんでる場合じゃない。 デンゼルもマリンも、ティファさん1人に準備をさせるわけにはいかないって思ってるんだ。 それなのに、お客さん(俺)がいるから、お手伝いできない。 だから、互いにお客さん(俺)の相手をしてもらって、自分はお手伝いをしようと考えた。 2人とも手伝いたいのに俺のせいでそれが出来ない…だなんて、俺には不本意だね。 「ティファさん、俺、野菜の皮むきくらいなら出来ます」 「「 キッド!? 」」 無言でにらみ合ってる2人を無視してカウンターの中に失礼する。 うわ〜、カウンターの中って初めてだから、なんかワクワクするな。 「キッド君、そんなことしなくても…」 「俺、家で母さんと一緒にご飯の準備したりするからそれくらいは出来るし、こういうお店のカウンターで1回、働いてみたかったから」 ティファさんは想像通り、俺が手伝おうとしたことにビックリした。 でも、デンゼルとマリンが止めるよりも早くにニッコリ笑い返してくれた。 「じゃあ、このじゃがいも、剥いてくれる?」 渡された洗い立てのじゃがいもとピューラー。 それにボール。 ニッコリ笑ってそれらを両腕に抱える。 いそいそとカウンターから出て、店のテーブルに運ぶ俺を、デンゼルとマリンが呆けたように見てたけど…。 「じゃ、私はニンジン〜」 「じゃあ俺は肉をタレに漬け込む」 両腕に材料を抱え込んで同じテーブルに来た。 3人でテーブルの上で皮剥いたり、肉を一生懸命ボールの中で混ぜ混ぜしたり。 「こうしてると、キャンプしてるみたいだな」 俺がそう言うと、2人とも嬉しそうに笑ってくれた。 カウンターの中でティファさんも笑い声をあげてくれる。 あぁ、楽しいな。 手際の良いデンゼルとマリン、そんな2人を嬉しそうに見るティファさん。 その目が俺にも向けられる。 なんか…照れる。 そうしているうちに、料理の良い匂いが少しずつ店内を満たし始めた頃。 デンゼルとマリンがパッと顔を上げて一目散に裏口へと駆け出した。 理由はすぐに分かった。 「「 おかえり、クラウド! 」」 裏口から入ってきたのは俺の憧れの英雄。 優しくデンゼルとマリンを抱っこしたクラウドさんは、久しぶりに見てもやっぱりドキドキするくらいカッコ良かった。 「ただいま、デンゼル、マリン」 そう言って2人をギュッと抱きしめてから離して…。 「ただいま、ティファ」 「おかえりなさい、クラウド。お疲れ様」 優しい雰囲気に、甘いものが加わる。 はい、勿論最後まで見ません。 ちゃんと窓の方を見てましたから。 えっ!? なんでしっかり見ないのかって!? そ、そんな恥ずかしいシーン、赤の他人が見たらダメなんだぞ!? と…。 ガシッ。 はい? 「久しぶりだな、キッド」 俺の頭を軽く鷲づかみにして、クラウドさんが少しだけ微笑んでいた。 はわわ。 やっぱり綺麗な顔してるよなぁ…。 「はい、こんにちは!お世話になります」 「あぁ、聞いてる。それに……すまない、急な来客があるみたいで…」 ちょっと眉根を寄せたクラウドさんは、きっと表情以上に困ってるんだろうな。 なんか良い感じだなぁって思う。 こうして、ティファさん達以外の他人が見られないような顔を見せてくれるって単純に嬉しい。 役得ってこういう時に使うのかな〜? 「へへ、良いんです」 「そうか…?」 「はい」 「そうか」 ワシャワシャワシャ。 俺の髪をかき混ぜると、クラウドさんは微笑んだまま見つめていたティファさんに、シャワーを浴びてくることを告げて2階に上がっていった。 その後。 髪の毛を濡らしたまま降りてきたクラウドさんは、ティファさんに「もう、クラウド、また髪が濡れたまま〜!」ってちょっぴり怒られながら、一緒に夕飯の準備をした。 お陰で色々なクラウドさんを見られてすっごくラッキーだった。 例えば、大きな剣を扱うクラウドさんが、意外と包丁の手つきが危ういとか、カリフラワーのことを『白いブロッコリー』って覚えてたり、ズッキーニを『きゅうりの進化したもの』って表現したりしてさ。 野菜の名前を覚えるのが苦手で、微妙におかしな呼び方してたのが笑えた。 でも、やっぱりそんなクラウドさんも、クラウドさんのことが大好きだ!って目で見てるティファさんと、デンゼルとマリンがすごく温かくて。 やっぱり俺は、セブンスヘブンの人達が大好きなんだなぁ、って思った。 楽しい時間はあっという間だ。 チリンチリン。 ドアベルが鳴って初めて、もう日暮れになったことを知った。 タークスの人達ってどんな人達なんだろ? ちょっぴりドキドキしながら俺はドアを見た。 |