「え、『何でも屋』!?」 ティファは思わず素っ頓狂な声を出して目を丸くした。 さすらいの旅する『何ても屋』 前「うん!今、凄く話題なんだって!!」 「若い兄ちゃんと若い姉ちゃんの二人組みだってエリックの兄ちゃんが言ってたんだ!!」 遊びに行っていた子供達が、帰って来るなりカウンターで店の下準備をしていたティファに先を争ってそう言った。 ティファは、『ただいま』も言わずに荒い息のまま話をする子供達を叱りもせず、目をキラキラさせている子供達をややボーっとした目で見つめる。 そして、ハッと我に返ると、出しっぱなしだった水を止め、何となく落ち着きを失ってソワソワとしだした。 子供達は、そんなティファにお構いなしに、たった今仕入れてきた情報を口々に話し始めた。 「そのお兄ちゃんって、とっても無愛想なんだって!」 「そんで、その姉ちゃんって、兄ちゃんとは対照的でニコニコしてるんだってさ!」 「お兄ちゃんは、髪が短くて、ツンツンしてて!」 「姉ちゃんは、髪が黒くて、肩より少し長いんだってさ!」 「おまけに、お兄ちゃんは刀を扱うのが凄く上手いんだって!」 「姉ちゃんは、あまり戦えないみたいだけど治療が上手で、いっつも兄ちゃんの怪我を治してるんだって!!」 「それ聞いたら…」 「何だか…」 「「クラウドとティファみたいだって思ったんだ〜!!」」 実に嬉しそうに語る子供達に、漸く落ち着きを取り戻したティファは、火にかけていた鍋を覗き込むと火を消し、二人に向き直った。 「えっと、ようするに今、エッジに『何でも屋』さんが来てるのね?」 「「うん!!」」 ニコニコと頷くデンゼルとマリンは、ティファが予想以上に驚いてくれたのが嬉しくて仕方ない様だ。 満面の笑みで、ティファを見上げる。 「ほら、クラウドも昔、『何でも屋』をしてたんだろ?マリンが話してくれたんだ!」 「うん、そうだよ。ね?ティファが最初にセブンスヘブンに連れて来たのも、『何でも屋』としてクラウドを雇ったんだよね!」 「え、ええ。そうよ…」 「なぁなぁ!クラウドってやっぱり『引っ張りだこ』だった?」 デンゼルが期待を込めた眼差しを向ける。 ティファは、その顔に「うっ…」と言葉を詰まらせ、暫し黙考した。 確かにクラウドは腕が良かった。 魔晄炉の爆破も、彼がいなければ上手く行かなかった事は間違いない。 しかし…。 それ以外でクラウドが『何でも屋』として働いたのは……。 …………。 ……………。 『ボディーガード』 一瞬、懐かしい…、そして辛い記憶が甦る。 「え〜?クラウドって『何でも屋』でお仕事沢山してたかなぁ?」 返答に迷っていると、マリンが額にシワを寄せて記憶を探った。 「えー?違うのか??」 そんなマリンに、いささかガッカリした面持ちでデンゼルがティファを見る。 ティファは内心ホッとしつつも、あからさまに気落ちしているデンゼルに苦笑した。 「ほら、クラウドは『何でも屋』をし始めてすぐに『ジェノバ戦役』の戦いに突入しちゃったから、ほとんど『何でも屋』はしてないの」 「あ!そっか」 「それに、クラウドならきっと、誰にも負けない『何でも屋』だったと思うわよ」 悪戯っぽくウィンクするティファに、デンゼルはたちまち元気を取り戻した。 「そうだよな!クラウドなら絶対に世界一の『何でも屋』だったよな!」 喜色満面の顔をするデンゼルに、マリンが首を捻る。 「う〜ん、世界一じゃないかもしれないよ?」 「え〜、なんで〜?」 折角気分が良くなったというのに、水を差す発言にデンゼルは唇を尖らせた。 「え〜、だってクラウドって、人付き合いが苦手なんだもん」 マリンの一言に、デンゼルとティファは顔を見合わせた。 そしてティファは、 「…………確かに……」 と、思わず頷いてしまう。 「で、でもさ。デリバリーだって上手くやってるじゃん!」 デンゼルは、憧れのヒーローをどこまでも頑張ってフォローする。 しかし…。 「う〜ん。でも、『何でも屋』って例えば誰かの身辺調査とかするかもしれないでしょ?その時、クラウドみたいに人付き合いが苦手な人って、絶対に苦労すると思うの」 との駄目出しの前に、あっさりと白旗をあげた。 「でも、だからって腕の悪い『何でも屋』だったって言ってるんじゃないのよ?二人共、そこのとこ分かってる?」 マリンにじっと見つめられ、ティファとデンゼルは再び顔を見合わせると一斉に頷いた。 「も、勿論よ、マリン!」 「あ、当たり前だろ〜」 「……本当かな〜?…」 「「………」」 全く、看板娘には敵わない。 ティファは苦笑すると、モジモジと居心地悪そうにしているデンゼルと、どこか疑いの眼差しを向けるマリンの頭をそれぞれ優しく撫でた。 「ほら、二人とも。楽しいおしゃべりはそれくらいにして、もうそろそろお店の準備、取り掛かっちゃわないと間に合わないよ?もうすぐクラウドも帰って来るし、久しぶりにクラウドと一緒にお店をやれるわね!」 看板息子と看板娘は、ティファの言葉にパッと顔を輝かせると先を争って洗面所へ手を洗いに駆けて行った。 やがて、それぞれ自分用のエプロンを身に着け、いそいそと開店準備に取り掛かったのだった。 そうして着々と準備が進む中、楽しそうに今日聞いた『何でも屋』の話題で盛り上がった。 「それでさ。その兄ちゃんって、左目に黒い眼帯着けてるんだって」 「眼帯?」 「うん!何でも、それを外したのを見た人って、皆死んじゃってるんだってさ〜!」 怖さを演出する為に、やや声を落として語るデンゼルだったが、途端に手元が狂って洗ったばかりのジャガイモを落としてしまい、効果は台無しだ。 そんなデンゼルに苦笑しつつ、ティファはたまねぎをみじん切りにして水に晒す。 「それで、その二人はどこから来たの?」 「う〜ん、それは聞いてないの。ただ、何か探して旅してるみたいだよ」 慎重にバターを炒めて小麦粉を投入しつつ、マリンが手元から目を離さずに答える。 「ふ〜ん。でも、エッジに来てからそんなに日は経ってないのよね?」 「うん。先週の終わりくらいに着いたって言ってたな〜」 人参の皮を剥きながら、今度は落とさないように注意を払いつつ、デンゼルが答えた。 「それにしても…」 デンゼルから人参を受け取りながら、ティファは首を傾げた。 「そんな短期間で有名になるだなんて、本当に腕が良いんでしょうね」 「うん。何か、エリックの兄ちゃん家のお得意様が、この前、ジュノンからの帰りに護衛してもらったんだって。行きしにモンスターに襲われて大変だったからって、帰りにジュノンにいた二人にお願いしたんだってさ。そしたら、案の定モンスターの大群に襲われたらしいけど、兄ちゃんがあっさりやっつけたらしいよ」 「それで、そのお得意様、お兄ちゃんとお姉ちゃんの事とっても気に入ったらしくて、専属の護衛にしようとしたらしいけど、あっさりと断られたんだって」 「自分達は旅を続けたいから…、だってさ!カッコイイよな!!」 手を止めて、うっとりとするデンゼルに、マリンが「デンゼル、手!」と一言ビシッと言った。 慌てて手を動かすデンゼルだが、その光景は『兄と妹』ではなく、『姉と弟』のようにしか見えず、ティファは吹き出さない様に堪えるので必死だった。 堪えきれずに肩が震えてしまったのは、幸いにも子供達にバレなかった…。 そんなこんなで、ひとしきり会話を楽しみながら準備は着々と進み、時間も開店まであと数十分になった。 そしてその頃に、漸く店の外に待ち焦がれていたエンジン音が響いてきた。 フェンリルに気付いたのは、やはりデンゼルが一番最初だった。 パッと顔を輝かせると、一目散に店の入り口に向かって走り出す。 その姿に、ティファとマリンは、クラウドが帰宅した事に気付いて笑みを浮かべた。 「ただいま」 「お帰りなさい!」 「お帰りなさい、お疲れ様」 デンゼルを腕にぶら下げるようにしてクラウドが帰宅すると、店内はすっかり開店準備が整っていた。 あとは、開店時間を待つばかりだ。 「クラウド、本当にお店、お手伝いするの?」 「クラウド、疲れてるんだし、カウンターの席に座ってのんびりしてたら良いのにさ!」 マリンとデンゼルが代わる代わるクラウドを気遣って声をかける。 クラウドは、紺碧の瞳を細めるとデンゼルとマリンの頭をポンポンと軽く叩いた。 「大丈夫だ。たまには店の手伝いもしないとな。いつもティファとデンゼルとマリンに任せっきりだからさ」 「そんなの気にしないで良いのに〜」 「クラウドは配達の仕事だけでも大変だろ〜」 デンゼルとマリンは口を尖らせながらも、クラウドの手の平の感触にくすぐったそうにはにかんだ。 「それじゃ、すぐに戻ってくるから、俺が戻るまで店は開けないで待っててくれよ」 そう言い残し、クラウドはシャワーを浴びに二階へ向かった。 その階段のところで、丁度お湯の温度を調節してきたティファと鉢合わせをし、軽くただいまのキスを交わした事を、子供達は知らなかったりする。 そして。 クラウドは宣言したようにすぐにシャワーから戻って来た。 久しぶりに身に着ける水色のエプロンに、どこかくすぐったさを感じる。 「クラウドって、意外とエプロン姿も似合うよね!」 マリンがニコニコしながらそう評した。 デンゼルは、「そうかな〜。やっぱり、クラウドはいつもの黒い服がよく似合うと思うな〜」と首を捻る。 それぞれの感想に、クラウドはどう表現して良いのかわからず、曖昧に笑みを浮かべるだけだった。 そんな三人のやり取りに、心を温かくさせながらティファは店のドアの前に立つと、店内にいる三人へ振り向いた。 「は〜い!それじゃ、久しぶりに四人が揃ったセブンスヘブンの…」 「「オープーン!!」」 子供達の明るい声と共に、セブンスヘブンは開店した。 セブンスヘブンは、開店直後から満席になるという、相変わらずの繁盛振りだった。 「お〜い、こっちにメニュー頂戴!」 「お〜い、こっちにはビールね〜」 「そっち終わったら、この皿下げてくんない?」 客達の声が店内を飛び交う。 そんな中、子供達はいつもの如く、よく働いた。 そして、そんな子供達の明るく、くるくると働く姿にクラウドは、新鮮な驚きを感じていた。 最近、配達の仕事が忙しくてほとんど閉店してからの帰宅だったのだ。 また、仕事がオフの日は、ティファが家族との時間をなるべく持てるように、との心遣いから、店の方も臨時休業にする場合が多かった。 その為、子供達とティファが働く姿は、クラウドにとっては本当に久しぶりで、更に、暫く見ない間に子供達がうんと成長していた事がすぐに分かった為、感無量だった。 もっとも、無愛想で表情に全くでない彼の心情に気付いたのは、女店長だけだったのだが。 「お!クラウドさん。久しぶりじゃないか、そのエプロン姿!」 「珍しいな〜。クラウドさんがこの時間にいるのに、店を休まないのは」 馴染みの常連客が、クラウドのエプロン姿を見て、嬉しそうに声をかける。 一方、声をかけられたクラウドは、馴染みの客とは言え、まだまだその表情が崩れるという事はない。 無表情な顔に、うっすらと笑みを浮かべ、 「何かご注文は?」 と、注文を尋ねるので精一杯だ。 しかし、馴染みの客達はそのことをちゃんと心得ているので、特に気にする事もなく 「あ〜、それじゃ、この『店長自慢のお袋の味セット』ってやつにするわ!」 「お!?俺もそれにしようっと!」 「ほいじゃ、俺は『店長オススメ、野菜たっぷりヘルシーメニュー』にする!」 慣れない注文取りに、クラウドは内心焦りつつ、必死にメモを取る。 その彼の姿が、常連客達にとってはまことに初々しい。 彼の姿に皆が微笑ましく感じている事など露ほども知らないクラウドは、注文をぎこちなく繰り返して客から了承を得ると、空いた皿をこちらは意外にも器用に運んでいく。 客の一人が言うには、 「あれって、やっぱりバランス感覚が人波はずれてるから腕っ節も強いんだろうな〜」 だそうだ。 やがて、店は帰る客と来店する客でごった返してきた。 待合用の椅子に腰掛け、テーブルが開くのを待っていた客達が、看板娘により次々とテーブルに案内される。 デンゼルも汚れた皿を洗うのに手一杯になり、クラウドも慣れないながらも会計を行う。 クラウドのぎこちない動作に、常連客達が温かな笑みを浮かべて満足げに帰って行く。 その姿に、クラウド以外の三人は、嬉しそうに微笑んでいつも以上に張り切って働くのであった。 チリンチリン…。 今夜、何十回目かの店のドアベルが鳴り、新しい客の来訪を告げた。 「「「いらっしゃいませ!」」」 ドアベルに反応して、ティファとマリン、それにデンゼルが明るい声を出して、ドアを振り向いた。 入ってきたのは、背が高く、薄い茶色の短い頭髪をツンツンと立て、左手がまるでヴィンセントの様な義手を持つ、左目を黒い眼帯で覆った若い男性と、その男性の肩よりもやや背が低く、黒髪を肩甲骨まで伸ばし、温和な面立ちをした若い女性の二人連れ。 そんな見慣れない風貌の二人に、一瞬、賑やかだった店内が、波を打ったようにシンと静まり返った。 それに気付いているのか気づいていないのか、若い二人連れはざっと店内を見渡して開いてるテーブルを探す素振りを見せた。 それに気付いたマリンが、慌てて接客に向かおうとする。 それを実にさり気なくクラウドは押し止めると、少々不安そうな顔をして見上げるマリンに軽く頷き、新たな客人の元に向かった。 「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」 クラウドが二人連れにお決まりの台詞を口にすると、男性の方はチラリとも見ず、全くもって無関心な態度を示した。 しかし、女性はそれに比べて正反対。ニコニコと温和な表情をクラウドに向けた。 「あ、はい、そうです」 なんともホンワカとした雰囲気を醸し出している。 「では、こちらへどうぞ」 テーブルに案内するごく短い時間で、クラウドは人と接するのは彼女の役割なのだと理解した。 そう。 まるで、自分とティファの様な関係…。 そう考えると、急に二人連れに対して親近感が込上げた。 しかし、それが表情に出ないのがクラウドである。 「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」 軽く一礼してテーブルから離れる。 そのクラウドの一連の動作を固唾を呑んで見守っていた常連客と、マリン、デンゼル、そしてティファは一斉に心の中で安堵の溜め息を吐いた。 クラウドは、テーブルから離れて顔を上げた際に、漸く自分に向けられている生暖かい笑みに気付いてギョッとしたが、何とか瞬時に体勢を整えたのでテーブルにぶつかるという無様な事態は避けられた。 「クラウド!よく頑張ったよな!!」 「クラウド!偉かったわ!」 カウンターへ戻るとデンゼルとマリンが興奮気味に囁いてきたが、当のクラウドにはわけが分からない。 ひたすら首を捻って困ったようにティファを見るのだった。 「すみませ〜ん!」 例の二人連れが手を上げた。 やはり、女性の方が呼んでいる。 男性の方は、翠の隻眼をぼんやりと店の一角に注ぎ、頬杖をついていた。 「あ、は〜い」 丁度カウンターを出て他の客の注文を聞いていたティファが、素早くそれに応対する。 「はい、お待たせしました」 「えっと、この『店長自慢のお袋の味セット』を二つお願いします」 「はい。お飲み物はどうされますか?」 「ん〜。私はアップルジュースにしようかな。セトさんは?」 そう言って、彼女は黒い瞳を連れの男性に向けた。 男性は、「ん?」と無言で女性から差し出されたメニューを受け取り、目を通す。 彼の翠の隻眼がメニューの上を滑っていく。 「………ウーロン茶」 ざっと目を通した結果、彼が選んだのは何の変哲もない物だった。 てっきりお酒でも注文するのかと思っていたのだが、意外に堅実な注文だったのでティファは内心可笑しくなってきた。 どうも見た目と違う彼の姿が、ティファの大切な人と重なってしまう。 もっとも、その大切な彼はきついお酒を好むのだが…。 「はい。では、『店長自慢のお袋の味セット』二つとアップルジュースお一つ、ウーロン茶お一つで宜しいでしょうか?」 「はい。おねがいしま〜す」 ティファがメニューを繰り返すと、女性がニコニコとしながら、そして男性はむっつりと黙ったままコクンと頷いた。 「はい。では少々お待ちくださいませ」 テーブルから離れたティファは、営業用ではない笑みを浮かべていた。 それにしても…。 ティファはどうも新しい二人連れのお客が気になっていた。 それは、只者ではないオーラを醸し出している事もさることながら、それ以上にどこかであった気がするのだ。 勿論、顔を見る限りでは初対面だし、二人連れも特に以前見知ったという反応をしなかった事からそれは確かだろう…。 だがしかし…。 メニューの品を作る間、頭の中の引き出しを整理する。 はて…? この引っかかる気持ちは何だろう…? どうにもスッキリしなくて、喉の奥に何かが引っかかっている様な不快感は…?? 暫しの黙考。 ………。 …………。 カチカチカチ…。 ティファの頭の中のいくつかの符号が当てはまって一つの形を取る。 そしてついに…。 チーン!! という音を立てそうな閃きがティファの頭の中で起きた。 「「「『何でも屋』さん!!!』」」」 ティファがその言葉に行き当たった時、同時に子供達と、驚いた事に常連客の数人が同時に声を上げて手を『ポン』と打ち鳴らした。 「は?」 わけの分かっていないクラウドと他の常連客達は、キョトンというよりもギョッとして大声を上げたティファと子供達、それに数人の常連客をまじまじと見つめた。 そして、当の『何でも屋』の二人は…。 「セトさん。何だか私達の事を言ってるみたいですけど…。お仕事でしょうかね?」 「………今日はもう受けない…」 と、実に暢気な会話を交わしていたのだった。 すみません。どうしても終わりませんでした(汗)。 後編へ続きます! |