さすらいの旅する『何でも屋』 後編




「それじゃ、二人は『何でも屋』を営みながら旅をしている…、と?」
「はい。そうなんです」
「へぇ!カッコイイ!!」
「すっご〜い!!」
「エヘヘ〜。でも、凄いのはセトさんなんですよ。私は戦いは全く駄目なんで、いっつもセトさんが守ってくれるんです」

 二人が現在エッジで話題の『何でも屋』である事を知った店の常連客達の反応は凄かった。
 皆が自分達の席を立って話題沸騰中の二人を取り囲む。
 男性…、セトは特に話す必要を感じないのか、黙々と食事に集中している為、専ら女性…、マナが相手をしていた。
 当然、常連客達に混ざって子供達も二人を憧れの眼差しで見つめている。
 普段なら、そんな事をする子供達ではないのだが、今夜店を開けるまで話題になっていた二人が突如として目の前に現れた為、すっかり興奮してしまっていた。
 そんな子供達を、これまたいつもなら叱るはずのティファも、何となく淡い笑みを浮かべて見守っている。
 クラウドは、と言うと。

「ああ、あの二人が例の凄腕の『何でも屋』か。意外に若いんだな」
と、カウンターにもたれてポツリと呟いた。
「クラウド、知ってるの?」
 クラウドが既に知っている事に驚いて、ティファは目を丸くした。
「ああ、知ったのはつい最近なんだがな。配達先の依頼人が話してくれたんだ。何でも、ジュノンへ行く途中でモンスターに遭って大変な目にあったどこかの商人が、エッジの帰りにジュノンに寄留していた『何でも屋』に護衛を依頼して無事にやり過ごしたって。それで、その商人は二人をお抱えのボディーガードにしようとしたけど、あっさり断られて泣く泣く諦めた…、そんな話だったな」
 何でもないように淡々と語るクラウドに、ティファは少し口を尖らせた。
「そうなんだ。私はついさっき、店を開ける前に子供達に聞くまで知らなかったわ」
 少し拗ねた口調の彼女に、クラウドは片眉を上げた。
「何だ、聞きたかったのか?」
「いいもん、別に〜」
「良いって顔じゃないだろ?下唇出てるぞ」
「悪かったわね、不細工な顔で」
「何もそんな事言ってないだろ?」
「クラウドの顔にそう書いてあるもん」
「おっと、バレたか?」
「もう!ほんっとうに意地悪ね!!」
 手の平で顔をこする仕草をするクラウドに、ティファは思い切り拗ねた顔をした。
 それがまた、何とも言えず………。

「「あ………」」

 いつの間にか、店内にいる全員の視線が自分達に注がれている事に気づいた二人は、みるみるうちに顔を真っ赤にさせた。

「イイネェ…」
「あ、俺達の事は気にせず、どうぞ続けて続けて」
「いや、熱いね〜。何だか今夜は熱帯夜だね」
「……何て可愛いんだ…」
 等々、口々にはやし立てる。
「も、もう!皆、本当に意地悪ね!」
 ティファは、恥ずかしさのあまり、出来たばかりの料理を同じ様に顔を真っ赤にさせているクラウドに押し付け、自身は店の奥に引っ込んでしまった。
 その慌てふためく姿に、店内がドッと湧く。
 取り残された…、というよりも、皆の好奇の視線に晒される恥ずかしい役目を一身に背負わされたクラウドは、ぎこちない動作で料理を『何でも屋』の二人のテーブルに運んだ。
 途中、あまりにも居心地が悪すぎて自分の足に引っかかりそうになって肝を冷やした。
 当然、その姿に店内が爆笑の渦に巻き込まれたのは言うまでもない。

「お待たせしました」
 料理をテーブルに無事に運ぶと、女性…マナはニコニコとした温和な顔をパッと輝かせ、
「わ〜!美味しそう!!」
と、歓声を上げた。
 セトもムッツリとしながらもそそくさとフォークを手に取る。
「いただきま〜す!」
 律儀に手を合わせたマナは、一口スープを口に運んで「ん〜〜!」とうっとり目を閉じた。
「お〜いし〜い!」
「美味い…」
 実に素直なその感想に、デンゼルとマリンは勿論、セブンスヘブンの常連客達も嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そうだろ!エッジ自慢の店の一つ、セブンスヘブンの女店長ティファちゃんが作った物は、何でも美味いんだ!」
「あ、その野菜の煮物も絶品だぞ〜!」
「それそれ、その炒め物も美味いんだな、これが!」
 常連客達は、次々と若い二人連れにオススメ料理を紹介した。
 そのうち、自分達のテーブルでまだ手をつけていない料理までお裾分けする客まで出てきた。

 マナは、それらの客達一人一人に丁寧に受け答えをし、セトも時折曖昧に返事らしき物を返していた。


「あ〜、本当に全部美味しいですね!!このお店を教えてくれたお婆さんにお礼を言わなくちゃ!」
「そうだろ?ティファの料理は全部絶品なんだ!」
 何度目かの賛辞の言葉に、丁度隣のテーブルの空いた皿を下げていたデンゼルが、嬉しそうに話しかけた。
 流石に、いつまでも仕事をほったらかしにするわけにもいかない。
 奥に逃げていたティファもカウンターの中でしっかり仕事に戻っている。
「うん。本当に美味しい!それに、どのお料理もとっても胸が温かくなるのよね」
 ね、セトさん?
 嬉しそうな顔をしながら向かい合って黙々と食べている相棒へ声をかける。
 セトは、「ああ、そうだな」と簡潔に一言だけ口にした。
 その、無愛想とも取れる返答に、マナは全く気にする事もなく笑顔でデンゼルを見る。
「私達、ずっとこんな『お母さんの味』を食べてなかったからとっても嬉しいわ。最近ではレトルトの物を温めて食べるか、料理屋さんでこってりした物を食べるかのどちらかだったから」
「レトルト?」
 首を傾げるデンゼルに、マナは相変わらずニコニコと微笑みながらこっくりと頷く。
「うん。街とか村に入る前に日が暮れたら野宿するでしょ?その時に、レトルトを焚き火で温めて食べるの。不味くはないけど、やっぱり何だか味気ないしね」
 意外とこんな『お母さんの味』を出してくれる料理屋さんってないのよね〜。
 そう言って、また一口美味しそうに口に運ぶ彼女に、デンゼルは目を丸くした。
「え!?野宿とかするの!?」
「え?そうよ。だって旅してるんだもん」
 何でもないと言うようにあっさりと答えたマナに、デンゼルは「うわ〜!」と目を輝かせた。
 すっかり『何でも屋』の二人に憧れを抱いたようだ。
「それってさ、寝てる間にモンスターが出たりとかした事なかった?」
 キラキラと目を輝かせて、マナとセトを代わる代わる見る。
 セトは、そんなデンゼルの憧れの眼差しの前にフッと小さく笑みを零した。
「ま、何回かはな。でもそんなに滅多にあるものじゃない。適切な場所を選んで野宿するから大変な目に遭ったことは…」
 言葉を切ってちらりと相棒を見る。
「ん〜。そんなにはなかったかな〜。交代で見張りするから…。でも、私が寝てる間にセトさんがやっつけてくれてた事なら何回もあったかな?ね?」
「ああ、まあな」
「へぇ!すっげ〜!!」
 キラキラと目を輝かせる看板息子に、カウンターからその光景を見守っていた親代わりの二人はゆるりと微笑み合うのだった。


 その後、すっかり二人と意気投合したデンゼルは、時折マリンの睨みに首を竦めながらも仕事の合間を見つけては何かしら話しかけていた。
 そして、
「そうそう、クラウドも昔、『何でも屋』をやってたんだ!」
 と、唐突にクラウドの話を持ち出した。
 クラウドは丁度その時、デンゼルの真後ろを空いた皿を山積にしてカウンターへ戻る途中だった。
 急に自分の名前が出たことにびっくりして、思わずバランスを崩しそうになる。
 それを、実に器用に…、そして間一髪で体勢を整えると、笑顔で自分を見上げる二つの視線と、ムッツリとした眼差しを投げかける一人分の視線に後ずさった。
「な、なんだ?」
「へぇ〜、そうなんですか?じゃ、私達の大先輩ですね!」
 曇りの全くない笑顔のマナに、クラウドは目を瞬かせた。
 そして、じっと期待を込めて自分を見つめるデンゼルに苦笑する。
「ああ、確かに『何でも屋』をしていた事はあったが…」
 そう言い出して、隣の空いていたテーブルに持っていた山積の皿を器用に置く。
「俺が『何でも屋』の仕事をしたのはたった二件だけだからな。あんた達の方がうんと『何でも屋』としてのキャリアは高い」
「そうなんですか?」
「…………」
 マナはキョトンと、セトは黙々と食事を口に運びながら複雑な顔をするクラウドを見た。
 デンゼルは、クラウドの表情を見て、話題に出した事を『しまった…』と思ったが、当のクラウドはそんなデンゼルに気付くとフッと笑みを零し、フワフワとした看板息子の髪をやや乱暴に撫でた。
 その光景に、マナは柔らかな笑みを浮かべ、相棒を見た。
 セトは、マナの眼差しの意味するところが分からず、ドギマギと視線を泳がせる。
 そんな彼の仕草に、漆黒の髪の乙女は更に笑みを深くするのだった。

「ところでさ。セトの兄ちゃんの左目見た人って、本当に皆死んじゃってるの?」
「は!?」
 クラウドに頭を撫でられた事により、気分を一新させたデンゼルは、洗い物から戻って来た時、再び好奇心と言う無邪気な感情をもたげさせていた。
 思わぬ発言に、口をポカンと開け、翠の隻眼をまん丸にしたセトは…。
 何とも言えず、間の抜けた表情だった。
「セトの兄ちゃんとマナ姉ちゃんの話しを聞いた時、いつも遊んでくれる兄ちゃんがそう言ってたんだ。セトの兄ちゃんの左目を見た人間は、皆死んじゃってて、セトの兄ちゃんの左目を見た奴はいないって」
 あまりの言葉に、セトはポカンとしたまま言葉が出ない。
 流石のマナも、びっくりしてまじまじとデンゼルを見つめた。
「こ、こら、デンゼル!失礼でしょ!」
 仕事をしつつ、カウンターから見守っていたティファが、ギョッとして飛んでくる。
 勢い良くデンゼルの頭を押さえつけると、
「本当に息子が失礼しました」
と、一緒になって頭を下げた。
「イタイイタイ!ティファ、首がもげる〜〜〜!!」
 細い腕をしていても、ティファは並みの男よりもうんと力がある。
 そのティファが、いささか慌てて抑えつてけているので力加減がいま一つだ。
 他の客と話をしていたクラウドと、勘定をしていたマリンは、デンゼルの悲鳴に苦笑を浮かべるだけで、助けに行こうとしなかった。

『『口は災いの元ってやつを、少しは学習しないとな(ね)』』

「えっと、デンゼル君は息子さんなんですか?」
 どこかのんびりとした口調のマナだが、言葉に隠しきれない驚きが混ざっている。
 セトも、言葉には出さないが、先ほどデンゼルから受けた衝撃以上の驚きを受けている様だった。
 ティファはパッとデンゼルの頭から手を離すと、ニッコリと微笑みながら、
「ええ、そうなんです」
 漸く解放されて頭を抑えているデンゼルを見た。
 その眼差しがとても温かいのに『何でも屋』の二人は、ホッと体から力を抜く。
 そして、マナはふんわりと、セトは今夜初めて『フッ』と微笑んだ。
「息子だけじゃないんです。あそこにいる女の子が娘です」
 二人が微笑んだのを見て、ティファは嬉しそうに笑うと、勘定を済ませたマリンを差した。
「わ〜!良いですね!!可愛い息子さんと娘さんで」
「ええ、本当にそう思います」
 この事により、ティファも二人にすっかり打ち解けた。

「あ、そうそう。セトさんの左目ですけど、別に見たって誰も死にませんよ」
 ポン、と手を叩き、苦笑しつつマナが説明をする。
「見たら死んじゃうって呪いがかかってるわけでもないし、見られたら殺しちゃうって事でもないです」
 何でそんな変な噂が立ったんでしょうね〜??
 どこまでものんびりとした口調でマナは頬杖をついた。
「ま、人の噂ってやつは尾ひれと背びれが付きまくるからな。どこかで捩れたんだろ…」
 取るに足らない話だと言わんばかりに、セトが一刀両断する。
「あ、そうなんだ。やっぱりな〜、変だと思ったんだ!」
 どこか残念がる口調な気がしたのは、恐らくセトだけではないだろう。
 再びティファに睨まれて、デンゼルはそそくさとカウンターへ入って行った。
 そのデンゼルの背中に、マリンがきつめの平手を一発プレゼントしている。
 小気味いの良い「バシッ」という音が店内に軽く響く。
 クラウドは他の客と一言・二言話をしていたが、その音に首を傾げて振り向き、渋い顔のデンゼルにますます首を捻っている。
「ところで、クラウドさんって、今は何されてるんですか?」
「今はデリバリーサービスをしてますよ。荷物を世界中に配達するんです。こんなご時世ですから、結構重宝されてるんですよ」
「は〜、凄いですね。世界中をですか〜…」
 食後の熱いお茶を啜っていた相棒が、そんな彼女をちらりと見た。
「私達も世界中を旅してるんですけど、中々大変ですから…。そんな中、荷物を運んで回るだなんて、本当に凄いです!」
「フフ、有難うございます」
 ニコニコと美女と美少女が会話を交わしている光景は、何とも言えず華やかで、店内の男性達の視線を釘付けにする。
 その視線の一つ一つを、実に面白くなさそうな顔をして牽制するように鋭く切り返す視線が二つ…。
 言わずと知れたクラウドと、マナの相棒である隻眼の青年だ。
 二人のそんな様子を一つ漏らさず見ていたマリンは、
『クラウドが二人もいる……』
との感想を抱き、『何でも屋』の二人に対して妙なところで親近感を感じたのだった。



 その後。

 酔っ払いが調子に乗ってマナにちょっかいを出そうとして、セトが腰に下げている刀を抜きかけるというハプニングが起きたり、何故かセトとクラウドが腕相撲をしたらどちらが強いか!?という話しになって危うく本当に腕相撲をさせられそうになったり、はたまたデンゼルがセトの眼帯の下に隠れている左目を知りたがり、溜め息をこぼしたクラウドに抱え上げられてキャーキャー騒いだり…と、非常に楽しい時間を皆で共有した。



「ご馳走様でした〜!」
「ご馳走様」
 楽しい一時はあっという間に過ぎ、『何でも屋』の二人はエッジの安宿へ向けて去って行った。
「また来て下さいね!」
「絶対にまた来てね!」
「今度、『何でも屋』の面白い話聞かせてくれよな!」
「気をつけて…」
 セブンスヘブンの住人四人に見送られ、セトはうっすらと笑みを浮かべ、マナは満面の笑みでもって頷いた。
「絶対にまた来ます!しばらくはエッジにいると思いますので!」
「また、今度…」

 二人が夜の闇に溶け込むまで、子供達は手を振っていた。



 そして、それから小一時間ほどして、店は『CLOSE』の看板を掲げた。

「ねぇ、クラウド…」
「ん?」
 いつもよりも早い閉店で、心持ちいつもよりもゆとりを持って二人が珈琲を楽しんでいると、ふとティファがクラウドを窺うように見つめた。
「『何でも屋』…、やりたかった?」
 まっすぐに自分を見つめるティファに、クラウドはゆっくりと頭を振った。
「いや。『何でも屋』はザックスと二人でやりたかったからな…。あいつがいないなら、やる意味がない…」
「…………」
「それに、こんなに口下手なんだぞ?おしゃべり且つ人付き合いが上手な奴が相棒にいないと、たちまち仕事がなくなるな」
 おどけて言うクラウドに、ティファはクスッと笑うと目を伏せた。
「今日の二人…」
「うん?」
「とっても素敵な『何でも屋』さんだったね」
「ああ、そうだな」
「あの二人が『何でも屋』で良かったなぁ」
「何で?」
 小首を傾げるクラウドに、ティファは言いにくそうに口を開く。
「だって、もしも性格とか最悪な人が『何でも屋』をやってるって聞いたら、絶対にイヤだったと思うの。クラウドはそうじゃない?」
「あ〜、そうだな。確かに嫌な感じだな」
 頭の中に陰険な人間の顔を思い描いて、顔をしかめるクラウドに、ティファはコクコクと頷いて見せた。
「でしょ?クラウドがザックスと二人でやりたかった仕事を、性格が最悪な人がやってるって聞いたら絶対に許せないと思うの。だから…」

 今日来てくれた二人で良かったって思ったの…

 そう言ってくれたティファに、クラウドは彼女にしか見せない柔らかな笑みを浮かべ、そっと華奢な肩を抱き寄せた。

「また、来てくれると良いな」
「うん。きっと来てくれるよ」

 二人は、今日の出会いに思いを馳せながら、そっと寄り添いあい、今日を静かに終えたのだった。



 あとがき

 17744番初リク記念です!
 
 リク内容は『仕事帰りに紹介され、セブンスヘブンに立ち寄った二人、そこでクラウド達と仲良くなる…。』を、熊様設定のオリキャラにて〜、との事でした。

 お、おおう!?
 何だか仲良くなったのはデンゼルとティファだけ…!?
 あああああ……!!
 書いてるうちにどんどん話が違う流れになっていった気がとてもします(汗)。
 こ、こんな出来上がりになってしまって本当にすみません!!
 もっと素敵設定が沢山あったのに、書ききれず〜(;;)。
 こ、ここ、これで精一杯(撃沈)
 よ、よろしければお納め下さい(汗)
 でも!
 とても書いてて楽しかったんです、私は(笑)。
 こんなマナフィッシュですが今後もどうぞよろしくお願いしますm(__)m