世界一最高の…!(前編)




 彼の様子がおかしいと最初に気付いたのは二日前の晩。
 いつも深夜まで仕事を頑張ってくれる彼は、本当に私達家族の為に一生懸命で…。
 疲れているだろうに、それでも帰宅して店の扉をそっと開け、私を見た時に見せてくれるホッとした顔が私を何とも言えない幸福で満たしてくれる。
 彼は…知らないだろけど、私にとってその瞬間が最高に嬉しくて幸せなもの。
 彼だから…。
 彼じゃなかったら絶対にこんなに幸せな気持ちになんかならないし、なれない。
 だから、私も心からの笑顔と言葉でもって彼を出迎える。

「おかえり、クラウド」
「ただいま…ティファ」

 そうしてそっと交わす『おかえり』と『ただいま』のキスの後、彼は一日の埃と汗と疲れを流す為にバスルームへ直行。
 その間に私は彼の為に、きつめのお酒と夕食を用意する。
 彼の為に用意した夕食は、子供達の夕食と同じメニュー………だと彼は思ってる。
 でもね。
 ここだけの話し。
 本当は『彼だけの為』に作った物を必ず別に準備してるんだ。
 これは子供達にも内緒。
 だって、子供達も一生懸命お店のお手伝いをして私を助けてくれるのに、何だか悪いなぁって思っちゃうでしょう?
 だったらしなかったら良いんだろうけど、でもこれだけは譲れないの。
 毎日朝早くから夜遅くまで頑張ってくれる彼の為に、せめて何か一つくらい『特別』があっても良いじゃない?
 って言うより、そうする事で私の心が満たされる…というただの自己満足なんだけどね。

 でも、そんな事は全然知らないクラウドが、美味しそうに全部食べてくれる姿が本当に大好き。
『美味しかった。ご馳走さん』
 そう言って、お酒の入ったグラスをちょっと持ち上げ、笑いかけてくれる彼の優しい瞳が愛しい。


 そんな彼が、二日前の晩は……。





「おかえり、クラウド」
「……………」
「クラウド?」

 いつもの様に深夜に帰宅した彼をは、何故かぼんやりとした目をしていた。
 目の前にいる私と視線は合っているのに、何故か『合ってない』気がしてしまう。
 ひらひらとクラウドの目の前で手を振って、
「どうしたの、大丈夫?」
 そう言って顔を覗き込んだ。
 その途端。

「うひゃっ!?」

 きつく抱きしめられて変な声を上げてしまった。
「ちょ、ちょちょちょちょっと!?!?どうしたのクラウド!?」
 彼のクセのある髪が首筋と頬に当たってくすぐったいやら、急な事で恥ずかしいやら戸惑うやらで頭がパニックになる。
 でも…。
 いつまでもそうやって私の肩に顔を押し付けるようにしてしっかりと抱きしめる彼に、段々冷静になってきた。


 仕事で……何かあったのかな……?


 人付き合いが苦手な彼が、人と人とを繋ぐ仕事を自ら選び、日々懸命にこなしている姿は本当にカッコイイ。
 だって、彼ほどの腕があればデリバリーサービスでなくても人と接しなくて済む仕事はいくらだってあるのだから…。
 例えば、WROのリーブから要請を受けて復興の妨げになるモンスターの駆除。
 危険が伴う僻地への探索。
 街と町や村を繋ぐ為の、安全な交通ルートを探し、それを地図に起こす仕事…。
 他にも沢山ある。
 バレットの仕事を手伝う…という手段だってあるんだし。
 それらをせずに、一人で複数の人を相手に仕事をする彼は、村でひねくれていた頃の少年と同一人物とは思えない。
 ううん。
 本当の姿にやっとなれただけだね。
 村にいた頃は、そのチャンスを掴めなかっただけ……だね。

 そんなクラウドは、仕事の弱音をほとんど口にしない。
 秘密保持の為……だって事も勿論あるけど、それ以上に仕事に対して誇りを持っているから弱音を吐くなんてとんでもない…って思っている節がある。
 まぁ、極々たまに愚痴をこぼす事もあるけど…。
 それでも、どんなに大変なスケジュールの後でも、こんなに疲れ切った彼は今まで見た事が無い。
 よっぽどの事があったんだろうな…。


 私を抱きしめたまま、呼吸をする事も忘れてるんじゃないかと思うほど微動だにしない彼。
 こんなに頑張ってくれる彼が、本当に愛しい…。
 そっと彼の背に手を回して、やんわりと抱きしめる。
 ピクッ…と少しだけ反応があったけど、それでもそのままクラウドが顔を上げる事も、抱きしめている腕を解く事は無かった。
 そうして暫くお互い抱き合っていると、店の時計が『翌日』を告げた。

「ごめん……」
 時計の針の音で漸く顔を上げたクラウドは、どこか照れ臭そうに……それでもホッとしたような顔をして力なく微笑んだ。
「どうして?」
「いや……なんとなく……?」
 困ったようにそう答えるクラウドに、思わず吹き出してしまう。
「なんでそこで疑問系なのよ」
 クスクス笑っていると、照れ隠しで、
「笑うなよ」
 と、私の頬っぺたを軽くつまんできた。
「はいはい。遅くまでお疲れ様」
 両手を軽く上げて降参のポーズを取りそう言った私に、何故かクラウドは泣き出しそうな笑みを浮かべてもう一度私を抱きしめた。


「ただいま……ティファ…」


 その日の晩は、結局何があったのか聞く事は無かった。
 聞いて欲しいと彼が望むのならいくらでも聞きたかったし、本当は問いただしたい気持ちを抑えるのに苦労した。
 でも、彼の泣き出しそうな笑顔が目に焼き付いて離れない。


 なにがあったんだろう…。
 クラウドがこんなにも疲れ、弱っている姿は例の家出から見たことが無い。
 もっとも、あの家出の前も彼は私に弱音を吐いてはくれなかったけど…。
 そのせいで、お互いの心にズレが生じて……私が弱気なっちゃって……。
 あと少しで彼を永久に失う所だった。
 もう二度と、あんな思いはごめんだわ。
 でも、無理に聞き出すことも出来ない。
 きっと今の彼なら、聞いて欲しい時には素直に頼ってきてくれると思う。
 そう……信じてるから、だから私はいつものように彼に夕食を準備し、お酒を注いだ。

「付き合おうか?」
 そう言うと、嬉しそうに笑ってくれた彼が……。
 大好きで…愛しくて……どうしようもない……。



 翌日。
 彼はいつもの様に子供達が起きてきたと同時に配達の仕事へ向かった。
 愛車に跨り、目をしょぼしょぼさせながら一生懸命「「いってらっしゃい!」」と言ってくれる子供達一人一人の額にキスを送り、最後に私にキスをしてくれて、彼は仕事へ行ってしまった。
 子供達は気付いたかしら…?
 私へのキスの後、ほんの少し何か躊躇っている顔をしたことに。
 きっと……。
 今日の配達も行きたくないんだろうな。
 それでも、行きたくないから行かない…というわけにいくはずない。
 でもね。
『あ〜、今日は仕事に行きたくないな』
 って笑いながらでも愚痴を言うくらいは良いと思うの。
 むしろ、そう言いながら出勤する人は多いはずよ。
 だから……ね、クラウド?
 一人で溜め込まないで。
 少しは貴方が背負っているその重荷を私にも背負わせて?
 それとも…。
 私には重過ぎるって思ってるのかな…。
 もしそうだったら、とても悲しい…。
 きっと二人ならどんな重荷も背負っていけるのに。


「ティファ〜、お腹空いた」
「ティファ、どうしたの?」

 いつまでもクラウドの去って行った方をぼんやり見つめていた私に、子供達がそれぞれ顔を覗き込んでいる。
「あ、ごめんね。何でもないの。じゃ、ご飯にしようか!」

 子供達の弾むような足取りに続くように、私も店に戻った。

 そして、その日は私と子供達はいつも通りの時間を過ごし、セブンスヘブンを営んで店じまいをして…。
 お店の後片付けがすっかり済んだ頃、クラウドが帰ってきた。


「おかえり、クラウド」
「………あ、ああ…。ただいま、ティファ」


 昨夜と同じで、いつもと様子の違う彼に、眉が寄る。
 やっぱり……このまま黙っている事なんか出来ない。
「クラウド…あの」
「ティファ」
 話を遮るようにしてクラウドが私の名を口にした。
 その口調はしっかりとしていて、言外に『何も聞かないでくれ』という彼の気持ちが込められている。
 言わなくても……そんな事まで分かっちゃうんだよね。
 だから…。
 そんなクラウドに質問なんか出来るはずもない。
 質問出来ない代わりに、私がした事は…。

「ティ、ティファ!?」
 クラウドの胸に自分から飛び込んで、彼の背に手を回して、強く抱きしめた。
 彼の胸に耳を押し付けると、びっくりするくらい早く鼓動が打たれている。
 きっと、顔を上げたら耳まで真っ赤になってるであろう彼の顔を、私はそのまま見ないでジーッと黙ったまま抱きしめ続けた。


 少しでも彼の疲れた心が私に移って来れば良いのに…。
 そうしたら、そんなに辛そうな顔をしなくて済むだろうに…。


 そんな事を思いながら、抱きしめ続けてると、彼の腕が私の体をやんわりと抱きしめた。
 髪に彼の頬が押し付けられる。
 段々、彼の鼓動がゆったりとしたリズムを刻むようになった。

「ティファ……」
「なぁに?」
 抱き合ったまま、クラウドが小さな小さな声で、声をかけてきた。
 躊躇いがちに紡がれた言葉。


「ありがとう…」


 どんな一言よりも、今は彼のその一言が世界で一番嬉しく思える。
 そして、彼が世界で一番愛しく思える。

 彼を抱きしめた腕に力を込めて、
「どう致しまして!」
 おどけたように言う私を、クラウドが強く抱きしめた。





 そうして今日。
 私は、彼がどうしてここ二日間の様子がおかしいのか知る事が出来た。
 それは…。
 本当に偶然だったの!
 クラウドを後をつけてたんじゃないんだから!
 本当に、偶然だったの!!!!


 私は足りなくなった食材を買いに、エッジに出来たバザーへ買い物に出掛けていた。
 私の両脇には可愛い子供達。
 バザーに行くって言ったら、『じゃあ、その時間には帰って来るね!』『ティファ一人だったら、荷物持つの大変だろう?あそこ、トラックを駐車出来るスペースちょっとしかないから、いっつも列が出来てるし』そう言って、優しい子供達は荷物持ちに着いて来てくれたの。
 三人でバザーを散策しつつ、目的の物を手に入れて帰路に着いた。
 その時、デンゼルが顔をキョロキョロさせて何かを探し出した。
「どうしたの?」
「なんかあった?」
 私と同じく、不思議そうな顔をするマリンに、デンゼルは頭をガシガシ掻きながら「う〜ん、確かに聞えた気がしたんだけど…」と首を捻ってる。
 そして、そのままふらりとバザーの入口近くにある路地をひょっこり覗き込んだ。
 その路地は、バザーに店を持つ商売人を相手に宿泊する宿屋が密集しており、その中に申し訳程度に民家が点在していた。

「やっぱり!!」
 ぱっと顔を輝かせて私とマリンを振り返り、手招きをした。
 訳が分からないままデンゼルの手招きに誘われて、指差す方を見ると…。
 そこには彼の愛車が停まっていた。
「クラウド……」
「本当だ!クラウドのフェンリルだ〜!」
 デンゼルとマリンの顔がパッと輝く。
 そして、そのままフェンリルの所へ行こうと駆け出した子供達に、私は慌てて全速力で追いかけ、追い越し、回り込んで子供達の行く手を阻んだ。
 私の行動にキョトンとする子供達を促し、とにかくその場から離れる。


 昨夜と一昨日の晩からの彼を思い出す。
 きっと、今は私達家族には会いたくないはずだもん。
 多分、今回の仕事も大変なんだと思ってるの。
 だって、今朝も昨日の朝と同じ様な顔をしてたから…。
 戸惑う子供達を路地の曲がり角まで何とか引っ張って行くと、そこでようやく子供達に近頃のクラウドの様子がおかしいという事を話した。
 デンゼルとマリンは、どうしてすぐに教えてくれなかったのか怒ったけど、私自身、どうやって小さな子供達に話したら良いものかわからなかったし…。
 それに、子供達にはクラウドは知られたくないだろう……って思ったから…。


「ま、そういうわけだから、弁償よろしくな、ジェノバ戦役の英雄、クラウドさんよ」
 突然民家のドアが開いたかと思ったら、クラウドや私と同年代と思われる若い男性がクラウドを押し出すように出てきた。
 居丈高なその男の雰囲気に、私だけでなく子供達までがムッとする。
 しかし、クラウドは何も不満を言わず、男に向かって深々と頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした」

 その姿に、子供達は目を大きく見開きショックを隠せない。
 かく言う私も、その衝撃は言葉に出来ないほどだった。

 あのクラウドが頭を下げている。
 私の記憶では、彼が頭を下げたのはエアリスのお母さんのエルミナさんと、ザックスのご両親にだけだ。


 深く頭を下げるクラウドに、その男はもうこれ以上はない程馬鹿にした態度で嫌味たっぷりに口を開いた。
「本当、こっちはあんたを信頼して配達頼んだのにさ〜。中身が壊れたら意味無いじゃん」
「はい。本当に申し訳ありません」
「もうその『申し訳ありません』は聞き飽きたから、機嫌悪くした俺の彼女の機嫌を何とかしてくれよな。あ、それからあの花瓶、十万ギルしたんだ。全額払ってくれよ」

 その驚きの金額に私達三人は目を剥いた。

 何その金額!?
 十万ギルって……!?
 しかもこのご時勢で!?!?
 たかだか……何て言ったら悪いんだけど、花瓶で十万ギルも使うような家は、金持ちだけ。
 悪いけど、その男の家はハッキリ言ってセブンスヘブンよりも小さくて小汚い感じ。

「ウソだ…あいつ、絶対にウソついてる!」
「うん、そうだよ!そんなに高い花瓶を彼女に贈れるだけの金なんか絶対に無いわ!」

 路地裏の曲がり角でその一部始終を見ていた私達に二人は全く気付かない。
 クラウドは一方的に言われたい放題で、ひたすら頭を下げ続けていた。
 もう……。
 見ていて居た堪れない。
 飛び出していって、『あんたが十万ギルもする花瓶を買えるわけない!!』って怒鳴りつけてやりたい!
 でも……。


「はい、弁償します。どちらでお買い求めされたのでしょうか…?」


 そのクラウドの言葉に、危うく子供達が飛び出しそうになり、私は必死に二人の口元を押さえて、曲がり角へ引きずり込んだ。

 不満げに『『うーうー』』唸りながら私を睨みつけてくる子供達に、私は小声で、
「ダメよ。今出て行ったら『クラウドは仕事が出来ないばかりか、その責任を家族にまで負わせる最低な奴だ』って噂が立っちゃう」
 そう諭した。
 頭の良い子供達はハッと目を軽く見開き、不承不承頷いた。
 そっと手を離したけど、もう子供達がクラウドの方へ駆け出すことは無かった。
 曲がり角で身を潜めている私達の真横を、クラウドが愛車に乗ってバザーに駆けて行くのが見えた。



 その日の晩。
 私はいつもと変わらず店を開けた。
 子供達は物凄く反対したけどね…。

「ティファ!クラウドがあんなに辛い目に合ってるのに、店なんか開けてる場合じゃないよ!!」
「そうだよ!今夜はお店をお休みして、クラウドにうんと甘えてもらえるようにしようよ!!」

 子供達の気持ちは良く分かる。
 実際、私がそうしたいくらいなんだから。
 でもね……ダメ。

「デンゼル、マリン…」
 むくれる二人に視線を合わせ、私は二人をそっと抱きしめた。
「本当は私もそうしたいよ。クラウドの愚痴を沢山聞いて、クラウドを沢山抱きしめて元気になって欲しい」
「「じゃあ!!」」
「でもね、今はその時じゃないの」
 声をそろえた子供達にハッキリと告げる。

「クラウドは家出をした時とは違う。必要な時にはちゃんと私達家族を頼ってくれる。でも、クラウドからは何も言われてないでしょう?それはね、意地を張ってるんじゃなくて……今のお客さんに認められる為に……それと自分の仕事に誇りを持っているから、ちゃんと全部解決した時まではそっとしておいて欲しいと思ってるんだと思うの。だから、私達は今日見た事をクラウドに知られたらダメなのよ」

 頭の良い子供達は、私の拙い説明でも何とか理解してくれたらしい。
 顔を見合わせて、コックリと頷き合ってくれた。

「うん。そうだよな…。クラウド、一生懸命頑張ってるもんな」
「うん……。じゃあ、もう少しそっと見守る方が良いよね」

 そう理解してくれた子供達が愛しくて。
 私は二人をギューッと抱きしめた。

 そうして、三人でいつもの様にお店の準備を始めたんだけど…。
 その時にデンゼルとマリンがとっても嬉しい事を言ってくれた。


「それにしてもさ。あの時のクラウド、カッコ良かったよな!」
「ああ!頭下げてる時でしょう!?私だったら、絶対文句言ってるよ!!」
「俺も!それなのに、クラウドは最後までずっと謝って、頭下げてて……。普通出来ないよな?」
「うん!クラウド……仕事中はあんなにカッコいいんだね。あ、今でも家族と一緒にいる時もカッコいいけど、別のカッコ良さが見えたよね!」

 子供達のその言葉に、涙が出そうになる。
 早く、彼に子供達の言葉を伝えたい。

 そう願わずにいられなかった。
 そうして。


 私のその願いが叶えられたのは、何と翌日の事だった…。



 あとがき

 はい。勿体無くも63001番キリリクして下さったみかん様のリクエスト、『かっこいいクラウド』!AC後の『最後はやっぱりクラウドじゃないと』そして家族や仲間(オリキャラ登場も全然OK)にそんな素敵クラウドを見て欲しい♪です(笑)後編はかっこいいクラウドを登場させる予定ですので少々お待ち下さいませm(__)m