えっと…こんにちは、お久しぶりです、キッドです。
 覚えて下さってる方って…おられるのかがすっごく不安ですが、それ以上に俺は最近、とても不安なことがあります。
 それは…。



親友(前編)




 ある時、友達と一緒におしゃべりをしていたら…。
「おい、キッド〜!これって何だと思う?」
「…?」
 振り返ると、いつも遊んでいる友達の一人が、何でもない厚紙で出来た白箱を差し出してきた。
 何だか顔がキラキラと輝いている。
 周りの友達も、すっごく嬉しそうな顔をしてじっと俺が開けるのを待っている。

 ………。
 ……まさかね……。

 やや強引に押し付けられたその箱を、イヤな予感のまま開けると…。


 ビヨヨヨヨォォォオオオン!


 真っ白い顔に赤いデカ鼻の間抜け面したピエロが『バァ〜♪』と言わんばかりに飛び出した。


「「「「 アッハッハッハ〜…………ハハハ……」」」」
「………」
「「「「…………」」」」
「………」


 きっと俺がビックリすると思ったんだろうなぁ。
 でも…。
 すっごくバレバレだったからもう、ビックリするというよりもむしろ…。

「皆…そんなに期待した顔されて箱を出されたらイヤでも分かっちゃうよ……」
 困ったようにそう言うと、友達の何人かは、
「ちぇ〜!つまんないの!」
「少しくらい、キッドもビックリしてくれたら良いのにさぁ〜!」
「デンゼルなんか、ものの見事に引っかかってくれたぞ?なぁ、デンゼル!」

 俺はその時初めてデンゼルが皆の背中に隠れるようにして見てたことを知った。
 その時のデンゼルの顔が、俺にとってはビックリ箱以上にビックリすることで、ドキッとした。
 もしかしたら、その気持ちが顔には出てなかったかもしれない。
 でも……だってさ。
 デンゼルが…何だかすっごく冷たい目をしてたから…。
「デンゼル…」
 声をかけたけど、デンゼルはプイッ、と顔を背けて公園から駆け出しちゃったんだ。
 もう…ビックリしすぎて全然後を追うとか…そんな余裕なんかこれっぽっちも無くてさ…。
 他の友達も目を丸くしてたけど、
「まぁ、きっとデンゼルは面白くなかったんだって!」
「そうそう。だって、アイツったら滅茶苦茶ビビッててさ。次はキッドでやろうぜ!って言ったら、すっごく反対したもんな」
「うん。きっと、自分以上にキッドがビックリするって心配したんだぜ」
「でも、結局キッドったらぜ〜んぜん驚かないんだもんなぁ…」
「心配して損した〜…って言うかむしろ…」
「「「「あんだけびっくりした自分が恥ずかしい!」」」」
 声をはもらせて、友達はケラケラと笑った。
 その笑い声に、俺はもういてもたってもいられなくて…。

「お、おい!」
「キッド!!」
「どこ行くんだよぉ!!」
「サッカーやろうぜ〜!!!」

 友達の声が聞えるけど、それを無視して俺は公園を猛然と駆け出した。
 視界の端に、女の子達とおしゃべりをしていたマリンが、同じ様に駆け出したのが見えたけど、申し訳ないけどマリンを待ってる余裕はない。
 俺とマリンじゃ、俺のほうが足が速いし、デンゼルが走り出してからもう時間が経っちゃってる。

 あぁぁあ、もう!!
 なんであの時すぐに追いかけなかったんだよ、俺!!
 ほんっとうに気が回らないんだから!!
 きっと、凄く傷ついてる。
 だって、デンゼルはあのビックリ箱に引っかかって散々笑われたんだと思うんだ。
 それなのに、俺は全然ビックリしなかった。
 その事を、さっきの子達は指摘して笑った…。

 デンゼルは俺が同じイヤな目に合わないように…って思ってくれたのに…。
 それなのに俺を心配したせいでまた恥ずかしい思いをしたわけで…。



 結局。
 セブンスヘブンまでデンゼルには追いつけなかった。
 と言うよりも、セブンスヘブンに着いてもデンゼルは帰ってなかったんだ。
「どうしたの!?」
 ビックリしてティファさんが目を丸くしたけど、俺が上手い説明を考え付く前に、息を切らせてゼーゼー言いながらマリンが帰ってきた。
「デンゼルが先に帰っちゃったから追っかけてきたの。デンゼルは?」

 …まぁ、ウソは言ってないよね。
 マリンの省略過ぎる説明は途中で四回ほど息切れで途切れたけど、ティファさんはちょっと疑うような顔をしただけで首を横に振った。

 俺はすぐにでも他の場所を探したかったけど、丁度その時、タイミング悪く母さんから携帯に電話が入った。
 最近、ちょっとずつお腹が大きくなってきた母さんは、こうして俺におつかいをお願いすることがあるんだ。
 その時の携帯の電話も、帰る時に大根とジャガイモと長ネギを買ってきて……って内容だった。

 ふむ。
 今夜は俺の好きなおでんだな。
 きっと、豆腐屋さん関係は母さん。
 お味噌が昨日切れてたはずだから、それは父さんが買って帰るんだろうな、うん。

 そういうわけで、俺はすっごく心残りだったけど、帰る事にした。
 マリンにコッソリ、『デンゼルにごめん、って言っといてくれる?』と耳打ちをして…。
 マリンはキョトンとした顔をしてたけど、何だか複雑そうに笑って頷いてくれた。

 あぁ、そうか。
 マリンはビックリ箱の件を知らないから…。
 でも、説明する暇は無かったんだ。
 早く帰って母さんの手伝いしないと!
 母さんはちょっとのんびりした所があるから、注意しとかないとむちゃくちゃするんだよなぁ…。
 お腹の赤ちゃんも絶対にヒヤヒヤしてるよ……。
 ちゃんと無事に生まれてきて欲しいもんな!
 それで、沢山遊ぶんだ!
 いっつも一緒に遊んでる友達や…マリンや…デンゼルと……。

 ……デンゼル…どこ行ったんだろう……。

 最近、デンゼルは俺を冷たい顔で見ることがある。
 今日みたいに…。
 冷たい……って言うか…ん〜…なんだろう?
 上手く表現が見つからないんだけど…………悔しそう……???
 悔しい…って言葉もちょっと違うなぁ。
 ん〜〜〜……。
 ダメだ…やっぱり良い言葉が思い浮かばない。

 グルグルグルグル。

 頭の中はモヤモヤとした気持ち悪い考えで一杯。
 それでも気が付いたらちゃんと市場の八百屋さんの前にいたから自分でもちょっとビックリした。
 母さんのお使いも無事終って、そのままその日は家に帰った。
 予想したとおり、その日の晩御飯はおでんだった。
 ただ、予想していなかったことは、母さんが豆腐屋さんを廻ったんじゃなくて、父さんがお味噌と厚揚げ、こんにゃくを買ってきてたってことくらいだな。
 母さんに『そんな重いものを持つもんじゃない!俺にまっかせなさ〜い!!』って即行でメールしたんだって。
 父さん……珍しくファインプレーだよ。(← なにげに失礼なお子様です)

 翌日。
 俺はいつもの通り、公園に遊びに行った。
 デンゼルは何でもない顔をして『昨日はごめん』って謝って来た。
 だからそれ以上僕も詳しく聞いたりはしなかったんだ。
 だってさ…。
 謝ってくれた時のデンゼルがすっごく辛そうだったから…。

 何かあったのかな…?
 俺に関係すること…だろうとは思うんだけど、さっぱり分からないんだ。
 本当は聞きたい。
 なんで最近、急によそよそしくなったのか。
 時々、凄く冷たい顔をするのか…。
 冷たい…というよりも『冷めた顔』をするデンゼルは……寂しい。
 俺を見ているようで、『見ていない』デンゼルの目がとても悲しい。
 だけどきっと、俺以上にデンゼルが困ってると思う。
 なんで?って聞かれたら困るんだけど、そんな気がするんだ…。





「よぉし、デンゼル、ゴールゴール!!」
「ゲゲッ!!誰か止めろよ!」
「わわわ!!」
「あ、バカ避けるな〜!」

 キャーキャーワーワー言いながら、その日も楽しくサッカーしてた。
 遠くのブランコでは、マリン達女の子がこっちを見て笑ってる。
 それぞれ、俺のチームを応援してくれたり、デンゼルがボール蹴ってるのを見て「デンゼル〜!頑張って〜!!」って一生懸命応援してくれてる。

 あ…。
 マリンがちょっとイヤそうな顔してる…。

「キッドーー!頼む、お前が最後の砦だー!」

 キーパーとチームメイトが声を投げてくる。
 あ……本当だ……。
 上手いなぁ、デンゼルの足さばき。
 って感心してる場合じゃない。

 デンゼルが楽しそうに、それでもって真剣な顔をして俺の隙を突こうとしている。
 俺も負けるわけにはいかない。
 だって、やっぱりお遊びでもこれは『真剣勝負』なんだ。
 男と男の勝負なんだから!

 腰を落としてデンゼルの目線を追う。
 足の動きと目線が違う。
 きっと、ボールは目線の先を狙って蹴る。
 今して見せている動きはフェイントだ。

 目線を僕に戻したデンゼルと、俺が動くのが同時だった。
 至近距離に詰め合っていたから、自然と身体がこすれる。
 その瞬間。


「「「あーーー!!!!」」」
「「「よっしゃーーー!!!」」」


 二種類の声が上がる。
 思い切り相手側のゴール付近に上がってたチームメイトにボールを蹴る。
 デンゼルが持っていたボールを見事ダッシュして見せた俺に、チームメイトが歓声を上げ、デンゼルのチームメイトが慌てて戻っていく。
 デンゼルも悔しそうに顔を歪めてクルリと背を向けた。
 でも。


「「「ゴーール!!」」」


 俺のチームがシュートを決めた。
 ブランコのところで観戦していた女の子達も立ち上がって歓声を上げたり、悔しがったりしてる。
 マリンは…。
 ……ちょっと複雑そう……。
 まぁ、仕方ないよね。


「よっし!キッド、お前は本当に凄いやつだ!!」
「そうそう!お前が来るまでデンゼルが一番上手かったんだけど、デンゼルよりも運動神経良いよなぁ〜!」
「それに、『ドウサツリョク』っていうのかな?それが凄いしさ〜!」

 手放しで褒めてくれる友達に、照れ臭い気持ち………に本当だったらなるもんなんだろうけど、今日は無理だった。
 だってさぁ…。
 なんか…全部デンゼルと比較されてるんだもん。
 俺はデンゼルみたいに素直じゃないし、デンゼルみたいに優しくも無い。
 それに、デンゼルは本当に苦労してきたから、俺よりもうんと人の痛みが分かる良い奴なんだ。
 俺がこうして皆と一緒に楽しい時間を過ごせるのも、あの時デンゼルとマリンが声をかけてくれたからなんだ。
 だからさ。
 デンゼルは俺にとって大切な…大切な友達なんだから、そんな風に比べてみたりしないで欲しいんだ!


 そんなすっごく複雑な気持ちで困った顔をしてると、友達の一人がとんでもないことを言った。

「キッドってさぁ、いっつも冷静だよな」
「うんうん、少しも動じない…っていうか、良く見てるよなぁ、周りの事をさ」
「なんか、同年代…って感じがしないよなぁ」

 胸がギュッと痛くなる。

 ……それってさぁ…どういう意味?
 俺と一緒に遊んでも楽しくない…って意味?

 信じられない思いでその子を見ると、その子はあっけらかんと笑ってた。
 視界の端に、ちょっと怒ったような顔をしたデンゼルがいる。
 そのデンゼルにホッとした。
 だって、怒ってるのは俺の為に怒ってくれてるんだろ?
 俺がイヤな気持ちになってる…って分かってくれたからだろ?
 そうだろ、デンゼル?


 ちょっぴりホッとして、デンゼルの方を向こうとしたら、あっけらかんと笑ってた子が爆弾発言を投下した。


「ジェノバ戦役の英雄のリーダーみたいだよなあ!」


 ……。
 ………はい!?
 それって…クラウドさんのこと…だよな?
 誰が誰みたいだって!?


「あ、そうだよなぁ。キッドは運動神経も良いし、いっつも冷静だし…」


 いやいや、全然そんな事ないから!
 むしろ、クラウドさんから護身術習ってるデンゼルの方が断然凄いから!!
 普段は『使っちゃダメ!』ってティファさん達に言われてるから使ってないだけだから!!
 それに、俺は冷静じゃないんだから…顔に出ないだけで!!
 ほらほら、今も滅茶苦茶焦ってますから!!!



「そうだよなぁ。一緒に住んでるデンゼルよりもよっぽどキッドの方が似てるよな」



 頭が真っ白になる。
 本当なら…凄く…すご〜く嬉しい言葉なのに…。
 今は少しも嬉しくない。
 だってさ……。


「デンゼル!!」


 マリンの悲鳴みたいな声で、皆が一斉に振り返ると、猛然と駆け出したデンゼルの背中があっという間に小さくなっていくのが見えた。


 だから…イヤだったんだ。
 嬉しくなかったんだ。
 デンゼルがクラウドさんにどれだけ憧れてるか知ってるから。
 勿論、俺も憧れてるよ。
 すっごくすっごく憧れてるよ。
 だけど、一緒に住んでて、身寄りが無い自分を引き取ってくれて、可愛がってもらってるデンゼルにとって、クラウドさんへの憧れの気持ちは俺よりもうんと強いはずなんだ。
 そんなデンゼルの前で、なんて事言うんだよ!
 それに…なんて場面を俺は見せてしまったんだろう!!
 もっと気をつけてたら、あの子達がバカみたいなことを言うことは無かったのに…。

 その時、突然分かった。
 きっと、俺の知らないところでデンゼルは同じ言葉を言われてたんだ。
 だから最近、デンゼルが凄く複雑な顔で俺を見てたんだ。
 でも、デンゼルは優しいからその子達に何も文句は言わなかったんだろう…。
 言いたくても言わないでいたことこそが、デンゼルが優しい…っていう証拠。

 ごめんな、デンゼル。
 俺、全然知らなかったんだ。
 知ってたらさ…もっと早くに何とかできたのにさ。
 ごめんな、ごめんな!

 あぁ、ほんっとうに俺ってダメなやつ!!
 エッジに来る前に住んでた所でもそうだった。
 言葉が足りない…って言うか…配慮がないって言うか…。

 だから、今みたいに友達はいなかった。

 母さんと父さんが心配して夜中に話し合ってるのを何回か見たことがある。
 でも、エッジに来て。
 デンゼルとマリンが友達になってくれて。
 今みたいに沢山の友達が出来て。
 父さんと母さんは本当に喜んでるんだ。
 きっかけは全部デンゼルとマリンがくれたもの。
 そして…。
 俺とデンゼルの憧れの人……クラウドさんのお蔭。

 初めてクラウドさんのバイクに乗せてもらった時、本当に嬉しかった。
 いや、勿論、ビックリしすぎた…って感じもあるんだけど。
 でも、あれがなかったらきっと、俺は今でも一人で公園の端っこで、皆が遊んでいるのを羨ましそうに見てただけだと思うんだ。

 なぁ、デンゼル。
 俺……本当にデンゼルとマリンに感謝してるんだ。
 だから、これからも沢山一緒に遊んで、俺の弟か妹とも一緒に遊んで欲しいんだ。
 友達のままでいて欲しいんだ。
 だからさ。

 あの子達の言ったことで傷ついてどっか行ったりしないで。



 一生懸命祈るように心の中でデンゼルに話しかける。

 でも…。

 とうとう人混みに紛れてデンゼルの背中が見えなくなってしまった。



 あとがきは、後編で書きますね。