なぁ…デンゼル。 俺もクラウドさんのこと、すっごく憧れてるよ。 でもさ。 クラウドさんへの憧れよりも……俺はお前と友達でいたいって気持ちの方がうんと強いんだってこと……知ってるか? 親友(中編)一生懸命走ったんだけど、やっぱり人混みに紛れてしまって昨日みたいに見失った。 今度はマリンにも追いつかれなかった。 マリンはもしかしたらセブンスヘブンに様子を見に戻ったのかもしれない。 でも、途中までデンゼルの背中を追いかける事に成功した俺はというと……。 デンゼル……いくらなんでも市場の路地裏はヤバくない…??? ここって、滅茶苦茶ガラが悪いって評判だったと思うんだけど…。 ハッ!! もしかして、昨日もここに飛び込んだんじゃ…!!!! 全身から血の気が引く。 いやいや、だって! ここってほんっとうにヤバイ人達がワンサカいるって話しを父さんが家でしてたんだもん! ……まぁ、父さんの言うことを一々本気に受けてたら身が持たないんだけど…。(← 天然に失礼なお子様です) でも、本当にどうしよう!! 俺一人で奥まで探しに行っても大丈夫かな……。 でも、誰か大人の人を一緒に…なんて暇はない。 なんて迷いながら、ソロソロと奥に進む。 段々、市場のがやがやした音が聞えなくなってくる。 聞えなくなるのと同じくらい、すごく心細くなってきた。 でも、この先のどっかにデンゼルがいるんだ。 絶対、ぜ〜ったいに、デンゼルを見つけるんだ。 見つけて一緒に帰るんだ! それが出来なかったら、きっと俺はこれからずーっと後悔する。 だって、俺がこうしてエッジの生活が楽しいって思えるのはデンゼルとマリンのお蔭だから。 俺は二人にまだなんにも恩返し出来てないから。 だから、二人が辛い時には俺が一番に駆けつけたいんだ。 別に何が出来る…ってわけじゃないけど、一緒に悲しい思いをしたり泣くくらいは出来るから…。 だから…。 なぁ、デンゼル。 俺、恩返し出来るまで一緒にいたいんだ。 ううん…違う。 恩返し出来ても一緒にいたいんだ。 ずーっと友達でいて欲しいんだ。 なぁ……ダメかなぁ…? ちょっと泣きそうになりながらゆっくり歩く。 デンゼルの名前を呼びながら…。 でも、デンゼルはいない。 どんどん周りが暗くなってくる。 ううぅぅ……どうしよう…。 あ……。 もしかして、物陰とかにデンゼル…隠れてて…。 俺、気が付かないで通り過ぎた…とか……? うわ〜、その可能性ある!! だって、怖くてあんまり建物の後ろとか、木の箱の裏側とか覗いてなかった……。 ……。 ………。 俺って…ほんと…バカ……。 結局、いっつも肝心なところで抜けてるんだよな…。 ホント……イヤんなる…。 なんとなく立ち止まって、なんとなくガックリと肩を落とし…。 そんでもって、もっと奥に進むかそれとも戻るか考えてた。 もしかしたら、もっと奥にデンゼルはいるかもしれない。 でもその逆の可能性も出てきちゃったし、これ以上奥に進むのは…かなり危ない気がする。 いやもう…怪しさ満点だから! これ以上『小さなお子様は入っちゃダメですよ〜』って雰囲気がめっちゃ出てるから! それこそ、もう既に充分入ったらダメなところまで来ちゃった感じがするんだよ。 今にも目の前の曲がり角から柄の悪そうな男の人が出てきて、 「坊主、こんな所でなにしてるんだ?」 そうそう、こんな風にニタニタ笑いながら………………って…………ゲッ!! 本当に出たーーーー!!!! しかもなんかお約束みたいに後から他にも出たーーーー!!!! ゲゲゲッ! めっちゃガラ悪いし! いやもう、ガラが悪いとかそんな問題じゃ済まされないくらい恐い男の人が、一、二、三、四………七人!? ほんっとうにどうしよう……。 俺、もしかして…大ピンチ……ってやつ? ジリジリジリジリ。 俺が後ずさると男の人達も笑いながらゆっくりと迫ってくる。 段々囲むように広がっていくのが分かる。 さして広くもない路地裏。 それでも大人の人が四人は並んでゆっくり歩けるほどのスペースはある。 今のところ、俺の後ろに廻って囲むことは出来てないけど、絶対にそうするつもりだ。 俺が後ろ向いて走ったらあっという間に捕まるんだろうな。 いや、もう既にダメダメ感がしてる。 「なにか探してるのか〜?」 「かくれんぼでもしてたんじゃねぇ?さっき『デンゼル〜』って声がしてたしよぉ。あれ、お前だろ?」 「へ〜、かくれんぼねぇ。こんなところまで隠れに来る子供がいるとは驚きだなぁ」 「そんなに怯えなくても良いじゃねぇか。一緒に捜してやるぜ、その『デンゼル〜』って奴をさ〜」 バカにしたようにケラケラ笑いながら少しずつ…少しずつ俺を壁に追い詰めようとしてる。 分かってる。 この男の人達……人攫いだ。 WROの広報誌…ってやつに『人攫いに注意を』って記事が載ってるって母さんが心配そうに言ってた。 俺みたいな子供攫っても全然使い道がないと思うんだけど、小さい頃から『奴隷』として叩き込む…とか恐いことを父さんが言ってたな。 捕まったら……きっと俺、もう二度と家には帰れない。 絶対にイヤだ! 父さんと母さん、それにお腹の赤ちゃんに二度と会えないなんて絶対にイヤだ! デンゼルとも仲直りしてないのに……。 デンゼル……。 きっと、これ以上奥には行ってなかったんだな。 だってもしもこれ以上奥に行ってたら、この男の人達が捕まえちゃってるだろうからさ…。 それが分かっただけでもラッキーと思おう。 そんでもって…どうやって逃げたら良いか考えろ! 市場までの道は結構ある。 沢山の人がワイワイ行き来してる気配がすっごく遠い。 足には自信があるけど、だからってこの目の前の人攫いに敵うはずない。 絶対に……捕まる。 走っても捕まるけど、だからと言って口先でやり過ごせるはずないし…。 ただでさえ、俺、口下手なのに……。 「坊主、そんなガチガチにならなくても良いんじゃねぇ?」 「大丈夫だって。ここらへんはガラが悪いからなぁ。俺達が一緒に安全な所まで行ってやるよ」 危険そのものの人間がなに言ってんだよ! 安全な所はおっちゃん達がいない所じゃないか…! そう思ったけど、何一つ口に出来ず、そのままジッと男達を見ながらゆっくりゆっくり後ずさる。 すげぇ楽しそうに笑ってる男達が、めっちゃ憎たらしい。 俺が怯えてジリジリ逃げるのを追い詰めるのが楽しくて仕方ないんだ。 あぁ…猫がねずみをいたぶる……ってこんな感じかなぁ…。 ヤダなぁ……。 なぁんて、ちょっとバカみたいなことを考えてたせいかな。 突然、足が何かに引っかかってド派手に転んでしまった。 あっ!って思った時には、バランスを取る暇も無くてさ。 モロ後頭部を地面に打ちつけて目から星が飛んだ。 痛くって痛くって、涙が出そうになる。 ズッキンズッキン痛む頭を抱えて起き上がろうとする俺に、男達がバカみたいに大声で笑ってるのが、どこか一枚壁の向こうから聞えてくるみたいにぼんやりと聞えた。 「ほら、捕まえた〜」 地面からまだ完全に立ち上がってない俺に、男の一人が手を伸ばす。 ヤニ臭い息にニヤニヤと笑ってる男の顔。 一気に恐怖が全身を駆け抜け、気が付いたら…。 「グワッ!このガキ!!」 思いっきり土をぶっ掛けて駆け出した。 頭がガンガンして目が翳む。 でも、止まる暇なんかない。 すぐにでも俺は捕まるだろう。 でも……あっさりとなんか捕まってやんない。 最後まで悪い足掻きするんだ! 後ろから男達の怒り狂った声と殺気立った気配をビシビシ感じる。 あぁ…まだ市場までは遠い。 くそっ! 俺がもっともっと大人だったら、こんな奴らに捕まったりしないのに…。 ううん、違う。 デンゼルとこんな風にならないで、もっとちゃんと話し合ってさ。 デンゼル…。 ごめんな…、俺…デンゼルに沢山大切なものをもらったのに、何もまだ恩返し出来てない。 それなのにさ…。 急に襟首を思い切り引っ張られて喉が絞まる。 グエッ!って思ったけど、声も出ない。 息が止まりそうになるし痛いしで、もう頭はパニック。 イヤでも分かる。 「このクソガキが!手間取らせやがって!!」 俺が土を投げつけた男に捕まったんだって…。 暴れようとするけど、まぁ、結局は無理だよなぁ。 だって、数だけでも完全に負けてるのに、相手は全員大人だから…。 俺を肩に担ぎ上げた男の髪を掴もうとしたけど、もう一人の男がニタニタ笑いながら俺の腕を掴んでそれを邪魔する。 噛み付いてやりたいけど、全然届かないし…。 「このガキ、ぶっ殺す!」 土かけた男が殴ろうとするのを、他の男がヘラヘラ笑って止めた。 「大切な商品にキズつけんなよ」 「そうそう、こんなに上物、そんなにいないぜ〜?」 「軽く…そうだな。20万ギルくらいにはなるんじゃねぇ?」 「バッカ、良く見ろ。もっといけるって、30万ギルは狙えるな」 ……。 ………。 高いのか安いのか判断に困る。 って、そんな事はどうでも良い! このままだったらマジで俺、売られちゃうじゃん!! 全身からドッと冷や汗が噴き出した。 人攫いに捕まったという実感が突如として湧いてくる。 イヤだ。 絶対にイヤだ!! ジタバタジタバタ。 足をバタつかせて、身体を思いっきり捻ろうとする。 でも、やっぱり人数が反則だよ。 七人だもん。 俺の事を宙吊りにするので一人。 足を押さえるのに一人。 ついでに、俺が土をかけた男と、その男が俺の事を殴ろうとするのをとめるのに一人。 合計四人で充分なのにさぁ、まだ三人も残ってる……。 ズルイ……。 って、そうじゃない!! バカ、俺のバカ! のんびり分析してる場合じゃないじゃん!! ホラホラ、どんどん奥に連れ戻されてるし!! 「諦めて大人しくしてろ。そしたら優しい人に買ってもらえるようにしてやるからよぉ」 ニヤニヤ笑いながら俺を宙吊りしてる男が言う。 いらないから、そんな気配り! 離せ〜!!って叫びたいのに、あっという間に口をタオルで塞がれたから声も出ないし…。 いやもう…本当にダメかも……。 「へぇ…泣かないガキは初めてだなぁ」 いや、泣きたいんだけどショックすぎて涙も出ないだけ。 「意外と肝っ玉が据わってんじゃん?」 いや…鈍いだけ。 「ちょい勿体無いかもなぁ。あと少し大人だったら俺らの仲間にしてやりたいのによぉ。きっと、色々利用価値があるぜ〜?女もたぶらかせそうだしよぉ!」 ……絶対ヤダ!! その時。 「キッド、目、閉じろ!!」 心臓が激しく脈を打つ。 振り返らなくても分かるその声。 男達がビックリして振り返る。 その直後。 プシューーーッ!!! 何かが発射された音と、男達の悲鳴。 途端に俺は地面に放り出された。 全身が地面に打ち付けられてズッキズッキ痛む中、霧みたいなものに包まれた感じがする。 目を閉じてたけど、デンゼルが何をしたのか分かる。 アレだな。 きっと、携帯の特殊機能だ。 デンゼルとマリンは、クラウドさんとティファさんの家族だから、こうした人攫いとかに狙われる確立がめっちゃ高いから…って、WROの局長さんが特別に『催涙スプレー』機能のついた携帯をプレゼントしたんだ。 そんな機能を持つ携帯を持っとかないといけない二人に『大変だなぁ』とか思ったよ。 でもまさか、その機能に俺が助けられるとは思いもしなかった…。 「キッド、走るぞ!!」 目を閉じたままの俺をデンゼルが引っ張って立たせてくれる。 そうして、俺はデンゼルに手を引かれて一目散に市場へ駆け出した。 身体中が痛む俺はあんまり早く走れない。 でも、それでもさ。 気持ちはすっごく軽くって、嬉しくって。 息を切らせながら二人で走ってると、なにが起きても全然大丈夫な気持ちになってきた。 後ろからは、男達が唸りながら追いかけてくる気配がするのにさ。 全然…大丈夫な気がするんだ。 言葉も無く必死に走る。 段々、周りが明るくなってきた。 市場のガヤガヤした音が聞えてくる。 あと少し。 あと少しで…。 って思ったんだけど、やっぱりそんなに上手く逃げられないよねぇ。 もうあと少しってところでやっぱり捕まった。 今度はデンゼルも一緒に。 二人共、簡単に襟元を捕まれて、また路地裏へ引きずり戻されそうになる。 でもさ。 絶対に捕まるもんか! 大人しくなんかしてやんない! デンゼルの口を塞いだ男が目を丸くして、 「お!?こいつって…」 「英雄の子供じゃん!?」 ビックリしてる隙に、思いっきり息を吸い込んだ。 「火事だーーーー!!!!!」 人攫いとデンゼルが俺の大声に目を丸くした。 それにも構わず、俺は「火事だーー!!」って叫び続けた。 人攫いが小バカにしたように俺の口を塞ごうとする。 その時。 「火事はどこだー!?」 「水、水!!」 「おい、火元はどこだーーー!?!?」 市場から人が駆けつけた。 手にはそれぞれバケツとか箒。 中には布切れを持ってる人もいる。(布切れでなにをするつもりなんだろう…) そして、その人達と人攫いの目が合った。 バッチリと!! お互いが固まること数秒。 先に動いたのは市場でお商売をしている人達だった。 「「「人攫いだーーーー!!!!」」」 それはもう凄い大合唱。 大人の…それも商売で喉を鍛えてる人達がこれでもか!!って叫んだんだ。 そりゃ凄い音量になるよな。 人攫いは舌打ちをして俺を離したけど、ガッチリ抱え込むことに成功してたデンゼルをそのまま抱えて逃げ出そうとした。 デンゼルのフワフワした髪が、あっという間に遠くなりそうになる。 「デンゼル!!」 叫んで……走って……。 気が付いたら思いっきりデンゼルを担いでる人攫いの足にしがみ付いてた。 バランスを崩した人攫いが、モロに転倒する。 デンゼルが地面に落っこちるのが見えた。 そして…。 苛立たしそうな顔をして逃げ出した他の人攫いが立ち止まり、ポケットから光るものを取り出すのも見えた。 ゾクッ! 本日何度目かの恐怖に全身に寒気が走った。 振り返った人攫い達の顔を見て分かった。 デンゼルをどうあっても攫うつもりなんだ。 クラウドさんとティファさん、それに他の英雄の人達を脅すつもりなんだ。 ううん、もしかしたら、英雄の人達に何か恨みがあって、『ホウフク(報復)』するつもりなんだ。 だから、絶対にデンゼルを逃がさないつもりなんだ。 お商売してる人達が人攫いの手に握られている武器に息を飲むのが聞える。 市場から野次馬がワイワイ言いながら覗き込む気配が感じられる。 だけど、誰もデンゼルを助けようとする人はいない。 デンゼルは地面に転がってそのまんま。 脳震盪ってやつになってるみたいで、動かない。 心臓がバクバクとやかましくなるのを俺はどうしても止められなかった。 |