英雄の男性陣は思わずにはいられなかった…。 『『『『『『 なんで執事とメイドで喫茶店なんだろう… 』』』』』』 と。 SOS!!(後編)「なんで喫茶店なんだ…。他にもあるんじゃないのか…手向けに相応しいことが…」 疑問を口にしたのはヴィンセント・バレンタイン。 今回の徴集で、彼は非常に珍しく発言をしている。 ユフィに突っ込んだのも彼。 そして今、仲間達の疑問を言葉にしたのも彼。 ただ、それが吉と出るか凶と出るかは別問題。 ユフィは澄ました笑みを浮かべたままコーヒーをまた一口啜った。 「だって、身体が全回復しなかったから除隊するんでしょ?なら、食事とかに制限がある人だって沢山いるんじゃない?」 チロリ、とリーブを見る。 リーブは少しだけビックリしながら頷いた。 内臓を損傷している隊員が多いのは事実。 彼らはアルコールを始め、色々な食事制限が入っていた。 そしてその生活は、恐らく一生続くのだ…。 ユフィはリーブの沈痛な面持ちを見て肩を竦めた。 「ね?だから、普通に『お疲れ様!これから頑張れ!!』って料理とか振舞えないじゃん。だったら、喫茶店形式にして、お茶と砂糖を控えめにしたお菓子を出したら良いんじゃないかなぁって思ったんだ」 仲間達は目を見開いた。 まさか! まさか、この破天荒娘が!! 仲間内、一番常識からかけ離れていると思われていたこのウータイの忍びが!! なんとも信じられない気配りを見せているではないか! しかも、理路整然としている。 確かに、除隊する人間に手向けとしてアルコールを振舞うのはいただけないだろう…。 一般の『送別会』とはわけが違うのだから。 ということは、ユフィの言うように『喫茶店形式』にすると、色々と隊員達の好みや身体状況に合わせたものが提供できる。 カフェインがダメな隊員もいるだろう。 だったら、『カフェインレス』の物が最近は種類も豊富に世に出ているから、困ることはないはずだ。 甘いものが苦手な者もいるだろう。 そういう人達には、ショッパイ系の『焼きこみ調理パン』などを出せばいい。 そう言ったメニューのあれこれを、ティファはユフィの『アルコールはダメ』云々を聞いた瞬間に思い描いた。 自分が丹精込めて作った『お菓子』や『調理パン』。 それを運ぶ仲間達。 ユフィのメイド姿は、仲間達は今のところ誰も褒めていないが、実はかなり似合っている。 細い体躯のユフィには、フリルをふんだんに使用したメイド服が可憐さを演出して、口さえ閉じておけば文句なしで可愛い。 むしろ、自分よりも似合っていると、ティファは本気で思っている。 そんな可憐なユフィが、ニッコリ笑顔でお茶とお菓子を除隊する隊員達に運ぶ。 隊員達の喜びはいかほどだろう? 除隊する隊員達は男性ばかりではない。 女性も男性に比べてうんと少ないが、しっかりと存在している。 彼女達には、見事に着こなしている執事姿のクラウド達が応対をして…。 彼女達の喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。 ― 『こちら、ハーブティーとガトーショコラになります』 ― 金糸の髪を揺らめかせ、紺碧の瞳を甘やかに細めて静かにそっとお茶とお菓子を運ぶクラウドの執事姿。 ティファの胸が激しく高鳴った。 一方、クラウド達も想像していた。 ユフィの言うことは、今回、素晴らしく的を射ている。 除隊する隊員達にとって、これからの生活は決してラクではないだろう。 だが、自分達がたった一日とは言え、給仕をして心からの労いをしてやれば…。 あるいは、彼らはそれを励みとして頑張ってくれるかもしれない。 WROはただでさえ、危険が多い。 死と隣り合わせの任務を今日まで必死になって果たしてくれた彼らに報いたいという気持ちは強い。 彼らの励みになるなら、一日くらい恥を忍んで給仕の一つや二つや三つや四つ!何だと言うのだろう? クラウドはヴィンセントを見た。 ヴィンセントはクラウドの視線に気付いて小さく頷いた。 バレットはシドを、シドはバレットを見て、これまた頷いた。 ナナキはティファを見つめ、ティファはナナキの視線に気付いてニッコリ笑った。 リーブはそんな仲間達の姿に感極まって涙腺が緩んだ。 そうして…。 そんな感動的な場面を前に、ユフィは一人、内心で黒い笑みを浮かべていた。 これでバッチリ、完璧だ! 仲間達は完全に自分の案に乗り気になっている。 『皆、ほんっとうに甘いよねぇ。ま、そこが良いところなんだけどさ〜♪』 ふっふっふ。 彼女はイヤリングにそっと触れて、歪みを直した。 そうして、「コホン」と咳払いを一つ。 皆の意識を自分に戻す。 「じゃ、皆それで良いね。早速今から準備に…」 意気揚々と口を開いたユフィだったが、だがしかし、天はユフィに最後まで味方はしなかった。 「「 喫茶店って…無理があるんじゃない(か)? 」」 英雄達は驚いて声の方へと振り向いた。 そこには、目の中に入れても痛くない愛くるしい子供達が、訝しげに眉をひそめていた。 その眼差しは、そこはかとなく『胡散臭い』と言っている。 なにが? 勿論、ユフィに対して! 「何が無理なんだ?」 ちょっとだけ驚いたような顔をしたまま、クラウドが問いかけた。 ユフィは、内心でビクビクしているが、表面では澄ましたまま、子供達の疑いの眼差しから目をそらすまいと頑張っていた。 そんなユフィの内心を知ってか知らずか。 デンゼルとマリンは顔を見合わせると、 「だってさぁ、今回限りじゃないんだろ…?」 「除隊する人達ってこれからも出てくるよね…」 「そうなったら、毎回毎回クラウド達、喫茶店するのか?」 「今回やったら、今度もしないといけないよね?」 「そんなことになったら、この先エライことになるんじゃないのか?」 「それに、喫茶店って言ってるけど、ティファのその格好は…やっぱりちょっと…ね」 「男の隊員達にとっちゃ、とんでもないもんじゃなのかなぁ…。それにさぁ…」 「クラウドや父ちゃん達のその格好もすっごくカッコ良いから、女の隊員さん達、ぜ〜ったいに凄い勢いで喰い付いて来ると思うだけど…」 「それにさ…」 「クラウド達は英雄なんだよ?それなのに、普通の給仕をするって…もしかしたら、ガッカリする人がいるかもしれないよ?」 「クラウド達は自覚がないかもしれないけどさ。一般の人から見たら、すっごくすっごく遠い人なんだ。なんたって、世界を救った『英雄』なんだから」 「だから、もしかしたら給仕をしてくれることを喜んでくれる人もいるかもしれないけど…、ガッカリする人もいるかもしれないよ…?」 「そうなったら……やっぱり除隊する人達、可哀相だよな。憧れてたイメージが崩れちゃって…」 「おまけに自分達はもう二度と、隊に復帰出来ないのに…」 「だから…」 「『英雄』のままでいてあげた方が良いんじゃないのかな…」 ツラツラツラと。 まるで『立て板に水』のように、大人達の目を覚まさせる言葉を口にした。 「「「「「「「 ……… 」」」」」」」 クラウド達は目をまん丸にして固まり…。 ユフィは引き攣った笑顔で子供達を見つめ、内心でガックリと肩を落とした。 * 結局。 除隊式に際し、リーブは局長としてこれまでの隊員達の功績を讃え、英雄の代表としてクラウドが参列した。 クラウド・ストライフが参列! たったそれだけで、除隊した隊員達は感極まって涙ぐみ、明日からの新しい生活を頑張る!と決意を新たにWROを後にした。 「やっぱり、デンゼルとマリンは只者じゃないな…」 「そうですね」 除隊式が終わり、その他の所用も終わってホッと一息ついた頃。 クラウドはリーブと対面に腰掛けてコーヒーを味わいながらポツリ…と呟いた。 今回の除隊人数は23名。 若い男性もいれば、壮年の域を僅かに出た男性もいた。 顔に酷い怪我を負った女性もいれば、見た目では分からないような女性隊員もいた。 彼らは皆、クラウドと順番に握手をして、しっかりと英雄の目を見て、手を握って去っていった。 彼らの背中がとても眩しく見えたクラウドは、もしもユフィの案を受け入れていたらどうなっていただろう…?と考えた。 恐らく、彼らは驚嘆しただろう。 感動する隊員もいたかもしれないが、今回の『握手』だけであれだけ感動してくれていたのだ。 子供達が危惧したように『失望』した隊員もいたかもしれない。 彼らが英雄に対してどのようなイメージを持っているのかは人それぞれなので分からないが、少なくとも、憧れの人で、少しでも近づきたい…。 そう思われるような人間のはずなのだ、自分達は。 それが時には重く感じる。 英雄と呼ばれるに値しない人間だと痛感しているからこそ、余計に。 だが、だからと言ってその気持ちを、憧れてくれている人達に押し付けるのは間違っている。 少なくとも、彼らはクラウド達に憧れてくれたからこそ、『人のために役立つ人間』を目指してくれたのだ。 そんな彼らの心意気を挫くようなこと、断じてしてはならない。 そして、危うくとんでもないことをしでかしてしまうところだった…。 「それにしても、ユフィのあの説得力にも俺はビックリした…」 しみじみと語ったクラウドに、リーブは苦笑した。 「そうですよねぇ。実は私もなんです。でも…」 言葉を切ったリーブに、クラウドは首を傾げた。 視線だけでリーブに言葉の続きを促す。 ちょっとだけ躊躇ってから、リーブは言葉を紡いだ。 「いえ、今回のユフィさんの提案は非常に素晴らしかったと思うんです。ただ、その…なんと言いますか…、別に彼女を貶(けな)すわけではないのですが…その……」 しどろもどろ。 また言葉を切って、リーブはグイッとカップのコーヒーを空けた。 「提案が素晴らし過ぎて、なにか裏があったんじゃないのかなぁ…と思ってしまって……」 「………」 「あ、すいません。でも、なんかこう…、『喫茶店』の話しが取りやめになった時、異様に明るく振舞ってた…って言うか、なにかごまかしてたような気が…」 「……俺もそう思う」 クラウドが自分の意見に賛成したことに、リーブはホォ〜…と安堵の溜め息を吐いた。 確かに。 今回は、いつものユフィらしからぬような素晴らしい発言と説得力があった。 提示された衣装はまぁ、ちょっと…問題ありではあったのだが(クラウドにとっては!)、それ以外は、ユフィが除隊する隊員達への特別な思い出になるような手向けをしてやりたい、という言葉の数々。 おかしい。 非常に……怪しい…。 これまで、ユフィがあそこまで人のために必死に何かをしようと、饒舌になったり、『必要物品』を集めるのに奔走したことがあっただろうか? いや、ない! ガタタンッ! 勢い良く立ち上がったクラウドに、リーブはびっくりして目を丸くした。 クラウドはそのまま椅子が転がったことにすら気付かないのか、必死になって何かを考え込んでいる。 そうして。 「…!? リーブ、一つ聞いていいか…?」 「え、あ、はい…なんです?」 「ユフィの奴、普段からイヤリングしてたか?」 「え…?いや…どうですかねぇ、あまり記憶にはありませんが、女性がイヤリングをしてるかどうか、私はあまり興味を持って見ていないので…」 クラウドは、リーブの最後の言葉をロクに聞かず、 「悪い、帰る!」 と、猛然と部屋を飛び出していった。 あっという間に遠ざかる彼の足音と、 『うわっ!』 『キャッ!!』 という部下達の悲鳴に、 『ガラガラガッシャン!!』 という、何かが落っこちる音が廊下の遥か彼方から聞こえてきた。 どうやら、数名の部下が被害にあったらしい。 しかも、どう考えても、彼らに詫びの一つは呟いたかもしれないが、そのままほったらかしにして、WRO本部を風のように出て行ったのはもう……報告を聞かなくても分かる。 「……なにか…あったんでしょうか…」 リーブは全身で溜め息を吐いて椅子に座りなおしたのだった…。 * 「ユフィー!!!」 帰宅するや否や、クラウドはドアを開けた直後に凄まじい形相で駆け込んだ。 だが、店舗エリアにいるのは、目を丸くしたティファと子供達だけ。 クラウドはそれでも怒りが収まらないのか、ズカズカとティファに近寄って、彼女の両肩を掴んだ。 「ティファ、ユフィは!?」 「え…あの…帰ったけど…」 「いつ!?」 「えっと…クラウドがWRO本部に向かってすぐ後…」 「〜〜〜…やられた……」 鬼気迫る勢いで詰問してきたかと思えば、ガックリと両膝をついたクラウドに、ティファはオロオロとしゃがみこんでクラウドの目を見つめようと顔を覗き込んだ。 「ね、どうしたの?なにかあったの?」 だが、クラウドにはそれに応えるだけの余裕がなく、代わりに、 「あったんじゃないのかなぁ…」 「うん…あったんだよね」 デンゼルとマリンが応えた。 ティファは目を丸くすると、しゃがみこんだまま子供達を見上げる。 「どういうこと?」 椅子に座ってグラスを磨いている子供達の方が視線が高い。 デンゼルとマリンは困ったように苦笑した。 「ユフィお姉ちゃん、普段はイヤリングしてないでしょ?」 「だから、ちょっと変だなぁ…とは思ってててさ、実はイヤリングを見せてもらおうと思ってたんだけど、話をする前にさっさと帰られちゃって結局聞けなかったなぁ…と」 子供達の言わんとしている事がティファにはまだ分からない。 ティファの疑問に答えたのは…。 「盗撮された…」 「へ…!?」 うな垂れたままのクラウドから…。 「あのイヤリング、しょっちゅう触ってただろ…?絶対にあれ、盗撮用の小型カメラだ…。しかも動画まで取れる奴…」 「……アハハ、まさか、ユフィでもそこまでは……」 引き攣った笑いを浮かべながら、ティファは仲間を擁護した。 が…。 のろのろと顔を上げたクラウドの表情を見た瞬間! 「………シドに連絡して、追いかけましょう…」 そう決断するしか他に道はなかった。 一度、踏ん切りをつけて決断するとティファは早い。 シドに連絡をし、自分達の『コスプレ』が盗撮されたと報告。 無論のこと、シドは『なにーーー!!』と最大音量で叫び、すぐにシエラ号をすっ飛ばしてきた。 シドに連絡すると同時に他の仲間にも連絡をする。 リーブには、ユフィの携帯端末を走査してもらった。 だが、ユフィの方が上手だった。 彼女の携帯は、既に実家に置き去りにされ、もう一つの携帯を持っているということが判明された。 当たり前だが、彼女の足取りは、父親も知らないという徹底振り。 英雄達は胸いっぱいの不安を抱え、すごすごと退散するしかなかった…。 やがて、それから二週間が経った。 流石に、最初の一日・二日は気が気ではなかったが、二週間も経つと落ち着いてくる。 そうして。 騒ぎは忘れた頃にやってくるのだ。 ティファはその日。 普通に買い物に出ていた。 そこで、彼女はいつも以上に通行人からジロジロと見られ、不気味な思いを味わった。 同時に。 他の大陸で配達の仕事をしていたクラウドも、初めて訪れる土地で、何故かジーッと見つめられたり、自分をチラチラと見ながらコソコソと囁き合われてしまったり…。 珍獣扱いを受けていた。 クラウドとティファがそんな思いを味わっている間、当然のように、ヴィンセント、バレット、シド、ナナキも同じような目に合っていた。 もっとも、ヴィンセントはあまり人がいないところにしかいないので、被害は一番少なかったが…。 英雄達が、そんな目に遭うこととなった理由が判明したのは、セブンスヘブンの客からもたらされた一枚の写真。 「ティファちゃん、すっごく綺麗だよ〜、可愛いねぇ!この服着て、お店を一日で良いからしてくれない?」 ニヤニヤ笑う常連客から見せられた写真。 ティファは真っ赤になって絶叫した。 「ユフィーーーー!!!!!」 写真には。 メイド姿のティファとユフィ、そして執事服姿のクラウド、ヴィンセント、シド、バレットが勢ぞろいしている写真。 そして、彼らの前には、 【おさわり 禁止】 という札を首から下げたナナキ。 全員でこんな形で揃った記憶はない。 当然だが、合成写真だ。 だがまぁ、ほんっとうに良く出来ている。 「この写真、今じゃあすっごいプレミアついてるんだってさ。俺が買った時は10ギルだったけど、今は10000ギル超えてるってさ、凄いよねぇ」 ― 翌日 ユフィ捕獲隊がジェノバ戦役の英雄によって結成されたのは言うまでもなく。 結成から一ヵ月後、無事に英雄達は破天荒娘からネガ(microMD)を没収することに成功した。 しかし。 一体どれだけの人間に今回の写真が手に渡ってしまったのか…。 それを考えるだけで、英雄達は暗澹たる気持ちになるのだった。 SOS。 それは、大切な仲間から発信されたら何を差し置いても駆けつけるべきもの。 だが。 その相手はやっぱり選んだほうが良い。 英雄達は骨身にしみて、そう痛感したのだった…。 あとがき。 はい、なんともいやはや、アフォな話でした(笑) たまに、オールキャラでアフォな話が書きたくなります♪ ユフィ…。 あんた、たまには良いこと言ってるなぁ、と思ったら…下心満載かい!! こんあアフォ話しですが、少しでもお暇つぶしになってくだされば、凄く嬉しいです♪ |