『『『『 オッケーしなきゃ良かった… 』』』』 ユフィの胸を張った提案とやらを実際に目の当たりにした英雄達が、ガックリとうな垂れたのは、言うまでもなく再び集まった翌日のことだった…。 SOS!!(中編)志(こころざし)半ばで除隊する者のために、特別なことをして手向け(たむけ)としてやりたい。 その意思は大変素晴らしいものだ。 だが…。 緊急徴集から翌日、再びセブンスヘブンに集まった英雄達は…。 「おい、なんで俺がこんな服を着ないといけないんだ…」 クラウドの不満そうな声と、 「おい……どうして私まで…」 ヴィンセントの不愉快極まりないという声と、 「えぇ!?オイラ、ちょっと酷くない!?!?」 ナナキの半べその声と、 「どぅわ〜〜っ!!!なんっじゃこりゃーーー!!!」 バレットのバカでかい声と、 「うぉい、ちょっと待てーーー!!」 シドの焦りまくった声と、 「な、な、な!!」 と、最早声にならないティファの取り乱した声が同時に上がった。 「「「「「 ユフィーーーー!!!!!(怒) 」」」」」 しかして、当の本人はと言うと、ケロリとした顔をして、 「皆のサイズには合うはずだから、着てみてよ」 とのたもうた。 クラウドとヴィンセントは無表情の中に怒りを込めて…。 シドとバレットはモロに怒り顔で…。 ナナキな泣きべそで…。 ティファは真っ赤になって固まったまま…。 そうして、今回のSOSを発信したリーブは引き攣った笑顔でユフィを見つめた。 恐らく、胸中は後悔でいっぱいだろう…。 何かしらの案を自ら用意して、それを皆に協力してもらうようにすれば良かった…と。 だがまぁ、言わずもがなではあるが、『後悔先に立たず』であるわけで…。 今、仲間達の手の中、あるいは目の前には彼らのためにいつの間にかユフィが用意していた『ブツ』がある。 そう、『サイズ』は合うはずだ…という彼女の言葉通り、それぞれにバッチリ似合いそうなサイズの『それ』。 リーブの前には何もない。 ユフィが言うには、リーブはWRO局長として部下の最後を見送るべきであるので、今回の企画に完全に乗らない方が良いだろう…とのことだった。 それを素直に喜んで良いのかどうなのか…。 リーブはとても複雑だった。 仲間に突きつけられた『それ』を、自分が着なくて済むのは純粋にありがたい。 だが、自分のSOSが仲間達をとんでもないことに巻き込んでしまったのは、疑いようもない事実なので、それを考えると、どうにも良心が痛む。 「ほら、さっさと着替えてみてよ。サイズが合わなかったら修正しないといけないんだから」 怒りと放心状態にある仲間達にユフィはバスッ!と言い放つと、真っ赤になって固まっているティファの手を引き、二階へと消えていった。 マリンが面白そうにわくわくしながらその後に着いて行く。 デンゼルは、一階の店舗エリアに取り残された男性陣達を、これまた面白そうな顔で眺めやった。 そうして、おもむろに立ち上がると、 「クラウド、折角だし着てみたら?」 サラリ、とこともなげに促した。 紺碧の瞳がギョッとしたように見開かれる。 「デンゼル…本気で言ってるのか!?」 信じられん!! そう言わんばかりに、後ずさりながら自分を見る父親代わりに、デンゼルはニヤニヤと笑った。 他の英雄達までもが自分の言葉に目をむいていることを知りながら、少年は笑い声を抑えるべくわざとらしい咳払いをした。 「だってさぁ、着てみるくらいはなんともないと思うんだ。それに、ユフィ姉ちゃん達が着替え終わって降りてきた時、もしも皆が着替えてなかったら絶対に『森羅万象』の刑だと思うな」 英雄達はさささっ!と視線を交わした。 確かにデンゼルの言うとおりだろう…。 だが、だからと言ってどうしてこんな服を着なくては!? いやいやいや、って言うか、なんでたった一日でこんなものが用意出来たんだ、ユフィは! 普通、ありえないだろう!? 「「「「 ……… 」」」」 男性陣の苦悩は一瞬。 二階からティファの悲鳴が聞こえやしないか…と、耳をそばだてたが、今のところそういう『不穏な空気』は漂っていない。 「………仕方ない…」 クラウドの観念した声は、まるで終身刑を言い渡された犯罪者のようだった…とは、後々デンゼルがマリンに話して聞かせた感想だった…。 クラウドの言葉をきっかけに、シドとバレットも観念したようで、全身で溜め息を吐いてから黙々と着替えに入った。 ヴィンセントは暫く着替えている仲間を見ていたが、半べそのナナキよりはマシだと思ったのかどうなのか…。 「はぁ……」 盛大な溜め息を吐き出した後、モゾモゾと着替え始めた。 ちなみに、着替えが必要とされなかったのは、リーブとナナキ。 「…ナナキ、本当にすいません…」 しゃがみこみ、しょぼくれているナナキと視線を合わせたリーブは、しみじみと深い後悔に襲われていた…。 ― 20分後 ― 「じゃじゃ〜ん!!」 陽気な声と共に、ユフィが降りてきた。 男性陣はノロノロとイヤそうな顔を二階へと続く階段への入り口に向けて…。 固まった。 「うわ〜!ユフィ姉ちゃんもティファも、めっちゃ可愛いじゃん!!」 「でしょでしょ?どうよ、この可憐さ〜♪お、皆も似合ってるじゃん、サイズ直ししなくても済みそうだね、良かった良かったvv」 デンゼルとユフィの弾んだ声に我に返る。 ティファは、ユフィとは違い、恥ずかしくてたまらないようで、真っ赤になったまま、入り口でモジモジとしていた。 その恥じらいがまたなんとも言えず…。 「あ〜…俺、血圧上がる…」 「俺様も…」 バレットとシドがボソボソと小声でやり取りした。 バッチリ、クラウドの耳にそれは届いていたが、いつものように怒りのオーラを発するだけの余裕などない。 むしろ、バレットとシドよりも彼の方が大いに動揺しているのだ。 無表情というのはこういうときに非常に役に立つ…。 無表情と言えばヴィンセントもそうなのだが、彼の場合はクラウドやバレット、シドとはまた違った意味で固まっていた。 『…もしもルクレツィアがティファ達のような衣装を身に着けていたら…?』 などと、アフォな想像をしてしまい、それゆえに固まっているなど、神でも仏でもないただの人間に分かるはずがない。 「ユフィもティファも、本当に良く似合ってますね。しかし……その〜……」 リーブが困惑気味にユフィを見た。 ユフィはニッコリと小悪魔な笑みを浮かべると、改めてその『衣装』を強調するように、その場でクルリ、と一回転した。 裾にあしらわれたフリルが可憐に舞い、彼女の細い足を惜しげもなく男達の目に晒される。 黒を基調としたその『衣装』は、胸元の大きく開いたタイプのブラウスとスカートの内側が真っ白という、黒と白のコントランス。 頭部には、これまた真っ白でフリルが沢山ついた……帽子……? いやいやいや! 違うから!! トーションレースヘッドドレスというらしい。 それをクラウドが知ったのは、全ての騒ぎが終わった日の夜となる。 というわけで、当然だがクラウドは彼女の頭に取り付けられたレースふりふりの『それ』がなんであるのかさーっぱり分からず、彼女の漆黒の髪に真っ白の『それ』がとても良く似合うなぁ…とか、彼女のスタイルの良さを見事に表してくれているレースふりふりの『スカート』が『バニエ』だと言うのだ、ということも知らないで、ただただ『すごく…良く似合う…』と、一人で惚れ直してしまっているという事態に陥っていたりして…。 そして、実はティファもクラウドの『姿』に、密かに胸をときめかせて惚れ直していたりした。 普段から、あまりかっちりとした服を好まない彼が、燕尾服をビシッと着こなしている姿はとても凛々しい。 他の仲間達も同様の服を着ているのだが、ヴィンセントとクラウドはルックス的に似通った部分が沢山あるため、非常に似合っていたが、何故かシドとバレットが着ると『マフィア』に見えてしまうのが不思議だった…。 それに、一番不思議だったのは、なにも着替えていないナナキが首からぶら下げている【おさわり 禁止】の札だった。 なんでナナキだけ、皆と対応が違うのだろう…。 もっとも、ナナキは獣タイプなので、衣装がないのかもしれないがそれにしても、【おさわり 禁止】の札を首からぶら下げるだけ…という扱いはあんまりなのではないだろうか…。 とかとか、思ったティファだったが、それを深くユフィに追求するだけの余裕は微塵もなかった。 彼女の意識は一人に釘付けで…。 金色の髪と紺碧の瞳が、黒い燕尾服に良く映えて…。 改めてティファは、クラウドがとんでもなくカッコいいのだ、と気付かされた。 そして、その彼の目が自分にしか注がれていないと言うことが、とてつもなく幸せで、恥ずかしくて…。 いても立ってもいられなくて思わず隠れてしまいたくなる。 だが、こっそりと彼だけは見ていたい…と、なんともはや、おノロケ全開でその場に突っ立ったままでいたりして…。 んでもって、当然だがそんなこと、ユフィにはとっくにバレバレで、だからこそ、真っ赤になって固まっているティファの腕を掴んで、 「ほらほら、ティファ!『メイド』には『執事様』でしょう?」 と、思いっきりクラウド目掛けて押しやった。 羞恥の極!と、固まっていたティファにとって、それは不意打ち以外の何者でもなく、そのためにバランスを崩して、燕尾服に身を固めたクラウドの腕の中にモロに飛び込む羽目となった。 自然、クラウドの視線はティファよりも高くなっており、慌てて彼女を受け止めて猛然とユフィに抗議をしようとして…。 視線は愛しい人の胸元でガッチリと止まってしまった…。 いやいやいやいや! はっきり言おう。 クラウドとて男子。 好きな女が腕の中に突然飛び込んできたら、それがどういう理由であれ、彼女を抱きとめずにいられるはずがない。 そうして、彼女の体の柔らかさに、今更ながらドキッ!とし、自然と視線は…。 いつもより、うんと開いた胸元に…。 豊かな彼女の胸が強調されるような、白いブラウスから見える谷間。 クラウドは一瞬、意識を失った。 しかし、それはほんっとうに一瞬だけ。 真っ赤な顔をして、 「ご、ごめんね、クラウド。重いでしょ?痛くなかった?」 慌てて身体を離そうとするティファにハッ!と我に返って、逆に抱き寄せた。 そうして、首筋どころか全身を真っ赤にさせたティファに構わず、彼女の豊かで素晴らしい胸を他の野郎共(たとえ、仲間であろうとも!)に見せまいと、ガッシリとその腕の中に完全に閉じ込めた。 「見るんじゃねぇ!」 地の底から呻く亡者のようなその声に。 シドとバレットは我に返ってそっぽを向き、ナナキとリーブは恨めしそうな顔をして腹を抱えて笑っているユフィを睨み、ヴィンセントはひたすら脳裏に愛しい人の『コスプレ姿』を想像していたのだった…。 * 「却下だ!」 当然のクラウドの一言。 ユフィは、 「本当に心の狭い奴」 極寒の視線を突き刺されてもケロリ、とした顔でそれを受け止め、たったの一言でクラウドを一蹴した。 ぐっ、と言葉に詰まったクラウドだったが、それでも愛しい人のあ〜んな姿、他の野郎共に見せるなど論外!という、たった一つのその思いだけを胸に燃やし、 「なんとでも言え!やるならお前一人でやれ!」 額に青筋を立てながら噛み付いた。 一方、ユフィはクラウドがそう抗議してくることなど百も承知していたのだろう。 落ち着き払ってティファの煎れたコーヒーを一口啜ってから口を開いた。 「アンタさ。志半ばで夢を断念しないといけない人間を労わる気持ち、ないわけ?」 常の彼女と違うその静かな口調。 クラウドの紺碧の瞳が僅かに揺らぐ。 内心でほくそ笑みながら、ユフィはじっとクラウドを見つめ、次いで、ティファ、シド、バレット、ヴィンセント、ナナキそして最後にリーブを見つめた。 「あたし達は幸いにも、志半ばで断念することなくセフィロスを倒した。でも、もしもあたし達が断念しないといけない…、そんなことになってたら、あたし達はその仲間のためにも、なんだってやってやろう、って思うでしょ?」 あんたは違うの、クラウド? うぐぐ…。 まさか…。 まさか、ユフィに! この破天荒娘に、こういう風に説教されるとは!! クラウドは返答に窮した。 そして、思い出さずにはいられない。 志半ばに…、旅の途中で失った大切な仲間である彼女のことを…。 自分を守るために盾となってくれた親友である彼のことを…。 エアリスもザックスも、死んでしまったから2人のためにしてやれることは、自分達が前を向いて生きることしかない。 だが、もしも生きてたら? なにがしてやれただろう…? 一緒に食卓を囲んで…。 一緒に笑って…。 もしも、歩くことが出来ない状態で彼らが生きていてくれてたら、彼らの足となっただろう。 手が動かなければ、彼らの手になったはずだ。 彼らが心を失った状態であるなら…。 彼らの心を取り戻すために、どんなことでもやっただろう。 それこそ、神羅時代に受けた人体実験でもなんでも、進んでこの身を差し出したはずだ。 「………」 今度こそ黙りこんだクラウドに、ユフィは内心で、 『勝った』 と、静かに勝利宣言をした。 クラウドは仲間に対する思い入れが強い。 この無愛想な顔から想像出来ないほどだ。 だからこそ、この手の話には彼は反論出来ないだろう。 むふふ。 この勝負、いただきだね。 ユフィがゆったりと座りなおし、改めて仲間達を見回す。 誰も彼もが、沈痛な面持ちで俯いていた。 ユフィの話術にどっぷり引っかかっていることが伺える。 ユフィはおもむろに、 「じゃ、これで決まりってことで…」 と口を開きかけた。 まさにそれは、勝利宣言。 だが! 「なぁなぁ、ところで何するんだ、そんな格好してさ」 「そうだよね。何するの?ユフィお姉ちゃん」 無邪気なお子様2人に割って入られる。 なんとなく、話の腰を折られたような勘は否めないが、『何をするための執事とメイドスタイル』なのかは、当然今日の内に話さないといけない。 ユフィはニ〜ッと笑うと、 「除隊する隊員みんなに、あたし達がお茶とお菓子を振舞うんだ〜」 そうのたもうた。 その言葉に、クラウド、ヴィンセント、リーブは首を傾げ、意外にもティファ、シド、バレット、ナナキは、 「「「「 あ〜…なるほどね… 」」」」 と、納得の声を漏らした。 首を傾げたメンバーは、びっくりして納得したメンバーを見た。 どの顔も『説明してくれ』と書いてある。 ティファは苦笑しながら席を立つと、店内にある一冊の雑誌を持ってきた。 それは、若い世代が好んで読むようなファッション雑誌のようだったが、ファッション以外にも【エッジのおススメ料理店】【エッジの穴場】と言った、エッジに関してのちょっとしたコーナーがあった。 その中に…。 「「「 執事とメイドがいま、大ブーム 」」」 声を揃えて、首を傾げたメンバーがその一文を読んだ。 なにやら不吉な予感。 クラウドはユフィを見た。 ユフィはニ〜ッと笑うと、 「クラウド達はまぁ、こういう『流行』とかには興味ないだろうけど、今はこういうのがブームになってんだよね。漫画とか、ドラマとか。だから、除隊する人達を送り出すにはあたし達英雄が、お茶を振舞ったら喜ぶんじゃないかなぁって思ってね」 ま、喫茶店みたいな感覚で良いと思うよ。 クラウド達は改めて、時代の流れがとんでもない風に転がっているのだと痛感したのだった。 あとがきは最後で☆ |