「……ス」 「……ん〜…」 「……クス」 「……あと少し〜…」 「ザックス!!」 「……んあ?」 「起きろー!ザックスーー!!」 「おわっ!!」 ドビックリ…。 目を開けると、そこには眉を吊り上げた俺の愛しい人が、腰に手を当てて立っていた。 「お、おお…?」 「もう!今日がクラウドの試合の日なんだよ!早くしないと試合が始まっちゃうじゃない!」 「うえ!?もうそんなになるのか!?」 び、びっくりだ…。 もうあれから一週間経っていたとは…。 「ザックス…いよいよ星と一緒になっちゃうんじゃないの…?」 どこか不安げにそういう彼女に、少なからずも不安を覚える。 まぁ、いつかは星と一つになるのがこの星に生まれてきたものの使命…みたいなものだからな。 でも…。 俺はやっぱりもう少しこのままが良い…。 不安そうな顔をする愛しい女の顔を見たら……尚更な。 「わりぃ。ちょっと寝すぎちまっただけだ。さ、行こうぜ!」 ニカッと笑って彼女の手を取ると、漸くエアリスは彼女らしい笑顔を俺に見せてくれた。 「うん、行こう!」 そうして…。 俺達は二人揃って親友達の気配を探り、星の表面を目指した…。 大切な想いをキミに託す…(後編)「おお……すっげえ人」 「本当ねぇ…」 「やっぱ、クラウドは有名人だなぁ…」 「…う〜ん…まぁ、そうなんだろうけど…」 「ん?他に何か気になる事があるのか?」 「え?ん〜だって、今日って平日よ?それなのに皆、仕事はどうしたのかしら…」 エアリスは呆れ顔でそう言うと、やれやれと言わんばかりに頭を振った。 あ〜…。 確かに今日は平日だよなぁ…。 それなのに、何だよこの人の多さ…。 びっくりだね。 エアリスの言う通り、仕事はどうした?仕事は! んでもまぁ…。 「一日くらい休んでも平気なんだろうな…」 「……まぁ確かにそうだとは思うけど…」 「?」 「ふぅ…。この星はまだ不安定なんだけどな…。ちゃんとそれを生きてる人たちが分かって頑張ってくれないと、いつまでも心配でゆっくり出来ない……」 「…………」 彼女はそう言って、ちょっと悲しそうな顔をした。 そうなんだよな…。 彼女は俺と違って『セトラ』の血を引く最後の人間。 『血の記憶』とはよく言ったもんだ。 良くも悪くも、そのせいでエアリスは身体を失った今でも星の状態をいち早く感じ取る事ができる。 だからこそ、星の現在の状態を詳しく知ってるし、俺のような一般人よりもうんと長く、己の意識を保っていられる。 ……正直、俺はこれ以上自我を保っているのがしんどくなってきてるんだけど…。 それは内緒だ。 まぁ、彼女はもう知ってるのかもしれないけど、それに関して触れてこないから俺も言わない。 せめてもの『男の意地』ってところかな? 想ってる女がこの星の行く末を案じて眠りにつけないんだったら、安心するまで傍にいたいじゃん? ……生きてる時には出来なかったからさ…。 「…それにしても、これまたなんともはや……」 「……そんなのありなわけ……?」 目の前で俺の親友が対峙してる面子を見て、あまりの事にエアリスと揃ってあんぐりと口を開ける。 いや…。 だってな…。 こんな風になるなんて思わなかったから……。 「よりにもよって…」 「WROの期待の星が三人も……」 俺達と同じくらいびっくりしてる親友に、しみじみと同情の念が込上げる。 「……リーブ……いくらなんでもひどくない……?」 「……断りきれなかったんだろうなぁ…」 クラウドとティファに向かって、VIP席から必死に手を合わせている哀れな中年男を見る。 ニヤニヤと笑ってる三バカトリオとは違い、WROの期待の星三人はいずれも渋面。 そのうちの二人はいささか緊張してる。 残りの一人は……クラウド顔負けのポーカーフェイス振り……。 「キャーーー!!」「シュリ中佐ーー!!」「ノーブル准尉〜♪」「バルト准尉〜〜!!」 黄色い声援が埋め尽くす。 その声援に、三バカトリオを応援する声は……残念だけど混ざってないみたいだな……。 「……あ〜あ、あの三人、顔が引き攣ってるわね」 「そうだなぁ…。俺だったらすっげ〜屈辱感じるな…」 「フフ…きっとあの三人もまさにそんな思いを味わってるのよ」 「悪いが……いい気味だ」 「プッ!申し訳ないけど同感」 ちょっと意地が悪いかもしれないが、仕方ないだろ? どう考えても黄色い声援を受けてる三人の方が性格も顔も良いんだし…。 まぁ、勿論性格は良く分からないんだが……勘だな!うん。 ほら、性格って顔に出るってよく言うだろ? 三バカトリオはすっげ〜、見ててムカつくんだ! 性格が捻じ曲がってる証拠だぜ。 しっかし…。 クラウドの声援も勿論すっげえんだけど、この三人の兄ちゃん達の声援もすげぇな。 一人はニッコリ笑って手を振ってる……何かいかにも『慣れてます』と言わんばかりだ。 もう一人は、恥ずかしいのか俯き加減だ…。何か、その姿が初々しく見える……。 残りの一人は…………。 生きたマネキンみたいに無表情……怖ぇ……。 「あいつ…たしかシュリっつったっけ?」 「うん…んで、プライアデス君とグリート君よ」 漆黒のサラサラした髪を持つ紫紺の瞳の兄ちゃんと、薄茶色の髪でグレーの色男を指差す彼女に、口笛を吹いてみせた。 「へぇ、お前良く覚えてるな」 「そりゃ、三人ともカッコイイじゃない?」 「……こんな男前を隣に従えてそれを言うか…?」 「え?どこどこ、男前???」 「…………殴るぞ……」 「フフ、冗談よ、ザックス」 可愛く舌を出して笑う彼女に、うっかりときめきそうになりながらも、それをひた隠してそっぽを向く。 ……だって悔しいだろうが! 俺ばっかり想ってるみたいで!! ………。 …………。 ……あ〜…、クラウドの事、言えねぇ……。 俺も、エアリスの事になるととことんヘタレ………ガックシ……。 「ほら、ザックス!始まっちゃうよ!!」 含み笑いを漏らしながら、エアリスがクイクイと俺の服の裾を引っ張った。 渋々顔を戻すと…。 ガキーーン!! 「うおっ!」 「すっごい……」 真剣に剣を交える二人に、言葉を無くす。 シュリはどちらかと言えば痩身だ。 それなのに、両手で扱う武器であるはずのファルシオンを、軽々と片手で一本ずつ操っている。 繰り出す剣戟はそれはもう……見事しか言いようが無い。 クラウドでなかったら……勝負は早かっただろう…。 「クラウド…頑張って!」 隣でエアリスが拳を握り締めて応援している。 勿論俺もエアリスに負けないくらい、食い入るように目の前の見事な試合にのめりこんだ。 一戟…。 二戟…。 ……五・六・……十戟……。 中々勝負はつかない。 クラウドもシュリも、肩で息をしながらその眼光は全く衰えていない。 観客席に座っている『景品』であるティファと子供達が、声を枯らして応援している。 応援しているのは勿論クラウドなんだけど、それでもクラウドの繰り出す剣技がシュリにヒットしそうになると、「シュリお兄ちゃん!!」「うわっ!シュリ兄ちゃん、危ない!!」って悲鳴を上げている。 子供達の悲鳴に、ティファやクラウドの仲間達は全然非難めいた顔をしない。 って言うか、一緒になって「危ねぇ!!」「おぉ……今のはヤバかったな……」とか言ってやがる…。 おいおい、お前ら…どっちの味方だよ……。 ま、シュリって奴がクラウド達にとって大切な友人だって分かってるけどさ。 ……ちょ〜っと面白くなかったり……。 あ〜…俺も輪に入りてぇ…。 「ザックスったら拗ねてるの…?」 「!?……な、何の事だよ…」 「フフ、良いじゃない、隠さなくても」 何でそんなにこいつは鋭いんだよ! あっさりと俺の心を読み取って、エアリスは深緑の瞳を細めた。 「私も」 「…え…」 「私も……ちょっと……ううん、とっても悔しいもん」 そう言って、うーん…と伸びをする。 「あ〜あ、私もシュリ君やプライアデス君やグリート君達と友達になりたかったなぁ」 ね…? ニッコリ笑って見上げてくる彼女に、降参して頬を緩める。 「ああ……そうだよな…」 生きてたら…。 死ななかったら、もしかしたらクラウド達と一緒にあの期待の星達とも仲良くなれたかもしれない…。 そう思うとやっぱ悔しいな…。 でも、まぁ仕方ないけどさ。 「……もうそろそろ決着つきそうだね」 「ああ、二人共そろそろ限界のはずだからな……」 息を飲むような場面に何度も目を見張り、何度も拳を握り、何度も声を張り上げて応援した。 こんなに興奮したのは本当に久しぶりだ…。 「……………はぁ…。参りました」 歓声で闘技場が湧き立つ。 クラウドの突き出した剣先に、シュリが白旗を揚げたんだ。 二人して心からスッキリした顔をして笑い合って、握手を交わし、互いの健闘を評し合う。 ……正直……感動した。 あのクラウドが…。 あんなに人付き合いが苦手で……今も四苦八苦しながら生きてるアイツが…。 本当に良い友人を手に入れられたことが……本当に嬉しい。 「良かったね……クラウド」 「ああ…」 「すごく……良い顔してるね」 「ああ!」 「それに…」 「ん?」 「ザックスも…安心したでしょ?」 「…フッ……そうだな」 エアリスの言葉に、頬が緩む。 ガラにも無く鼻の奥がツーンとする。 本当にさ。 あんなに楽しそうに戦うクラウドを見たのは……初めてだった……。 いつもどこか、切羽詰ってて、余裕なんか全然無くて…。 殺伐とした空気を纏って死んだ目をして……。 俺が、アイツの目の前で死んじまってから……アイツは戦う事が……剣を振るうという事が良く分からなかったんだと思う。 分からないなりにも、守らなけりゃならないものを守る為に…それだけの為に必死になって剣を振るってた。 本当は、武術っていうのは守るだけじゃなくて自分が楽しむ為にもあるのにさ。 そりゃ、勿論最終的には守るべきものを守る為に戦うんだけど。 でも、それだけじゃなくて、『自分と闘ってそれに勝つ』のが本当の目的だと……俺は思ってる。 闘うっていうのはさ、そういうもんじゃないのかな……? だから、時には楽しむことも必要なんだ。 自分との闘いに勝つ喜び…。 それを手にする為には一人じゃ無理なんだ……絶対に! 独りよがりな闘いばかりを続けてると、いつの間にか『相手を傷つける事』だけが目的になっちゃうだろ? だから……いつまで経っても『戦争』がなくならないんだよ…。 でも…。 やっとアイツは闘うという楽しさを感じたんじゃないだろうか……? 「本当に……良かった」 「うん!」 嬉しそうにエアリスが微笑んだ。 その笑顔がとっても眩しくて…。 俺は、やっぱりエアリスと一緒にこうして親友が成長していく姿を間近に見守れる今の状況が幸せだと思えた。 死んでなかったら…。 クラウドと一緒にニブルヘイムを脱出するという自殺行為を選択しなくて、俺一人で逃げるという道を選んでいたら、あるいはもしかしたら逃げおおせたかもしれない。 でも、きっとそんな事で生き延びても……後悔だけの人生だったと思う。 たった一人の親友を見捨てて…。 醜い『生』にしがみ付いて…。 神羅から逃げて…。 あ〜、冗談じゃねぇな! そんな人生、『生きながら死んでる』のと同じじゃねぇか! 確かに、親よりも先に死ぬ…って親不孝をしちまったけど、それでもやっぱり俺の選んだ道は間違ってなかったと思える。 それも…全部……。 「クラウドのお蔭……だな…」 「ザックス?」 「へへ…」 不思議そうな顔をして見上げてくるエアリスを後ろから抱きしめて、ニヤニヤ笑う。 「変なの…」 そう言いながら、彼女は特に抵抗する事無くそっと俺の腕に手を添えてくれた。 きっと……彼女は分かってるんだろうな…。 エアリスは……そういう女だから…。 だから、俺は彼女が愛しいんだから…。 そうこうしてる間に、試合はあっという間に二回戦に突入。 シュリほどではないけど、従兄弟というつながりを持つコンビも、それはそれはびっくりするほどの腕前だった。 確か、この二人は有名な資産家のボンボンだったはず…。 それなのに、その動きは並みの隊員ではありえないもので、ソルジャーの俺ですら感嘆せずにはいられない。 一人一人の実力はシュリに劣るが、二人のコンビネーションは賞賛に値する。 先程のガチンコ対決の後、クラウドはエリクサーで全回復してた。 もしも回復してなかったら……か〜な〜り!!厳しい状況だっただろうな……うん。 「凄いね……こんなに優秀な人達が……星の為に生きようとしてくれてる……」 腕の中で、エアリスがポツリと呟いた。 その声が感動のせいか……震えていたことに気付かない振りをする。 そして…。 「ああ……そうだな……」 そう応えた次の瞬間…。 『エアリス……ザックス……。こんなにも頼もしい奴らがいるぞ……』 「「!?」」 クラウドの声が聞えた気がした。 イヤ……気のせいじゃない…。 確かに、クラウドは俺達にそう言ったんだ……心の中で。 アイツの……クラウドの満足した……満ち足りたその表情で確信する。 「……クラウド……」 「……ああ、ちゃんと見てる…。本当に……頼もしいよ…。勿論、お前もな…」 俺達の事を忘れずに……いつもその心の中に生かしてくれているアイツに、嬉しくて胸が熱くなる。 ティファも……そうだ。 ちゃんと…見てるさ、俺も、エアリスも…。 試合は、やっぱり……というかクラウドの勝利だった。 本当に見事な試合に観客達が総立ちになって拍手を送っている。 俺達も負けずに目一杯の拍手を送った。 「うん…うん!良かった…良かったよ!」 「ああ…本当に……凄く良い試合だった!」 観客席にいるティファと闘技場のクラウドが見つめ合う姿に、不覚にも視界が滲む。 もう……この二人は……大丈夫だろう…。 「じゃ、帰るか」 「うん、そうだね」 満ち足りた心地で星に還ろうとした俺達に…。 『はい、とうとうやって来ました、最終決戦で〜っす!』 「「……はい!?」」 びっくりして振り向くと、一様にキョトンとした面々と、マイクを片手に力んでるウータイの忍。 「あ……」 「三バカトリオを忘れてた」 エアリスと顔を見合わせ、次いで闘技場の控え室へ顔を向ける。 チラリ…と彼女と視線を合わせると、揃って二人で控え室へ。 そこには…。 ちょっと……いや、かなり自業自得でお気の毒な三バカトリオの姿。 「ま、身から出た錆よね」 「だな」 「気の毒だから、もう帰ろっか…」 「そうだなぁ…。見なくても結果は分かってるし」 それに…。 正直…。 眠くて仕方ない。 久々に興奮したせいかもな。 本当に……あんまり俺は……己を保つ時間が……もうないのかも知れない……。 「ザックス」 エアリスが寂しそうな顔を隠すように微笑んでくる。 「バ〜カ。まだ大丈夫だって」 そう言って、彼女を抱きしめる。 お互い、身体はとうの昔になくなってるけど、魂同志だから触れ合えるし、温もりを分かち合える。 俺は…。 こうして大切な人を抱きしめて、笑いかけて、頼りない声をかけてやるしか出来ない。 でも、だからこそ、少しでも『俺』という存在が彼女の傍にあり続けたいと思う。 この『想い』は……誰にも負けないという自信があるね。 そして…。 「この星は…まだ不安定だからな。いざと言う時に寝過ごさないように……」 「うん……でも、きっと大丈夫だよ……」 「ああ……そうだな…。でも、やっぱりその時に少しでも力になりたいから……」 だから、今は少しだけ眠ろう…。 お前が生きてるこの星のピンチに駆けつけるられるように…。 そして…。 俺が果たせなかった大切な想いを……今、お前に託す。 どうか。 生きて大切な人達と幸せに…。 いつか俺達のところに来る…その日まで、精一杯生きて…そして…。 沢山、お前の自慢話を聞かせて欲しい…。 それまで…。 またな、クラウド。 あとがき はい、予告どおり、終りました〜!! すごい、快挙だ!(自分で言うか…!?)。 今回はザックス視点でお送りしました。 ザックスはクラウドを本当に大切に想ってたんだと思います。でなきゃ、絶対に魔晄中毒に侵された『足手まとい』を連れて最後まで庇って逃げたりしないですよね。 だから、星に還ってからもクラウドのことを心底心配してると思うんです。 勿論、心の底では『こいつなら大丈夫さ』と思ってるのですが…。 T・J・シン様、遅くなりましたがお捧げします♪ リクエスト、本当にありがとうございました!! |