The bonds between he and her8「意味が分からないわ…」 ティファはゆっくりと頭を振って、目の前で彼の席に腰を掛けているクレーズを見つめた。 「意味って言われてもな…。そのまんまなんだが…」 「何が言いたいの…?」 「……俺に怒るのは筋違いだと思うが…?」 ティファの厳しい口調に顔をしかめながら、それでもどこか余裕を感じさせる雰囲気を放ち、クレーズはあくまでのんびりとした態度を崩さない。 いつもの短気な、それでいて情に厚い彼とはまるで別人だ。 そんなクレーズにティファはぞっとした。 これまで一度も見せた事のない表情をしている目の前の男に、底知れぬ不気味さを感じ取る。 強張ったティファの表情に、クレーズは面白そうな、それでいて少し残念そうな顔をした。 「ティファちゃんさ…。二回も捨てられて、それでもまだクラウドの旦那の事が忘れられないのか?」 「……あなたには関係ない話しだわ…」 「いいや、関係あるね!!」 キッと睨みつけるティファに、クレーズは語気を荒げて立ち上がった。 「俺が今までどんな気持ちでティファちゃんを見てたのか、知らないとでも言うつもりか!?」 「…………」 「ずっと…、ずっとだ。セブンスヘブンに初めて来た時から、ずっとティファちゃんだけを見てたんだ!でもな、ティファちゃんにはクラウドの旦那がいただろ!?だから、それこそ旦那ごと好きになって、あんたを諦めようと努力してたんだ!!なのに…!!」 「……クレーズさん……」 「なのに、クラウドの旦那はあんたを捨てた!!それが許せるか!?俺には許せない!!俺だったら…、俺だったら…!!」 そして、そのままの勢いでティファに詰め寄る。 いや、詰め寄ろうとした。 その彼の行動を止めたのは、エリックの「う〜ん…」と言う、寝苦しそうな呻き声だった。 二人共、ビクッと身を竦めてエリックを見る。 そんな二人の視線の中、エリックはそのまま何事も無かったかの様に、寝息を立てて眠り続けた。 ふぅ、っと息を吐き出し、二人は改めて対峙する。 クレーズはやや気勢を削がれたかたちになったものの、異常とも言える熱を持った眼差しを彼女に向けた。 「俺なら、黙って家を出たり、悲しい目になんか絶対に合わせないし、浮気もしない!」 「クラウドが浮気したってどうして言えるの?」 あくまで冷静に応対するティファに、クレーズはカーッと顔を赤らめた。 「だから、見たって言ってるだろ!?昨日、クラウドの旦那が…!!」 「俺が…、一体どうしたって?」 「!?」 突然割り込んできた声に、クレーズは体を強張らせた。 そして、カウンター奥にある居住区へ続くドアへゆっくりと視線を流す。 そこには、六日間も戻らなかったクラウドが立っていた。 彼の紺碧の瞳は激しい怒気に彩られ、整った顔には背筋も凍るような冷酷さが貼り付けられている。 そんな彼の後ろには、クレーズの知らない中年の身なりの良い男性が立っていた。 「やぁ、今晩は、ティファさん」 「リーブ…。忙しいのにごめんなさいね」 「いえいえ、構いませんよ。仲間の一大事ですからね、当然です」 この突然の乱入者にクレーズは、それまでの余裕を完全に喪失し、大きく目を見開いている。 そして、突然何かを悟ったような顔をすると、ギリギリと歯を食いしばって凶悪な顔になった。 「……嵌めたな…、この俺を…!!」 「仕掛けてきたのはそっちだろ…」 あくまで静かな口調でクラウドは応酬すると、そっとティファに近寄った。 「ティファ、遅くなってすまなかった…」 「……ううん、ちゃんと間に合ったよ…」 心から安らいだ笑顔を見せるティファに、クラウドは一瞬目を細めて微笑んだ。 そして、再びクレーズに向き合うと、厳しい視線を突き刺して口を開く。 「俺に送りつけてくれた手紙と写真の送り主が、まさかあんただとはな…」 無言で睨みつけるクレーズの目の前で、クラウドは胸元に手を入れ、茶色の封筒を取り出した。 そして、無言のまま中身を床にぶちまける。 落ちたのは幾枚もの写真だった。 その全てにティファが写っている。 洗濯物を干しながら涙を拭いているもの、店の常連客達の目を盗んで倉庫の前で泣いているもの、店の中に一人残り、グラスを傾けながら虚ろな瞳を天井に向けているもの…。 内容は様々だったが、そのいずれの写真も悲しみと苦悩に苛まれているティファで溢れていた。 「よくもまぁ、これだけ集めたものですねぇ…」 リーブが感心したようにしみじみとこぼす。 「それで、これもあんただろ?」 そう言ってもう一つの封筒を取り出し、その中身も床に落とした。 落ちたのは、ティファ宛てに届けられたクラウドと女性のツーショット写真。 「本当に良く出来た合成写真でした。相当、コンピューターにお詳しいのですねぇ」 リーブが写真の一枚を拾い上げ、指ではじく。 「例えばこの女性。元はティファさんでしょう?ティファさんという骨格に、コンピューターで肉付けして出来上がった写真が、この金髪の女性ですね?そして、この写真の背景はカームでしょう?いやいや、本当に素晴らしい技術です」 出来れば、WROの技術部門に欲しいくらいですがね…。 そう言いながら、ゆっくりと首を振って見せる。 クラウドとティファは、静かな表情でリーブの言葉を聞いている。 一方、クレーズは顔をドス赤く染め、わなわなと小刻みに震えていた。 「…クレーズさん、あなたはさっき、私を諦める為にクラウドを好きになろうとしてた…、って言ったけど、でも、本当はそんな事しなくても、クラウドの事、好きだったんじゃないの?…」 ティファが悲しそうな顔で口を開く。 クラウドは厳しい顔のまま、一瞬たりとも油断せずにクレーズの動きを凝視していた。 クレーズは、「はっ…!」と吐き出すように笑うと、ギラッとクラウドを睨みつけた。 「ああ、そうだ!確かに、俺はクラウドの旦那に憧れてた!!だがな、それは旦那が出て行くまでの話だ!」 一言口にした事により枷が外れてしまったらしく、言葉が濁流となって吐き出される。 「俺は本当に憧れてた。クラウドの旦那と一緒に幸せそうなティファちゃんにな!だが、旦那が黙って出て行った時のティファちゃんを見て、俺は心底旦那に愛想が尽きたんだ!いや、違うな…。旦那を許せない、殺してやりたいってそう思ったよ!」 クレーズの激しい言葉に、ティファは息を呑み、隣のクラウドをそっと窺った。 クラウドは、ただ黙ってクレーズの言葉を聞いている。 「それなのにティファちゃんは黙ってあんたの帰りを待ち、子供達の世話をし、店を切り盛りしてた!その姿に、また俺は惹かれたんだ。あんたが帰ってこなかったら、ティファちゃんの心からあんたが消えるのを、傍にいてずっと待ち続けるつもりだった!ああ、例え何十年かかろうともな!!だが、あんたは帰って来た。そして、何食わぬ顔をして彼女の笑顔を独占し、子供達に愛され、幸せな家庭を手に入れている。それが許せるか!?ずっと孤独と不安に怯えて、それでも子供達に心配かけまいと気丈に振舞っている彼女を見守る事しか出来なかったこの俺が、それでも今のあんたを笑いながら祝福出来ると!?ふざけんなよ…、絶対に…、絶対に認められるか!!!」 目を血走らせ、狂気に身を置いて怒鳴り散らすクレーズに、ティファは、胸を押さえて俯き、リーブは居心地の悪そうな顔をしながら、そっとクラウドの様子を窺った。 そして、クラウドは…。 「あんたの話は分かった」 先程よりも若干穏やかな眼差しで、静かに口を開く。 「確かに、俺はティファに全てを押し付けて家を出た。あんたの言う通りだ。全部…、ティファも含めて全てを捨てた俺に、今の幸せは相応しくないだろう…」 「…クラウド…!そんな事…!!」 縋るような眼差しを向けるティファに静かな笑みを向け、彼女の口を手でそっと塞いで言葉を遮ると、凛とした瞳でクレーズを見据えた。 「だが、俺にはどうしてもティファが必要だ。その事が今では良く分かってる。そして、誰に何と言われようと…、これから先何が起ころうと…。それだけは…、これだけは譲れない。だから、あんたがティファの事をどんなに想っていたとしても、俺は彼女をあんたに渡すつもりもないし、他の誰にも譲る気は無い。これからは、絶対に何があっても彼女を置いて消えたりしない。絶対にだ!」 クラウドの言葉が店内に力強く響く。 ティファの目は大きく開かれ、みるみるうちに透明の雫が溢れ出した。 スッと頬を伝う清らかな雫を、クラウドは優しい笑みをほんのり染め上げながら優しく拭き取る。 リーブは、穏やかな眼差しを二人に注ぎ、クレーズはその光景を言葉もなく見つめるしかなかった。 やがて、すっかり脱力しきったクレーズは、椅子にドカッと腰を下ろした。 その姿は、憑き物が落ちたような、どこかさっぱりしたように見える。 「どこで分かった…?」 クレーズの唐突な問いに、三人は一瞬顔を見合わせた。 そんな三人に苦笑しながら、「だから、どこで俺だと分かったんだ?」と、改めて問い直す。 「ああ、それか。実はリーブに写真の解析を依頼したんだ」 「ええ、どのカメラを使い、どこから撮影をしたのか…。どの望遠レンズを使用したのか等を当たりましてね。また、クラウドさんにあなたが宛てた脅迫文ですが、あれも全部ワープロでしたよね?どの機種を使ったのかも分かるんですよ。そこから、誰がどこの店で購入したのかを突き止めた結果、あなたに辿り着いたと言うわけです。ティファさんの携帯電話にちょこっと細工をしましてね。周囲の音が聴こえる様にしたんですよ。これで準備はバッチリでした」 「……へぇ。流石、ジェノバ戦役の英雄の一人、WROの局長だね。お見事だ。それで、俺が行動に出るまでじっと待ってたってわけか…」 「ええ、その通りです。やはり、現行犯で取り押さえるのが一番確実ですからね」 リーブの説明に、クレーズは薄く笑いながら髪を掻き回した。 「全く、とんでもない賭けに出たもんだよな…俺も…」 「いや、それにしてもまさかあなたに辿り着くまでこんなに時間がかかるとは思いませんでしたよ。クラウドさんに捜査の依頼を請けてからあなたに辿り着くまで、実に一ヶ月かかったのですから…」 「へっ!嫌味かよ。たかだか一ヶ月で探し当てたくせに…」 クレーズは皮肉に口元を歪めたが、その目は決して卑屈な色を浮かべてはいなかった。 「なぁ。あんた、本当にそれだけか…?」 「あ?」 すっかり観念して自分の犯行を認め、WROに連行される直前のクレーズにクラウドが複雑な顔をして訊ねた。 ティファとリーブはクラウドの質問の意味が分からずキョトンとしているが、クレーズは少々皮肉な笑みを浮かべてクラウドを見た。 「あんた、本当は確認したかっただけじゃないのか?俺が本当にもう二度とバカな事をしないって…」 「なぁに言ってるんだか…。俺はそこまでお人好しじゃねえんだよ!」 けっ! 最後に小バカにしたように笑うと、クレーズは優しい目をしてWRO隊員よりも先に店を後にした。 その後姿は、決して虚勢を張っている者の背ではなく、一仕事終えた男の背中だった。 その後。 リーブはついでだから…、と言って最後まで酔いつぶれて眠っているエリックを担ぎ出した。 今夜一晩だけ、WROの宿舎で過ごしてもらうとの事だった。 そんなリーブの気遣いのお陰で…。 ティファとクラウドは、実に六日ぶりに二人の食卓を囲む事が出来た。 「なぁ、ティファ…」 「なに?」 重たい口を開いて、クラウドが話しかける。 「クレーズの脅迫文だけどさ…。あれ、全部間違ってないんだよな…」 「クラウド…?」 戸惑うティファに力なく微笑んで見せると、クラウドは茶色の封筒から便箋と、暗い表情をしたティファの写真を取り出した。 そして、ボソボソと文面を読み上げる。 『あなたは、こんなに辛い時間を彼女に与えたというのに、まだ、彼女の時間を独占しようというのか!一度は彼女や子供達を放り出しておきながら、のこのこ帰って来て、再び彼女の傍にいる。自分はそれが許せない!彼女のことを愛していたなら、決してあの様な愚行はしなかったはずだ。幼い子供を二人も押し付け、行き先も言わず、電話を掛けても全くの音信不通。これが、どれ程彼女の心を引き裂いたと思っているんだ。あの頃の彼女の支えになれなかった自分も情けないが、あの頃の彼女は、あなたがまだ生きているが故に、他の男に頼る事をしなかった。一途な彼女の支えになりたいと願う男がどれ程いたと思う?しかし、彼女はあなたの事しか頭になかった。自分は、そのうち彼女も諦めきる事が出来ると思っていた。あなたさえ死んでくれていたら、彼女はとっくに自由になれたのに。それなのに、あなたは生き恥をさらし、彼女の笑顔を独占している。自分は許せない。彼女を不幸にしか出来ないあなたを。そんなあなたに囚われている彼女を救う為、自分は心を鬼にして彼女には辛い物を贈らせてもらった。あなたと別れる良いきっかけになるだろう。もし、これで駄目なら、別の手も用意している。もう一度警告する。あなたは、彼女にとって幸福への障害以外の何物でもない。潔く手を引け』 「……最後に届けられたやつね…?」 ティファの言葉に、クラウドは黙って頷いた。 そして、悲しみに彩られているティファの写真をそっと撫でた。 「俺は、こんな顔をさせてたんだよな…。勿論、家を出た時、ティファがどれだけ心配してくれていたか分かってた…。いや、分かってたつもりだった…、この写真見るまではさ。」 そう言って、悲しそうに微笑む。 ティファは、「そんな事無い…」と言おうとしたが、クラウドの眼差しに言葉を封じ込まれ、ただ黙って俯いた。 「ティファはさ。あの日、言ってくれただろ?」 「あの日?」 ティファは伏せていた目を上げ、小首を傾げた。 そんなティファを、クラウドは愛しそうに目を細めて見やる。 「ああ、ティファに俺の写真が届けられた日」 ティファは、六日前…、いや。もう日付が変わっている為、丁度一週間前の出来事を振り返った。 あの日。 クラウドと女性のツーショット写真が送りつけられた日…。 ティファは一瞬、目の前が真っ暗になった。 クラウドがティファに隠し事をしているという事実が、クラウドを疑う事に繋がったのだ。 しかし、すぐにティファは気付いた。 手紙の差出人の意図が、自分達への嫌がらせか、もしくは自分とクラウドの仲を引き裂く為のものではないか…と。 それは、差出人のあて先もなければ、一緒に写っている女性の名前すらない事等から判断した。 もしも、本当にクラウドが浮気をしているのであるならば、女性の名前や、住んでいる場所をしたためても良いだろう…。 そして、それよりも何よりも…。 ティファはクラウドを信じていた。 『直接本人に確かめれば良い…!』 そう決心したティファは、その日の晩にクラウドに写真を見せた。 結果は、ティファの予想と期待を裏切らなかった。 写真を突きつけられたクラウドは、今まで見た事がない程狼狽した。 そして、その姿を見てティファは心の底から安堵したのだ。 クラウドの狼狽振りは、決して隠していた事がバレた事に対する焦りからのものではなかったからだ。 そんなクラウドに、ティファが口にした言葉…。 『クラウドがもしもまた、私から離れようとしたら、今度は私が離れないでくっ付いて行くんだから!』 クラウドは幸せそうに微笑み、赤くなるティファにそっと手を差し伸べた。 「本当に、嬉しかった…」 そして、真っ赤になってはにかむ彼女を優しく包み込んだ。 「私も…」 「ん?」 「私も…、あの時クラウドが言ってくれた言葉…、凄く嬉しかった…」 そう言って、ティファはクラウドの服をキュッと握り締めた。 「本当は、そう言った時…『自分にはこの場所は勿体無い。こんな自分はティファの傍にいる資格がない』って言ったらどうしよう…って、頭が一杯だったの。だから…」 言葉を切って、自分を見つめる紺碧の瞳を覗き込む。 「だから…、とっても嬉しかったの」 『ティファに、こんな顔させてたのに…それでも俺はティファの傍にいたい…』 「嬉しかったよ…。本当に…嬉しくて…幸せで…夢見てるみたいだった…」 胸に頬を押し付け、涙声になる愛しい人をクラウドは何も言わず、抱きしめる腕に力を込め、その髪に頬を埋める。 「きっとさ…」 「うん?」 「あいつは、俺達に大切なものを気付かせてくれる為に、憎まれ役を買ってくれたんだよな…」 「うん…」 いつも陽気な笑顔で自分達を見ていた、誰よりも心の優しい、そして不器用な常連客に思いを馳せる。 確かに、彼のとった行動はストーカーそのものだったし、彼がティファに恋焦がれていた事も事実だろう。それでも最後に彼の見せたあの笑みは…。 自分達二人の絆を確認し、それに満足した笑顔だったと思えるのだ。 そして、一仕事終えたかの様な清々しい背中…。 それこそが、何よりも二人を心配し、思ってくれたという証ではないだろうか? 「私達って、本当に皆に愛されてるよね…?」 「……ああ」 「皆の気持ちに応える為に、これからもっともっと頑張らなきゃ…だよね?」 「ああ」 「一緒に……だよね?」 「当然だろ?」 「うん!あ…」 「ん?なんだ?」 「今回の事で、クラウド…物凄く評判が悪くなっちゃってるんだ…。明日から…それも含めて一緒に頑張らなきゃ…」 「……気にするな。どうせ小さな頃から捻くれ者だったから、評判が悪いのには慣れてる」 ひょい、と肩を竦めるクラウドに、ティファはクスクスと笑みを漏らした。 そして、幸せそうに愛しい人の胸に顔を埋める。 「もっと時間が経って…今回の事を笑って話せるようになったら…」 「うん?」 「あいつに会いに行っても良いな…」 「うん、そうだね!」 そうして。 実に一週間ぶりにセブンスヘブンの明かりは二人によって消される事が出来た…。 翌日の昼過ぎ。 それまで寝ていた二人にリーブから電話が入った。 クレーズは、本人の希望で北の大陸、ボーンビレッジに発掘作業員として赴く事になったそうだ。 二人は、クレーズの気持ちを思い、そっと手を握り合った。 繋いだ手の温もりから、言葉にしなくとも確かにそこあるお互いへの想いを感じる事が出来た。 『きっと、この手を離さない…そして、必ず会いに行く』……と。 そして夕暮れ…。 「「ただいまー!!」」 元気一杯に子供達が帰って来た。 その笑顔と明るい笑い声に、セブンスヘブンは一気に花が咲いたような明るさを取り戻す。 「おかえりなさい!」 「おかえり、旅行は楽しかったか?」 「うん!もう、すっごく楽しかった!!」 「俺なんか、ジェットコースターに五回も乗ったんだ!!」 「私は、ゴンドラが凄く楽しかった!そうそう、父ちゃんなんか、チョコボレースで外れてばっかりだったのよ〜!お陰であと少しで破産するとこだったんだから!!」 「そうそう!そこで俺様が大穴を当てて、窮地を救ったってわけだ!」 「マ、マリン!シド!!それは言うなって言っただろ!?」 賑やかに旅行中の出来事を先を争って話をする子供達に目を細め、クラウドとティファは寄り添い合うようにして微笑んだ。 『お!?』 そんな二人の様子に、いつもは鈍いバレットとシドも、二人に何かあったのだと感づいた。 当然、ユフィとナナキが気付かないはずも無い。 子供達がはしゃぎ疲れて眠った後で、二人が興味津々の仲間に囲まれたのも…当然だった。 「何から話そうか?」 そう訊ねるティファに、クラウドは、 「とりあえず、最初から…かな?」 と苦笑する。 「最初って、クラウドが一ヶ月も私に黙って脅迫者を追いかけてたって事から?」 「え!?なになに!?一ヶ月も脅迫されるような事をしたわけ!? 「な、そんなわけ無いだろ!」 「フフ…、そうだね、やっぱりその話からだよね?」 クスクスと笑うティファに、クラウドは顔をしかめながらも、 「あ〜、最初に差出人不明で俺宛てに手紙と写真が送られてきたんだが……」 その後、話し下手のクラウドは、いつになく話をしなくてはならない羽目になってしまい、隣にいるティファに終始、声を潜めて笑われる事になった。 そして、更に翌日。 セブンスヘブンの常連客達は、僅か六日間の儚い夢が無残にも散ってしまった事を思い知らせれたのだった。 今夜のセブンスヘブンには看板娘と看板息子の笑顔、女店長の明るい声、そして…。 カウンターには予約プレートの挟まれたチョコボのガラス細工。 あとがき
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