they are childhood friends (前編)
「ここか…」
「ここだな…」
「「…………」」
夕暮れのエッジにて、四つの人影がセブンスヘブンという一軒の店の前に固まっていた。。
いずれも年若い青年の面立ちをしており、パッと見た感じでは好青年である。
その四人の表情は、いずれも緊張の為、ガチガチに強張っていた。
「ど、どうするんだ…?」
「…どうって……」
「ここまで来て帰れるのかよ…?」
「んなわけないだろう…!?」
「それじゃ、お前先に入れよ…」
「んな!そう言うお前こそ入れよ!!」
「早くしないと、開店時間になっちゃうだろ!?」
「それが分かってるなら、さっさと決心しろよ!」
「いや、俺は…」
「お前らな〜…」
などなど言い合い、一向に進展しない会話を重ねる事数十分…。
皆が皆、嫌な役を押し付けあう為埒があかない。
いっその事、じゃんけんでもくじ引きでもすれば良いだろうに、そこまで頭が回らないほど四人は緊張と興奮のるつぼにあった。
大の大人…、しかも若い男四人があーでもない、こーでもないと店先で騒ぐ姿は、当然人目に付く。
道行く人達が、奇異な視線を向けては足早に通り過ぎるが、四人の内、誰一人としてそれに気付かない。
それ程、彼らは頭が真っ白になっていたのだ。
その四人に、小さな人影が二つ、恐る恐る近づいてきたのにも、当然気付かなかった。
「あの…うちに何か御用ですか…?」
声をかけられた四人は、ピタッと実りの無い会話を中断させると、ギョッとして一斉に振り向いた。
四人の視線の先には、フワフワした癖毛の茶色い髪をした男の子と、おさげの女の子。
男の子は、女の子を庇うようにして半歩前に立っており、真っ直ぐ睨むようにして見つめており、女の子は大きな瞳を不思議そうに瞬かせていた。
二人共、相当可愛い顔立ちをしている。
「えっと、あ…ごめんごめん」
一人が我に返って慌てて残り三人を見る。
友人達もハッと我に返ると、それぞればつが悪そうに笑ったり、視線を逸らしたりのリアクションを見せた。
「あのさ、ここ…って君達の家…?」
「はい、そうです」
「だから…なに?」
投げかけられた質問に、女の子はニッコリと微笑み、男の子は挑戦的な目をした。
「もう!デンゼル、駄目じゃない、そんな言い方したら!」
「なに言ってんだよマリン、こいつらさっきから怪しかったじゃないか!」
「もしかしたら怪しくないかもしれないじゃない!」
「怪しい奴らだったらどうするんだよ!」
「怪しくない人だったら、そんな言い方失礼よ!」
「怪しい奴だったらこんな良い方しても良いんだな!?」
「そんな事言ってないもん!」
「言ってるじゃないか!」
「言ってない!」
「言ってる!」
「お〜い、もしもし…?」
何故か口喧嘩を始めてしまったお子様達に思わず苦笑しつつ声をかける。
むっとした二つの視線が突き刺さるが、それには無関心を装い、肝心の質問を続行させた。
「ここに『ティファ・ロックハート』って女の人が住んでるって聞いたんだけど…」
「あと、『クラウド・ストライフ』って男もいるって…」
青年達の質問は効果的だった。
男の子と女の子は、揃ってキョトンとした顔を見合わせ、改めて青年達を見つめなおした。
「クラウドとティファの知り合いの人?」
「二人の友達?」
子供達の質問に、青年達は戸惑いながら互いに顔を見合わせた。
「えっと、友達って言うか…」
「もしかしたら、同じ名前なだけかもしれないな〜と…」
「それを確かめに、今日来たわけなんだけど…」
至極要領を得ない言い回しに、子供達は益々首を捻る。
「ん〜、その君達と一緒に住んでるんだよね?」
「うん!」
「俺達、クラウドとティファの家族なんだ」
非常に分かりやすい答えに、青年達の間に大きな衝撃が走る。
『おい、家族だってよ!!』
『な、なななな、なんて事だ!!』
『い、いや、落ち着け!もしかしたら、本当に赤の他人かもしれないじゃないか!』
『そ、そうだな、あの『ティファ』があの『クラウド』と家族なわけないよな!?』
『それに、優しかったティファなら、この子達の親代わりになるくらいはするだろうけど、あのクラウドが慈善事業顔負けの事するわけないしな!』
『そうだそうだ!』
『きっと、他人だ、他人!!』
子供達に背を向け、ひそひそと声を交わすその姿は、周りから見たら非常に滑稽なのだが、それにも当然気付かない。
「なに言ってるのかな…」
「やっぱり怪しい奴らだよな…。ティファ呼んじゃおうか…?」
「ん〜。その前に、こっそり家に入っちゃおうか?」
「そうするか」
そろそろと子供達は、気付かれないように店の戸口まで移動すると、バッと勢い良く店の中へ駆け込んだ。
……つもりだったのだが、青年の一人が駆け込む寸前のデンゼルをむんずと掴み、「ちょ、ちょっと待って!」と羽交い絞めにしてしまった。
「デ、デンゼル!!」
「良いから、マリンは早く入れ!!」
血相を変える女の子と自分よりも女の子を優先させる男の子…。
はたから見たら、『悪い奴らに捕まった男の子が、我が身を省みずに女の子を逃がそうとしている』何かの漫画か映画のワンシーンのようだ…。
「うぉい!!ちょっと待て!!」
「俺達はそんな怪しい奴じゃ…」
ズビシッ…と突っ込む若者達に目もくれず、女の子はグッと決意を瞳に宿し、一目散に店内に駆け込んだ。
「ティファ!ティファーーー!!!デンゼルがーーー!!!!」
もがく男の子を何とか落ち着かせようとしている青年達の耳に、無情な女の子の叫び声と…。
ガタンッ!!!
バタバタバタ……!!!!
誰かが猛然と走ってくる音が響いてきた…。
四人が顔を見合わせ、硬直したその時…。
バァンッ!!!
「デンゼル!!!」
店のドアが壊れんばかりに押し開けられ、中から黒髪をなびかせて、茶色の瞳に闘志を宿した美しい女性が飛び出した。
目の前に現れた女性の姿に、青年達は目を見開いた。
整った顔立ち、抜群のプロポーション…。
その女性の中に、記憶の中の少女の面影を見出す事に時間など必要なかった…。
「デンゼルを放しなさい!!!」
叫ぶや否や、軽やかに戸口から身を躍らせて頭上高く飛び、一気に蹴りを放とうとするその美貌の女性…。
ポカンと口を開けてそれを見ていた青年達は、寸でのところでギョッと我に返ると…、
「わーーー!!!」
「たんまたんま!!!」
「ティ、ティファ!!俺達だって俺達〜!!」
「「「「ニブルヘイムのーーー!!!!」」」」
ドゴッ……!!!!
「え……?」
若者達の一寸先で方向転換を成功させたティファは、地面から足を引き抜くとまじまじと固まっている青年達を見つめた。
そして、ハッと気付くと顔を輝かせ、花が咲き誇るような笑顔を見せた。
「嘘…、もしかして…!!!」
こうして、ニブルヘイム出身の青年達とティファは、約七年振りに再会したのだった。
「なぁんだ、ティファとクラウドの幼馴染か〜」
「店の前でずっと変な事してたから、怪しい奴かと思っちゃったよ」
アハハハ〜!
楽しそうに笑う子供達に、青年達の乾いた笑い声が混じる。
あと数秒遅かったら、自分達の首がありえない角度で曲がっていた事を想像すると、とてもじゃないが子供達のように無邪気に笑えない…。
「本当にごめんなさい…。変質者かと思っちゃって…」
申し訳なさそうに首を竦めるティファは、七年という歳月を経た今、溢れんばかりの美しさで輝いて見える。
青年達は、つい先ほど蹴り殺されそうになったことも忘れ、幼馴染の女性をうっとりとした眼差しで見つめるのだった。
「いや〜、本当に綺麗になったよな〜」
「本当に…」
「それにしても、エッジでこんな店してるだなんてな〜」
「ティファの話を職場の人から聞いた時は、まさかって思ったけど…」
「フフ、びっくりした?」
悪戯っぽい笑顔、そして首を傾げるその仕草…。
その全てが、自分達が幼い頃から想って止まない愛しい少女のもの。
七年という時間を経て、こうして再会出来るとは誰が思っただろう…?
「本当に、ティファなんだよな〜」
しみじみと呟く青年に、ティファがクスクスと笑みをこぼす。
「うん、そうよ!…でも、本当にこうしてまた会えるだなんて、思ってもみなかったわ」
「ああ、本当にな」
温かな空気が流れる。
ほんの一時、誰も何も語らない。
しみじみと昔を振り返り、胸の中の思い出を振り返る。
「それにしても、皆、無事だったんだね…」
「ああ、その様子だと知ってるんだ…。ニブルヘイムの事…」
「うん…」
暫しの沈黙の後、ポツリとティファがこぼした言葉に、青年達は表情を曇らせた。
そう。
彼らの故郷はもう存在しないのだ。
形だけは残っているのだが、あくまで形だけ…。
今、地図にあるニブルヘイムには、過去の思い出を伴わない、中身の無い村になってしまっている。
その事を、幼馴染の青年達も知っている事に、ティファは胸が痛んだ。
勿論、村を出て七年も経っているのだ…。
こうして元気でいるのだから、七年の間に里帰りをし、虚像の村を見ていても不思議ではない…。
「ま、俺達の故郷はなくなっちゃったけど、それでもこうして元気に再会出来たんだからさ!」
「本当、良かったよな〜!」
「俺達みたいに故郷をなくした奴らなんか、この世界には掃いて捨てるほどいるわけだしな〜!」
暗く沈んだ空気を払拭するかの様に、陽気な声を出した青年達に、ティファは笑みを浮かべた。
そう言えば、皆、こんな人達だったよね。
ママが死んで、悲しんでる私の事を元気付けようとして、いっつも楽しい話をしてくれて…。
昔の面影を色濃く残す四人の青年に、ティファは胸を温かくさせるのだった。
「なぁなぁ、ティファの子供の頃ってどんなだった?」
デンゼルが目をキラキラさせながら身を乗り出した。
「あ!私も聞きたい!!」
カウンターの中で軽いおつまみをよそっていたマリンが、ぴょこぴょこ跳ねながら手を上げる。
マリンがお盆につまみ類を乗せ、出来る限りの速さで戻ってくると、懐かしそうに目を細めながら話しだした。
「ティファの子供の頃は、そりゃ〜、可愛かったぜ〜!」
「そうそう!俺達のアイドルだったもんな〜!」
「いっつも笑顔で元気一杯でさ〜!」
「それで、優しくてな〜!!」
満面の笑みで指折り数えるように応える青年達を、ティファは「ちょ、ちょっと止めてよ!」と顔を赤くさせた。
その仕草が、これまた思い出の中の少女と同じであった為、何とも言えない懐かしさと嬉しさがこみ上げる。
「そうそう、そうやってすぐに顔を赤くさせるところなんか、全然変わってないんだな〜」
「ほんと、懐かしいよな〜!」
どっと笑う青年達に、ティファは益々頬を紅くさせながらも、懐かしい面々につい表情を緩ませるのだった。
「ティファってお店の常連さん達にモテモテだもんね〜!」
「そうだよな〜!それにいっつも元気一杯だしさ。本当、今も昔も変わらないんだな〜」
嬉しそうに子供達が冷やかすのを、「こら〜!」と笑いながら頭をグリグリと撫で回す幼馴染の女性に胸を温かくさせる。
しかし、この心温まる光景を前に、青年達はふと気になることを思い出した。
そう。
この店に入る前、子供達が言っていた一言…。
『俺達、クラウドとティファの家族なんだ』
この子供達はクラウドとティファの家族。
そう、『クラウド』も家族なのだ!!
子供達にとってクラウドが家族なら、当然ティファにとってもクラウドは………。
聞きたい…!
でも、聞きたくない…!!
聞いてはいけない気がする…!
聞いたらきっと、立ち直れない程の衝撃を喰らってしまう予感がする…!!
そうだ…、きっと聞かないほうが良いだろうな…。
うん、そうだ、そうしよう…!!
誰も何も語らないのに、四人の気持ちは一つに固まっていた。
これぞ、幼馴染の結束なのか!?
実に阿吽の呼吸でその場の空気を察知し、思考を無理やり方向転換させようとする。
「そ、そうだ!お店、もうそろそろ開店させるんだよな」
「開店準備の邪魔してごめんな」
「開店してからまた来るわ」
そう言って、椅子から腰を上げようとした四人に、驚いた事に子供達が声を上げた。
「え〜!ティファ、今夜はお店休みにしようよ!」
「そうだよ!折角こうして久しぶりに会ったんだろ?どうせ、明日も店を開けるんだしさ。それに、最近ずっと開店してたから久しぶりに臨時休業にしたって、誰も文句言わないって!」
「そうよ!そしたら、ゆっくりしてもらえるじゃない!私も、もっとティファの小さな頃のお話聞きたいな〜!」
おお…!
なんて良い子供達なんだ!!
流石、ティファが育ててるだけあるよな〜!!
本当、ティファって今も昔も最高だよな〜!!!
しかし…。
感動する青年達に、子供達は満面の笑みで青年達を振り向くと、
「「クラウドの話しも聞きたいし!!」」
声を揃えて爆弾発言を投下した。
「…………ク、クラウド…君?」
「あ〜、そうだなぁ…」
「クラウド君は〜」
「え〜と…」
胸を満たしていた温かい気持ちは、一気に氷点下に下降する。
青年達の中のクラウド…。
それは、目が合えば誰とでも喧嘩をし、いつも気に喰わないと言わんばかりに眉間にシワを寄せた不良少年…。
そんなクラウドと仲が良いはずもなく、それ故、たった今、無言で心に決めたところだったのだ!!
クラウドの事には触れない!
クラウドの話は完全ノータッチ!!
例え、クラウドとティファとこの子供達が家族であろうとも!!!
折角意思が通じていたのに、それが通じていたのは青年達の間柄だけの話し…。
当然子供達にもティファにも通じてはいない…。
冷や汗を流し、視線を逸らし、膝は貧乏ゆすりを始めた青年達に、子供達はキョトンとする。
その子供達と、青年達の様子に、ティファだけが笑いを堪えて肩を震わせているのであった。
「さ、デンゼル、マリン、今日は二人がそう言ってくれたからお店、お休みするわ。その代わり、この人達に何か食事を作らなくちゃいけないから、二人共手伝ってね!」
は〜い!!
元気良く手を挙げ、嬉しそうな顔をしてカウンターへ掛けていく子供達の後姿を、青年達は心底ホッとした面持ちで溜め息をついた。
それを見て、ティファはとうとう堪えきれずに吹き出した。
笑いながらも、青年達がクラウドと仲が悪かったのを知っているティファは、この再会で彼の本当の姿を皆が見て、そして仲良くなってくれたら…、と思わずにはいられなかった。
そして、きっと、仲良くなってくれる!という確信があった。
なにしろ、不良少年だったクラウドではなく、今は世界を恐怖から救い出した『ジェノバ戦役の英雄』のリーダーだったのだから…!!
店のドアに、臨時休業の看板を下げたティファは、時計に目を落として微笑んだ。
今日、クラウドは早く帰れる予定なのだ。
帰宅したクラウドが、幼馴染と再会したときの事を想像すると……。
ティファは一人、クスクスと楽しそうに笑いながら、踊るような足取りでカウンターへ向かった。
あとがき
すみません!やっぱり終わりませんでした〜!!
後半に続きます(汗)

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